(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油粉末を含むフィリング用組成物であって、前記油粉末が、内核において、タンパク質を含むマトリックス材の外殻中にカプセル化された液体油を少なくとも60%w/w含み、前記フィリング用組成物が遊離液体油をさらに含み、前記タンパク質が食品用ホエータンパク質を含む、フィリング用組成物。
油粉末中の液体油及び/又は遊離液体油が、オリーブ油、紅花油、ヒマワリ油、魚油、大豆油(soy bean oil)、大豆油(soy oil)、パーム核油、パーム油、ヤシ油、亜麻仁油(flaxseed oil)、菜種油、プリムローズ油、亜麻仁油(linseed oil)、トウモロコシ油、グレープシード油、ナッツ油、米ぬか油、ゴマ油、落花生油、綿実油、及びそれらの組合せからなる群のあらゆる要素から個別に選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィリング用組成物。
内核において、タンパク質を含むマトリックス材の外殻中にカプセル化された液体油を少なくとも60%w/w含む油粉末のフィリング用組成物を調製するための使用であって、カプセル化油がフィリング用組成物の残りの成分と混合され、前記残りの成分が遊離液体油を含み、前記タンパク質が食品用ホエータンパク質を含む、使用。
内核において、タンパク質を含むマトリックス材の外殻中にカプセル化された液体油を少なくとも60%w/w含む油粉末及び、場合により遊離液体油を、フィリング用組成物の残りの成分と混合するステップを含む、フィリング用組成物を調製する方法であって、前記残りの成分が遊離液体油を含み、前記タンパク質が食品用ホエータンパク質を含む、フィリング用組成物を調製する方法。
【背景技術】
【0002】
脂質ベースのフィリングは、種々の食品、特に製菓用途及び製パン用途の分野で使用されている。脂質ベースのフィリングの例には、サンドウィッチビスケット、ウエハース製品、クラッカー、又はケーキ用の、甘い、又は風味の良いフィリングが含まれる。しかし、そのような脂質ベースのフィリングは、望ましいテクスチャ特性をもたらすために固形状態の脂質が必要であるため、総脂肪及び飽和脂肪が多い栄養プロフィールを有する傾向がある。
【0003】
それらの脂質ベースのフィリングに使用される脂肪の種類は、製品のテクスチャ特性及び官能特性に影響を与える。例えば、サンドウィッチビスケットのフィリング用の脂肪は、製品の形状安定性を確保し、取扱い時にフィリングを絞り出さないように十分に硬いテクスチャをもたらさなければならない。脂肪は口中で溶融し、血液温度以上で溶融する固体のわずか一部しか残らず、滑らかな食感を生み出すはずである。
【0004】
脂肪の硬さ及び溶融プロフィールは、飽和度に関係している。パーム脂肪、又はあらゆる水素化植物性脂肪などの高度に飽和した脂肪は、通常、周囲温度で固体である。飽和度が低いと、ヒマワリ油などの、周囲条件で液体の製品を生み出す。
【0005】
必要とされるテクスチャ特性及び感覚特性を脂質ベースのフィリングに付与するために、高SFA(飽和脂肪酸)である固形型脂肪を脂質ベースのフィリングに使用する。脂質ベースのフィリングに一般的に使用される脂肪は、水素化ヤシ油及び水素化パーム核油である。典型的な従来のクリーム状フィリングの例には、例えば、米国特許第3244536号、米国特許第4834991号、又は米国特許第4753812号に記載されているもの、及びD.Manley, Biscuit, cracker and cookie recipes for the food industry, Woodhead Publishing Limited, 2001, p.137ffの「Sweet and savoury biscuit creams」というタイトルの章に記載されているものが含まれる。
【0006】
しかし、大量の飽和脂肪酸(SFA)を含有する脂肪は、負の健康効果を及ぼし、心血管疾患の危険性の上昇に関係することが知られている。このため、近年では、飽和脂肪酸への消費者の認識はますます否定的になっている。
【0007】
油の水素化は、液体油から固形型脂肪を得るために、一般的に使用される技術である。生じたSFAの含有量の多さに加えて、部分的に水素化された脂肪中のトランス脂肪酸の存在が、深刻な健康問題になっている。トランス脂肪酸は、心血管疾患、並びに糖尿病及び乳癌などの数種の癌を患う危険性に関連している。
