(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023925
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】分散液を作製するための方法、および分散剤としてのタンパク質加水分解物の使用
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20161027BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20161027BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
C08J3/20 ACFG
C08L89/00
C08K3/22
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-531192(P2014-531192)
(86)(22)【出願日】2012年9月17日
(65)【公表番号】特表2014-526592(P2014-526592A)
(43)【公表日】2014年10月6日
(86)【国際出願番号】EP2012068260
(87)【国際公開番号】WO2013041492
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2014年5月8日
(31)【優先権主張番号】102011053829.1
(32)【優先日】2011年9月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514071130
【氏名又は名称】オーテーツェー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】OTC GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダームス,ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ユング,アンドレーアス
【審査官】
久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−500151(JP,A)
【文献】
特開平06−107997(JP,A)
【文献】
特開2002−235095(JP,A)
【文献】
特開2004−113976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28,99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性溶媒である液体分散媒質中に分散相を分散する方法であって、
液体分散媒質を与えるステップと、
分散相を与えるステップと、
分散剤を与えるステップと、
前記分散剤の添加により、前記分散相を前記液体分散媒質と混合するステップとを備え、
前記分散剤としてケラチン加水分解物を加えることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記分散相として、分散剤の不存在下では与えられた前記液体分散媒質中に混合することができない固体または液体相が与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
調製すべき分散液の前記分散剤は、≧1重量%から≦50重量%の間の濃度で加えられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分散相として色素が与えられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記色素として二酸化チタンおよび/または酸化亜鉛が与えられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
疎水性溶媒に添加される分散剤、湿潤剤、浮選助剤、および/または洗剤中の洗浄活性成分としてのケラチン加水分解物の使用。
【請求項7】
前記ケラチン加水分解物は、色素含有分散液において、分散剤として用いられる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記ケラチン加水分解物は、車両の車輪リムを洗浄するための組成物において湿潤剤として用いられる、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記ケラチン加水分解物は、石炭および/または鉱石の処理において浮選助剤として用いられる、請求項6に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散液を作製するための方法、および分散剤(dispersant)または分散化剤(dispersing agent)としてのタンパク質加水分解物の使用に関する。特に、発明は、懸濁液を作製するための方法、および懸濁液中の分散剤としてのタンパク質加水分解物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
