特許第6023623号(P6023623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6023623-ガリウムの回収方法 図000004
  • 特許6023623-ガリウムの回収方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023623
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】ガリウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 15/00 20060101AFI20161027BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   C01G15/00 G
   C01G15/00 E
   C01G15/00 D
   C02F11/00 J
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-65319(P2013-65319)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189434(P2014-189434A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】591089855
【氏名又は名称】三和油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】内野 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】上林 直樹
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−239884(JP,A)
【文献】 特開2000−153250(JP,A)
【文献】 特表2014−508863(JP,A)
【文献】 特開平04−048038(JP,A)
【文献】 特開2000−226623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 15/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリン酸とガリウム化合物とを含む酸性汚泥よりガリウムを回収する方法にして、
前記酸性汚泥に、吸熱性を有する水溶性固体化合物及び水を添加することにより、酸性汚泥の水溶液を調製する工程と、
前記酸性汚泥の水溶液に塩基を添加することにより、抽出原料を調製する工程と、
前記抽出原料に対して、抽出剤として酸性リン酸エステル類を用いて抽出処理を施すことにより、ガリウムを含む抽出液を得る工程と、
硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液を用いて、前記ガリウムを含む抽出液に対して逆抽出処理を施すことにより、ガリウムを硫酸塩の固体形態において取り出す工程と、
を含むことを特徴とするガリウムの回収方法。
【請求項2】
前記酸性汚泥の水溶液に、該水溶液の中和当量に対して86%以上100%未満に相当する量の前記塩基を添加することを特徴とする請求項1に記載のガリウムの回収方法。
【請求項3】
前記水溶性固体化合物が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素アンモニウムのうちの少なくとも何れか一つである請求項1又は請求項2に記載のガリウムの回収方法。
【請求項4】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びアンモニア水のうちの少なくとも何れか一つである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のガリウムの回収方法。
【請求項5】
前記酸性リン酸エステル類が、2−エチルヘキシル−2−エチルヘキシルホスホネート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、及びこれらの塩類からなる群より選ばれた少なくとも一つである請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のガリウムの回収方法。
【請求項6】
