特許第6023929号(P6023929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6023929紫外線吸収性を有する高分子微粒子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023929
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】紫外線吸収性を有する高分子微粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/20 20060101AFI20161027BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20161027BHJP
   C08F 220/68 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   C08F220/20
   C08F220/12
   C08F220/68
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-69035(P2012-69035)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-199596(P2013-199596A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190895
【氏名又は名称】新中村化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591023594
【氏名又は名称】和歌山県
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】松川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊豫 昌己
(72)【発明者】
【氏名】高田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】森 一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 崇
(72)【発明者】
【氏名】森 岳志
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 秀介
(72)【発明者】
【氏名】山下 宗哲
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−220213(JP,A)
【文献】 特開平05−263067(JP,A)
【文献】 特開2011−144287(JP,A)
【文献】 特開2009−096741(JP,A)
【文献】 特開2009−215189(JP,A)
【文献】 特開2007−197565(JP,A)
【文献】 特表2006−511686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
桂皮酸骨格の芳香環に少なくとも1つの水酸基を有するヒドロキシ桂皮酸の前記水酸基に、少なくとも1つの重合性官能基を有する化合物が結合してなる、ヒドロキシ桂皮酸誘導体と、これとは別の少なくとも2つの重合性官能基を有する架橋性モノマーと、の共重合体からなる、紫外線吸収性を有する高分子微粒子。
【請求項2】
前記重合性官能基を有する化合物と前記ヒドロキシ桂皮酸の前記水酸基との結合によって生じた新たな水酸基が他の置換基に変換されている、請求項1に記載の高分子微粒子。
【請求項3】
前記置換基は、アセチル基、エステル基、エーテル基およびウレタン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基である、請求項2に記載の高分子微粒子。
【請求項4】
前記ヒドロキシ桂皮酸誘導体と前記架橋性モノマーとの共重合モル比が、1:99〜50:50である、請求項1〜3のいずれかに記載の高分子微粒子。
【請求項5】
粒子径が0.01〜10μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の高分子微粒子。
【請求項6】
前記架橋性モノマーがジエチレングリコールジメタクリレートである、請求項1〜5のいずれかに記載の高分子微粒子。
【請求項7】
前記ヒドロキシ桂皮酸がフェルラ酸である、請求項1〜6のいずれかに記載の高分子微粒子。
【請求項8】
紫外線吸収性を有する高分子微粒子の製造方法であって、
少なくとも1つの重合性官能基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体と、これとは別の少なくとも2つの重合性官能基を有する架橋性モノマーとの共重合反応を溶媒中で行う工程を含むことを特徴とする、紫外線吸収性を有する高分子微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒は、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒および炭化水素系からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記共重合ステップにおいて、前記ヒドロキシ桂皮酸誘導体、前記架橋性モノマー、重合開始剤および前記溶媒を含む反応溶液を、共重合反応が開始されるまでの誘導期間中に攪拌し、その後、前記反応溶液を静置した状態で加熱することにより、前記共重合反応を行う、請求項8または9に記載の高分子微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収性を有する高分子微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロンサイズ(粒径が0.01〜数10μm程度)の高分子微粒子は、有機顔料、トナー粒子、液晶パネル用スペーサー、分離材料、生化学用担体、標準粒子、化粧品用充填剤、各種添加剤または配合剤などの用途に幅広く使用されている。そして、これら高分子微粒子は、流動性の確保等の観点から、その粒子径ができるだけ均一であることが求められている。