分散液は、さまざまな技術分野で重要な役割を果たす。一般的に、分散液は、さもなければ互いに溶解することができない物質同士の異成分混合物を指す。これらは、同じ凝集状態の物質の混合物であるか、または異なる凝集状態の物質の混合物のいずれかであり得る。媒質内に分散する物質が、分散した相または分散相と称される一方で、分散相が分布する媒質が分散化剤(dispersing agent)または分散剤と称される。分散相および分散剤の凝集状態に依存して、混合物(固体/固体)、懸濁液(固体/液体)、またはエマルジョン(液体/液体)という。他の形態の分散は、泡(気体/液体)およびエアロゾル(液体/気体)である。
【0003】
さらに、分散は、分散相の粒径に関して区別可能である。<1nmの分散相の粒径については、分子分散溶解相と言い、1nmから1μmの間の粒径については一般的にコロイド溶解相と言い、>1μmの粒径については粗分散溶解相と言う。
【0004】
技術的に重要な分散の形態は懸濁液である。すなわち、液体中の固体の混合物である。本明細書中では、液体は、水溶液系または油のような疎水性材のいずれかであり得る。業界で用いられる懸濁液の例は、壁面または天井の塗料である。さらに、たとえば懸濁液は、鉱石もしくは石炭処理の分野でまたは紙の製造で用いられるような浮選法で適用される。洗剤技術の分野でも、懸濁液は極めて重要な役割を果たす。というのも、ここでは、洗浄すべき布の汚れ粒子は洗浄洗浴(Waschflotte/washing liquor)の中に移らなければならないからである。
【0005】
これまで、分散液を作製するための分散剤として界面活性剤が用いられている。界面活性剤は系内の2つの異なる相同士の間の界面張力を低下させる特性を有する。この特性は、界面活性剤がそれらの分子構造中に親水性および疎水性の領域を含むことによるものである。たとえば、水性分散液では、界面活性剤の親水性領域は水相に向く一方で、疎水性領域は、分散相、たとえば固体に配向する。この種類の配向により、混合することのできない相同士の間に広がっている界面張力は、分散媒質内の分散相の対応の分散が可能な程度に低減される。
【0006】
すべての界面活性剤はそれらの分子構造中に極性の親水性部分および非極性の疎水性部分を含む。分子構造の極性部分の荷電に依存して、非イオン、アニオン、カチオン、および両性界面活性剤を区別する。
【0007】
表面活性分散剤として用いられる化合物の別の分類はポロキサマーである。ポロキサマーは、親水性領域および疎水性領域を有するエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのブロック共重合体である。本明細書中では、エチレンオキシド単位が親水性部分を形成する一方で、プロピレンオキシド単位が疎水性部分を形成するので、両親媒性が得られる。ポロキサマーは化学技術業界でディスパゲーション(dispergation)および乳化のために用いられる低発泡および抑泡非イオン性界面活性剤である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特にポロキサマーの欠点は、しばしばそれらの生分解性が非常に限られていることである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、分散液を作製するための代替的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に従う方法によって達成される。発明に従う方法の実施形態は、従属請求項および以下の説明に見出すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
驚くべきことに、タンパク質加水分解物が分散液の作製のための分散剤として好適であることがわかった。
【0012】
タンパク質は重要な生命維持担体として働き、とりわけ、筋肉中の収縮性タンパク質、腱および結合組織中の膠原繊維、皮膚および毛髪または羽毛中のケラチンとして見ることができる。それらは原料ベースで非常に大量に入手可能であり、加水分解によってタンパク質加水分解物に変換可能である。
【0013】
タンパク質それ自体はペプチド結合で互いに鎖状に結合されるαアミノ酸からなる。このように形成される鎖は、αヘリックス、βシート、β折り返し、またはランダムコイル構造中でそれらの二次構造中の水素結合によって配向し、これは次にそれらの三次構造中でジスルフィド結合によって配向する。それからタンパク質が形成される以前から公知のタンパク質構成アミノ酸は、以下の一般的な一次構造を有する。
