特許第6024162号(P6024162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024162
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】電流検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/00 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
   G01R19/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-83934(P2012-83934)
(22)【出願日】2012年4月2日
(65)【公開番号】特開2013-213725(P2013-213725A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】工藤 高裕
(72)【発明者】
【氏名】栗原 晋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康弘
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−063218(JP,A)
【文献】 特開2002−168885(JP,A)
【文献】 特開昭57−072069(JP,A)
【文献】 特開2002−372554(JP,A)
【文献】 特開昭59−046859(JP,A)
【文献】 特開2000−162244(JP,A)
【文献】 特開2012−002723(JP,A)
【文献】 特開平03−191870(JP,A)
【文献】 特開2011−017618(JP,A)
【文献】 米国特許第04482862(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00−19/32
G01R 31/02−31/06
H01F 27/42
H01F 38/20−38/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定電流が流れる導線を囲む磁気コアに巻回した励磁コイルと、
測定した閾値に応じて、前記励磁コイルを飽和状態又はその近傍の状態で、前記励磁コイルに供給する励磁電流の極性を反転させる出力電圧を発生する発振手段と、
前記発振手段から出力される前記出力電圧のデューティ変化を検知する電流検知手段と、
前記発振手段から出力される前記出力電圧の周波数を検知する周波数検知手段と、
前記発振手段から出力される前記出力電圧の振幅を検知する振幅検知手段とを備え、
前記電流検知手段と前記周波数検知手段と前記振幅検知手段のそれぞれの出力をもとに、前記測定電流を検知することを特徴とする電流検知装置。
【請求項2】
前記電流検知手段は、前記出力電圧のデューティ変化を検知する低域通過フィルタで構成することを特徴とする請求項1に記載の電流検知装置。
【請求項3】
前記周波数検知手段は、前記出力電圧の周波数増加時にのみ前記出力電圧を通過させる高域通過フィルタで構成することを特徴とする請求項1に記載の電流検知装置。
【請求項4】
前記振幅検知手段は、前記出力電圧が入力される絶対値回路を備え、この絶対値回路の絶対値と閾値電圧を比較し、絶対値回路の出力が閾値電圧を下回ることにより前記出力電圧の振幅低下を検知することを特徴とする請求項1に記載の電流検知装置。
【請求項5】
前記電流検知手段と前記周波数検知手段と前記振幅検知手段のそれぞれの出力に接続された比較回路と、各比較回路からの出力を入力する論理和回路からなる出力判別回路を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電流検知装置。
【請求項6】
前記比較回路は、記憶素子の設定値に基づいて出力された電圧に応じて比較回路の基準電圧が設定されることを特徴とする請求項5に記載の電流検知装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏電検知等に用いる高透磁率材料の非線形な特性を利用する電流検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電流検知装置としては、種々の構成を有するものが提案され、実施されているが、構造的に簡単で微小電流の検知が可能なものとしてフラックスゲート型の電流センサが知られている(例えば、特許文献1参照)