前記逆抽出処理によって生じた上澄み液より前記抽出剤を回収し、その回収後の溶液に対して硫酸を添加することにより、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液とし、該硫酸水溶液を、連続的に実施される逆抽出処理に利用することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のガリウムの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウムの回収方法に係り、特に、少なくともリン酸とガリウム化合物を含む酸性汚泥中より、ガリウムを、汚泥中のリン酸に由来するリン成分の濃度が低い状態で回収することを可能ならしめる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の発光ダイオード(LED)や半導体レーザ等の普及に伴い、それらの主原料であるガリウム化合物の使用量が増加していると共に、ガリウムを含む工業廃棄物の排出量も増加傾向にある。ガリウムは比較的に高価な金属資源であるところから、従来より、LED等の製造工程で排出された、ガリウムを含む工業廃棄物より、様々な手法によってガリウムの回収が行なわれている。
【0003】
ところで、LED等の製造工程において、ガリウム化合物たる窒化ガリウムに対してエッチング処理を施すに際しては、従来より、リン酸と硫酸との混合物が広く使用されている(特許文献1及び特許文献2を参照)。このような窒化ガリウムのエッチング処理において排出されるエッチング廃液や汚泥には、高濃度のリン酸、硫酸及びガリウム化合物が含まれている。
【0004】
従来より、上述のエッチング廃液や汚泥からガリウムを回収する場合、エッチング廃液に対して(汚泥の場合は、水に溶かした水溶液に対して)、かかる廃液(又は水溶液)に含まれる酸と当量の塩基を添加して中和することにより、ガリウムを水酸化物として析出させて、得られた析出物を濾別水洗することにより、ガリウムを水酸化物として回収する方法(所謂、溶解中和法)が知られている。
【0005】
しかしながら、上述の如き、ガリウムを水酸化物として回収する方法にあっては、汚泥を水に溶かして水溶液とする際や、廃液(又は水溶液)を塩基で中和する際等に、極めて多量の発熱を伴うものであるところから、高い耐熱性及び耐酸性を備えた装置が必要であり、また、煩雑な冷却操作も要求され、更には、発生する多量の排水の処理費用が嵩む等の問題を内在している。
【0006】
また、エッチング廃液(又は水溶液)には高濃度のリン酸が含まれているところから、中和により生成する固体は、純粋なガリウムの水酸化物ではなく、リン酸に由来するリン成分を多量に含んだ、水に不溶性の複塩となる。かかる複塩は、複数回の水洗によってもリン成分を低減することが困難であるという問題がある。
【0007】
このように、従来の、中和によってガリウムを水酸化物として析出せしめる方法は、様々な問題を有するものであるところから、例えば、ガリウム化合物を含む汚泥にあっては、焼却処分されているのが現状である。従って、安価で、且つ、操作性に優れたガリウムの回収方法であって、不純物としてのリン成分を極力含まない状態でガリウムを回収することが出来る手法の開発が、望まれているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−105586号公報
【特許文献2】特開2007−223895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、少なくともリン酸とガリウム化合物を含む酸性汚泥中よりガリウムを回収する方法であって、安価で、且つ操作性にも優れ、更には、リン酸に由来するリン成分を極力含まない状態でガリウムを回収することが可能ならしめる方法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、そのような課題を解決すべく、少なくともリン酸とガリウム化合物とを含む酸性汚泥よりガリウムを回収する方法にして、a)前記酸性汚泥に、吸熱性を有する水溶性固体化合物及び水を添加することにより、酸性汚泥の水溶液を調製する工程と、b)前記酸性汚泥の水溶液に塩基を添加することにより、抽出原料を調製する工程と、c)前記抽出原料に対して、抽出剤として酸性リン酸エステル類を用いて抽出処理を施すことにより、ガリウムを含む抽出液を得る工程と、d)硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液を用いて、前記ガリウムを含む抽出液に対して逆抽出処理を施すことにより、ガリウムを硫酸塩の固体形態において取り出す工程と、を含むことを特徴とするガリウムの回収方法を、その要旨とするものである。
【0011】
ここで、本発明のガリウムの回収方法における好ましい第一の態様おいては、前記酸性汚泥の水溶液に、該水溶液の中和当量に対して86%以上100%未満に相当する量の前記塩基を添加する。
【0012】
また、本発明における好ましい第二の態様においては、前記水溶性固体化合物が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素アンモニウムのうちの少なくとも何れか一つである。
