特許第6023878号(P6023878)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイオラックスメディカルデバイスの特許一覧

<>
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000002
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000003
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000004
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000005
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000006
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000007
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000008
  • 特許6023878-ステント及びその製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023878
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】ステント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/91 20130101AFI20161027BHJP
【FI】
   A61F2/91
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-512483(P2015-512483)
(86)(22)【出願日】2014年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2014060702
(87)【国際公開番号】WO2014171447
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2015年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-87781(P2013-87781)
(32)【優先日】2013年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599140507
【氏名又は名称】株式会社パイオラックスメディカルデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】山内 清
(72)【発明者】
【氏名】植垣 行宏
(72)【発明者】
【氏名】豊川 秀英
【審査官】 田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/008579(WO,A1)
【文献】 特開2006−141555(JP,A)
【文献】 特表2005−534371(JP,A)
【文献】 特開2003−199833(JP,A)
【文献】 特開平11−37346(JP,A)
【文献】 特開2004−290279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
Ni−Ti系合金又はCo−Cr系合金からなる筒状のステント基体内に芯金を挿入し、レーザー光でメッシュ状の開口を形成した後、該ステント基体から前記芯金を除去し、
前記ステント基体を350℃以下の雰囲気下で所定径まで拡張した状態で形状記憶処理を施した後、400〜600℃で5〜60分の熱処理を施して、Af点が22〜26℃となるようにすることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光による開口形成工程は、前記ステント基体に水を噴射して、水柱を形成すると共に、この水柱内でレーザー光を反射させつつ、前記ステント基体に照射して、前記ステント基体にメッシュ状の開口を形成する請求項2記載のステントの製造方法。
【請求項4】
前記ステント基体の拡張処理後の熱処理工程は、450〜550°C、10〜40分でなされる請求項2又は3記載のステントの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程は、前記ステント基体の拡張処理後、1回のみ行われる請求項2〜4のいずれか1つに記載のステントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、胆管、尿管、気管、血管等の管状器官や、その他の体内組織に留置されるステント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、胆管、尿管、気管、血管等の管状器官の狭窄部や閉塞部に、ステントを留置して当該部分を拡張して胆汁や血液等を流れやすくしたり、或いは、動脈瘤が生じた箇所にステントを留置して、その破裂を防止したりする等の、ステントを用いた治療が行われている。
