(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る球技用ボールの一実施形態のとしてのサッカーボールの外観を示している。本サッカーボールは、複数の表皮パネル4,4,・・を有する外層5を備えている。表皮パネル4,4,・・は、五角形のもの(12枚)と、六角形のもの(20枚)とが用いられている。その他、5角形12枚で構成しても良い。その他の形状の複数のパネル4,4,・・で球面を覆う構成とすることもできる。そして、そのうちの一つの表皮パネル4には、空気を注入するために使用されるバルブ用の孔1が設けられている。
【0015】
本サッカーボールは、
図2に示すように、外層5の内側に配置されたボール基体7を備えている。すなわち、サッカーボールは、ボール基体7と、ボール基体7の外側に配置された外層5とを備えている。ボール基体7は、中空形状のブラダー2と、このブラダー2の外側に設けられた補強層3と、を備えている。ブラダー2は、ブチルゴム、ラテックスゴム等の空気非透過性のゴムによって中空状に構成されている。ブラダー2には圧搾空気が封入される。
【0016】
補強層3は、ボールとしての品質の安定化を目的として設けられる層であり、例えば、ナイロンフィラメント等の繊維を数千m分あらゆる方向に巻き付けることによって形成されている。補強層3を設けることにより、真球度、耐久性、外径、形態維持性等を向上できる。
【0017】
なお、補強層3は、前記構成に限られるものではない。例えば綿布等の織布を貼り合わせることによって補強層3を構成してもよく、あるいは複数枚の織布を球形に縫い合わせたものによって補強層3を形成してもよい。補強層3は、例えば幼児用ボール等の場合に省略することができる。また、補強効果、ブラダー効果(空気保持機能+リバウンド機能)を併せ持ったエラストマー材料で基体7を構成することも出来る。
【0018】
外層5は、補強層3の外側に配置されている。このため、外層5を構成する各表皮パネル4,4,・・の裏面は、補強層3(ボール基体7)に対向している。なお、表皮パネル4,4,・・は補強層3に接着されていない。
【0019】
図2に示されるように、表皮パネル4は、表皮材4cと、この表皮材4cの裏側に貼り合わされた裏面部材4dとを備えている。表皮材4cには、人口皮革、合成皮革等が用いられる。表皮パネル4の裏面部材4dは、EVAの発泡材等の柔軟で伸縮性のある素材によって構成されている。裏面部材4dは、緩衝部材としても機能する。表皮パネル4は、3〜8mm程度の厚みを有する。
【0020】
各表皮パネル4は、本体部11と、本体部11よりも薄く形成され且つ本体部11の側面から延出された延出部12と、を有する。本体部11は、表皮パネル4の外形形状(例えば、五角形等の多角形状)に比べて一回り小さく、且つ前記外形形状に相似な外形形状を有する。そして、本体部11は、
図2に示されているように、その全体に亘って厚みが一様であり、縦断面が矩形状となっている。したがって、本体部11は、表皮材4cによって形成される表側面11aと、その反対側の面であって後述する補強部材15が固着された裏側面11bと、裏側面11bの外周部につながる外端面11cとを有する。
【0021】
延出部12は、本体部11の周囲に設けられている。延出部12は、本体部11の表側面11aに繋がる表側面12aと、本体部11の外端面11cに繋がる内側面12bと、延出部の外周面を構成する先端面12cとを有する。延出部12は、本体部11の外端面11cにおける表側部から側方(外端面方向)に張り出すと共に、裏側に向かって延びている。つまり、延出部12は、裏側に曲げられた状態となっている。
【0022】
延出部12の本体部11からの延出長さは、本体部11の厚みと同等となっている。そして、延出部12の先端面12cは、本体部11の裏面とほぼ面一の位置でボール基体7に対向している。したがって、延出部12がボール基体7と当接することによって、本体部11の周縁部がボール基体7から浮き上がることはなく、表皮パネル4の外周部が盛り上がるようなことはない。
【0023】
本体部11の外端面11cでは、延出部12が形成された部位(表側部)よりも裏側の部位(裏側部)が端面として残された状態となっている。そして、延出部12の内側面12bは、本体部11の外端面11cにおける裏側部と対向している。一方、延出部12の表側面12aは、表皮材4cによって形成されている。
【0024】
表皮材4cは、本体部11における表側面11aから延出部12における表側面12aに亘っている。すなわち、表皮材4cは、表皮パネル4の表側面から外端面に亘って設けられている。したがって、表皮材4cは、その外周部で裏側に向かって曲がった形状となっている。
【0025】
裏面部材4dは、表皮材4cで囲まれる内側に設けられており、表皮パネル4において、本体部11から延出部12に亘る範囲を構成している。換言すれば、本体部11は、表皮材4cと裏面部材4dとを有し、延出部12も表皮材4cと裏面部材4dとを有する。
【0026】
本実施形態のサッカーボールは、隣接する表皮パネル4同士が互いに縫い糸13によって縫い合わされた、いわゆるミシン縫いボール(i.e. machine sewing ball)である。
【0027】
本実施形態のサッカーボールには、縫い糸13によって縫い合わされた部位を補強する補強部材15が設けられている。
【0028】
補強部材15は、1枚或いは複数枚の布によって構成されている。補強部材15は、例えば、綿,綿とポリエステルの混紡布、ナイロン布、あるいはポリエステル布によって構成される。補強部材15の引張強度は、縦方向、横方向共に、0.08〜2.5kgf/平方インチ(0.1〜3.8N/cm
