特許第6024063号(P6024063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024063
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】通電加熱方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/40 20060101AFI20161027BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20161027BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   C21D1/40 G
   C21D1/40 E
   C21D9/00 A
   H05B3/00 340
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-153149(P2012-153149)
(22)【出願日】2012年7月7日
(65)【公開番号】特開2014-15658(P2014-15658A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】大山 弘義
(72)【発明者】
【氏名】小林 国博
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−290810(JP,A)
【文献】 特公昭49−003885(JP,B1)
【文献】 特開2013−114941(JP,A)
【文献】 特許第3587501(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/40
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のワークのうち加熱すべき領域の一端中間部と他端中間部とを結ぶ中心線と略直交しかつ記ワークを横断するように、一方の電極及び他方の電極を記ワーク上に配置し、
記一方の電極と記他方の電極との間に電流を流しながら記一方の電極、記他方の電極の何れか一方又は双方を記中心線に沿って移動する、通電加熱方法において、
前記中心線に沿って微小長さ当たりの抵抗が増加又は減少しており、
前記一方の電極及び前記他方の電極を前記ワーク上に配置する際に、前記ワークを水平面上で回転させるか又は前記一方の電極及び前記他方の電極を水平面で回転させることを特徴とする、通電加熱方法。
【請求項2】
前記一方の電極又は前記他方の電極を前記中心線に沿って前記ワークの微小長さ当たりの抵抗が増加する方向に移動し、加熱すべき領域の各部に供給される電流の時間を調整する、請求項1に記載の通電加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状のワークを通電する通電加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の構造物、例えばピラーやリィンフォースメントなどの強度を必要とする部材には、熱処理が施されている。熱処理の種類としては間接加熱と直接加熱とがある。間接加熱には、ワークを炉に収容して炉の温度を制御することで加熱する、いわゆる炉加熱などがある。直接加熱には、ワークに渦電流を流すことで加熱する、いわゆる誘電加熱と、ワークに直接電流を流すことによって加熱する、いわゆる通電加熱がある。
【0003】
特許文献1では、難加工性の金属材を塑性加工する加工手段の前段において、加熱手段によって金属材を通過する中に、誘導加熱又は通電加熱を施すことが開示されている。それによれば、カッタ装置を備えた加工手段の前段に、誘導加熱用コイル又は電極ローラからなる加熱手段を配置し、電極ローラによって金属材を連続搬送しながら通電加熱している。
【0004】
奥行き幅が左右方向でほぼ等しい平板状の鋼材を通電により熱処理するには、鋼材の一端部、他端部にそれぞれ一つの電極を配置し、電極間に電圧を印加すればよい。鋼材には一様な電流が流れるので、発熱量は鋼材の部位に依らず均一となる。
【0005】
奥行き幅が左右方向で異なる板状の鋼材を通電により熱処理する技術が、例えば特許文献2や特許文献3に開示されている。特許文献2では、鋼材の一端部に複数の電極を並べて配置し、鋼材の他端部に複数の電極を並べて配置し、鋼材の両端部に配置した電極で対を構成し、電極に供給する電力を電極毎に調整することにより、鋼材を一様な温度に加熱している。