【0003】
このようなミクロンサイズの高分子微粒子の製造方法としては、従来から懸濁重合、乳化重合、分散重合等の各種製造方法が知られている(特許文献1および2)。ただ、これらの製造方法により均一な粒径の高分子微粒子を製造するに際には、反応溶液に添加する界面活性剤や安定剤の量など、反応溶液の組成を微妙に調製する必要があった。したがって、化学物質や生体物質を固定して生化学用坦体として使用するための、表面修飾が可能な二次的反応性官能基が残された高分子微粒子を、製造することは困難であった。
【0004】
このような欠点を解消して、表面修飾が可能な高分子微粒子を製造する方法として、従来から、架橋性モノマーであるジエチレングリコールジメタクリレートを含む有機溶媒に放射線(ガンマー線)を照射して、高分子微粒子を製造する方法が研究されている(非特許文献1〜3を参照。)。
【0005】
この放射線による重合方法は、二次的反応性官能基が表面に残された均一な粒径の高分子微粒子を、界面活性剤や安定剤を添加しない架橋性モノマーと有機溶媒のみの均一系から、溶液を撹拌せずに製造することはできる。しかし、放射線照射施設を必要とするため、容易に且つ低価格の製造することは困難であるとの問題点があった。
【0006】
また、モノマーと溶媒の系から、ラジカル重合法により高分子微粒子を大量に製造する方法としては、加熱によりラジカルを発生する開始剤を用いた重合が一般的である。しかし、前記のラジカル重合による微粒子合成は、モノマー、高分子微粒子は溶解しない溶媒、不均一溶液を安定させる界面活性剤か高分子微粒子の結合を防ぐ安定剤、ラジカルを発生する重合開始剤などを使用し、これらを反応容器に入れ、ラジカルと反応して連鎖反応を停止する酸素を窒素バブリング等によって除去し、攪拌とともに加熱してラジカル重合反応を行うものである。このように、ラジカル重合による高分子微粒子の製造は、複雑な溶液組成の調製や合成反応中の撹拌操作を必要とするため、均一な粒径の高分子微粒子は製造するのが困難であるとの問題点があった。
【0007】
特許文献3には、上記のような高分子微粒子の製造方法の欠点を解消し、表面に修飾が可能な二次的反応性官能基を有しているとともに、均一な粒径の高分子微粒子を特殊で大がかりな設備を使用することなく容易、かつ大量に製造できる方法として、特許文献3には、架橋性モノマーを有機溶媒に溶解して原料溶液を得る工程と、原料溶液に重合開始剤または重合開始剤の溶液を添加して反応溶液を得る工程と、原料溶液に重合開始剤または重合開始剤の溶液を添加し、誘導期間中に攪拌して反応溶液を得る工程と、反応溶液を静置した状態で加熱して重合反応させる工程と、を含む高分子微粒子製造方法が開示されている。
【0008】
一方で、化粧品、反射防止膜(防眩膜)等に使用される紫外線吸収材として、紫外線吸収性を有する高分子微粒子が要望されている。
【0009】
紫外線吸収性材料としては、ヒドロキシ桂皮酸由来の紫外線吸収能を有する部位を含む重合性化合物から製造される重合体材料が知られている(特許文献4、5)。特許文献4、5に開示される重合性化合物は、天然から容易かつ大量に得られ、またフェノール性水酸基を封鎖しても紫外線吸収能力がほとんど変化しないヒドロキシ桂皮酸類のフェノール性水酸基側に(メタ)アクリル酸ユニット等を結合させた重合性化合物である。この重合性化合物は、遊離フェノール性水酸基を残しておく必要がないため、フェノール性水酸基を反応させる簡便な方法で合成することができる。また、フェノール性水酸基に起因する変色等の経時変化が起こりにくいという優れた性質を有しており、製品の品質面における大きな利点を有するものである。さらに、かかる重合性化合物は、枯渇資源である石油由来原料を用いず、簡便な工程で製造することができるため、無駄なエネルギーの消費を抑えることができ、グリーンケミストリーの観点から好ましい材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−181301号公報
【特許文献2】特開昭63−316766号公報
【特許文献3】特開2007−197565号公報
【特許文献4】特開2009−215189号公報
【特許文献5】特開2011−144287号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】吉田ら(M. Yoshida)、「有機溶媒存在下における放射線重合により製造した高分子微粒子の特徴(character of polymer microspheres prepared by radiation-induced polymerization in the presence of organic solvents)」、放射線物理および化学(Radiat. Phys. Chem.)、エルゼヴィア出版(Elsevier)、1987年、第30巻、第1号、p.39−45
