特許第6023916号(P6023916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023916
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】非侵襲的出生前診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20161027BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20161027BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20161027BHJP
【FI】
   G01N33/48 M
   G01N33/53 D
   G01N33/53 M
   C12N5/078
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-509459(P2016-509459)
(86)(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公表番号】特表2016-518131(P2016-518131A)
(43)【公表日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】EP2014058311
(87)【国際公開番号】WO2014173997
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年11月10日
(31)【優先権主張番号】MI2013A000683
(32)【優先日】2013年4月24日
(33)【優先権主張国】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508306026
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ イエッレチチエッセ ”カ’ グランダ−オスオエダーレ マッジオーレ ポリキニーコ”
【氏名又は名称原語表記】Fondazione IRCCS Ca Granda−Ospedale Maggiore Policlinico
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ラットゥアーダ、 デヴォラ
【審査官】 渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−507739(JP,A)
【文献】 鈴木雅子ほか,母体血からの有核赤血球の濃縮と自動解析による同定の効率化,昭和医会誌,日本,2012年,第72巻 第4号,第471-478頁,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma/72/4/72_471/_pdf
【文献】 LATTUADA, D. et al.,A tag-less method for direct isolation of human umbilical vein endothelial cells by gravitational field-flow fractionation,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2012年 9月21日,Volume 405, Issue 2,第977-984頁,URL,https://www.researchgate.net/profile/Federico_Colombo/publication/230894511_A_tag-less_method_for_direct_isolation_of_human_umbilical_vein_endothelial_cells_by_gravitational_field-flow_fractionation/links/53fb4f470cf20a4549706c12.pdf
【文献】 CARDOT, P.J.P. et al.,Separation of living red blood cells by gravitational field-flow fractionation,Journal of Chromatography B: Biomedical Sciences and Applications,1991年 7月17日,Volume 568, Issue 1,第93-103頁,URL,http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/037843479180343B
