(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導体となる素線は、通常、合金材料を鋳造し圧延して荒引線とした後、この荒引線に対し熱処理(すなわち、焼鈍)と伸線加工とを繰り返すことで製造される。
【0006】
例えば上記特許文献1〜4に記載のアルミニウム合金の場合、伸線加工と伸線加工との間に熱処理を行うことで、断線を防止して所望の太さにまで細線化することが可能となる。しかし、バッチ式等で複数の熱処理工程を行うことは、時間的にもコスト的にも好ましくない。
【0007】
一方、上記特許文献5では、伸線加工前に熱処理を行なってから連続伸線加工を施している。しかし、伸線加工前に熱処理を行うと、その後の伸線加工による硬化により線が硬くなりやすく、導電率及び伸び特性が低下するという問題がある。さらに、特許文献5に記載のアルミニウム合金配線材料では、所定量のTiを含むことにより電線の導電率が著しく低下することが懸念される。
【0008】
なお、電線の導体となる素線を、同じ太さで銅素線から特許文献1〜5等に記載された従来のアルミニウム合金を用いたアルミニウム合金素線に置き換えた場合、電線の質量は約1/3になる。しかし、このアルミニウム合金電線は銅電線に比べて導体抵抗が高いため、絶縁体の劣化を考慮した電線の発煙特性とヒューズの溶断特性とのマッチング(ヒューズマッチング)が得られ難くなる。このため、実際に銅電線からアルミニウム合金電線に置き換える場合は、ヒューズマッチングや導体抵抗を考慮して、電線のサイズを1〜2サイズ大きくなるように置き換えることが必要になる。ここで、電線のサイズを1〜2サイズ大きくなるように置き換える例としては、0.5Sqの銅電線を0.75〜1Sqのアルミニウム合金電線に置き換えることが挙げられる。このため、銅電線から従来のアルミニウム合金電線に置き換える場合には、銅電線に比べてアルミニウム合金電線の径が太くなるという問題があった。このため、アルミニウム合金電線に用いられるアルミニウム合金素線には、導体抵抗が低い、すなわち導電率が高いことが求められていた。具体的には、現在、アルミニウム合金素線は、導電率が58%IACS以上であることが求められている。また、アルミニウム合金素線には、加工性の観点から引張強さが120MPa以上であることも望まれている。このように、アルミニウム合金素線には、導電率58%IACS以上と、引張強さ120MPa以上とを両立することが求められていた。
【0009】
そこで本発明は、配線材料として充分な導電率と引張強さを備え、かつ、伸線加工性に優れたアルミニウム合金素線を用いた電線又はケーブル、ワイヤーハーネス及びアルミニウム合金素線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金素線の製造方法は、Ti:0.001質量%以上0.009質量%未満、Fe:0.4〜0.9質量%、Zr:0.005〜0.008質量%、Si:
0〜
0.02質量%、及びCu:
0〜
0.05質量%とMg:0.04〜0.45質量%とのうちの少なくとも一方、を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金からアルミニウム合金素線を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)前記アルミニウム合金を用いて荒引線を形成する工程、
(2)前記荒引線を熱処理を行うことなく所望の最終線径にまで伸線する工程、及び
(3)伸線加工後の線材を連続焼鈍又はバッチ焼鈍する工程。
【0011】
本発明の第2の態様に係る
アルミニウム合金素線の製造方法は、アルミニウム合金荒引線から伸線工程等を行ってアルミニウム合金素線を製造する際の断線率は、25000m/回以上であることを特徴とする。本発明
において、電線又はケーブルは、本発明の第1の態様に記載のアルミニウム合金素線の製造方法で得られたアルミニウム合金素線を含む電線又はケーブルであって、前記アルミニウム合金素線は、引張強さ120MPa以上、導電率58%IACS以上であること
が好ましい。
【0012】
本発明
において、ワイヤーハーネスは、
上記の電線又はケーブルを用い
ること
