【文献】
Joon Seop Sim,Characteristics of Polycrystalline SrRuO3 Thin-Film Bottom Electrodes for Metallorganic Chemical-Vapor-Deposited Pb(Zr0.2Ti0.8)O3 Thin Films,Journal of The Electrochemical Society,2006年 9月12日,Vol. 153, No. 11,C777-C786
【文献】
Sanghyun PARK,Characterization of Polycrystalline SrRuO3 Thin Films Deposited by DC Magnetron Sputtering Method,Journal of the Korean Physical Society,2007年 8月,Vol. 51, No. 2,pp. 710-714
【文献】
S. Grebinskij et al.,Electronic structure of epitaxial SrRuO3 films studied by resonant photoemission,Radiation Physics and Chemistry,2011年 2月15日,Vol. 80,,pp. 1140-1144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板を搬送する搬送ロボットが設けられた搬送室から、該搬送室の周囲に設けられたスパッタリング室へ前記基板を搬送し、その後、該スパッタリング室において前記SrRuO3膜の成膜を行うことを特徴とする請求項1に記載のSrRuO3膜の成膜方法。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO
3)は、ペロブスカイト構造を有し、高い熱的安定性および化学的安定性と、低い抵抗率を有する導電体であることから、強誘電体素子、圧電体素子、磁気抵抗素子、超伝導体素子などの電極材料として期待されている。例えば、強誘電体不揮発性メモリ(FeRAM)では、従来、強誘電体キャパシタの電極材料として白金(Pt)が利用されてきたが、近年では強誘電体膜とPt膜の界面にSrRuO
3膜を導入することで素子特性の劣化を防止することが検討されている。また、近年、磁気記録方式のハードディスク(HD)に代わって、強誘電体記録方式の超高記録密度ストレージが期待されるようになっており、その電極材料としてもSrRuO
3が検討されている。このように、SrRuO
3は各種の機能性素子の電極材料として非常に注目されている材料である。
【0003】
このようなSrRuO
3膜の成膜方法としては、MOCVD法や、パルスレーザ堆積法、分子線エピタキシー法、スパッタリング法などが検討されている。MOCVD法は、成長速度や基板の大面積化等の生産性に優れる反面、再現性が得られにくいことや生産コストが高いなどの問題がある。一方、パルスレーザ堆積法、分子線エピタキシー法は、成長速度や基板の大面積化などの生産性に劣る問題がある。工業的な量産性を考えると、安定した再現性が得られ、生産コストを低く抑えることが可能で、かつ、成長速度や基板の大面積化などの生産性も比較的良好なスパッタリング法が望まれる。
【0004】
特許文献1には、このようなスパッタリング法を用いたSrRuO
3膜の製造方法が開示されている。
図7は、特許文献1に記載のスパッタリング装置の概略構成図である。真空容器701内に基板702とターゲット703を対向して配置し、基板702はヒータ704に取り付けられ、かつ電源705に接続されている。ターゲット703も電源706に接続されている。電源は高周波(RF)電源および直流(DC)電源のいずれでも良い。真空容器701はターボ分子ポンプとロータリーポンプなどを組み合わせた真空ポンプ707により真空引される一方、ボンベ708,709(たとえば、酸素708、アルゴン709)から流量計710を経て雰囲気ガスが導入され、真空容器
701内を酸素含有ガス雰囲気にしている。
【0005】
特許文献1では、
図7に示すような通常の静止対向型のスパッタリング法により、8.0Pa以上、300Pa未満の成膜圧力を用いることで、比較的高い成膜速度を得ながら、高品質なSrRuO
3膜が得られることが開示されている。また、このような比較的高い成膜圧力を用いる理由として、高エネルギー粒子(特許文献1ではプラズマ粒子)の加速を低減させ、SrRuO
3膜へのダメージを回避するためと記載されている。さらに特許文献1には、成膜圧力以外の条件はSrRuO
3膜の品質にほとんど影響しないことが述べられている。例えば、プロセスガスとして用いる不活性ガスと酸素ガスなどの酸素付与物質との比率は1:1〜10:1、基板温度は450〜650℃の範囲内などを用いることができ、スパッタ用電源としてはDC電力、交流電力のいずれでもよいことが記載されている。また、ターゲットとしてはSrRuO
3ターゲットや炭酸ストロンチウム(SrCO
3)と酸化ルテニウム(RuO
2)複合ターゲットなどを利用することができると記載されている。
【0006】
このように、特許文献1に記載された発明は、通常の静止対向型のスパッタリング法を用い、成膜圧力を8.0Pa以上、300Pa未満という比較的高い圧力に設定することによって、高エネルギー粒子によるSrRuO
