【実施例】
【0030】
[実施例1]
表1a〜1cに示されるように、抗アレルゲン剤と抗ウイルス剤を様々な割合で含む水分散体(加工剤)を製造した。実施例で使用した抗アレルゲン剤、抗ウイルス剤、バインダーは以下の通りである。
・抗アレルゲン剤
α−リン酸ジルコニウム:アレリムーブZK−200(東亜合成株式会社)
芳香族スルホン酸系単量体からなる単独重合体:SSPA−FB(積水ポリマテック株式会社)
・抗ウイルス剤
スチレンスルホン酸塩を含む共重合体:インフェバスターFH、品番;SSPI-FH(積水ポリマテック株式会社)
・バインダー
ポリエステル系樹脂:プラスコートZ(互応化学工業株式会社)
アクリル系樹脂:ニューコートFH(新中村化学工業株式会社)
【0031】
前記加工剤に、分散染料で黒色に染色したポリエステルニット(ポリエステル100%、A3サイズ、目付360g/m
2)を浸漬し、次いで、ロール間圧力3.0kgf/cm
2のマングルで絞り(絞り率65%)、130℃/2分30秒間の乾燥を行った。
加工後の前記ポリエステルニット(以下、加工布帛と称する)について、抗ダニアレルゲン性、抗スギ花粉アレルゲン性、抗ウイルス性、キワつき、白化、チョークマーク、摩擦堅牢度、難燃性を測定した。結果を、表1a〜1cに示す。
なお、表1a〜1cにおいて、抗アレルゲン剤、抗ウイルス剤、バインダーの各数値は、加工布帛1m
2に対する固形分での付着量(g/m
2)を示す。加工剤(水分散体)としては、付着量1g/m
2=0.426重量%で換算して得られる濃度の加工剤を使用した。
【0032】
繊維製品の各性能評価方法は、以下の通りである。
<抗アレルゲン性(ダニ)>
試験管に5cm×2.5cmの加工布帛を投入し、ダニアレルゲン47ng/mlに調整した溶液を、2.25ml滴下し、37℃、8時間養生させた。その液中のアレルゲン量をELISA法により測定し、以下の式により不活性率を算出する。なお、ダニアレルゲン量とは、Derf II 量から換算した総タンパク量を示す。
不活性率=[(投入したアレルゲン量−養生後に測定したアレルゲン量)×100]/投入したアレルゲン量
アレルゲン不活性率(抗アレルゲン性)90%以上を合格とする。
【0033】
<抗アレルゲン性(スギ)>
試験管に5cm×2.5cmの加工布帛を投入し、スギアレルゲン6.7ng/mlに調整した溶液を、2.25ml滴下し、20℃、24時間養生させた。その液中のアレルゲン量をELISA法により測定し、以下の式により不活性率を算出する。なお、スギ花粉アレルゲン量とは、Cryj I 量から換算した総タンパク量を示す。
不活性率=[(投入したアレルゲン量−養生後に測定したアレルゲン量)×100]/投入したアレルゲン量
不活性率(抗アレルゲン性)70%以上を合格とする。
【0034】
<抗ウイルス性(25℃・2時間)>
1.ウイルス懸濁液(A型インフルエンザウイルス[マウスH1N1]懸濁液)を調製する。
2.3cm角にカットした加工布帛(0.4g)に、ウイルス懸濁液0.2mLを滴下し、25℃で2時間放置する。
3.その後、加工布帛を遠心管に入れ、1.8mlの維持培地を添加し、遠心し、反応液1mlを抽出する。
4.抽出した反応液を維持培地で希釈し、希釈系列(10倍、100倍、1000倍、1万倍、10万倍)を作成する。
5.希釈系列を、宿主細胞(MDBK細胞:ウシ腎細胞由来)に接種し、50%の細胞が感染する希釈倍率(TCID
50:Median tissue culture infectious dose)を求める(この値をウイルス感染価V
cとする)。
6.未加工布帛のウイルス感染価をV
bとし、ウイルス減少率を以下の式Iにより求める。
式I:ウイルス減少率(%)=[(V
b−V
c)×100]/V
b
また、抗ウイルス活性値(Mv)を以下の式IIにより求める。
式II:Mv=lg
10(V
b)−lg
10(V
c)
表1a〜1cでは、ウイルス減少率とともに、抗ウイルス活性値を丸括弧内に示す。
ウイルス減少率99.9%以上(抗ウイルス活性値3以上)で合格と判定する。
【0035】
<抗ウイルス性(4℃・15分)>
冬場の気温を想定し、且つ、より短時間で抗ウイルス性が得られるかどうか確認するために、上記手順「2」における25℃・2時間の放置条件を4℃・15分に変更して試験を行った。他の手順は、上述の通りである。
ウイルス減少率99.9%以上(抗ウイルス活性値3以上)で合格と判定する。
【0036】
<キワつき>