【0006】
板状の鋼材ではないが、鋼棒材を通電加熱する技術が特許文献4に開示されており、それによると、鋼棒材の一端に一方の電極を固定し、鋼棒材のうち加熱を必要とする部分と必要としない部分との境にクランプ型の電極を挟持せしめることにより、鋼棒材を部分的に加熱することが可能とされている。
【0007】
非特許文献1では、非矩形ワークに対する通電加熱方法に関し、ワークを矩形となる部分毎に通電加熱を行うとともに、加熱済み部分を冷却する間に、未加熱の部分を通電加熱することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06-79389号公報
【特許文献2】特許第4604364号公報
【特許文献3】特許第3587501号公報
【特許文献4】特開昭53-7517号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】発明協会公開技報、公技番号2011−504351,2011年11月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ワークの中でも奥行き幅が左右方向で異なっている鋼材を熱処理する場合には、炉加熱のように鋼材の単位体積当たりに加える熱量が鋼材の場所毎で異ならないことが望ましい。しかしながら、炉などの加熱装置を用いた場合には、加熱炉のため設備が大掛かりとなるばかりでなく、炉の温度制御が難しい。
【0011】
そのため、特許文献1〜4及び非特許文献1に開示されているように、通電によって加熱することが生産コスト上好ましい。しかしながら、特許文献2のように、複数の電極対を設け、それぞれの電極対への通電量を制御するためには、電極対毎に通電量を制御しなければならず、設備コストの上で好ましくない。また、一つのワークに対して複数の電極対を配置する必要があるため、生産性も悪くなる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、板状のワークのうち奥行き幅が左右で異なる領域をほぼ均一に加熱する通電加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明、板状のワークのうち加熱すべき領域の一端中間部と他端中間部とを結ぶ中心線と略直交しかつワークを横断するように、一方の電極及び他方の電極を上記ワーク上に配置し、一方の電極と他方の電極との間に電流を流しながら一方の電極、他方の電極の何れか一方又は双方を中心線に沿って移動する、通電加熱方法において、中心線に沿って微小長さ当たりの抵抗が増加又は減少しており、一方の電極及び他方の電極をワーク上に配置する際に、ワークを水平面上で回転させるか又は一方の電極及び他方の電極を水平面で回転させることを特徴とする。
【0014】
上記構成において、一方の電極又は他方の電極を中心線に沿ってワークの微小長さ当たりの抵抗が増加する方向に移動し、加熱すべき領域の各部に供給される電流の時間を調整する
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、板状のワークのうち加熱すべき領域の一端中間部と他端中間部とを結ぶ中心線と略直交しかつワークを横断するように一方の電極及び他方の電極を配置する。そのため、一方の電極が接触する部位と他方の電極が接触する部位とのワークの左右に沿った間隔が、ワークの奥行き方向位置に拘わらず同一の範囲となる。つまり、一方の電極と他方の電極との間に流す電流の値を、ワークの奥行き方向の位置に拘わらず同一の範囲とすることができる。従って、ワークの所定領域をほぼ均一に加熱することができる。
【0016】
中心線に沿ってワークの微小長さ当たりの抵抗が増加する場合にあっては、その抵抗が増加する方向に一方の電極又は他方の電極を移動することにより、加熱すべき領域の各部に供給される電流の時間を調整し、加熱すべき領域をほぼ均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る通電加熱方法のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
図2】本発明の実施形態で対象とするワークの形状の一例を示す平面図である。
図3】一方向に沿って配置されている電極対に対してワークの設置状態を示し、(a)は通電前の状態を示す平面図、(b)は通電後の状態を示す平面図である。