【0008】
したがって、高SFA固形型脂肪、又は相当量のトランス脂肪酸を含有する水素化脂肪を減少させるか、低SFA液体油に置き換えることが望ましいであろう。しかし、フィリング用組成物中で、固形脂肪の代わりに液体油を使用することが不可能であることは当業者には明らかである。低SFA液体油を増やしたり、それに固形脂肪を置き換えるだけでの問題は、フィリング用組成物の味、テクスチャ、及び全体の外観(官能パラメータ)などの物理的特性に影響が生じることである。レシピ中で固形脂肪を低SFA液体油に置き換えることは、フィリング用組成物をはるかに軟らかく、粘り付きやすくするなどの悪影響を加工性に及ぼし、加工できない恐れがある。
【0009】
米国特許出願公開第2002/0106426(A1)号明細書において、(a)脂質を少なくとも約20%含み、前記脂質が可消化脂質、非消化脂質、及びその混合物からなる群から選択され、(b)結晶化脂質を約0.5%〜約35%含む、飽和脂肪を減少させた脂質ベースのフィリングが記述されている。米国特許出願公開第2002/0106426号明細書に従って、該明細書中で記述されているフィリングは、脂肪分の高い標準的な飽和脂肪の脂質ベースのフィリングより、飽和脂肪を約20%少なくでき、又は30%も少なくできる。
【0010】
米国特許出願公開第2008/0193621(A1)号明細書は、部分水素化脂肪を含まないと報告され、総脂質分画5%w/w以下に相当する飽和脂肪酸分画を有するクリーム充填剤組成物に関する。組成物は、脂質分画、パウダー甘味料組成物、及びグリアジン含有量が増加した小麦グルテン分画を含有する。
【0011】
国際公開第2009/013473号パンフレットでは、多不飽和脂肪酸が比較的多い製菓用組成物が開示されている。シュガーココアパウダー、ミルクパウダー、ヨーグルトパウダー、香味料、及び乳化剤などの非脂質性製菓用添加物に加えて、組成物はSFAを減らした脂肪配合物を含有する。
【0012】
上記のすべてにおいて、水素化脂肪、高度に飽和した脂肪分画、又はある種のタンパク質などの結晶化剤又は構造化剤を含有する低SFA脂肪配合物により、SFAの減少が達成されている。さらに、低SFA脂肪配合物は、脂肪の固形テクスチャを損なう傾向があり、SFA減少の見込みは限られる。さらに、水素化脂肪に対する消費者の認識は、上記のようにきわめて否定的である。
【0013】
SFAの消費量を減少させるためにフィリング用組成物の官能特性を損なうことに、消費者は乗り気ではない。味、テクスチャ、全体の外観は、そのような官能特性である。
【0014】
食品工業においては、工業ラインの効率は明らかに重要である。工業ラインには、原料の取扱い及び加工、フィリングの加工、フィリングを含む複合製品の調製、包装、並びに、倉庫、棚上又は家庭におけるその後の保存が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の発明者らは、驚いたことに、優れた官能特性を有する脂質ベースのフィリング用組成物は、固形脂肪を部分的又は全体的にカプセル化液体油、望ましくは液体油と合わせたものに置き換えることによって、フィリングのテクスチャ及び官能特性を損なうことなく調製できることを見出した。
【0028】
本発明のフィリング用組成物は硬いテクスチャ、及び滑らかで心地良い食感を有する。本発明は、優れた官能パラメータを有しながら、甘く、風味の良い、低SFAである脂質ベースのフィリングを提供できるようにする。
【0029】
有利なことに、本発明のフィリングは、対応する固形脂肪ベースのフィリング用組成物と同様の、又は同一のテクスチャ特性を有する。
【0030】
有利なことに、本発明のフィリングは、対応する固形脂肪ベースのフィリング用組成物と同様の、又は同一の密度を提供できる。
【0031】
有利なことに、本発明のフィリングは、対応する固形脂肪ベースのフィリング用組成物と同様の感覚特性を提供できる。本発明のフィリングは、カプセル化油が口中で放出されることによる、望ましい、滑らかで心地良い食感を有する。
【0032】
本発明のフィリング用組成物のさらに重要な利点は、カプセル化油の熱安定性による、優れた温度感受性である。例えば、冷却時及び加熱時のフィリングのテクスチャ特性の変化は、対応する固形脂肪フィリング用組成物に対する変化よりかなり小さい。
【0033】
フィリング用組成物は、粉末状及び液体状の成分を使用することにより、調製も簡単である。
