特許第6023871号(P6023871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6023871光合成生物の成長を促進するための量子ドットLED
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023871
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】光合成生物の成長を促進するための量子ドットLED
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20161027BHJP
   C12M 1/16 20060101ALI20161027BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20161027BHJP
   H01L 33/00 20100101ALN20161027BHJP
   A01G 7/00 20060101ALN20161027BHJP
   A01G 31/00 20060101ALN20161027BHJP
   A01G 33/00 20060101ALN20161027BHJP
【FI】
   C12M1/00 D
   C12M1/16
   C12N1/20 A
   !H01L33/00 L
   !A01G7/00 601C
   !A01G31/00 612
   !A01G33/00
【請求項の数】3
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-503957(P2015-503957)
(86)(22)【出願日】2013年4月5日
(65)【公表番号】特表2015-519039(P2015-519039A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】IB2013001622
(87)【国際公開番号】WO2013150388
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2014年12月5日
(31)【優先権主張番号】61/620,678
(32)【優先日】2012年4月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピケット,ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】ナーサニ,イマド
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】グレスティ ナタリー
【審査官】 原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/033177(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/129278(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0281295(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0034679(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0197317(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/132955(WO,A1)
【文献】 特開2010−193824(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/080345(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/036447(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/053341(WO,A1)
【文献】 特開2012−000026(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/058162(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/123626(WO,A1)
【文献】 石川統他編,生物学辞典,小澤美奈子発行,2010年,第1版,270頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 1/00−5/10
A01H 1/00−17/00
A01G 1/00−1/02
1/06−1/12
5/00−7/06
16/00−17/02
17/18
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット(QD)の集団を備える光バイオリアクタであって、
透明な容器と、
前記透明な容器に配置された寒天調製物と、
一次発光要素と、を備えており、
前記量子ドットの集団は、前記一次発光要素で放射された光の一部を吸収して、光合成細菌の光合成色素の吸収スペクトルのピーク中の波長に対応した光を放射するように配置されており、
前記量子ドットの集団は、複数の水溶性ビーズ中に分散されており、前記複数の水溶性ビーズは、前記寒天調製物中に混合されており、
前記寒天調製物は、前記光合成細菌用の成長培地として使用される、光バイオリアクタ。
【請求項2】
各水溶性ビーズは、その表面に配置されたコーティングを備えており、前記コーティングは、前記複数の水溶性ビーズの材料とは異なる材料を含む、請求項1に記載の光バイオリアクタ。
【請求項3】
前記コーディングは、高分子又は金属酸化物から選択された材料を含む、請求項2に記載の光バイオリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照:本願は、2012年4月15日に出願された仮出願第61/620,678号の優先権を主張し、当該出願の全内容は、引用を以て本明細書の一部となる。
【0002】
本発明は、量子ドット発光ダイオードに関する。より詳細には、本発明は、植物、藻類や細菌の成長の用途に有用な量子ドット発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0003】
<発光ダイオード>
発光ダイオード(LEDs)の利用は、日常生活において益々普通になってきている。現在の用途には、一般照明、液晶ディスプレイの背面照明、さらには表示スクリーンが含まれる。従来、発光ダイオードは、例えば、AlGaInP(赤)、GaP(緑)、ZnSe(青)のような、特定の波長で放射する無機半導体から作製されている。固体LED照明のその他の形態には、放射層が、非局在化π電子が材料中を伝導できるような共役有機分子である有機発光ダイオード(OLEDs)と、有機分子が高分子である高分子発光ダイオード(PLEDs)とが含まれる。従来の白熱照明を越える固体照明(SSL)の利点には、優れた寿命と、熱のようなエネルギー損失が少なくことによる低エネルギー消費と、優れた頑健性、耐久性及び信頼性と、速いスィッチング時間とがある。しかしながら、SSLは高価であり、且つ、良質の白色光を生成することが困難である。白色光は、例えば、赤、緑及び青を放射する、波長が異なる3つ以上のLEDを用いて、高効率な白色光を生成することで得られる。しかしながら、この手法は、非常に高価であって、また、純粋な白色光を生成することが困難である。その他の手法では、電磁(EM)スペクトルのUV又は青領域で発光するLEDが蛍光体(phosphor)と組み合わされる。蛍光体は、蛍光性材料であって、吸収した放射がストークスシフトを受ける際に、吸収した波長よりも長い波長で発光する。このような手法の一つは、複数の蛍光体、例えば、SrSi:EuやSrGaS:Euのような赤色蛍光体及び緑色蛍光体と、UV又は青色LEDとの組合せを使用する。或いは、青色LEDと黄色蛍光体とが組み合わされて、より廉価な白色光源がもたらされ得る。しかしながら、これらの材料の色彩調節と演色評価数(colour rendering index)は、LEDと蛍光体の調整可能性が低いために、通常不十分である。
【0004】
量子ドット(QD)LED技術は、従来の固体LEDの制限の幾つかに対する解決策として提案されている。QD、つまり、2乃至50nmの大きさの半導体ナノ粒子は、粒子サイズを制御することで、電磁スペクトルのUVから近赤外領域の波長で放射するように調整され得る。
【0005】
ZnS、ZnSe、CdS、CdSeやCdTeのようなII−VIカルコゲニド半導体ナノ粒子は、広範に調査されている。特に、CdSeは、EMスペクトルの可視域に亘って光ルミネッセンスのチューナビリティ(tuneability)に起因して、広く研究されている。再現可能で、スケーラブルな多数の合成が、従来技術において、「ボトムアップな」アプローチから説明されているが、それらによれば、粒子は、分子からクラスタ、さらには粒子へとアトムバイアトム(atom-by-atom)で合成される。このような手法は、「湿式化学」技術を用いている。
【0006】
Cdは、その毒性のせいで、商業的用途に好ましくなく、故に、適切な代替の量子ドット半導体を見つける試みが調査されている。一つの候補は、III−V半導体InPである。光ルミネッセンスのピーク幅は、Cdベースの量子ドットのピーク幅と同じ程度には狭くないが、InPベースの半導体ナノ粒子は、商業的スケールで合成可能であり、半値全幅(FWHM)が 60nm未満であり、光ルミネッセンス量子収率(PLQY)は、90%よりも大きい。
【0007】
量子ドットのユニークな特性は、それらの大きさから生じる。粒子の大きさが減少するにつれて、内部原子に対する表面積の比が増加する。ナノ粒子の表面積対体積比が大きいことで、表面特性は、材料の特性に強く影響する。更に、ナノ粒子のサイズが小さくなると、電子波動関数は、より小さな体積に益々限定されて、ナノ粒子の特性は、バルク材料と単体の原子の間の中間になる。これは、「量子閉じ込め」として知られた現象である。ナノ粒子のサイズが小さくなると、バンドギャップは大きくなる。ナノ粒子は、バルク半導体で観察されるような連続的なエネルギーバンドではなく、離散的なエネルギー準位を示す。故に、ナノ粒子は、バルク材料よりも高いエネルギーで放射する。クーロン相互作用は、無視できず、これによって、量子ドットは、バルクの対応物よりも大きい運動エネルギーを、それ故に、狭いバンド幅を有しており、粒子サイズが小さくなると、エネルギーのバンドギャップが増加する。
【0008】
