(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023616
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】ガスエンジン、ガスエンジンを利用したガスヒートポンプ装置およびコージェネレーション装置、ならびにガスエンジンの制御方法
(51)【国際特許分類】
F02M 21/02 20060101AFI20161027BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20161027BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
F02M21/02 301J
F02M21/02 301A
F02D41/02 301K
F02D41/04 305B
F02D41/04 305C
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-56926(P2013-56926)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181627(P2014-181627A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中園 徹
(72)【発明者】
【氏名】ライハン カンドカー アブ
(72)【発明者】
【氏名】岡田 寛行
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−077076(JP,A)
【文献】
特開2006−322403(JP,A)
【文献】
特許第5848947(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 43/00−45/10
F02D 13/00−28/00、41/00−41/40
F02G 1/00− 5/04
F02M 21/00−21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの高負荷時にはストイキ運転し、中低負荷時にはリーン運転するガスエンジンであって、
ガスエンジンに燃料ガスを供給するバルブは、ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されてバルブの開口面積の制御が行われるようになされ、
ストイキ運転では、リーン用バルブ部を全開にし、ストイキ用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行い、
ストイキ運転からリーン運転に切り替える際は、ストイキ用バルブ部を全開にするとともに、リーン用バルブ部を閉じながらバルブの開口面積の制御を行う制御部を備えてなり、
制御部は、ストイキ運転からリーン運転に切り替える際、ストイキ用バルブ部の開度の変化により増加する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブ部の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くまたは遅くなるように開口面積の制御を行うようになされたことを特徴とするガスエンジン。
【請求項2】
制御部は、不感帯における空気過剰率が目標過剰率よりも落ち込む場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くなるように制御し、不感帯における空気過剰率が目標過剰率よりも上昇する場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が遅くなるように制御するようになされた請求項1記載のガスエンジン。
【請求項3】
増加割合の変化よりも減少割合の変化が3倍以上速くまたは遅く設定された制御部を有する請求項1または2記載のガスエンジン。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一に記載のガスエンジンを有するガスヒートポンプ装置。
【請求項5】
請求項1ないし3の何れか一に記載のガスエンジンを有するコージェネレーション装置。
【請求項6】
ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されて、当該エンジンに燃料ガスを供給するバルブが構成され、
高負荷時には、リーン用バルブ部を全開にし、ストイキ用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってストイキ運転し、
中低負荷時には、ストイキ用バルブ部を全開にし、リーン用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってリーン運転するガスエンジンにおいて、
ストイキ運転からリーン運転に切り替える際、ストイキ用バルブ部の開度の変化により増加する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブ部の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くまたは遅くなるように開口面積の制御を行うことを特徴とするガスエンジンの制御方法。
【請求項7】
不感帯における空気過剰率が目標過剰率よりも落ち込む場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くなるように制御し、不感帯における空気過剰率が目標過剰率よりも上昇する場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が遅くなるように制御する請求項6記載のガスエンジンの制御方法。