が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金は、電線又はケーブル用の導体として必要な導電率と引張強さを提供できる組成であるとともに、伸線加工性に優れ、荒引線から素線の最終線径にまで、途中で焼鈍(熱処理)をせずに伸線できる組成である。したがって、このアルミニウム合金を用いることで、伸線加工前や伸線加工途中での熱処理を省き、伸線加工後に連続焼鈍やバッチ焼鈍を行なってアルミニウム合金素線を製造することが可能となって、コスト削減と生産性の向上を実現できる。
【0014】
本発明に係る電線又はケーブルは、軽量でありながら導電率、引張強さ、及び伸び特性に優れたアルミニウム合金素線を含むものである。
【0015】
本発明に係る電線又はケーブルは、アルミニウム合金が、Tiの含有量が0.001質量%以上0.009質量%未満であるため、アルミニウム合金素線の導電率が58%IACS以上であり、かつ引張強さが120MPa以上である。
【0016】
本発明に係る電線又はケーブルは、アルミニウム合金が、Tiの含有量が0.001質量%以上0.009質量%未満であり、引張強さ及び加工性に優れるため、伸線加工前にアルミニウム合金線材の表面層を剥がす、いわゆる皮むき処理の有無にかかわらず、製造時にアルミニウム合金素線が断線し難い。
【0017】
本発明に係るワイヤーハーネスは、軽量で細いため、自動車用に好適である。
【0018】
本発明に係るアルミニウム合金素線の製造方法は、本発明に係る電線又はケーブルに用いられるアルミニウム合金素線を効率よく製造することできる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態に係るアルミニウム合金素線の材質として及びその原料として用いられるアルミニウム合金は、母材となるアルミニウム地金に所定の元素を添加して含有させたものである。
【0020】
アルミニウム地金としては、純度99.7質量%以上の純アルミニウムを用いることが好ましい。すなわち、JIS H 2102に規定される純アルミニウム地金のうち、1種アルミニウム地金以上の純度のものを好ましく用いることができる。具体的には、アルミニウム地金として、純度99.7質量%の1種アルミニウム地金、純度99.85質量%以上の特2種アルミニウム地金、及び純度99.90質量%以上の特1種アルミニウム地金が挙げられる。このように本実施形態では、アルミニウム地金として、特1種、特2種のような高価な高純度のものばかりではなく、価格的にも手頃な純度99.7質量%のアルミニウム地金を使用できる。
【0021】
この純アルミニウム地金からなる母材(すなわち、アルミニウム原料)中に添加される元素は、チタン(Ti)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)と、銅(Cu)及び/又はマグネシウム(Mg)である。
【0022】
Tiは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化することにより、アルミニウム合金の導電率の低下を防ぎつつ強度と伸びを大きくし、加工性を向上させ、アルミニウム合金素線の製造時の断線を低減させる元素である。この効果を得るために、Tiは、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中に0.001質量%以上0.009質量%未満含まれ、0.003〜0.007質量%含まれることが好ましい。なお、本明細書において「a〜b質量%」と記載した場合は、a質量%以上b質量%以下を意味する。また、アルミニウム合金素線の原料であるアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のTiの含有量が、上記アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中のTiの含有量と同じ数値範囲内にあることが好ましい。
【0023】
なお、上記のアルミニウム合金の加工性は、アルミニウム合金の強度と伸びが大きくなると向上する。このようにアルミニウム合金の加工性が向上すると、アルミニウム合金素線の製造時の断線の発生が低減する。なお、断線の発生の程度は、断線率を用いて評価することができる。ここで、断線率とは、アルミニウム合金荒引線から伸線工程、撚り工程、圧縮工程等を行ってアルミニウム合金素線を製造する際の、断線1回当たりのアルミニウム合金素線の長さを意味する。例えば、50000mのアルミニウム合金素線の製造の際に2回断線したときは、断線率は50000m/2回、すなわち、25000m/回となる。断線率が大きいほど、製造時の断線の発生頻度が低いことを意味する。
【0024】