2)であるのが好ましい。
【0029】
補強部材15の面密度(単位面積あたりの重さ)は25〜200g/m
2であるのが好ましい。ボールは球技に用いられたときに、望まれる性能を十分に発現するように重量の最適範囲がある。例えば、サッカーボールの国際試合球としては、5号球で420〜445gという極めて小さい範囲の重量規定がFIFAによって定められている。これは10g前後の微小な重量変化が、球技に大きく影響することを意味することにほかならない。このサイズのボールでは、通常ブラダーに80g〜100g使用され、補強層に100g〜120g使用されるため、表皮パネル4,4,・・に残されている残余重量は200〜240gである。表皮パネル4,4,・・の内の表皮材4c,4c,・・の重量は概ね120〜150g必要である。従って、表皮パネル4,4,・・において、表皮材4c,4c,・・以外の部材に使用できる残余重量は50〜120gである。この中で、本実施形態で使用される縫製用の縫い糸13の重量が10g必要であることから、表皮パネル4,4,・・の他部材、即ち、裏面部材4d,4d,・・、補強部材15,15,・・、接着剤17に残される残重量は40〜110gとなる。この中で、裏面部材4d,4d,・・は衝撃を緩和する緩衝材として使用されるため、できるだけ多くの重量の供与が要求され、35〜70gであることが望ましい。このため、補強部材15,15,・・に割り当てられる重量は5〜40gである。この重量制約の中で目的を達成することは容易ではない。5〜40gはボール1個当たりでの重量であるため、補強部材4dを織物で構成する場合、補強部材4dの面密度は25〜200g/m
2となる。従って、補強部材4dとして使用できる材料は前記の重量範囲となる。200g/m
2以上であれば、パネルが重たくなり、他部材の重量削減が必要となってボールとしての品質が十分に保持できなくなってしまう。
【0030】
補強部材15は、裏面部材4dの裏側に設けられている。具体的に、補強部材15は、延出部12における裏面部材4dの内側面12bに固着した第1部位15aと、本体部11における裏面部材4dの外端面11cに固着した第2部位15bと、本体部11における裏面部材4dの裏側面11bに固着した第3部位15cと、を一体的に有している。
【0031】
第1部位15aは、補強部材15の外周部によって構成される部位であり、延出部12の内側面12bに沿うように配置されている。第1部位15aの外端面は、延出部12の先端面12cと面一の状態で配置されて、ボール基体7に対向している。主として第1部位15aによって、延出部12の縫い合わせ部での補強効果が得られている。すなわち、第1部位15aが存在していなければ、柔軟な素材からなる裏面部材4dの縫い目が破れ易くなり、また縫い目の飛びが発生し易くなってしまう。このため、ボール使用に耐え得る強度が得られない。
【0032】
第2部位15bは、第1部位15aから折り返すように第1部位15aに繋がるとともに、本体部11の外端面11cに沿って配置されている。第2部位15bが第1部位15aから折り返すように曲がることにより、表皮パネル4の裏面には、溝が形成されている。この溝は、表皮パネル4の外周に沿うように延びていて、環状に繋がっている。
【0033】
第3部位15cは、本体部11における裏面部材4dの裏面全体に設けられている。第3部位15cは、ボール基体7における補強層3と接触している。ただし、補強部材15は、補強層3に接着されておらず、補強部材15は、補強層3に対して独立した存在となっている。
【0034】
補強部材15は、表皮パネル4の全体に亘って設けられているため、補強部材15は、補強層3とともにボール自体を補強する機能を有している。すなわち、補強部材15が第1部位15a、第2部位15b、第3部位15cを一体的に有する構成となっているので、補強部材15は、延出部12における縫い合わせ部を補強する機能に加え、ボール自体を補強する機能を有している。ボール基体7の補強層3以外に補強部材15が別個に存在するため、補強層3としては、従来のミシン縫いボールに比べ、より薄い構成の部材を採用することができる。
【0035】
なお、補強部材15は、第3部位15cが省略された構成でもよく、あるいは、第2部位15b及び第3部位15cが省略された構成であってもよい。これらの構成の場合、補強部材15が第1部位15a、第2部位15b及び第3部位15cを有する場合に比べて、ボール全体の重量を軽減することができる。
【0036】
補強部材15が第1部位15a及び第2部位15bを有し、第3部位15cを有しない構成では、
図3に示すように、本体部11の裏側面11bがボール基体7(補強層3)に対向する構成となる。この場合、延出部12の内側面12b及び本体部11の外端面11cの幅に応じた幅を有するテープ状の補強部材15が用いられる。
【0037】
隣り合う表皮パネル4、4は、縫い糸13によって縫い合わされている。すなわち、表皮パネル4の表皮材4c、裏面部材4d及び補強部材15は、縫い糸13によって、まとめて隣の表皮パネル4の表皮材4c、裏面部材4d及び補強部材15に縫い付けられている。
【0038】
縫い糸13の番手は、15〜40が好ましく、20〜30がより好ましい。
【0039】
隣り合う表皮パネル4,4は、接着剤17によって互いに接着されている。表皮パネル4の外端面間の溝が接着剤17によって埋められていて、接着剤17の表側(
図2の上側)において、表皮パネル4,4間にV字溝が形成されている。なお、接着剤17は表皮パネル4の外端面間の溝だけでなく、各パネル4の延出部12の先端面12cまで塗布されている。