【0013】
さらに、本発明における好ましい第三の態様においては、前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びアンモニア水のうちの少なくとも何れか一つである。
【0014】
さらにまた、本発明における好ましい第四の態様においては、前記酸性リン酸エステル類が、2−エチルヘキシル−2−エチルヘキシルホスホネート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、及びこれらの塩類からなる群より選ばれた少なくとも一つである。
【0015】
加えて、本発明における好ましい第五の態様においては、前記逆抽出処理によって生じた上澄み液より前記抽出剤を回収し、その回収後の溶液に対して硫酸を添加することにより、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液とし、該硫酸水溶液を、連続的に実施される逆抽出処理に利用する。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従うガリウムの回収方法にあっては、先ず、少なくともリン酸とガリウム化合物とを含む酸性汚泥に、吸熱性を有する水溶性固体化合物及び水を添加し、酸性汚泥の水溶液が調製されるのであり、酸性汚泥を水に溶かす際の過剰な発熱や、後に塩基で中和する際の発熱が効果的に抑制されるところから、特段に優れた耐熱性等を有する器具や装置等を準備し、使用する必要がなく、器具や装置等への経済的負担が低く抑えられ、以て、ガリウムの回収コストも全体として低く抑えられることとなるのである。また、過剰な発熱が抑えられることから、ガリウムの回収工程の全般に亘って、良好な操作性が確保されることとなる。
【0017】
また、本発明のガリウムの回収方法においては、調製された抽出原料に対して、酸性リン酸エステル類を用いた抽出処理を施すことにより、ガリウムを含む抽出液を得た後に、かかる抽出液に対して、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液を用いて逆抽出処理を施し、ガリウムを硫酸塩の固体形態において取り出すものであるところから、かかるガリウムの硫酸塩中には、抽出原料に含まれるリン酸に由来するリン成分の混入が、効果的に抑制されることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例における、酸性汚泥の水溶液に対する塩基添加率とガリウム抽出分配比との関係を示すグラフである。
図2】実施例における、抽出原料のガリウム含有量とガリウム抽出分配比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ところで、本発明に従うガリウムの回収方法は、酸性汚泥よりガリウムを回収するものであるところ、かかる酸性汚泥としては、少なくともリン酸とガリウム化合物を含むものであれば、如何なるものであっても本発明の回収方法を適用することが可能である。少なくともリン酸とガリウム化合物とを含む酸性汚泥は、例えば、以下のようにして入手することが可能である。具体的に、先に示した特許文献2(特開2007−223895号公報)の段落[0096]においては、窒化ガリウム(GaN)結晶基板に対して、リン酸と硫酸の1:1の混合溶液によって、250℃、5時間の条件にて、エッチングが行なわれる旨が記載されているところ、かかるエッチングにより排出されるエッチング廃液は、その液温が下がると、溶液中のガリウムイオンと硫酸イオンとが結合して、固体状の硫酸ガリウムが析出する。この固体状の硫酸ガリウムを沈降させ、濃縮することにより、リン酸とガリウム化合物を含む酸性汚泥が得られるのである。なお、本明細書の以下の記載において、少なくともリン酸とガリウム化合物とを含む酸性汚泥を、単に酸性汚泥と表記する場合もある。
【0020】
本発明に係るガリウムの回収方法においては、先ず、上述の如き酸性汚泥に、吸熱性を有する水溶性固体化合物と水とを添加することにより、酸性汚泥の水溶液が調製される。例えば、所定の容器内の酸性汚泥上に、吸熱性を有する水溶性固体化合物を投入し、次いで、徐々に水を添加して酸性汚泥を水に溶解せしめることにより、水溶液とされる。吸熱性を有する水溶性固体化合物を使用することによって、酸性汚泥が水に溶ける際の発熱量が効果的に低減せしめられることから、例えば、安価で汎用なポリエチレン製若しくはポリプロピレン製等の樹脂製容器の使用が可能となり、ガリウム回収のコスト低減に寄与するのである。
【0021】