【文献】 MOHAMED, H. et al.,Biochip for separating fetal cells from maternal circulation,Journal of Chromatography A,2007年 8月31日,Volume 1162, Issue 2,第187-192頁,URL,http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021967307010746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)遊離している無傷の胎児赤芽球を含む血液試料に対して、重力フィールドフロー分
画(GrFFF)によって層流を適用する工程(ただし、GrFFFは誘電泳動と同時に行われない)、および
(b)その他の血液成分から前記無傷の胎児赤芽球を単離する工程
を含む、妊婦の末梢血試料から無傷の胎児赤芽球を単離するための方法。
【請求項2】
(c)工程(b)において単離された前記無傷の胎児赤芽球からDNA、RNA、およびタンパク質を抽出する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記層流を適用する前に密度勾配の調製用の溶液で前記血液試料を処理する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記末梢血試料が妊娠第8週から第22週までの妊婦に由来する、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
50μl/分〜1ml/分の流速で前記層流が適用される、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
50μl中に1×10細胞〜1×10細胞を含む試料に、前記層流が適用される、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記の遊離している胎児赤芽球が5分〜40分の範囲の溶出時間で単離される、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
染色体異常および遺伝的疾患の特定を可能にする出生前診断を行うためのデータを収集するために単離された前記胎児赤芽球を使用する、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記染色体異常が染色体の数的異常または構造的異常であり、前記遺伝的疾患が嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血、血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、および神経線維腫症からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は母体末梢血から胎児有核細胞、特に胎児赤芽球(「有核赤血球」、NRBC)を単離するための方法に関する。より具体的には、本発明は、無傷の胎児有核細胞を単離および提供することができる非侵襲的方法であって、全ての妊娠期間において実行可能である出生前診断の染色体、遺伝子およびタンパク質の発現に対するさらなる検査に有用である前記非侵襲的方法に関する。
【背景技術】
【0002】
染色体異常および遺伝的疾患の出生前診断には胎児のDNAまたは染色体の供給源が必須である。
【0003】
染色体異常は1,000人の生産児のうち9人に悪影響を及ぼし、母体の年齢が進むにつれ発生率が高くなる(40歳に達した母親について1/80)。
【0004】
対照的に、遺伝子異常に関して研究が発展し続けており、嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血およびデュシェンヌ症候群などの識別可能な疾患の数が増えつつある。ゲノム配列情報の進捗と共にこれらの遺伝的疾患の数が大いに増加すると予期される。また、遺伝子異常の相対的発生率は特定の表現型血統(phenotypic strain)と地理領域に応じて変化する。
【0005】
可能性がある染色体異常および遺伝的疾患を特定するために非侵襲的出生前スクリーニングテストまたは侵襲的出生前スクリーニングテストが既に確立されている。
【0006】
現在までに知られている非侵襲的分析は、母親と子供に対してどのような危険性も伴わないが、しかしながら適切な程度の近似を有する(いわゆる「操作者依存的な」)形態学的(例えば超音波項部透過像)分析と血液化学的(母体血液に対するバイ(Bi−)テストおよびトリ(Tri−)テスト)分析に基づく検査からなる。不運なことに、現在までに知られている非侵襲的分析は明確で安全な結果を提供することができないという欠点を持っており、機能異常を明確に特定することができない。これらの分析によって可能になるのは予備的調査だけである。
【0007】
代わりに、侵襲的検査により胎児DNAの分析に基づいて染色体異常または遺伝子異常を分析することが可能になる。侵襲的検査は、羊水穿刺および絨毛検査など、胎児に対してかなりの危険性を伴う診断検査からなる。