3膜へのダメージを回避し、比較的高い成膜速度を得ながら、SrRuO
3膜の高品質化を達成しようとする発明である。
【0007】
一方、特許文献2には、Si単結晶の基板A上に、薄膜B層として、XRuO
3(但しXは少なくとも1種のアルカリ土類金属)を用いた導電性ペロブスカイト酸化物薄膜Bが積層され、その上に薄膜C層として、PbZO
n(但しZは,La,Zr,Ti,Nd,Sm,Y,Bi,Ta,W,SbおよびSnから選ばれる少なくとも一つの元素)の強誘電体薄膜Cが積層された機能性酸化物構造体及びその製造方法が開示されている。
図8は特許文献2記載の機能性酸化物構造体製造装置の概略図である。特許文献2記載の装置は2つのターゲットを持つRFマグネトロンスパッタ成膜装置であり、符号821は導電性酸化物SrRuO
3組成のターゲットであり、符号822は強誘電体薄膜成膜のためのPb(Ti,Zr)O
3ターゲットである。特許文献2において、薄膜B層および薄膜C層の形成に関し、以下のような成膜方法が記載されている。すなわち、まずSi単結晶基板823を、ヒータ824によって660℃に加熱し、シャッター825によって、SrRuO
3用ターゲット821を選択する。また、高周波によってプラズマを生成し、薄膜B層を300nm積層する。その後、シャッター825を閉じ、ヒータ824によって、基板温度を400℃に再設定したのち、シャッター825によって、強誘電体酸化物Pb(Ti,Zr)O
3用ターゲット822を選択し、薄膜C層を1000nm成膜するようにしている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るSrRuO
3膜の成膜装置の概略構成図である。図中、符号101はロードロック室、符号102は搬送室、符号103は前処理室、符号104はスパッタリング室、符号105は搬送ロボット、符号106〜108はゲートバルブである。
【0020】
ロードロック室101、搬送室102、前処理室103、スパッタリング室104は、各々独立した真空排気手段を有する真空容器であり、ロードロック室101、前処理室103、スパッタリング室104は、それぞれ、ゲートバルブ106、107および108を介して搬送室102に接続されている。ゲートバルブ106〜108は、基板を搬送するときを除いて常時閉じられているため、ロードロック室101、搬送室102、前処理室103、スパッタリング室104は、それぞれ、各々独立した真空状態を実現することが可能となる。
【0021】
以下、
図1を参考にしながら本発明の一実施形態に係るSrRuO
3膜の成膜装置を用いてSrRuO
3膜を形成する方法について詳細に説明する。
【0022】
まず、SrRuO
3膜の成膜対象となる基板を、大気圧状態のロードロック室101に導入し、その後、上述の独立した真空排気手段により、所定の圧力に達するまでロードロック室101の排気を行う。次に、搬送ロボット105が、ゲートバルブ106を介して上記基板を真空状態の搬送室102に運び出し、さらに、ゲートバルブ107を介して上記基板を真空状態の前処理室103へ搬送する。その後、前処理室103へ搬送された上記基板に対して所定の前処理を実施する。なお、前処理方法については、選択する基板(SrRuO
3膜を成膜する基板)によって適宜設定する必要がある。
【0023】
例えば、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)基板を用いる場合、基板温度を500℃以上に昇温して、表面に吸着している水分子などを脱離させてもよい。このような予備加熱を行うことで、後述するスパッタリング室104に持ち込まれる水分子などが低減され、安定したプロセスが実現されやすくなる。特に、基板をトレイ上に乗せて搬送する場合などは、トレイに多くの水分子などが吸着していることが多いため、このような処理は望ましい形態である。もちろん、このような工程は、SrTiO
3基板だけに限定されるものではなく、他の基板においても用いることが可能であることは言うまでもない。
【0024】
また、SrTiO
3基板は高温で熱処理されることで、SrTiO
3基板の表面の酸素原子が欠損しやすいことが知られている。そこで、前処理室103に酸素ガスを流しながら上記予備加熱を行い、SrTiO
3基板の表面の酸素原子が欠損しにくくなるようにしても良い。
【0025】
基板としてSi基板を用いる場合には、前処理室103によって、Si基板の表面を平坦化したり、Si基板の表面の酸化膜を除去したり、Si基板の表面に酸化膜を形成したりすることができる。Si基板の表面を平坦化したり、Si基板の表面の酸化膜を除去する場合などは、例えば、真空中で基板温度を850℃以上とするなどの方法がある。Si基板の表面の酸化膜を除去する場合は、他の方法として、活性なガスなどを用いて、酸化膜を化学的に取り除いても良い。Si基板の表面に酸化膜を形成する場合は、酸素含有ガス中で熱処理するなどの方法を用いることが可能である。
【0026】
基板としてSi基板を用いる場合は、さらに、SrRuO
3膜とSi基板との間に、他の材料からなる下地層を形成することが必要な場合がある。このような場合、前処理室103を、その下地層を形成するための成膜装置として用いることも可能である。例えば、そのような下地層の候補としては、チタン(Ti)やPt、SrTiO