ここで、吸熱性を有する水溶性固体化合物としては、水への溶解エンタルピーが正である固体化合物(水へ溶解する際に吸熱反応を伴う固体化合物)であれば、ガリウムと結合して水に不溶性の塩を形成するもの(例えば、シュウ酸二水和物等)を除いて、本発明において使用することが可能である。本発明に従うガリウムの回収方法においては、後述するように後の工程において塩基を使用することから、吸熱性を有する水溶性固体化合物としては、有利には、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸アンモニウムのうちの少なくとも何れか一つが使用されるのであり、それらの中でも、特に炭酸水素ナトリウムが、経済的観点等により有利に使用される。
【0022】
本発明において、吸熱性を有する水溶性固体化合物の添加量(使用量)は、酸性汚泥が水に溶解する際の発熱量等に応じて適宜に決定されることとなるが、かかる水溶性固体化合物の添加量が少なすぎると、水溶液の温度が上昇して、安価で汎用な樹脂製容器の使用が困難となる恐れがある。その一方で、水溶性固体化合物の添加量が多すぎると、最終的なガリウムの回収コストを上昇させるだけではなく、水溶液の温度を過剰に低下させる恐れや、塩濃度の上昇によるガリウムミョウバンの析出を誘発して、ガリウムの回収量の低下や回収の操作性を悪化させる恐れ等の問題がある。このような理由により、上記した炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸アンモニウムのうちの少なくとも何れか一つを使用する場合は、一般に、酸性汚泥の中和当量に対して70〜86%に相当する量の炭酸水素ナトリウム等が、酸性汚泥に対して添加されることとなる。
【0023】
また、酸性汚泥に対して、吸熱性を有する水溶性固体化合物と共に水も添加されることにより、水溶液が調製されることとなるが、その際に添加される水の量は、後述する抽出原料中のガリウム含有量に応じて、適宜に決定される。
【0024】
次いで、以上の如くして調製された酸性汚泥の水溶液に対して、塩基を添加することにより、抽出原料が調製される。
【0025】
かかる抽出原料を調製する際に使用される塩基の種類については、特に限定されるものではなく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムやアンモニア水等を例示することが出来る。それらの中でも、特に、経済性等の観点より、水酸化ナトリウムを使用することが好ましい。また、そのような塩基の添加量は、得られる抽出原料のガリウム含有量や使用される抽出装置の使用によって適宜に決定されるのであり、例えば、装置スケールと操作性等の観点より、先に調製した酸性汚泥の水溶液(酸性汚泥+吸熱性を有する水溶性固体化合物+水)の中和当量に対して、86%以上100%未満に相当する量の塩基を添加することが好ましく、89%以上95%以下に相当する量の塩基を添加することが特に好ましい。塩基の添加量が少なすぎると、後述する抽出処理において、ガリウムの抽出分配比(抽出残液中のガリウム含有量に対する抽出液中のガリウム含有量)が小さくなって抽出効率が低下するため、抽出効率を向上させるために装置容量や抽出段数を大きくすることが必要となり、結果的にガリウムの回収コストを上昇させる恐れがある。その一方で、塩基の添加量が、上記した酸性汚泥の水溶液における中和当量に対して100%に相当する量に近付くと、抽出効率が大幅に上昇する半面、抽出原料中における固体状のガリウム化合物の析出量が増加し、抽出原料中において相分離が生ずる恐れがあることに加えて、抽出原料中へのガリウム化合物の溶解度が著しく低下し、後述する抽出処理における抽出速度が大きく低下する恐れがある。
【0026】
なお、本発明において、抽出原料中のガリウム含有量が多すぎると、後述する抽出処理におけるガリウムの抽出分配比が小さくなる恐れがある。従って、抽出原料は、ガリウム含有量が0.26mol/L以下となるように調製されることが好ましい。かかるガリウム含有量の調製は、例えば、所定量の水を添加すること等によって行なわれる。
【0027】
本発明においては、以上のようにして調製された抽出原料に対して、抽出剤として酸性リン酸エステル類を用いて抽出処理を施すことにより、抽出原料中のガリウムを有利に抽出分離する。具体的には、ガリウムを含む抽出液と、リン酸等を含む抽出残液とに有利に分離されるのであり、従来の方法では問題であったリン酸の除去が、この抽出処理によって効果的に達成されるのである。
【0028】
かかる抽出処理に際して、抽出剤として用いられる酸性リン酸エステル類は、従来より種々の抽出処理において用いられているものであれば、如何なるものであっても使用可能であり、例えば、2−エチルヘキシル−2−エチルヘキシルホスホネート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、及びこれらの塩類等を、例示することが出来る。なお、これらの酸性リン酸エステル類を抽出剤として用いる場合、n−ドデカン等の溶媒が必要に応じて使用される。