本実施形態のアルミニウム合金素線は、断線の発生率が小さいため、伸線加工前にアルミニウム合金線材の表面層を剥がす処理、いわゆる皮むき処理を不要にすることができる。ここで、皮むき処理とは、伸線加工前のアルミニウム合金線材の表面層を剥がすことにより、この表面層に存在する傷が最終製品であるアルミニウム合金素線に残存することを防止する処理である。本実施形態で用いられるアルミニウム合金は、加工性が高いため、いわゆる皮むき処理を行わなくてもアルミニウム合金素線の製造時の断線の発生頻度を低くすることが可能である。
【0025】
Feは、アルミニウム合金において、固溶限が低く、析出強化が主な強化機構となり、導電率を下げずにアルミニウム合金の強度を増加させることのできる元素である。この効果を得るために、Feは、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中に0.1質量%以上1.0質量%未満含まれる。上記効果を好ましく得るために、Feは上記アルミニウム合金中に、0.4〜0.9質量%含まれることが好ましい。なお、アルミニウム合金素線の原料であるアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のFeの含有量が、上記アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中のFeの含有量と同じ数値範囲内にあることが好ましい。
【0026】
Zrは、アルミニウム合金の耐熱性の向上に有効な元素であり、固溶強化により強度向上を図ることのできる元素である。この効果を得るために、Zrは、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中に0〜0.08質量%含まれる。上記効果を好ましく得るために、Zrは上記アルミニウム合金中に、0〜0.05質量%含まれることが好ましく、また、実用的には0.02〜0.08質量%とすることができる。なお、アルミニウム合金素線の原料であるアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のZrの含有量が、上記アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中のZrの含有量と同じ数値範囲内にあることが好ましい。
【0027】
Siは、アルミニウム合金の強度の向上に有効な元素である。この効果を得るために、Siは、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中に0.02〜2.8質量%含まれる。上記効果を好ましく得るために、Siは上記アルミニウム合金中に、0.02〜1.8質量%含まれることが好ましく、0.02〜0.25質量%含まれることがより好ましい。なお、アルミニウム合金素線の原料であるアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のSiの含有量が、上記アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中のSiの含有量と同じ数値範囲内にあることが好ましい。
【0028】
Cu及びMgは、固溶強化によりアルミニウム合金の強度向上を図ることのできる元素である。本実施形態のアルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中には、CuとMgとのうちの少なくとも一方が含まれる。Cuは、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中に通常0.05〜0.63質量%含まれる。上記効果を好ましく得るために、Cuは上記アルミニウム合金中に、0.2〜0.5質量%含まれることが好ましく、また、実用的には0.06〜0.49質量%とすることができる。Mgは、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中に通常0.03〜0.45質量%含まれる。上記効果を好ましく得るために、Mgは上記アルミニウム合金中に、0.04〜0.45質量%含まれることが好ましく、0.15〜0.3質量%含まれることがより好ましく、また、実用的には0.03〜0.36質量%とすることができる。CuとMgが共に含まれる場合、上記アルミニウム合金中のCuとMgの合計量は0.04〜0.6質量%であることが好ましく、0.1〜0.4質量%であることがより好ましい。なお、アルミニウム合金素線の原料であるアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のCuやMgの含有量が、上記アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中のCuやMgの含有量と同じ数値範囲内にあることが好ましい。
