(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の樹脂材料からなる第1の部材の表面と、前記第1の樹脂材料と異なる第2の材料からなる第2の部材の表面と、を接合予定領域において接合して、異種材料接合体を製造する異種材料接合方法であって、
前記第1の部材の前記表面及び前記第2の部材の前記表面の少なくとも一方に対して表面活性化処理を施す第1の工程と、
前記第1の工程の後、前記第1の部材の前記表面と前記第2の部材の前記表面とを接触させた状態で、前記接合予定領域に対してレーザ光を照射することにより、前記第1の部材の前記表面と前記第2の部材の前記表面とを前記接合予定領域において接合する第2の工程と、を備え、
前記第2の工程では、前記接合予定領域における前記第1の部材の温度が前記第1の樹脂材料のガラス転移点以上かつ前記第1の樹脂材料の流動開始温度未満の温度に上昇するように、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低い光強度プロファイルを有する前記レーザ光を照射し、
前記表面活性化処理として、前記第1の部材の前記表面及び前記第2の部材の前記表面の少なくとも一方に極性を有する官能基を生成する処理を行うことを特徴とする異種材料接合方法。
前記第2の材料は、前記第1の樹脂材料のガラス転移点以上のガラス転移点、及び前記第1の樹脂材料の流動開始温度以上の流動開始温度を有する第2の樹脂材料であることを特徴とする請求項1記載の異種材料接合方法。
前記第2の工程では、前記接合予定領域が所定のラインを中心線として延在している場合、前記接合予定領域における前記第1の部材の温度が前記ライン上において前記第1の樹脂材料の流動開始温度未満の温度に上昇するように前記レーザ光の出力を調節しつつ、前記レーザ光の照射領域を前記ラインに沿って相対的に移動させることを特徴とする請求項1又は2記載の異種材料接合方法。
前記第1の工程では、前記第1の部材の前記表面及び前記第2の部材の前記表面の少なくとも一方に対して電子線を照射することにより、前記表面活性化処理を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の異種材料接合方法。
前記接合予定領域において、前記レーザ光を照射することにより、前記第1の部材の前記表面と前記第2の部材の前記表面とを分子間力によって接合することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の異種材料接合方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の異種材料接合方法にあっては、レーザ光の照射によって樹脂部材が溶融するため、樹脂部材において表面活性化処理が施された処理面が流れて非処理面が現れてしまい、表面活性化処理の効果が失われるおそれがある。無機部材の表面に対して表面活性化処理を施した場合でも、溶融した樹脂部材に官能基が巻き込まれてしまい、表面活性化処理の効果が失われるおそれがある。このように、樹脂部材の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われると、樹脂部材と無機部材と接合が不十分となる。
【0006】
そこで、本発明は、少なくとも一方が樹脂材料からなる部材同士を確実に接合することができる異種材料接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の異種材料接合方法は、第1の樹脂材料からなる第1の部材の表面と、第1の樹脂材料と異なる第2の材料からなる第2の部材の表面と、を接合予定領域において接合して、異種材料接合体を製造する異種材料接合方法であって、第1の部材の表面及び第2の部材の表面の少なくとも一方に対して表面活性化処理を施す第1の工程と、第1の工程の後、第1の部材の表面と第2の部材の表面とを接触させた状態で、接合予定領域に対してレーザ光を照射することにより、第1の部材の表面と第2の部材の表面とを接合予定領域において接合する第2の工程と、を備え、第2の工程では、接合予定領域における第1の部材の温度が第1の樹脂材料のガラス転移点以上かつ第1の樹脂材料の流動開始温度未満の温度に上昇するように、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低い光強度プロファイルを有するレーザ光を照射することを特徴とする。
【0008】
この異種材料接合方法では、接合予定領域における第1の部材の温度がレーザ光の照射によって第1の樹脂材料のガラス転移点以上かつ第1の樹脂材料の流動開始温度(その樹脂が軟化して流れ出す温度)未満の温度に上昇させられる。第1の部材の温度が第1の材料のガラス転移点以上の温度に上昇させられるので、第1の部材が接合予定領域において選択的に弾性に富んだ状態となり、かつ当該領域において選択的に膨張することになる。このとき、第1の部材の温度が第1の樹脂材料の流動開始温度未満の温度に上昇させられるので、第1の部材の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われることが防止される。従って、レーザ光が照射された際に、第1の部材の表面と第2の部材の表面とが接合予定領域において密着し、その結果、第1の部材の表面と第2の部材の表面とが接合予定領域において分子間力によって接合される。よって、この異種材料接合方法によれば、レーザ光の選択的な照射によって部材間に分子間力を有効に作用させることができ、少なくとも一方が樹脂材料からなる部材同士を確実に接合することが可能となる。また、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低い光強度プロファイルを有するレーザ光を照射するので、接合予定領域の全体に渡って第1の部材と第2の部材との接合状態を均一化することができる。