【0003】
ステントの留置に際しては、例えば、ステントを縮径させて、シースやカテーテル等のチューブ内に収容し、胆管等の体内組織の目的位置まで搬送した後、前記チューブから開放して自己拡張させたり、或いは、ステントの内側に配置したバルーンを膨らませて拡径させたりすることで、所定箇所に留置されるようになっている。
【0004】
ところで、Ni−Ti系合金からなるステントは、例えば、次のようにして製造される。すなわち、Ni−Ti系合金からなる金属チューブを所定温度で熱処理して真直化した後、レーザー光で加工してメッシュ状の開口を複数形成する。その後、前記真直化工程の熱処理温度よりも高い、例えば、400〜500℃の雰囲気下において、ステントの拡張処理を所定外径となるまで複数回行うことで、所定径のステントが製造される。
【0005】
しかし、上記製造方法では、チューブの真直化のための熱処理や、複数回の拡張処理等が、高温雰囲気下において比較的長時間に亘ってなされるので、結晶粒の粗大化や再結晶の進行等により、ステントの強度が低下して、破損等の問題が生じることがあった。
【0006】
上記のような破損等の問題を解消すべく、例えば、下記特許文献1には、チューブ形状のステント基本体に芯金を挿入する挿入工程と、必要に応じて該ステント基体の直線性を保持した後に、スロット形成部周囲へのレーザー光による熱影響を抑制しつつレーザー光によって該スロット形成部を切断することでスロットを形成してステントを作成する切断工程と、該ステントから芯金を除去する除去工程と、芯金を除去したステントを、350℃以下の熱処理を行いつつ所定の直径まで拡張する拡張処理工程を含む、高弾性ステントの製造方法が記載されている。
【0007】
上記製造方法により製造されたステントは、圧縮試験及び曲げ試験による荷重−変位曲線において明確な降伏を示さずに、変位と共に荷重が増加する性質を有し、Af点が常温以下となり、ステントが常温下において超弾性となるので、破損等の問題は生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2012/008579号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1記載の製造方法で製造されたステントは、常温下で超弾性となって塑性変形しないため、カテーテル等のチューブに収容すべく縮径させるときに、縮径させにくく収容しにくいという不都合があった。また、チューブ内に縮径状態で収容されたステントは、自己の超弾性力によって拡張しようとするが、チューブ内周からの反発力によって逆に潰されてへたりやすくなるので、チューブからステントを解放するときに、スムーズに拡径しない場合があった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、十分な強度を有すると共に、縮径しやすくチューブ内に容易に収容でき、かつ、チューブ内から解放するときにスムーズに拡径することができる、ステント及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のステントは、Ni−Ti系合金又はCo−Cr系合金からなりメッシュ状の開口を有する筒状に形成された自己拡張型のステントにおいて、Af点が22〜26℃とされ、応力−変位曲線上において降伏点を有していると共に、ステントの断面における結晶粒のエリアフラクション法による平均断面積が0.2〜50μmとされていることを特徴とする。
【0012】
一方、本発明のステントの製造方法は、Ni−Ti系合金又はCo−Cr系合金からなる筒状のステント基体内に芯金を挿入し、レーザー光でメッシュ状の開口を形成した後、該ステント基体から前記芯金を除去し、前記ステント基体を350℃以下の雰囲気下で所定径まで拡張した後、400〜600℃で5〜60分の熱処理を施して、Af点が22〜26℃となるようにすることを特徴とする。
【0013】
本発明のステントの製造方法においては、前記レーザー光による開口形成工程は、前記ステント基体に水を噴射して、水柱を形成すると共に、この水柱内でレーザー光を反射させつつ、前記ステント基体に照射して、前記ステント基体にメッシュ状の開口を形成するものであることが好ましい。
【0014】
本発明のステントの製造方法においては、前記ステント基体の拡張処理後の熱処理工程は、450〜550℃、10〜40分でなされることが好ましい。
【0015】