単一の半導体材料から作られており、有機層で不動態化されたQDは、「コア」として知られている。コアの量子収率は、比較的低い傾向がある。これは、電子−正孔再結合が、ナノ粒子の表面における欠陥とダングリングボンドで促進されて、無放射放出(non-radiative emission)を導くからである。量子収率を向上させるのに用いられる幾つかの手法がある。第1の手法は、「コア−シェル」ナノ粒子を合成することである。「シェル」層は、バンドギャップがより広い材料で作られており、コアの表面でエピタキシャルに成長させられる。これは、表面の欠陥とダングリングボンドを除去するように働き、無放射放出を妨げる。コアシェル材料の例には、CdSe/ZnSとInP/ZnSがある。第2の手法は、コア−マルチシェル型の「量子ドット−量子井戸」材料を成長させることである。この機構では、バンドギャップが狭い材料の薄い層が、バンドギャップが広いコアの表面に成長させられ、そして、そのバンドギャップが広い材料の最終層が、バンドギャップが狭い材料のシェルの表面に成長させられる。この手法は、全ての光励起状態のキャリアが、バンドギャップがより狭い層に閉じ込められることを確実にするので、PLQYが高くなり、安定性が改善する。例としては、CdS/HgS/CdSやAlAs/GaAs/AlAsがある。第3の手法は、「グレーデッドシェル(graded shell)」QDを成長させることである。組成傾斜合金シェル(compositionally graded alloy shell)が、コアの表面にエピタキシャルに成長させられる。これは、応力による欠陥を除去するように働く。応力は、大抵の場合、コア−シェルナノ粒子におけるコアとシェルの間の格子不整合から生じる。一つの例には、CdSe/Cd1−xZnSe1−yがある。グレーデッドシェルQDのPLQYは、一般的に70乃至80%の範囲である。
【0009】
QD放射は、粒子サイズを操作することで、バルク材料のバンドギャップよりもエネルギーが高くなるように調整できる。吸収及び放射を変化させて、バルク半導体のエネルギーよりもエネルギーを下げる方法は、バンドギャップが広いQDを遷移金属でドープして、「dドット」を形成することを含む。一例として、PradhanとPengは、ZnSeをMnでドープして、光ルミネッセンスを565nmから610nmへと調整できることを説明している [N. Pradhan et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 3339]。
【0010】
QDLEDを製造する初期の試みは、光透過性のLEDカプセル化媒体、例えばシリコーン又はアクリレートに、コロイド状に合成されたQDを埋め込むことを含んでいた。この方法は、固体蛍光体LEDを超える幾つかの利点をもたらす。QDは、単分散であれば、放射を容易に調整でき、吸収特性が強く、低散乱であって、これらの特性は、QDLED装置にも移転できる。しかしながら、実際には、単分散を達成するのは困難である。なぜならば、現在のカプセル化媒体は、QDを凝集させる傾向があり、それらの光学性能を劣化させる。更に、カプセル化媒体を通ってQDの表面へと酸素が移動すると、量子収率が、光酸化によって更に減少する可能性がある。これらの因子は、商業的規模でQDLEDを製造する際に大きな課題となる。
【0011】
QDLEDを作製することで、放射は、EMスペクトルの可視域に亘って調整可能となり、所望の色のQDを製造できる。カプセル化されると、QDLEDチップのPLは、合成されたままのナノ粒子のPLに対して赤方偏移する。赤方偏移の程度は、樹脂中のQDの濃度に依存するが、15乃至30nmの範囲であろう。この偏移は、LED用途のためにQDを合成する際に、考慮される必要がある。CFQDは、QDLEDにおけるカドミウムベースのナノ粒子の代わりとして使用でき、毒性のあるカドミウムが好ましくないことから、商業的用途にとって、より好ましい。CdTe、PbSやPbSeのような赤外(IR)放射ナノ粒子が使用されて、EMスペクトルのIR領域へとLED放射を調整してよい。
【0012】
米国特許公開第2010/0123155号は、「QD−ビーズ」の調製を開示しており、当該公報では、QDが、光透過性媒体を含むマイクロビーズ中にカプセル化される。そして、QD−ビーズが、ホストLEDカプセル化媒体に埋め込まれる。ビーズの直径は、20nmから0.5mmの範囲であってよく、QD−ビーズインクの粘性や、その結果の特性、例えば、インク流れ、乾燥、基体への接着性を制御するのに使用されてよい。QD−ビーズでは、「ベアな(bare)」ビーズと比較して、機械的及び熱処理に対する安定性が高くなり、加えて、水分、空気及び光酸化に対する安定性が向上し、空気中における処理が可能となることで、製造コストが低減されるであろう。ビーズ中にQDをカプセル化することで、それらはまた、ダメージを与える可能性があるカプセル媒体の化学的環境から保護される。マイクロビーズカプセル化はまた、LED中にてベアなQDの光学特性を劣化させる凝集を除去する働きをする。ナノ粒子の表面が大きく分裂又は修正されないので、QDは、マイクロビーズ中にカプセル化されても電気的特性を保持し、QD−ビーズインクの仕様の細かい制御が可能となる。
【0013】
本明細書で説明されているQDLEDの構成は、従来技術のQDLEDの構成の欠点の幾つかを克服するものである。
【0014】
<光合成>
光合成は、植物、藻類や細菌が日光を吸収して自己のエネルギーを生成するプロセスであって、基本的に、緑色色素のクロロフィルによる光吸収に依存している。植物では、吸収は、電磁スペクトルの青端と赤端とにおいて優勢である。青色吸収は、野菜の成長を促進するが、赤色吸収は、開花と発芽を促進する。クロロフィルは、多数の形態で存在しており、最も支配的であるのは、クロロフィルaである(図1)。全ての植物は、光合成のためにクロロフィルaを含んでおり、加えて、補助色素が、クロロフィルaでは吸収されないエネルギーを吸収する。それらには、クロロフィルb(及び、藻類や細菌にあるc、d及びf)と、カロチノイド(キサントフィルやカロチン)とが含まれる。
【0015】
クロロフィルの吸収スペクトルの研究は、それらの分子環境がそれらのスペクトル特性に大きな影響を与えることを明らかにした。溶液濃度、温度、微結晶化、及び、クロロフィルの膜への吸収を含む因子が、吸収スペクトルを変化させると明らかにされている。インサイチュで、クロロフィルは高濃度で、部分的に秩序状態にある [R. Livingston, Q. Rev. Chem. Soc., 1960, 14, 174]。そうであったとしても、クロロフィルの吸収の研究の大半は、希薄溶液中で行われている。
【0016】
メタノール中のクロロフィルaの吸収スペクトルは、図2Aに示されている。クロロフィルaには、約420nmと約660nmにて2つの吸収極大がある。青色又赤色吸収の相対強度は、エーテル中で約3:1である[D. Houssier and K. Sauer, J. Am. Chem. Soc., 1970, 92, 779]。
【0017】
ジメチルエーテル中の吸収スペクトルに示されているように、クロロフィルbには2つの吸収極大がある(図2B)。それは、約460nmで青色を強く吸収し、約435nmに肩があり、約645nmに赤色の吸収極大がある。青色と赤色の相対吸収強度は、溶液に依存するが、ジオキサンとアセトンで、約3:1である[A. Pfarrherr et al., J. Photochem. Photobiol. B: Biol., 1991, 9, 35]。
【0018】
クロロフィルではない補助色素は、クロロフィルで吸収されない光を吸収し、抗酸化剤としても働き得る。例えば、β−カロチンは、青色を広く吸収する(図2C)。ルテインやゼアキサンチンのようなキサントフィルもまた、青色を吸収する。着色した葉を有する植物、例えば、暗い赤紫の葉を有する赤キャベツは、その他の色素をクロロフィルに対して高濃度で含んでいる。高濃度のアントシアニンは、赤又は紫色の葉をもたらし、カロチノイドは黄色の葉をもたらす。アントシアニンは、光合成に直接関与しない。植物の葉の中においてクロロフィルに対してその他の色素の割合が高くなると、光合成の率が低減し、より高い光強度がそれらの成長の助けになるであろう。
【0019】
光合成中に使用される複合体として、タンパク質、色素及び補因子(cofactor)を組み合わせることは、「光合成反応中心」又は光化学系として知られている。このような複合体では、クロロフィルは、その他の色素に拘束されてよく、これによって、その吸収特性が変化し得る。例えば、光化学系Iでは、705nmあたりに長波長の吸収帯があり、それは、クロロフィル二量体に加えて、クロロフィル−フェオフィチン凝集物(フェオフィチンは、Mg2+中心無しで、クロロフィルaの構造を有する)、クロロフィル−ルテイン複合体、クロロフィル−ゼアキサンチン複合体でも観察される[S.S. Brody et al., J. Chem. Soc., Faraday Trans. 2, 1986, 82, 2245]。故に、光合成中の植物の吸収特性は、個々の色素の吸収スペクトルに依存しているだけでなく、葉の中にある色素の複合体生成(complexation)にも依存している。
【0020】
光合成に関与する色素に加えて、その他の色素が植物には存在しており、それらの発育と成長を支える。光刺激に応答して植物が姿勢を調節する屈光性や、季節の夜−昼パターンを植物に知らせる光周性のようなプロセスも、光吸収色素によって制御される。光周性は、フィトクロームとクリプトクロムで調整される。フィトクロームの吸収は、EMスペクトルの赤色と遠赤外領域とで起こる。クリプトクロムは、紫外光を吸収する。
【0021】
藻類も、光合成のためのクロロフィルを含んでいる。緑藻は、クロロフィルaとクロロフィルbを含んでおり、赤藻は、赤、オレンジ、黄及び緑の光を吸収するフィコビリン色素を更に含んでいる。青緑藻とも称される藍藻は、フィコシアニンを用いて、光合成のためにオレンジ−赤色光を吸収する(通常、約620nm)。ある種の細菌は、バクテリオクロロフィルを含んでおり、これは、赤外放射を吸収して、光合成中にエネルギーを生成する。植物における光合成とは異なり、バクテリオクロロフィルを用いた光合成は、酸素を生成しない。
【0022】
<植物成長を刺激する人工照明>
近年、人工照明は、植物の成長において主要な役割を増加させている。植物工場の発明は、穀物や草花を、気候環境が本来、それらの成長に適していない土地において成長させることを可能としている。植物工場は、光、温度、湿気、CO濃度、土壌などの因子を、殺虫剤や殺菌剤を必要とすることなく、植物の成長に必要な条件に合わせることを可能とする。植物工場では、成長が季節に影響されず、季節の作物が、一年中を通じて成長可能となる。収穫量は、変化する天候パターンや予想外の極端な天候状態、例えば、洪水、日照り、強風には影響されない。加えて、工場は、別々の段にて植物を成長可能として、利用可能空間をできるだけ大きくする。これは、従来の農地では不可能であったであろう。自然には成長できないであろう作物を生産できる能力は、潜在的な環境的利点を有する。季節の又は外来の作物が、一年中を通じてその土地で成長可能となって、関連する環境汚染物質やCOの排出と共に、輸出入コストが低減される。さらなる利点としては、人工照明は、植物のクロロフィルと補助色素の吸収スペクトルに光源の放射を選択的に適合させることで、植物成長を最適化するように調整可能である。EMスペクトルの不要な部分は、放射される必要がないことから、プロセスのエネルギー効率が最大になる。
【0023】
人工照明はまた、冬季にて、草の生長を促進するのに使用され得る。例えば、スポーツ産業では、芝の領域は、フットボールのピッチのゴール前のように、試合の間に新たに種をまかれなければならない。北半球では、冬季の間では、照明条件は、試合の間の短い時間間隔で草の成長を促進するには不十分であるかも知れない。故に、草の成長を刺激するのに使用できる運搬可能な人工照明装置が必要とされている。
【0024】