【0034】
本文脈において、「フィリング用組成物」という用語は、複合製品の一部として使用される、予め調製された組成物に関する。フィリング及び混合製品のその他の部分(複数可)は、異なる構成要素からなる。好ましくは、フィリングは、複合製品のその他の部分(複数可)で囲まれている。
【0035】
本文脈において、「遊離液体油」という用語は、油粉末の部分ではない、すなわち、周囲条件で液体形状である液体油を指す。
【0036】
カプセル化液体油(本明細書では他に「カプセル化油」と呼ばれる。)は、液体油をカプセル化するマトリックス材料を含む。室温で固体である、カプセル化油のあらゆる種類が検討されている。
【0037】
好ましくは、カプセル化油は油粉末である。油粉末は、液体油を含む内核、及び架橋した乳化剤を含む外殻を備える。好ましくは、外殻は、タンパク質のマトリックス、又はタンパク質−炭水化物のマトリックスを含む。
【0038】
粉末は、振とうするか傾けると自由に流動することができる多数の細かい粒子からなる、大量の粒状固体である。
【0039】
望ましい、滑らかで心地良い食感を提供できるほど油含有量が多ければ、室温で固体である、あらゆる種類の知られている油粉末が、本発明に従った使用に適している。油粉末の液体油含有量は、40〜99.5%w/wなど、少なくとも40%w/wである。好ましくは、油粉末は油を、少なくとも60%w/w、好ましくは少なくとも65%w/w、より好ましくは少なくとも70%w/w、より好ましくは少なくとも80%w/w、より好ましくは、少なくとも95%w/w、又はさらに少なくとも99%w/wなど、少なくとも90%w/w含む。例えば、いくつかの実施形態においては、油粉末は油を60%〜99.5%w/w含有し、好ましい一実施形態においては、油粉末は油を70%〜99.5%w/w含有する。好ましい一実施形態においては、油粉末は油を、90%〜99%w/wなど、90%〜99.5%w/w含む。油粉末は、99.5%w/w以上の油含有量で、固形状態の特性の喪失を開始できる。
【0040】
カプセル化油は、知られている乳剤ベースのカプセル化プロセスによって得ることができる。これらのプロセスには、乾燥させて油粉末を得られる水中油型乳剤に基づいているという共通点がある。乾燥させるステップは、空気乾燥、通風、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥など、一般に知られているあらゆる種類の乾燥技術によって実行できる。乾燥させるステップの前に、乳化剤を架橋させるステップを含めることができる。適切には、このステップは、牛乳タンパク質などの使用される乳化剤を架橋するために、熱処理、化学処理、又は酵素処理によって達成できる。最終的なカプセル化油は、通常、タンパク質、炭水化物、若しくは他の界面活性剤、又はそれらの混合物からなるマトリックス材にカプセル化された植物性液体油からなる。
【0041】
乳剤の調製に使用される油は、液体であるか、周囲条件で液状化できる、あらゆる植物性油又は植物性脂肪にできる。適切には、油は食品用油である。例には、ヒマワリ油、菜種油、オリーブ油、大豆油、魚油、亜麻仁油、紅花油、トウモロコシ油、藻油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、グレープシード油、ヘーゼルナッツ油、クルミ油、若しくはその他のナッツ油などのナッツ油、落花生油、米ぬか油、ゴマ油、又はそれらの合わせたものが含まれる。場合により、油は、例えば植物性ポリフェノール、n−3脂肪酸、n−6脂肪酸などの脂肪酸、ビタミン、香料、香味料、酸化防止剤、他の活性成分などの1つ又は複数の脂溶性化合物を含有することができる。好ましくは、酸化防止剤には、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、クエン酸、ローズマリー抽出物、BHA、BHT、混合トコフェロール、及びEDTAが含まれる。
【0042】
好ましくは、植物性油を使用し、より好ましくは、高オレイン酸ヒマワリ油、又は高オレイン酸菜種油など、SFA含有量が少ない油を選択する。
【0043】
