(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
保持/強度向上化学物質が、一つ又は複数の天然デンプン、非イオン性、アニオン性、カチオン性又は両性デンプン、調理されたデンプン、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、PAAE(ポリアミドアミン−エピクロロヒドリン)、c−PAM(カチオン性ポリアクリルアミンポリマー)、a−PAM(アニオン性PAM)、シリケート、ナノ粒子、ポリビニルアミン及びポリアクリレート(PA)の共重合体、並びにアクリルアミドのアニオン性共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
紙及び板紙は、繊維懸濁液、いわゆる製紙紙料又は完成紙料(paper making stock or furnish)から製造され、紙又は板紙製造機の一本のワイヤ又は複数のワイヤを通して、繊維懸濁液から水を排出することにより製造される。紙料は、例を挙げると、例えば、化学パルプ、化学機械パルプ、機械パルプ、リサイクルパルプのような多数の繊維状成分を含んでもよく、例えば、フィラー、保持助剤、サイズ剤、紙染料、湿潤強度及び乾燥強度向上化学物質のような種々の添加剤を含んでもよい。
【0003】
フィラーは、通常細かく分割された鉱物製品で、普通約0.5から5マイクロメーターのサイズの範囲内にある。フィラーは、製紙繊維よりもかなり安価であるので、フィラーの主な機能は、紙の単位質量当たりの材料コストを低減することにある。フィラーの他の機能は、不透明度を増加させ、最終製品の滑らかさを増加させることにある。生産される紙又は板紙の種類は、フィラー、フィラーのブレンド、及び製品におけるそれらのレベルの選択に大きな影響を有している。最も重要なフィラーは、炭酸カルシウムとカオリン粘土、別名、焼成カオリンである。ほとんどのフィラーは、乾燥粉末又はスラリーのいずれかとして製紙工場に配送される。炭酸カルシウム一つの形態、すなわち、沈降炭酸カルシウム(PCC)は、多くの場合、製紙工場に隣接した工場、オンサイトで調製され、スラリーとして抄紙機に配送される。最近、PCCのインライン生産が、ミルスケールのアプリケーションにおいて、首尾よく試験されてきている。PCCのインライン生産によれば、パイプライン中に紙料が存在する状況で、その紙料又は完成紙料を抄紙機又は板紙機(paper or board machine)のヘッドボックスへと運んでいき、純粋な二酸化炭素又は二酸化炭素含有ガスにより、石灰乳(MOL)の炭酸化が行われる方法が実現する。
【0004】
石灰乳は、石灰石(炭酸カルシウム)を高温で焼成してCO
2を除去し、得られた石灰(酸化カルシウム)を水の添加により消和して石灰懸濁液(水酸化カルシウム)を形成することによって、生産することができる。
【0005】
フィラーの使用における欠点は、すでに上記したとおり、フィラーが紙又は板紙の所望の特性である不透明度を増加させる一方で、フィラーはまた、紙又は板紙の強度を低下させるという事実と関連する。このように、紙製造業者は、不透明度と強度の間のバランスを見出す必要がある。良好な光学特性を有すると共に良好な製品強度を維持する一つの方法は、高品質フィラーを使用することである。高品質フィラーの良い例は、窯の中で超微細天然カオリンを高温で加熱することにより生産した無水ケイ酸アルミニウムである、焼成カオリンである。焼成プロセスでは、水酸化の水は、500〜700℃の温度で蒸気として最初に除去される。その後、加熱を1000℃まで継続し、超微細粒子がより大きな粒子へと凝集し始める。最終的にカオリン−比較的大きな内部細孔容積を有する空気界面を有する−が得られる。焼成後、粘土は任意の特大の凝集物を除去するために粉砕される。最終製品は、典型的には、非常に狭い粒径分布を有する。焼成カオリンは、スペシャリティーフィラーとして定義され、主に光散乱及び不透明度を高めるために適用され、また、印刷インク裏抜けの可能性を低減する。しかし、焼成カオリンの平均価格水準は、PCCに比べて約3倍である。実際には、これは、紙製造業者は、焼成カオリンより3倍以上のPCCを使用することができることを意味する。しかし、そのようなPCCの高い使用量増加は、必然的に紙の強度を大幅に減少させることを意味する。
【0006】
フィラーの使用におけるさらなる欠点は、フィラーが繊維間結合を妨げる傾向があることであり、紙の強度を低下させる。別の欠点は、小型のフィラーが、抄紙機のワイヤを通過し、最終的にろ液中に出ていってしまう傾向があることである。フィラー保持率(filler retention)は、ワイヤ上のウェブ中に残るフィラーの割合を記述する用語である。その値が低いほど、保持が弱い。さらなる欠点は、紙の品質を低下させる凝集体を形成するというフィラーの傾向である。したがって、フィラーを使用するためにはいくつかの伝統的なルールがある。すなわち、(a)製紙紙料又は完全紙料に添加する前に、フィラー材料が個々の粒子に完全に分散されていることを確認すること。上記目的のために、時には特定の化学物質、すなわち分散剤を使用すること。(b)他の添加剤に悪影響を及ぼさない位置で、それを完成紙料と混合すること、及び(c)抄紙機ワイヤ上の繊維マット中にそれを保持すること。最初と最後の目標は、時には互いに対立することがあり、安定な懸濁液を作り出すために大量の分散剤が使用されている場合は特にそうである。また、フィラーがより微細な材料であればあるほど、ウェブ及びワイヤからより容易にろ過され、保持が弱くなることが明らかである。保持率を改善するため、1又は複数の保持剤が完成紙料に供給され、フィラーを完成紙料中の繊維及び他の固形物にフロック加工する。上記から、フィラーの使用増を促進するために、例えば、分散剤、強度向上化学物質及び保持剤などのさらなる化学物質が、日常的に使用されていることを理解すべきである。