もともとは、スペクトルが広い人工照明光源が、植物工場で使用されていた。スペクトルが広い人工照明は、植物成長(horticultural growth)を促進するには非効率的である。光合成中、電磁スペクトル全体に亘っては吸収が起こらないことから、多くのエネルギーが、スペクトルが広い光を生成するのに消費される。さらに、相当な量のエネルギーが、熱として消費されるので、エネルギーを更に消費し、そして、植物にダメージを与える可能性が生じる。赤色と青色を発光する蛍光灯は、代替物として提案されているが、繰り返し使用されると、フィラメントが損傷して、寿命が短くなる。加えて、それらの水銀励起エレメントは、バルブが壊れると、毒性のある水銀を漏らすことがある。高圧のナトリウムランプも研究されている。これらは、EMスペクトルの青色領域ではなく、赤色領域で強く発光する。LEDは、特定の波長で狭い放射をし、より有利な代替物として提案されている。LEDは、クロロフィルの吸収スペクトルと一致するピーク極大を有する波長で放射するように調整可能であり、赤色LEDに対する青色LEDの比は、クロロフィルによる青色と赤色の光の吸収強度に合うようにバランスさせられる。エネルギー消費が低いにも拘わらず、固体LED照明は、大規模ではなお非常に高価であり、植物工場にSSLを導入する初期投資コストは高い。
【0025】
1980年代後半、1990年代前半になされた、植物成長用途におけるLED照明の使用に関する初期の提案は、主として赤色LED照明に頼っていた。なぜならば、高効率の青色LEDはまだ開発されていなかったからである。米国特許第5,012,609号は、620乃至680nmで放射して、クロロフィルの吸収スペクトルに合致したLEDシステムを開示しており 700乃至760nmで放射するLEDから出力される強度は低いので、植物の光形態形成(光に対する形態の変化)のニーズを満たす。400乃至500nmの領域のLED又はネオン照明も、植物における光形態形成と屈光性の要求を支援するのに提案されている。その他の研究者は、青色蛍光灯と共に約660nmの赤色LED照明を使用して、白色蛍光灯と白熱電球下で成長したレタスと同じ特性を有するレタスを成長させることができることを発見した[R.J. Buia et al., HortScience, 1991, 26, 203]。青色光無しで赤色LED照明を用いると、レタスの成長に異常が起こった[M.E. Hoenecke et al., HortScience, 1992, 27, 427]。
【0026】
高効率な青色固体LED照明の発明以後、植物の成長を最適化するために、照明システムの構造設計と、LEDの配置とについて開発がなされている。
【0027】
Fangらによる米国特許第6,554,450号は、組織培養成長と若い植物の発育とに適合したLED照明配置を記載している。LEDは、取り外し可能であり、LEDの相対的光強度は、調節可能である。装置は、タイマで動作し、それによって、毎日、植物は、16時間照明で照らされて、8時間暗闇に置かれる。
【0028】
米国特許公開第2006/0006820号は、固体LEDを用いた植物用照明システムを開示している。当該固体LEDは、光合成に必要とされる波長で発光するだけでなく、植物で行われるその他の成長を刺激する波長で発光するようにも制御できる。例えば、290乃至320nmと380nmとでの放射は、光に反応した植物の方向性成長(directional growth)と共に、植物の概日リズムを調節するクリプトクロムを刺激できる。705乃至745nmの放射は、フィトクローム刺激に使用される。これは、植物の成長サイクルを調整する。不都合なことに、照明システムは、第3世代の固体LEDを使用しており、これは、かなりの量の熱を放散する。
【0029】
米国特許公開第2010/259190号は、単一の青色LEDを伴った照明器具を開示しており、当該LEDは、複数の波長で放射する蛍光体を用いて調整されている。その装置は、300乃至500nmの領域で放射する固体LEDを複数の蛍光体と共に用いており、これら蛍光体は、350乃至550nmの領域で、さらに、随意選択的に600乃至800nm及び/又は350乃至800nmの領域であって、植物の光合成条件に合うように放射ピーク極大を調整する。照明器具は、ピーク波長の調整をするダイヤルを含んでいる。
【0030】
植物用照明に関する現在の固体LEDの研究は、クロロフィルの吸収極大、つまり、455nmと660nmに近い波長で放射する高品質のLEDを開発することに焦点を当てている。赤色LED、特に、約660nmで放射するLEDの効率は、青色LEDよりも低い傾向がある。オスラムオプトセミコンダクターズ、フィリップス、エバーライト及び昭和電工のようなLED照明市場の先導者は全て、植物工場の基準を満たすLED照明を研究してきた。660nmにおけるLED放射効率を改善することに加えて、LEDの寿命を延ばし、空間利用を最大にする一方で、成長を促進するように照明配置を最適化することに注意が向けられている。
【0031】
米国特許公開第2009/0288340号は、青色LED及び赤色LEDと、これらLEDから熱を導出させる冷却システムとを備えるLED照明システムを説明しており、当該LED照明システムは、ハウジングユニットの外側から熱を放出するファンを含んでおり、光源からの熱が植物の発育に与える好ましくない影響を避けている。成長する植物の要求を満たすために、赤色LEDと青色LEDの放射強度は独立に調整可能であるか、又は白色LEDと置換されてよい。
【0032】
WO2010/066042A1は、赤−緑−青(RGB)LED照明システムを説明しており、当該システムでは、既存のRGBLEDパッケージからの光は、起点である幾何学的な共通点から放射される。これは、LEDが離散して配置されている従来の植物用LED照明を越える利点であるとされている。なぜならば、それは、色のホットスポットと、色特有の影とを解除するからである。
【0033】
米国特許公開第2011/0115385号は、24個の赤色(660nm)LEDと、12個のオレンジ色(612nm)LEDと、2個の青色(470nm)LEDとが環状に配置されている、植物の成長を最適化するシステムを説明している。このシステムは、植物が成長し又は工場内で再配置されると、LEDからの光のビームが方向を変えられるように設計されており、従来技術による従前の発明と比較して、植物の寿命に亘って照明システムの長期の効率を改善する。
【0034】
米国特許公開第2011/0031564号は、OLEDを用いた植物成長装置を説明している。この装置は、「グロウライト」や「コントロールライト」のようなOLEDを伴った、階層的な成長のためのラックを備えている。グロウライトは、10乃至20%と80乃至90%の相対強度で夫々、400乃至500nmと600乃至700nmの範囲にて発光して、植物の光合成の要求を支える一方で、コントロールライトは、成長を誘導するのに使用される。例えば、高強度の青色光は、植物を大きく成長させ、低強度の青色光だと、より小さくコンパクトな植物になる。OLEDは、より簡単に調整できるので、従来のSSLに代わって使用される。
【0035】
WO2011/016521A1は、AlGaInPの通常の放射範囲を超えて660nmで発光するAlGaInPベースのLEDを記載しており、その外部量子収率は、従来の赤色LEDの約3倍であって、青色LEDに匹敵する。
【0036】
植物の成長を促進する市販のLEDシステムは、エバーライト、オスラム及びフィリップスによって開発されている。
【0037】
2010年10月、エバーライトは、特に植物成長を促進するように設計された「GL−Flora」照明器具を送り出した。放射波長とLED比は、一様な光分布をもたらすように設計されており、成長が促進されると共に、発芽と開花が制御される。
【0038】
2010年、オスラムは、植物用LEDについて、2件の商業的協力関係を公表した。第1のプロジェクトは、ダニッシュ植物用LED照明会社フロリダA/S(2010年9月)とのものであり、「Golden Dragon Plus」と「Oslom SSL」とういうLEDを用いている。それらは両方とも、660nmで放射し、収率は、約37乃至40%であり、寿命は、約100,000時間である。「Golden Dragon Plus」システムは、170度のビーム角度を有しており、それは、660nmである赤色放射と449nmである青色放射で、広い領域を照明するリフレクタシステムに有用である。一方、「Oslom SSL」システムの80度のビーム角度は、サラダ用植物の成長に通常使用されるような、複数段が積み重ねられる配置において、LEDが互いに近接してパックされることを可能とする。「Oslom SSL」のLEDは、660nmと452nmとで放射する。2010年11月、オスラムは、フィンランドの温室照明会社トレッドオイによる、植物用LEDへの「TopLED」システムの使用を公表した。このシステムは、カーテン構造を有しており、高圧ナトリウム照明システムと比較して、エネルギー消費を60%低減することが期待されている。
【0039】
2009年、フィリップスは、「GreenPower」LED照明シリーズを送り出した。GreenPowerLEDモジュールは、防水キャリアに入れられた5個のLEDのシステムである。顧客は、青、赤及び遠赤外LEDから選択でき、それらを、植物の成長サイクル中にて変更することで、光強度と色比の要求の変化を満たすことができる。組織培養と植物輸送を含む多段用途について、フィリップスは、GreenPower LEDのストリングを考案した。それによれば、青色LED又は赤色LEDは、可撓性チューブに配列される。組織培養用途の初期試験は、50乃至80%の省エネルギーを示唆した。
【0040】
従来技術で述べられたLED照明システムの多くは、複数色の固体LEDを用いている。色が異なる多数のLEDを購入するコストが高いだけでなく、各色のLEDに必要な回路構成による追加的なコストの増加がある。
【0041】
<藻類及びバクテリアの成長を促進する人工照明>
化石燃料と置き換わる生物燃料の研究では、藻類は、代替燃料源の重要な候補になっている。穀物と比較して、藻類から油と燃料を得る収率は10乃至100倍高く、ボツリオコッカスブラウニー種は、その乾燥重量で86%の炭化水素を生成する。油含有量が高い微小藻類は、質量から燃料への高変換をもたらす。しかしながら、費用効率の高い培養は、困難であろう。より低い密度で炭水化物と脂質を含んでいるが微小藻類は、より廉価で培養される。藻類から油へのエステル交換反応は、バイオディーゼルの生成に使用できるが、メタノールとエタノールが、嫌気性消化と発酵によって夫々生成され得る。伝える所によれば、バイオディーゼルからの放出物は、レギュラーディーゼルよりも約75乃至80%少ない。藻類バイオマスの直接燃焼は、熱と電気を生成するのに使用できる。
【0042】
藻類は、汚水や廃水中で成長できるので、廃水処理に使用できる。藻類を使用して、水から有害物質と栄養素の両方を除去できる。このことは、水の浄化プロセスに便利であろう。
【0043】
藻類は、それらの質量の1.8倍のCOを光合成に必要とするので、工場や発電所のCO排出を低減するのに使用できる。光合成中にCOを捕捉して、Oに変換するのに藻類を用いることは、京都議定書に従ってCO排出を低減する国にとって、新規な方法である。京都議定書では、37の国が、それらの温室ガス排出量を1990年のレベルに対して5.2%低減することを誓約した[Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change, 1998]。