図4】直接通電における基本的な関係式を説明するための図である。
図5図2に示すワークを水平面上で回転させないで配置した状態を示し、(a)は通電前の状態を示す平面図、(b)は通電後の状態を示す平面図である。
図6図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す正面図である。
図7図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す左側面図である。
図8図1に示す通電加熱装置の具体的な構成の一部を示す平面図である。
図9図1に示す通電加熱装置の具体的な構成を示す右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本発明の実施形態において、通電加熱される対象は平板状のワークである。具体的には、厚みが一定で奥行き幅が左右方向に沿って変化していないワークのみならず、加熱すべき領域(以下、「加熱領域」という。)の一端方向、他端方向の何れかの一方向又は双方向に沿って奥行き幅や厚みが変化していることにより断面積が減少又は増加しているワーク、加熱領域内に開口や切り欠いた領域が存在して、左右の何れかの方向でそれに直交する断面の寸法が減少又は増加しているワークも対象となる。ワークの材質は例えば電流を流して通電加熱し得る鋼材であればよい。ワークは、一つの部材からなっていても、或いは抵抗率の異なる部材同士を溶接加工などにより一体物にしたものであってもよい。また、ワークには加熱すべき領域が一領域だけ設定されている場合のみならず、複数の領域が設定されていてもよい。その場合、複数の領域は隣接していても、隣接せず離れていてもよい。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る通電加熱方法のコンセプトを示しており、(a)は通電前の状態の平面図、(b)は通電前の状態の正面図、(c)は通電後の状態の平面図、(d)は通電後の状態の正面図である。
【0020】
本発明の実施形態に係る通電加熱方法において使用される通電加熱装置10は、一方の電極11及び他方の電極12を電極対13として備える。一方の電極11及び他方の電極12は、ワークwを横断するように同じ方向に延びたロール状又は角状を有している。一方の電極11と他方の電極12とは給電部1に電気的に接続され、一方の電極11と他方の電極12との間に挟まれたワークwの一部を通電加熱する。
【0021】
図1に示す通電加熱装置10では、一方の電極11がロール状の移動電極であり、移動機構15により一方の電極11を左右方向の何れか一方向に沿ってワークw上に接触したまま移動させることができる。
【0022】
つまり、一方の電極11及び他方の電極12をワークwに接触した状態で、給電部1から電極対13を経由してワークwに通電している状態で、移動機構15は一方の電極11を移動して一方の電極11と他方の電極12との間隔を変化させることができる。
【0023】
移動機構15は、一方の電極11の移動速度を制御する調整部15aと、調整部15aにより一方の電極11を移動させる駆動機構15bと、を備える。調整部15aは、ワークw、特に加熱すべき領域wの形状及び寸法に関するデータから一方の電極11の移動速度を求め、駆動機構15bがその求めた移動速度により一方の電極11を移動させる。
【0024】
他方の電極12は固定電極としてもよいし、別途同様の移動機構により移動する移動電極としてとしてもよい。以下、一方の電極11を移動機構15により移動させることができる場合を前提に説明する。もちろん、ワークwの形状等によっては、一方の電極11は固定したままでもよい。
【0025】
一方の電極11及び他方の電極12は、図1(a)に示すように、ワークwの左右方向の場所によらず、平面視で、ワークwの前端と後端とを跨ぐ長さを有する。
【0026】
ワークwは、一端側から他端側へ例えば略左右に延びる平板状を有しており、図1に示すように奥行き幅が左右で異なる、所謂異形を有している。そして、ワークwのうち本来加熱すべき領域wの一端と他端とがほぼ平行な台形状を呈している。加熱すべき領域wの左側には左領域wを有している。加熱すべき領域wの右側には右領域wを有している。図1に示す形態では、ワークwは、加熱すべき領域wの左側に左領域wを、加熱すべき領域wの右側に右領域wを、それぞれ連続するように有している。本発明の実施形態では、ワークwが左領域w、右領域wの何れかを有する場合であっても、双方を有さない場合であってもよい。