【請求項8】
増加割合の変化よりも減少割合の変化を3倍以上速くまたは遅くする請求項7記載のガスエンジンの制御方法。
【請求項9】
エンジンの高負荷時にはストイキ運転し、中低負荷時にはリーン運転するガスエンジンであって、
ガスエンジンに燃料ガスを供給するバルブは、ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されてバルブの開口面積の制御が行われるようになされ、
リーン運転では、ストイキ用バルブ部を全開にし、リーン用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行い、
リーン運転からストイキ運転に切り替える際は、リーン用バルブ部を全開にするとともに、ストイキ用バルブ部を閉じながらバルブの開口面積の制御を行う制御部を備えてなり、
制御部は、ストイキ用バルブ部を閉じる制御よりも、理論空燃比となる空気過剰率に制御する制御信号を優先して受けるようになされたことを特徴とするガスエンジン。
【請求項10】
ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されて、当該エンジンに燃料ガスを供給するバルブが構成され、
高負荷時には、リーン用バルブ部を全開にし、ストイキ用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってストイキ運転し、
中低負荷時には、ストイキ用バルブ部を全開にし、リーン用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってリーン運転するガスエンジンにおいて、
リーン運転からストイキ運転に切り替える際、リーン用バルブ部を全開にするとともに、ストイキ用バルブ部を閉じながらバルブの開口面積の制御を行い、ストイキ用バルブ部を閉じる制御の最中に、理論空燃比となる空気過剰率に制御する制御信号を受けた場合に、ストイキ用バルブ部を閉じる制御よりも、理論空燃比となる空気過剰率にする制御を優先して行うことを特徴とするガスエンジンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストイキ運転とリーンと運転とを切り替えることができるガスエンジン、それを利用したガスヒートポンプ装置およびコージェネレーション装置、ならびにガスエンジンの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスヒートポンプ装置およびコージェネレーション装置の駆動源として、ガスエンジンが知られている。
【0003】
従来より、このようなガスエンジンとしては、ストイキ運転とリーン運転とを切り替えるようになされたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−24465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のガスエンジンのように、ストイキ運転とリーン運転とを切り替える場合、ストイキ運転において制御すべき理論空燃比の空気過剰率(λ=1)に対して、リーン運転において制御すべき空気過剰率(λ=1.4〜1.6)は、制御領域に幅があり、両者の制御精度が大きく異なるため、リーン運転用の空燃比制御バルブでは、リーン運転からストイキ運転まで移行できたとしても、ストイキ運転において、理論空燃比の空気過剰率(λ=1)を制御することができなかった。
【0006】
そのため、ストイキ運転用に設定した空燃比制御バルブを用いることが考えられるが、この場合は、ストイキ運転用に制御精度を設定しているので、リーン運転の領域まで空気過剰率を上げることはできなかった。
【0007】
また、ストイキ運転用の空燃比制御バルブとリーン運転用の空燃比制御バルブとの間の切り替えによって両運転をカバーすることが考えられるが、両バルブの制御精度が大きく異なるため、切り替え過程において、スムーズな移行ができない。特にガスエンジンの場合、ストイキ運転からリーン運転に移行する途中、またはリーン運転からストイキ運転に移行する途中に、排気ガス中のCOやNO
Xの発生量が多くなる空気過剰率の領域(λ=1〜1.3)があるため、ストイキ運転とリーン運転との間のスムーズな移行ができなければ、一時的に排気ガス中のCOやNO
Xが高くなったり、ガスエンジンの回転数の変動が高くなったりするといった不都合を生じることとなる。
【0008】
本発明は、ストイキ運転とリーン運転との切り替えをスムーズに行うことができるガスエンジン、それを利用したガスヒートポンプ装置およびコージェネレーション装置、ならびにガスエンジンの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明のガスエンジンは、エンジンの高負荷時にはストイキ運転し、中低負荷時にはリーン運転するガスエンジンであって、ガスエンジンに
燃料ガスを供給するバルブは、ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されてバルブの開口面積の制御が行われるようになされ、ストイキ運転では、リーン用バルブ部を全開にし、ストイキ用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行い、ストイキ運転からリーン運転に切り替える際は、ストイキ用バルブ部を全開にするとともに、リーン用バルブ部を閉じながらバルブの開口面積の制御を行う制御部を備えてなり、制御部は、ストイキ運転からリーン運転に切り替える際、ストイキ用バルブ部の開度の変化により増加する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブ部の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くまたは遅くなるように開口面積の制御を行うようになされたものである。