【0044】
藻類は、B−ビタミンやヨウ素のような栄養素と色素とが豊富である。故に、天然顔料として機能性食品用途について、また、有機肥料における利用について、藻類が提案されている。
【0045】
生物分解性プラスチックは、藻類を用いて製造され得る。生物分解性プラスチックは、完全に分解するだけでなく、従来のプラスチックで必要とされる温度よりも処理温度が低いことから、省エネルギーと製造中に放出される温室ガスの低減とをもたらす。米国企業セレプラスト社は、「バレット社」のヘアアクセサリのような商業製品に展開されている藻類生体プラスチックを開発した。インドの会社BNTバイオディグレータブルポリマーズ社は、藍藻を組み込んだ生物分解性プラスチックを生成する方法で特許を得た[US 8,026,301 B2, 2011]。そのプラスチックは、有害残留物を残すことなく、6乃至36ヶ月で分解する。
【0046】
細菌は、発酵、医薬、バイオリミジエーション、繊維の発酵精練、有害生物防除などの多くの産業で使用されている。幾つかの用途では、細菌は、化学的処理に代わる環境に優しい選択肢を提供し得る。これらの用途が光合成細菌を用いている場合、それらの成長を刺激する人工照明は、処理プロセスを加速する利益をもたらすであろう。
【0047】
バイオリミジエーションは、微生物の代謝機能を用いて汚染物質を除去する。ある種の細菌は、炭化水素を摂取できるので、石油流出や重金属で汚染された領域を浄化するのに使用できる。例えば、ロドバクタースフェロイデスは、細菌クロロフィルaとバクテリオフェオフィチンaを色素として含む紅色非硫黄細菌であって、金属汚染物質で汚染された領域における生物的修復用途について研究されている[L. Giotta et al., Chemosphere, 2006, 62, 1490]。その細菌は、MoO2−とCO2+について高い耐性を示し、CrO2−をCr3+に変換することができる。他のバクテリアは、これらを果たすことはできない。ロドバクタースフェロイデスは、約865nmで強い吸収バンドを有している。素早い細菌が使用されて、除染プロセスを支援する場合には、本発明は、汚染物質が流出した直後に、適用されてよい。光合成細菌成長を目的とした人工照明は、浄化プロセスを促進する助けとなり得る。
【0048】
光バイオリアクタは、藻類を成長させるのに、特にバイオ燃料用途において決まって使用される。それらは、オープンポンド(open pond)システムを超える利点を有する。なぜならば、温度や照明のような因子を制御することに加えて、競合種や混入種から保護するからである。研究によって、光強度の増加により、藻類からの油生産量が増加し得ることが分かった。故に、藻類の光合成を促進するように特に設計された照明システムは、光バイオリアクタの構成要素に好都合であろう。従来技術では、藻類と細菌の成長促進に関して、小数の特許出願がなされ、及び/又は特許されている。大半は、光合成成長を促進する構成要素、例えば、水、栄養素、COや光源を備えているインキュベーションシステムに関しているが、光源については、ほとんど焦点が当てられていなかった。
【0049】
米国特許第7,824,904号は、既存の光バイオリアクタとオープンポンドにおける欠点を浮き彫りにしている。それは、光は、チャンバ内にて下方を通ることができないので、表面の近くで成長する藻類にのみに光がアクセスすることである。この特許は、回転及び/又は揺動照明及び混合システムを有しており、タンクの全体に亘って光を分布させる光バイオリアクタを説明している。タンクの外側に配置された光源は、ブレード又は回転混合システムに装着された発光装置と結合しており、タンクの全ての領域に光をもたらす。
【0050】
米国特許公開第2010/0297739は、アルミニウムやステンレス鋼のような光反射材料で構成された装置を説明しており、これは、再生可能エネルギー用途で光合成生物を培養するように設計されたベッセル内の光源と合わせて提案されている。この出願は、光導波路やフレネルレンズのような、自然光を利用するレンズベースのシステムを提案している。
【0051】
米国特許第8,017,377号は、熱交換器と、CO注入設備と、連続照明光源とを有するベッセルを説明しており、脂質生産のために微細藻類の成長を促進する。この特許は、450乃至475nmと530乃至675nmとで放射可能な任意の光源が使用されてよいと述べている。
【発明の概要】
【0052】
本明細書では、量子ドット発光ダイオードを用いた照明システムが開示されている。当該照明システムは、農業及び園芸業において植物の成長を促進して、最適化し、バイオ燃料及び廃水処理を含む用途において、藻類の成長を促進し、また、バイオリミジエーションにおいて光合成細菌の成長を促進する。更に、植物、藻類及び光合成細菌の成長用のQDLEDを製造する方法も開示される。本明細所では、QD材料からLEDを製造する複数の方法が記載されており、それらの各々は、二次光源であるQDベースの1又は複数の構成(architectures)と共に、第1光源である青色又はUV固体LEDを備えている。
【0053】
QDLED照明は、固体LEDに対するより廉価な代替物をもたらし、さらには、一色のLEDチップのみが必要とされるので、一組の電子回路のみしか必要とされない。なぜならば、その他の波長は、光のダウンコンバージョンで得られるからである。QDを用いることで、LEDの発光波長は、容易に調整されて、植物と藻類のクロロフィルと補助色素に加えて、光合成細菌の細菌クロロフィルの吸収スペクトルにも合わせることができる。660nmでの放射は、QDLEDを用いることで、固体LEDよりも容易に達成される。QDの光ルミネセンス(PL)の半値全幅(FWHM)は、光合成生物中のクロロフィル、補助色素及び細菌クロロフィルに合うように調整できる。QDは、EMスペクトルの赤領域における光ルミネセンスの量子収率が高くなるように合成できる。これにより、EMスペクトルの赤領域よりも青領域にて発光強度がより強いという固体LED照明の問題が克服される。QDLEDの寿命は、25000乃至50000時間の範囲であって、白熱電球(一般的な寿命は、500時間)と小型蛍光灯(一般的な寿命は、3000時間)よりも遥かに長い。白熱電球の10乃至18Im/Wと蛍光灯の35乃至60Im/Wと比較して、QDLEDのエネルギー効率は高く、一般的に、30乃至70ルーメン毎ワットである。QDLEDが放出する熱は、植物やその他の光合成生物にダメージを与える可能性があるものの、その他の人工光源と比較して少ない。幾つかの実施例は、藻類と光合成細菌の成長を促進するのに使用されてよい。従来技術で説明されている照明システムと比較して、QDLEDは、より高い光の強度をもたらし、細菌又は藻類の成長の促進により適した波長で発光し、エネルギー消費を少なくする。加えて、QDLEDからの放熱が小さいので、光バイオリアクタ内におけるインキュベーション温度に影響を与えない。量子ドットLEDを用いることで、赤外放射量子ドットを使用して、細菌成長用途に適した赤外放射LEDを製造できる。バイオリミジエーション用途では、重金属の毒性に耐性にある細菌が特に選択されるが、赤外発光QDに重金属が少量用いられるという好ましくない点(LED装置にカプセル化されると、露出して汚染するリスクは極めて小さいであろう)は、汚染サイトから重金属が露わにされるリスクがより大きいことから無視できる。
【0054】
開示されたシステムは、色が異なるLEDを用いたシステムを超えた幾つかの利点を有している。開示されたシステムでは、放出された光の全ての色は、一つの場所を起源としており、色のホットスポットが回避される。放射を調節するQDを伴った単一の固体LED光源はまた、複数色の固体LEDの構成で増加する回路構成に関したコストを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は、クロロフィルaの分子構造を示す。
【0056】
図2図2は、メタノール中のクロロフィルa(A)、ジエチルエーテル中のクロロフィルb(B)、及び、ヘキサン中のβ−カロチン(C)の紫外−可視波長域の吸収スペクトルである。全てのデータは、photochemCADデータベースから取った[H. Du et al., Photochem. & Photobiol., 1998, 68, 141]。吸収スペクトルが溶液に依存していることに留意。
【0057】
図3図3は、QELEDの模式図であって、赤色QDと青色QDがビーズ中に埋め込まれており、UVLED第一光源で照らされている。
【0058】
図4図4は、QELEDの模式図であって、赤色QDと青色QDが別々のビーズ中に埋め込まれており、UVLED第一光源で照らされている。
【0059】
図5図5は、QELEDチップの構造の説明図である。樹脂中のQDは、LEDケースに入れられて、UV又は青色固体LEDで下側から照らされる。
【0060】
図6図6は、リモート蛍光体構造を示す模式図である。図示した例では、青色固体LEDが、下側から赤いQD蛍光体を照らしており、赤い光と青い光の両方が放射されている。
【0061】
図7図7は、QD蛍光体シートの調製を示す。(A)QDインクが、PET基板のスペーサ間の領域にドロップキャスト(drop cast)される。(B)QDインクは、スライドガラスを用いてスペーサ間で一様に分布させられる。
【0062】
図8図8は、蛍光体シートの側方に配置された固体LED(図示された例では、UV光を発光している)でQD蛍光体を照らす構成を示す図である。例では、LEDからのUV光がQD蛍光体を通り、QD蛍光体からのダウンコンバートされた青色光と赤色光が、下にある植物に向けて放射される。
【0063】
図9図9は、赤外発光QDビーズを埋め込まれた(光合成細菌を成長される培地である)寒天(agar)で満たされたペトリ皿を示す説明図である。ペトリ皿は、UV又は青色固体LEDで照らされている。
【0064】
図10図10は、一次光源である青色固体LED(22mW)と、二次光源として、10nmolの溶液当たり20QDの濃度である赤色量子ドット(lnP/ZnS)シリコーン樹脂(648nmで発光し、FWHMは59nm)とを備えるリモート蛍光体QDLEDの放射スペクトル(A)を示すプロットであり、クロロフィルaの吸収スペクトル(B)と、クロロフィルbの吸収スペクトル(C)と、クロロフィルaとbが組み合わされたスペクトル(D)とが併せて示されている。プロットは、QD−蛍光体LEDの放射極大と、相対ピーク強度とが、クロロフィルa及びbの吸収スペクトルに良く合っていることを示している。
【0065】
図11図11は、一次光源である青色固体LEDと、二次光源である赤色量子ドット(CdSe/CdS/CdZnS/ZnS)シリコーン樹脂(625nmで発光し、FWHMは35nm)とを備えるリモート蛍光体QDLEDの放射スペクトル(A)を示すプロットであり、クロロフィルbの吸収スペクトル(B)が併せて示されている。プロットは、QD−蛍光体LEDの放射極大が、クロロフィルbの吸収スペクトルに良く合っていることを示している。
【0066】
図12図12は、アーチ形(又はかご形)の照明配置を示す図であって、当該照明配置では、青色LEDと赤色LEDが、様々な方向から植物を照らして、直物の一様な成長を促進する。