【0027】
本発明の実施形態では、ワークwを横断するように同じ方向に延びる一方の電極11と他方の電極12とを板状のワークwに配置する際、図3に示すように、加熱すべき領域wの一端Lの中間部Lと他端Rの中間部Rとを結ぶ中心線Lαが略直交するように、ワークwを水平面上で回転させてワークw上に各電極11,12を配置するか又は各電極11,12を水平面で回転させてワークw上各電極11,12を配置する。例えば、ワークwを横断する一方の電極11及び他方の電極12により電極対13が構成されている状況において、略左右方向に延びるワークwを水平面上で傾け、このワークw上に電極対13を配置する。
【0028】
以下、電極対13に対しワークwをどのように配置するかについて具体的に説明する。
図2は本発明の実施形態で対象とするワークwの形状の一例を示す平面図である。本発明の実施形態で対象とするワークwは、図2に示すように、加熱すべき領域wの左側と右側にそれぞれ左領域wと右領域wとを有している。加熱すべき領域wの左端(一端側)Lは、平面視で前点Lと後点Lとを前後端に有している。加熱すべき領域Wの左端(他端側)Rは、平面視で前点Rと後点Rとを前後端に有している。
【0029】
さらに、図2に示すように、平面視において、左領域Wの前点Lの右への延長線上と直線Rとのなす角をθとし、左領域Wの後点Lの右への延長線上と直線Rとのなす角をθとすると、角θ,θは、それぞれ前点L、後点Lを中心に平面視において反時計回りで、何れも正の値を有する。なお、角θ,θは、それぞれ前点L、後点Lを中心に平面視において時計回りで、何れも負の値を有していてもよい。
【0030】
図3は、一方向に沿って配置されている電極対13に対してワークwの設置状態を示し、(a)は通電前の状態を示す平面図で、(b)は通電後の状態を示す平面図である。
【0031】
加熱すべき領域wにおける左端Lの中間部Lと右端Rの中間部Rとを結ぶ中心線Lαが一方の電極11及び他方の電極12の各延びる方向と略直交するように、ワークwを水平面上で僅かに回転させ、ワークw上に一方の電極11及び他方の電極12を配置する。図3(a)及び(b)に示す形態にあっては、左端Lの中点Lと右端Rの中点Rとを結ぶ中心線Lαを想定し、その中心線Lαが一方及び他方の電極11,12と略直交するように、ワークwを配置する。中心線Lαによってワークwが奥行き幅に二分することになる。
【0032】
図2及び図3に示すワークwの加熱すべき領域wの奥行き幅は、右領域w側に延びるに従い、狭くなっている。よって、図3(a)に示すように、一方の電極11と他方の電極12とが略平行に配置されている状態において、中心線Lαが電極11,12と略直交するように、ワークwを水平面上で回転させ、他方の電極12を加熱すべき領域wの左側に接触させ、一方の電極11を他方の電極12と間隔をあけて平行に配置する。
【0033】
そして、給電部11から一方の電極11と他方の電極12との間に給電しながら、一方の電極11を移動機構15により他方の電極12から遠ざけ、図1(c)及び(d)並びに図3(b)に示すように、加熱すべき領域wの他端Rを完全に乗り越えるまで移動させ、給電部1からの給電を停止する。
【0034】
本発明の実施形態では、ワークwを水平面上で回転させるか、又は、一方の電極11及び他方の電極12を水平面上で回転させることにより、加熱すべき領域wの左端L及び右端Rに対して一方の電極11、他方の電極12がそれぞれ平行にならないように、つまりワークwの略左右方向と電極11,12とが交差するように電極11、12を配置する。このように電極11、12を配置するのは下記の理由による。
【0035】
一方の電極11と他方の電極12との間に給電部1から給電すると、一方の電極11に接触したワークwの部位と他方の電極12に接触したワークwの部位との間に、電流が流れる。当該電流は、一方の電極11との接触部位と他方の電極12との接触部位との間のワークwの部分で抵抗が最も小さいところを流れる。ワークwの部分であって一方の電極11の接触部位と他方の電極12の接触部位との間が、電極11,12の延びる方向の区分毎に均質であるとすると、電流は最短経路を流れる。そのため、一方の電極11と他方の電極12との間のワークwの領域の中心線Lαに沿った寸法が、電極11,12の延びる方向の区分毎に、同一の範囲内にある。すると、一方の電極11と他方の電極12との間のワークwの部分にほぼ等しい電流が流れ、通電により生じるジュール熱が一様になる。