この特許文献1に記載された従来例では、図10(a)に示す構成を有する。すなわち、軟質磁性体製の同形、等大に構成された円環状をなすコア101及び102と、各コア101及ぶ102に等しい回数巻回された励磁コイル103と、各コア101及び102にわたるように一括して巻回された検出コイル104とを備えている。
【0003】
励磁コイル103には、図示しない交流電源が接続されており、また、検出コイル104には図示しない検出回路が接続されている。そして、両コア101及び102の中心に電流を測定する対象物たる被測定導体105が挿通されている。
【0004】
励磁コイル103はこれに通電したとき両コア101及び102に生じる磁場が逆相であって互いに打ち消すようコア101及び102に巻回されている。
そして、励磁コイル103に励磁電流iexを通電したとき、各コア101及び102に生じる磁束密度Bの経時変化は、図10(b)に示すようになる。軟質磁性体製のコア101及び102の磁気特性は磁場の大きさHが所定の範囲内では磁場の大きさHと磁束密度Bとは直線的な関係にある。しかしながら、磁場の大きさHが所定値を超えると、磁束密度Bが変化しない磁気飽和の状態となる関係にあることから、励磁コイル103に励磁電流iexを通電すると、各コア101及び102に発生する磁束密度Bは実線図示のように上下対称の台形波状に変化し、しかも相互に180°位相がずれた状態となる。
【0005】
今、被測定導線105に矢印で示す如く下向きに直流電流値Iが通電しているものとすると、この直流分に相当する磁束密度が重畳される結果、磁束密度Bは図10(b)に破線で示す如く、台形波のうち、上方の台形波はその幅が拡大され、一方下方の台形波はその幅が縮小された状態となる。
【0006】
ここで、両コア101及び102に生じた磁束密度Bの変化を正弦波(起電力に対応)で表現すると図10(c)に示すようになる。この図10(c)では、前述した図10(b)で実線図示の台形波に対応して実線図示のように180°位相がずれた周波数fの正弦波(起電力)が表れるが、これらは180°ずれているため互いに打ち消し合う。一方、図10(b)で破線図示の台形波に対応して図10(c)には破線図示のような2倍の周波数2fの2次高調波が表れる。この2次高調波は位相が180°ずれているため、相互に重畳すると図10(c)の最下段に示すような正弦波信号となり、これが検出コイル104で検出される。
【0007】
この検出コイル104で捉えられた検出信号は被測定導線105を流れる直流の電流値Iに対応しており、これを処理することで電流値Iを検出することができる。
また、フラックスゲート型の他の電流センサとして、特許文献2に示された構成が知られている。図11は、特許文献2に示された電流センサの動作を説明するためのブロック図である。
【0008】
図において、感知される電流21は、ソフトフェライトのトロイダルコアを有する小型変成器からなる可飽和コア磁気検知素子24の一次巻線を通って流れる。この変成器の2次巻線は一端が電力スイッチ23に接続され、この電力スイッチ23は、電源22から2次巻線に供給される電圧の極性を交互に切り替える。また、2次巻線の他端は、検知装置25に接続されている。
【0009】
電力スイッチ23が正極性を有する電流を供給すると、可飽和コア磁気検知素子24の2次巻線に流れる電流によりコアを飽和させる。コアが飽和すると、検知装置25の両端の電圧が急激に上昇し、検知装置25から出力される制御信号27はヒステレシススイッチ26に供給される。制御信号27があるレベルに到達したとき電力スイッチ23を反転させることで、可飽和コア磁気検知素子24の2次巻線に流れる電流の極性を切り替える。
【0010】
これにより、可飽和コア磁気検知素子24には負極性の電流が供給され、コアの磁化は減少し、反対方向にコアが飽和される。すると、検知装置25の両端の電圧は、急速に負方向に上昇し、ヒステレシススイッチ26を介して電力スイッチ23は極性を切替え、2次巻線に供給されている電圧の極性を反転させる。このように、このシステムは、安定して周期的パターンで動作を繰り返す。
【0011】
感知される電流21に比例する出力を得るために、ローパスフィルタ28が電力スイッチ23の出力に接続されて、混在する磁化電流成分の大部分を除去する。このローパスフィルタ28の出力線29における信号は感知される電流21に含まれる直流成分を含む非常に低い周波数成分である。感知される電流21の高周波成分は変成器31の2次巻線に誘起されるので、変成器31の出力信号32は、出力線29における信号を電力増幅器30で増幅した直流成分を含む非常に低い周波数成分と高周波成分を含んでいる。これにより、広い周波数帯域にわたって電流の測定ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】