【0010】
上記ガスエンジンにおいて、制御部は、不感
帯における空気過剰率が目標過剰率よりも落ち込む場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くなるように制御し、不感
帯における空気過剰率が目標過剰率よりも上昇する場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が遅くなるように制御するようになされたものである。
【0011】
上記ガスエンジンにおいて、増加割合の変化よりも減少割合の変化が3倍以上速くまたは遅く設定された制御部を有するものであってもよい。
【0012】
上記課題を解決するための本発明のガスヒートポンプ装置は、上記ガスエンジンを有するものである。
【0013】
上記課題を解決するための本発明のコージェネレーション装置は、上記ガスエンジンを有するものである。
【0014】
上記課題を解決するための本発明のガスエンジンの制御方法は、ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されて、当該エンジンに
燃料ガスを供給するバルブが構成され、高負荷時には、リーン用バルブ部を全開にし、ストイキ用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってストイキ運転し、中低負荷時には、ストイキ用バルブ部を全開にし、リーン用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってリーン運転するガスエンジンにおいて、ストイキ運転からリーン運転に切り替える際、ストイキ用バルブ部の開度の変化により増加する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブ部の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くまたは遅くなるように開口面積の制御を行うものである。
【0015】
上記ガスエンジンの制御方法は、不感
帯における空気過剰率が目標過剰率よりも落ち込む場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くなるように制御し、不感
帯における空気過剰率が目標過剰率よりも上昇する場合は、ストイキ用バルブの開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブの開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が遅くなるように制御するものであってもよい。
【0016】
上記ガスエンジンの制御方法は、増加割合の変化よりも減少割合の変化を3倍以上速くまたは遅くするものであってもよい。
【0017】
上記課題を解決するための本発明のガスエンジンは、エンジンの高負荷時にはストイキ運転し、中低負荷時にはリーン運転するガスエンジンであって、ガスエンジンに
燃料ガスを供給するバルブは、ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されてバルブの開口面積の制御が行われるようになされ、リーン運転では、ストイキ用バルブ部を全開にし、リーン用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行い、リーン運転からストイキ運転に切り替える際は、リーン用バルブ部を全開にするとともに、ストイキ用バルブ部を閉じながらバルブの開口面積の制御を行う制御部を備えてなり、制御部は、ストイキ用バルブ部を閉じる制御よりも、理論空燃比となる空気過剰率に制御する制御信号を優先して受けるようになされたものである。
【0018】
上記課題を解決するための本発明のガスエンジンの制御方法は、ストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部とが直列に接続され、ストイキ用バルブ部がエンジン吸気側に接続されて、当該エンジンに
燃料ガスを供給するバルブが構成され、高負荷時には、リーン用バルブ部を全開にし、ストイキ用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってストイキ運転し、中低負荷時には、ストイキ用バルブ部を全開にし、リーン用バルブ部でバルブの開口面積の制御を行ってリーン運転するガスエンジンにおいて、リーン運転からストイキ運転に切り替える際、リーン用バルブ部を全開にするとともに、ストイキ用バルブ部を閉じながらバルブの開口面積の制御を行い、ストイキ用バルブ部を閉じる制御の最中に、理論空燃比となる空気過剰率に制御する制御信号を受けた場合に、ストイキ用バルブ部を閉じる制御よりも、理論空燃比となる空気過剰率にする制御を優先して行うものである。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によると、運転切り替え時のCOやNO