【0040】
接着剤17は、縫い糸13の縫い孔を含む縫い合わせ部を覆っている。言い換えると、縫い糸13は接着剤17によって構成された層を貫通している。このため、縫い糸13は外から見えない。接着剤17が縫い孔の周囲に存在することにより、表皮材4cの縫い孔が接着剤17によって塞がれ、ボール内への浸水が防止されている。
【0041】
接着剤17は、熱活性型接着剤17で構成されている。すなわち、各表皮パネル4の各延出部12aに塗布された接着剤17は、室温で乾燥及び固化する。そして、各延出部12a上の固化した接着剤は例えば45〜65℃程度に加熱されることによって溶融して融合するとともに、その後、結合して最終的に固化して一体化する。溶融した接着剤17が縫い孔に流入することによって、縫い孔が塞がれ、ボール内への吸水防止が更に強化される。
【0042】
補強部材15は、
図4に示すように、裏面部材4dの中に設けられていてもよい。この場合、裏面部材4dは、補強部材15に対して表皮材4c側に位置する表側部4fと、補強部材15に対して表皮材4cと反対側に位置する裏側部4gとからなる。つまり、補強部材15は、表側部4fと裏側部4gとの間に挟み込まれている。補強部材15に対して表皮材4c側に表側部4fが存在することにより、ボールとしての感触が悪化することを防止できる。
【0043】
この場合も、補強部材15は、本体部11から延出部12に亘る範囲に設けられる。補強部材15は、延出部12内に配置される部位と、本体部11内に配置される部位とを有し、表皮材4cと同様、外周部位が裏側に曲がった構成となる。
【0044】
ここで、本実施形態に係るサッカーボールの製造方法について説明する。
【0045】
まず、表皮パネル4を形成する工程について説明する。この表皮パネル形成工程では、表皮パネル4の形状に応じた形状の表皮パネル用部材19が形成されるとともに、この表皮パネル用部材19から表皮パネル4が形成される。この工程には、貼り合わせ工程と、裁断工程と、延出部形成工程とが含まれる。
【0046】
貼り合わせ工程では、
図5に示すように、表皮材4cの裏側に裏面部材4d及び補強部材15を貼り付ける。接着剤としては天然ラテックスを使用することができる。表皮材4cと裏面部材4dは接着剤によって互いに固着されてもよい。また、裏面部材4dと補強部材15は接着剤によって互いに固着されてもよい。なお、このときの表皮材4c、裏面部材4d及び補強部材15は、裁断される前の状態であるため、表皮パネル4の形状に応じた形状にはなっていない。
図5は、
図2に示すサッカーボールの場合である。このため、表皮材4cの裏側に裏面部材4dが貼り付けられ、裏面部材4dの裏側に補強部材15が貼り付けられる。なお、
図4に示すサッカーボールの場合には、裏面部材4dの表側部4fと裏側部4gとの間に補強部材15が貼り付けられる。それ以外の点は同じである。
【0047】
図6に示すように、裁断工程では、表皮材4c、裏面部材4d及び補強部材15を一括して表皮パネル形状に応じた形状に裁断して、表皮パネル用部材19を得る。これらを裁断するには、打ち抜き刃18を用いて打ち抜いてもよく、あるいは図略の裁断機を用いて切り抜いてもよい。
【0048】
延出部形成工程では、表皮パネル用部材19の外周部を凹ませることによって、本体部11と延出部12とが形成された表皮パネル4を得る。延出部形成工程では、
図7に示すように、凹部形成装置20が使用される。この凹部形成装置20は、第1金型21と、第2金型22と、表皮パネル部材の外周部を昇温させるための昇温部24とを備えている。
【0049】
第1金型21は、表皮パネル用部材19の表側面を押える平面部21aを有している。一方、第2金型22には、表皮パネル用部材19の外周部に凹部26を形成するための環状凸部22aが設けられている。この環状凸部22aは、縦断面が例えば矩形状に形成されており、この環状凸部22aで囲まれた凹状部22bは、表皮パネル4の本体部11に対応した大きさ、形状(相似形状)となっている。
【0050】
昇温部24は、高周波発生装置或いは超音波発生装置によって構成することができる。高周波発生装置の場合、昇温部24は、第1金型21及び第2金型22を電極として、両電極間に高周波電圧(例えば、10kHz、数千ボルトの電圧)をかけるように構成される。そして、第1金型21と、第2金型22の環状凸部22aとで表皮パネル用部材19の周縁部を圧縮する。このとき、表皮パネル用素材は、表皮材4cが第1金型21側となり、補強部材15が環状凸部22a側になるようにセットされている。そして、環状凸部22aに対応する位置で裏面部材4dが溶ける温度以上になるまで両電極間に高周波電圧を印加できるようになっている。
【0051】
表皮パネル用部材19の外周部が昇温したときには、環状凸部22aと平面部21aとの間の部分の裏面部材4dの外周部が溶融するとともに圧縮する。これにより、裏面部材4dの外周部には、補強部材15側から凹むように凹部26が形成される。このとき、補強部材15は、溶融することなく、裏面部材4dの溶融圧縮に応じて変形する(
図8参照)。これにより、本体部11と延出部12とが形成された状態の表皮パネル4を得ることができる。凹部26は、延出部12が折れ曲がり可能な厚みになるように形成される。なお、このときは未だ、延出部12が折れ曲がった状態ではなく、延出部12は本体部11から側方に真っ直ぐ延出した鍔状の形状となっている。
【0052】
なお、
