【実施例】
【0045】
実施例1:患者
マンジャガッリ病院の産科において妊婦にインフォームドコンセントを提供した後に彼女らを動員した。130人の妊婦から6〜14mlの静脈血を採取した(表1)。
【0046】
【表1】
表1.妊娠期間に応じて患者の数で分けた、分析した患者のリスト
【0047】
妊娠期間はNRBC(「有核赤血球」)を特定することが可能であるときのものである。妊娠第5週から第35週までの試料を分析した。しかしながら、文献に記載されているように、対象内変動が存在する。NRBCの最大量は妊娠早期の週に見出された。最適な採取期間は妊娠第8週〜第12週の辺りである。
【0048】
実施例2:有核細胞の単離による試料前処理
分離前の母体末梢血試料の前処理工程がNRBC単離工程に先立つ。
【0049】
例えばフィコールなどの密度勾配の調製用の溶液によって、好ましくはリンフォライト−H(ユーロクローン社、ミラノ)によって、前処理工程を有利に実施することができる。
【0050】
他の種類の試料前処理、例えば赤芽球の溶解または希釈も、考えられる。
【0051】
実施例3:チャネルへの試料負荷
実施例2に記載されるように前処理し、分離した試料を、GrFFFによる細胞分離用の機器のチャネルに負荷する。
【0052】
試料負荷の前に、チャネルを20%次亜塩素酸ナトリウム溶液で洗浄し、その後に滅菌蒸留水で徹底的に洗浄し、最後にヘパリン含有滅菌生理食塩水で洗浄する。そのチャネル内の流動が安定(=吸光度が安定)であるとき、前処理した試料をチャネルに注入する。50μlの最終体積中におよそ5×10
5個の細胞をチャネルに負荷する。
【0053】
前記チャネル中での前記試料の好適な分離のための適切なパラメーターは、
−試料希釈係数、
−チャネルに負荷される細胞数、
−チャネル内における細胞の緩和期間の変動性
−チャネル内の流速、および
−希釈媒体及び存在する抗凝血因子の特徴
である。
【0054】
試料希釈係数は50μl中におよそ1×10
5細胞から1×10
6細胞の範囲で変化することができ、好ましくは50μl中におよそ5×10
5細胞である。
【0055】
チャネルに負荷される細胞数については、あまりに少ない細胞(きわめて希釈された試料)がロードされた場合、またはあまりに多い細胞(きわめて濃縮された試料)がロードされた場合には、試料分離度が小さいこと(poor separation)が観察されている。
【0056】
緩和期間は約2分続き、4分または6分というより長い期間でも有意な改善は見られず、一方でより短い期間では試料分離度が小さくなる。
【0057】
溶出媒体については、25,000IU/5mlのEPSOCLARヘパリン点滴用溶液を使用する1:1000ヘパリン添加生理食塩水で最良の結果が得られた。
【0058】
チャネル内の流速は分当たり約50μlから最大で分当たり1mlまでの範囲で変化させることができ、好ましくは約100μl/分から約400μl/分までの範囲であり得、さらにより好ましくは250μl/分である。
【0059】
実施例4:吸光度による試料分析
実施例3に記載された、チャネル内で分離された試料を、分光光度計によって600nmで読み取り、
図1および
図2の試料について例示されているグラフを作成する。
【0060】
前記グラフにおいて、ヘパリン含有生理食塩水溶液を流して得られたゼロ値(ゾーン0)に対する吸光度の変化を示す3つのゾーンを識別することができる。
ゾーン1(VOID)は細胞破片とリンパ球のチャネルからの流出に対応し、
ゾーン2は主に胎児有核細胞の流出に対応し、
ゾーン3は主に顆粒球の流出に対応する。
【0061】
実施例5:回収された細胞の画分の特徴解析
各画分中の細胞をバーカーチャンバーにより計数し、「スメア」またはサイトスピンによってスライドグラス上に付着させた。
【0062】
その後にNRBCの存在を検証するために細胞をギムザ(
図3)およびO−ジアニシジン(
図4)により染色し、顕微鏡観察により分析した。
【0063】
収集した溶離液画分中に赤芽球(NRBC)の存在を検出することができた。
【0064】
実施例6:FACS分析
12人の患者についてFACS分析を実施した。
【0065】
重力フィールドフロー分画(GrFFF)システムは母体血液中に存在する様々な種類の集団を分離し得ることがわかっている。
【0066】
胎児赤芽球(「有核赤血球」、NRBC)はゾーン2に見出される(
図5)。
【0067】
NRBCのパーセント収率は生細胞の61.7%にも達しており、NRBCはCD45−であるので、CD45
+細胞のネガティブ選択によってさらに濃縮することが考えられる。この場合では収率は100%近くになるだろう。
【0068】
実施例7:リアルタイムPCRおよびQF PCR分析