3などが代表例として挙げられる。なお、このような下地層の成膜方法は特に限定されず、真空蒸着法、スパッタリング法、MOCVD法、MBE法など、その下地層の成膜において好ましい方法を用いることができる。
【0027】
なお、前処理室103における前処理は、必ずしも一つの工程からなるわけではなく、上述した予備加熱の工程や、平坦化の工程、酸化膜の形成/除去の工程、下地膜の形成工程などを連続して行っても良い。例えば、SrTiO
3基板を用いた場合、前述したように、前処理室103において酸素ガスを流しながら上記予備加熱を行い、さらに、前処理室103においてSrTiO
3膜をホモエピタキシャル成長させるなどの前処理工程を行っても良い。このようにすることで、SrTiO
3基板の表面に存在する欠陥が低減され、その後に形成するSrRuO
3膜の結晶性をさらに高めることが可能となる。また、Si基板を用いた場合には、平坦化の工程に次いで酸化工程を行ない、さらに、Pt/Tiの積層膜の成膜工程を行っても良い。
【0028】
前処理室103における前処理を実施した後、搬送ロボット105を用いて、ゲートバルブ107を介して基板を前処理室103から取り出し、次いで、ゲートバルブ108を介して真空状態のスパッタリング室104へ基板を搬送する。最後に、スパッタリング室104において、所定の条件においてスパッタリングによる成膜を行い、該基板上にSrRuO
3膜を形成する。
【0029】
スパッタリング室104で行なう工程は、少なくともSrRuO
3膜の成膜工程を含んでいれば良く、上述した前処理(予備加熱の工程や、平坦化の工程、酸化膜の形成/除去の工程、下地膜の形成工程など)をスパッタリング室104で行なうことも可能である。例えば、スパッタリング室104において、前処理として基板温度を予備加熱温度に設定し、その後、スパッタリング室104においてSrRuO
3膜の成膜を行っても良い。また、スパッタリング室104において前処理として酸化膜の形成を行い、その後、スパッタリング室104において下地膜の形成を行い、最後に、スパッタリング室104においてSrRuO
3膜の成膜を行っても良い。なお、下地膜の形成工程をスパッタリング室104で行なう場合は、スパッタリング室104に、少なくともSrRuO
3膜を成膜するためのターゲットと、下地膜を成膜するためのターゲットとが含まれていることが必要である。
【0030】
本実施形態において、
図1に示した成膜装置は、SrRuO
3膜を生産性よく、且つ、安定に得るための一例であって、搬送室102や前処理室103などは用いなくてもよい場合もある。例えば、プロセス上、特に問題が生じないのであれば、上述した前処理からSrRuO
3膜の成膜までをスパッタリング室104で行なっても良い。その場合は、ロードロック室101とスパッタリング室104とをゲートバルブを介して直接接続すれば良い。これにより、搬送室102や前処理室103を設置する必要がなくなるため、装置コストの大幅な低減が可能となる。また、上記前処理工程として複数の工程を連続して行う際に、前処理室103を工程の数に応じて増やしても良い。例えば、上述した予備加熱の工程と、平坦化の工程と、酸化膜の形成工程と、下地膜の形成工程とを、異なる前処理室103で行なうことも可能である。各工程間では、温度条件が大きく異なる場合などがあり、その際に、一つの前処理室103で昇降温を繰り返すと、高い生産性を得ることが難しくなる。このような場合、複数の前処理室103を用い、各前処理室103において個別の工程を行なわせることによって、各工程間の時間を短縮し、生産性を大幅に向上することが可能となる。
【0031】
図2A、2Bは、本発明の一実施形態に係るSrRuO
3膜を成膜するための、オフセット回転成膜式のマグネトロンスパッタリング装置の一例の概略構成図である。
図2Aは、基板ホルダーの中心位置とターゲットの中心位置とを水平方向にずらして配置(以下、オフセット配置)すると共に、基板ホルダーの法線方向とターゲットの法線方向とを平行配置した、通常のオフセット回転成膜式のマグネトロンスパッタリング装置を示す図である。
図2Bは、基板ホルダーの中心位置とターゲットの中心位置とをオフセット配置すると共に、基板ホルダーの法線方向とターゲットの法線方向とを、0°より大きく、90°未満の角度を有して配置した斜め回転成膜式のマグネトロンスパッタリング装置を示す図である。図中、符号201は真空容器、符号202はチャンバーシールド、符号203は回転シャッター、符号204は回転シャッターの回転機構、符号205は基板ホルダー、符号206は基板ホルダーの上下回転機構、符号207はターゲット、符号208はカソード、符号209は磁石ユニット、符号210は電源、符号211はガス源、符号212は排気ポンプ、符号213は基板、符号214はトレイである。
【0032】
真空容器201は、SUSまたはAlなどの金属部材等で構成され、排気ポンプ212により真空排気が行なわれている。真空容器201の到達圧力については特に限定するものではないが、膜中へ混入する不純物を低減し、高い結晶性を得るためには、1×10
−3Pa以下であることが望ましく、さらには1×10
−4Pa以下であることが望ましい。また、真空容器201は、水冷などによって壁面の温度上昇を防止することが望ましい。
【0033】