図4に示す形態のサッカーボールを製造する場合には、昇温部24は、高周波電圧で表皮パネル用部材19の周縁部が昇温する構成に限られるものではない。昇温部24は、例えば、第2金型22に埋設された図略のヒータによって構成されてもよい。環状凸部22aがヒータの熱によって昇温することにより、表皮パネル用部材19が加熱される。
【0053】
続いて、表皮パネル4において、延出部12の外面に接着剤17を塗布する(塗布工程)。
図9に示すように、塗布工程では、延出部12が曲げられたときに、表皮パネル4の外端面を形成することになる部位に接着剤17が塗布される。接着剤17は、熱活性型接着剤(heat active type adhesive)からなる。接着剤17は、乾燥して固化しているが、加熱されると溶融する状態にある。
【0054】
次に、
図10に示すように、2つの表皮パネル4の外面同士を付け合わせる(付け合わせ工程)。このとき、表皮パネル外面の外周部に接着剤17が塗布されているため、接着剤17が塗布された部位同士が対面する。
【0055】
次に、外面同士が付き合わされた表皮パネル4の延出部12同士を縫い糸13で縫い合わせる(縫い合わせ工程)。縫い合わせ工程では、縫い糸13が付けられたミシン針28を両表皮パネル4の補強部材15、裏面部材4d及び表皮材4cに貫通させることにより、これらを縫い合わせる。そして、付け合わせ工程及び縫い合わせ工程を繰り返すことにより、球殻体30を形成する(
図11参照)。この時、ボール基体7を挿入するための窓(opening)用として、縫い合わせをしない辺を確保する。
【0056】
この球殻体30は、
図12に示すように、補強部材15が表側に位置し、延出部12が表側に向けて折り曲げられた状態となっているので、前記窓を利用して球殻体30を裏返す。そして、この球殻体30の中にボール基体7を挿入して、前記窓を縫い合わせて閉じ、ボールの状態にする(挿入工程)。
【0057】
次に、
図13に示すように、ボールを金型33内に挿入して、金型33を閉じた状態において、ブラダー2内に高圧空気(6〜8kg/cm
2)を圧入し、加圧した状態で加熱する。これにより、各延出部12上の接着剤17が一旦溶融して結合した(融合)後、固化する(融合固化工程)。すなわち、接着剤17が活性を示す温度まで金型33を加熱し、その後、ボールが冷却されることにより、隣接する表皮パネル4同士が接着された状態となる。これにより、サッカーボールが完成する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、表皮パネル4の延出部12において、縫い糸13によって縫い合わされる部位が補強部材15によって補強されている。このため、表皮パネル4の延出部12において、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。しかも、隣接する表皮パネル4の延出部12同士が、接着剤17によって互いに接着されている。このため、サッカーボールの使用時において、縫い糸13が露出する虞はない。また、隣接する表皮パネル4,4間を広げる方向に力が作用した場合でも、接着剤17によって延出部12同士が密着した状態が維持されるため、縫い糸13に係る張力が低減される。したがって、縫い糸13は切れ難い。しかも、パネル4間が接着剤17によって遮蔽され、更に縫い孔が溶融した接着剤17によって確実に塞がれるため、縫い孔からの浸水を防止することができる。また、延出部12は本体部11よりも薄く形成されているため、延出部12の存在によって、表皮パネル4の外周部が盛り上がることもない。つまり、本体部と同じ厚みの外周部が内側に折り曲げられた従来の縫いボールでは、表皮パネルの外周部がボール基体に接触することによって、本体部の周縁部がボール基体から浮き上がって表皮パネルの外周部が表側に盛り上がってしまう。これに対し、本実施形態のサッカーボールでは、延出部12が本体部11よりも薄く形成されているため、そのようなことは起こらない。
【0059】
ここで、縫い糸13によって表皮パネル4同士が縫い合わさせるだけでなく、接着剤17によって表皮パネル4の端面同士が接着される構成に加えて、表皮パネル4の裏側に補強部材15が設けられることによって、表皮パネル4の縫い合わせ部が補強されることによる効果について説明する。
【0060】
接着剤17による接着効果(接着力)を高めるためには、接着される表皮パネル4同士を押さえつける(加圧)ことが不可欠である。しかし、単にパネル端面同士を接着する構成では、両端面同士を押し合う力を発生させることはできない。そこで、表皮パネル4の端面同士を補強部材15を介装した状態で縫製することにより、両パネル4接着面の加圧が実現される。したがって、縫製がされない状態よりも、接着力を増大させることができる。
【0061】
このことをもう少し詳しく説明する。裏面部材4dは緩衝材であるため、補強部材15がない場合には、縫い糸14は、糸の全体、全箇所において裏面部材4d中にめり込んでしまう。従って、縫い糸13で表皮パネル4同士を縫い合わせる構成にしながらも、補強部材15が設けられていなければ、表皮パネル4の接着面を加圧する力が減少することになる。これに対して、補強部材15が設けられている場合には、縫い糸13は縫製孔間において補強部材15を介して裏面部材4dを押さえ付けるように作用するため、縫製力が裏面部材4dで吸収されることなく、表皮パネル4の接着面を押圧するように作用させることができる。つまり、縫製するだけで、表皮パネル4同士が接着されていなければ、縫い糸13の引張力によって表皮パネル4における縫い糸13の接触部にかかるだけであり、表皮パネル4を面状に押圧することはできない。また、補強部材15がなければ、縫い糸13による張力によって表皮パネル4の接着面を効果的に押圧することができない。更にまた、熱活性型接着剤の場合には、表皮パネル4の両端面に塗布された溶融した接着剤が縫製による押し圧力で互いに混ざり合い加圧される。このため、熱活性型接着剤では、接着力が増大する。したがって、表皮パネル4同士を縫い合わせるだけでなく、両パネル4を接着し、しかも補強部材15を設けることによって、これらの相乗効果で、パネル4(外層5)の耐久性を向上させることができる。