【0067】
図13図13は、藻類を成長させる光バイオリアクタの図である。指状の突出部を有するように形作られた赤色QD蛍光体シートが光バイオリアクタ内に浸漬されて、青色LEDで上側(及び/又は下側)から照らされることで、リアクタ全全体に青色光と赤色光が放射されている。
【0068】
図18図18は、赤色QD蛍光体をカプセル化する透明材料で作られた光バイオリアクタの図である。光バイオリアクタは、外部の青色固体LEDで照らされて、赤色光と青色光の両方がリアクタ内へと放射される。
【0069】
図19図19は、棒で支持された植物の写真である。QDが埋め込まれた透明な棒が使用されて、ある種の植物の成長を支援、刺激してよい。
【0070】
図20図20は、透明材料で作られた棚ユニットの写真である。QD蛍光体コーティングされた透明な棚材料が、又は、(米国特許公開第2009/0246900A1「Shaped Articles Comprising Semiconductor Nanocrystals and Methods of Making and Using Same」に説明されているようにして)QD材料を射出成形した棚が使用されて、ある種の植物の成長を刺激してよい。
【発明を実施するための形態】
【0071】
青色又はUV固体LEDを用いて光合成生物の成長を促進するのに最適にされたLEDを製造する方法が開示されており、当該LEDは、赤色(及び/又は、必要に応じてその他の色)の量子ドットを用いて放射が調整されており、光合成を高めるのに適切な波長と相対強度を有する光を放射する。QELEDは、電磁スペクトルの青色からUV領域まで発光して、光合成生物の中にあるクロロフィルとその他の色素の吸収特性に合うように作られて、光合成生物の成長を促進し、支援する。
【0072】
従来技術の植物工場用照明は、白熱灯、蛍光灯又は固体LED照明を使用しているが、特許が付与されているバイオリアクタは、光源にほとんど関心を当てていない。従来技術の固体LEDを製造するコストは、相対的に高い。QDLEDは廉価な代替物となる。なぜならば、明るく、安定な放射を生じるのに要求される半導体材料の量が、非常に少ないからである。QDLEDの寿命は、25000乃至50000時間の範囲であって、白熱電球(一般的な寿命は、500時間)と小型蛍光灯(一般的な寿命は、3000時間)よりも遥かに長い。更に、白熱電球の10乃至18Im/Wと蛍光灯の35乃至60Im/Wと比較して、QDLEDのエネルギー効率は高く、一般的に、30乃至70ルーメン毎ワットである。故に、植物工場又はバイオリアクタにQDLED照明を導入する初期費用は、白熱電球又は蛍光灯を用いる場合よりも高いかも知れないが、寿命と効率が優れていることは、QDLEDを長期の投資に好ましくする。
【0073】
660nmにおける安定で極めて強い放射は、クロロフィルaの赤色吸収極大に対応しているが、固体LEDで達成することは難しい。固体LEDでは、放射は、半導体材料のバンドギャップで決定される。660nmで放射する固体材料は、概して、AlGalnPベースの半導体材料に限定されている。QDLEDを用いることで、660nmでの放射を、遥かに簡単に達成することができる。なぜならば、放射波長は、ナノ粒子のサイズを変化させることで調整できるからである。故に、赤色放射が、CdSe/ZnS及びInP/ZnSコア−シェルナノ粒子を含む様々な材料を用いて得られる。
【0074】
QDの波長調整が容易であることから、QDLEDは、容易に変更されて、植物種、藻類や細菌を含む多様な光合成生物に適合され得る。QDの合成を簡単に変更することで、固有の半導体材料又は合成に使用される反応物を変化させる必要なく、PL放射を変化させることができる。波長調整は、QDLEDを用いることで、固体LEDの場合よりも遥かに容易になる。故に、QD材料の所望の組合せを所定の範囲から選択して、QDLED装置に組み込むことで、特注のQELEDシステムが容易に作られる。
【0075】
狭い放射のFWHM(40nm未満)は、カドミウムベースのQDを用いることでより容易に得られるが、FWHMが60nm未満であるコア−シェルCFQD材料が合成されてよい。さらに、QD材料のFWHMを調整して、様々な光合成色素の吸収スペクトルに合わせることが可能である。例えば、クロロフィルbの吸収スペクトルは、クロロフィルaの吸収スペクトルよりも狭いピーク幅を示す。QDを用いることで、クロロフィルa及びbの吸収極大で放射するだけでなく、似たようなFWHMと相対強度とを有するLEDを製造することができる。 CdTe、PbS及びPbSeのような赤外発光QDが用いられて、細菌クロロフィルの吸収スペクトルに合った放射特性を有するような、赤外で放射するQDLEDが製造されてよい。
【0076】
従来技術の照明システムの欠点の一つは、熱として放出するエネルギーの量である。高出力の固体LEDも、QDLEDと比較して、比較的大きな量の熱を放出する。故に、植物の成長に温度制御が重要であるような植物工場の状況では、熱放出が小さいQDLEDは理想的である。QDLED照明を用いることで、従来技術のように照明装置を冷却するシステムは必要とされない。これにより、照明装置が簡単になって、コストが低く抑えられる。
【0077】
単一の幾何学的位置から複数の波長の光が放射することは、各波長が別々の位置から放射されることよりも好ましい。なぜならば、これによって、成長を不均一にさせるであろうホットスポットと色固有の影とが排除されるからである。本明細書で説明されているシステムの利点は、複数の波長の光が、単一の固体LED源を用いて単一の方向から放射されることである。QDを用いて放射を調整することは、高価であろう複数の固体LEDを使う必要性を排除する。更に、本発明では、各色のLEDについて個別の回路構成が必要とされる複数の固体LEDを用いる照明配置よりも、必要な回路構成が少なくてすむ。このことは、回路構成に関するコストが低減されるだけでなく、例えば、スポーツ用のピッチに追いまきする草の成長を刺激したり、使用できる運搬可能な装置や、家庭用の成長用ライトにとって、特に有利である。
【0078】
本明細書に記載のQDLED装置は、小さなLEDチップからQD蛍光体シートまでの、様々な形状と大きさで生産され得る。QD蛍光体シートは、様々な形状と大きさで製造可能であって、可撓性の基体に印刷されてよい。このようにして、QDLED装置は、広範な用途に使用できる。
【0079】
本発明で使用されるQDは、コア−シェル半導体ナノ粒子から作られるのが好ましい。例えば、コアの物質は、以下から作られてよい:
【0080】
II−VI化合物であって、周期表の12族(II)の第1元素と、周期表の16族(VI)の第2元素とを含んでおり、また、三元材料と四元材料であってよい。当該化合物には、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、HgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、及び、HgZnSeTeが含まれるが、これらに限定されない。
【0081】
II−V化合物であって、周期表の12族の第1元素と、周期表の15族の第2元素とを組み込んでおり、また、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、Zn、ZnAs、Cd、CdAs、Cd、Znが含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
III−V化合物であって、周期表の13族(III)の第1元素と、周期表の15族(V)の第2元素とを含んでおり、さらには、三元材料や四元材料であってよい。ナノ粒子コア材料の例には、BP、AlP、AlAs、AlSb,GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlN、BN、GaNP、GaNAs、InNP、InNAs、GAlnPAs、GaAlPAs、GaAlPSb、GalnNSb、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSbが含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
III−VI化合物であって、周期表の13族の第1元素と、周期表の16族の第2元素とを含んでおり、さらには、三元材料や四元材料であってよい。ナノ粒子材料には、 Al、AlSe、AlTe、Ga、GaSe、In、InSe、GaTe、InTeが含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
IV化合物であって、Si、Ge、SiC、SiGeなどの14族(IV)の元素を含んでいる。
【0085】
III−V化合物であって、周期表の14族(IV)の第1元素と、周期表の16族(VI)の第2元素とを含んでおりさらには、三元材料や四元材料であってよい。当該化合物には、PbS、PbSe、PbTe、SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbSe、SnPbTe、SnPbSeTe、SnPbSTeが含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
ナノ粒子コア上で成長するシェル層は、以下の物質の1又は複数を含んでよい:
【0087】
IIA−VIB(2−16)族材料であって、周期表の2族の第1元素と、周期表の16族の第2元素とを含んでおり、また、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTeが含まれるが、これらに限定されない。
【0088】
IIB−VIB(12−16)族材料であって、周期表の12族の第1元素と、周期表の16族の第2元素とを含んでおり、また、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTeが含まれるが、これらに限定されない。
【0089】
II−V族材料であって、周期表の12族の第1元素と、周期表の15族の第2元素とを含んでおり、また、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、Zn、ZnAs、Cd、CdAs、Cd、Znが含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
III−V族材料であって、周期表の13族の第1元素と、周期表の15族の第2元素とを含んでおり、また、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、BP、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlN、BNが含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
III−IV族材料であって、周期表の13族の第1元素と、周期表の14族の第2元素とを含んでおり、また、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、BC、AI、GaCが含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