【0009】
ここで、第2の材料は、第1の樹脂材料のガラス転移点以上のガラス転移点、及び第1の樹脂材料の流動開始温度以上の流動開始温度を有する第2の樹脂材料であることが好ましい。これによれば、少なくとも第1の部材が接合予定領域において選択的に弾性に富んだ状態となり、かつ当該領域において選択的に膨張することになる。しかも、第1の部材及び第2の部材の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われることが防止される。従って、両方が樹脂材料からなる部材同士を確実に接合することができる。
【0010】
また、第2の工程では、接合予定領域が所定のラインを中心線として延在している場合、接合予定領域における第1の部材の温度がライン上において第1の樹脂材料の流動開始温度未満の温度に上昇するようにレーザ光の出力を調節しつつ、レーザ光の照射領域をラインに沿って相対的に移動させることが好ましい。これによれば、接合予定領域の中心線上の領域において第1の部材の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われることが防止される。そのため、接合予定領域の中央部(中心線上の領域)において第1の部材と第2の部材とが接合されずに、接合予定領域の両縁部(中心線両側の領域)において第1の部材と第2の部材とが接合されるという接合状態が生じるのを防止することができる。
【0011】
このとき、第2の工程では、照射領域が環形状となるようにレーザ光を照射することが好ましい。これによれば、接合予定領域の幅方向(所定のラインと直交する方向)において第1の部材の温度が均一化される。従って、接合予定領域の全体に渡って第1の部材と第2の部材との接合状態を均一化することができる。
【0012】
また、第1の工程では、第1の部材の表面及び第2の部材の表面の少なくとも一方に対して電子線を照射することにより、表面活性化処理を施すことが好ましい。これによれば、第1の部材の表面及び第2の部材の表面の少なくとも一方に対する表面活性化処理を容易にかつ確実に実現することができる。
【0013】
また、接合予定領域において、レーザ光を照射することにより、第1の部材の表面と第2の部材の表面とを分子間力によって接合することが好ましい。これによれば、第1の部材と第2の部材とに分子間力を有効に作用させることができ、接着剤を使用せずに、第1の部材と第2の部材とを確実にかつ安定的に接合することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少なくとも一方が樹脂材料からなる部材同士を確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の異種材料接合方法によって製造された異種材料接合体の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態の異種材料接合方法に用いられる集光光学系の構成図である。
【
図3】
図2の集光光学系を通過したレーザ光の集光スポット到達前の光強度プロファイルを示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態の異種材料接合方法を説明するための斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態の異種材料接合方法を説明するための斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態の異種材料接合方法を説明するための平面図である。
【
図7】本発明の一実施形態の異種材料接合方法を説明するための一部断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態の異種材料接合方法を説明するための一部断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態の異種材料接合方法が実施された場合における樹脂部材の温度プロファイルを示すグラフである。
【
図10】本発明の他の実施形態の異種材料接合方法が実施された場合における樹脂部材の温度プロファイルを示すグラフである。
【
図11】比較例としての異種材料接合方法が実施された場合における樹脂部材の温度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の異種材料接合方法によって製造された異種材料接合体の斜視図である。
図1に示されるように、異種材料接合体10は、矩形板状の樹脂部材(第1の部材)11の表面11aと矩形板状の樹脂部材(第2の部材)12の表面12aとが接合予定領域13において接合されたものである。樹脂部材11は、カーボンブラック等のレーザ光吸収材を含むポリブチレンテレフタレート(第1の樹脂材料)からなり、樹脂部材12は、ポリアミド66(第2の材料、第2の樹脂材料)からなる。接合予定領域13は、樹脂部材11,12の外縁に沿って矩形環状に設定されたライン14を中心線として延在している。すなわち、接合予定領域13は、ライン14を中心線としてその両側に均等の幅を有するように矩形環状に設定されている。なお、樹脂部材11,12の形状としては、矩形板状に限定されず、様々な形状を適用することができる。また、接合予定領域13の形状としては、矩形環状に限定されず、様々な形状を適用することができる。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態の異種材料接合方法に用いられる集光光学系の構成図である。