本発明のステントの製造方法においては、前記熱処理工程は、前記ステント基体の拡張処理後、1回のみ行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のステントによれば、Af点が22〜26℃で応力−変位曲線上で降伏点を有しているので、常温下で超弾性とならず、ステントを縮径させたときに、その縮径状態に維持しやすくなり、カテーテルやシース等のチューブ内に比較的容易に収容することができる。
【0017】
また、ステントの断面における結晶粒のエリアフラクション法による平均断面積が0.2〜50μmとされているので、ステントの強度を高めることができ、その結果、チューブ内にステントが収容された状態でもへたりにくくすることができ、また、チューブからステントを解放するときに、スムーズに拡径させることができる。
【0018】
また、本発明のステントの製造方法によれば、ステント基体を拡張させるときの温度が350℃以下の比較的低温で、かつ、その後の熱処理が400〜600℃であるので、組織の結晶粒の粗大化や再結晶等を抑制することができ、Af点が22〜26℃で応力−変位曲線上で降伏点を有し、ステントの断面における結晶粒のエリアフラクション法による平均断面積が0.2〜50μmである、結晶粒が微細で高強度のステントを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のステントの一実施形態を示す斜視図である。
図2】(a)は同ステントの展開図、(b)は他の例におけるステントの展開図である。
図3】本発明のステントの製造方法を示しており、(a)はステント基体に芯金を挿入する工程を示す説明図、(b)は引き抜き加工工程を示す説明図、(c)は真直化工程を示す説明図、(d)はレーザー光による開口形成工程を示す説明図である。
図4】本発明のステントの製造方法を示しており、(a)は芯金除去工程を示す説明図、(b)はステント基体から芯金を除去した状態の説明図である。
図5】本発明のステントの製造方法を示しており、(a)はステント基体の拡張工程を示す説明図、(b)はステント基体の拡張処理後の形状記憶処理工程、及び、その後熱処理工程を示す説明図、(c)は熱処理後、ステント基体から拡張具を引き抜く工程を示す説明図である。
図6】実施例及び比較例の、応力−変位曲線図である。
図7】電子線後方散乱回折法(Electron Backscatter Diffraction:EBSD法)による方位マッピング(IPF)像を示しており、図7(a)は実施例のもの、図7(b)は比較例のものである。
図8】結晶粒の平均断面積の測定に用いたエリアフラクション法(Area Fraction法)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明のステントの一実施形態について説明する。
【0021】
図1に示すように、この実施形態のステント10は、複数のメッシュ状の開口11を有する円筒状をなしており、外力のない状態では、拡径した状態となる自己拡張型である。
【0022】
図2(a)の展開図を併せて説明すると、このステント10は、金属円筒がレーザー光で加工されてメッシュ状の開口を有する筒状に成形されている。この実施形態では、ステント10のメッシュ状の開口を有するパターンが次のようになっている。すなわち、周方向に沿ってジグザグ状に伸び、このジグザグ状部分13の両端が環状に連結されて周方向単位15が形成され、各周方向単位15のジグザグ状部分13の屈曲部どうしが連結部17を介して連結されることで、複数の周方向単位15が連結部17を介して軸方向に連結され、全体として円筒状をなしている。
【0023】
ステント10のメッシュ状の開口を有するパターンの他の例として、図2(b)に示すように、開口11を有する複数の枠状体14を周方向に連結して周方向単位15とし、これらを複数の連結部17を介して軸方向に連結して、円筒状に構成したものであってもよい。なお、ステント10の開口11の形状や配置パターンは、上記図2(a),(b)に記載されたものに限らず、縮径及び拡径が可能な形状であれば特に限定されない。
【0024】
更に、ステント10の内側及び/又は外側に、例えば、ポリウレタンや、シリコーン、天然ゴム、ナイロンエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル、フッ素系樹脂などからなるカバー部材を配置してもよい。
【0025】
前記ステント10の材質は、Ni−Ti,Ni−Ti−Co,Ni−Ti−Cu,Ni−Ti−Fe,Ni−Ti−Nb,Ni−Ti−V,Ni−Ti−Cr,Ni−Ti−Mn等のNi−Ti系合金、又は、Co−Cr,Co−Cr−Mo,Co−Cr−Ni等のCo−Cr系合金が用いられる。
【0026】