【0007】
さらに、紙の強度、すなわち、内部結合、破裂強度、引張強度などを向上する化学物質もまた使用され、それらは種々の天然及び人工又は合成ポリマーを含む。最も広く使用されている強度向上化学物質の一つはデンプンである。デンプンは、非イオン性、アニオン性、カチオン性若しくは両性のデンプン、又は上記デンプンの2種若しくはそれ以上の混合物であってもよい。デンプンは、修飾されていない、酸化された、架橋されたエステル若しくはエーテルの形態であってもよく、又は他の任意の手法で修飾されていてもよい。デンプンは、任意の原料、例えば、ジャガイモ、トウモロコシ(maize)、小麦、タピオカ、rize、トウモロコシ(corn)、モチトウモロコシ(waxy maize)又はモチトウモロコシ(waxy corn)に基づいていてもよい。カルボキシメチルセルロース(CMC)及びグアーガム誘導体は、最もポピュラーな天然ポリマーである。
【0008】
PAAE(ポリアミドアミン−エピクロロヒドリン)、c−PAM(カチオン性ポリアクリルアミンポリマー)、a−PAM(アニオン性PAM)、シリケート、ナノ粒子、ポリビニルアミン及びポリアクリレート(PA)の共重合体、アクリルアミドのアニオン性共重合体、又は他のアクリルアミドポリマーは、広く使用される合成強度向上化学物質の例である。
【0009】
保持化学物質及び強度向上化学物質の区別は、両化学物質の動作原理は同じであることから、実際には、無視することができる。そして、それらは、完成紙料にほぼ同時に、すなわち、抄紙機のヘッドボックスの上流で完成紙料に導入される。
【0010】
国際公開第2007/067416号A1は、紙又は板紙の生産において、フィラーとして使用するための沈降炭酸カルシウム(PCC)をオンサイトで生産する方法を論じている。そこでは、デンプンの存在下で水酸化カルシウムの炭酸化が行われる。上記の方法で生産された沈降炭酸カルシウムは、フィラーとして使用されると、紙の発塵傾向を減少させ、紙又は板紙の強度を向上させる。上記の結果は、デンプンが小規模のフィラー粒子と結合し、それら粒子が紙の中でルーズにならないようにしていることに起因しており、これにより、それらは発塵を発生する原因とならない。前記の国際公開公報中で論じられたプロセスでは、繊維及び微細繊維が存在すると、PCC粒子中へのデンプンの取り込みを妨げると考えられているので、PCCはオンサイトで生産されている。PCC−デンプン混合物は、製紙工場で使用するために、ポンプを用いて又はタンクローリーを用いて輸送される。
【0011】
米国特許第2,188,494号、米国特許第3,443,890号及び米国特許第6,294,143号B1は、デンプンの存在下、あるいは広い意味で炭水化物の存在下で、PCCを製造する同様の方法を論じている。
【0012】
しかし、従来技術の刊行物で説明されたように、デンプン又は炭水化物の存在下でのPCCの生産を考慮した場合、例えば、上記の国際公開公報は、繊維及び微細繊維がPCC粒子中へのデンプン及び/又はカルボキシメチルセルロースの取り込みを妨げるので、沈降炭酸カルシウムは、最も好ましくは繊維の存在下では生産されないことを教示する。さらに、製紙プロセスから分離された、すなわち、紙製造時にin−situではない沈降炭酸カルシウムの生産によれば、プロセスの制御がより容易になることを教示する。換言すると、従来技術では、繊維又は微細繊維が存在する場合、デンプンはPCC微粒子と結合する能力を失うという明らかな偏見があり、それにより、繊維との十分な結合を確保するためには、すなわち、PCCの保持率及び紙又は板紙の強度を向上させるためには、過剰な量の保持/強化向上化学物質が使用されるべきであることが予期され得る。
【0013】
国際公開第2009103853号A2は、インジェクションミキサーを用いて濃厚な紙料成分を完成紙料に導入することを論じている。この文献はまた、濃厚な完成紙料を注入する一方で、石灰乳のような化学物質もまた、濃厚な紙料成分と一緒に導入することができることを示唆している。この文献は、ヘッドボックススクリーンより前で、石灰乳及び二酸化炭素を完成紙料に導入し、ヘッドボックススクリーンより後で、保持化学物質を繊維回収フィルターの細粒分と一緒に導入し、それにより、PCCの沈降が保持化学物質の注入に先立って起こるようにすることを、さらに教示する。この文献はさらに、あらかじめ、すなわち、濃厚な紙料成分を完成紙料に注入する前に、どのようにして種々の添加剤を濃厚な紙料成分と混合するかについて論じている。
【0014】
国際公開第2009103854号A2は、繊維ウェブ機の短循環路内のPCCの沈降について論じている。この文献は、完成紙料中へのPCCの沈降の後に、繊維ウェブの製造において必要とされる全ての又は少なくとも実質的に全ての化学物質を導入することを示唆している。
【0015】
独国特許出願公開第102007029688号A1は、紙製造のためのPCCを製造する方法を論じている。この文献は、水、石灰乳、二酸化炭素及び結晶化用の核が導入された別個の反応器中でのPCCの調製について教示する。この文献は、核として、微細繊維、微細不純物、保持剤、デンプンなどを使用してもよいことを教示する。PCCが沈降した後、懸濁液は、完成紙料の繊維状成分、すなわち、例えば製紙繊維と混合するために導入される。このようにして、この文献は、先に説明した国際公開第2007/067146号A1の方法で、他の選択肢の中でもとりわけ、デンプン又は保持化学物質の存在下でのPCCの沈降を教示する。しかし、論じられた方法には、いくつかの欠点がある。第一に、PCC結晶を微細繊維上、微細不純物上などに沈降させると、比較的不活性である小サイズの粒子をもたらし、完成紙料に後で添加される保持化学物質によって繊維に結合されなければ、紙製造における白水にろ過されやすくなる。そして第二に、核が保持化学物質分子で構成されている場合、その分子は、沈降反応の間に、PCC結晶により取り囲まれ、その分子は、後で繊維に接触する場合に、繊維に付着するための自由表面を全くもたないか、あるいはほとんどもたないようになるであろう。