【0015】
タンパク質中に見られるすべてのアミノ酸はαアミノ酸である。すなわち、それらはカルボキシル基へのα位にアミノ基を担持する。個々のアミノ酸はそれらの残基Rが異なる。これらの異なる側鎖により、アミノ酸を4つの群に分類可能である。
【0016】
−非極性の側鎖を有するアミノ酸。これらは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびプロリンを含む。
【0017】
−極性であるが荷電していない側鎖を有するアミノ酸。これらは、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンを含む。
【0018】
−極性のアルカリ性側鎖を有するアミノ酸。これらは、リシン、アルギニン、およびヒスチジンを含む。
【0019】
−極性の酸性側鎖を有するアミノ酸。これらは、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。
【0020】
驚くべきことに、さまざまなアミノ酸の配置において非極性および極性の側鎖を有するアミノ酸の連続配列が得られる場合、対応するタンパク質加水分解物は、界面活性剤−ポロキサマーと同様の親水性領域および疎水性領域を有する界面活性剤特性を備えることがわかった。界面活性剤系と同様に、タンパク質加水分解物は、液体の表面張力または2つの相同士の間の界面張力を低下させて、分散液の形成を可能にするまたは補助することができる。
【0021】
たとえば、非極性および極性の側鎖を有するアミノ酸の連続配列を有するアミノ酸を備えるタンパク質加水分解物が水に加えられた場合、臨界濃度を超えると個々の加水分解物分子が組織化して、水の中でミセルの凝集体を形成する。臨界ミセル形成濃度は、界面張力測定によって一意に定められ得る。
【0022】
ブロック共重合体と同様の界面活性剤構造を有するタンパク質加水分解物は、これに対して迅速に生分解可能であり、再生可能天然資源から低エネルギ消費で作製可能である。発明の方法を用いることにより、経済的利点および大きな環境上の利点の両方が得られる。
【0023】
発明に従う方法の一実施形態では、水、水溶液、または疎水性溶媒が分散剤として与えられる。本発明の意味での水溶液は、支配的な量の水を備える系を意味する。これは、水性エマルジョンも含み得る。本発明の意味での疎水性溶媒は、たとえば、一般的な脂質、高級アルコール、および非極性有機溶媒である。特に、本発明の意味では、疎水性溶媒はモノ−、ジ−、またはトリグリセリドなどの油脂である。
【0024】
発明に従う方法のさらなる実施形態に従うと、与えられる分散剤の中で混合することができない固体または液体相が分散相として与えられる。その限りにおいて、発明に従う方法は、懸濁液およびエマルジョンの両方を作製するのに好適である。懸濁液の場合、分散相の粒径は、発明に従うと、1nm〜1mmの間の範囲にあり得る。
【0025】
発明に従う方法のさらなる実施形態に従うと、極性または非極性の基を有するアミノ酸の連続配列を有するタンパク質の加水分解物がタンパク質加水分解物として与えられる。驚くべきことに、特に、極性および非極性の側鎖を有するアミノ酸の対応する連続配列を有するタンパク質の加水分解物が界面活性剤効果を生じるのに適していることがわかった。
【0026】
発明に従う方法のさらなる実施形態では、ケラチン加水分解物が分散剤として与えられる。特に、ケラチン加水分解物は、ポロキサマーと同様の構造を有するアミノ酸の配列を呈する。
【0027】
本発明に従う方法では、≧1重量%から≦50重量%の間、好ましくは≧3重量%から≦35重量%の間、より好ましくは≧5重量%から≦25重量%の間の濃度で分散剤を用いることができる。
【0028】
上述の方法以外に、発明は、分散剤、湿潤剤、浮選剤、および/または洗剤の洗浄活性成分としてのタンパク質加水分解物の使用に関する。
【0029】
驚くべきことに、分散剤としてのそれらの使用に加えて、タンパク質加水分解物を、それらの表面活性により、湿潤剤、浮選剤、および/または洗剤の洗浄活性成分としても用いることができることがわかった。特に、洗剤の洗浄活性成分としての上述のタンパク質加水分解物の使用の結果、非常に大きな生態的および経済的利点が得られる。
【0030】
本明細書中では、タンパク質加水分解物の基礎となるタンパク質は好ましくは、極性および非極性の側鎖を有するアミノ酸の連続配列を備える。
【0031】
ケラチンなどのタンパク質の高い生物学的利用率により、対応のタンパク質加水分解物が非常に妥当な価格で大量に入手可能となり得る。さらに、タンパク質加水分解物は完全に生分解性であり、したがって環境的負担を負わせることがない。
【0032】