【0008】
羊水穿刺は培養可能な胎児細胞を含む羊水の試料採取を伴う。そのような技法は1950年代から知られており、35歳以上の妊婦または特定の危険状態にある妊婦に対して公然と提案されている。
【0009】
絨毛膜絨毛試料採取(絨毛検査)は胎房(gestational chamber)からの絨毛の採取を伴う。
【0010】
この技法は1960年代後期から知られており、(あまり一般的ではないが)羊水穿刺の代替法として提案されている。
【0011】
これらの両方の侵襲的検査は1%超で妊娠の適切な進行を損なうかなりの危険性を含み、且つ、それらの侵襲的検査が行われる背景に応じて広範に変化する。
【0012】
母体血液中に胎児DNAが存在するという観察は1997年までにさかのぼり(Lo YMDら、Presence of fetal DNA in maternal plasma and serum.Lancet誌、1997年;第350巻:485e7)、それ以来世界中の多数のグループが胎児の主要なゲノム異常と染色体異常の出生前診断と早期特定のための有効な方法の開発に取り組んでいる。
【0013】
しかしながら、これまで胎児DNAの分析によって可能になったのは胎児の性別とRhD因子の決定だけであるが、2010年に21番染色体トリソミー向けのプロトコルが開発された(Chiu RWK e Lo YMD、Non−invasive prenatal diagnosis by fetal nucleic acid analysis in maternal plasma:the coming of age.Seminars in Fetal & Neonatal Medicine誌、xxx(2010年)1e6)。
【0014】
しかしながら、母体血液中の胎児DNAの使用について少なくとも2つの主要な問題が存在する。1つ目の問題は母体DNAから自由循環胎児DNAを確実に単離および特定することであり、2つ目の問題は胎児DNAが断片化されているという事実に起因する単離DNAの信頼性である。
【0015】
胎児染色体異常と遺伝的障害の適切で正確な診断をさまざまな妊娠期間において可能にする新規非侵襲的診断技法であって、胎児または母親に対する危険性が無く、且つ、同時に再現性があり、実用的観点および経済的観点から有利である新規な非侵襲的診断技法の必要性が今日でも依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的のうちの1つは有核胎児細胞、特に無傷のDNAを含有する赤芽球を、母体血液中に存在する他の細胞から単離するための方法を提供することである。
【0017】
したがって、本発明の別の目的は、非侵襲的手法の使用により胎児染色体異常および遺伝的疾患を迅速かつ早期に診断するための適切な方法を提供し、そうして公知の危険性と上述した非侵襲的方法および侵襲的方法の欠点を有しない、正確で安全な指標を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明は、妊婦の末梢血試料から無傷の胎児赤芽球を単離するための方法であって、
(a)遊離している無傷の胎児赤芽球を含む血液試料に対して重力フィールドフロー分画(GrFFF)によって層流を適用すること、および
(b)その他の血液成分から無傷の胎児赤芽球を単離すること
を含む前記方法に関する。
【0019】
本発明の別の態様は、本発明の方法に従って母体末梢血から無傷の胎児赤芽球を単離するための診断キットであって、
−密度勾配を調製するための溶液、
−末梢血試料を希釈するための生理食塩水溶液、
−ヘパリン、および所望により洗浄溶液
を含む前記診断キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
添付されている図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1】実施例4のGrFFF分離の代表的フラクトグラムを示す図である。グラフはリンフォライトによって分離された妊娠第9週の妊婦の血液細胞の分離時間に対する600nm吸収スペクトルから作成されている。移動相:ヘパリン添加生理食塩水。緩和時間:2分。溶出速度:0.25ml/分。注入細胞数:5×10。画分収集:1000〜1500秒。3本の線は同一試料の3回の異なる実行を表す。吸収スペクトルから4つのゾーン、すなわち、流動安定性が管理されているゾーン0、VOIDとも呼ばれ、細胞破片とリンパ球の流出と共に吸光度の上昇が検出されるゾーン1、吸光度が減少するが、0値に戻ることはないゾーン2、リンパ球と顆粒球の流出と共に吸光度が上昇するゾーン3が察知され得る。