【0016】
したがって、従来技術の主な問題は、
・オンサイト設備で、PCC生産に関する高い投資、高エネルギー、高ランニングコスト及び高メンテナンス費用、
・高い不透明度と高強度の両立が必要とされる場合、高品質で高価なフィラーの使用の増加、
・高い不透明度と高強度の両立が必要とされる場合、保持/強度向上化学物質の使用の増加、及び
・PCC結晶の不均質性。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、上記の従来技術の方法と関連して論じられた問題の少なくとも一部を回避する、PCCを生産する新規な方法を開発することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、保持/強度向上ポリマーの存在下で、PCCを製造する新規な方法を開発することである。
【0019】
本発明のなおさらなる目的は、高価な高品質フィラーを使用する必要なしに、高不透明度を有する紙又は板紙、より一般的には繊維ウェブ、を提供する新規な手法を開発することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、繊維ウェブ中のPCC/フィラーの保持率が増加する、PCCを製造する新規な方法を開発することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、繊維ウェブの強度特性が改善する、PCCを製造する新規な方法を開発することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、繊維ウェブ中のフィラーの割合が増加する、PCCを製造する新規な方法を開発することである。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、強度向上/保持化学物質の必要性が低減する、PCCを製造する新規な方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的の少なくとも一つは、本発明において、以下の工程を含む、フィラーを有する繊維ウェブ製造完成紙料を提供する方法によって達成される。
(a)繊維ウェブ機のヘッドボックスに繋がるパイプラインに完成紙料を供給する工程、
(b)ヘッドボックスに向かって、繊維ウェブ製造繊維を含む完成紙料の流れを作る工程、
(c)強度向上/保持化学物質分子が石灰乳粒子に付着するように、少なくとも一つの保持/強度向上化学物質を石灰乳とインジェクションミキサー内で一緒に混合する工程、
(
d)少なくとも
前記一つの保持/強度向上化学物質を石灰乳と同時に完成紙料に導入する工程、
(
e)工程(
d)の前、間又は後に、完成紙料にCO
2を供給する工程、及び
(
f)繊維ウェブ製造繊維と少なくとも一つの保持/強度向上化学物質の両方の存在下において、石灰乳と二酸化炭素との間で炭酸化反応を進行させる工程。
【0025】
上記目的の少なくとも一つは、繊維ウェブの製造においてこのように生産されたPCCを用いる手段により達成される。
【0026】
本発明を特徴づける他の特徴は、添付の特許請求の範囲で明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0027】
本発明による方法によって得られた、従来技術の方法を超える利点は、例えば:
・インライン法で生産されたPCCの品質は、抄紙機外でのPCC生産を含む手法であって炭酸カルシウムフィラーを生産するいかなる他の手法よりも、はるかに優れ、かつ均一である、
・PCC生産で必要とされる投資は、これまでオンサイトで又はサテライト工場で使用されたのと比較して、少なくとも半分に削減される、
・PCC生産エネルギーコストは、以前のPCC生産と比較して、約10分の1に削減される、
・清浄水の消費は、従来技術によるオンサイトPCCプロセスと比較して、実質的に削減される、
・紙生産は、より少ない保持化学物質を必要とするか、全く必要としない、
・紙生産において、これまで使用したよりも多量のフィラーを使用することにより、高価な繊維材料の使用を節約する、
・紙生産において、これまで使用したよりも低品質のフィラーを使用することにより、フィラー関連の費用において節約を生み出す、
・疎水性接着剤及び保持助剤の必要性が低減される、
・製紙水サイクルはよりクリーンになり、及び/又は精製化学物質の必要性は低減され、並びに水サイクルはこれまでよりもクローズ化されることができ−操業性が改善され、並びに
・オンラインでインラインシステムを制御しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
強度向上/保持化学物質の存在下(ただし、紙/板紙製造原料、より一般的には、繊維ウェブ製造繊維が存在しない場合)においては、PCCのin−situ生産には種々の欠点があるため、PCCのインライン生産、すなわち、繊維と強度向上/保持化学物質の両方の存在下でのPCCの生産を検討することにした。そのような生産が、PCCの品質、繊維懸濁液中のPCCの保持率、及び強度向上/保持化学物質の消費の観点から、オンサイトプロセスと競合し得ることが証明されるならば、in−situプロセスに関する種々の欠点及び問題点のうちの少なくともいくつかは、脇に置いておくことができる。
(例1)
【0030】
紙料中のPCCの保持率を検討するため、紙料中にPCC及び強度向上又は保持ポリマーを導入する種々の手法を利用して、多数の実験を行った。試験した紙料は以下の通りであった。
【0031】