【0062】
また本実施形態では、補強部材15は、延出部12から本体部11に亘る範囲に設けられている。補強部材15により、延出部12における縫い合わせ部の補強がなされるだけでなく、表皮パネル4自体の補強効果も得られる。また、延出部12から本体部11に亘る大きさの補強部材15が用いられるため、補強部材15を表皮パネル用素材に貼り付けるための作業が煩雑になることを防止できる。つまり、本体部11及び延出部12にそれぞれ別個の補強部材15を貼り付ける場合に比べ、補強部材15を貼り付ける作業を簡素化することができる。しかも、補強部材15の位置ずれが生ずることもない。
【0063】
また本実施形態では、補強部材15が、本体部11においてボール基体7に対向する裏側面11bと、本体部11の外端面11cにおける裏側部と、延出部12における本体部11の外端面11cに対向する内側面12bとに亘って設けられている。すなわち、延出部12において、本体部11の外端面11cに対向する内側面12bに補強部材15が設けられている。このため、表皮パネル4の延出部12において、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。また、補強部材15と表皮材4cとの間に裏面部材4dが存在しているので、裏面部材4dによって、例えば、球技用ボールとしてのソフトな感触等の特性を付与することができる。また、補強部材15は、本体部11においてボール基体7に対向する裏側面11bにも設けられているので、この補強部材15は、ボールを補強する機能も有している。
【0064】
また、
図4に示すように、補強部材15が裏面部材4dの中に設けられている場合でも、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。また、裏面部材4dを加熱したり、裏面部材4dに高周波電圧をかけて昇温させることによって、裏面部材4dの周縁部に凹部26を形成することができる。
【0065】
また本実施形態では、接着剤17が熱活性型接着剤である。このため、表皮パネルの延出部12同士を縫い合わせる前に表皮パネル4の外面における外周部に接着剤17を塗布しておくことができる。すなわち、表皮パネル4の外面における外周部に塗布された接着剤17が乾燥した後に、表皮パネル4の延出部12同士を縫い合わせることができる。このため、表皮パネル4同士を縫い合わせた後に表皮パネル4,4間に接着剤17を注入する場合に比べ、外層5の作成時間を短縮することができる。また、隣接する表皮パネル4,4同士が縫い糸13で縫い合わされた状態で、接着剤17を加熱することによって表皮パネル4,4同士の接着が完了する。したがって、隣接する表皮パネル4,4同士が縫い糸13によって押圧した状態での接着がなされるため、それぞれのパネル4,4に塗布された接着剤分子が互いに溶融(相合溶融)しあって結合する。このため、高い接着力が得られる。なお、表皮パネル4,4同士を縫い合わせた後に表皮パネル4,4間に接着剤17を注入する場合は、押し圧力が存在しないために、相合溶融が無く、接着力が弱くなる。
【0066】
また、本実施形態の製造方法では、接着剤17が塗布された延出部12の外面同士を付け合わせ、この延出部12を縫い糸13で縫い合わせる。このため、表皮パネル4,4同士を縫い合わせた後で、隣接する表皮パネル4,4間に接着剤17を注入する場合に比べ、製造時間を短縮することができる。また、互いに縫い合わされる延出部12に補強部材15が設けられているため、縫い合わせ工程において、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。
【0067】
また、本実施形態の製造方法では、補強部材15が裏面部材4dに貼り付けられた後、表皮材4c、裏面部材4d及び補強部材15を一括して表皮パネル形状に応じた形状に裁断する。このため、表皮パネル形状に裁断された補強部材15を裏面部材4dに貼り付ける場合に比べ、補強部材15の貼り付け作業の負担を軽減できる。すなわち、補強部材15の貼り付け時には、補強部材15がまだ裁断されていない状態であるため、補強部材15の正確な位置合わせが不要となる。このため、作業負担を軽減することができる。しかも、補強部材15の位置ずれが生ずることがなくなる。また、裏面部材4dが表皮材4cの裏側に貼り付けられた後に裁断されて延出部12が形成されるため、裏面部材4d自体の位置ずれも防止することができる。つまり、表皮材を裁断した後に、裁断された裏面部材を貼り付けることによって延出部を形成する場合、裏面部材の位置ずれによって、延出部の長さにばらつきが生ずる虞がある。このため、延出部が曲げられた際には表皮パネルの形状がばらつき、球技用ボールとしての美観が悪化する。これに対し、補強部材15が裏面部材4dに貼り付けられた後に、表皮材4c、裏面部材4d及び補強部材15を一括して裁断する場合には、裏面部材4dの位置ずれが生じないため、球技用ボールの美観が損なわれることはない。
【0068】