マトリックス材は、例えばラクトース、グルコース、マルトデキストリン、でんぷん、セルロースなどの糖質などの炭水化物;他の界面活性剤/乳化剤、又はその混合物を含むタンパク質を含むことができる。好ましくは、使用されるマトリックス材はタンパク質ベースの乳化剤である。油のカプセル化に使用されるタンパク質は、牛乳及び/又はホエータンパク質、大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質、カゼイン塩、卵アルブミン、リゾチーム、グルテン、米タンパク質、トウモロコシタンパク質、ジャガイモタンパク質、エンドウ豆タンパク質、スキムミルクタンパク質、又は球状タンパク質及びランダムコイルタンパク質、並びにそれらの組合せなど、あらゆる食品用タンパク質にできる。好ましい一実施形態においては、タンパク質は、1つ又は複数の、牛乳及び/又はホエー由来タンパク質である。
【0044】
本発明を踏まえた、好ましい牛乳タンパク質、又は牛乳タンパク質分画には、例えばホエータンパク質、α−ラクトアルブミン、β−ラクトアルブミン、ウシ血清アルブミン、酸カゼイン、カゼイン塩、α−カゼイン、β−カゼインなどが含まれる。
【0045】
ホエータンパク質が関係する限り、タンパク質源は、酸ホエー若しくは甘いホエー、又はその混合物に基づいていることがあり、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトアルブミンをあらゆる割合で含むことがある。タンパク質はそのままか、少なくとも部分的に加水分解されていることがある。
【0046】
典型的には、カプセル化油は、カプセル化するタンパク質を約30%w/wまで含み、好ましくはタンパク質を約20%w/wまで、より好ましくはタンパク質を約10%w/wまで、より好ましくはタンパク質を約5%w/wまで含む。好ましい一実施形態においては、本発明に従った油粉末は、タンパク質を最大5%w/w含む。別の好ましい実施形態においては、本発明に従った油粉末は、タンパク質を最大3%w/w含む。さらに好ましい実施形態においては、発明に従った油粉末は、タンパク質を最大1%w/w含む。
【0047】
本発明によるカプセル化油の個々の油粉末カプセルは、典型的には、例えば約1〜50μmなど、約0.1〜100μmの範囲の形状の平均直径を有する。
【0048】
油粉末の流動性を高めるために、フリーフロー剤又はアンチケーク剤を油粉末に加えることがある。適切なアンチケーキング剤の例には、リン酸三カルシウム、重炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、三ケイ酸マグネシウム、タルカムパウダー、ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ポリジメチルシロキサン、でんぷん、糖質、及びマルトデキストリン、又はその混合物が含まれる。
【0049】
タンパク質は、場合により、クエン酸ナトリウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸カリウム、又はその合わせたものなどの食品用塩を含むことがある。そのような塩は、典型的には10%w/wまで、好ましくは0〜5%w/wまでの量で存在できる。
【0050】
油粉末を得る乳剤ベースのプロセスは知られており、適切な油粉末は商業的に使用可能である。そのような適切な油粉末は、例えば、欧州特許第1998627号、国際公開第2010/057852号パンフレット、国際公開第2008/066380号パンフレットに記述されているものなど、知られたプロセスに従って調製することができる。
【0051】
一実施形態に従って、乳剤ベースのプロセスによって油粉末を調製することができ、プロセスは、油の乳剤、乳化剤(好ましくはタンパク質)、並びに場合によって食品用塩及び/又は脂溶性化合物を調製するステップと;例えば加熱処理、UV照射処理、高圧処理によってタンパク質を化学的又は酵素的に架橋させるステップと;油粉末を生成するために、乳剤を噴霧乾燥するステップとを含む。一実施形態に従って、国際公開第2010/057852号パンフレットに記述されている油粉末を使用する。
【0052】
本発明に従ったフィリング用組成物は、典型的には油粉末を、約5%〜70%w/w、好ましくは約5〜60%w/w、好ましくは、約10〜50%w/wなど、約5〜50%w/w含むことができる。
【0053】
使用されるカプセル化油は、フィリングに固形テクスチャを与える。口中で機械的応力がかかり、唾液と接触すると、油粉末は口中で油を放出する。これにより、溶融現象を模倣する。
【0054】