チャンバーシールド202および回転シャッター203は、SUSまたはAlなどの金属部材等で構成されている。ただし、チャンバーシールド202および回転シャッター203は基板ホルダー205からの輻射熱により高温になりやすいため、高温になることで変形したり不純物を放出しないような部材をチャンバーシールド202および回転シャッター203として選択する必要がある。また、チャンバーシールド202および/または回転シャッター203は、熱容量が大きくなりやすいため、基板ホルダー205の温度を変化させた際の、温度追従性が悪いことが多い。このような場合、チャンバーシールド202および/または回転シャッター203からの輻射熱によって、基板213の温度安定性が悪くなる。したがって、チャンバーシールド202および/または回転シャッター203を冷却して、チャンバーシールド202および/または回転シャッター203から基板213への輻射熱を低減することが望ましい。また、チャンバーシールド202および/または回転シャッター203を比較的安定した温度となるように加熱しても、基板の温度安定性を高めることができる。
【0034】
基板ホルダー205は、不図示の基板加熱機構を有しており、基板
213の加熱を行うことができる。また、基板ホルダー205は、上下回転機構206に接続されている。該上下回転機構206は、基板ホルダー205を上下に移動させることができ、かつ該基板ホルダー205を回転することができる。上下回転機構206を駆動することで、膜厚分布が均一となるような高さおよび回転速度に調整される。
【0035】
ターゲット207は、銅(Cu)などで構成された不図示のボンティングプレートを介してカソード208に接続されており、カソード208には電源210が接続されている。この電源210を駆動することで、ターゲット207に電力が供給され、スパッタリングを行うことが可能となる。カソード208には、ターゲットの温度上昇を防止するための水冷機構と、マグネトロンスパッタリングを実現するための磁石ユニット209とが取り付けられている。なお、上記電源210の種類としてはDC電源がコストの観点から望ましいが、DCパルス電源や、高周波(RF)電源を用いることも可能である。
【0036】
図2A、2Bには2カソード式(一方のカソード、ターゲット、磁石ユニット、電源については、符号を省略している)のスパッタリング装置を示しているが、1カソードでもよく、2カソード以上でも良い。1カソードの場合は、SrRuO
3膜のみ成膜が行え、2カソード以上の場合は、下地膜の形成を含めて行うことも可能である。また、2カソード以上の場合は、複数のカソードに同一のターゲットを取り付け、同時スパッタリングすることによって、成膜速度を高めることも可能である。
【0037】
ターゲット207の材料としては、SrRuO
3を用いることが望ましいが、酸素原子が欠損したSrRuO
X(X:3未満の正の数)であっても構わない。また、酸化ストロンチウム(SrO)とルテニウム(Ru)、またはSrOとRuO
2の複合ターゲットなどを用いることも可能である。
【0038】
スパッタリングに用いるガスは、アルゴン(Ar)などの不活性ガスと酸素ガスの混合ガスが望ましい。これらのガスをガス源211から、不図示のマスフローコントローラー(MFC)を介し、流量を調整して、真空容器201内に導入する。なお、
図2A、2Bでは、図面の煩雑さを防ぐために、一つのガス源211を用いているが、実際には一つである必要はなく、不活性ガス源と酸素ガス源とを分離しておいてもよい。その場合は、各々の流量を独立して制御できるように、各ガス源から不図示のMFCを介して真空容器201内にガスを供給する。また、ガスを使用しない場合は、MFCと真空容器201との間の不図示のバルブを閉じて、真空容器201にガスが導入されないようにする。
【0039】
排気ポンプ212は、不図示のゲートバルブを介して、真空容器201に接続されている。成膜時には、上記ガスを導入しつつ、ゲートバルブの開度を調整して、真空容器201内の圧力が所定の圧力となるように真空容器201内の圧力を調整する。
【0040】
基板213またはトレイ214は、ホルダー205上に直接載置、もしくは、不図示の基板またはトレイ支持機構によってホルダー205から離間して載置される。トレイ214は、基板が小径である場合などに用いることができ、複数枚の基板をトレイ上に設置して、同時に成膜することが可能である。もちろん、Siなどのように大型の基板が存在する場合などは、トレイを用いなくとも構わない。
【0041】
基板213の材質は、目的とする素子ごとに適宜設定する必要がある。また、トレイの材質としては、高温での加熱に耐えうる各種の金属部材またはセラミックス部材などを用いることができる。なお、基板ホルダー205を高温に保ったままトレイ214を搬送する場合などは、熱衝撃によってトレイが割れる恐れがあるため、トレイ214として熱衝撃に強い材料を選択する必要がある。
【0042】
以下に、本発明の実施に係るスパッタリング装置を用いたSrRuO
3膜の形成方法の一例について、
図2A、2Bを用いて説明する。なお、ここではターゲット207として、SrRuO
3ターゲットを用いた例について説明する。ターゲットとして、酸素が欠損したSrRuO
Xターゲットを用いることも可能である。
【0043】
まず、基板ホルダー205に基板213(小径基板の場合はトレイ214を含む)を設置し、その後、基板ホルダー205の高さおよび回転速度を、SrRuO