図2】実施例4のGrFFF分離の代表的フラクトグラムを示す図である。グラフはリンフォライトによって分離された妊娠第18週の妊婦の血液細胞の分離時間に対する600nm吸収スペクトルから作成されている。移動相:ヘパリン添加生理食塩水。緩和時間:2分。溶出速度:0.3ml/分。注入細胞数:6×10。画分収集:950〜1250秒。緑色、赤色および青色の線は同一試料の3回の個別の実行を表す。吸収スペクトルから4つのゾーン、すなわち、流動安定性が管理されているゾーン0、VOIDとも呼ばれ、細胞破片とリンパ球の流出と共に吸光度の上昇が検出されるゾーン1、吸光度が減少するが、0値に戻ることはないゾーン2、リンパ球と顆粒球の流出と共に吸光度が上昇するゾーン3が察知され得る。
図3】サイトスピンによりスライドグラスに固定され、ギムザで染色された赤芽球の実施例5の顕微鏡画像であって、100倍の倍率の顕微鏡画像を示す図である。
図4】サイトスピンによりスライドグラスに固定され、オルト−ジアニシジンで染色された赤芽球の実施例5の顕微鏡画像であって、倍率100倍の顕微鏡画像を示す図である。
図5A図5は実施例6の細胞蛍光分析の代表例を示す図である。細胞を別々の集団:P1、P2、P3およびP4に分けることができる。P1は全ての細胞であり、P2は生細胞(7AAD−PE対SSC)であり、P3はCD45+細胞(CD45−PE対SSC)であり、P4はCD45−細胞(CD45−PE対SSC)である。左下側のパネルから、グループP3およびグループP4のどちらの細胞がグリコホリン(Gly)とCD71(Gly−PE対71−FITC−A)について検査で陽性または陰性であるか推測することができる。図5A図5Bおよび図5Cはリンフォライトによって分離され、リングから収集された母体血液細胞を示している。とりわけ、図5AはVOIDと名付けられたゾーン1の分離細胞の分析を示している。
図5B】PLATEと名付けられたゾーン2の分離細胞の分析を示している。
図5C】PEAKと名付けられたゾーン3の分離細胞の分析を示している。
図5D】低浸透圧反応の後のリンフォライト分離時にチューブの底に沈降した、ペレットと名付けられた細胞のFACS分析を示している。
図6】GrFFFを用いることによって母体血液から分離され、ゾーン2に収集された胎児細胞試料に対する実施例7のリアルタイムPCR分析像を示す図である。3つの試料において蛍光の増加を観察することができ、Y染色体の存在を示している。蛍光は陽性対照である男性対象についても増加しているが、一方で女性対象については変化していない。
図7】ゾーン2に回収された細胞について実施されたQF−PCR(「定量的蛍光PCR」)による実施例7の試料分析を示す図である。その図は2つの異なるゲノムの存在、すなわち、母体DNAと胎児DNAの存在を示している。とりわけ、2つの異なるゲノムが存在することを示す高さと数の両方に関して異なるピークの存在(3つのピーク、または4つものピーク)を推測することが可能である。
図8】血友病を有する妊婦の血液試料から抽出されたDNAの配列についての実施例8の分析を示す図である。妊婦の血液をリンフォライトにより処理し、有核細胞をGrFFFにより分離し、ゾーン2のわずかな割合の最終部分を収集した。その配列はGrFFFにより分離された妊婦のDNAにおけるヘテロ接合性の存在(塩基AとCの存在)と胎児細胞におけるホモ接合性の存在(塩基A単独の存在)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
したがって、本発明は、末梢血試料、とりわけ妊婦の末梢血から無傷の胎児赤芽球を単離するための方法であって、
(a)遊離している無傷の胎児赤芽球を含む血液試料に対して、重力フィールドフロー分画(GrFFF)によって層流を与えること、および
(b)他の血液成分から前記無傷の胎児赤芽球を単離すること
を含む前記方法に関する。
【0022】
本発明では、
「重力フィールドフロー分画(GrFFF)システムによる層流」の定義は異なる大きさと形態を有する細胞の分離を可能にする技術を指す。試料は、その試料の様々な成分を物理的に分離して単離することを可能にする層流を適用できるように設計されたチャネルに導入される。
【0023】
好ましくは、本発明による方法は工程bにおいて単離された胎児赤芽球からDNA、RNA、およびタンパク質を抽出する追加工程cを含む。
【0024】
DNAとRNAの抽出は様々な実験プロトコルによって実施され得る。使用される抽出技法と無関係に、これは収率と純度について2つの主要な要求事項、すなわち、調査する核酸が溶液中に存在すること、および溶液中の試薬に結合してシークエンシングの結果を変えうる混入汚染物質が存在しないこと、という意味の、要求事項を満たすべきである。
【0025】
その抽出および精製過程は通常は次の4つの工程、すなわち、細胞溶解、細胞性ヌクレアーゼの不活化、細胞溶解液を含む溶液からの核酸の分離と回収、および沈殿を含む。
【0026】
様々な実験プロトコルによってタンパク質抽出を実施することができる。
【0027】