【非特許文献2】仲(Y. Naka)ら、「放射線重合による微粒子の製造 1.単分散ポリジエチレングリコールジメタクリレートの形成機構(Preparation of Microspheres by Radiation-Induced Polymerization. 1.Mechanism for the Formation of Monodisperse Poly(diethylene glycol dimethacrylate) Microspheres)、高分子科学雑誌 A部(J. Polym. Sci., Part A, Polym. Chem. Ed.)、米国、Jone Wily & Sons, Inc.、1991、第29巻、第8号、p.1197−1202
【非特許文献3】仲(Y. Naka)ら、「放射線重合による微粒子の製造 2.微粒子の成長機構(Preparation of Microspheres by Radiation-Induced Polymerization. 2. Mechanism of Microsphere Growth.)」、高分子科学雑誌 A部(J. Polym. Sci., Part A, Polym. Chem. Ed.)、米国、Jone Wily & Sons, Inc.、1992年、第30巻、第7号、p.1287−1298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ヒドロキシ桂皮酸由来の紫外線吸収能を有する部位を含む新規な紫外線吸収性微粒子とその簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、少なくとも1つの重合性官能基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体と、これとは別の少なくとも2つの重合性官能基を有する架橋性モノマーとの共重合体からなる、紫外線吸収性を有する高分子微粒子である。
【0014】
前記ヒドロキシ桂皮酸誘導体の有する水酸基は、他の置換基に変換されたものであることが好ましい。
【0015】
前記置換基は、アセチル基、エステル基、エーテル基およびウレタン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基であることが好ましい。
【0016】
前記高分子微粒子が塗布された基材の動摩擦力が、酸化チタン粉末微粒子が塗布された基材の動摩擦力より小さいことが好ましい。
【0017】
前記ヒドロキシ桂皮酸誘導体と前記架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:99〜50:50であることが好ましい。
【0018】
前記高分子微粒子の粒子径は、0.01〜10μmであることが好ましい。前記架橋性モノマーは、ジエチレングリコールジメタクリレートであることが好ましい。前記ヒドロキシ桂皮酸がフェルラ酸であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、紫外線吸収性を有する高分子微粒子の製造方法であって、
少なくとも1つの重合性官能基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体と、これとは別の少なくとも2つの重合性官能基を有する架橋性モノマーとの共重合反応を溶媒中で行う工程を含むことを特徴とする、紫外線吸収性を有する高分子微粒子の製造方法にも関する。
【0020】
前記溶媒は、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒および炭化水素系からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒であることが好ましい。
【0021】
前記共重合ステップにおいて、前記ヒドロキシ桂皮酸誘導体、前記架橋性モノマー、重合開始剤および前記溶媒を含む反応溶液を、共重合反応が開始されるまでの誘導期間中に攪拌し、その後、前記反応溶液を静置した状態で加熱することにより、前記共重合反応を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、ヒドロキシ桂皮酸由来の紫外線吸収能を有する部位を含む新規な高分子微粒子およびその簡便な製造方法を提供することができる。
【0023】
また、本発明の高分子微粒子の製造方法は、放射線照射設備など特殊な設備を必要としないため、合成スケールを大きくすることが容易である。したがって、紫外線吸収性を有する高分子微粒子を容易、かつ大量に製造できるようになり、その製造コストを下げることができる。さらに、得られた紫外線吸収性を有する高分子微粒子は、従来の化粧品向け微粒子(市販で入手可能な化粧品向け酸化チタンなど)よりも滑らかな肌触りが得られるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1で得られた高分子微粒子(白色固体)について、紫外線吸収能力の測定結果を示すグラフである。
図2】実施例2で得られた高分子微粒子(白色固体)について、紫外線吸収能力の測定結果を示すグラフである。
図3】実施例3で得られた高分子微粒子(白色固体)について、紫外線吸収能力の測定結果を示すグラフである。