3膜の膜厚分布が均一となるように調整する。その後、基板ホルダー205に内蔵された不図示の基板加熱機構をONし、基板温度を所定の成膜温度になるよう調整する。なお、上記所定の成膜温度としては、450℃以上の温度が望ましく、それ以下の温度ではSrRuO
3膜が結晶化しにくくなるため好ましくない。また、基板213を搬送する際の基板ホルダー205の温度は室温である必要はなく、予め基板ホルダー205に内蔵された不図示の基板加熱機構をONし、所定の成膜温度を実現するためのホルダー温度に設定しておいても良い。むしろ、このような方法を用いることで、基板213の昇温時間が短縮され、生産性の向上につながるため望ましい形態である。
【0044】
次に、不活性ガス源211から真空容器201へ、不活性ガスと酸素ガスとを不図示のMFCを介し、流量を調整して導入し、さらに、排気ポンプ212と真空容器201との間の不図示のゲートバルブの開度を調整して、真空容器201内の酸素含有雰囲気の圧力を所定の圧力となるように調整する。なお、この際の所定の圧力としては、1.0Pa以上、8.0Pa未満が望ましい。1.0Pa未満では良好な結晶性のSrRuO
3膜が得られず、8.0Pa以上では異常放電が発生しやすくなるため望ましくない。また、所定の圧力としてさらに望ましい圧力は、1.5Pa以上、5.0Pa未満であり、最も望ましくは、2.0Pa以上、3.0Pa未満である。
【0045】
なお、不活性ガス源211から真空容器201へ導入される不活性ガスと酸素ガスの混合ガス比率については特に限定するものではなく、酸素ガス比率(流量比率)として0%から100%の範囲で任意の値を選択することが可能である。ただし、酸素ガス比率0%の場合には、SrRuO
3膜の酸素原子が僅かに欠損しやすく結晶品質が低下傾向となるため、酸素ガス濃度は0%より大きいことが望ましい。また、酸素ガス比率が50%以上となると、成膜速度が極端に遅くなるため、生産に用いる場合は酸素ガス濃度を50%未満とすることが望ましい。
【0046】
次に、回転機構204を駆動し、回転シャッター203の上述した非開口部を、SrRuO
3ターゲットからなるターゲット207に割り当て、その後、電源210からカソード208を介してターゲット207に電力を供給することで、ターゲット207と上述の非開口部との間にプラズマを発生させる。発生したプラズマによりターゲット207はプレスパッタリングされ、ターゲット表面がクリーニングされると共に、放出されたスパッタ粒子は非開口部に付着する。なお、ここで供給される電力の形態としては、DC電力であることが最も望ましい。なぜなら、他の形態の電力を用いる場合は、電源自体が高価になりやすく、その他にも、例えばRF電力を用いる場合は、マッチングボックスが必要になるなど、特別な装置構成が必要となり、装置コストが高くなりやすいためである。ただし、RF電力やDCパルス電力などを用いても、本発明の効果が得られないわけではないので、DC電力であることは必須ではない。
【0047】
次に、回転機構204を駆動し、回転シャッター203の上述した開口部を、SrRuO
3ターゲットからなるターゲット207に割り当て、スパッタリングによる成膜を開始する。ターゲットから放出されたスパッタ粒子は、開口部を通して基板213へ到達し、SrRuO
3膜が形成される。
【0048】
このような装置および工程を用いることによって、異常放電を回避しつつ、高品質なSrRuO
3膜を高い成膜速度で得ることが可能となる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態では、
図1に示すSrRuO
3膜の成膜装置、および、
図2A、2Bに示すSrRuO
3膜を成膜するためのオフセット回転成膜式のマグネトロンスパッタリング装置によって、酸素ガスを導入しながら、1.0Pa以上、8.0Pa未満の圧力でSrRuO
3膜を成膜する。よって、DCマグネトロンスパッタリング法を用いた場合においても、異常放電を回避し、かつ、高品質なSrRuO
3膜を高い成膜速度で得ることができ、SrRuO
3膜の成膜を行う前の前処理を含め、高い生産性でSrRuO
3膜を製造することが可能となる。
【0050】
(実施例)
本発明の第一の実施例として、SrRuO
3膜をSrTiO
3(001)基板上に成膜した例について以下に説明する。
【0051】
図1に示した成膜装置を用いて、オフセット回転成膜式のDCマグネトロンスパッタリング法により、SrTiO
3(001)基板上にSrRuO
3膜を形成した。
図1に示したスパッタリング室104としては、
図2Bに示した斜め回転成膜式のマグネトロンスパッタリング装置を用い、以下に示す条件で各工程の処理を行なった。なお、前処理室103では、酸素ガス中で基板温度を650℃まで昇温して予備加熱を行った。
【0052】
・処理装置: 斜め回転成膜式マグネトロンスパッタリング装置
・到達圧力: 2×10
−5Pa
・基板: 2インチSrTiO
3(001)
・トレイ: 2インチ基板搬送用インコネルトレイ
・ターゲットの材質: SrRuO
X焼結体ターゲット
・ターゲットサイズ: 直径110mm(円形)、厚み5mm
・ターゲット密度: 90%
・ターゲット中心と基板との垂直方向の距離: 160mm
・プロセスガス: Ar/O
2混合ガス
・プロセス時のO
2ガス比率: 4%
・スパッタリング用電源: DC電源
・プロセス時の投入電力: 350W