1つの実施形態では、本発明による方法は診断方法である。
【0028】
好ましい実施形態では、本発明の方法に従って、その試料に層流が適用される前に、前記末梢血試料が密度勾配の調製用の溶液で処理される。
【0029】
フィコールは密度勾配の調製用の溶液の一例である。フィコールはショ糖とエピクロロヒドリンから合成される、超高分子量の、水溶性の合成分岐型重合体であり、細胞分離用の密度勾配を調製するために使用される。
【0030】
本発明による方法では前記末梢血試料は妊娠第8週から第22週までに採取されることが有利である。
【0031】
本発明の方法の幾つかの実施形態では、無傷の胎児赤芽球を含む前記血液試料に適用される層流は、約100μl/分から約1ml/分までの範囲の速度、好ましくは250μl/分の流速を有する流動である。
【0032】
幾つかの実施形態では、本発明による方法は層流を含み、その方法では50μl中に約1×10細胞から1×10細胞までの範囲の濃度を有する試料、好ましくは50μl中に約5×10細胞を有する試料に前記層流が適用される。
【0033】
本発明による方法の他の実施形態では、前記胎児赤芽球は5分から40分までの範囲の溶出時間において単離される。
【0034】
本発明の方法の1つの実施形態では、可能性がある染色体異常および遺伝的疾患の検出を可能にする出生前診断を実施するために、単離された前記胎児赤芽球を使用する。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明による方法において、前記染色体異常は染色体の数的異常または構造的異常であり、前記遺伝的疾患は嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血、血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症および神経線維腫症からなる群より選択される。
【0036】
突然変異の結果として、核型がその核型を構成する染色体の数または形態に関して変化し、染色体の数的異常(異数性)と染色体の構造的異常をそれぞれ生じることがあり得る。
【0037】
ヒトにおいて最も頻繁に観察される異数性はモノソミー(相同染色体対の1本の要素の不在)とトリソミー(相同染色体対の1本余分な要素の存在)である。これらの例は完全モノソミーおよび完全トリソミーとして定義されているが、しかしながら部分的モノソミー/トリソミーも個々の染色体部分の不在、または三重コピーの存在により生じ得る。
【0038】
完全モノソミーは、ターナー症候群に関連するX染色体モノソミー(45、X)を例外として、出生後の生命と両立しない。
【0039】
反対に、幾つかの染色体の完全トリソミー、例えば、21番染色体トリソミーすなわちダウン症候群(47、XX、+21)、18番染色体トリソミーすなわちエドワーズ症候群(47、XX、+18)、13番染色体トリソミーすなわちパトー症候群(47、XX、+13)は、性染色体異数性と同様に、出生後の生命と両立する。
【0040】
遺伝的疾患は、単因子性または多因子性であり得る。
【0041】
単因子性遺伝的疾患は単一の遺伝子の突然変異によって引き起こされ、メンデル性とも呼ばれる。これまでに研究者によってこれらの疾患のうちの約7000が分類された。最もよく知られているものは嚢胞性線維症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、および神経線維腫症である。
【0042】
多因子性遺伝的疾患は、同時に生じている幾つかの遺伝的要因および環境的要因の組合せによって生じる。一般に、多因子性疾患は、喘息、骨粗鬆症、肥満、高血圧症、様々な心奇形に伴う冠動脈性心疾患などの最も一般的な成人の病状を含むことが典型的である。新生児期でもそれより後の年齢でも、これらの疾患の臨床的影響はかなりの負担である。
【0043】
別の態様では、本発明は、本発明の方法に従って母体末梢血から無傷の胎児赤芽球を単離するための診断キットであって、
−密度勾配を調製するための溶液、
−前記末梢血試料を希釈するための生理食塩水溶液
−ヘパリン、および所望により洗浄溶液
を含む前記診断キットに関する。
【0044】
例示を目的として本発明の実施形態の実施例を下に提供する。
【実施例】
【0045】
実施例1:患者
マンジャガッリ病院の産科において妊婦にインフォームドコンセントを提供した後に彼女らを動員した。130人の妊婦から6〜14mlの静脈血を採取した(表1)。
【0046】
【表1】

表1.妊娠期間に応じて患者の数で分けた、分析した患者のリスト
【0047】
妊娠期間はNRBC(「有核赤血球」)を特定することが可能であるときのものである。妊娠第5週から第35週までの試料を分析した。しかしながら、文献に記載されているように、対象内変動が存在する。NRBCの最大量は妊娠早期の週に見出された。最適な採取期間は妊娠第8週〜第12週の辺りである。