図4】実施例4で得られた高分子微粒子(白色固体)について、紫外線吸収能力の測定結果を示すグラフである。
図5】実施例9で得られた高分子微粒子(白色固体)について、紫外線吸収能力の測定結果を示すグラフである。
図6】実施例1で得られた白色固体についてSEMにより得られた画像である。
図7】実施例2で得られた白色固体についてSEMにより得られた画像である。
図8】実施例3で得られた白色固体についてSEMにより得られた画像である。
図9】実施例4で得られた白色固体についてSEMにより得られた画像である。
図10】実施例9で得られた白色固体についてSEMにより得られた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<高分子微粒子>
本発明の高分子微粒子は、少なくとも1つの重合性官能基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体と、これとは別の少なくとも2つの重合性官能基を有する架橋性モノマーとの共重合体からなり、紫外線吸収性を有している。
【0026】
(架橋性モノマー)
本発明で使用する架橋性モノマーは少なくとも2つの重合性官能基を有するモノマーである。重合性官能基は、好ましくはラジカル重合性の官能基である。ラジカル重合性の官能基としては、例えば、(メタ)アクリル基が挙げられ、このうち好ましくは(メタ)アクリル基である。具体的な架橋性モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられ、中でもジエチレングリコールジメタクリレートを好適に用いることができる。
【0027】
なお、反応溶液中には、所望の高分子微粒子を得るための共重合反応が阻害されない範囲で、上記ヒドロキシ桂皮酸誘導体および上記架橋性モノマー以外の非架橋性モノマーを添加してもよい。かかる架橋性モノマーとしては、例えば、スチレンモノマー、アクリルアミド、アクリル酸およびメチルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタアクリル酸およびメチルメタクリレート等のメタアクリル酸エステル類が挙げられる。また、無水マレイン酸、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシルエチルメタクリレート、メタクリロイオキシエチルイソシアネート、アクリロイルオキシエチルイソシアネート等の二次的反応性反応性をもつ非架橋性モノマーを添加してもよい。
【0028】
(ヒドロキシ桂皮酸)
ヒドロキシ桂皮酸としては、桂皮酸骨格の芳香環に少なくとも1つの水酸基を有する誘導体であり、芳香環上の水酸基とは別にメトキシ基を有する誘導体や、水酸基を2つ以上有する誘導体も含まれる。本発明に用いられるヒドロキシ桂皮酸は、特に由来等が限定されるものではないが、例えば、米糠油やサトウカエデ、マツの種子中や小麦の胚乳細胞壁、イネの胚乳細胞などの細胞壁等に由来するものが挙げられる。このような由来のヒドロキシ桂皮酸を用いた場合、重合性官能基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体の製造において、紫外線吸収部位に関しては枯渇資源である石油由来原料を用いる必要がない。
【0029】
このようなヒドロキシ桂皮酸としては、例えば、フェルラ酸、4−ヒドロキシ桂皮酸、3,4−ジヒドロキシ桂皮酸(カフェー酸)、4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシ桂皮酸(シナピン酸)、2−ヒドロキシ桂皮酸が挙げられるが、フェルラ酸が好適に用いられる。
【0030】
(重合性官能基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体)
少なくとも1つの重合性官能基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体を、共重合反応における1種のモノマーとして使用する。重合性官能基は、好ましくはラジカル重合性の官能基である。ラジカル重合性の官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニルエーテル基、アリル基、メタリル基、プロパルギル基、クロチル基が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル基である。
【0031】
具体的な上記ヒドロキシ桂皮酸誘導体としては、ヒドロキシ桂皮酸の紫外線吸収能を有する部位を含むものであれば特に限定されないが、例えば、上記特許文献4(特開2009−215189号公報)に例示される1つの重合性官能基を有する重合性化合物(単官能重合性化合物)や、上記特許文献5(特開2011−144287号公報)に例示される複数の重合性官能基を有する重合性化合物(多官能重合性化合物)が挙げられる。
【0032】
上記フェルラ酸誘導体は、重合性官能基を有するフェルラ酸誘導体由来の水酸基が他の置換基に変換されたものであることが好ましい。他の置換基は、連鎖移動などにより重合の開始を阻害しない置換基であれば特に限定されないが、好ましくは、エステル基、エーテル基およびウレタン基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基である。エステル基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、(メタ)アクリロイル基、が挙げられ、好ましくはアセチル基である。