また本実施形態の製造方法では、補強部材15が貼り付けられた裏面部材4dの外周部を凹ませることによって、本体部11から延出された延出部12が形成される。したがって、補強部材15で補強された延出部12を容易に形成することができる。裏面部材の外周部を凹ませた後に、裏面部材に補強部材を貼り付ける構成では、補強部材を貼り付ける作業が煩雑であり、しかも、補強部材の貼り付け位置がずれることがあり得る。これに対し、補強部材15が貼り付けられ、表皮パネル形状に応じた形状に裁断された裏面部材4dの外周部を凹ませる場合には、補強部材15の貼り付け作業の負担を軽減でき、しかも、補強部材15の位置がずれることがなくなる。
【0069】
また本実施形態ではの製造方法では、裏面部材4dを一度に凹ませることによって、延出部12を容易に形成することができる。従って、均一な幅の延出部12を実現できる。また、延出部12と本体部11との境界(凹部境界)をガイドとして、パネルを縫製することができる。したがって、縫製後に折り曲げられた延出部12は均一な高さとなるため、ボールの美観が向上する。これに対して、従来法では縫製ガイドが存在しないために、パネル端面からの距離(縫い代)が不均一となり、縫製後の縫い代の折り曲げが不均一となって、ボールの美観が損なわれる。
【0070】
また本実施形態の製造方法では、補強部材15が貼り付けられた裏面部材4dの外周部を溶融させて凹ませるので、補強部材15が貼り付けられた裏面部材4dの外周部に容易に凹部を形成することができる。また、裏面部材4dを溶融させるときでも、補強部材15が裏面部材4dから剥がれることはない。また、補強部材15のうち、第2金型22の環状凸部22aによって押圧される部位と、環状凸部22aによって押圧されない部位との境界がはっきりわかるため、この境界をガイドとして利用して、表皮パネル4,4同士の縫製をすることができる。すなわち、補強部材15が、織物で形成されているため、表面には、縦糸及び横糸による凸凹があり、また皺がある場合もある。この補強部材15を環状凸部22aによって加圧すると、加圧された部位については、表面の凹凸がなくなって平坦になる一方で、その他の部位では表面の凹凸が残ったままとなる。表面の凹凸の有無により、表面が違って見える視覚的な差異が表れる。したがって、補強部材15の外周部に、表面が滑らかで幅が一定な環状の部位が表れる。このため、表面が滑らかな部位とそうでない部位との境界に沿って、縫製をすることができ、延出部12を折り曲げたときの、延出部12高さが一定になりやすい。なお、
図14に示す従来技術では、折り曲げ部59がスポンジで形成されているため、折り曲げ部59とそれ以外の部位とは、これら部位間に段差があるとはいえ、表面の滑らかさが同じである。このため、折り曲げ部59とそれ以外の部位の視覚的な差異は少なく、縫製時に境界が分かり難い。
【0071】
また、本実施形態の製造方法において、縫い合わせ工程では、接着剤17が乾燥した状態にある。このため、延出部12の縫い合わせ作業時に、接着剤17が意図しない場所に付着することを防止することができる。また、球殻体30の中にボール基体7を挿入した後で、接着剤17を溶融させて延出部12同士の接着を完了させるため、表皮パネル4,4間をきれいに塞ぐことができる。またこのとき、延出部12において、縫い糸13によって縫い合わされた部位を接着剤17によって完全に覆うことができる。隣接する表皮パネル4,4同士が縫い糸13で縫い合わされた状態で、接着剤17を加熱することによって表皮パネル4,4同士の接着が完了する。したがって、隣接する表皮パネル4,4同士が縫い糸13によって押圧した状態での接着がなされるため、高い接着力が得られる。
【0072】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、サッカーボールに適用された例を示したが、これに限られず、例えば、バレーボール、ハンドボール、バスケットボール、ラグビーボール、アメリカンフットボール用ボール、ネットボール用ボール、フットサル用ボール、ビーチサッカー用ボール、オーストラリアンフットボール用ボール、ラグビーリーグフットボール、ラグビーユニオン用ボール、タッチボール用ボール等、あらゆる種類の球技に用いられ得る球技用ボールに適用され得る。
【0073】
前記実施形態では、接着剤17として熱活性型接着剤が用いられたが、これに限られず、その他のタイプの接着剤が用いられてもよい。
【0074】
ここで、前記実施形態について概説する。
【0075】
(1)前記実施形態の球技用ボールは、ボール基体と、複数の表皮パネルを有し前記ボール基体の外側の配置される球殻状の外層と、を備える。前記複数の表皮パネルのそれぞれは、本体部と、前記本体部よりも薄く形成され且つ前記本体部の外端面における表側部から延出されて該表皮パネルの外端面を構成する延出部と、を有する。隣接する表皮パネルの延出部同士は、接着剤によって互いに接着されるとともに縫い糸によって縫い合わされている。前記延出部において、縫い糸によって縫い合わされた部位を補強する補強部材が設けられている。
【0076】