実験1では、試料1、すなわち、参照紙料は、ECF漂白され(elemental chlorine free、塩素元素を含まない)未乾燥及び未精製の硫酸樺パルプ(sulphate birch pulp)であった。硫酸樺パルプは、通常の抄紙機のヘッドボックスの稠度(consistency)に対応して約1パーセントの稠度を有していた。500gのパルプを実験室用ミキサーに注いだ。ミキサーは、ワイヤで形成された底部を有し、底部の下に、バルブと、試料からろ液を排出するためのろ液導管とを有していた。ミキサーにはまた、伝統的な、すなわちインラインではなくオンサイトで生産された、PCCスラリーを添加した。添加したPCCの量は、乾燥した上質紙中の通常のフィラー量(28%)に対応する量に調整した。パルプ及びPCCを、250rpmの速度で60秒間撹拌し、その後、回転子速度を30秒間500rpmに上げた。500rpmの速度でミキサーの回転子によって作られたせん断力は、抄紙機の短循環路及びヘッドボックス内のせん断力に対応している。30秒後にミキサーの底部のバルブを開放し、パルプからろ液を排出する間、さらに30秒間撹拌を継続した。混合し、ろ過した試料から回収したろ液を燃焼して、ろ液中のフィラー含有量Ffを調べた。
【0032】
フィラー保持率、すなわち、ワイヤ上でウェブ中に保持されたPCCの量を決定するために、別の同等な試料を、同様な方法、すなわちミキサーで60秒間/250rpmと30秒間/500rpm混合して調製し、燃焼して、そのフィラー含有量Fpを調べた。フィラー保持率Fretは、以下の式を用いて算出される。
Fret=100*(Fp−Ff)/Fp
【0033】
実験2では、試料2、実験1と同じ基本紙料を使用した。すなわち、基本紙料は、漂白され乾燥及び未精製の針葉樹パルプであり、約1パーセントの稠度を有していた。PCCを、炭酸化反応器内でインライン法により炭酸化し、1%の稠度を有する試料を得た。パルプと石灰乳の両方を炭酸化反応器内に注ぎ、反応器を閉じて化学量論量(石灰乳との関係で)のCO
2を充填した。反応器の内容物を2秒間(回転子速度を2660rpmに加速するために0.5秒、速度を維持するために1秒、及び回転子速度を0rpmに減速するために0.5秒)激しく撹拌して、石灰乳の水酸化カルシウムをCO
2と反応させ、炭酸カルシウムに結晶化させた。紙料中のPCCの最終的な量が、乾燥した上質紙中の通常のフィラー量(28%)に対応するよう、石灰乳とCO
2の総量を事前に計算した。
【0034】
その後、500gの重量を有する試料の一部を燃焼して、パルプ又は紙料の灰含有量Fpを調べ、かつ、500gの重量を有する試料の別の一部を、例1で説明した実験室用ミキサーに注いだ。500rpmの速度で撹拌を開始し、25秒撹拌した後、パルプの従来の量(3kg/トン)に対応する量の強度向上/保持ポリマーを添加した。その保持化学物質はカチオン性ポリアクリルアミド(c−PAM=cationic polyacrylamine polymer)であった。c−PAMと混合して5秒後にミキサーの底部のバルブを開放し、パルプからろ液を排出するために撹拌をさらに30秒継続した。次に、撹拌を停止し、ろ液を燃焼して、その灰含有量Ff、すなわちワイヤを通過したフィラーの量を調べた。フィラー保持率Fretは、例1で説明したように算出した。
【0035】
実験3では、試料3、実験1と同じ基本紙料を使用した。すなわち、基本紙料は、漂白され乾燥及び未精製の針葉樹パルプであり、約1パーセントの稠度を有していた。パルプを炭酸化反応器内に注いだ。石灰乳に、乾燥CA(OH)
2の0.3%保持/強度向上ポリマー(c−PAM)を添加した。c−PAMの量は、パルプ1トン当たり225gに対応する。その後、石灰乳−ポリマー混合物を炭酸化反応器内に注いだ。次に、PCCを、炭酸化反応器内でインライン法により、反応器を閉じて化学量論量のCO
2で充填することにより、炭酸化した。反応器の内容物を2秒間(回転子速度を2660rpmに加速するために0.5秒、速度を維持するために1秒、及び回転子速度を0rpmに減速するために0.5秒)激しく撹拌して、石灰乳の水酸化カルシウムをCO
2と反応させ、炭酸カルシウムに結晶化させた。PCCの最終的な量が、乾燥した上質紙中の通常のフィラー量(28%)に対応するよう、石灰乳とCO
2の量を事前に計算した。
【0036】
その後、500gの重量を有する試料の一部を燃焼して、パルプの灰含有量Fpを調べ、かつ、500gの重量を有する試料の別の一部を、例1で説明した実験室用ミキサーに注いだ。500rpmの速度で撹拌を開始し、30秒撹拌した後、ミキサーの底部のバルブを開放し、パルプからろ液を排出するために撹拌をさらに30秒継続した。次に、撹拌を停止し、ろ液を燃焼して、その灰含有量Ff、すなわちワイヤを通過したフィラーの量を調べた。フィラー保持率Fretは、例1で説明したように算出した。
【0037】
実験4では、試料4、実験1と同じ基本紙料を使用した。すなわち、基本紙料は、漂白され乾燥及び未精製の針葉樹パルプであり、約1パーセントの稠度を有していた。パルプを炭酸化反応器内に注いだ。石灰乳に、乾燥CA(OH)
2 の1.0%保持/強度向上ポリマー(c−PAM)を添加した。c−PAMの量は、パルプ1トン当たり750gに対応する。その後、石灰乳−ポリマー混合物を反応器内に注いだ。PCCを、炭酸化反応器内でインライン法により炭酸化して試料を得た。例3と同様な手順を行って、フィラー保持率を調べた。
【0038】
表1は、強度向上ポリマー又は保持ポリマーの両方の存在下でPCCを製造する新規な方法をテストする際に行った実験について説明している。
【表1】
【0039】
実験1〜4の結果は、強度向上/保持ポリマーを石灰乳に添加することにより、繊維とポリマーの両方の存在下で、PCCの結晶化が起こることを示しており(例3及び例4)、ポリマーの量は大幅に低減され得る。より具体的には、0.3%の強度向上/保持ポリマー(乾燥CA(OH)
2の量から計算した)の存在下でPCCを炭酸化することにより、ポリマーを全く使用せずにPCCを炭酸化する場合に比べて、フィラー保持率を約