【0033】
上記フェルラ酸誘導体が水酸基を有している場合、該フェルラ酸誘導体と上記架橋性モノマーを含む反応溶液中に重合開始剤が添加されてから共重合反応が開始するまでの期間(「誘導期間」と呼ぶ)が長くなる(例えば、2時間程度)傾向があることが、本発明者らにより見出された。このため、上記フェルラ酸誘導体において、重合性官能基を有するフェルラ酸由来の水酸基を他の置換基に変換することで、全体の反応時間を短縮することができ、紫外線吸収性を有する高分子微粒子の製造を効率的に行うことができる。
【0034】
フェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:99〜50:50であることが好ましく、より好ましくは、2:98〜40:60である。1:99より、フェルラ酸誘導体の量が少ない場合は、紫外線吸収能力が著しく小さくなるという問題があり、50:50より、フェルラ酸誘導体の量が多い場合は、ゲル化が発生する傾向があるためである。
【0035】
(粒子径)
高分子微粒子の粒子径は、好ましくは0.01〜100μmであり、より好ましくは0.01〜10μmである。高分子微粒子の粒子径は、公知の方法、例えば、走査型電子顕微鏡によって高分子微粒子を観察する方法により、測定することができる。また、粒径分布も、公知の方法、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた方法により、測定することができる。高分子微粒子の粒径分布における粒径のばらつきは、例えば、CV値(%){(標準偏差/平均粒径)×100}の大小によって評価することができ、その値としては好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0036】
(熱的特性)
特開2010−116523号公報に記載のように高分子微粒子は各種製造、加工の工程で熱がかかることで、微粒子が融着などをおこし、本来の性能を発揮しなくなる可能性がある。そのため本発明の微粒子の性質として、熱分析(示差走査熱量分析)を実施した際に昇温測定時に1.00mW/min以上のピークが50℃以下に現れないことが望ましい。
【0037】
(動摩擦力)
化粧品用微粒子の場合、直接肌に触れることから触感として肌触りの滑らかさが求められる。肌触りの指標としては、微粒子が塗布された基材の動摩擦力を用いることができる。具体的には化粧品評価用人工皮膚上に、微粒子を塗布し、塗布前後および一般的な酸化チタンなどの微粒子との比較を行うことで評価することができる。
【0038】
<高分子微粒子の製造>
本発明の紫外線吸収性を有する高分子微粒子の製造方法は、上記フェルラ酸誘導体と、これとは別の上記架橋性モノマーとの共重合反応を溶媒中で行う工程を含むことを特徴とする。以下、上述のフェルラ酸誘導体、架橋性モノマー、溶媒、重合開始剤などを用いた本発明の高分子微粒子の製造方法の一例について、具体的に説明する。
【0039】
(1)原料溶液の調製
上述のフェルラ酸誘導体および架橋性モノマーを溶媒に溶解して原料溶液とし、この原料溶液を反応容器に入れ、後の工程で添加される重合開始剤がラジカルを発生する温度(重合温度)まで、反応容器ごと原料溶液を昇温させる。
【0040】
(溶媒)
フェルラ酸誘導体および架橋性モノマーを溶解させる溶媒としては、上記フェルラ酸誘導体および上記架橋性モノマーや、重合開始剤、その他の必要な助剤を溶解し、かつ重合後の高分子微粒子は溶解しないものであれば特に制限することなく使用することができるが、好ましくは有機溶媒である。
【0041】
このような有機溶媒としては、架橋性モノマーに対する良溶媒が挙げられ、好ましくは、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒および炭化水素系からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である。具体的には、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類、アセトン、アセトニトリル、ジエチルケトンなどのケトン類が挙げられる。なお、有機溶媒として、アルコール系溶媒は使用しないことが望ましい。アルコールのような水酸基を有する溶媒を使用すると、重合開始が著しく遅くなる傾向があるためである。
【0042】
溶媒の使用量は、上記フェルラ酸誘導体および上記架橋性モノマーの合計量に対して、300〜5000重量%であることが好ましく、より好ましくは500〜2000重量%である。溶媒の使用量が、300重量%未満の場合には形状が悪化して溶液全体がゲル化するといった問題が生じ、5000重量%を越えると微粒子が形成されなかったり、十分な収量を得ることができなかったりする等の問題が生じる。
【0043】
(バブリング)
なお、重合開始剤を添加する前の原料溶液等を、窒素ガスなどの不活性ガスでバブリングしてもよい。一般に、酸素の存在下では重合開始剤が先に酸素と反応するため、雰囲気中の酸素が多いほど共重合反の開始が遅くなることが分かっており、バブリングにより原料溶液中に含まれる酸素を追い出して、原料溶液中の酸素濃度を減少させることで、重合反応が始まるまでの時間(誘導期間)を短縮することができる。
【0044】