実施例3に記載されるように単離された胎児細胞から胎児の性別を特定することが可能であるか見出すため、SRY遺伝子の存在を検出するためのY染色体特異的プローブを使用することにより11試料に対してリアルタイムPCR分析を実施した。SRYプローブ(Y.M. Dennis Lo、Mark S.C. Tein、Tze K. Lau、Christopher J. Haines、Tse N. Leung、Priscilla M.K. Poon、James S. Wainscoat、Philip J. Johnson、Allan M.Z. Chang、およびN. Magnus Hjelm、Quantitative Analysis of Fetal DNA in Maternal Plasma and Serum:Implications for Noninvasive Prenatal Diagnosis、Am. J. Hum. Genet.誌、第62巻:768〜775頁、1998年)を使用してSRY遺伝子の存在を判定することができ、したがって、男性試料にあるY染色体の存在を判定することができた。特に、上記の実験が
図6に示されており、女性由来の対照試料において検出されない蛍光の増加を男性由来の試料において観察することができる。
【0069】
また、1試料に対するQF−PCR(「定量的蛍光PCR」)分析によって2つの異なるゲノム、すなわち、母体DNAと胎児DNAの存在が示された。
【0070】
特に、
図7は高さと数の両方に関して異なるピークの存在(3つのピーク、または4つものピーク)を示しており、したがって、2つの異なるゲノムが存在することを示している。
【0071】
実施例8:血友病を有する妊婦に由来する胎児細胞のDNAのシークエンシング
一人の血友病患者における疾患遺伝子領域のシークエンス解析ができた。母親はヘテロ接合性であり、胎児はホモ接合性であることがわかった。
【0072】
実施例9:運用プロトコルの例
−リンフォライトを少なくとも20分前に冷蔵庫から取り出して、室温でリンフォライトを平衡化する(細胞分離のために適切な密度を得るため)。
−PBSを少なくとも20分前に冷蔵庫から取り出して、室温でPBSを平衡化する(細胞への温度ショックを防止するため)。
−チャネル内の流動を安定化させるためにペリスタポンプのスイッチを入れる。速度は0.35ml/分である。
【0073】
1.血液試料とEDTA(14ml)を含む試験管を同量の(冷えていない)PBSで希釈する。
【0074】
2.血液の体積と等しい体積のリンフォライトをとってファルコンチューブに入れる(室温)。
【0075】
3.リンフォライト接触面を乱さずに、前記試験管の壁面にPBS希釈血液を非常に穏やかに注ぐ。
【0076】
4.ブレーキ0で800×gで26分間遠心分離する。
【0077】
5.ガラスパスツールピペットを用いて輪になったリンパ球(lymphocyte ring)を取り除く。
【0078】
6.ヘパリン含有生理食塩水溶液(1:1000)を添加し、800×gで10分間遠心分離する。
【0079】
7.ヘパリン含有生理食塩水溶液(1:1000)をペレットに添加する。
【0080】
8.ペレットを400マイクロリットルのヘパリン含有生理食塩水溶液(1:1000)に再懸濁する。
【0081】
9.細胞計数:
・両方の計数チャンバーにカバーをするためにカバーグラスを適合させてバーカーチャンバーを調製する。
・新しいチューブの中で1μlの細胞懸濁液を19μlのヘパリン含有生理食塩水溶液に(または、より正確には,
2μlの細胞懸濁液を38μlのヘパリン含有生理食塩水溶液に)添加することにより1:20溶液を調製する。
・2本目のチューブを用意し、1μlのトリパンブルーを9μlの前記1:20希釈液に添加する。
・2本目の試験管の10μlの試料(1μlのトリパンブルー及び9μlの前記1:20希釈液からなる)を毛管現象によりバーカーチャンバーにロードする。
・視野内で細胞が停止するのを数秒間待ち、4つの大きな四角を数える:生細胞(色素が浸透していない細胞)だけを数える。
・平均(M)を計算し、希釈係数(20)と10
4(バーカーチャンバー係数)を乗算する:M×20×10
4=ml当たりの細胞数n。
・前記のml当たりの細胞数量に懸濁液の体積(0.4ml)を乗算する:ml当たりの細胞数×0.4=懸濁液中に存在する全細胞数。
【0082】
10.前記懸濁液の必要な希釈係数を計算して、50μlの細胞懸濁液として5〜6×10
5個の細胞をロードする。
【0083】
11.流動を停止する。シリンジで前記試料を注入する。
【0084】
12.流動を0.25ml/分で15秒間にわたって再開する。
【0085】
13.停止し、試料を2分間緩和させる。
【0086】
14.バルブを回す。
【0087】
15.流動を0.35ml/分で再開する。
【0088】
16.ファルコンチューブにピークの最初の部分(平坦部から高原部まで)を収集する。
【0089】
17.2回目の注入の前にチャネルから試料を完全に流出させる。
【0090】
18.ピークの最初の部分の幾つかの画分が収集されたところで、800×gで6分間遠心分離する。
【0091】
19.その後のDNA抽出のためにペレットを乾燥するか、または計数およびスライド上への付着のためにペレットを再懸濁する。
【0092】
本発明の方法により達成される利点は詳細な説明と上記実施例から明らかである。とりわけ、本方法は胎児の染色体異常および遺伝的疾患の非侵襲的診断に驚くばかりに有利に適切であることがわかった。同時に、本方法は迅速で非常に容易に実施可能であり、あらゆる種類の研究室または診断解析室において簡便に適用可能である。