【0029】
また、本発明における抽出処理に用いられる抽出装置にあっても、公知の各種の抽出装置が適宜に用いられ得るのであり、例えば、混合撹拌手段と沈降分離部分を有する槽を多段に連設して、抽出原料と抽出剤とを向流方式にて流通させることにより、抽出が行なわれるようにした装置である、所謂ミキサーセトラー抽出装置の如き、公知の抽出装置が、適宜に用いられることとなる。
【0030】
上記した抽出処理によって得られた、ガリウムを含む抽出液に対しては、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液を用いて逆抽出処理を施すことにより、ガリウムを、硫酸塩の固体形態において取り出す。この逆抽出処理で用いられる、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液とは、硫酸ガリウムが飽和溶解度に到達している硫酸水溶液を意味する。
【0031】
本発明において、逆抽出処理において使用される、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液は、かかる逆抽出処理後の上澄み液に含まれる酸性リン酸エステル類の再利用を可能ならしめるために、その硫酸濃度は、酸性リン酸エステル類の分解が起こらない程度、若しくは緩やかな分解に止まる程度であることが好ましく、具体的には、84重量%未満であることが好ましい。また、逆抽出処理によって硫酸ガリウム十六水和物が析出する際に消費される硫酸分と水分との比率から換算すると、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液の硫酸濃度は、64重量%程度であることが好ましい。
【0032】
また、上記した逆抽出処理においては、目的とする硫酸ガリウムを取り出す一方で、そこで生じた上澄み液については、抽出剤を除去(回収)し、かかる回収後の溶液に対して硫酸を添加して、硫酸ガリウムの析出のために消費された硫酸分を補充することによって、連続的に実施される逆抽出処理において、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液として利用することが可能である。
【0033】
そして、上述の如くして得られた硫酸ガリウムについては、従来より公知の手法に従い、例えば水に溶解し、この水溶液を中和して水酸化ガリウムを析出させ、かかる水酸化ガリウムを濾別、水洗する等の手法により、ガリウムが有利に回収されるのである。
【0034】
そのようにして得られる(回収される)ガリウムは、抽出処理を施さない従来の手法により得られるガリウムとは異なり、酸性汚泥中のリン酸に由来するリン成分等の不純物が有利に低減されたものとなっているのである。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0036】
なお、以下の実施例及び比較例においては、硫酸:46重量%、リン酸:38重量%、ガリウム:4.8重量%、水分:11重量%の組成からなる酸性汚泥を用いた。また、抽出処理に際しては、抽出剤としてのジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製、商品名:Phoslex 208 )をn−ドデカン(ジャパンエナジー株式会社製、商品名:N12D)に溶解せしめてなるもの(体積比において、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート/n−ドデカン=30/70)を、抽出溶媒として用いた。
【0037】
−実施例1−
先ず、容積が10Lのポリエチレン製バケツに、酸性汚泥の1000gと、炭酸水素ナトリウム粉末の1000gとを投入し、その後にイオン交換水の1000gを一定の速度で加えることにより、酸性汚泥及び炭酸水素ナトリウム粉末の全量を反応溶解させ、酸性汚泥の水溶液を得た。
【0038】
次いで、得られた水溶液の全量に、25重量%水酸化ナトリウム水溶液の300gを添加して撹拌すると共に、イオン交換水を添加して溶液の全容量を7.1Lとすることにより、抽出原料を調製した。この抽出原料のガリウム含有量をICP−AES分析で測定したところ、0.10mol/Lであった。
【0039】
得られた抽出原料の7.1Lと、別途準備した抽出溶媒の4Lとを、ミキサーセトラー抽出装置にて接触混合することによりガリウムの抽出を実施し、抽出液と抽出残渣(抽出残液)を得た。抽出残渣(抽出残液)のガリウム含有量をICP−AES分析で測定した。
【0040】