Xの排出量が高くなったり、エンジンの回転数の変動が高くなったりすることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るガスエンジンの全体構成の概略を示すブロック図である。
【
図2】本発明に係るガスエンジンのストイキ運転からリーン運転へと移行する際のバルブ開度および空気過剰率の経時的変化を示すグラフである。
【
図3】本発明に係るガスエンジンのリーン運転からストイキ運転へと移行する際のバルブ開度および回転数の経時的変化を示すグラフである。
【
図4】本発明に係るガスエンジンを有するガスヒートポンプ装置の一例を示すブロック図である。
【
図5】本発明に係るガスエンジンを有するコージェネレーション装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0022】
図1はガスエンジン1の全体構成の概略を示すブロック図を示し、
図2は同ガスエンジン1によりストイキ運転からリーン運転へと移行する際のバルブ開度および空気過剰率の経時的変化を示している。
【0023】
このガスエンジン1は、高負荷時にはストイキ運転し、中低負荷時にはリーン運転するガスエンジン1であって、バルブ2は、ミキサー24からレギュレータ23にかけてストイキ運転の空気過剰率を実現するストイキ用バルブ部21と、リーン運転の空気過剰率を実現するリーン用バルブ部22とを直列に接続し、ストイキ用バルブ部21をミキサー24側につなげてレギュレータ23とミキサー24との間に設けて構成しており、ストイキ用バルブ部21およびリーン用バルブ部22を制御する制御部3を備えている。
【0024】
ストイキ用バルブ部21は、理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)、厳密にはストイキ運転に該当する空気過剰率の範囲(λ=0.98〜1.02)で所望の空気過剰率をピンポイントで制御するために、燃料ガスが通過する開口面積を調整できるように設計された比例制御弁によって構成されている。このストイキ用バルブ部21は、開度0−100%のうちの所定開度の範囲で、理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)を制御することができる流量特性のものであれば特に限定されるものでは無いが、ガスエンジン1を使用する環境雰囲気温度やガスエンジン1の使用回転数域の変化に対応する必要があるため、これらの変化に追従して理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)を制御可能な流量特性を有する精度のものが使用される。
【0025】
リーン用バルブ部22は、リーン燃焼となる空気過剰率の範囲(λ=1.4〜1.6)を制御するために、燃料ガスの通過経路20の開口面積を調整できるように設計され、かつ、開度100%の状態で、燃料ガスの通過経路20を完全に開くことができるように設計された流量特性の比例制御弁によって構成されている。すなわち、このリーン用バルブ部22は、上記したストイキ用バルブ部21に供給されるガスの上流側、つまり、レギュレータ23と、ストイキ用バルブ部21との間に設けられるため、開度100%の全開状態で、ストイキ用バルブ部21による理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)の制御を邪魔しないように開口しなければならない。したがって、リーン用バルブ部22は、開度0−100%のうちのある所定開度範囲で、リーン燃焼となる空気過剰率の範囲(λ=1.4〜1.6)を制御できるように設計されており、かつ、開度100%の状態で、燃料ガスの通過経路20を完全に開いて、ストイキ用バルブ部21による理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)の制御を邪魔しないように開口し、ストイキ用バルブ部21の制御領域と一部重複するようになされている。
【0026】
レギュレータ23は、常に一定の圧力で燃料ガスを供給できるように、燃料ガスの圧力
を制御するようになされている。
【0027】
ミキサー24は、燃料ガスと空気とを混合するベンチュリ管によって構成されている。このミキサー24は、下流側に設けられたスロットル弁25の開度に応じて吸入される空気のベンチュリ効果で燃料ガスと空気とを混合するようになされている。
【0028】
上記構成のバルブ2は、ガスエンジン1のシリッダヘッド10の吸気口11に接続される。このガスエンジン1には、排気ガス中の酸素濃度などを測定するセンサ(図示省略)が、排気経路などに設けられており、この測定検出結果に基づいて空気過剰率を測定するようになされている。ガスエンジン1は、このセンサ等による測定検出結果に基づいてバルブ2等の制御を行うことで、ストイキ運転とリーン運転とをスムーズに切り替えることができる。また、ストイキ運転では、排気ガス中のNO
X濃度が高くなるが、排気経路に三元触媒を設けて還元処理される。
【0029】
制御部3は、ガスエンジン1の各部位のセンサ等による測定結果に基づいてストイキ用バルブ部21とリーン用バルブ部22とを制御することができるように構成されている。
【0030】
次に、このガスエンジン1の制御部3による制御について説明する。
【0031】
まず、高出力を必要とする運転環境の場合、ストイキ運転が行われる。このストイキ運転は、理論空燃比の空気過剰率(λ=1)となるように、ストイキ用バルブ部21の開度を制御して行われる。この際、ストイキ用バルブ部21は、開度を上げれば開口面積が増えて燃料ガス濃度が濃くなる、すなわち、空気過剰率が下がり、開度を下げれば開口面積が減って燃料ガス濃度が薄くなる、すなわち、空気過剰率が上がる。具体的にはストイキ運転に該当する空気過剰率の範囲(λ=0.98〜1.02)で制御が行われる。