そして、このステント10は、Af点が22〜26℃とされている。この「Af点」とは、Ni−Ti系合金やC−Cr系合金等の形状記憶合金において、オーステナイト変態が終了する温度を意味し、この温度以上になると、形状記憶処理により記憶した形状に復帰するようになっている。なお、前記Af点が22℃未満だと、ステント10が一般的に使用される温度、例えば、手術室等の温度下において、ステント10の弾性力が高くて縮径させにくくなり、シースやカテーテル等のチューブ内にステント10を収容しにくくなる。一方、前記Af点が26℃を超えると、管状器官内や体内組織内にステント10を留置するときに、ステント10が記憶した拡径形状に復帰しにくくなり、使い勝手が低下する。
【0027】
また、このステント10は、その応力−変位曲線上において降伏点を有している。すなわち、ステント拡張力測定装置(Radial Expansion Force Equipment「RX550」、Machine Solutions社製)を用いて、ステント全面に亘って均等に、縮径方向に1mm/minで、ステントの外径が2.5mmとなるまで縮径させた後、拡径方向に1mm/minで、ステントが初期の外径となるまで拡径させたときの、応力(ステントの拡張力)−変位(ステントの外径変位)曲線上において(図6参照)、降伏点(図中Rで示す部分)が明確に把握できるようになっている。
【0028】
更に、このステント10は、ステントの断面における結晶粒のエリアフラクション法(Area Fraction法)による平均断面積が0.2〜50μm、好ましくは0.5〜30μmとされている。
【0029】
結晶粒の平均断面積が0.2μm未満だと、ステントの強度を高める一方、柔軟性に欠けるため、ステント10を縮径させてチューブ内に収容した後、チューブから開放するときに、拡径しにくくなり、一方、結晶粒の平均断面積が50μmを超えると、ステントの強度を十分に高めることができず、ステント10を縮径させた状態でチューブ内に収容したときに、へたりやすくなる。
【0030】
また、結晶粒の平均断面積は、公知の、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた後方散乱電子回折像法(EBSD法)を用いたIPFマップにおいて、方位角度差が5°以上の境界を結晶粒界としたときの、結晶粒の平均断面積をいう。
【0031】
この場合、結晶粒の平均断面積は、エリアフラクション法(Area Fraction法)により測定される。すなわち、IPFマップにおける測定組織全体の面積を100とし、同マップ内における結晶粒の面積をS1,S2,S3,S4,・・・としたとき、以下の式で示される。
【0032】
結晶粒の平均断面積=(S1×S1/100)+(S2×S2/100)+(S3×S3/100)+(S4×S4/100)+・・・
【0033】
例えば、図8に示すように、結晶粒aの面積を8、結晶粒bの面積を25、結晶粒cの面積を59、結晶粒dの面積を8としたとき、結晶粒の平均断面積は、8×0.08+25×0.25+59×0.59+8×0.08で、42.34となる。
【0034】
なお、上記のEBSD法によるIPFマップ及び結晶粒の平均断面積は、例えば、SEM(「JSM−7800F」、日本電子社製)に、EBSD装置(電子回折結晶方位解析装置「HIKARI」、TSLソリューションズ社製)を取付け、専用ソフト(OIM Analysis6.2)を用いることで測定することができる。
【0035】
次に、本発明に係るステントの製造方法の一実施形態について、図3〜5を参照して説明する。
【0036】
この製造方法は、Ni−Ti系合金又はCo−Cr系合金からなる筒状のステント基体内に芯金を挿入し、レーザー光でメッシュ状の開口を形成した後、該ステント基体から芯金を除去し、ステント基体を350℃以下の雰囲気下で所定径まで拡張した後、400〜600℃で5〜60分の熱処理を施して、Af点が22〜26℃になるようにするものである。
【0037】
まず、図3(a)に示すように、上述した材質により形成されたNi−Ti系合金又はCo−Cr系合金からなる筒状のステント基体20内に、芯金22を挿入する。
【0038】
その後、図3(b)に示すように、ダイス24のステント基体20よりも小径の穴に、芯金22が挿入されたステント基体20を挿入し、所定速度で引き抜き加工や押し出し加工を施すことにより、ステント基体20を所定径に縮径させる。
【0039】
このとき、ステント基体20の加工率は、10%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、45%以上であることが更に好ましい。ステント基体20の加工率が10%未満だと、縮径加工後の形状記憶処理や熱処理によって、加工硬化した組織が消失しやすいので、ステントの強度が低くなる。
【0040】