図2に示されるように、集光光学系1は、レーザ光Lの光源LS側から順に、コリメート用レンズ2、集光用レンズ3及び円錐凹状のアキシコンレンズ4が光軸OA上に配置されて構成されている。この集光光学系1をレーザ光Lが通過すると、レーザ光Lの光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、集光スポットFSに対して光源LS側で円環形状となり、集光スポットFSに対して光源LSと反対側で中実円形状となる。
【0019】
図3は、
図2の集光光学系を通過したレーザ光の集光スポット到達前の光強度プロファイルを示すグラフである。
図3に示されるように、レーザ光Lの光強度プロファイルは、集光スポットFS到達前において、ガウシアン分布やトップハット分布のレーザ光の光強度プロファイルとは逆に、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低いものとなっている。なお、
図3の光強度プロファイルは、光軸OA及びレーザ光Lの進行方向と直交する方向にレーザ光Lの光強度を積分した場合である。
【0020】
なお、集光光学系として、上述の集光光学系1において円錐凹状のアキシコンレンズ4を円錐凸状のアキシコンレンズに代えたものを用いてもよい。そのような集光光学系をレーザ光Lが通過すると、レーザ光Lの光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、集光スポットFSに対して光源LS側で中実円形状となり、集光スポットFSに対して光源LSと反対側で円環形状となる。このとき、レーザ光Lの光強度プロファイルは、集光スポットFS到達後において、ガウシアン分布やトップハット分布のレーザ光の光強度プロファイルとは逆に、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低いものとなる。
【0021】
次に、上述した異種材料接合体10を製造する異種材料接合方法について説明する。まず、
図4に示されるように、低速電子線照射装置を用いて、所定の条件(例えば、酸素濃度0〜5000ppm、吸収線量4000kGy)で、樹脂部材11の表面11a及び樹脂部材12の表面12aに対して電子線を照射することにより、樹脂部材11の表面11a及び樹脂部材12の表面12aに対して表面活性化処理を施す。続いて、
図5に示されるように、樹脂部材11の表面11aと樹脂部材12の表面12aとを向かい合わせ、表面11aと表面12aとが接触するように所定の押圧力(例えば30kgf)で樹脂部材11,12の一方を樹脂部材11,12の他方に対して押圧する。
【0022】
続いて、
図6に示されるように、樹脂部材11の表面11aと樹脂部材12の表面12aとを接触させた状態で、樹脂部材12側から接合予定領域13に対してレーザ光Lを照射することにより、樹脂部材11の表面11aと樹脂部材12の表面12aとを接合予定領域13において接合する。ここでは、集光光学系1を用いて、レーザ光Lの照射領域Rが円環形状となるようにレーザ光Lを照射する。そして、照射領域Rの中心をライン14上に位置させた状態で、照射領域Rをライン14に沿って相対的に移動させる。このとき、レーザ光Lは、接合予定領域13における樹脂部材11の温度がポリブチレンテレフタレートのガラス転移点(40℃〜60℃)以上かつポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)(225℃〜230℃)未満の温度(例えば210℃)に上昇するように、所定の条件(例えば、照射領域の相対的な移動速度100mm/sec、レーザ光Lの出力10w)で照射される。
【0023】
このように照射されたレーザ光Lは、
図7に示されるように、樹脂部材12を透過して、樹脂部材11の表面11aに到達し、樹脂部材11の材料であるポリブチレンテレフタレートに混入されているレーザ光吸収材によって光熱変換される。これにより、樹脂部材11の温度は、接合予定領域13においてポリブチレンテレフタレートのガラス転移点以上かつポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)未満の温度(例えば210℃)に上昇する。一方、樹脂部材12の材料であるポリアミド66は、ポリブチレンテレフタレートのガラス転移点と同程度のガラス転移点(49℃)、及びポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)以上の流動開始温度(融点)(267℃)を有しているので、樹脂部材12の温度も、接合予定領域13においてポリアミド66のガラス転移点以上かつポリアミド66の流動開始温度(融点)未満の温度(例えば210℃)に上昇する。
【0024】
樹脂部材11,12の温度がそれぞれの材料のガラス転移点以上とされることで、
図8に示されるように、樹脂部材11,12が接合予定領域13において選択的に弾性に富んだ状態となり、かつ当該領域13において選択的に膨張することになる。このとき、樹脂部材11,12の温度がそれぞれの材料の流動開始温度未満とされるので、樹脂部材11,12の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われることが防止される。従って、レーザ光Lが照射された際に、樹脂部材11の表面11aと樹脂部材12の表面12aとが接合予定領域13において密着し、その結果、樹脂部材11の表面11aと樹脂部材12の表面12aとが接合予定領域13において分子間力により高強度(例えば60kgf以上のせん断強度)で接合される。