【0036】
当然、一方の電極11と他方の電極12との間のワークwの部分は通電により温度が上昇するわけであるが、当該部分が電極11,12の延設方向に対して昇温の度合いが変化しなければ、当該部分をさらに電極11,12の延設方向で仮想的に区分けしても、抵抗が変化しないで、一様に電流が流れる。そのため、抵抗が電極11,12の延設方向で大きく異なることもなく、単位時間での昇温の度合いがほぼ等しくなる。
【0037】
次に、図1に示すように、一方の電極11を移動機構15により移動させる理由について説明する。ワークwの厚みを一定と仮定すると、図3に拡大して示すように、中心線Lαと直交するワークwの断面積は、右方向に沿って減少している。そのため、中心線Lαに沿って断面積が減少する方向に一方の電極11を移動させる。これにより、図3(a)に示す通電開始状態から図3(b)に示す通電終了状態までの間において、他方の電極12と一方の電極11とにより通電される部分の単位体積当たりの熱量の総和が部位毎に依らず一定の範囲に収まる。
【0038】
このように、一方の電極11と他方の電極12とにより通電される領域について、電極対13に給電部1から通電を開始してから停止するまでに一方の電極11を移動させることにより、電極11の移動方向に従って短冊状に仮想的に分割した領域毎の熱量を制御することができる。このときの短冊状に分割した領域は一方の電極11の移動方向に並んでいることになる。
【0039】
移動機構15の調整部15aで求める移動速度について以下説明する。図4に示すように、微小長さの断面積Aに電流Iをt(sec)時間流したときの昇温は次式から求まる。
θ=ρe/(ρ・c)×(I×t)/A (℃) (式1)
ただし、ρeは抵抗率(Ω・m)、ρは密度(kg/m)、cは比熱(J/kg・℃)である。
微小長さの断面積Aに電流Iをt(sec)時間流したときの昇温は次式から求まる。
θ=ρe/(ρ・c)×(I×t)/A (℃) (式2)
ここで、電流Iを一定にして、昇温θ=θとして、次の関係式が成り立つ。
/A=t/A (式3)
よって、一定の電流を流して、異なる断面を同じ温度に加熱する時間は断面積比の2乗に比例する。
移動電極の速度ΔVは次のようにすればよい。
ΔV=ΔL/(t−t) (式4)
ただし、ΔLはワークの左右方向の長さである。
従って、調整部15aによって、鋼材などのワークw、加熱領域wの形状及び寸法のデータと、給電部1から供給される電流量、所定の加熱温度から、移動速度を求めることができる。
【0040】
例えば、ワークwの厚みが一定であるとして、図3(b)に示すように、通電終了直前の状態において一方の電極11と他方の電極12とで囲まれる領域w、つまり通電される領域(以下、「通電領域」という。)wがほぼ台形状に近似できる。つまり、左右方向に沿って奥行き幅が単調に変化していると近似できる。通電領域wを略均一に加熱するために、一方の電極11と他方の電極12とを間隔をおいて通電領域wに横断させて配置する。例えば図3(b)に示すように他方の電極12を通過領域wの一端と隣接するように配置し、それよりも右側に一方の電極11を配置する。具体的に説明すると、ワークを横断するのに十分な寸法を有する一方の電極11及び他方の電極12を用いる。他方の電極12を中心線Lαと略直交しかつ加熱すべき領域wの左端Lの前後端の何れかと接触するようにワークw上に配置し、他方の電極12と略平行に一方の電極11をワークw上に配置する。その際、一方の電極11は加熱すべき領域wと少なくとも部分的に接触するようにする。そして給電部1から一方の電極11及び他方の電極12に通電状態のまま一方の電極11を中心線Lαに沿って移動させる。一方の電極11が図3(b)に示すように加熱すべき領域w1の全領域を通過すると、通電を停止する。すると、電極の移動方向に沿ってワークwの奥行き幅が変化しても、一方の電極11を移動する速度を、単位長あたりの抵抗の変化に応じて、この場合には奥行き幅の変化に対応して、加熱領域の各部に供給される通電の時間を調整することができる。
【0041】
このように、ワークwの電極移動方向に沿って奥行き幅単位で短冊状に仮想的に分割したとすると、上述のように通電の時間を調整することで、その分割した領域の抵抗の値に見合った通電量を確保することができ、ワークwの通電領域wを一定の幅の温度範囲で加熱することができる。
【0042】
