【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1に係る半導体装置の断面模式図の例である。実施例1では、窒化物半導体のHEMTの場合を例に説明する。なお、窒化物半導体とは、窒素を含んだ半導体のことであり、例えばGaN、InN、AlN、AlGaN、InGaN、AlInGaN等である。
【0018】
図1のように、シリコン基板10の上面に接して、AlN層12とAlGaN層14とからなるバッファ層16が形成されている。バッファ層16の上面は凹凸がなく、ほぼ平坦な面となっている。バッファ層16上に、第1のGaN層18と第2のGaN層20とからなるGaN層22が形成されている。第1のGaN層18に含まれる炭素(C)の濃度は、第2のGaN層20に含まれるCの濃度よりも高くなっている。第2のGaN層20に含まれるCの濃度は、例えば1.0×10
17Atoms/cm
3以下である。第1のGaN層18および第2のGaN層20に含まれるCの濃度は、例えばSIMS分析(二次イオン質量分析)により計測することができる。
【0019】
GaN層22の上面に接してAlGaN電子供給層24が形成されている。GaN層22とAlGaN電子供給層24との界面には2DEG(2次元電子ガス)が生じてチャネル層26が形成される。即ち、チャネル層26は、第2のGaN層20に形成される。AlGaN電子供給層24上にGaNキャップ層28が形成されている。GaNキャップ層28上には、オーミック電極としてのソース電極30とドレイン電極32とが形成されている。ソース電極30とドレイン電極32との間のGaNキャップ層28上にゲート電極34が形成されている。
【0020】
図2(a)から
図3(b)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面模式図の例である。
図2(a)のように、シリコン基板10を、例えばMOCVD(有機金属気相成長)炉に導入し、シリコン基板10上にAlN層12を成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス:NH
3(アンモニア)、TMA(トリメチルアルミニウム)
成長温度:1100℃
膜厚 :300nm
次いで、AlN層12上にAlGaN層14を成膜する。成膜条件は以下である。AlN層12とAlGaN層14とによりバッファ層16が形成される。
原料ガス :NH
3、TMA、TMG(トリメチルガリウム)
成長温度 :1100℃
Al組成比:50%
膜厚 :100nm
【0021】
図2(b)のように、バッファ層16上に第1のGaN層18を成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス :NH
3、TMG
成長温度 :1050℃
成長圧力 :100torr
成長速度 :1.0μm/hour
V/III比:2000
膜厚 :300nm
【0022】
図2(c)のように、第1のGaN層18上に第2のGaN層20を成膜する。成膜条件は以下である。第1のGaN層18と第2のGaN層20とによりGaN層22が形成される。
原料ガス :NH
3、TMG
成長温度 :1050℃
成長圧力 :100torr
成長速度 :1.0μm/hour
V/III比:10000
膜厚 :700nm
【0023】
第1のGaN層18のV/III比と第2のGaN層20のV/III比とを変更することは、NH
3ガスの流量を変更することで行う。つまり、第1のGaN層18を成膜する際のNH
3分圧を、第2のGaN層20を成膜する際のNH
3分圧よりも低くする。
【0024】
図3(a)のように、第2のGaN層20上にAlGaN電子供給層24を成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス :NH
3、TMA、TMG
Al組成比:20%
膜厚 :20nm
次いで、AlGaN電子供給層24上にGaNキャップ層28を成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス:NH
3、TMG
膜厚 :2nm
【0025】
図3(b)のように、GaNキャップ層28上に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、GaNキャップ層28側からTi(チタン)、Al(アルミニウム)が順次積層されたソース電極30およびドレイン電極32を形成する。その後、例えば500℃〜800℃でアニールを行い、AlGaN電子供給層24にオーミック接触するオーミック電極としてのソース電極30およびドレイン電極32を形成する。次いで、ソース電極30とドレイン電極32との間のGaNキャップ層28上に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、GaNキャップ層28側からNi(ニッケル)、Au(金)が順次積層されたゲート電極34を形成する。以上により、実施例1に係る半導体装置が完成する。
【0026】
次に、比較例1に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図4(a)から
図4(c)は、比較例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面模式図の例である。
図4(a)のように、シリコン基板40を、例えばMOCVD(有機金属気相成長)炉に導入し、シリコン基板40上にAlN層42を成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス:NH