【0025】
なお、樹脂の流動開始温度とは、その樹脂が軟化して流れ出す温度をいう(例えば、射出成型時の樹脂温度の下限値に相当する)。樹脂が結晶性樹脂の場合には、その樹脂の流動開始温度は、その樹脂の融点である。樹脂が非結晶性樹脂の場合には、その樹脂の流動開始温度は、その樹脂の各分子鎖の配列が相対的に崩れて非可逆的に移動する温度である(可逆的に相対位置が変化する状態はゴム状態で、この状態の始まりの温度がガラス転移点である)。非結晶性樹脂の具体例は、次のとおりである。ポリカーボネートの場合には、ガラス転移点が145℃〜150℃であり、流動開始温度が200℃程度である。ポリスチレンの場合には、ガラス転移点が110℃であり、流動開始温度が200℃程度である。ポリエーテルサルホンの場合には、ガラス転移点が225℃〜230℃であり、流動開始温度が330℃程度である。なお、レーザ光Lを照射する前に、樹脂部材の温度がガラス転移点を超えている場合(例えば樹脂部材がポリプロピレン(ガラス転移点−20℃)からなる場合)があるが、このような場合にも、レーザ光Lの照射によって樹脂部材の温度を上昇させることで、樹脂部材を選択的に膨張させて、樹脂部材同士を良好に接合することができる。
【0026】
以上説明したように、異種材料接合体10を製造するための異種材料接合方法では、接合予定領域13における樹脂部材11,12の温度がレーザ光Lの照射によって樹脂部材11,12のそれぞれの材料のガラス転移点以上かつ流動開始温度未満の温度に上昇させられる。樹脂部材11,12の温度がそれぞれの材料のガラス転移点以上の温度に上昇させられるので、樹脂部材11,12が接合予定領域13において選択的に弾性に富んだ状態となり、かつ当該領域13において選択的に膨張することになる。このとき、樹脂部材11,12の温度がそれぞれの材料の流動開始温度未満の温度に上昇させられるので、樹脂部材11,12の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われることが防止される。従って、レーザ光Lが照射された際に、樹脂部材11の表面11aと樹脂部材12の表面12aとが接合予定領域13において密着し、その結果、樹脂部材11の表面11aと樹脂部材12の表面12aとが接合予定領域13において分子間力によって接合される。このように、異種材料接合体10を製造するための異種材料接合方法によれば、レーザ光Lの選択的な照射によって樹脂部材11,12間に分子間力を有効に作用させることができ、接着剤を使用せずに、異種の樹脂材料からなる樹脂部材11,12同士を確実にかつ安定的に接合することが可能となる。
【0027】
なお、樹脂部材12は、ポリブチレンテレフタレートのガラス転移点と同等のガラス転移点、及びポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)以上の流動開始温度(融点)を有するポリアミド66からなる。そのため、接合予定領域13における樹脂部材11の温度がポリブチレンテレフタレートのガラス転移点以上かつポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)未満の温度に上昇するようにレーザ光Lを照射する限り、少なくとも樹脂部材11が接合予定領域13において選択的に弾性に富んだ状態となり、かつ当該領域13において選択的に膨張することになる。しかも、上述のようにレーザ光Lを照射する限り、樹脂部材11,12の両方が溶融し流動することがないので、樹脂部材11,12の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われることが防止される。
【0028】
また、ライン14を中心線として延在する接合予定領域13に対してレーザ光Lを照射する際に、円環形状の照射領域Rをライン14に沿って相対的に移動させる。このとき、レーザ光Lの光強度プロファイルは、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低いものとなる。これにより、
図9に示されるように、接合予定領域13の幅方向(ライン14と直交する方向)において樹脂部材11の温度が均一化されることになる。従って、接合予定領域13の全体に渡って樹脂部材11,12同士の接合状態を均一化することができる。
【0029】
また、樹脂部材11の表面11a及び樹脂部材12の表面12aに対して電子線を照射することにより、表面活性化処理を施す。このような電子線処理によれば、極性を有する官能基(水酸基、カルボキシル基、カルボニル基等)を各表面11a,12aに生成することができ、よって、各表面11a,12aに対する表面活性化処理を容易にかつ確実に実現することが可能となる。なお、電子線処理は、ポリプロピレンやポリアセタールの改質も可能であるため、ポリブチレンテレフタレートとポリアミド66との接合の他、ポリプロピレンとポリアミドとの接合や、ポリアセタールとポリカーボネートとの接合等も可能である。
【0030】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0031】
例えば、レーザ光Lの照射領域Rの形状は、円環形状に限定されず、中実円形状等であってもよい。照射領域Rが中実円形状であると、レーザ光Lの光強度プロファイルは、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも高いものとなる(