例えば図3のように、通電領域wが右向きに奥行き幅が狭くなっている場合には、一方の電極11が通電領域wに接触している幅の変化に基いて、その移動速度を調整する。移動速度は、上記式4から、断面積の変化率の2乗に比例した関数で規定される。
【0043】
ここで、給電部1は直流電源である場合のみならず、交流電源であってもその一定周期の平均電流が変化していなければ、通電時間を調整することによって、通電による温度上昇幅を、ワークwの加熱領域の部位によらず同一性の範囲とすることができる。
【0044】
ここで、図1及び図3に示す形態とは異なり、ワークwを水平面上で僅かに回転させないで電極対13に配置した場合にどのようになるかについて説明する。図5は、図2に示すワークwを水平面上で回転させないで配置した状態を示し、(a)は通電前の状態を示す平面図、(b)は通電後の状態を示す平面図である。
【0045】
図5(a)に示すように、他方の電極12を加熱領域wの左端Lに沿って平行に配置し、一方の電極11を他方の電極12に平行になるように僅かにずらして配置する。そして、一方の電極11を移動機構15によって移動させるとする。
【0046】
すると、図5(b)に示すように通電終了直前では、加熱領域wの前端側では矢印iの方向に電流が流れる一方、加熱すべき領域wの後端側では矢印iで示すように加熱すべき領域wの左端L及び右端Rと直交する方向に流れる。すると、図5(b)において符号Aで示す領域には電流が流れ難くなる。よって、ワークwの加熱領域wを均一加熱することができ難くなる。
【0047】
このように、本発明の実施形態では、一方の電極11及び他方の電極12が板状のワークwを横断しかつワークwの加熱すべき領域wにおける左端Lの中間部Lと右端Rの中間部Rとを結ぶ中心線Lαと略直交するように、一方の電極11及び他方の電極12をワークw上に配置する。本発明の実施形態では、図3(b)にハッチングを付している領域、つまり一方の電極11と他方の電極12とで囲まれるワークw上の領域を通電領域wと呼び、加熱すべき領域wと区別する。通電領域wは、一方の電極11と他方の電極12とを最も離した状態において、図3(b)に示すように、加熱すべき領域wと、左領域wの一部で加熱すべき領域wの左端Lを一辺とする略三角形の領域ΔLと、右領域wの一部で加熱すべき領域wの右端Rを一辺とする略三角形の領域ΔRにより形成される。
【0048】
そのため、ワークwのうち、一方の電極11が接触する部位と他方の電極12が接触する部位との間隔が、ワークの奥行き方向位置に拘わらず同一性の範囲に収まり易い。つまり、ワークwのうち一方の電極11と他方の電極12との間に流す電流を、ワークwの奥行き方向位置に拘わらず同一性の範囲とすることができる。これにより、板状のワークwをほぼ均一に加熱することができる。
【0049】
さらに、中心線Lαに沿ってワークwの微小長さ当たりの抵抗が増加する場合には、つまり、中心線Lαに垂直な断面でワークwを区分したとき区分した各領域の抵抗が中心線Lαに沿って増加する場合には、その抵抗が増加する方向に一方の電極11を移動することにより、加熱すべき領域wの各部に供給される電流の時間を調整し、熱処理を施したい領域をほぼ均一に加熱することができる。ここで「微小長さ」とは「単位長さ」であってもよく、中心線Lαに沿う方向の例えば1cmの距離を意味する。図示を省略するが、加熱すべき領域wの左右方向の中間部における奥行き幅が最も広く左右方向に沿って減少する場合には、中間部に一方の電極11と他方の電極12とを中心線Lαと略直交するように配置し、一方の電極11と他方の電極12とを逆方向に移動して電極間隔を広くすればよい。
【0050】
図6図9は、図1に示す通電加熱装置の具体的な構造を示し、図6は正面図、図7は左側面図、図8は平面図、図9は右側面図である。図6図9に示すように、通電加熱装置20は、ワークwを上下方向から挟む電極部21a,22aと補助電極部21b,22bとにより各電極21,22が構成されている。
【0051】
図6において、移動電極21は向かって左側に配置され、固定電極22は向かって右側に配置されている。移動電極21、固定電極22の何れも、対をなすリード部21c,22cと、ワークwに接触する電極部21a,22aと、ワークwを電極部21a,22a側に押圧する補助電極部21b,22bと、を備えている。
【0052】