【特許文献1】特開2000−162244号公報
【特許文献2】特許第2923307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1に記載された電流センサは、2つのコア101及び102を使用するため、実際にはコア101及び102の磁気特性を完全に一致させることは困難であり、磁気特性の違いにより励磁電流iexによる電圧が完全に打ち消されることなく発生してしまう。これが2次高調波成分に対応した検出電圧のS/N比を悪化させ、微小電流の検知が難しいという課題がある。
【0014】
また、少なくとも2つのコアを使用するので、小型化や低コスト化を実現し難いという課題もある。
さらに、コア101,102を飽和領域まで励磁する必要があるので、大きな励磁電流が必要となり、センサの消費電流が大きいという課題がある。
【0015】
また、特許文献2に記載された電流センサは、直流成分を含む非常に低い周波数成分の大電流を測定した場合、可飽和コア磁気検知素子24が可飽和する前に電力スイッチ23が切り替わってしまうので、ローパスフィルタ28の出力線29における信号はゼロに近づく。このために、特許文献2の電流センサでは、微小電流から大電流までの広い電流範囲の測定ができないという課題があった。さらに、少なくとも2つの変成器を使用するので、小型化や低コスト化を図ることが難しいという課題があった。
【0016】
そこで、本発明は、周囲環境条件により影響を受けることが少なく、小型、低コストで、微小電流から大電流までの広い電流範囲の検知を行うことができる電流検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を達成するために、本発明によれば、測定電流が流れる導線を囲む磁気コアに巻回した励磁コイルと、測定した閾値に応じて、前記励磁コイルを飽和状態又はその近傍の状態で、前記励磁コイルに供給する励磁電流の極性を反転させる出力電圧を発生する発振手段と、前記発振手段から出力される前記出力電圧のデューティ変化を検知する電流検知手段と、前記発振手段から出力される前記出力電圧の周波数を検知する周波数検知手段と、前記発振手段から出力される前記出力電圧の振幅を検知する振幅検知手段とを備え、前記電流検知手段と前記周波数検知手段と前記振幅検知手段のそれぞれの出力をもとに、前記測定電流を検知するようにする。
【0018】
また、上記電流検知装置において、前記電流検知手段は、前記出力電圧のデューティ変化を検知する低域通過フィルタで構成することができる。また、前記周波数検知手段は、前記
出力電圧の周波数増加時にのみ前記出力電圧を通過させる高域通過フィルタで構成することができる。さらに、前記振幅検知手段は、前記出力電圧が入力される絶対値回路を備え、この絶対値回路の絶対値と閾値電圧を比較し、絶対値回路の出力が閾値電圧を下回ることにより前記出力電圧の振幅低下を検知することができる。
【0019】
また、前記電流検知手段と前記周波数検知手段と前記振幅検知手段のそれぞれの出力に接続された比較回路と、各比較回路からの出力を入力する論理和回路からなる出力判別回路を備えるようにしてもよい。さらに前記比較回路は、記憶素子の設定値に基づいて出力された電圧に応じて比較回路の基準電圧を設定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、微小電流から大電流までの検知を1つの磁気コアで実現できるので、より広範囲な電流監視等が可能な電流検知装置を小型化、低コストで提供できる。
更に、磁気センサや集磁コア等を使用する必要がないので、堅牢で、周囲環境条件により影響を受けることが少ない高信頼性な電流検知装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一の実施形態を示す電流検知装置の構成図
図2】本発明の電流検知装置の一例を示す回路構成図
図3図1の発振回路の一例を示す回路図
図4】発振回路の出力電圧波形と励磁コイルの励磁電流波形を示す模式図
図5】磁気コアの磁界の強さと磁束密度の関係を示す特性線図及び磁気コアのインダクタンス特性を示す特性線図
図6】本発明の各検出回路の出力電圧波形を示す模式図であり、(a)は電流検出回路の出力波形図、(b)は周波数検出回路の出力波形図、(c)は振幅検出回路の出力波形図
図7図2の比較回路の一例を示す回路構成図
図8図2の比較回路の一実施例を示す回路構成図
図9図2の比較回路の他の実施例を示す回路構成図
図10】従来例を示す説明図であり、(a)はセンサ部の構成図、(b)は励磁コイルに励磁電流を通電したときの各磁気コアの磁束密度を示す図、(c)は各磁気コアの磁束密度を正弦波で表現した図