図3参照)。そのため、中実円形状の照射領域Rをライン14に沿って相対的に移動させると、接合予定領域13における樹脂部材11の温度がライン14上(照射領域Rの中心)においてポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)以上の温度に上昇し易くなる。従って、
図11に示されるように、接合予定領域13の中央部における樹脂部材11の温度がポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)以上の温度に上昇し、接合予定領域13の両縁部における樹脂部材11の温度がポリブチレンテレフタレートのガラス転移点以上かつポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)未満の温度に上昇する場合がある。これにより、接合予定領域13の中央部において、樹脂部材11,12の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われ、その結果、接合予定領域13の中央部において樹脂部材11と樹脂部材12とが接合されずに、接合予定領域13の両縁部において樹脂部材11と樹脂部材12とが接合されるという接合状態が生じる。
【0032】
そこで、接合予定領域13がライン14を中心線として延在している場合において、中実円形状の照射領域Rをライン14に沿って相対的に移動させるときには、接合予定領域13における樹脂部材11の温度がライン14上(照射領域Rの中心)においてポリブチレンテレフタレートの流動開始温度(融点)未満の温度に上昇するようにレーザ光Lの出力を調節する。これによれば、
図10に示されるように、設定し得る接合予定領域13の幅は狭くなるものの、異種の樹脂材料からなる樹脂部材11,12同士を確実に接合することができる。しかも、接合予定領域13の中央部において樹脂部材11の溶融に起因して表面活性化処理の効果が失われることが防止されるので、
図11に示されるような接合状態が生じるのを防止することができる。
【0033】
図10に示されるような接合状態にあっては、接合予定領域13の両側(外側)の部分での樹脂部材11,12の温度変化が小さいので、その温度変化に起因して残留する応力も小さくなる。一方、
図11に示されるような接合状態にあっては、接合予定領域13の中央部での樹脂部材11,12の温度変化が大きいので、その温度変化に起因して残留する応力も大きくなる。従って、
図10に示されるような接合状態は、残留応力が小さい分だけ剥がれ難くなり、
図11に示されるような接合状態は、残留応力が大きい分だけ剥がれ易くなる。
【0034】
また、電子線処理の他、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理等によって、樹脂部材11の表面11a及び樹脂部材12の表面12aの少なくとも一方に対して表面活性化処理を施してもよい。ここで、UVオゾン処理は、樹脂部材11,12を収容した容器にUV光を照射することにより、その容器内にオゾンを発生させ、そのオゾンの酸化力によって、極性を有する官能基(水酸基、カルボキシル基、カルボニル基等)を樹脂部材11,12の表面に生成する処理である。UVオゾン処理は、2重結合を有する材料に対して有効な方法であり、例えば、シクロオレフィンとポリフェニレンサルファイドとの接合が可能である。
【0035】
また、樹脂部材11,12の材料としては、接着剤での接合が困難な材料(例えば、ポリオレフィン、ポリアセタール、フッ素樹脂等)を含め、様々な材料を適用することができる。更に、以上の実施形態は、第1の部材が第1の樹脂材料からなり、第2の部材が第2の樹脂材料からなる場合であったが、第2の部材が樹脂以外の第2の材料(例えば、ガラス、金属、セラミックス、半導体等の無機材料)からなる場合にも、以上の実施形態と同様の効果が奏される。
【0036】
上述した異種材料接合方法においては、異種の樹脂材料同士の組み合わせであっても、樹脂材料と無機材料との組み合わせであっても、お互いの材料表面に極性を有する必要がある。ただし、樹脂材料や無機材料には、材料表面に極性を有するものが存在する。従って、材料表面に極性を有しない材料に表面活性化処理を施せばよい。つまり、第1の部材の表面及び第2の部材の表面の少なくとも一方に対して表面活性化処理を施せばよい。
【0037】
最後に、樹脂材料と表面活性化処理との関係について説明する。ポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレン等、CnH2nからなるポリマーの一般名称)には、表面活性化処理として、電子線処理が有効である。ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等、エステル結合(−CO−O−)を主鎖にもつポリマーの一般名称)には、表面活性化処理として、電子線処理、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理が有効である。ポリアミド(6ナイロンや66ナイロン等、アミド結合(−CO−NH−)を主鎖にもつポリマーの一般名称)には、表面活性化処理として、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理が有効である。電子線処理は、汎用性の高い樹脂材料であるポリエチレンやポリプロピレンに有効であるため、特に好ましい表面活性化処理といえる。