前記実施形態の球技用ボールでは、表皮パネルの延出部において、縫い糸によって縫い合わされる部位が補強部材によって補強されている。このため、表皮パネルの延出部において、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。しかも、隣接する表皮パネルの延出部同士が、接着剤によって互いに接着されている。このため、球技用ボールの使用時において、縫い糸が露出する虞はない。また、隣接する表皮パネル間を広げる方向に力が作用した場合でも、接着剤によって延出部同士が密着した状態が維持されるため、縫い糸に係る張力が低減される。したがって、縫い糸は切れ難い。しかも、表皮パネル間及び縫い孔が接着剤によって確実に塞がれるため、表皮パネル間或いは縫い孔からの浸水を防止することができる。また、延出部は本体部よりも薄く形成されているため、延出部即ち縫い代部の存在によって、表皮パネルの外周部が盛り上がることもない。つまり、本体部と同じ厚みの外周部が内側に折り曲げられた従来の縫いボールでは、表皮パネルの外周部即ち縫い代部がボール基体に接触することによって、本体部の周縁部がボール基体から浮き上がって表皮パネルの外周部即ち縫い代部が表側に盛り上がってしまう。これに対し、前記実施形態の球技用ボールでは、延出部が本体部よりも薄く形成されているため、そのようなことは起こらない。
【0077】
(2)前記本体部及び前記延出部はそれぞれ、表皮材と、前記表皮材の裏面に固着された裏面部材とを有していてもよい。この場合、前記補強部材は、前記本体部の前記外端面における裏側部と、前記延出部における前記本体部の前記外端面の前記裏側部に対向する内側面とに亘って設けられていてもよい。
【0078】
この態様では、表皮材及び裏面部材を有する延出部同士が、縫い糸によって縫い合わされている。そして、延出部における本体部の外端面に対向する内側面に補強部材が設けられている。このため、表皮パネルの延出部において、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。また、補強部材と表皮材との間に裏面部材が存在しているので、裏面部材によって、例えば、球技用ボールとしてのソフトな感触等の特性を付与することができる。
【0079】
(3)前記補強部材は、前記延出部から前記本体部に亘る範囲に設けられていてもよい。
【0080】
この態様では、補強部材により、延出部における縫い合わせ部の補強がなされるだけでなく、表皮パネル自体の補強効果も得られる。また、延出部から本体部に亘る大きさの補強部材が用いられるため、補強部材を表皮パネル用素材に設けるための作業が煩雑になることを防止できる。つまり、本体部及び延出部に別個の補強部材を貼り付ける場合に比べ、補強部材を貼り付ける作業を簡素化することができる。しかも、補強部材の位置ずれが生ずることもない。
【0081】
(4)前記本体部及び前記延出部はそれぞれ、表皮材と、前記表皮材の裏面に固着された裏面部材とを有してもよい。この場合、前記補強部材は、前記本体部において前記ボール基体に対向する裏側面と、前記本体部の前記外端面における裏側部と、前記延出部における前記本体部の前記外端面の前記裏側部に対向する内側面とに亘って設けられていてもよい。
【0082】
この態様では、表皮材及び裏面部材を有する延出部同士が、縫い糸によって縫い合わされている。そして、延出部における本体部の外端面に対向する内側面に補強部材が設けられている。このため、表皮パネルの延出部において、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。また、補強部材と表皮材との間に裏面部材が存在しているので、裏面部材によって、例えば、球技用ボールとしてのソフトな感触等の特性を付与することができる。また、補強部材は、本体部においてボール基体に対向する裏面にも設けられているので、この補強部材は、ボールを補強する機能も有している。
【0083】
(5)前記本体部及び前記延出部はそれぞれ、表皮材と、前記表皮材の裏面に固着された裏面部材とを有してもよい。この場合、前記補強部材は、前記本体部及び前記延出部において、前記裏面部材の中に設けられていてもよい。
【0084】
この態様では、表皮材及び裏面部材を有する延出部同士が、縫い糸によって縫い合わされている。また、表皮パネルの延出部において、補強部材が表皮材と裏面部材との間に設けられているため、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。また、裏面部材を加熱したり、裏面部材に高周波電圧や超音波をかけて昇温させることによって、裏面部材の周縁部に凹部を形成することができる。
【0085】
(6)前記接着剤は、熱活性型接着剤であってもよい。
【0086】
この態様では、表皮パネルの延出部同士を縫い合わせる前に表皮パネルの外面における外周部に接着剤を塗布しておくことができる。すなわち、表皮パネルの外面における外周部に塗布された接着剤が乾燥した後に、表皮パネルの延出部同士を縫い合わせることができる。このため、表皮パネル同士を縫い合わせた後に表皮パネル間に接着剤を注入する場合に比べ、外層の作成時間を短縮することができる。また、隣接する表皮パネル同士が縫い糸で縫い合わされた状態で、接着剤を加熱することによって表皮パネル同士の接着が完了する。したがって、隣接する表皮パネル同士が縫い糸によって押圧した状態での接着がなされるため、高い接着力が得られる。
【0087】
(7)前記補強部材の面密度は、25〜200(25以上で200以下)g/m
2であるのが好ましい。この態様であれば、球技用ボールの重量が過大にならないようにしつつ、ボールとしての品質を十分に保持できる。
【0088】
(8)前記実施形態は、ボール基体と、複数の表皮パネルを有しボール基体の外側に配置される球殻状の外層と、を備えた球技用ボールの製造方法であって、表皮パネル用部材に、本体部と、補強部材で補強された延出部とを形成して、表皮パネルを得る表皮パネル形成工程と、前記延出部の外面に接着剤を塗布する塗布工程と、2つの表皮パネルにおいて、前記接着剤が塗布された前記外面同士を付け合わせる付け合わせ工程と、前記外面同士が付き合わされた前記表皮パネルの延出部同士を縫い糸で縫い合わせる縫い合わせ工程と、前記付け合わせ工程及び前記縫い合わせ工程を繰り返すことによって得られた球殻体の中に前記ボール基体を挿入してボールの状態にする挿入工程と、を含む球技用ボールの製造方法である。