図6に示すように、移動機構25として、ガイドレール25aが左右方向に延設され、その上方に、ねじ軸からなる移動制御棒25bが左右方向に延設され、ガイドレール25a上をスライドするスライダー25cに移動制御棒25bが螺合しており、移動制御棒25bをステップモータ25dにより速度調整して回転することで、スライダー25cが左右へ移動する。
【0053】
移動電極用のリード部21cが、絶縁板21dを介在してスライダー25c上に配置され、給電部1に電気的に接続された配線2aが移動電極用のリード部21cの一端部に固定され、移動用の電極部21aが移動電極用のリード部21cの他端部に固定されており、移動用の補助電極部21bを上下動可能に配置する吊り下げ機構26が配設されている。
【0054】
吊り下げ機構26は、ステージ26a,壁部26b,26c及び橋部26d等で構成された架台に設けられている。即ち、吊り下げ機構26は、ステージ26aの他端部に奥行き方向に離隔して設けられた対の壁部26b,26cと、壁部26b,26c上端に架け渡された橋部26dと、橋部26dの軸上に取り付けられたシリンダーロッド26eと、シリンダーロッド26eの先端部に取り付けられる挟持部26f(固定具と呼んでもよい。)と、補助電極部21bを絶縁して保持する保持プレート26gと、を備える。シリンダーロッド26eの先端が挟持部26fの上端に固定され、壁部26b,26cのそれぞれ対向面に支持部26iが設けられ保持プレート26gを連結軸26hで揺動可能な状態でガイドする。シリンダーロッド26eが上下動することにより、挟持部26f、連結軸26h、保持プレート26c及び補助用電極部21bが上下動する。その際、ワークwの加熱領域を横断するように固定用の電極部21a及び補助用電極部21bが延びているので、連結軸26hで揺動されることにより、固定用の電極部21aの上面と補助用電極21bの下面の各全面をワークwに押し当てることができる。
【0055】
吊り下げ機構26及び移動電極用のリード部21cが移動機構25により左右に移動しても、移動用の電極部21aと移動用の補助電極部21bとが平板状のワークwに接触したまま挟持するように、移動用の電極部21a、移動用の補助電極部21bでは、何れも、ワークwの奥行き方向にワークwを横断するように転動ローラ27a,27bが配置され、転動ローラ27a,27bを一対の軸受28a,28bで転動自在にしている。移動機構25で移動用の電極部21a及び移動用の補助電極部26bを左右に移動しても、一対の軸受28a,28b及び転動ローラ27aを経由してワークwに通電した状態を維持することができる。
【0056】
通電加熱装置20の他方側には固定電極22が設置されている。図6に示すように、固定電極用の引っ張り手段29がステージ29a上に配置されている。固定電極用のリード部22cは固定電極用の引っ張り手段29上に絶縁板29bを介在して配置されている。給電部1に電気的に接続された配線2bが固定電極用のリード部22cの一端部に固定されている。固定用の電極部22aは固定電極用のリード部22cの他端部に固定されている。固定用の補助電極部22bを上下動可能に配置する吊り下げ機構31が固定用の電極部22aを覆うように配置される。
【0057】
固定電極用の引っ張り手段29は、絶縁板29bの下面に接続されてステージ29aを左右に移動させる移動手段29cと、絶縁板26bを直接左右にスライドするためのスライダー29d,29eと、スライダー29d,29eをガイドするガイドレール29fとを有しており、移動手段29cによって、補助電極部22b、電極部22a及び固定電極用のリード部22cを左右にスライドして位置調整する。通電加熱装置20にこのような引っ張り手段29を設けていることにより、ワークwが通電加熱により膨張しても平坦化することができる。
【0058】
吊り下げ機構31は、ステージ31aの他端部に奥行き方向に離隔して立設した対の壁部31b,31cと、壁部31b,31c上端に架け渡された橋部31dと、橋部31dの軸上に取り付けられたシリンダーロッド31eと、シリンダーロッド31eの先端部に取り付けられる挟持部31fと、補助電極部22bを絶縁して保持する保持プレート31gと、を備える。保持プレート31gは連結軸31hを介して挟持部31fで挟持される。シリンダーロッド31eの先端は挟持部31fの上端に固定され、吊り下げ機構26と同様に、壁部31b,31cのそれぞれ対向面に設けた支持部によって保持プレートを揺動自在に支持する。シリンダーロッド31eが上下動することにより、挟持部31f、連結軸31h、保持プレート31g及び補助用電極部22bは上下動する。その際、ワークwの加熱領域を横断するように固定用の電極部22a及び補助用電極部22bが延びているので、連結軸31hで揺動することにより、固定用の電極部22aの上面と補助用電極部22bの下面の各全面をワークwに押し当てることができる。