・プロセス圧力: 0.5−300Pa
・プロセス温度: 600℃
・成膜時間: 1800秒
【0053】
図3、4、5は、X線回折(XRD)装置を用いて、上記条件(成膜圧力は、2.5Pa)で作製したSrRuO
3膜の結晶性を評価した結果であり、図中、STOはSrTiO
3を意味し、SROはSrRuO
3を意味している。なお、SrRuO
3の晶系には、立方晶、正方晶、斜方晶の3種類があることが知られているが、それらの同定は非常に難しく、また、立方晶として取り扱っても多くの場合大きな問題は生じないため、本明細書においては、立方晶と仮定している。
【0054】
図3は、対称反射位置(基板表面に平行な面を観測する配置)で、2θ/ωスキャンモードのXRD測定により上記SrRuO
3膜を評価した結果である。2θ=22.75°、46.45°の回折ピークは、SrTiO
3の(001)面と(002)面の回折ピークである。また、2θ=22.15°、45.25°の回折ピークは、SrRuO
3の(001)面と(002)面の回折ピークである。このように、対称反射位置での2θ/ωスキャンモードのXRD測定において、SrRuO
3膜からは、(001)面や(002)面の回折ピークのみが観測されていることから、得られたSrRuO
3膜がc軸配向していることがわかる。
【0055】
図4は、In−plane配置(基板表面に垂直な格子面を観測する配置)で、φスキャンモードのXRD測定により上記SrRuO
3膜を評価した結果であり、測定に用いた格子面はSrRuO
3{200}である。なお、{200}とは、(200)面とその等価な面である、(−220)、(−2−20)、(2−20)を意味する。このように、φスキャン測定において、90°間隔に4つの鋭いピークが観測されていることから、SrRuO
3膜がエピタキシャル成長していることがわかる。なお、SrTiO
3との面内配向関係は、SrRuO
3(100)//SrTiO
3(100)であることを確認している。
【0056】
図5は、XRDの逆格子マップ測定により、上記SrRuO
3膜を評価した結果であり、測定ではSrTiO
3膜およびSrRuO
3膜の(−204)面周辺の逆格子空間を測定している。このように、SrTiO
3膜の(−204)面と、SrRuO
3膜の(−204)面とが、逆格子空間上、等しいQx座標に観測されていることから、SrRuO
3膜はSrTiO
3膜に対してコヒーレントに成長していることが確認できる。
【0057】
以上のことから、上記条件(成膜圧力は2.5Pa)によって成膜したSrRuO
3膜は、非常に良好な結晶性を有していることが確認できた。なお、この時のSrRuO
3膜の成膜速度は60nm/hであり、特許文献1に記載された、通常の静止対向型のスパッタリング法において好ましい成膜速度(10nm/h以上)を十分に満たした成膜速度であることを確認した。さらに、成膜圧力を0.5Pa以上、300Pa未満の範囲で変化させて同様の実験を行ったところ、成膜圧力が1.0Pa以上では、結晶性の優れたエピタキシャル膜が得られることが確認できた。
【0058】
一方、成膜圧力を8.0Pa未満とした実験においては、異常放電が発生することはなかったが、成膜圧力を8.0Pa以上とした実験においては、異常放電が発生しやすく、成膜後のSrRuO
3膜の表面には、多くのパーティクルが存在していることが確認できた。この異常放電の原因を調べるため、本発明者らは、さらに、異常放電が発生した後の、ターゲットの観察および評価を行った。
【0059】
図6は、異常放電が発生した後の、SrRuO
3ターゲットの断面形状を示した図である。図中、符号601はSrRuO
3ターゲットであり、符号602はエロージョン部、符号603は非エロージョン部である。エロージョン部602は、マグネトロンスパッタリングにおける磁石ユニットからの磁場によって、成膜中、その正面に比較的高密度のプラズマが形成され、それによって、スパッタリング現象が促進されている領域である。このため、エロージョン部602は、成膜における積算電力量の増加と共に深く掘り込まれている。一方、非エロージョン部603は、成膜中、その正面のプラズマ密度が低く、スパッタリング現象があまり進行しない領域である。
【0060】
図6において、異常放電が発生した後のSrRuO
3ターゲット601の表面部は、エロージョン部602のみ滑らかで、非エロージョン部603はクレーター状に無数の微細孔が形成されていることが確認できた。また、本実施例で用いたスパッタリング装置のビューイングポートから、ターゲット近傍の様子を確認したところ、異常放電発生時にはターゲット表面から火花状の粒子が無数飛び出していることを確認した。すなわち、上記の異常放電によってこの微細孔が生じていると考えられ、その発生箇所は非エロージョン部603にみに限定されていると考えられる。
【0061】
そこで、本発明者らは、この非エロージョン部603の表面部の組成分析を実施した。その結果、非エロージョン部603の表面部には、Srが過剰に存在していることが明らかとなった。Srは酸化しやすい材料であるため、酸素含有雰囲気のスパッタリング工程において、SrRuO
3ターゲット601上に金属状で安定に存在していたとは考えにくく、絶縁性のSrOとなって存在していたと考えられる。
【0062】
これらのことより、上記の異常放電の原因として以下のような要因を推定することができる。すなわち、SrRuO