9パーセント単位増加させることができることを知得した。そして、さらに、そのポリマー量を3倍よりも多い1.0%にすると、フィラー保持率はさらに増加し、0.3%のポリマーの添加と比べてほぼ2%単位増加することを知得した。さらに、表には、オンサイトPCC(ポリマー及び繊維の存在下で炭酸化していないPCC)を用いてポリマーを4倍量(3000g)適用した場合、41%の保持率、すなわち、(石灰乳と一緒に750g適用した場合より)わずか2パーセント単位だけ高い保持率が得られたことが示されている。実際には、これは、少量の強度向上/保持ポリマーの存在下でPCCを炭酸化することにより、保持について大きな改善が得られることを意味する。さらに、フィラー保持率の大半を失うことなしに、強度向上/保持ポリマーの量を大幅に低減することができるように見える(実験では、伝統的な適用量の約10分の1まで)。当然のことながら、上記はまた、本発明に従ってPCCの炭酸化を行うことによって、保持ポリマーの特定の適用量により、従来の方法(例1及び例2)と比べて、繊維及びフィブリルの中や上に幾重にもPCCの量を保持することができることを明確に示している。ただし、表1中の上記の値は単に指標的なもので、厳密値とはみなすことはできないことを理解すべきである。例えば、パルプ、特にその希釈液として、未知の量のフィラー材料、すなわち灰が含まれている。これにより、実験の精度は、+/−2%である。
【0040】
上記の結果に基づくと、保持率が高いほどPCC−繊維複合体はより強くより安定であり、かつ、そのような完成紙料から製造される紙はより優れた強度特性
を有する、と仮定される。上記の仮定を検討するため、別の一連の試験を行った。
(例2)
【0041】
フィラーとして、一方で焼成カオリン、もう一方でインラインPCCの数種の変形例を用いて作製した紙の強度特性を比較するため、他の一連の実験を行った。インラインPCCを用いた実験では、3種の異なるPCCの変形例、すなわち、追加の保持/強度向上化学物質のないPCC、デンプンの存在下で炭酸化したPCC、並びに焼成カオリンと一緒に適用したデンプン及びCMCの存在下で炭酸化したPCC、を試験した。大部分の実験では、PCC濃度を6%に設定した。
【0042】
第二の一連の実験は次のようにして行った。まず、コーティングされていない多層液体包装用ボードの最表面層をモデル化するため、パイロット抄紙機を用いて標準紙料処方(高度に精製漂白した樺パルプ)でハンドシートを製造することにより参照点を作成した。多数の変数は、ハンドシートを用いて測定又は決定した。参照点を定義するための実験5で用いた処方は、ハンドシートの白色度及び不透明度を向上するためのフィラーとして、5%の焼成カオリン(乾燥した完成紙料の重量から計算した)を含んだ。
【0043】
参照点を得た後、すなわち実験6において、焼成カオリンを、6%のインラインPCC、すなわち製紙紙料又は完成紙料へのインラインで生産したPCCで置き換えた。このようにして、従来のフィラー適用法で作られた紙又は板紙と、インラインPCC適用法を用いて製造された紙又は板紙との間で比較を行うことができる。
【0044】
実験7では、その濃度が6%になるように、PCCを製紙紙料へとインラインで生産した。しかし、この実験(実験7)では、繊維の存在下でのPCCの炭酸化の前に、10%の総フィラー体積の、カチオン性デンプンを石灰乳に添加した。
【0045】
実験8では、その濃度が7.5%になるように、フィラーを製紙紙料へとインラインで生産した。PCCの炭酸化の前に、フィラー(3%インラインPCC、4%カチオン性デンプン及び2%CMCを含む2%焼成カオリンを含む)と水酸化カルシウム、すなわち石灰乳とを混合した。デンプンとCMCの割合は、総フィラー体積を参照する。
【0046】
各実験5〜8では、0.5%の乾物含量のパルプを使用した。石灰乳を含有する溶液を、炭酸化プロセスの直前に、シリンジを用いてパルプ中に注入した。炭酸化及び混合は、Quantum Mark IV 実験室用ミキサー中で完了した。ハンドシートは、シートを形成しながら抄紙機の水除去条件をシミュレートするように設計されたムービングベルトフォーマー(MBF)を用いて調製した。ハンドシートは、SCAN−C26:76標準に従ってプレスしてドラム乾燥させた。調製したハンドシートの目標坪量は65g/m
2で、シートのサイズは190mm×190mmであった。生産したハンドシートの走査型電子顕微鏡(SEM)画像も、比較の目的のために取得した。
【0047】
表2は、例2のハンドシートの最も重要な強度特性を示す。強度値では、機械方向と機械横方向の両方が考慮され、これらの値の幾何学的平均値を計算した。注目すべきことは、実験5から実験6に移ると、すなわち、焼成カオリンの使用からインラインPCCの使用に移ると、全ての強度特性において明らかな改善があることである。換言すると、すでに繊維の存在下でPCCの炭酸化をすることにより、フィラー粒子と繊維の間の結合が向上する。引張強度及び比引張強度は約10%向上し、引張剛度値は20%を超えて向上した。唯一、伸びは実質的に同じままであった。
【0048】
また、実験6から実験7に移ると、すなわち、単なるインラインPCCから、カチオン性デンプンの存在下で炭酸化したインラインPCに移ると、強度特性は明らかな増加を示す。この種の結果は、ある意味では、繊維及び微細繊維がPCC粒子へのポリマーの取り込みを妨げることを示す国際公開第2007/067146号A1の教示とは反対である、と考えることができる。引張応力は約6%向上し、比引張強度ほぼ10%向上し、一方、剛度値は実質的に同じままであった。
【表2】
【0049】
実施例7から、より複雑なフィラーの処方である実験8、すなわち、デンプン及びCMCの存在下で生産されたインラインPCに移ると、その変化は、比較的小さい。一部の値は若干改善し、一部は若干減少する。これにより、CMCと組み合わせたデンプンは、デンプン単独と同様に作用すると考えられ、それにより、保持/強度向上化学物質額物質との組み合わせも使用できる。