【0059】
図6乃至図9には示さないが、水平支持手段によってワークwを水平に支持しておき、固定用電極21と補助用電極22でワークwを挟んで固定し、移動用電極21と補助電極22とでワークwを挟み、移動機構25で移動用電極21及び補助電極22を移動する。速度調整部15bによって移動速度を制御しながら、移動機構25により移動用電極21を移動する。よって、速度調整部15bによりワークwの形状に応じて、移動用電極21及び補助電極22の移動速度を調整することで、ワークwの加熱領域を均一に加熱したり、又はワークwの加熱領域を高温領域から低温領域に滑らかに変化するように分布させて加熱することもできる。
【0060】
このように、通電加熱装置20では、ワークwを上下で挟むように電極部21aと補助用電極部21bとを配置する。ワークwの加熱領域を横断する形状を有する中実の電極部21aが、電極移動方向に沿って敷設された一対のリード部21c(ブスバーと呼んでもよい。)に横断して設けられる。電極部21aと補助用電極部21b及び一対のリード部21cが駆動機構25によって電極移動方向に沿って移動する手段に取り付けられている。電極部21a及び補助用電極部21bの少なくとも何れか一方が押圧手段としてのシリンダーロッド26eによって上下動して、電極部21aと補助用電極部21bとでワークwを挟んだまま、ワークw上を走行することにより、ブスバー21cを経由して電極部21bからワークwに通電しながら移動する。
【0061】
なお、図6乃至図9に示した形態のみならず、電極部21a及び補助用電極部21bの少なくとも何れか一方が押圧手段としてのシリンダーロッド26eによって上下動して、電極部21aと補助用電極部21bとでワークwを挟んだまま、電極部21aが一対のブスバー上を走行することによりブスバーを経由して電極部21bからワークwに通電しながら移動できるように設計変更してもよい。
【0062】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、ワークwの形状及び寸法に応じて適宜変更して実施することができる。ワークwは図示した形状に限定されず、ワークwが、一方向に沿う断面積が小さくなるなどして単位長さ当たりの抵抗が大きくなる領域を含んでいれば、その方向に電極を移動させることによりその領域を均一加熱することができる。なお、ワークwは、外周辺のうち左右両端をつなぐ横辺は直線である必要はなく湾曲していてもよいし、横辺が複数の直線や曲率の異なる曲線をつなげて構成されていてもよい。
【0063】
また、上述では、ワークwの一部に一つの加熱領域を有する場合について説明している。しかしながら、ワークwが複数の領域に分けられており各領域が加熱領域である場合についても適用することができる。
【0064】
また、本発明は、ワークが単一の素材からなるものでなく、例えば溶接等により二枚のプレート材を溶接した場合でもよく、その際溶接線を跨いで加熱領域が設定されていても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:給電部
10,20:通電加熱装置
11:一方の電極(移動電極)
12:他方の電極(固定電極)
13:電極対
15:移動機構
15a:調整部
15b:駆動機構
21:電極(移動電極)
22:電極(固定電極)
21a,22a:電極部
21b,22b:補助電極部
21c,22c:リード部
21d:絶縁板
25:移動機構
25a:ガイドレール
25b:移動制御棒
25c:スライダー
25d:ステップモータ
26,31:吊り下げ機構
26a,31a:ステージ
26b,26c,31b,31c:壁部
26d,31d:橋部
26e,31e:シリンダーロッド
26f,31f:挟持部
26g,31g:保持プレート
26h,31h:連結軸
26i:支持部
27a,27b:転動ローラ
28a,28b:軸受
29:引っ張り手段
29a:ステージ
29b:絶縁板
29c:移動手段
29d,29e:スライダー
29f:ガイドレール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9