ただし、本発明の製造方法においては、誘導期間が短くなりすぎると、反応溶液の撹拌を行うための時間が十分に確保することができなくなり、重合開始時の反応溶液の温度、重合開始剤の濃度分布を均一することが難しくなる。重合開始時の反応溶液の温度、重合開始剤の濃度分布をより均一にし、形状や粒径分布の良い高分子微粒子を得るためには、バブリングの時間は、所定の範囲内で適宜最適化されることが好ましい。
【0045】
しかしながら、製造工程をより簡便化するためには、原料溶液等のバブリングを行わずに、フェルラ酸誘導体として重合性官能基を有するフェルラ酸由来の水酸基が他の置換基で変換されたものを用いることのみで、誘導期間を適切な期間に調整することが好ましい。誘導期間は、1〜60分に調整されることが好ましく、より好ましくは5〜30分である。
【0046】
(2)重合開始剤の調製
本発明で使用する重合開始剤は、油溶性のラジカル重合開始剤であることが好ましい。油溶性のラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビス系開始剤、有機過酸化物、および、これら重合開始剤の誘導体類が挙げられる。好ましくは、アゾ化合物(アゾビス系開始剤)、有機過酸化物である。
【0047】
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’− アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリルが挙げられる。
【0048】
有機過酸化物としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイドが挙げられる。
【0049】
また、重合開始剤の使用量(添加量)は、重合されるモノマー(上記フェルラ酸誘導体および上記架橋性モノマー)の合計量に対して、0.1〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%であり、最も好ましくは0.1〜1重量%である。重合開始剤の使用量が0.1重量%未満の場合には、重合反応が不十分となったり、重合に長時間を要したりする等の問題が生じ、30重量%を超えると、逆に収率が変わらないか低下してしまったり、急激な反応の進行によって形状の悪い粒子が形成したりする等の問題が生じる。
【0050】
重合開始剤は、反応溶液(原料溶液)への溶解を短時間に行うため、原料溶液とは別に、溶媒に溶解した溶液として準備しておいてもよい。重合開始剤を溶解させる溶媒としては、反応溶液の溶媒と同一のものを用いることが好ましい。なお、重合開始剤は、当該重合開始剤がラジカルを発生する温度より少し低い温度、具体的には40〜120℃程度で保存しておくことが好ましい。
【0051】
(3)反応溶液の調製
反応容器内の原料溶液に、重合開始剤または重合開始剤の溶液を添加して、攪拌することにより均一化し、反応溶液を得る。なお、反応溶液を攪拌するのは、誘導期間(重合開始剤を添加してから重合反応が開始するまでの期間)中のみとすることが好ましい。すなわち、通常の熱重合とは異なり、重合反応の進行中は反応溶液を撹拌しないことが好ましい。重合反応中に攪拌を行わなず静置しておくことにより、生成した高分子微粒子同士が癒着するのを防いで、均一な高分子微粒子が得られやすくなるためである。
【0052】
(4)重合反応
上記(3)で撹拌により均一化された反応溶液を、所定時間、攪拌することなく静置する。所定時間経過後、反応溶液を冷却して合成反応を停止し、メンブレンフィルターなどにより反応溶液から高分子微粒子をろ過し、ろ過され高分子微粒子を溶媒で洗浄する。このようにして、紫外線吸収性を有する高分子微粒子を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の各実施例では、少なくとも1つの重合性官能基を有するフェルラ酸誘導体として以下のモノマーA〜Gを使用した。
【0054】
<モノマーA:EF−GMA>
次の化学式で示される、フェルラ酸エチルとグリシジルメタクリレートとの反応物。
【0055】
【化1】
【0056】
<モノマーB:FA−2GMA>
次の化学式で示される、フェルラ酸とグリシジルメタクリレートとの反応物。
【0057】
【化2】
【0058】
<モノマーC:EF−GMA−Ac>
次の化学式で示される、フェルラ酸エチルとグリシジルメタクリレートとの反応物であって、重合性官能基を有するフェルラ酸由来の水酸基がアセチル化されたもの。
【0059】
【化3】
【0060】
<モノマーD:FA−2GMA−Ac>
次の化学式で示される、フェルラ酸とグリシジルメタクリレートとの反応物であって、重合性官能基を有するフェルラ酸由来の水酸基がアセチル化されたもの。
【0061】
【化4】
【0062】
<モノマーE:FA−2HBAGE>
次の化学式で示される、フェルラ酸と4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルとの反応物。
【0063】
【化5】
【0064】
<モノマーF:FA−2A400>
次の化学式で示される、フェルラ酸と3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレートとの反応物。
【0065】
【化6】
【0066】
<モノマーG:EF−HBAGE>
次の化学式で示される、フェルラ酸エチルと4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルとの反応物。