有利なことに、フィリング用組成物は一定量の遊離液体油を含む。遊離液体油は、液体であるあらゆる油にできる。油はあらゆる食品用ミネラル油及び/又は有機油(植物又は動物で作られた油)を含む。例には、ヒマワリ油、菜種油、オリーブ油、大豆油、魚油、亜麻仁油、紅花油、トウモロコシ油、藻油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、又はそれらの合わせたものが含まれる。好ましくは、遊離液体油は、ヒマワリ油、菜種油、オリーブ油、大豆油、魚油、亜麻仁油、紅花油、トウモロコシ油、藻油などの植物性液体油である。好ましくは、高オレイン酸ヒマワリ油又は高オレイン酸菜種油などのSFA含有量が少ない油を選択する。場合により、液体油は、例えば植物性ポリフェノール、n−3脂肪酸、n−6脂肪酸などの脂肪酸、ビタミン、香料、香味料、酸化防止剤、他の活性成分などの1つ又は複数の脂溶性化合物を含有できる。
【0055】
遊離液体油の添加により、油粉末の優れた潤滑性を確保する。液体油を添加しないと、フィリング用組成物において、固形脂肪を油粉末に置き換えることにより、切れ目のないフィリングの代わりに粉になりやすい製品が生じ得る。
【0056】
フィリングのテクスチャ特性は、とりわけカプセル化油と液体油との比率、カプセル化油の油含有量、油粉末などカプセル化油の特定の種類、フィリングの脂質含有量、及び成分からフィリングを調製する際に使用される混合状態に左右される。油粉末からの液体油の放出を誘導する混合状態が選択される場合、場合により液体油の添加を避けることができる。しかし、フィリングのテクスチャを調整して望ましいフィリングのテクスチャを得ることは、この方法によっては困難である。
【0057】
フィリングのテクスチャは、遊離液体油とカプセル化油の比率を調整することにより、容易に調整できる。例えば、油粉末を増やすと、より硬いフィリングが生じるのに対して、液体油を増やすと、より流動性のあるフィリングが生じる。とにかく、粒状の塊のではなく切れ目のないフィリングを得るためには、一定の量の液体油が好ましい。使用される液体油の正確な量は、使用される油の種類、使用される油粉末の種類、及び混合手順に左右される。油粉末の種類に関しては、ある種の望ましいテクスチャに達するために必要とされる遊離液体油の量は、カプセル化油と油粉末中のカプセル化するマトリックス材の比率に応じて変動するであろう。より強い混合状態(より長い混合時間、より高いせん断力)は、油粉末からなど、カプセル化油の部分的な放出を招く。この場合、遊離液体油は、ある種のテクスチャを達成するためにあまり必要とされない。
【0058】
目安として、脂質ベースのフィリング用組成物は、遊離液体油を、0.1〜30%w/wなど、1〜30%w/wなど、1〜20%w/wなど、1〜15%w/wなど、0〜30%w/w含有できる。
【0059】
目安として、油粉末と遊離液体油の実行できる比率(存在する場合)は、約0.5:1〜20:1、好ましくは約1:1〜10:1、より好ましくは約1.5:1〜8:1にできる。
【0060】
さらなる実施形態においては、フィリング用組成物は、フィリング用組成物の重量で15〜60%(w/w)など、15〜55%(w/w)など、20〜60%(w/w)など、20〜50%(w/w)など、20〜40%(w/w)など、30〜40%(w/w)など、又は25〜35%(w/w)など、5〜70%(w/w)の範囲の脂肪含有量を有する。脂肪の量は、製品の種類に応じて変動することがある。
【0061】
本発明のフィリング用組成物の調製において、好ましくは遊離液体油と合わされる油粉末は、通常の固形脂肪の代わりに部分的又は全体的に使用される。典型的な固形脂肪の置換率は約1%〜100%、好ましくは約15%〜100%、好ましくは約15%〜100%、より好ましくは約15〜75%、より好ましくは約25〜60%である。好ましい置換率は、とりわけ望ましいフィリング用組成物のテクスチャ及び他の官能特性に左右される。場合により、置換率が高いと、よりきめの粗いテクスチャの製品をもたらす可能性がある。場合により、置換率がきわめて高く、100%近いと、油粉末からの油の漏出が生じる可能性があり、ある種の用途にはあまり望ましくない場合がある。
【0062】
本発明の長所の1つは、成分の観点から、着手に融通が利くことである。本発明は、特定の脂肪分画又は結晶化剤に関していない。本発明においては、望ましい飽和度のあらゆる種類の油を使用できる。そうすることで、従来の固形脂肪に基づく脂質ベースのフィリングと比較して、30%〜40%もの減少、さらに50%又はそれを超える減少などのSFA含有量の著しい減少が得られ得る。例えば、高オレイン酸ヒマワリ油(SFA約8%w/w)と同程度にSFA含有量の少ない脂質ベースのフィリングを得ることができる。