加工布帛表面に精製水5mlを滴下し、24時間自然乾燥した後(I)、及び、加工布帛表面に95℃の温水5mlを滴下後、初期と3分後(II)のそれぞれについて、キワつき(色変化)の有無を確認し、以下の基準で級判定した。なお、キワつき試験では、上述した方法で製造した黒色の加工布帛により、白いキワつきを確認するとともに、ベージュ色の加工布帛でも、黒いキワつきを確認した。ベージュ色の加工布帛は、黒色の分散染料で染色されたポリエステルニットの代わりに、ベージュ色に染色されたポリエステルニットを用いた以外は、上述した加工布帛の製造方法によって製造された。ブラックとベージュの両方の加工布帛で、且つ、水(I)と温水(II)の両方の試験で、下記の判定基準を満たすかどうか確認し、3級以上を合格と判定する。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0037】
<白化>
各加工布帛について、加工前の布帛(未加工布帛)と比べた色の変化(白化)を確認し、以下の基準で級判定した。3級以上を合格と判定する。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0038】
<チョークマーク>
未加工布帛と比べてチョークマーク(傷による白化)が悪化するか確認するために、加工布帛と未加工布帛それぞれの表面を爪で軽くこすり、傷による白化の程度を比較し、以下の基準で級判定した。3級以上を合格と判定する。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0039】
<摩擦堅牢度>
JIS L0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に準じて、各加工布帛について、乾燥試験(DRY)と湿潤試験(WET)を行った。汚染の判定は、汚染用グレースケール(JIS L0805)を用いて、1〜5級の判定を行った。3.5級(3級と4級の間)以上を合格と判定する。
【0040】
<難燃性能>
米国連邦自動車安全基準(FMVSS:Federal Motor-Vehicle Safety Standard)に定められている「内装材料の燃焼性」に準じて試験を行い、難燃性能を判定した。
「難燃」は、加工布帛に炎を15秒間あてても着火しなかったことを示す。
「自己消火」は、炎がA標線を越えた後、燃焼距離50mm以内、燃焼時間60秒以内で消火したことを示す。上記「難燃」・「自己消火」の基準を満たさなかった加工布帛については、表中に燃焼速度(mm/分)を記載する。
【0041】
総合評価
ダニに対する抗アレルゲン性が90%以上、スギ花粉に対する抗アレルゲン性が70%以上、抗ウイルス性が25℃・2時間または4℃・15分の少なくともどちらかで99.9%以上(抗ウイルス活性値3以上)、キワつき・白化・チョークマークがそれぞれ3級以上、摩擦堅牢度が乾燥試験で4級以上、湿潤試験で3.5級以上、の全てを満たした加工布帛を良品(〇)と評価し、その中でも特に優れた性能を示すもの(具体的には、ダニに対する抗アレルゲン性が91%以上、スギに対する抗アレルゲン性が90%以上、4℃・15分における抗ウイルス性が99.9%以上、摩擦堅牢度が湿潤試験で4級以上のもの)を優良品(◎)と評価した。なお、No.11については、抗ウイルス剤の量はNo.10と同じであることから、抗ウイルス性については基準をクリアしていると見なして総合評価を行った。また、試料No.16〜18については、抗アレルゲン剤の量はNo.15と同じであることから、抗アレルゲン性については基準をクリアしていると見なして総合評価を行った。
前記良品のための基準を一つ以上満たさない加工布帛は、不合格(×)と評価し、いくつかの加工布帛については、不合格と判明した時点で、抗ウイルス性の試験は行わなかった。
【0042】
【表1a】
【0043】
【表1b】
【0044】
【表1c】
【0045】
上記表において、No.1は、ブランク(未加工布帛)を示す。試料No.2〜No.24は加工布帛を示す。
No.2は、特許文献2(特許第5215424号)によるアレルゲン低減加工剤(抗ウイルス剤なし)で加工を行った布帛であり、抗ウイルス性が不十分である。
No.3は、No.2の加工剤に、スチレンスルホン酸塩を含む共重合体(以下、抗ウイルス剤と称する)を添加して加工を施した加工布帛であり、チョークマークが生じやすく、湿潤試験における摩擦堅牢度も低くなることが確認された。No.4は、No.3の加工剤のバインダーをポリエステル系樹脂からアクリル系樹脂に変更したものであるが、やはりチョークマークが生じやすくなった。
No.5〜No.8は、No.3に対し、リン酸ジルコニウム(以下、抗アレルゲン剤Aと称する)を段階的に減らした加工剤で加工を施した布帛であり、抗アレルゲン剤Aの量を減らすことで、チョークマーク試験はクリアできるが、湿潤試験における摩擦堅牢度は改善されないことが確認された。
No.9〜No.12は、No.6に対し、芳香族スルホン酸系単量体からなる単独重合体(以下、抗アレルゲン剤Bと称する)の量を変更した加工剤で加工を施した布帛であり、抗アレルゲン剤Bが0.3g/m
2のNo.10では、総合評価が優良(◎)となり、抗アレルゲン剤Bが0.2g/m