【0067】
【化7】
【0068】
(粒子径の測定)
以下の実施例において、粒子径の測定は、高分子微粒子を濃度0.2重量%の中性洗剤水溶液中に分散させ、超音波処理を実施した後に、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD−3100)を用いて測定した。測定に用いる屈折率の値は、1.60(実数部)、0.00(虚数部)とした。
【0069】
(実施例1)
内容量100mlのガラス製スクリュー管に、架橋性モノマーとしての9.6gのジエチレングリコールジメタクリレート(以下「2G」と略す。)と、フェルラ酸誘導体としての1.6gのモノマーA(EF−GMA)と、100mLの酢酸エチルとを入れ、攪拌して内容物を均一に溶解させ、60℃で30分加温した。
【0070】
次に、重合開始剤としての1.01gの2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル(以下、「V−601」と略す)を、上記ガラス製スクリュー管に投入した。その後、当該スクリュー管を密栓し、加熱オーブン内にて60℃で保温した。重合開始剤投入後、2時間加温を継続した。
【0071】
当該スクリュー管を加熱オーブンから取り出し、内容物を孔径1μmのメンブランフィルターで濾過し、得られた固体を減圧乾燥して、8.0gの高分子微粒子(白色固体)得た。得られた高分子微粒子の粒径は2.55±0.08μmでCV値は3.0%であった。
【0072】
また、微粒子を3.00mg採取して容器に入れ、昇温速度20℃/minで、−30℃から180℃まで示差走査熱量分析を実施した際、50℃までの領域で1mW/min以上の熱の出入りは観測されなかった。このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:9:である。
【0073】
(実施例2)
モノマーAの替わりに2.1gのモノマ−B(FA−2GMA)を使用した点以外は、実施例1と同様にして、10.7gの高分子微粒子(白色固体)を得た。なお、V−601を添加してから内容物が乳白色になるまでの時間は60分であった。得られた高分子微粒子の粒径は、0.55±0.09μmでCV値は17%であった。また実施例1と同様に示差走査熱量分析を実施した結果50℃までの領域で1mW/min以上の熱の出入りは観測されなかった。このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:9である。
【0074】
[アセチル化フェルラ酸誘導体]
(実施例3)
2Gの量を1.0g、酢酸エチルの量を10mL、開始剤V−601の量を0.2gとし、モノマーAの替わりに0.42gのモノマーC(EF−GMA−Ac:モノマーAの水酸基がアセチル化されたもの)を使用した以外は、実施例1と同様にして、1.1gの高分子微粒子(白色固体)を得た。なお、V−601を添加してから内容物が乳白色になるまでの時間は18分に短縮された。得られた高分子微粒子の粒径は2.45±0.07μmで、CV値は3%であった。また実施例1と同様に示差走査熱量分析を実施した結果50℃までの領域で1mW/min以上の熱の出入りは観測されなかった。このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、2:8である。
【0075】
(実施例4)
2Gの量を0.5g、酢酸エチルの量を10mL、開始剤V−601の量を0.2gとし、モノマーAの替わりに0.29gのモノマーD(FA−2GMA−Ac:モノマーBの水酸基がアセチル化されたもの)を使用した以外は、実施例1と同様にして、0.59gの高分子微粒子(白色固体)を得た。なお、V−601を添加してから内容物が乳白色になるまで要した時間は16分に短縮された。得られた高分子微粒子の粒径は1.06±0.12μmで、CV値は11%であった。
【0076】
また、実施例1と同様に、示差走査熱量分析を実施した結果50℃までの領域で1mW/min以上の熱の出入りは観測されなかった。このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、2:8である。
【0077】
[他のフェルラ酸誘導体]
(実施例5)
2Gの添加量を10.1gとし、モノマーAの替わりに1.3gのモノマーF(FA−2A400)を使用した以外は、実施例1と同様にして、7.9gの高分子微粒子(白色固体)を得た。なお、V−601を添加してから内容物が乳白色になるまでの時間は85分であった。マイクロスコープでの観察で、球形の微粒子が得られていることを確認した。また、このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:19である。
【0078】
(実施例6)
2Gの添加量を10.1gとし、モノマーAの替わりに0.9gのモノマーG(EF−HBAGE)を使用した以外は、実施例1と同様にして、7.5gの高分子微粒子(白色固体)を得た。なお、V−601を添加してから内容物が乳白色になるまでの時間は60分であった。マイクロスコープでの観察で、球形の微粒子が得られていることを確認した。また、このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:19である。
【0079】
[スケールアップ]
(実施例7)