次いで、図3(c)に示すように、熱処理炉26内にステント基体20を配置して、所定温度で所定時間保持して、縮径させたステント基体20の真直化を図る。前記処理温度は、400〜600℃であることが好ましく、450〜550℃であることがより好ましく、保持時間は5〜60分であることが好ましく、20〜40分であることがより好ましい。なお、この真直化処理は必要に応じて行われるものであり、本発明に係るステントの製造方法の必須工程ではない。
【0041】
その後、図3(d)に示すように、ステント基体20にメッシュ状の開口11を形成する。この実施形態では、いわゆる水レーザーによって、ステント基体20の所定箇所を所定形状で切除して開口11を形成する。具体的には、レーザー切断装置30のノズル31から、高圧の加圧水をステント基体20に向けて噴射し、水柱32を形成すると共に、同ノズル31から射出されたレーザー光33を前記水柱32内で反射させながらステント基体20に照射することにより、所定形状の開口11を形成する。
【0042】
このような水レーザー切断装置としては、例えば、「AQL1900」、澁谷工業社製などを使用することができる。
【0043】
上記のように、ステント基体20の所定箇所に、水柱32内で冷却しながらレーザー光33で開口11を形成することができるので、ステント基体20に対するレーザー光33の反射や散乱等による熱影響を受けにくく、組織の結晶粒粗大化や再結晶等を抑制して、ステント基体20の強度維持を図ることができる。また、芯金22が挿入された状態でも、ステント基体20の所定箇所に開口11を確実に形成することができる。
【0044】
その後、レーザー光33やその他の切断手段により、メッシュ状の開口11を有するステント基体20を所定長さにカットする。
【0045】
上記工程後、図4(a)に示すように、硝酸等の処理液36が貯留された処理槽35に、芯金22が挿入されたステント基体20を浸漬させることで、図4(b)に示すように、芯金22を溶解する。
【0046】
次いで、図5(a)に示すように、先端部が縮径し基部が拡径した拡張具37の先端部を、ステント基体20の軸方向一端から挿入することにより、ステント基体20を拡径させて拡張具37の外周に装着させる。
【0047】
この状態で、図5(b)に示すように、熱処理炉38内に、拡張具37ごとステント基体20を配置して、350℃以下の雰囲気下で1〜60分保持して、ステント基体20に対して拡径状態を記憶するための形状記憶処理を施す。この際の温度は、300℃以下がより好ましい。また、形状記憶処理時の保持時間は1〜70分であることがより好ましい。なお、上記温度が350℃以上だと、ステント組織の結晶粒粗大化や再結晶等が進み、強度が低下する。
【0048】
更に、同一の熱処理炉38又は別の熱処理炉に、拡張具37ごとステント基体20を配置して、400〜600℃で5〜60分保持し、Af点が22〜26℃となるように、ステント基体20に熱処理を施す(図5(b)参照)。
【0049】
上記の熱処理時の温度は、450〜550℃であることが好ましく、その保持時間は、10〜40分であることが好ましい。この熱処理条件を選択することで、より高強度で品質のよいステントを製造することができる。
【0050】
なお、上記の熱処理時の温度が400℃未満だと、ステントのAf点を22〜26℃に設定しにくくなり、同温度が600℃を超えると、ステント組織の結晶粒粗大化や再結晶等が進み、強度が低下する。一方、熱処理時の保持時間が5分未満だと、ステント全体に熱処理が均一に施されにくくなり、60分を超えると、ステント組織の結晶粒粗大化や再結晶等が進み、強度が低下する。
【0051】
また、前記熱処理工程は、前記ステント基体の拡張処理後、1回のみ行われることが好ましい。これによれば、ステント基体20の熱履歴が少なくなるので、ステントの加工硬化した組織を残存させやすく、また、ステント組織の結晶粒粗大化や再結晶等を効果的に抑制でき、より高い強度のステントを得ることができる。
【0052】
その後、ステント基体20を熱処理炉38内で炉冷したり、熱処理炉から取出して空冷や急冷したりした後、或いは、上記熱処理後すぐに、ステント基体20から拡張具37を引き抜くことにより(図5(c)参照)、図1に示すステント10を得ることができる。
【0053】
したがって、この製造方法によれば、ステント基体を拡張させるときの温度が350℃以下の比較的低温で、かつ、その後の熱処理が400〜600℃であるので、組織の結晶粒の粗大化や再結晶等を抑制することができ、Af点が22〜26℃で応力−変位曲線上で降伏点を有し、ステントの断面における結晶粒のArea Fraction法による平均断面積が0.2〜50μmであって、結晶粒の微細化を図ることができ、高強度のステント10を製造することができる。
【0054】
なお、ステントの断面における結晶粒の平均断面積は、上記の熱処理温度を下げたり、その保持時間を短くしたり、熱処理回数を減らすことにより小さくすることができ、一方、上記の熱処理温度を上げたり、その保持時間を長くしたり、熱処理回数を増やすことにより大きくすることができる。