【表3】
【0050】
表3は、さらにいくつかの追加特性を用いて、実験7及び8のハンドシートの特性を、実験5のハンドシートの特性と比較している。表3で、「+++」は20%以上の改善を示し、「++」は10%と20%の間の改善を、「+」は3%と10%の間の改善を、値「0」は−3%と+3%の間を示す。マイナスは、対応する特性値の減少を示す。このように、全ての強度特性の値は、最大10%超、向上した。注目に値することは、不透明度が実質的に同じままであったということである。換言すると、実施した実験5〜8は、既存の紙の強度を維持することが目標である場合、すなわち、その強度特性において幾分強度を減少させる余地がある場合、フィラー(安価なPCC)の量を増やすことができるということを、裏付けている。このことは、その一部において、最終製品中の高価な繊維は、手頃な価格のフィラー(PCC)と置き換えることができ、それにより、最終製品の価格水準を下げることができることを意味する。
(例3)
【0051】
フィラーとして種々のタイプ、すなわち焼成カオリン、in−situPCC及びインラインPCCの使用と、PCCのインライン炭酸化又は結晶化の前にデンプン及びCMCを石灰乳に添加する効果との両方を検討するため、さらに別の一連の実験を行った。第二の一連の実験の主な目的は、PCCを供給した紙の強度特性を向上させることができたかどうかを確認することであった。大部分の実験では、PCC濃度を7.5%に設定した。
【0052】
第三の一連の実験は次のようにして行った。まず、コーティングされていない多層液体包装用ボードの表面層をモデル化するため、パイロット機の標準処方でハンドシートを製造することにより参照点を作成し、多数の変数を測定又は決定した。参照点を定義するための実験9の処方は、ハンドシートの白色度及び不透明度を向上するためのフィラーとして、5%の焼成カオリンを含んだ。
【0053】
実験9で参照点を得た後、すなわち実験10において、焼成カオリンを、5%のオフラインPCC、すなわちサテライト工場で生産されスラリーとして製紙工場に配送されたPCCに置き換えた。オフラインPCCは、in−situ生産されたPCC溶液をヘッドボックスの供給原料に混合する従来技術の適用と同等である。
【0054】
実験11では、その濃度が5%になるように、PCCを製紙紙料又は完成紙料へとインラインで生産した。このようにして、従来のPCC適用法とインラインPCC適用法との間で比較を行うことができる。
【0055】
実験12では、その濃度が7.5%になるように、PCCを製紙紙料へとインラインで生産した。この実験は、PCCの炭酸化の前にデンプン及びCMCを石灰乳と混合するという後の実験13のための参照実験として用いられた。
【0056】
実験13では、その濃度が7.5%になるように、PCCを製紙紙料へとインラインで生産した。ただし、繊維の存在下でPCCを炭酸化する前に、3%カチオン性デンプンを3%CMCと共に水酸化カルシウム、すなわち石灰乳と混合した。デンプンとCMCの割合は、総フィラー体積を参照する。
【0057】
各実験9〜13では、0.5%の乾物含量のパルプを使用した。(実験13では)石灰乳を含有する懸濁液を、炭酸化プロセスの直前に、シリンジでパルプ中に注入した。炭酸化及び混合は、Quantum Mark IV 実験室用ミキサーで完了した。ハンドシートは、シートを形成しながら抄紙機の水除去条件をシミュレートするように設計されたムービングベルトフォーマー(MBF)を用いてパイロット抄紙機で調製した。ハンドシートは、SCAN−C26:76標準に従ってプレスしてドラム乾燥させた。調製したハンドシートの目標坪量は65g/m
2で、シートのサイズは190mm×190mmであった。生産したハンドシートの走査型電子顕微鏡(SEM)画像も、比較のために取得した。
【0058】
表4は、さらにいくつかの追加特性を用いて、実験10〜12のハンドシートの特性を、実験9のハンドシートの特性と比較している。表4で、「+++」は20%以上の改善を示し、「++」は10%と20%の間の改善を、「+」は3%と10%の間の改善を、値「0」は−3%と+3%の間を示す。マイナスは、対応する特性値の減少を示す。
【表4】
【0059】
結果は、表3に関連して説明したものと同様である。例えば、伸び、比引張強度、比引張エネルギー吸収量、引裂強度及び比引裂強度は、参照点(実験9)と比較して3〜10%上昇し、破裂強度及び比破裂強度は、参照点と比較して10〜20%上昇した。多くの特性、特に破裂強度及び比破裂強度並びに比引張強度では、他の実験のハンドシートと比較して、明らかな改善も見られる。また、実験10〜13でPCCが使用されたという事実に関係なく、不透明度の値は実質的に同じままであった。これらの結果もまた、繊維及び保持/強度向上ポリマーの存在下で炭酸化をする限り、紙製造業者にPCCの使用を増大させることを促す。実験12と13を比較した場合、実験13では、強度値の減少を許容してPCC使用率を高める方を選ぶ余地があるように見えるからである。
【0060】
図1は、例2の実験8のハンドシートのSEMトップ画像(10000*倍率)を示す。換言すると、PCCは、完成紙料と、石灰乳の中の10%のカチオン性デンプンの混合物との両方の存在下で炭酸化した。そのSEM像は、懸濁液中で得られる任意の固体粒子に付着するように見える、懸濁液中のやや粘着性のネットワークを示す。
【0061】
そのネットワークが何であるかを調べるために、これまで知られていないこのベール又は糊状物質の起源をより詳細に研究することができるよう、いくつかのハンドシートを調製した。そのアイデアは、そのベールが乾燥強度向上として典型的に使用されるデンプンと関連していたかを調べることであった。実験は、第一に、希釈したパルプ中に混合した7.5%の水酸化カルシウム(デンプンなし)のバッチのハンドシートを調製することにより行い、第二に、希釈したパルプ中に混合した20kg/スズのカチオン性デンプンと7.5%の水酸化カルシウムとのバッチのハンドシートを調製することにより行った。PCCの沈降は、Quantum Laboratory mixerを用いて、CO