内容量3Lのステンレス製耐圧容器に、252.5gの2G、20.0gのモノマーA(EF−GMA)、および、2100gの酢酸エチルを入れ、攪拌して内容物を均一に溶解させ、60℃の温浴で30分加温した。
【0080】
次に、25.25gのV−601を125gの酢酸エチルに溶解させたものを、上記ステンレス製耐圧容器に投入した後、当該容器を密封し、60℃の温浴に浸した。当該耐圧容器を10分毎に開封し、内容物を確認したところ、40分後に内容物は乳白色となり、その時点からさらに60分加温を継続した。
【0081】
当該耐圧容器を温浴から取り出し、内容物を孔径1μmのメンブランフィルターで濾過、得られた固体を70℃のエアオーブンで1日乾燥し、185.7gの高分子微粒子(白色固体)得た。マイクロスコープでの観察で、球形の微粒子が得られているのを確認した。このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:19である。
【0082】
(実施例8)
モノマーAの替わりに26.3gのモノマーB(FA−2GMA)を使用した点と、V−601を添加してから内容物が乳白色になるまで70分要し、その時点から更に120分加温を継続した点以外は、実施例5と同様にして、204.3gの高分子微粒子(白色固体)を得た。マイクロスコープでの観察で、球形の微粒子が得られているのを確認した。このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:19である。
【0083】
(実施例9)
モノマーAの替わりに32.5gのモノマーE(FA−2HBAGE)を使用した点と、V−601を添加してから内容物が乳白色になるまで65分要し、その時点から更に120分加温した点以外は、実施例5と同様にして、211.7gの高分子微粒子(白色固体)を得た。得られた高分子微粒子の粒径は、2.98±0.09μmでCV値は2.9%であった。また、このときのフェルラ酸誘導体と架橋性モノマーとの共重合モル比は、1:19である。
【0084】
[紫外線吸収能力の測定]
モノマーA〜Eを使用した実施例1〜4および9で得られた高分子微粒子(白色固体)について、紫外線吸収能力の確認を行った。測定は、島津製作所(株)製 UV−2550で、積分球付装置 ISR−240 Aを用いて、反射モードで行った。それぞれの測定結果を図1図5に示す。実施例1〜4および9で得られたいずれの高分子微粒子も、フェルラ酸由来部分に起因する特定波長の紫外線吸収能を有しており、紫外線吸収性の微粒子として充分機能することが確認された。
【0085】
[SEM(走査型電子顕微鏡)観察]
モノマーA〜Eを使用した実施例1〜4および9で得られた白色固体について、SEM(走査型電子顕微鏡)による観察を行った。それぞれの白色固体についてSEMにより得られた画像を図6図10に示す。実施例1〜4および9で得られたいずれの白色固体においても、微粒子の形成が確認できた。また粒子の粒径も比較的そろっているものが多く、非常に均一性の高い粒子が得られていることが明らかとなった。なお、モノマーBおよびモノマーDを用いた際に、2G及びモノマーA、Cを用いた場合より若干微粒子の粒径が小さくなる傾向がみられた。
【0086】
[動摩擦力測定]
モノマーA、B、D、Eを使用した実施例1、2、4、9で得られた白色固体(高分子微粒子)について、化粧品等に使用した場合における肌触り感の指標として、動摩擦力の測定を行った(ただし、モノマーDを使用した場合については、実施例4と仕込み組成比は同じであるが、スケールアップした条件で合成したものである)。なお、比較のために、化粧品向けに市販されている酸化チタン微粒子(ぴのあ社製、商品名:酸化チタン)と、微粒子を塗布していない基材についても同様の測定を行った。
【0087】
具体的には、独自の試験方法に従って、基材(バイオスキン)上に微粒子を充分量(20cmあたり0.2g)塗布し、基材とは別の直径1.5cmの円形のバイオスキンを基材上に置き、その上に50gの錘を乗せた。円形のバイオススキンの端部を引っ張ることで、50gの錘を乗せた円形のバイオスキンを基材上で移動させて、動摩擦力の測定を行った。円形のバイスキンの基材に対する移動速度は、300mm/minとした。基材(バイオスキン)および円形のバイオススキンとしては、ビューラック社製のバイオスキン(化粧品評価用人工皮膚)を用いた。得られた動摩擦力の測定結果を、表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されるように、微粒子を塗布していない基材(バイオスキン(ブランク))の動摩擦力は0.8〜1N程度であり、これに対して、基材上に微粒子を塗布することでいずれの場合も動摩擦力が小さくなり、滑らかさが向上していることがわかる。また、実施例1、2、4および9で得られた高分子微粒子のいずれの場合においても、比較例の化粧品向けの酸化チタン微粒子と比べて動摩擦力が小さくなっており、本発明の高分子微粒子が、より肌触り感が向上した化粧品用微粒子として有用であることがわかる。
【0090】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の高分子微粒子は、紫外線吸収剤として、化粧品、反射防止膜(防眩膜)、屋外使用耐候性ポリカーボネート、自動車用等の屋外塗料、クリアトップコーティング材、インクジェット印刷材、眼鏡、コンタクトレンズ、液晶バックパネル用の導光板等に利用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10