【0029】
以上の各元素の含有量は、母材となるアルミニウム地金にはじめから含まれているSi、Fe、Cu、Mgの各量を含む含有量である。すなわち、上記各元素の含有量は、必ずしも添加量を意味するものではない。
【0030】
これらの各元素はそれぞれ、上記範囲を超えて多量に含まれるとアルミニウム合金の導電率を低下させてしまうため好ましくない。具体的には、自動車用電線として必要な導電率58%IACSを達成するためには、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中で、Zrは0.08質量%以下、Siは2.8質量%以下、Cuは0.63質量%以下、Mgは0.45質量%以下の範囲でそれぞれ含有される。
【0031】
本実施形態で用いられるアルミニウム合金は、上記のTi、Fe、Zr、Si、Cu、Mg等を除いた残部がアルミニウム及び不可避不純物である。このアルミニウム合金に含まれる可能性がある不可避不純物としては、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ルビジウム(Pb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)などが挙げられる。これらは本実施形態の効果を阻害せず、本実施形態のアルミニウム合金の特性に格別な影響を与えない範囲で不可避的に含まれるものであり、使用する純アルミニウム地金に予め含有されている元素も、ここでいう不可避不純物に含まれる。
【0032】
不可避不純物の量としては、アルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金中に合計で0.07%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
【0033】
アルミニウム合金は、アルミニウム地金に所定の元素を添加し、通常の製法に従って鋳造することができる。
【0034】
本実施形態に係る電線又はケーブルは、導体として、上記アルミニウム合金からなる素線を含むものである。ここで、アルミニウム合金素線を含むとは、単線(すなわち、単線導体)である素線を複数本(3本〜1500本、例えば11本)撚り合わせて形成した撚線(すなわち、撚線導体)として含むことも意味しており、一般的には撚線(芯線ともいう)の形態で含んでいる。
【0035】
本実施形態に係る電線又はケーブルでは、電線に含まれるアルミニウム合金素線の構成及び本数は特に限定されない。例えば、電線は、中心部に1本のアルミニウム合金素線又は複数本が撚られてなるアルミニウム合金素線集合体(以下、「第1素線部」という)が配置されるとともに、第1素線部の外周に複数本のアルミニウム合金素線が撚られてなる層(以下、「第2素線部」という)が形成された2層構造を採ることができる。また、電線は、2層構造の電線の第2素線部の外側に、複数本のアルミニウム合金素線が撚られてなる層(以下、「第3素線部」という)がさらに形成された3層構造を採ることもできる。
【0036】
2層構造のアルミニウム合金電線の具体例としては、第1素線部が1本のアルミニウム合金素線からなるとともに第2素線部が6本のアルミニウム合金素線からなるもの(以下、「1−6タイプ電線」という)、第1素線部が3本のアルミニウム合金素線からなるとともに第2素線部が8本のアルミニウム合金素線からなるもの(以下、「3−8タイプ電線」という)、第1素線部が6本のアルミニウム合金素線からなるとともに第2素線部が10本のアルミニウム合金素線からなるもの(以下、「6−10タイプ電線」という)、等が挙げられる。また、3層構造のアルミニウム合金電線の具体例としては、第1素線部が1本のアルミニウム合金素線からなり、第2素線部が6本のアルミニウム合金素線からなるとともに、第3素線部が12本のアルミニウム合金素線からなるもの(以下、「1−6−12タイプ電線」という)等が挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る電線又はケーブルでは、電線に含まれるアルミニウム合金素線が製造途中で圧縮処理を経たために、隣接するアルミニウム合金素線同士の隙間が減少するようにアルミニウム合金素線の断面が変形したものであってもよい。ここで、圧縮処理とは、断面が円形のアルミニウム合金素線を複数本撚ってなる撚線を外周から圧縮することにより、隣接するアルミニウム合金素線同士の隙間が減少するようにアルミニウム合金素線の断面を変形させる処理である。