【0032】
この際、リーン用バルブ部22は、開度100%の全開状態で、ストイキ用バルブ部21による理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)の制御を邪魔しないように開口しておく。
【0033】
上記ストイキ運転から、高出力の必要が無い運転環境になった場合は、ストイキ運転から空気過剰率λ=1.4〜1.6のリーン運転へと切り替える。
【0034】
この切り替えを行うには、
図2に示すように、ストイキ用バルブ部21の開度を100%の全開状態にまで上げてリーン用バルブ部22による空気過剰率λ=1.4〜1.6の制御を邪魔しないように開口させる。この際、ストイキ用バルブ部21による開口面積が増えて、空気過剰率は、低くなる方向に作用することになってしまうが、この開口面積の増加に同調させて、上記ストイキ運転を邪魔しないように全開していたリーン用バルブ部22の開度を100%から徐々に下げる。これによって、リーン用バルブ部22の開口面積が減って、空気過剰率は、実質的に理論空燃比の空気過剰率(λ=1)のままで、空気過剰率の制御は、ストイキ用バルブ部21からリーン用バルブ部22へと移行することとなる。なお、ストイキ用バルブ部21の開口面積の増加にリーン用バルブ部22の開口面積の減少を同調させるには、ストイキ用バルブ部21の制御精度とリーン用バルブ部22の制御精度とから、ストイキ用バルブ部21の開度の変化により増大する開口面積の増加割合と、リーン用バルブ部22の開度の変化により減少する開口面積の減少割合とが合致するように、ストイキ用バルブ部21の開度の変化に対するリーン用バルブ部22の開度の変化を推定計算して行う。
【0035】
その後、リーン用バルブ部22の開度を制御することで、空気過剰率λ=1.4〜1.6のリーン運転へと切り替えることができることとなる。
【0036】
ただし、
図2に示すように、ストイキ用バルブ部21の開度の変化により増大する開口面積の増加割合と、リーン用バルブ部22の開度の変化により減少する開口面積の減少割合とを合致させて切り替えを行うと、不感帯Aにおける空気過剰率λpは激しい落ち込みDを生じることとなり、その後のリーン用バルブ部22におけるハンチング発生Hの原因となる。
【0037】
したがって、制御部3は、ストイキ用バルブ部21の開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブ部22の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くなるように制御を行う。
【0038】
具体的には、ストイキ用バルブ部21の開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化に、リーン用バルブ部22の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化を一致させた場合の軌跡L1よりも、リーン用バルブ部22の開度を早く下げる。
図2に示す不感帯Aの大きさからすれば、開口面積の増加割合と開口面積の減少割合とを合致させた場合よりも約3倍の早さで、リーン用バルブ部22の開度を下げる。ただし、このリーン用バルブ部22の開度を下げる早さは、不感帯Aにおける空気過剰率の落ち込みDの大きさに応じて、ガスエンジン1を使用する場所や環境に応じてチューニングされるものであって、特に前記した約3倍の早さに限定されるものではない。
【0039】
また、制御部3は、データ入力によってティーチングしたり、または、チューニング時や実運転時の不感帯Aにおける空気過剰率の落ち込みDと、リーン用バルブ部22の開度を下げる早さとの関係を自動学習したりすることができるマイコンを具備し、不感帯Aにおける空気過剰率の落ち込みDが最少となるように、リーン用バルブ部22の開度を下げる早さを制御できるようになされたものであってもよい。
【0040】
このようにすることで、不感帯Aにおける空気過剰率は、小さな落ち込みdに改善される。また、リーン用バルブ部22におけるハンチングの発生Hを防止することができる。したがって、運転切り替え時のCOやNO
Xの排出量が高くなったり、エンジンの回転数の変動が大きくなったりすることを防止することができる。
【0041】
なお、上記では、不感帯Aにおける空気過剰率が落ち込んでいるため、ストイキ用バルブ部21の開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブ部22の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が早くなるようにリーン用バルブ部22の開度を下げているが、不感帯Aにおける空気過剰率が目標空気過剰率Tよりも上昇しているような場合には、ストイキ用バルブ部21の開度の変化により増大する開口面積の増加割合の変化よりも、リーン用バルブ部22の開度の変化により減少する開口面積の減少割合の変化の方が遅くなるようにリーン用バルブ部22の開度を下げるものであってもよい。
【0042】
上記リーン運転から、高出力が必要な運転環境になった場合は、空気過剰率λ=1.4〜1.6のリーン運転から、再度、理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)のストイキ運転へと切り替える。
【0043】
この切り替えを行うには、