2のNo.11では、総合評価が良(〇)となった。これに対し、抗アレルゲン剤Bが0.1g/m
2のNo.12では、ダニおよびスギ花粉に対する抗アレルゲン性が基準を満たさなかった。
No.13〜No.18は、No.10に対し、抗ウイルス剤の量を変更した加工剤で加工を施した布帛であり、抗ウイルス剤の量を0.35〜0.7に変更しても良品または優良品が得られることが確認された。特に、抗ウイルス剤の量が0.35〜0.45の場合は、より高い摩擦堅牢度が得られることも確認された。なお、抗ウイルス剤の量を変更しても、抗アレルゲン性能への影響はほぼ無いことが、No.10およびNo.13〜No.15から確認できたため、No.16〜No.18については、抗アレルゲン性試験を行わなかった。
No.19〜No.24は、No.10で使用した加工剤を、20%、40%、60%、80%に希釈した加工剤、または、120%、140%に濃縮した加工剤で加工を施した布帛である。No.19の加工布帛は、抗アレルゲン性も抗ウイルス性も基準を満たさないことが確認された。No.20〜No.23の加工布帛は、全ての基準をクリアした。No.24の加工布帛は、抗アレルギー性と抗ウイルス性は高いものの、チョークマークが発生しやすく、基準をクリアできなかった。
【0046】
上記試験の結果から、繊維製品に対する抗アレルゲン剤Aの付着量を1.0〜3.0g/m
2、抗アレルゲン剤Bの付着量を0.12〜0.4g/m
2、抗ウイルス剤の付着量を0.2〜0.8g/m
2とすることにより、抗アレルゲン性、抗ウイルス性、キワつき、白化、チョークマーク、摩擦堅牢度の全てが総合的に優れた繊維製品を得ることができると考えられる。
また抗アレルゲン剤Aの付着量を1.5〜2.5g/m
2、抗アレルゲン剤Bの付着量を0.18〜0.36g/m
2、抗ウイルス剤の付着量を0.3〜0.7g/m
2とすることがより好ましく、特に、抗アレルゲン剤Aの付着量を2.0〜2.5g/m
2、抗アレルゲン剤Bの付着量を0.24〜0.3g/m
2、抗ウイルス剤の付着量を0.35〜0.5g/m
2とすることにより、総合的により優れた繊維製品を得ることができると考えられる。
【0047】
[実施例2]
No.10の加工布帛について、B型インフルエンザに対する抗ウイルス性(25℃・2時間と、4℃・15分間)を評価した。試験方法は以下の通りである。
【0048】
<抗ウイルス性(25℃・2時間)>
ISO18184「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」に基づいて試験を行った。具体的な手順を以下に示す。
1.ウイルス懸濁液(B型インフルエンザ:ATCC VR−1535)を調製する。
2.未加工布帛(No.1)または加工布帛(No.10)0.4gにウイルス懸濁液を0.2mL接種する。
3.25℃、2時間放置後、洗い出し液(SCDLP培地)を20mL加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、加工布帛からウイルスを洗い出す。
4.ウイルスを宿主細胞(MDCK細胞:イヌ腎臓由来細胞)に感染させ、プラーク測定法にてウイルス感染価を測定する。
5.抗ウイルス活性値を計算し、3以上で合格と判定する。
【0049】
<抗ウイルス性(4℃・15分)>
冬場の気温を想定し、且つ、より短時間で抗ウイルス性が得られるかどうか確認するために、上記「3」の手順における25℃・2時間の放置条件を4℃・15分に変更して試験を行った。放置条件以外の手順は、上述の通りである。
抗ウイルス活性値3以上で合格と判定する。
【0050】
試験結果を以下に示す。
【表2】
【0051】
表2に示すように、未加工布帛(No.1)では抗ウイルス効果が観察されなかったのに対して、加工布帛(No.10)は、25℃・2時間でも、4℃・15分でも、高い抗ウイルス活性値を示した。
従って、実施例1および実施例2の結果から、本発明に係る繊維製品は、A型、B型のどちらのインフルエンザウイルスに対しても高い抗ウイルス作用を示すことが分かった。
【0052】
[実施例3]抗菌試験
No.22の加工布帛について、抗菌性能を評価した。試験菌体としては、大腸菌(NBRC 3301)と黄色ブドウ球菌(NBRC 12732)を用いた。
JIS L1902(菌液吸収法)に準拠して測定を行い、静菌活性値が2.0以上で、殺菌活性値が0以上の場合を合格と判定する。
【0053】
結果を表3に示す。
【表3】
【0054】
表3に示すように、No.22の加工布帛は、大腸菌に対しても、黄色ブドウ球菌に対しても、優れた抗菌活性を示し、合格基準をクリアした。
このことから、本発明に係る繊維製品は、抗ウイルス活性に加えて、抗菌活性も有することが分かった。なお、この抗菌活性には、抗アレルゲン剤A(リン酸ジルコニウム)が寄与していると考えられる。