抽出原料のガリウム含有量と抽出残渣(抽出残液)のガリウム含有量より、抽出処理によって得られた抽出液のガリウム含有量を求め、その後、以下の式に基づいて、ガリウム抽出分配比(O/A)を算出した。その結果を、図1及び図2に示す。なお、図1における塩基添加率とは、酸性汚泥の水溶液を中和する際に必要な塩基の量を100%(中和当量)として、抽出原料の調製に際して添加された塩基の量の割合を表わすものである。また、図2における抽出原料のガリウム含有量とは、抽出原料に溶解しているガリウム(ガリウムイオン)の量と、抽出原料中に分散している固体状のガリウム水酸化物の量との和を表わすものである。
【数1】
【0041】
−実施例2−
抽出原料の調製に際して、25重量%水酸化ナトリウム水溶液の添加量を270gとした以外は実施例1と同様にして、抽出原料を調製し、ガリウムの抽出を実施した。算出したガリウム抽出分配比を、図1に示す。
【0042】
−実施例3−
抽出原料の調製に際して、25重量%水酸化ナトリウム水溶液の添加量を440gとした以外は実施例1と同様にして、抽出原料を調製し、ガリウムの抽出を実施した。算出したガリウム抽出分配比を、図1に示す。
【0043】
−実施例4−
抽出原料の調製に際して、25重量%水酸化ナトリウム水溶液の添加量を600gとした以外は実施例1と同様にして、抽出原料を調製し、ガリウムの抽出を実施した。算出したガリウム抽出分配比を、図1に示す。
【0044】
−実施例5−
抽出原料の調製に際して、イオン交換水を添加して溶液の全容量を8.4Lとした以外は実施例1と同様にして、抽出原料を調製し、ガリウムの抽出を実施した。算出したガリウム抽出分配比を、図2に示す。
【0045】
−実施例6−
抽出原料の調製に際して、イオン交換水を添加して溶液の全容量を12.6Lとした以外は実施例1と同様にして、抽出原料を調製し、ガリウムの抽出を実施した。算出したガリウム抽出分配比を、図2に示す。
【0046】
−実施例7−
抽出原料の調製に際して、イオン交換水を添加して溶液の全容量を2.8Lとした以外は実施例1と同様にして、抽出原料を調製し、ガリウムの抽出を実施した。算出したガリウム抽出分配比を、図2に示す。
【0047】
−比較例1−
酸性汚泥の水溶液を調製するに当たり、炭酸水素ナトリウムを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、水溶液の調製を試みた。しかしながら、酸性汚泥とイオン交換水とが接触した際に突沸が発生し、また、局所的に異常に高温となってポリエチレン製バケツが変形する事態が発生したため、水溶液の調製を中断した。
【0048】
−実施例8−
先の実施例6で得られた、ガリウムを含む抽出液の4Lに対して、硫酸ガリウムを飽和状態で含む硫酸水溶液(硫酸濃度:64%相当)の2Lを用いて、逆抽出処理(1回目)を実施し、ガリウムを固体状の硫酸ガリウムとして析出させた。その後、上澄み液を静置して抽出溶媒[(ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート)+(n−ドデカン)]を回収すると共に、残りの液状部及び固体部については濾過を行ない、濾過ケーキ(300ml)と、硫酸水溶液の1.7Lを分離回収した。
【0049】
そのようにして回収した硫酸水溶液の1.7Lに、先の逆抽出処理において消費された分の硫酸(0.3L)を補充して新たな硫酸水溶液を調製し、かかる硫酸水溶液と、上述の如く回収した抽出溶媒とを用いて、上記したものと同様の手法に従い、新たな抽出原料に対して逆抽出処理(2回目)を施し、濾過ケーキを回収した。抽出溶媒及び硫酸水溶液の再利用を4回繰り返すことにより、累計で濾過ケーキを1.5L回収した。
【0050】
得られた濾過ケーキの1.5Lを、イオン交換水の1.5Lに溶解させて、2.3Lの水溶液を得た。その後、かかる水溶液に対して塩基を添加し、中和することにより水酸化ガリウム等の固体物を析出させ、この固体物を凝集濾過の上、水洗して回収し、焼成することにより、330gの酸化物を得た。この酸化物の組成を、ICP−AES分析及びイオンクロマトグラフ分析により求めた。その結果を、下記表1に示す。
【0051】
−比較例2−
実施例1と同様の手法に従って酸性汚泥の水溶液を調製した後、かかる水溶液に25重量%水酸化ナトリウム水溶液の625gを加えて中和することにより、ガリウム化合物を析出させた。この固体物を凝集濾過の上、水洗して回収し、焼成することにより、150gの酸化物を得た。この酸化物の組成を、ICP−AES分析及びイオンクロマトグラフ分析により求めた。その結果を、下記表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
かかる表1からも明らかなように、本発明の回収方法にあっては、従来の抽出処理を伴わない回収方法と比較して、ガリウムを、酸性汚泥中のリン酸に由来するリン成分等の不純物が有利に低減された状態で回収可能であることが、認められるのである。
図1
図2