【0038】
変形されたアルミニウム合金素線は、断面が、例えば、六角形状、扇形形状やC字形状になる。ここで、扇形形状は、円を半径で複数個に分割して得られる扇形形状である。また、C字形状は、ドーナツ状等の径方向に幅を有するリングを径方向に沿って切断して複数個に分割してなる場合の、分割された一部分の形状である。このような、断面が扇形形状やC字形状のアルミニウム合金素線が複数本撚られると、複数本のアルミニウム合金素線が撚られてなる集合体の断面が円形又はリング状になる。
【0039】
変形されたアルミニウム合金素線の断面が、六角形状、扇形形状及びC字形状等のいずれになるかは、アルミニウム合金素線の撚られ方による。例えば、1−6タイプ電線では、第1素線部の1本のアルミニウム合金素線の断面形状が六角形状、第2素線部の6本のアルミニウム合金素線の断面形状がそれぞれC字形状になる。また、3−8タイプ電線では、第1素線部の3本のアルミニウム合金素線の断面形状がそれぞれ扇形形状、第2素線部の8本のアルミニウム合金素線の断面形状がそれぞれC字形状になる。また、6−10タイプ電線では、第1素線部の6本のアルミニウム合金素線の断面形状がそれぞれ扇形形状、第2素線部の10本のアルミニウム合金素線の断面形状がそれぞれC字形状になる。さらに、3層構造の1−6−12タイプ電線では、第1素線部の1本のアルミニウム合金素線の断面形状が六角形状、第2素線部の6本のアルミニウム合金素線の断面形状がそれぞれC字形状、第3素線部の12本のアルミニウム合金素線の断面形状がそれぞれC字形状になる。
【0040】
このように圧縮処理を経た場合、アルミニウム合金電線は、次の効果を奏する。すなわち、アルミニウム合金電線を構成する、隣接するアルミニウム合金素線間に隙間が生じないため、アルミニウム合金電線の径を小さくすることができる。また、複数本のアルミニウム合金素線が撚られてなる集合体の外周がほぼ円形になるため樹脂等で被覆するときに、被覆層の厚さを薄くすることができるとともに樹脂等の材料の使用量を減少させることができる。樹脂等の材料の使用量の減少は、集合体の外周の表面形状に凹凸が少ないためにこの凹凸部に入り込む樹脂量が少ないことによる効果である。また、被覆層の厚さの減少は、複数本のアルミニウム合金素線が撚られてなる集合体の外周がほぼ円形になるため、被覆層の厚さを必要最小限の厚さにすることができることによる効果である。
【0041】
圧縮処理が行われた場合、アルミニウム合金電線の占積率は、通常90%以上である。ここで、占積率とは、アルミニウム合金電線を構成するアルミニウム合金素線のうち、最外延部に配置された複数本のアルミニウム合金素線の外接円の面積に対する、アルミニウム合金素線の断面積の合計値の比率である。例えば、(14)の圧縮処理が行われた1−6タイプ電線の場合において、第2素線部の6本に外接する外接円の面積が100、第1素線部の1本のアルミニウム合金素
線及び第2素線部の6本のアルミニウム合金素線の断面積の合計値が95であるときは、占積率は95%と算出される。
【0042】
なお、圧縮処理が行われない場合、アルミニウム合金電線の占積率は、通常72%以上である。圧縮処理が行われない場合は、各アルミニウム合金素線の断面形状が円形であるため、隣接するアルミニウム合金素線間に隙間が生じやすい。このため、圧縮処理が行われない場合のアルミニウム合金電線は、圧縮処理が行われた場合のアルミニウム合金電線に比較して、占積率が小さくなる。
【0043】
電線は、裸線であるこの撚線を任意の絶縁樹脂層で覆った被覆線であり、この電線を複数本束ねて1本に収束し外装を組み付けたものがワイヤーハーネスである。
すなわち本実施形態に係る電線又はケーブルは、上記アルミニウム合金からなる素線を含む導体(すなわち、撚線)と、その導体の外周に設けられる被覆層とを含むものであればよく、その他の具体的な構成及び形状、並びに製造方法は、何ら限定されることはない。
【0044】
導体を構成するアルミニウム合金素線の形状等についても特に限定されないが、例えば素線が丸線であって自動車用の電線に使用する場合は、直径(すなわち、最終線径)は0.07〜1.5mm程度であることが好ましく、0.14〜0.5mm程度であることがより好ましい。