図3に示すように、リーン用バルブ部22の開度を100%の全開状態にまで上げてストイキ用バルブ部21による空気過剰率(λ=1)の制御を邪魔しないように開口させる。この際、リーン用バルブ部22による開口面積が増えて、空気過剰率は、低くなる方向に作用するが、開度が100%になる手前で理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)に達してしまうので、それより開度を上げると、理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)よりもさらに空気過剰率が低下してしまう。そこで、理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)よりもさらに空気過剰率が低下してしまう領域では、リーン用バルブ部22の開口面積の増加に同調させて、上記リーン運転を邪魔しないように全開していたストイキ用バルブ部21の開度を100%から徐々に下げる。この場合も、リーン用バルブ部22の開口面積の増加にストイキ用バルブ部21の開口面積の減少を同調させるには、リーン用バルブ部22の制御精度とストイキ用バルブ部21の制御精度とから、リーン用バルブ部22の開度の変化により増大する開口面積の増加割合と、ストイキ用バルブ部21の開度の変化により減少する開口面積の減少割合とが合致するように、リーン用バルブ部22の開度の変化に対するストイキ用バルブ部21の開度の変化を推定計算して行う。
【0044】
ただし、リーン用バルブ部22を全開とする動作に同調させてストイキ用バルブ部21の開口面積を減少させ、移行が完了してからストイキ運転の制御を開始すると、
図3に示すように、ストイキ用バルブ部21は、理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)よりも過剰に閉じてしまい(軌跡C)、ガスエンジン1に回転変動(軌跡R)を生じることとなる。
【0045】
したがって、制御部3は、リーン用バルブ部22の開口面積の増加に同調させて、上記リーン運転を邪魔しないように全開していたストイキ用バルブ部21の開度を100%から徐々に下げる場合に、このストイキ用バルブ部21の開度の減少よりも優先させて理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)の制御を行うようにプログラムしておく。
【0046】
これにより、ストイキ用バルブ部21の開度の落ち込みを無くし、ガスエンジン1の回転変動を解消することができる。したがって、空気過剰率λ=1.4〜1.6のリーン運転の領域から理論空燃比の空気過剰率(λ=1)の領域までの移行を、スムーズに行うことができる。
【0047】
このようにして構成されるガスエンジン1は、リーン運転からストイキ運転に切り替える場合、あるいはその逆の場合、COやNO
Xの発生量が多くなる空気過剰率領域(λ=1〜1.3)をスムーズに通過して運転切り替えによるCOやNO
Xの発生量を最低限に抑えることができるとともに、回転数の変動によるガスエンジン1の損傷を防止することができる。
【0048】
また、理論空燃比となる空気過剰率(λ=1)でのピンポイントの制御精度が要求されるストイキ運転では、ストイキ用バルブ部21によって制御を行い、リーン運転を行うリーン用バルブ部22との切替により、リーン運転とストイキ運転とを両立させることができる。
【0049】
さらに、ストイキ制御時は、リーン制御時と対比してバルブの応答速度を速くする必要があるところ、ストイキ用バルブ部21をリーン用バルブ部22よりもミキサー24に近い側に配置しているので、ストイキ用バルブ部21とミキサー24との距離が近くなり滞留ガスを減らせられるので制御遅れを小さくできる。
【0050】
このようにして構成されるガスエンジン1は、例えば、
図4に示すように、ガスヒートポンプ装置4の駆動源として好適に使用することができる。すなわち、ガスヒートポンプ装置4は、冬場や夏場は高負荷が必要とされるが、春や秋の季節には中低負荷で十分対応できる。しかも、ガスエンジン1は、高負荷が必要とされる場合は、複数台のコンプレッサー41(
図4では2台)を駆動しており、逆に低負荷の場合は、一台のコンプレッサー41を駆動しているのか通常である。したがって、このガスエンジン1を使用したガスヒートポンプ装置4は、中低負荷の場合には、リーン運転を行い、高負荷が必要となった場合にはストイキ運転に切り替えて対応することができるので、小排気量のガスエンジン1を使用してコストの低減を図ることができる。
【0051】
また、高負荷時には、ストイキ運転するため熱効率は低下するが、複数台のコンプレッサー41を駆動したりすることで機械効率が高くなるので、熱効率は、中低負荷時のリーン運転と同等となる。当然、この中低負荷時の熱効率は、リーン運転するため優れている。したがって、通年エネルギー消費効率(APF)の高効率化を図ることができることとなる。
【0052】
また、このガスエンジン1は、例えば、
図5に示すように、コージェネレーション装置5の駆動源としても好適に使用することができる。すなわち、コージェネレーション装置5は、通常運転時はリーン運転を行い、高負荷となる熱主運転に切り替える際に、ストイキ運転を行うことで、省エネルギー化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るガスエンジンは、各種省エネルギー設備の駆動源に用いられる。
【符号の説明】
【0054】
1 ガスエンジン
2 バルブ
21 ストイキ用バルブ部
22 リーン用バルブ部
23 レギュレータ
24 ミキサー
3 制御部
4 ヒートポンプ装置
5 コージェネレーション装置