III−VI族材料であって、周期表の13族の第1元素と、周期表の16族の第2元素とを含んでおり、また、三元材料や四元材料であってよい。ナノ粒子材料には、Al、AlSe、AlTe、Ga、GaSe、In、InSe、GaTe、InTeが含まれるが、これらに限定されない。
【0093】
IV−VI族材料であって、周期表の14族の第1元素と、周期表の16族の第2元素とを含んでおり、また、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、PbS、PbSe、PbTe、SbTe、SnS、SnSe、SnTeが含まれるが、これらに限定されない。
【0094】
周期表のd−ブロックの任意の族の第1元素と、周期表の16族の第2元素とを含んでいるナノ粒子材料であって、三元材料、四元材料やドープされた材料であってよい。ナノ粒子材料には、NiS、CrS、CuInS、CuInSe2、CuGaS、CuGaSeが含まれるが、これらに限定されない。
【0095】
コア、コア−シェル又はコア−マルチシェルであって、ドープされた又は傾斜した(graded)ナノ粒子の表面上の原子の周囲の配位は不完全であって、不十分に配位した原子は、それらを非常に反応的にするダングリングボンドを有しており、粒子の凝集に繋がる可能性がある。この問題は、保護有機基で、「ベアな」表面原子を不動態化する(キャッピングする)ことで克服される。
【0096】
有機材料又はシース材料の最外層(キャッピング剤)は、粒子間凝集を抑制することを助け、更に、周囲の電気的環境や化学的環境からナノ粒子を保護する。大抵の場合、キャッピング剤は、ナノ粒子の調製が行われる溶媒であって、ルイス塩基化合物から、又は、炭化水素のような不活性溶媒で希釈されたルイス塩基化合物から成っている。ルイス塩基キャッピング剤には孤立電子対が存在しており、ナノ粒子の表面にドナー配位(donor type coordination)できる。ルイス塩基キャッピング剤には、ホスフィン(トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、t−ブチルホスフィン等)、ホスフィンオキシド(トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等)、アルキルホスホン酸、アルキルアミン(オクタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクチルアミン等)、アリールアミン、ピリジン、長鎖脂肪酸(ミリスチン酸、オレイン酸、ウンデシレン酸等)、及びチオフェン等の単座配位子又は多座配位子が挙げられるが、これらに限らない。
【0097】
QDの最外層(キャッピング剤)はまた、更なる官能基を有する、配位した配位子を含んでよい。当該官能基は、その他の無機、有機又は生体物質との化学結合として使用されてよい。これによって、官能基は、QD表面から離れるように向いて、その他の利用可能な分子と結合/反応/相互作用するのに利用できる。当該利用可能な分子には、アミン、アルコール、カルボン酸、エステル、酸塩化物、無水物、エーテル、ハロゲン化アルキル、アミド、アルケン、アルカン、アルキン、アレン、アミノ酸、アジド基等があるが、当業者には分かるように、これらの機能性分子に限られない。QDの最外層(キャッピング剤)はまた、重合可能な官能基を伴った、配位した配位子を含んでよく、当該官能基は、粒子の周囲に高分子層を形成するのに使用されてよい。
【0098】
最外層(キャッピング剤)はまた、有機ユニットを含んでよく、例えば、当該有機ユニットは、無機表面(ZnS)とチオールキャッピング分子の間にあるS−Sボンドを介して、最外の無機層に直接結合する。これらはまた、粒子の表面に結合しない、更なる官能基を有していてよく、当該官能基は、粒子の周囲に高分子を形成するのに、又は、更なる反応/相互作用/化学結合のために用いられてよい。
【0099】
本明細書に記載のLEDは、「ベアな」QDがLEDカプセル化剤に直接埋め込まれており、より好ましくは、LEDカプセル化剤に埋め込まれる前にマイクロビーズに組み込まれてよい。QDマイクロビーズは、ベアなQDよりも、優れた頑健性と長い寿命とを示し、LED製造の機械的処理プロトコルと熱処理プロトコルに対してより安定である。用語「ビーズ」及び「マイクロビーズ」は、本明細書にて、区別なく使用される。高分子ビーズが本明細書で論じられているが、ビーズは、2009年11月19日に出願された共同特許出願である第12/622,012号(米国特許公開第2010/0123155)にて説明されているように、ゾルゲル、シリカやガラスのような別の材料で作られてよい。当該出願の内容は、引用を以て本願明細書の一部となる。
【0100】
高分子マイクロビーズにQD材料を組み込むことで、ナノ粒子は、大気、水分及び光酸化に対してより耐えられるようになって、製造コストを大幅に低減するであろう大気中での処理の可能性を開く。ビーズのサイズは、20nm乃至0.5mmで調整されてよく、これにより、QDの固有の光学特性を変化させることなく、インクの粘性を制御することが可能となる。粘性は、どのように、QDビーズインクがメッシュを通って流れ、乾燥し、基体に接着するかを決定するが、粘性を変化させるのに希釈剤は必要とされず、インク調整のコストが低減される。マイクロビーズにQD材料を組み込むことで、ベアなカプセル化されたQDの光学性能に与える粒子の凝集の有害な効果は排除される。QDビーズは、色混合の効果的な手段をもたらす。
【0101】
図3は、ビーズ302中にて混合された赤色QDと青色QDの混合物301を用いて作られたLED装置300を示す。図4は、代替的な実施例であるLED装置400を示しており、赤色QD401がビーズ402中に含まれており、青色QD403が、ビーズ404中に含まれている。
【0102】
マイクロビーズにQDを組み込むこのような方法の一つは、QDの周囲に高分子ビーズを成長させる工程を含んでいる。第2の方法は、既存のマイクロビーズにQDを組み込む。
【0103】
第1の選択肢においては、例えば、ヘキサデシルアミンがキャッピングされたCdSe系半導体ナノ粒子は、少なくとも1つ、より好ましくは2以上の重合可能な配位子(随意選択的に、1種の配位子は過剰にされる)で処理されてよく、その結果、ヘキサデシルアミンキャッピング層の少なくとも一部が、重合可能な配位子で置き換えられる。重合可能な配位子によるキャッピング層の置換えは、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)と似た構成を有する重合可能な1又は複数の配位子を選択することで達成されてよい。トリオクチルホスフィンオキシドは、CdSe系ナノ粒子について、周知である非常に高い親和性を有している。この基本的な方法論は、その他のナノ粒子/配位子の対に適用されて、同様な効果が得られることは理解できるであろう。即ち、ナノ粒子の任意の特定のタイプ(材料及び/又はサイズ)について、適切な1又は複数種の重合可能な表面結合配位子を選択することができる。これは、公知の表面結合配位子に対して何らかの点で似ている(例えば、類似した物理的及び/又は化学的構造を有する)構造的なモチーフを備える重合可能な配位子を選択することでなされる。このようにして、ナノ粒子の表面が修飾された後、ナノ粒子が、マイクロスケールでの多数の重合反応のモノマー成分に加えられて、QDを含む様々な樹脂やビーズが形成されてよい。もう一つの選択肢は、1又は複数の重合可能モノマーを重合させて、それによって、光透過性媒体を、その光透過性媒体に組み込まれる半導体ナノ粒子の少なくとも一部の存在下で形成することである。その結果得られる材料は、共有的に(covalently)QDを組み込んでおり、ソックスレー抽出の非常に長い期間の後でさえも、高度に着色されている。
【0104】
QD含有ビーズを作製するのに使用できる重合方法の例には、懸濁、分散、エマルジョン、リビング(living)、アニオン、カチオン、RAFT、ATRP、バルク、閉環メタセシス及び開環メタセシスが含まれるが、これらに限定されない。重合反応の開始は、モノマーを互いに反応させる適切な任意の方法で引き起こされてよく、例えば、フリーラジカル、光、超音波、カチオン、アニオン又は熱を用いて引き起こされてよい。好ましい方法は、懸濁重合であって、1又は複数の重合可能モノマーを加熱硬化させて、光透過性媒体を形成することを含んでいる。重合可能モノマーは、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート及び酢酸ビニルを含んでいるのが好ましい。このようなモノマーの組合せは、商業的に入手可能な既存のLEDカプセル化剤に対して優れた適合性を示すことが分かっており、基本的に従来技術の手法を用いて調製された装置と比較して、極めて改善された性能を示す発光装置を製造するのに使用されている。その他の好ましい重合可能ポリマーは、エポキシ又はポリエポキシドモノマーであって、紫外線放射による硬化のような適切な機構を用いて重合化される。
【0105】
QD含有マイクロビーズは、高分子マトリックス中にQDの集まりを分散させ、高分子を硬化し、その後、その結果として硬化した材料を細砕することで作られてよい。これは、大抵の一般的なエポキシ又はポリエポキシドポリマーのような(例えば、米国のエレクトロニクスマテリアルズ社のOptocast(登録商標)3553)、硬化後に比較的硬くて壊れやすい高分子に用いるのに特に適している。
【0106】
QD含有ビーズは、単に、ビーズを構成するのに使用される試薬の混合物にQDを加えることで生成されてよい。場合によっては、形成途中のQDが、それらの合成に用いられる反応から分離されて使用され、故に、不活性な外側有機配位子層で概ね覆われている。代替的な手順では、配位子交換プロセスが、ビーズ形成反応の前に実行されてよい。ここで、化学反応性の高い1又は複数の配位子(例えば、重合性部分も含むQD用配位子)が、不活性な外側有機層で覆われている、形成途中のQDの溶液に過剰に加えられる。適切なインキュベーション時間の後、QDは、例えば、沈殿とその後の遠心分離によって分離され、洗浄された後に、ビーズ形成反応/プロセスに使用される試薬の混合物に組み込まれる。
【0107】
両方のQD組込戦略によって、QDは、統計的にランダムにビーズに組み込まれ、故に、重合反応によって、統計的に近い量のQDを含むビーズが得られる。ビーズのサイズは、ビーズを構成するのに用いる重合反応を選択することで制御でき、更に、重合方法が選択されると、適切な反応条件を選択することでも、ビーズのサイズが制御できることは、当業者には明らかであろう。例えば、懸濁重合反応中により急速に撹拌することで、より小さいビーズが生成される。さらに、ビーズの形状は、反応が、モールド中で行われるか否かと併せて手順を選択することで、容易に制御され得る。ビーズの組成は、ビーズを構成するためのモノマー混合物の組成を変えることで変化する。同様に、ビーズはまた、1又は複数の架橋剤(例えば、ジビニルベンゼン)の量を変化させて架橋されてよい。ビーズが高架橋度で作製される場合には(例えば、5mol%の架橋剤よりも多い)、ビーズ形成反応中にポロゲン(porogen)(例えば、トルエン又はシクロヘキサン)を混ぜるのが望ましいであろう。このようにしてポロゲンを使用することで、各々のビーズを構成するマトリックス中に細孔が永続的に残される。これらの細孔は、QDがビーズに進入できるほど十分に大きくてもよい。
【0108】