【0045】
被覆層に用いられる樹脂の種類は、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂や、塩化ビニルなど公知の絶縁樹脂を任意に使用でき、その被覆厚は適宜定められる。この電線又はケーブルは、電気又は電子部品、機械部品、車両用部品、建材などの様々な用途に使用することができる。なかでも、車両用電線又はケーブルとして好ましく使用できる。
【0046】
電線又はケーブルの導体となるアルミニウム合金素線は、通常の製法にしたがって荒引線を製造し、これを伸線することにより製造される。伸線加工に際し熱処理(焼鈍)が適宜行なわれてもよいが、熱処理前に最終線径にまで伸線されたアルミニウム合金素線であることが好ましい。伸線加工前及び伸線加工途中の熱処理を行なわずに伸線されることで、加工硬化が抑制され、また、伸線加工後に焼鈍を行うことで、導電率及び伸び等の特性を向上させることができる。
【0047】
したがって、アルミニウム合金素線の好ましい製造方法としては、次の第1の方法又は第2の方法が挙げられる。すなわち、第1の方法は、(1)上記アルミニウム合金を用いて荒引線を形成する工程(圧延工程)、(2)得られた荒引線を最終線径にまで伸線する工程(減面加工工程)、(3)伸線加工後の線材を連続焼鈍又はバッチ焼鈍する工程、及び(4)焼鈍後の線材を撚って撚線にする工程(撚り工程)を有する方法である。
【0048】
また、第2の方法は、(11)上記アルミニウム合金を用いて荒引線を形成する工程(圧延工程)、(12)得られた荒引線を最終線径にまで伸線する工程(減面加工工程)、(13)伸線加工後の線材を撚って撚線にする工程(撚り工程)、(14)撚線を外周から圧縮して、撚線の径を小さくする工程(圧縮工程)、及び(15)圧縮された撚り線を連続焼鈍又はバッチ焼鈍する工程、を有する方法である。ここで(2)及び(12)の伸線加工工程は、減面加工を意味し、熱処理工程を含まない。したがって、工程(2)及び(12)の伸線加工は、熱処理を伴わずに行なわれる。
【0049】
第1の方法及び第2の方法において、(1)及び(11)の圧延工程に供される上記アルミニウム合金は、鋳造により製造される。鋳造工程としては、例えば、ベルトホイール鋳造機による連続鋳造方法で棒状体を得る方法、アルミニウム塊であるビュレットを押出成形して押出材を得る方法、が用いられる。
【0050】
(14)の圧縮工程は、断面が円形のアルミニウム合金素線を複数本撚ってなる撚線を外周から圧縮することにより、隣接するアルミニウム合金素線同士の隙間が減少するようにアルミニウム合金素線の断面を変形させる工程である。
【0051】
ところで、第2の方法を採用し、(14)の圧縮工程が行われた場合、圧縮工程の後に、第1の方法の(3)焼鈍工程と同様の(15)焼鈍工程が行われる。第2の方法では、(14)の圧縮工程によりアルミニウム合金線材に大きな加工歪が加えられるため、この加工歪を除去するために(14)の圧縮工程の後に(15)焼鈍工程が行われる。
【0052】
第1の方法によれば、鋳造後に、圧延、伸線加工(減面加工)、焼鈍処理、撚り加工という工程の流れで素線を製造することができる。また、第2の方法によれば、鋳造後に、圧延、伸線加工(減面加工)、撚り加工、圧縮加工、焼鈍処理という工程の流れで素線を製造することができる。このため、第1の方法又は第2の方法は、従来法の鋳造、圧延、伸線加工、熱処理、伸線加工、熱処理という工程からなる製造方法に比較し、伸線加工や熱処理が1回ずつで済むため、時間とコストの両面で、著しく効果が高い製法である。
【0053】
各工程は、公知の方法により行うことができ、上記(1)〜(4)以外にも、例えば面削工程など、必要に応じて素線製造のためのその他の工程を含んでいてもよい。上記(1)の荒引線への加工は、連続鋳造圧延法、押出法などにより行うことができる。圧延は、熱間圧延、冷間圧延のいずれであってもよい。上記(2)及び(12)の伸線加工は、乾式又は湿式の伸線機を用いて行なわれ、その条件は特に限定されることはない。
【0054】
上記アルミニウム合金は、伸線加工性に優れるため、例えば、直径9.5mmの荒引線を、熱処理を行うことなく、仕上り直径0.3mm程度にまで伸線することができる。
【0055】