このように、有利な態様では、たとえば、色素含有分散液において、好ましくは分散塗料または分散ワニスまたは日焼け止めなどの油性色素含有分散液において、分散剤としてタンパク質加水分解物を用いることが可能である。
【0033】
さらに、たとえば車両の車輪リムを洗浄するための組成物中の湿潤剤としてタンパク質加水分解物を用いることができる。特に、ブレーキ埃、油、タール、およびゴム質の残りから発生する、車両の車輪リムで生じる汚れは、十分な洗浄効果を得るためには、優れた分散性を有する湿潤剤を必要とする。これまでは、ここではしばしば、車輪のリムに付着する汚れを溶かすのに、リン酸などの環境的に危険でかつしばしば皮膚を刺激する物質が広く用いられてきた。本明細書中では、用いられるリン酸は、酸と車輪リムの材料との間の化学反応により、たとえば軽金属製の車輪リムを損なうこともある。タンパク質加水分解物、特にケラチン加水分解物は、遥かに刺激の少ないアルカリ性組成物においてすら十分な洗浄効果を確実にすることができると示された。
【0034】
ケラチン加水分解物などのタンパク質加水分解物は、石炭および/または鉱石の処理における浮選剤としてすら有利に用いることができる。この分野では、所望の鉱石/石炭を精製するため、かつそれらを脈石から分離するために、大量の界面活性剤を用いる。これは、特に、発展途上国にしばしば位置する鉱石抽出現場で行なわれる。ここではしばしば、飲料用水処理の手段が極めて不十分であるため、水循環に入る界面活性剤が飲料水に混入してしまうのを排除することができない。ここで、タンパク質加水分解物、および特にケラチン加水分解物はしばしば、それらが完全に生分解性であり、したがって飲料水の汚染の虞が低減され得るという利点を与える。
【0035】
対応のタンパク質加水分解物の提供のための開始材料として、たとえば、家禽処理で大量に得られる羽毛などの屠殺場廃棄物が好適であり得る。これらは好適な加水分解処理によって対応の加水分解物に変換可能であり、これは次に溶液としてまたは凍結乾燥形態で与えられ得る。
【0036】
例示的な実施形態を参照して、以下に発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0037】
水性二酸化チタン分散液
室温で、25重量%の加水分解物含有量のケラチン加水分解物の水溶液に二酸化チタン粉末(UV-Titan M262, Sachtleben GmbH)が加えられる。二酸化チタン粉末に対するケラチン加水分解物水溶液の比率は、60重量%〜40重量%である。得られた混合物は2〜10m/sの間の回転速度で、撹拌具としての溶解ディスクまたはワイヤスターラを用いて均質化される。この結果、安定した二酸化チタン分散液が得られる。
【0038】
【表1】
【実施例2】
【0039】
油性二酸化チタン分散液
室温で、重量比1/10でカプリル酸/カプリン酸トリグリセリド混合物(Rofetan GTCC, Univar GmbH)に粉末形態の乾燥凍結ケラチン加水分解物が加えられる。このように得られた相に二酸化チタン粉末(UV-Titan M262, Sachtleben GmbH)を加える。結果的に得られる混合物は、2〜10m/sの間の回転速度で、撹拌具としての溶解ディスクまたはワイヤスターラを用いて均質化され、均質化を継続しなが5重量%の水をこれに加える。この結果、安定した油性二酸化チタン分散液が得られる。
【0040】
【表2】
【実施例3】
【0041】
水性酸化亜鉛分散液
A:室温で、加水分解物の含有量が25重量%であるケラチン加水分解物の水溶液に酸化亜鉛粉末(Z-Cote, BASF AG)が加えられる。ケラチン加水分解物水溶液と酸化亜鉛粉末との間の比率は60重量%〜44重量%である。得られた混合物は、4〜8m/sの間の回転速度で、撹拌具としての溶解ディスクまたはワイヤスターラで均質化される。この結果、安定した酸化亜鉛分散液が得られる。
【0042】
B:室温で、加水分解物含有量が25重量%であるケラチン加水分解物の水溶液に酸化亜鉛粉末(Z-Cote MAX, BASF AG)が加えられる。ケラチン加水分解物水溶液と酸化亜鉛粉末との間の比率は60重量%〜40重量%である。得られた混合物は、4〜8m/sの回転速度で、撹拌具としての溶解ディスクまたはワイヤスターラで均質化される。この結果、安定した酸化亜鉛分散液が得られる。
【0043】
【表3】
【実施例4】
【0044】
車輪リムクリーナ
加水分解物含有量が25重量%である30重量%の水性ケラチン加水分解物を、10重量%の1,3−ブタンジオール、10重量%のカプリリル/カプリルグルコシド、1重量%の亜ジチオン酸ナトリウム、1重量%の水酸化カリウム、および48重量%の水と混合して、特に車両の車輪リムを洗浄するための洗剤を与える。このようにして得られた混合物は、典型的な油およびタール汚れに対する優れた洗浄効率を示した。
【0045】
【表4】