QDはまた、逆エマルジョン(reverse emulsion)を基礎とする技術を用いて、ビーズに組み込まれてよい。QDは、光透過性のコーティング材料の前駆体と混合させられて、例えば、有機溶媒や適切な塩類を含む安定な逆エマルジョンに入れられてよい。撹拌後、前駆体は、QDを取り囲むマイクロビーズを形成し、当該マイクロビーズは、遠心分離のような適切な方法を用いて収集されてよい。所望により、同じ又は異なる光透過性材料の1又は複数の更なる表面層又はシェルが、QD含有ビーズを分離する前に、必要なシェル層前駆体材料を更に追加することで加えられてよい。
【0109】
QDをビーズに組み込む第2の選択肢では、QDは、物理的なエントラップメント(entrapment)により、高分子ビーズに固定化されてよい。例えば、適切な溶媒(例えば、有機溶媒)のQD溶液が、高分子ビーズのサンプルと共にインキュベートされてよい。適切な方法を用いて溶媒を除去すると、高分子ビーズのマトリックス中にQDが固定化される。QDが自由に溶解する溶媒(例えば、有機溶媒)中にサンプルが再懸濁されるまで、QDは、ビーズ中に固定化されたままとなる。随意選択的に、この段階で、ビーズの外側がシールされてよい。或いは、QDの少なくとも一部が、予め作製した高分子ビーズに付着されてよい。この付着は、予め作製した高分子ビーズの高分子マトリックス中に半導体ナノ粒子の一部を固定することで、又は、半導体ナノ粒子の一部と予め作製した高分子ビーズとの間を化学的に、共有結合で、イオンで、若しくは物理的に結合することで達成されてよい。予め作製した高分子ビーズの例には、ポリスチレン、ポリビニルベンゼン及びポリチオールがある。
【0110】
QDは、化学的、共有結合、イオン、物理的(例えば、エントラップメントによる)、又はその他の任意の形態の相互作用のような様々な方法で、予め作製したビーズに不可逆的に組み込まれてよい。予め作製したビーズが、QDを組み込むために用いられる場合、溶媒が接触するビーズ表面は、化学的に不活性であってよく(例えば、ポリスチレン)、或いは、化学的に反応的な又は官能化されていてよい(例えば、メリフィールド樹脂)。化学的官能性は、例えば、化学的に官能化されたモノマーを組み込むことで、ビーズの作製中に導入されてよく、或いは、 例えば、クロロメチル化反応を起こすことで、ビーズ作製の後処理にて導入されてよい。更に、化学的官能性は、重合グラフト(polymeric graft)又は他の類似の処理を含むポスト−ビーズ構成工程で導入されてよく、これによって、化学反応性ポリマーが、ビーズの外層/アクセス可能な表面に付着する。2以上のこのようなポスト−構成誘導処理(post-construction derivation process)が実行されて、ビーズ上/中に化学的官能性が導入されてよい。
【0111】
ビーズ形成反応中にビーズにQDを組み込むことと、即ち、上記の第1の選択肢と同様に、予め作製したビーズは、任意の形状、サイズ及び組成を有してよく、その架橋度は任意であってよく、ポロゲン中で構成される場合には、ビーズは、永続的な細孔を有してよい。QDは、有機溶媒のQD溶液をインキュベートしてこの溶媒をビーズに加えることで、ビーズに吸収されてよい。溶媒は、ビーズを湿らすことが可能である必要があり、低架橋度のビーズの場合、好ましくは0乃至1%で、より好ましくは0乃至2%で架橋され、溶液は、QDを溶媒和することに加えて、高分子マトリックスを膨張させることが望ましい。ビーズと共にインキュベートされると、QD含有溶媒は、例えば、その混合物を加熱し、溶媒を蒸発させることで除去されて、QDは、ビーズを構成する高分子マトリックスに埋め込まれる。或いは、QDが容易に溶解しないが、第1溶媒と混合するような第2溶媒を加えることで、QDは、ビーズを構成する高分子マトリックス中に沈殿する(precipitate)。ビーズが化学的に反応し易くない場合、固定化は可逆的であってよく、ビーズが化学的に反応し易い場合、QDは、化学的、共有結合、イオン、物理的、又はその他の形態の相互作用によって、高分子マトリックス中に永続的に保持されてよい。
【0112】
ゾルゲルやガラスであって、QDを組み込むことを意図とした光透過性媒体は、上述したようにして、ビーズ形成プロセス中にビーズにQDを組み込むのに使用した方法に似たやり方で形成されてよい。例えば、1種類のQD(例えば、1色)が、ゾルゲル又はガラスを生成するのに使用される反応混合物に加えられてよい。或いは、2又は3種類以上のQD(例えば、2又は3以上の色)が、ゾルゲル又はガラスを生成するのに使用される反応混合物に加えられてよい。これらの手法で生成されるゾルゲルとガラスは、任意の形状、形態又は3次元構造を有してよい。例えば、粒子は、球形、円盤状、棒状、卵形、立方形、矩形、又は、その他の可能な多数の構成のうちの一つであってよい。
【0113】
安定性向上添加剤(stability-enhancing additive)として機能する材料の存在下で、ビーズにQDを組み込むことで、さらに、随意選択的に、保護表面コーティングをビーズに与えることで、水分、酸素及び/又はフリーラジカルのような有害種の移動が排除又は少なくとも低減されて、その結果、半導体ナノ粒子の物理的、化学的、及び/又は、光学安定性が高められる。
【0114】
ビーズの生成プロセスの最初の段階において、添加剤が、「ベアな」半導体ナノ粒子及び前駆体と結合してよい。代替的又は追加的に、半導体ナノ粒子がビーズ中に閉じ込められた後に、添加剤が加えられてよい。
【0115】
添加剤は、単独で又は望ましい組合せとして、ビーズ形成プロセス中に加えられてよく、それらの目的とする機能に基づいて、以下のようにグループ化される:
【0116】
機械的封止:ヒュームドシリカ(例えば、Cab−O−Sil(登録商標))、ZnO、TiO、ZrO、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛。これらの全ては、フィルタとして使用されて、機械的封止をもたらし、及び/又は、有孔性を低減する。
【0117】
キャッピング剤:テトラデシルホスホン酸(TDPA)、オレイン酸、ステアリン酸、多価不飽和脂肪酸、ソルビン酸、メタクリル酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸イソプロピル。これらの幾つかは、複数の官能性を有しており、キャッピング剤、フリーラジカル捕捉剤、及び/又は、還元剤として機能し得る。
【0118】
還元剤:アスコルビン酸パルミテート、αトコフェロール(ビタミンE)、オクタンチオール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸エステル(プロピル、ラウリル、オクチル等)、メタ重亜硫酸塩(metabisulfite)(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩)。
【0119】
フリーラジカル捕捉剤:ベンゾフェノン。
【0120】
水素化物反応剤(Hydride reactive agent):1,4−ブタンジオール、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,6−ヘプタジエン−4−オール、1,7−オクタジエン、及び1,4−ブタジエン。
【0121】
特定用途用の添加剤の選択は、半導体ナノ粒子材料の性質(例えば、ナノ粒子材料が、物理的、化学的及び/又は光誘起劣化に、どのくらい敏感であるか)と、一次マトリックス材料の性質(例えば、フリーラジカル、酸素、水分などの害を与える可能性のある種がどの程度進入し易いか)と、一次粒子を含むであろう最終物又は装置が目的とする機能(例えば、物又は装置の動作条件)と、最終物又は装置を製造するのに必要なプロセス条件とに依存するだろう。これを踏まえると、1又は複数の添加剤は、所望の半導体ナノ粒子用途に合うように、上記の5つのリストから選択されてよい。
【0122】
QDがビーズに組み込まれると、形成されたQD−ビーズは更に、適切な材料でコーティングされてよく、各ビーズに保護バリアがもたらされて、酸素、水分又はフリーラジカルのような、害を与える可能性のある種が、ビーズ材料を通って半導体ナノ粒子へと進む又は拡散することを防止する。結果として、ナノ粒子は、それらの周囲の環境と、LEDの製造のような用途においてナノ粒子を用いるのに通常必要とされる様々な処理条件とに対して敏感でなくなる。
【0123】
コーティングは、酸素又は任意の種類の酸化剤がビーズ材料を通過することに対するバリアであるのが好ましい。コーティングは、フリーラジカル種の通過に対するバリアであってよく、及び/又は、防湿バリアであって、ビーズの周囲の環境の水分が、ビーズ中に組み込まれた半導体ナノ粒子に接触できないことが好ましい。
【0124】
要求されたレベルの保護を与えるという条件で、コーティングは、ビーズ表面上に、任意の所望の厚さで材料の層をもたらしてよい。表面層のコーティングは、約1乃至10nmの厚さであってよく、最大で400乃至500nmの厚さでよく、或いはそれを超えてもよい。層の好ましい厚さは、1nm乃至200nmの範囲であって、より好ましくは、約5nm乃至100nmである。
【0125】
コーティングは、誘電体(絶縁体)、金属酸化物、金属窒化物又はシリカ系材料(例えば、ガラス)のような無機材料を含んでよい。
【0126】
金属酸化物は、単金属酸化物(つまり、酸化物イオンが、一種類の金属イオンと結合している。例えば、Al)であってよく、或いは、混合金属酸化物(つまり、酸化物イオンが、2又は3種類以上の金属イオンと結合している。例えば、SrTiO)であってよい。(混合)金属酸化物の金属イオンは、2、13、14又は15族のような、周期表の適切な族から選択されてよく、又は、遷移金属、d−ブロック金属、若しくは、ランタニド金属であってよい。
【0127】
好ましい金属酸化物は、以下を含む群から選択されてよい:Al、BO3、Co、Cr、CuO、Fe、Ga、HfO、In、MgO、Nb、NiO、SiO、SnO、Ta、TiO、ZrO、SC、Y、GeO、La、CeO、PrOx(x=適切な整数)、Nd、Sm、EuO(y=適切な整数)、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、SrTiO、BaTiO、PbTiO、PbZrO、BiTiO (m、n=適切な整数)、BiSiO(a、b=適切な整数)、SrTa、SrBiTaO、YScO、LaAlO、NdAlO、GdScO、LaScO、LaLuO、ErGa13
【0128】
好ましい金属窒化物は、以下を含む群から選択されてよい:BN、AlN、GaN、InN、Zr、CuN、Hf、SiN(c=適切な整数)、TiN、Ta、Ti−Si−N、Ti−Al−N、TaN、NbN、MoN、WNd(d=適切な整数)、WNeCf(e、f=適切な整数)。
【0129】
無機コーティングは、適切な結晶形態のシリカを含んでいてよい。
【0130】
コーティングは、有機又は高分子材料と組み合わされた無機材料を、例えば、シリカ−アクリレートハイブリッド材料のような無機/高分子ハイブリッドを組み込んでよい。
【0131】
コーティングは、飽和又は不飽和炭化水素高分子である高分子材料を含んでよく、或いは、1若しくは複数のヘテロ原子(例えば、O、S、N、ハロゲン)、又は、ヘテロ原子含有官能基(カルボニル、シアノ、エーテル、エポキシド、アミド等)を組み込んでいてよい。