2をパルプに供給した後で行った。結果は、
図2及び3に示すSEM像から調べた。
図2は、PCC粒子とフィブリルを有する繊維が、デンプンの存在なしのように見えることを非常にはっきりと示しており、図中に糊状の膜がはっきりと見えるので、PCC粒子上の糊状の膜の起源がデンプンからきていることは明らかである。糊状の膜は、フィラー粒子を繊維に強固に付着しているように見えるので、肯定的な現象として知覚された。
【0062】
インラインPCC技術を用いると、フィラー粒子は微細繊維の周りに強固に付着しているが、一方、オフラインPCCでは、フィラー粒子は繊維と微細繊維との間に緩やかに置かれている(lay loosely)。これはおそらく、インラインPCC全体が改善された弾性率及び引張剛度値を有している理由の一つである。
【0063】
実施した実験はさらに、強度向上ポリマーが石灰乳に添加され、繊維の存在下で炭酸化が行われたとき、紙の引張強度が大幅に増加したことを示した。PCC結晶が処方される場合に、強度向上ポリマーが存在すると、PCC結晶が繊維に良好に付着すると考えられる。この考えの背後にある理由は、高い比表面積を有するポリマー鎖が、PCC結晶と繊維の間のメディエーターとして機能することにある。炭酸化において、繊維とポリマーの両方が存在する場合、PCC結晶はポリマー鎖と接触してポリマー鎖に付着し、直後にポリマー鎖が繊維と接触してそこに付着する。結合は、繊維とPCC結晶の間に作られているが、ポリマーの存在によって繊維とPCC結晶の結合はより強力である。
【0064】
いかなる理論にも束縛されず、さらなる仮定は、石灰乳と強度向上/保持化学物質が紙料又は完成紙料に一緒に導入される間に、強度向上/保持化学物質分子が石灰乳粒子に付着し、それによりPCC結晶が強度向上/保持化学物質分子に強固に付着し、それが繊維と接触してそのように付着することである。当然のことながら、繊維がすでに存在しているので、石灰乳に付着した強度向上/保持化学物質分子は、石灰乳とCO
2の間の任意の反応の前にすでに繊維と付着するであろう。
【0065】
いかなる理論にも束縛されず、別の仮定は、石灰乳と強度向上/保持化学物質が紙料又は完成紙料に一緒に導入される間に、強度向上/保持化学物質分子自体と、その強度向上/保持化学物質と付着した(その段階では非常に小さい)PCC結晶が、その小さいサイズゆえに、繊維のフィブリルに付着できることである。この種のフィブリル及び繊維の早期の付着によって、それらの間に非常に多数の結合を作り出すことが可能となり、これにより最終製品の強度特性が高くなる。
【0066】
したがって、PCCの炭酸化が、少なくとも一つの強度向上/保持化学物質の存在下で行われると、PCC結晶がネットワークに付着し、フロックを形成するのは明らかである。このような場合には、PCC−強度向上/保持化学物質混合物を繊維と混合すると、フロックはコンパクトであり、空き、すなわち繊維と結合するための自由表面積をほとんど残さない。したがって、PCCの炭酸化が、繊維と強度向上/保持化学物質の両方の存在下で行われるとき、PCC結晶と繊維の両方がネットワークに付着し、フロックを形成し、これにより繊維とPCCの間の保持がより強力であることは当然である。
【0067】
工場規模の適用に関しては、必ずしも必要ではないが、国際公開第2009/103854号A2の以下の主な教示に従うことによってPCCのインライン生産を行うことが好ましい。換言すれば、石灰乳と少なくとも一つの強度向上/保持化学物質とを完成紙料に注入するために、インジェクションミキサーを使用する。本発明の主な教示は、PCCの炭酸化が、繊維と少なくとも一つの強度向上/保持化学物質の存在下で起こることである。したがって、少なくとも一つの強度向上/保持化学物質と石灰乳の両方が、少なくとも同時に、最終紙料を抄紙機のヘッドボックスに向けて運ぶパイプラインに導入されるのが重要であると考えられる。そのようなパイプラインは広く理解されるべきであり、一つの選択肢としては、主たる紙料ラインからサイドフローをとり、サイドフロー中でPCCを炭酸化し、その後サイドフローを主たるライン中の完成紙料と混合し、その完成紙料をヘッドボックスに運ぶことが挙げられる。そのような目的のために、フィンランド特許第116473号B1、欧州特許第1064427号B1及び欧州特許第1219344号B1で論じられているようなインジェクションミキサーを使用してもよい。換言すると、一つの化学物質として石灰乳を、そして他の化学物質として少なくとも一つの強度向上/保持化学物質を、同じインジェクションミキサーを介して注入してもよい。また、2つの別個のミキサーを介して化学物質の供給を配置することも可能であり、それにより、カナダ特許第2787347号により詳細に説明されているように、ミキサーを次々と配置してもよい。ただし、少なくとも一つの強度向上/保持化学物質と石灰乳が、完成紙料に導入される前に、混合して取得されるようにするのが、好ましい選択肢である。そのような混合は、カナダ特許第2541528号又はフィンランド特許第116473号B1で説明されているうちの一つのようなインジェクションミキサーで行ってもよい。石灰乳と少なくとも一つの強度向上/保持化学物質との混合はまた、導入の上流、すなわち例えば導入手段の上流、好ましくはインジェクションミキサーの上流で行われてもよい。また、CO
2を含有するガスはインジェクションミキサーで注入されてもよく、CO
2と共に完成紙料を供給する他の手段を用いて注入してもよい。CO
2を供給するためにインジェクションミキサーを使用する場合は、選択肢としては、CO