【0048】
実施例2:有核細胞の単離による試料前処理
分離前の母体末梢血試料の前処理工程がNRBC単離工程に先立つ。
【0049】
例えばフィコールなどの密度勾配の調製用の溶液によって、好ましくはリンフォライト−H(ユーロクローン社、ミラノ)によって、前処理工程を有利に実施することができる。
【0050】
他の種類の試料前処理、例えば赤芽球の溶解または希釈も、考えられる。
【0051】
実施例3:チャネルへの試料負荷
実施例2に記載されるように前処理し、分離した試料を、GrFFFによる細胞分離用の機器のチャネルに負荷する。
【0052】
試料負荷の前に、チャネルを20%次亜塩素酸ナトリウム溶液で洗浄し、その後に滅菌蒸留水で徹底的に洗浄し、最後にヘパリン含有滅菌生理食塩水で洗浄する。そのチャネル内の流動が安定(=吸光度が安定)であるとき、前処理した試料をチャネルに注入する。50μlの最終体積中におよそ5×10個の細胞をチャネルに負荷する。
【0053】
前記チャネル中での前記試料の好適な分離のための適切なパラメーターは、
−試料希釈係数、
−チャネルに負荷される細胞数、
−チャネル内における細胞の緩和期間の変動性
−チャネル内の流速、および
−希釈媒体及び存在する抗凝血因子の特徴
である。
【0054】
試料希釈係数は50μl中におよそ1×10細胞から1×10細胞の範囲で変化することができ、好ましくは50μl中におよそ5×10細胞である。
【0055】
チャネルに負荷される細胞数については、あまりに少ない細胞(きわめて希釈された試料)がロードされた場合、またはあまりに多い細胞(きわめて濃縮された試料)がロードされた場合には、試料分離度が小さいこと(poor separation)が観察されている。
【0056】
緩和期間は約2分続き、4分または6分というより長い期間でも有意な改善は見られず、一方でより短い期間では試料分離度が小さくなる。
【0057】
溶出媒体については、25,000IU/5mlのEPSOCLARヘパリン点滴用溶液を使用する1:1000ヘパリン添加生理食塩水で最良の結果が得られた。
【0058】
チャネル内の流速は分当たり約50μlから最大で分当たり1mlまでの範囲で変化させることができ、好ましくは約100μl/分から約400μl/分までの範囲であり得、さらにより好ましくは250μl/分である。
【0059】
実施例4:吸光度による試料分析
実施例3に記載された、チャネル内で分離された試料を、分光光度計によって600nmで読み取り、図1および図2の試料について例示されているグラフを作成する。
【0060】
前記グラフにおいて、ヘパリン含有生理食塩水溶液を流して得られたゼロ値(ゾーン0)に対する吸光度の変化を示す3つのゾーンを識別することができる。
ゾーン1(VOID)は細胞破片とリンパ球のチャネルからの流出に対応し、
ゾーン2は主に胎児有核細胞の流出に対応し、
ゾーン3は主に顆粒球の流出に対応する。
【0061】
実施例5:回収された細胞の画分の特徴解析
各画分中の細胞をバーカーチャンバーにより計数し、「スメア」またはサイトスピンによってスライドグラス上に付着させた。
【0062】
その後にNRBCの存在を検証するために細胞をギムザ(図3)およびO−ジアニシジン(図4)により染色し、顕微鏡観察により分析した。
【0063】
収集した溶離液画分中に赤芽球(NRBC)の存在を検出することができた。
【0064】
実施例6:FACS分析
12人の患者についてFACS分析を実施した。
【0065】
重力フィールドフロー分画(GrFFF)システムは母体血液中に存在する様々な種類の集団を分離し得ることがわかっている。
【0066】
胎児赤芽球(「有核赤血球」、NRBC)はゾーン2に見出される(図5)。
【0067】
NRBCのパーセント収率は生細胞の61.7%にも達しており、NRBCはCD45−であるので、CD45細胞のネガティブ選択によってさらに濃縮することが考えられる。この場合では収率は100%近くになるだろう。
【0068】
実施例7:リアルタイムPCRおよびQF PCR分析
実施例3に記載されるように単離された胎児細胞から胎児の性別を特定することが可能であるか見出すため、SRY遺伝子の存在を検出するためのY染色体特異的プローブを使用することにより11試料に対してリアルタイムPCR分析を実施した。SRYプローブ(Y.M. Dennis Lo、Mark S.C. Tein、Tze K. Lau、Christopher J. Haines、Tse N. Leung、Priscilla M.K. Poon、James S. Wainscoat、Philip J. Johnson、Allan M.Z. Chang、およびN. Magnus Hjelm、Quantitative Analysis of Fetal DNA in Maternal Plasma and Serum:Implications for Noninvasive Prenatal Diagnosis、Am. J. Hum. Genet.誌、第62巻:768〜775頁、1998年)を使用してSRY遺伝子の存在を判定することができ、したがって、男性試料にあるY染色体の存在を判定することができた。特に、上記の実験が図6に示されており、女性由来の対照試料において検出されない蛍光の増加を男性由来の試料において観察することができる。