3、TMA
成長温度:1100℃
膜厚 :300nm
次いで、AlN層42上にAlGaN層44を成膜する。成膜条件は以下である。AlN層42とAlGaN層44によりバッファ層46が形成される。
原料ガス :NH
3、TMA、TMG
成長温度 :1100℃
Al組成比:50%
膜厚 :100nm
【0027】
図4(b)のように、バッファ層46上にGaN層48を成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス :NH
3、TMG
成長温度 :1050℃
成長圧力 :100torr
成長速度 :1.0μm/hour
V/III比:10000
膜厚 :1000nm
【0028】
図4(c)のように、GaN層48上にAlGaN電子供給層50を成膜する。成膜条件は以下である。GaN層48とAlGaN電子供給層50との界面には2DEG(2次元電子ガス)が生じてチャネル層52が形成される。
原料ガス :NH
3、TMA、TMG
Al組成比:20%
膜厚 :20nm
次いで、AlGaN電子供給層50上にGaNキャップ層54を成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス:NH
3、TMG
膜厚 :2nm
次いで、GaNキャップ層54上に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、ソース電極56、ドレイン電極58、およびゲート電極60を形成する。以上により、比較例1に係る半導体装置が完成する。
【0029】
ここで、実施例1のGaN層22の結晶性を調査した。また、比較のために、比較例1のGaN層48の結晶性も調査した。結晶性の調査は、
図2(c)に示すようなGaN層22まで成膜したサンプルと
図4(b)に示すようなGaN層48まで成膜したサンプルとを用意し、それぞれのGaN層の(002)面および(102)面のX線解析におけるロッキングカーブの半値幅を調べることで行った。比較例1のGaN層48では、(002)面のロッキングカーブの半値幅は500secであり、(102)面のロッキングカーブの半値幅は900secであった。これに対し、実施例1のGaN層22では、(002)面のロッキングカーブの半値幅は500secであり、(102)面のロッキングカーブの半値幅は650secであった。このように、実施例1のGaN層22は、比較例1のGaN層48に比べてロッキングカーブの半値幅が小さくなり、結晶性が改善されたことが分かる。つまり、転位密度が減少したことが分かる。
【0030】
また、
図2(c)に示すようなGaN層22まで成膜したサンプルと
図4(b)に示すようなGaN層48まで成膜したサンプルとについてフォトルミネッセンス測定をすることで、実施例1のGaN層22と比較例1のGaN層48とのフォトルミネッセンス評価を行った。
図5は、実施例1のGaN層22についての発光スペクトルの測定結果である。
図6は、比較例1のGaN層48についての発光スペクトルの測定結果である。
図5および
図6の横軸は波長であり、縦軸は発光強度である。
【0031】
図5および
図6のように、比較例1のGaN層48ではバンド端発光強度が約10(任意強度)であるのに対し、実施例1のGaN層22ではバンド端発光強度が約25(任意強度)となり、比較例1に比べて約2.5倍のバンド端発光強度が得られた。なお、バンド端発光強度とは、360nm近傍における発光強度のことである。このことからも、実施例1のGaN層22は、転位密度が減少して結晶性が改善されたことが分かる。
【0032】
このように、実施例1のGaN層22は、比較例1のGaN層48に比べて、結晶性が改善された理由は次のように考えられる。比較例1のGaN層48は、V/III比を10000とした高V/III比条件で成膜を行っている。このような高V/III比条件でGaNを成膜する場合、GaNエピ自身の結晶性が悪くなり、ロッキングカーブの半値幅が大きく、バンド端発光強度が低くなってしまう。一方、実施例1のGaN層22は、まずV/III比を2000とした低V/III比条件で第1のGaN層18を成膜し、その後、高V/III比条件で第2のGaN層20を成膜している。これにより、実施例1のGaN層22は、比較例1のGaN層48に比べて、結晶性が改善されて、ロッキングカーブの半値幅が小さく、バンド端発光強度が大きい結果が得られたものと考えられる。
【0033】
また、
図5および
図6のように、500〜700nm帯でのブロードな発光(Yellow Band:YB)の強度は、実施例1および比較例1共に、約5(任意強度)程度であった。YB強度はGaN中のトラップに起因したものであることから、YB強度が大きいことはGaN中にトラップが多いことを意味し、電流コラプスの原因となるが、実施例1のGaN層22のトラップは、比較例1のGaN層48と同程度に少ないことが分かる。
【0034】
例えば、第1のGaN層18上に第2のGaN層20を設けず、第1のGaN層18のみでGaN層22を形成する場合を考える。この場合、GaN層22は結晶性が改善されることとなり、ロッキングカーブの半値幅は小さく、バンド端発光強度は大きい結果が得られる。しかしながら、第1のGaN層18は、低V/III比で成膜しているために、成膜に用いた原料ガスに含まれる炭素(C)をより多く取り込み、C濃度が高くなる。Cは、それ自身がトラップとして働く。このため、第1のGaN層18のみでGaN層22を形成した場合、GaN層22のYB強度は増大してしまう。また、低V/III比で成膜した第1のGaN層18では、表面にクラックやピットが発生し易いことから、GaN層22の上面にクラックやピットが生じてしまう。GaN層22上にはAlGaN電子供給層24を成膜するため、上面にクラックやピットが生じている状態は好ましくない。