3ターゲット601をスパッタリングすることによって、主にエロージョン部602よりスパッタリング粒子が放出されるが、その一部が絶縁性のSrOとして放出され、非エロージョン部603に再付着する、または、スパッタリング粒子の一部が金属状のSrとして放出され、非エロージョン部603に再付着した後、雰囲気中の酸素によって酸化して絶縁性のSrOになると考えられる。このように、非エロージョン部603の表面に絶縁性のSrOが形成されていることによって、DCスパッタリング時には、SrOがチャージアップし、最終的に絶縁破壊が生じて異常放電に達するものと考えられる。なお、8.0Pa未満の成膜圧力において、異常放電が発生しにくくなる理由は明らかでない。
【0063】
このように、
図2A、2Bに示したオフセット回転成膜式のマグネトロンスパッタリング装置を用い、成膜条件として酸素含有雰囲気、1.0Pa以上、8.0Pa未満の成膜圧力を用いることによって、異常放電の発生を抑制し、且つ、高品質なSrRuO
3膜を、高い成膜速度で得ることが可能となった。
【0064】
(比較例)
本発明における比較例として、
図7に示す通常の静止対向型のマグネトロンスパッタリング装置を用い、実施例と同様の条件にてSrRuO
3膜の成膜を行った。
【0065】
その結果、成膜圧力を8.0Pa以上としたときには、高品質なSrRuO
3膜が得られたが、異常放電の発生を抑制することは困難であることが明らかとなった。一方、成膜圧力を8.0Pa未満としたときには、異常放電の発生を抑制することができるものの、高品質なSrRuO
3膜を得ることは困難であることが明らかとなった。
【0066】
なお、本比較例において、成膜圧力を8.0Pa以上としたときに生じる異常放電については、上述したSrOの非エロージョン部への再付着が原因であると推定される。また、成膜圧力を8.0Pa未満としたときには、特許文献1に記載されているように、高エネルギー粒子によるダメージが生じるため、高品質なSrRuO
3膜が得られにくいものと考えられる。
【0067】
また、8.0Pa以上の圧力においても、プロセス時の投入電力を50W程度まで低下させることによって、異常放電の発生確率を低減させることが可能となったが、同時に成膜速度も著しく低下し、量産性を低下させることが明らかとなった。
【0068】
以上のことから、オフセット回転成膜式のDCマグネトロンスパッタリング法において、成膜条件として酸素含有雰囲気、1.0Pa以上、8.0Pa未満の成膜圧力を用いることによって、異常放電の発生を抑制し、且つ、高品質なSrRuO
3膜を、高い成膜速度で得ることが可能となった。一方、通常の静止対向型のスパッタリング法では、1.0Pa以上、8.0Pa未満の成膜圧力において、高品質なSrRuO
3膜を得るこ
とが困難であり、8.0Pa以上の成膜圧力においては、異常放電の発生を抑制することと、高い成膜速度を得ることの両立が困難であることが明らかとなった。
【0069】
なお、本発明に係るオフセット回転成膜式のDCマグネトロンスパッタリング法において、特許文献1に記載された通常の静止対向型のスパッタリング法に匹敵する高い成膜速度が得られた第一の要因としては、通常の静止対向型のスパッタリング法では高品質なSrRuO
3膜が得られにくい、1.0Pa以上、8.0Pa未満の比較的低い圧力での成膜が可能になったことが挙げられる。すわなち、通常の静止対向型のスパッタリング法より低い成膜圧力を用いることが可能となったことで、ターゲットから放出されたスパッタ粒子の気体粒子による散乱を低減し、基板へ到達するスパッタ粒子が増加したことによって、高い成膜速度が得られていると考えられる。
【0070】
上述のように、本発明において、「通常の静止対向型のスパッタリング法では高品質なSrRuO
3膜が得られにくい、1.0Pa以上、8.0Pa未満の比較的低い圧力での成膜が可能になったこと」について説明する。
図10は、特許文献1に記載された通常の静止対向型のスパッタリング法の様子を示す図である。
図10において、ターゲット1001と基板1002とは対向して配置されており、かつ基板1002は静止している。なお、
図10において、ターゲット1001が円形状で
ある場合は基板1002も円形状であり、ターゲット1001が方形状である場合は基板1002も
方形状であることが原則である。しかしながら、ターゲット1001が円形状であり、基板1002が方形状である場合、およびターゲット1001が方形状であり、基板1002が円形状である場合も有り得る。
【0071】
一般に、ターゲットのスパッタリングにて生じた高エネルギー粒子が基板に対して垂直に入射することで、該基板に最もダメージが入り易くなると考えられる。
図10に示す静止対向スパッタの場合は、基板1002の対向位置にターゲット1001が存在するので、ターゲット1001により基板1002が覆われることになり、基板1002に対して垂直入射の高エネルギー粒子1003が基板1002に対して常時照射され易くなる。従って、基板1002の被処理面の全面でダメージが蓄積される。符号1002aは、基板1002の、高エネルギー粒子による高ダメージ蓄積領域である。特許文献1では、成膜圧力を8.0Pa以上にして該高エネルギー粒子を散乱させるなどして該高エネルギー粒子の加速を低減させることにより、ダメージ低減を図っている。逆に言うと、特許文献1に開示されたような