2を、少なくとも一つの強度向上/保持化学物質と石灰乳の混合物と一緒に注入することが挙げられ、あるいは、カナダ特許第2787347号の教示を用いる場合は、少なくとも一つの強度向上/保持化学物質と石灰乳の一つと一緒に注入することが挙げられる。一般的には、完成紙料中へのCO
2の導入は、完成紙料への、少なくとも一つの強度向上/保持化学物質と石灰乳の導入の前に、同時に、又は後に、のいずれかに行うことができる。インジェクションミキサーの使用について説明した全ての場合に関して、以下のことを理解すべきである。すなわち、インジェクションミキサーは、化学物質又は化学物質の混合物を、注入液を用いて完成紙料に注入し、その注入液は、完成紙料からとられたサイドフロー、抄紙機又は板紙機からとられたろ液、又はいくつかの例として挙げたいかなる他の適用可能な液体であってもよく、記載された例にのみ注入液を限定する意図はない。
【0068】
図4は、本発明の好ましい実施形態としての繊維ウェブ機の短循環路を示す。短循環路は、繊維ウェブ製造に使用される種々の繊維状成分が導入される混合タンク12を備える。混合タンク又はミキシングチェスト12から、完成紙料又は紙料が、繊維ウェブ機のヘッドボックス26に繋がるパイプライン20へと運ばれ、ポンプ14によって、まず渦清浄プラント16に圧送され、次いで脱ガス容器18に圧送され、その後ヘッドボックス供給ポンプ22に圧送される。ポンプ22は、紙料を、ヘッドボックススクリーン又は機械スクリーン24を介してヘッドボックス(このヘッドボックスから紙料が繊維ウェブ機28のワイヤ上に運ばれる)へと供給する。図はまた、繊維ウェブ機からのろ液、すなわち白水(white water(WW))がどのようにしてミキシングチェスト12に再循環されるかを示す。本実施形態によれば、短循環路はさらに2つのインジェクションミキサーステーション(同じ化学物質を導入し、かつパイプラインの同一円周上に実質的に配置されている、1つ又はいくつかのインジェクションミキサー)IF1及びIF2を備える。一方はCO
2を、他方は石灰乳(MoL)と強度向上/保持化学物質(Ret)の両方を、供給ポンプ14と渦清浄プラント16の間のパイプライン20中に流れる紙料に導入する。図に示すように、両インジェクションミキサーは、注入液として、パイプライン20から運ばれた紙料を使用する。
【0069】
上記の教示を検討する際に考慮しなければならないことが多数ある。第一に、CO
2を紙料に導入してもよいことについて、以下のこともまた理解されるべきである。すなわち、先に紙料に導入、すなわちミキシングチェスト中で紙料成分と混合してもよく、又は、石灰乳及び強度向上/保持化学物質と一緒に導入してもよく、又は、石灰乳及び強度向上/保持化学物質の注入の後に導入してもよい。CO
2の導入(IF1)とMoL及び強度向上/保持化学物質の導入(IF2)と間の距離に関して、Wetend Technologyの特許文書である国際公開第2011050205号A2の教示をここに適用することができる。換言すると、ミキサーのペアの間の距離、又はミキサーステーションIF1及びIF2のペアの間の距離は、好ましくは0.05〜8メートル、より好ましくは0.05〜5メートル、最も好ましくは0.1から2メートルのオーダーである。好ましくは、上記のように互いに近くに配置したミキサー又はミキサーステーションは、一つ又は複数のミキサーのペアを形成し、それにより、第2のフローを導入する各ミキサーのペアの上流のインジェクションミキサーは、プロセスパイプの円周上の場所に配置され、下流のミキサーが配置されたプロセスパイプの軸を通るレベルから、せいぜい20度ずれており、より好ましくは10度(パイプの周方向で測定する)ずれている。したがって、下流のインジェクションミキサーは、プロセスパイプの長手方向に、上流が配置されているセクターの直径上、40度のセクターに位置し、好ましくは20度に位置している。
【0070】
第二に、例示的な
図4は、その全幅における、すなわちそこにあり得る全ての主要な構成要素を含む、短循環路を示す。ただし、一方では、短循環路には渦清浄プラント及び/又は脱ガス容器が欠落しており、また、他方では、短循環路には、
図4から欠落している種々の繊維ウェブ製造化学物質、多数のミキサーを含むことができる。いずれの場合も、石灰乳が供給ポンプ14の後にあるパイプラインに導入される限り、本発明は、繊維ウェブ機の短循環路の全ての変形例をカバーする。第三に、これも前述のように、化学物質、本明細書ではCO
2、MoL及びRetを、特定の注入液を使用せずに紙料に注入することができる。そして最後に、繊維ウェブは、紙、ティッシュ、板紙、繊維板、すなわち何らかの理由でPCCを利用する全てのそのような繊維ウェブの製品が含まれるように、その最も広い意味で理解されるべきである。換言すると、PCCは、不透明度又は嵩を増加させるために利用されるだけでなく、難燃剤として使用することもできる。
【0071】
価値ある更なる選択肢としては、少なくとも一つの強度向上/保持化学物質と石灰乳の混合物を、完成紙料中のCO
2の注入において注入液として使用することが挙げられる。インジェクションミキサーに関しては、紙料を抄紙機又は板紙機のヘッドボックスに運ぶパイプラインと連通しており、同じ周辺部上にある、いくつかのインジェクションミキサーがあってもよいことを理解すべきである。そのような場合には、ミキサーのアセンブリ又はセットは、ミキシングステーションと呼ばれる。同様な方法で、カナダ特許第2787347号で教示する場合が適用され、インジェクションミキサーステーションがパイプラインに次々と配置されてもよい。
【0072】
本発明について、いくつかの好ましい実施形態の観点から上記の通り説明してきたが、上記は、特許請求の範囲に開示されているものから本発明の範囲を限定するものとして、決して考慮されるべきでないことが理解されなければならない。また、特定の実施形態と関連して説明した種々の具体的な詳細は、実践可能であればいつでも本発明の他の実施形態と関連して用いられてもよいことが理解されなければならない。