【0063】
本発明のフィリング用組成物、又はクリームは、曝気させてもさせなくてもよい。本発明のフィリング用組成物、又はクリームは、サンドウィッチ、ビスケット、ウエハース、又は他の複合菓子製品などの複合製品に使用する製菓用フィリングなど、甘くできる。あるいは、本発明に従ったフィリング用組成物、又はクリームは、パン製品若しくはサンドウィッチクラッカーのフィリング、又は複合製品の表面に使用する脂質ベースのトッピング、又はスプレッドなど、風味を良くできる。
【0064】
フィリング用組成物の具体的な種類に応じて、種々の種類の成分をフィリング用組成物に補うことができる。
【0065】
例えば、典型的な風味の良いフィリング用組成物は、固形脂肪、塩、マルトデキストリン、スキムミルクパウダー、フルクリームミルクパウダー(FCMP)、ホエーパウダー、チーズパウダー、天然香味料又は合成香味料、天然着色料又は人工着色料、でんぷんベースの充填剤、レシチンなどの乳化剤、及び他の成分などの追加成分をさらに含むことがある。一般的に、風味の良いフィリングの主な成分は脂肪である。風味の良いフィリングの典型的な総脂肪含有量は、約5〜70%(w/w)、好ましくは15〜55(w/w)、より好ましくは20〜50(w/w)である。いくつかの実施形態においては、フィリング用組成物は、フィリング用組成物の重量で0〜2%の範囲の塩の含有量を有し得る。より具体的な実施形態では、塩は塩化ナトリウムである。
【0066】
例えば、典型的な甘いフィリング用組成物は、固形脂肪、糖質、脂肪、スキムミルクパウダー、フルクリームミルクパウダー、ホエーパウダー、フルーツ酸、ココアパウダー、天然香味料又は合成香味料、天然着色料又は人工着色料、でんぷんベースの充填剤、レシチンなどの乳化剤、及び他の成分などの追加成分をさらに含むことがある。糖質は、典型的には、1つ又は複数のスクロース、デキストロース、マルトデキストリン、及び/又はラクトースであり、好ましくはスクロースである。一般的に、甘いフィリングの主な成分は糖質及び脂肪である。甘いフィリングの典型的な総脂肪含有量は、約5〜70%(w/w)、好ましくは15〜55(w/w)、より好ましくは20〜55(w/w)である。
【0067】
典型的な固形脂肪には、ヤシ油、パーム核油、パーム油、ココアバター、バターオイル、ラード、獣脂、ラウリン酸分画又はステアリン酸分画などの油/脂肪分画、水素化油、及びその配合物が含まれる。
【0068】
特定の実施形態においては、フィリング用組成物は、カプセル化液体油を5〜70%w/w、固形脂肪を0〜65%w/w、及び遊離液体油を0〜30%w/w含む。好ましい実施形態においては、フィリング用組成物は、カプセル化液体油を5〜60%w/w、固形脂肪を5〜50%w/w、及び遊離液体油を1〜20%w/w含むことがある。
【0069】
いくつかの実施形態においては、甘いフィリングは、約10〜70%w/w、好ましくは、約35〜65%w/wなど、約45〜55%w/w糖質など、約20〜70%w/wの量の糖質を含む。
【0070】
いくつかの実施形態においては、甘いフィリングは、1〜80%w/w、好ましくは、例えばココアパウダー約10〜20%w/w、約5〜50%w/wなど、約5〜40%w/wなど、約10〜30%w/wなどの約5〜70%w/wの量のココアパウダーを含有する。
【0071】
特定の実施形態においては、フィリング用組成物は、糖質を10〜70%w/w、及びココアパウダーを5〜70%w/w含む。
【0072】
本発明の一態様に従って、フィリング用組成物を調製する方法を提供し、前記方法は、フィリング用組成物の成分をとどめながら、液体油を少なくとも40%w/w含むカプセル化液体油と、カプセル化するマトリックス材と、場合により遊離液体油とを混合するステップを含む。好ましい態様においては、カプセル化液体油は、内核として少なくとも40%w/wの液体油、及び外殻を形成する架橋した乳化剤を含む油粉末である。
【0073】
成分の混合は、例えば標準的な工業用混合装置の使用など、従来の混合、精製、及び/又は曝気する方法によって実行できる。
【0074】
本発明の態様又は実施形態の1つの文脈において説明されている実施形態及び特徴も、本発明の他の態様に適用されることに留意されたい。