上記(3)及び(15)の焼鈍工程において、連続焼鈍は、連続焼鈍炉を用いて行うことができ、例えばアルミニウム線を所定速度で搬送して加熱炉中を通過させ、所定区間において加熱して焼鈍することができる。連続焼鈍方法としては、通電による連続焼鈍や誘導による連続焼鈍が用いられる。加熱手段としては、例えば、高周波加熱炉等が挙げられる。また、雰囲気炉等を用いたバッチ焼鈍も好適に利用できる。搬送速度、焼鈍時間、焼鈍温度などは特に限定されず、焼鈍後の冷却条件も特に限定されることはない。上記(3)及び(15)の焼鈍工程では、焼鈍方法として連続焼鈍を用いると、オンラインで焼鈍できるため好ましい。
【0056】
以上述べたように、本実施形態では、上記組成のアルミニウム合金をアルミニウム合金素線の原料として用いることで、熱処理前の伸線加工とその後の焼鈍が可能である。一般的に、この伸線加工後の熱処理を行うと、アルミニウム合金素線の導電率と伸び特性を向上させることができるが、一方で加工により硬化したアルミニウム合金を軟化させるため強度(引張強さ)低下が伴う。しかし、実施形態に係るアルミニウム合金素線の材質であるアルミニウム合金は、強度低下が生じてもなお、強度も含め様々な要求特性を満たすことができる組成である。このため、このアルミニウム合金を用いたアルミニウム合金素線によれば、アルミニウムの特長である軽量性を備え、良好な導電率を維持し、良好な伸び率と充分な引張強さを備えたアルミニウム合金素線を得ることができる。
【0057】
実施形態に係るアルミニウム合金素線の特性は、引張強さが120MPa以上であり、導電率が58%IACS以上である。引張強さは120〜150MPaであることが好ましく、120〜140Mpaであることがより好ましい。導電率は、58〜64%IACS%であることが好ましい。なお、導電率は、純アルミニウムの64%IACS以下である。アルミニウム合金素線は、伸び率が10%以上、10〜30%であることが好ましく、15〜20%であることがより好ましい。さらに、伸線加工性については、断線率が、好ましくは25000m/回以上、より好ましくは33000m/回以上である。ここで、断線率とは、アルミニウム合金荒引線から伸線工程等を行ってアルミニウム合金素線を製造する際の、断線1回当たりのアルミニウム合金素線の長さである。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1〜7、並びに比較例1及び2]
JIS H 2102の1種アルミニウム地金を用い、ここに所定量のTi、Fe、Zr、Mg、並びにCu又はSiを添加して表1に示す成分組成のアルミニウム合金を得た。これを常法により溶解し、連続鋳造圧延法により線径9.5mmの荒引線に加工した。
次にこの荒引線を、表面の傷がなくなるまで表面を除去する皮むき処理をした後、連続伸線機を用いて伸線し、直径0.32mmの線材(細線)を得た。この線材に連続焼鈍を行ない、アルミニウム合金素線を製造した。
【0060】
(評価)
得られた線径0.32mmのアルミニウム合金素線について、JIS C3002に準拠して以下の特性を評価した。導電率は、20℃(±0.5℃)に保った恒温槽中で、四端子法を用い、その比抵抗を測定して導電率を算出した。端子間距離は1000mmとした。引張強さは、引張速度50mm/分で測定した。
得られた結果を、表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例8]
また、皮むき処理をしない以外は実施例2と同様にして、アルミニウム合金素線を製造した。実施例2及び8のアルミニウム合金素線は、共に、Tiを0.005質量%含む合金No.2を用いたものである。実施例2及び8のアルミニウム合金素線の相違点は、皮むき処理の有無にある。
(評価)
実施例2及び8のアルミニウム合金素線について、断線率を測定した。断線率は、アルミニウム合金荒引線から伸線工程等を行ってアルミニウム合金素線を製造する際の、断線1回当たりのアルミニウム合金素線の長さとして算出した。例えば、50000mのアルミニウム合金素線の製造の際に2回断線したときは、断線率は50000m/2回、すなわち、25000m/回となる。断線率が大きいほど、製造時の断線の発生頻度が低いことを意味する。
得られた結果を、表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例のアルミニウム合金素線は、導電率及び引張強さに優れており、自動車用電線又はケーブルの導体として好ましく使用できることが確認された。
これに対し、比較例のアルミニウム合金素線は、所望の導電率を達成することができなかった。
【0065】
特願2014−137543号(出願日:2014年7月3日)の全内容は、ここに援用される。