図10に示す静止対向スパッタでは、8.0Pa未満の成膜圧力にすると、上記高エネルギー粒子1003の加速低減効果が小さくなるので、基板1002において高ダメージ蓄積領域1002aを形成させてしまう。
【0072】
これに対して、本発明の一実施形態では、一例として
図2Aに示すように、基板の中心(基板ホルダの中心)とターゲットの中心とをずらして配置する、すなわち、ターゲットを基板に投影したときに、該基板においてターゲットの投影像が形成されない領域が生じるようにターゲットと基板とを配置し、さらに基板を被処理面の法線方向を中心に回転する方式(オフセット回転成膜)を採用している。よって、成膜のある瞬間においては、基板において、基板に垂直入射する高エネルギー粒子が入射されない領域(すなわち、上記投影像が形成されない領域)を存在させることができる。すなわち、
図11(
図2Aに示すオフセット配置に対応)に示すように、ある瞬間において、基板1002において、基板1002に対して垂直入射の高エネルギー粒子1003に曝されない領域1004を形成することができる。そして、
図11において、基板1002を該基板の被処理面の法線方向を中心に回転しているので、被処理面上に上記基板に垂直入射する高エネルギー粒子に常に曝されない領域を形成することができる。その結果、基板に対する高エネルギー粒子によるダメージを低減することができる。すなわち、基板1002の被処理面はダメージが緩和されたダメージ領域1002bとなる。
【0073】
また、本発明の一実施形態の他の例では、
図2Bに示すように
、基板の中心(基板ホルダの中心)と傾けたターゲットの中心とをずらして配置し、さらに基板を被処理面の法線方向を中心に回転する方式(オフセット回転成膜)を採用している。このときも、ターゲットを基板に投影したときに、該基板においてターゲットの投影像が形成されない領域が生じるようにターゲットと基板とを配置する構成である。よって、成膜のある瞬間においては、基板において、ターゲット1001のスパッタ面1001aの法線方向に進行する高エネルギー粒子1005が入射されない領域(すなわち、上記投影像が形成されない領域)を存在させることができる。すなわち、
図12(
図2Bに示すオフセット配置に対応)に示すように、ある瞬間において、基板1002において、スパッタ面1001aの法線方向に進行する高エネルギー粒子1005に曝されない領域1004を形成することができる。そして、
図12において、基板1002を該基板の被処理面の法線方向を中心に回転しているので、
ターゲット1001のスパッタ面1001aの法線方向に進行する高エネルギー粒子に常に曝されない領域を
被処理面上に形成することができる。その結果、基板に対する高エネルギー粒子によるダメージを低減することができる。すなわち、基板1002の被処理面はダメージが緩和されたダメージ領域1002bとなる。
【0074】
なお、上記オフセット配置としては、上記投影像が、基板中心に対してターゲットと反対側に形成されないようにターゲットおよび基板を配置することが好ましい。すなわち、
図13に示すように、基板1301の中心1302に対してターゲット側にターゲットの投影像1303が形成されるようにターゲットと基板とを配置することが好ましい。このように配置することにより、基板回転による成膜時において、本発明で最もダメージの原因と考えられる上記高エネルギー粒子1003、1005に常に曝される領域を無くすことができる。また、ターゲットの投影像が基板上に形成されないようにすることがさらに好ましい。このように配置することにより、基板の被処理面の全面を上記高エネルギー粒子1003、1005に曝されないようにすることができるので、ダメージを極めて小さくすることができる。
【0075】
このように、上記オフセット回転成膜方式により、高エネルギー粒子の加速の低減を行わなくても、基板へのダメージを低減することができる。すなわち、成膜圧力を8.0Pa未満と比較的低くしても、SrRuO
3へのダメージを低減することができるのである。
【0076】
また、特許文献1に記載された通常の静止対向型のスパッタリング法に匹敵する高い成膜速度が得られた第二の要因としては、上記のような比較的低い圧力を用いることで、異常放電が発生しにくくなり、プロセス時に高い投入電力を利用できるようになったことが挙げられる。すなわち、通常の静止対向型のスパッタリング法では、高品質なSrRuO
3膜を得るために8.0Pa以上の成膜圧力が必要であるが、このような高い圧力でDCマグネトロンスパッタリング法を用いると、異常放電が発生しやすくなる。その抑制のためには、プロセス時の投入電力を低減することが必要となり、高い成膜速度を得ることが困難となる。一方、本発明に係るオフセット回転成膜式のDCマグネトロンスパッタリング法では、1.0Pa以上、8.0Pa未満の比較的低い圧力でも高品質なSrRuO
3膜が得られやすく、且つ、このような比較的低い圧力では異常放電が抑制されやすい。このため、高い投入電力を用いることが可能となり、高い成膜速度が得られていると考えられる。
【0077】
上記のような理由により、静止対向型スパッタリング法に比べて成膜速度の観点で一般的に不利なオフセット回転成膜式のマグネトロンスパッタリング法においても、静止対向型スパッタリング法に匹敵する高い成膜速度が得られるようになったものと考えられる。