【0055】
次に、上記製造方法によって製造されたステント10の作用効果について説明する。
【0056】
すなわち、このステント10は、Af点が22〜26℃で応力−変位曲線上で降伏点を有しているので、常温下で超弾性とならず、ステント10を縮径させたときに、その縮径状態を維持しやすくなる。その結果、ステント10を、胆管、尿管、気管、血管等の管状器官や、その他の体内組織に留置すべく、ステント10を縮径させてカテーテルやシース等のチューブ内に収容するときに、その縮径状態を維持しつつ収容できるので、容易に収容することができ、収容作業性を向上できる。また、ステント10の断面における結晶粒のエリアフラクション法(Area Fraction法)による平均断面積が0.2〜50μmとされているので、結晶粒が微細化され、ステント10の強度を高めることができ、チューブ内に収容された状態でもへたりにくくすることができ、チューブからステント10を解放するときに、スムーズに拡径させることができる。
【実施例】
【0057】
(実施例の作製)
Niを56%、Tiを43.8%、残りを不可避不純物としたNi−Ti合金鋳塊を柱状に加工し、これを機械加工で外径が5mm、長さが1000mmの筒状のステント基体20を成形し(図3(a)参照)、このステント基体20内に芯金22を挿入した後、引き抜き加工を施して、加工率が35%で、外径が3.23mmとされたステント基体20を形成した(図3(b)参照)。その後、レーザー切断装置30でステント基体20に複数の開口11を形成した(図3(d)参照)。次いで、ステント基体20を処理層35に浸漬して、芯金22を溶解した後(図4(a),(b)参照)、ステント基体20内に外径が10mmの拡張具37を挿入し(図5(a)参照)、熱処理炉38内にステント基体20を配置して、300℃、5分で形状記憶処理を施す(図5(b)参照)。更に熱処理炉38内で、ステント基体20を、500℃、35分で熱処理を施し(図5(b)参照)、その後、ステント基体20から拡張具37を引き抜くことで、実施例のステント10を作製した(図5(c)参照)。この実施例のステントは、外径が10.5mm、長さが10mm、Af点が24℃である。
【0058】
(比較例の作製)
Ni−Ti合金鋳塊からなる筒状のステント基体を、400℃、60分で熱矯正して真直化した後、YAGレーザー装置で複数の開口を形成し、その後、サイズが異なる3つの金型を用いて、(1)420℃、30分で、4mmまで拡径、(2)450℃、30分で、7mmまで拡径、(3)500℃、30分で、10mmまで拡径させ、その後、550℃、60分で形状記憶処理を施して、比較例のステントを作製した。その他の条件は、上記実施例と同様である。この比較例のステントは、外径が10.1mm、長さが10mm、Af点が24℃である。
【0059】
(EBSD法によるIPFマップ作成、及び、結晶粒の平均断面積の測定)
上記実施例及び比較例のステントそれぞれについて、SEM(「JSM−7800F」、日本電子社製)に取付けたEBSD装置(電子回折結晶方位解析装置「HIKARI」、TSLソリューションズ社製)で専用ソフト(OIM Analysis6.2)を用いて、EBSD法によるIPFマップを作成すると共に、このIPFマップに基いてエリアフラクション法によって結晶粒の平均断面積を測定した。
【0060】
図7(a)には、実施例のステントのIPFマップ、図7(b)には、比較例のステントのIPFマップが示されている。なお、図中のスケールは15μmである。これらの図7(a),(b)に示すように、比較例のステントでは、結晶粒が極めて大きいのに対し、実施例のステントでは、結晶粒の微細化が図られているのが分かる。また、実施例のステントの結晶粒の平均断面積は2.64332μm(標準偏差0.647377)であるのに対し、比較例のステントの結晶粒の平均断面積は141.769μm(標準偏差54.4368)であった。
【0061】
(強度の測定)
上記実施例及び比較例のステントそれぞれについて、ステント拡張力測定装置(Radial Expansion Force Equipment「RX550」、Machine Solutions社製)を用いて、ステント全面に亘って均等に、縮径方向に1mm/minで、ステントの外径が2.5mmとなるまで縮径させた後、拡径方向に1mm/minの拡径速度で、ステントが初期の外径となるまで拡径させ、そのときの、ステントの拡張力とステントの外径変位との関係(応力−変位曲線)を測定した。その結果を図6に示す。同図に示すように、比較例のステントに対して、実施例のステントの方が拡張力が高く、高強度であることが分かる。
【符号の説明】
【0062】
10 ステント
11 開口
20 ステント基体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8