【0089】
この製造方法では、接着剤が塗布された延出部の外面同士を付け合わせ、この延出部を縫い糸で縫い合わせる。このため、表皮パネル同士を縫い合わせた後で、隣接する表皮パネル間に接着剤を注入する場合に比べ、製造時間を短縮することができる。また、互いに縫い合わされる延出部に補強部材が設けられているため、縫い合わせ工程において、縫い目破れや縫い目の飛びが起こり難い。
【0090】
(9)前記表皮パネル形成工程には、表皮材の裏側に裏面部材及び前記補強部材を貼り付ける工程と、前記表皮材、前記裏面部材及び前記補強部材を一括して表皮パネル形状に応じた形状に裁断する工程と、が含まれていてもよい。
【0091】
この態様では、補強部材が裏面部材に貼り付けられた後、表皮材、裏面部材及び補強部材を一括して表皮パネル形状に応じた形状に裁断する。このため、表皮パネル形状に裁断された補強部材を裏面部材に貼り付ける場合に比べ、補強部材の貼り付け作業の負担を軽減できる。すなわち、補強部材の貼付け時には、補強部材がまだ裁断されていない状態であるため、補強部材の正確な位置合わせが不要となる。このため、作業負担を軽減することができる。しかも、補強部材の位置ずれ生ずることがなくなる。また、裏面部材が表皮材の裏側に貼り付けられた後に裁断されるため、裏面部材自体の位置ずれも防止することができる。つまり、表皮材を裁断した後に、裁断された裏面部材を貼り付けることによって延出部を形成する場合、裏面部材の位置ずれによって、延出部の長さにばらつきが生ずる虞がある。このため、延出部が曲げられた際には表皮パネルの形状がばらつき、球技用ボールとしての美観が悪化する。これに対し、補強部材が裏面部材に貼り付けられた後に、表皮材、裏面部材及び補強部材を一括して裁断する場合には、裏面部材の位置ずれが生じないため、球技用ボールの美観が損なわれることはない。
【0092】
(10)前記表皮パネル形成工程には、前記表皮パネルの形状に裁断された前記裏面部材の外周部を凹ませることによって、前記表皮パネルに前記本体部と前記延出部とを形成する延出部形成工程がさらに含まれていてもよい。
【0093】
この態様では、補強部材が貼り付けられた裏面部材の外周部を凹ませることによって、本体部から延出された延出部が形成される。したがって、補強部材で補強された延出部を容易に形成することができる。また、裏面部材を凹ませる過程で、裏面部材が補強部材の繊維間に圧入された状態になるために、裏面部材と補強部材との固着力及び補強部材そのものの材料強度を増加させることができる。このことは、余分な重量増加を伴うことなく、補強部材による補強効果を増大させることができるという利点を意味する。
【0094】
裏面部材の外周部を凹ませた後、裏面部材に補強部材を貼り付ける構成では、補強部材を貼り付ける作業が煩雑であり、しかも、補強部材の貼り付け位置がずれることがあり得る。これに対し、補強部材が貼り付けられ、表皮パネル形状に応じた形状に裁断された裏面部材の外周部を凹ませる場合には、補強部材の貼り付け作業の負担を軽減でき、しかも、補強部材の位置がずれることがなくなる。
【0095】
(11)前記延出部形成工程では、前記補強部材が貼り付けられた前記裏面部材の外周部を溶融させて凹ませてもよい。
【0096】
この態様では、補強部材が貼り付けられた裏面部材の外周部に容易に凹部を形成することができる。また、裏面部材を溶融させるときでも、補強部材が裏面部材から剥がれることはない。
【0097】
(12)前記縫い合わせ工程では、前記補強部材における外周部の滑らかな部位と、その内側の部位であって表面に凹凸のある部位との境界に沿って縫製してもよい。この態様では、補強部材における外周部の滑らかな部位と、その内側の部位であって表面に凹凸のある部位との視覚的な差異を利用して縫製することができる。
【0098】
(13)前記接着工程では、熱活性型接着剤からなる前記接着剤を塗布し、前記挿入工程の後で、前記ボールを加熱して前記接着剤を溶融させてもよい。
【0099】
縫い合わせ工程では、接着剤が乾燥した状態にある。このため、延出部の縫い合わせ作業時に、接着剤が意図しない場所に付着することを防止することができる。また、挿入工程の後で、接着剤を溶融させて延出部同士の接着を完了させるため、表皮パネル間の隙間をきれいに塞ぐことができる。またこのとき、延出部において、縫い糸によって縫い合わされた部位を接着剤によって完全に覆うことができる。隣接する表皮パネル同士が縫い糸で縫い合わされた状態で、接着剤を加熱することによって表皮パネル同士の接着が完了する。したがって、隣接する表皮パネル同士が縫い糸によって押圧した状態での接着がなされるため、高い接着力が得られる。
球技用ボールは、ボール基体(7)と、複数の表皮パネル(4)を有しボール基体(7)の外側の配置される球殻状の外層(5)と、を備える。複数の表皮パネル(4)のそれぞれは、本体部(11)と、本体部(11)よりも薄く形成され且つ本体部(11)の外端面における表側部から延出されて該表皮パネル(4)の外端面を構成する延出部(12)と、を有する。隣接する表皮パネル(4)の延出部(12)同士が、接着剤(17)によって互いに接着されるとともに縫い糸(13)によって縫い合わされている。球技用ボールには、延出部(12)において、縫い糸(13)によって縫い合わされた部位を補強する補強部材(15)が設けられている。