【0035】
そこで、実施例1では、第1のGaN層18上に、V/III比を10000とした高V/III比条件で第2のGaN層20を成膜している。第2のGaN層20は高V/III比で成膜しているためC濃度が低い。このため、GaN層22全体のC濃度を低く抑えることができ、比較例1のGaN層48と同程度のYB強度とすることができる。また、第2のGaN層20は高V/III比で成膜していることから表面にクラックやピットが発生し難く、その結果、GaN層22の上面にクラックやピットが生じることを抑制できる。
【0036】
以上のように、実施例1によれば、シリコン基板10上に形成したバッファ層16上に、第1のGaN層18と第1のGaN層18の上面に接して第2のGaN層20とを成膜する際に、第1のGaN層18のV/III比を第2のGaN層20のV/III比よりも低くする。V/III比を下げてGaNを成膜する程、Cが取り込まれてC濃度が高くなることから、第1のGaN層18に含まれるCの濃度は、第2のGaN層20に含まれるCの濃度よりも高くなる。これにより、上述したように、第1のGaN層18と第2のGaN層20とからなるGaN層22は、ロッキングカーブの半値幅が小さく、バンド端発光強度が大きい結果となり、結晶性が改善される。また、第1のGaN層18の上面にC濃度がより低い第2のGaN層20を積層させることで、GaN層22全体のC濃度を低く抑えることができ、YB強度の増加が抑制され、トラップの少ないGaN層22が得られる。さらに、高V/III比で成膜された第2のGaN層20は表面にクラックやピットが発生し難いことから、GaN層22の上面にクラックやピットが生じることを抑制できる。このように、実施例1によれば、シリコン基板10上にバッファ層16を介して形成されるGaN層22の品質を高品質にすることができる。
【0037】
実施例1では、第1のGaN層18を成膜する際のV/III比を、第2のGaN層20を成膜する際のV/III比よりも低くするために、成膜に用いるNH
3ガスの分圧を、第1のGaN層18の成膜では、第2のGaN層20の成膜に比べて低くしているが、その他の方法によりV/III比を調整してもよい。例えば、MO(有機金属)原料の量を変更すること等で、V/III比を調整する場合でもよい。この場合、第1のGaN層18を成膜する際のMO原料の量を、第2のGaN層20を成膜する際のMO原料の量よりも増やすこととなる。
【0038】
第2のGaN層20に含まれるCの濃度は、1.0×10
17Atoms/cm
3以下である場合が好ましく、7.0×10
16Atoms/cm
3以下である場合がより好ましく、5.0×10
16Atoms/cm
3以下である場合がさらに好ましい。第2のGaN層20に含まれるCの濃度をこのような範囲内とすることで、GaN層22の上面にクラックやピットが発生することを抑制できると共に、YB強度の増加を抑制できる。
【0039】
第1のGaN層18の膜厚は、300nmの場合を例に示したがこれに限られない。しかしながら、第1のGaN層18の膜厚が厚くなりすぎると、第1のGaN層18上に第2のGaN層20を形成しても、第1のGaN層18の表面に生じたクラックやピットが埋まらずに、第2のGaN層20の表面にクラックやピットが生じる場合が起こり得る。つまり、GaN層22の上面にクラックやピットが生じる場合が起こり得る。したがって、第1のGaN層18の膜厚は、500nm以下の場合が好ましく、300nm以下の場合がより好ましく、200nm以下の場合がさらに好ましい。また、第1のGaN層18と第2のGaN層20との積層であるGaN層22の膜厚は、1000nmである場合を例に示したが、これに限られず、800nm〜1500nmの場合が好ましく、1000nm〜1300nmの場合がより好ましい。
【0040】
実施例1では、シリコン基板10と第1のGaN層18との間に設けられたバッファ層16は、シリコン基板10上に設けられたAlN層12と、AlN層12上に設けられたAlGaN層14と、からなる場合を例に示したが、これに限られず、バッファ層16はGaNよりも大きいバンドギャップを有していれば、その他の材料からなる場合でもよい。また、電子供給層は、AlGaNからなる場合を例に示したが、GaNよりも大きいバンドギャップを有していれば、その他の材料からなる場合でもよい。
【0041】
実施例1では、GaN層22の成膜にあたり、V/III比を1回変更することで、第1のGaN層18と第2のGaN層20とからなるGaN層22を形成しているが、この場合に限られるわけではない。例えば、V/III比を2回以上変更することで、3層以上からなるGaN層22を形成してもよい。この場合は、GaN層22を構成する複数層のうち、下層から上層に向かうに連れて、各層に含まれるC濃度は低くなっていくことになる。また、例えば、V/III比を徐々に高くしていくことで、GaN層22に含まれるC濃度を、バッファ層16側からAlGaN電子供給層24側に向かうに連れて徐々に減少させていく場合でもよい。
【0042】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。