【0075】
別の態様に従って、本発明に従ったフィリング用組成物を含む複合製品を提供する。例えば、複合製品は、本発明のフィリング用組成物をフィリング又はトッピングとして含む、サンドウィッチ、ビスケット、クラッカー、ウエハース、又はパン製品であることがある。
【0076】
本出願で引用されているすべての特許文献及び非特許文献は、参照によりその全体が本明細書に包含される。
【0077】
本発明は、これから、以下の限定されない例においてさらに詳細に説明されるであろう。
【実施例】
【0078】
実施例1−油粉末の調製
国際公開第2010/057852号パンフレットに従って油粉末を調製した。
(i)乳剤調製
ヒマワリ油を、WPI(ホエータンパク質分離物、1%(w/w))水溶液中で乳化させた。最終的な乳剤はヒマワリ油の20%(w/w)を含有した。高圧ホモジナイザーで乳化を実行した。0.5ミクロン〜5ミクロンの間の大きさの油滴になるようにパラメータを構成した。
(ii)熱架橋
乳剤を80℃で10分間熱処理して、乳剤中で油滴を囲むタンパク質層の架橋を達成した。次に、架橋された乳剤を周囲温度に冷却した。
(iii)噴霧乾燥プロセス
Niro SD−6.3−Nパイロットプラント噴霧乾燥機で、乳剤を噴霧乾燥した。以下のパラメータを使用した。噴霧ディスクによる噴霧化、処理量10l/h、吸気口温度105℃、排気口温度65℃。得られる油粉末は0.5%(w/w)未満の湿度含有量であった。
【0079】
実施例2−油粉末の組成物
2種類の油粉末を、フィリングの調製に使用した(実施例1に従って作られた油粉末、及び油粉末Vana−Grasa 80B 198)。表1においては、両方の油粉末の組成物を示す。油粉末Vana−Grasa 80B 198は、商業的に得ることができる噴霧乾燥油粉末である。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例3−サンプルフィリングの調製
下記のレシピ例に従って、いくつかのフィリングを調製した。
(i)風味の良いチーズクリームのレシピ(%w/w量で)
固形脂肪 25%
油粉末(実施例1) 8%
大豆油 4%
ホエーパウダー 10%
チーズパウダー 37%
でんぷん 7%
再生品 7%
塩 0.5%
香味料 1.4%
着色料 0.1%
(ii)低脂肪ミルククリームのレシピ(%w/w量で)
固形脂肪 10%
油粉末(実施例1) 7%
菜種油 3%
レシチン 0.5%
糖質 58%
ホエーパウダー 15%
再生品 6%
香味料 0.25%
着色料 0.25%
(iii)高脂肪ミルククリームのレシピ(%w/w量で)
固形脂肪 20%
油粉末(実施例1) 25%
ヒマワリ油 5%
レシチン 0.5%
糖質 45%
FCMP 3.5%
塩 0.4%
香味料 0.3%
着色料 0.3%
【0082】
フィリングを調製するために、フィリングのすべての成分を、標準的な調理器具のボウルに加えた。あるいは、乾燥した成分をまず配合し、固形脂肪を溶融状態で加えた。切れ目のないフィリングの塊が得られるまで成分を混合する。あるいは、混合した後でフィリングの塊を精製し、次いで、残留した脂肪及び液体油と配合するか、精製した後で曝気させた(曝気させたフィリングの場合)。
【0083】
得られたフィリングのすべてで、対応する固形脂肪のフィリング(すなわち、脂肪成分の含有量が固形脂肪でのみなり立っている)と同様のテクスチャ特性を有していたことを観察した。
【0084】
実施例4−サンプル製菓用フィリングの調製
下記表2に従っていくつかのフィリングを調製した。表2に示されているレシピ例では、固形脂肪置換の程度、油粉末と液体油との比率、油粉末の種類、及び混合強度を変動させた。
【0085】
フィリングを調製するために、フィリングのすべての成分を、標準的な調理器具のボウルに加えた。あるいは、乾燥した成分をまず配合し、固形脂肪を溶融状態で加えた。切れ目のないフィリングの塊が得られるまで成分を混合する。
【0086】
【表2】
【0087】
kievitによるVana−Grasa油粉末は、文字Kによって指し示した。他のすべてのレシピは、上記実施例1に従って調製した油粉末を使用する。
【0088】
以下の実施例において、油放出挙動などの機能性、及び表2のフィリング用組成物の密度を測定した。本発明に従ったフィリング用組成物を、参考フィリング(固形脂肪で調製した)、及び液体油で調製したフィリング(油粉末なし)と比較した。