【0132】
好ましい高分子コーティング材料の例は、以下を含む:アクリレートポリマ(例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリオクチルメタクリレート、アルキルシアノアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリビニルアクリレートなど)、エポキシド(例えば、EPOTEK301 A及びB熱硬化性エポキシ、EPOTEK OG112−4シングルポット(single-pot)UV硬化性エポキシ、又は、EX0135 A及びB熱硬化エポキシ)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリチオエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリジエン、ポリスチレンポリブタジエンコポリマー(クレイトン)、パイリレン(pyrelene)、ポリ−パラ−キシリレン(パリレン)、シリカ、シリカ−アクリレートハイブリッド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリジビニルベンゼン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイソブチレン(ブチルゴム)、ポリイソプレン、及びセルロース誘導体(メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ニトロセルロース)、並びにこれらの組合せがある。
【0133】
<装置アーキテクチャ>
本明細書に記載されているQDLED装置アーキテクチャは、単なる例示であって、本発明は、それらに限定されない。QDを組み込んで、植物の成長と発育を促進する波長で放射するために適切な任意の装置アーキテクチャが用いられてよい。
【0134】
QDLED装置は、図5に示されたQDLEDチップの構造を用いて作製されてよい。装置500は、ハウジング502に装着されたLEDアセンブリ501を含んでいる。LEDアセンブリは、通常、YAGのような、UV又は青色発光LED材料である固体LED材料503を含んでいる。LED材料503は、LEDパッケージ504内に入れられており、LEDカプセル化材料505によって保護されている。LEDカプセル化材料505の例にはシリコーンがあるが、任意のカプセル化材料が使用できる。QD含有樹脂506は、カプセル化材料50の上面に配置されている。典型的な樹脂は、上述したように、その中に分散したQDを含む高分子樹脂である。QDはビーズに埋め込まれてよく、又は「むき出し」であってよい。その他の実施例では、QD含有樹脂506は、LED材料503上に直接配置されてよい。言い換えると、LEDカプセル化材料とQD樹脂は、図5に示すような2層ではなく、単層であってよい。QD含有樹脂506は、ガラスのような薄い透明材料507で保護されており、透明材料507は、エポキシのような接着剤508で所定の位置にてシールされてよい。
【0135】
図5に示す実施例は、以下のようにして作られる:窒素で満たされたグローブボックスにて、LEDチップは最初に、そのままの(blank)シリコーン樹脂で覆われて、QDが埋め込まれるアクリレート樹脂から被るダメージからチップが保護される。シリコーン樹脂は、ホットプレート上で硬化させられる。そして、LEDチップが、QDが埋め込まれたアクリレート樹脂で満たされて、紫外線で硬化させられる。次に、LEDは、ガスバリアである薄い層を用いてカプセル化され、UV硬化エポキシ樹脂(例えば、Optocast(登録商標))を用いて取り付られて、紫外線で硬化させられる。UV又は青色固体LEDが、LEDチップの底に収められて、QDを照らす。
【0136】
QDがビーズに含まれる実施例の例として、シリコーン樹脂は、少量の白金触媒と混合されてよい。そして、QDビーズがシリコーン混合物に加えられて、その混合物が、LEDパッケージに移される。パッケージは、窒素雰囲気下で硬化させられ、ガスバリアである薄い層でカプセル化され、上述したように、UV硬化エポキシ樹脂を用いて取り付られる。LEDは、紫外線で硬化させられる。
【0137】
図6は、リモート蛍光体アーキテクチャ、つまりQD材料がLEDパッケージの外側にあるアーキテクチャを有するQDLED装置を図示している。図6に示すように、赤色QD601を含む高分子フィルムが基板に配置されて、QD蛍光体シート602がもたらされている。蛍光体シート602は、LEDパッケージ603から離れて位置している。上述したように、QD601は、ビーズ中にあってよく、又は、「むき出し」であってよい。QD601は、(パッケージ603が青色LEDを含んでいる場合)パッケージ603内のLEDで生成された青色光604を吸収する。蛍光体シート602から放射する光は、QD601で放射された赤色光605と、蛍光体シート602を通過した青色光606とが混合したものである。
【0138】
図7は、図6に示したリモートQD蛍光体シートの調製方法の実施例を示す。QDインクは、適切な溶媒及び重合可能材料と既知量のQD溶液とを混合することで調製される。所定の寸法のPETシート(又はその他の適切な基体)701は、エアガンで清浄にされて、塵粒が除去され、2つのテフロン(登録商標)スペーサ702が、スペーサ間に一定の間隔が残されるように装着される。窒素雰囲気下で、インク703が、基体のスペーサ間の領域にドロップキャストされて、スペーサ間に一様に分布する。先立って加熱されたホットプレートに基体を置いて、溶媒を除去し、そして、乾燥する。カプセル化されたQD蛍光体は、一連のUV又は青色固体LEDを用いて、背後から照らされる。これらは、光合成成長を最適化するように選択された特定の波長で発光する蛍光体層のQDを励起するが、SSLEDからのUV又は青色光の幾らかは、相変わらずガラスを透過する。QD蛍光体及びUV又は青色LEDの放射は、特定の有機体中のクロロフィルと補助色素との吸収スペクトルに合うように調整されてよく、光合成が最適化される。
【0139】
図8は、QD蛍光体シート802の側方に固体LED801が配置された実施例を示す。リモートQD蛍光体シート802は、上述したように調製されている(図7参照)。図8に示す実施例では、QD蛍光体シート802は、赤色発光QD803と青色発光QD804を含んでいる。カプセル化QD蛍光体シート802は、固体UV又は青色発光LED801によって、側方から照らされる。QDのダウンコンバートされた赤色光805と青色光806は、入射LEDの光に対して垂直に放たれる。
【0140】
図9は、水溶性QDマイクロビーズ901が、光合成細菌903用の成長培地として使用される寒天調製物902に混合されている実施例を示す。QD寒天調製物は、透明な容器に配置されて、UV又は青色LED光904を用いて外部から照らされる。寒天中のQDは、LEDからの光をダウンコンバートし、一次のLED光の幾らかは、相変わらず培地を透過する。
【0141】
図10は、QDLEDチップの放射を、クロロフィルa及びクロロフィルbの吸収波長と重ねたものを示す。QDLEDチップは、一次光源として青色固体LEDを有しており、赤色発光QD/シリコーン樹脂を用いて適合化されており、以下の手順に基づいて製造された:シリコーン樹脂を、少量の白金触媒と混合した。そして、赤色InP/ZnSQDビーズ(10mmolのトルエン溶液当たり20個のQD)を加えて、混合物をLEDケースに移した。LEDを、窒素雰囲気下で硬化した。QDLEDは、22mWの固体LEDで照らされた。固体LEDからの青色発光が、約455nmで見られた。赤色QD材料は、PLmax=648nm及びFWHM=59nmで発光した。青色(LED)と赤色(QD蛍光体)の相対強度は、1:0.45であった。
【0142】
一次光源である青色固体LEDと赤色量子ドットシリコーン樹脂とを備えるQDLEDチップは、以下の手順に基づいて作製された:赤色InP/ZnSQDビーズを、10QD/10mmolのトルエン溶液へと希釈した。シリコーン樹脂を、少量の白金触媒と混合した。そして、QDビーズを加えて、混合物をLEDケースに移した。LEDを、窒素雰囲気下で硬化させた。QDLEDを、22mWの固体LEDで照らした。固体LEDからの青色発光が、約455nmで見られた。赤色QD材料は、PLmax=646nm及びFWHM=60nmで発光した。青色(LED)と赤色(QD蛍光体)の相対強度は、1:0.27であった。
【0143】
一次光源である青色固体LEDと、赤色量子ドットシリコーン樹脂とを備えており、クロロフィルbの吸収スペクトルに適合した発光スペクトルを有するQDLEDチップを、446nmで発光する青色固体LEDバックライトで照らされるCdSe/CdS/CdZnS/ZnSコア−マルチシェルQDを用いて製造した。625nmのQDのPLmaxは、図11に示すように、クロロフィルbの吸収極大に良く適合しており、狭いFWHMは35nmである。青色と赤色の相対ピーク強度は、QD濃度を変更することで、クロロフィルbの吸収スペクトルのものに合わせられた。
【0144】
<照明配置>
QDLEDチップは、非常に小さいLEDカップから、ガラスに収納された大きなプリントQDLED蛍光体シートまで様々なものにできるので、異なる多くの照明配置が可能である。本明細書に開示されているQDLEDチップは、小さい装置、軽い装置、運搬可能な装置、大きな常設設備の何れにも適している。例えば、図6に示したような、QD蛍光体シートと組み合わされたLEDバックライトは、芝の追いまき領域で芝の成長を促進するのに使用されてよい。装置は、青色と赤色の両方の光を放射する。運搬可能な格納式の照明設備を用いることで、光が小さい領域に集中して、芝の成長が促進され、迅速且つ容易に運搬することができる。
【0145】
図12は、アーチ形又はかご形のフレーム構造に固定されたQDLED1201を示す図であって、図3又は図4に示したように、赤色QDと青色QDが、UV固体LEDで照らされる。1又は複数の植物1202がフレーム構造の内側に配置されてよく、これによって、様々な方向から照らされて、光合成が促進するだけでなく、成長が均一になる。フレーム構造は、適切な任意の材料から作られてよいが、反射材料が有利であろう。
【0146】
図13は、赤色QD蛍光体が、指状の突出部を有する基体1302にプリントされており、当該基体1302が光バイオリアクタ1303内に浸漬された照明配置を示す図である。QD蛍光体は、上側及び/又は下側から青色LEDで照らされる。QD蛍光体からの二次放射は、光バイオリアクタへと向けられる。代替的に(又は追加的に)、光バイオリアクタそれ自体が、赤色QDインクでプリントされた透明材料を用いて作製されてよい。光バイオリアクタが、青色(又はUV)固体LEDによって外側から照らされると、(LEDからの)青色光と(QD蛍光体からの)赤色光とが、光バイオリアクタに向けて放射される。
【0147】
本発明の特定の実施例が示されて説明されたが、それらは、本特許の範囲を制限すること意図したものではない。特許請求の範囲によって文言上、そして、均等として保護される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更や修正がなされてよいことを、当業者は理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13