【0069】
また、1試料に対するQF−PCR(「定量的蛍光PCR」)分析によって2つの異なるゲノム、すなわち、母体DNAと胎児DNAの存在が示された。
【0070】
特に、図7は高さと数の両方に関して異なるピークの存在(3つのピーク、または4つものピーク)を示しており、したがって、2つの異なるゲノムが存在することを示している。
【0071】
実施例8:血友病を有する妊婦に由来する胎児細胞のDNAのシークエンシング
一人の血友病患者における疾患遺伝子領域のシークエンス解析ができた。母親はヘテロ接合性であり、胎児はホモ接合性であることがわかった。
【0072】
実施例9:運用プロトコルの例
−リンフォライトを少なくとも20分前に冷蔵庫から取り出して、室温でリンフォライトを平衡化する(細胞分離のために適切な密度を得るため)。
−PBSを少なくとも20分前に冷蔵庫から取り出して、室温でPBSを平衡化する(細胞への温度ショックを防止するため)。
−チャネル内の流動を安定化させるためにペリスタポンプのスイッチを入れる。速度は0.35ml/分である。
【0073】
1.血液試料とEDTA(14ml)を含む試験管を同量の(冷えていない)PBSで希釈する。
【0074】
2.血液の体積と等しい体積のリンフォライトをとってファルコンチューブに入れる(室温)。
【0075】
3.リンフォライト接触面を乱さずに、前記試験管の壁面にPBS希釈血液を非常に穏やかに注ぐ。
【0076】
4.ブレーキ0で800×gで26分間遠心分離する。
【0077】
5.ガラスパスツールピペットを用いて輪になったリンパ球(lymphocyte ring)を取り除く。
【0078】
6.ヘパリン含有生理食塩水溶液(1:1000)を添加し、800×gで10分間遠心分離する。
【0079】
7.ヘパリン含有生理食塩水溶液(1:1000)をペレットに添加する。
【0080】
8.ペレットを400マイクロリットルのヘパリン含有生理食塩水溶液(1:1000)に再懸濁する。
【0081】
9.細胞計数:
・両方の計数チャンバーにカバーをするためにカバーグラスを適合させてバーカーチャンバーを調製する。
・新しいチューブの中で1μlの細胞懸濁液を19μlのヘパリン含有生理食塩水溶液に(または、より正確には,
2μlの細胞懸濁液を38μlのヘパリン含有生理食塩水溶液に)添加することにより1:20溶液を調製する。
・2本目のチューブを用意し、1μlのトリパンブルーを9μlの前記1:20希釈液に添加する。
・2本目の試験管の10μlの試料(1μlのトリパンブルー及び9μlの前記1:20希釈液からなる)を毛管現象によりバーカーチャンバーにロードする。
・視野内で細胞が停止するのを数秒間待ち、4つの大きな四角を数える:生細胞(色素が浸透していない細胞)だけを数える。
・平均(M)を計算し、希釈係数(20)と10(バーカーチャンバー係数)を乗算する:M×20×10=ml当たりの細胞数n。
・前記のml当たりの細胞数量に懸濁液の体積(0.4ml)を乗算する:ml当たりの細胞数×0.4=懸濁液中に存在する全細胞数。
【0082】
10.前記懸濁液の必要な希釈係数を計算して、50μlの細胞懸濁液として5〜6×10個の細胞をロードする。
【0083】
11.流動を停止する。シリンジで前記試料を注入する。
【0084】
12.流動を0.25ml/分で15秒間にわたって再開する。
【0085】
13.停止し、試料を2分間緩和させる。
【0086】
14.バルブを回す。
【0087】
15.流動を0.35ml/分で再開する。
【0088】
16.ファルコンチューブにピークの最初の部分(平坦部から高原部まで)を収集する。
【0089】
17.2回目の注入の前にチャネルから試料を完全に流出させる。
【0090】
18.ピークの最初の部分の幾つかの画分が収集されたところで、800×gで6分間遠心分離する。
【0091】
19.その後のDNA抽出のためにペレットを乾燥するか、または計数およびスライド上への付着のためにペレットを再懸濁する。
【0092】
本発明の方法により達成される利点は詳細な説明と上記実施例から明らかである。とりわけ、本方法は胎児の染色体異常および遺伝的疾患の非侵襲的診断に驚くばかりに有利に適切であることがわかった。同時に、本方法は迅速で非常に容易に実施可能であり、あらゆる種類の研究室または診断解析室において簡便に適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]