【0089】
実施例5−サンプル製菓用フィリングからの油の放出
油の放出、すなわち油の漏出は、フィリングの重要な技術的特徴である。フィリングからの油の放出が増加すると、サンドウィッチビスケットのビスケットなどの周囲の食材マトリックスへの油の分散を引き起こす。切れ目のないフィリングの塊から放出された遊離油も、適切な食感に支障をきたす。さらに、放出された油の量は、フィリングの保存安定性に経時的に影響を及ぼす。
【0090】
油の放出の傾向を、遠心分離試験によって測定した。規定量のフィリングを遠心分離した。遠心分離の後、フィリングの表面に分離した油を濾紙で丁寧に取り除いた。放出された油の量を、重量測定法で測定した。
図1は、調査したフィリングのサンプルについて、放出された油を得た量を示す。異なるフィリングのサンプルの詳細な組成物に関しては、表2で言及されている。
【0091】
油を放出する傾向が極度に大きいため、液体油単独(組成物8)ではフィリングを調製できないことは、
図1から明らかである。さらに、結果は、油漏出が、油粉末と液体油の比率、固形油粉末の油含有量、及び加えられたせん断力の関数であることを指し示している。これらのパラメータは油漏出挙動を調整するために使用できる。
【0092】
実施例6−サンプル製菓用フィリングの密度
フィリングの別の重要な特徴は、かさ密度である。かさ密度はフィリングの食感に影響を与える。さらに、フィリングの密度が上昇すれば、所定の製品がある一定の消費者の期待に応えるには、フィリング塊を増やす必要もあり得る。これはコストと栄養に望ましくない関わりも生じ得る。
【0093】
種々のフィリングサンプルのかさ密度を、重量測定法で測定した。
図2は、参考フィリング及び種々の油粉末フィリングに対する結果を表す。種々のフィリングサンプルの詳細な組成物に関しては、表2で言及されている。結果により、固形脂肪を油粉末に置き換えると同様の密度が得られ得ることが明らかになっている。
【0094】
実施例7−サンプル製菓用フィリングの相対硬度(最大圧縮力として測定)
フィリングの重要な技術的特徴は、参考フィリングと比較した相対硬度であり、全体のテクスチャ及び食感の比較に寄与する。
【0095】
種々のフィリングサンプルの相対硬度を、室温(20℃)でTA−XT2テクスチャアナライザー(TA−XT2 Texture Analyzer)(商標)(1mm/secの試験速度)を使用した直径2mmのステンレス鋼球プローブによる、フィリングの最大圧縮力の計測によって測定した。
図3は、液体油単体で作られているフィリング(組成物8)のテクスチャがきわめて軟らかいことを示す。結果により、固形脂肪を油粉末(組成物3、6、及び7)に置き換えると同様の硬度が得られ得ることが明らかになっている。種々のフィリングサンプルの詳細な組成物に関しては表2で言及されている。
【0096】
実施例8−サンプル製菓用フィリングの温度感受性
本発明に従ったフィリング用組成物の、別の重要な技術的特徴は、加熱時又は冷却時にテクスチャ特性の変化に対する耐性である。カプセル化油(明色の棒グラフである組成物6)を含有するフィリングサンプル、及び参考フィリング(暗色の棒グラフである組成物1)の相対硬度を、TA−XT2テクスチャアナライザー(商標)(1mm/secの試験速度)を使用した直径2mmのステンレス鋼球プローブによる、フィリングの最大圧縮力の計測によって、温度の関数として測定した。
図4は、カプセル化油の加熱安定性のため、カプセル化油を含有するフィリング用組成物が、参考フィリングと比較して横方向の温度のテクスチャ変化に耐性であり、参考フィリングが典型的な飽和脂肪溶融により、高い温度で軟らかくなることを示す。
フィリングサンプルの詳細な組成物に関しては、表2で言及されている。
【0097】
実施例9−サンプル製菓用フィリングの共焦点顕微鏡写真
製菓用フィリング中のカプセル化油を観察するために、共焦点顕微鏡(Zeiss−Axioplan2−LSM510)を使用して、顕微鏡作業を行なった。共焦点顕微鏡では、タンパク質様の親水相を、ローダミン染料を使用して赤く染色し、543nmの励起で倍率100倍に画像化した。
図5は、標準的な混合プロセスによって調製したフィリングサンプル中に、そのままのカプセル化油が存在することを明確に表す。
図5:(i)=組成物2、(ii)=組成物3(種々のフィリングサンプルの詳細な組成物に関しては、表2で言及されている)。