図11】他の従来例の電流センサの動作を説明するためのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図1図6に基づいて説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態を示す電流検知装置の構成図、図2は、本発明の電流検知装置の一例を示す回路構成図、図3は、図1の発振回路の一例を示す回路図、図4は、発振回路の出力電圧波形と励磁コイルの励磁電流波形を示す模式図、図5は磁気コアの磁界の強さと磁束密度の関係を示す特性線図及び磁気コアのインダクタンス特性を示す特性線図、図6は本発明の各検出回路の出力電圧波形を示す模式図である。
【0023】
図において、1は電流検知装置であって、例えば、漏電検知等の対象物に設けられた例えば10A〜800Aの往復の電流Iが流れる導線2a,2bの微小な差異電流を検知する。ここで、健全状態では導線2a,2bに流れる電流の和はゼロであるが、漏電や地絡などで導線2a,2bに流れる電流の和がゼロにならず、検出対象とする例えば15mA〜500mA程度の微小な差異電流が流れる。これら導線2a,2bの回りに例えば、ナノ結晶軟質磁性材料からなるリング状の磁気コア3が配設されている。つまり、磁気コア3内に導線2a,2bが挿通されている。
【0024】
磁気コア3には、励磁コイル4が所定巻数で巻回されており、この励磁コイル4に発振手段としての発振回路5が接続されており、発振回路5から励磁電流が供給される。
また、発振回路5には、デューティ比を検出する電流検知手段としての電流検出回路6と、周波数検知手段としての周波数検出回路7と、振幅検知手段としての振幅検出回路8が接続されている。そして、3つの検出回路には出力判別回路9が接続されている。
【0025】
図2に示すように、電流検出回路6は、低域通過フィルタ61と絶対値回路62から構成することができ、発振回路5の出力パルスのデューティ変化を検知することができる。また、周波数検出回路7は、高域通過フィルタ71と絶対値回路72とから構成することができ、発振回路5の出力パルスの周波数増加を検知することができる。更に、振幅検出回路8は、絶対値回路81を備えており、絶対値回路81の絶対値と閾値電圧を比較し、絶対値回路の出力が閾値電圧を下回ることにより、発振回路5の出力パルスの振幅低下を検知することができる。
【0026】
また、出力判別回路9は、3つの検出回路6、7、8の出力にそれぞれ接続された比較回路91、92、93と、この3つの比較回路91、92、93の出力が入力される論理和回路94から構成することができる。
【0027】
発振回路5は、図3に示すように、コンパレータとして動作するオペアンプ11を備えている。このオペアンプ11の出力側と反転入力側との間に励磁コイル4が接続されている。また、オペアンプ11の反転入力側は抵抗12を介してグランドに接続され、オペアンプ11の非反転入力側は、オペアンプ11の出力側及びグランド間に直列に接続された分圧抵抗13及び14間に接続されている。
【0028】
そして、オペアンプ11の出力側及びグランドが出力端子to1及びto2に接続されている。
このため、発振回路5では、分圧抵抗13及び14の接続点Eの閾値電圧Vthがオペアンプ11の非反転入力側に供給されており、この閾値電圧Vthと励磁コイル4及び抵抗12との接続点Dの電圧Vdとが比較される。そして発振回路5の出力電圧Aが図4(a)に示す矩形波として出力側から出力される。
【0029】
今、図4(a)に示すように、時点t1で、オペアンプ11の出力側の出力電圧Aがハイレベルになると、これが励磁コイル4に印加される。このため、励磁コイル4を出力電圧Aと抵抗12の抵抗値R12とに応じた励磁電流Ibで励磁する。このとき、励磁電流Ibは、図4(b)に示すように、出力電圧Aの立ち上がり時点t1から比較的急峻に立ち上がり、その後、緩やかに増加する放物線状に増加する。
【0030】
このとき、オペアンプ11の非反転入力側に出力電圧Aを分圧抵抗13及び14の接続点Eで得られる分圧抵抗13及び14の抵抗値R13及びR14で分圧された比較的大きな閾値電圧Vthが入力されている。一方、オペアンプ11の反転入力側の励磁コイル4及び抵抗12の接続点Dの電圧Vdは、励磁コイル4の励磁電流Ibの増加に応じて増加し、この電圧Vdが時点t2で非反転入力側の閾値電圧Vth、すなわち図4(b)の+Ith1を上回ると、オペアンプ11の出力電圧Aが図4(a)に示すように、ローレベルに反転する。これに応じて励磁コイル4を流れる励磁電流Ibの極性が反転し、励磁電流Ibは最初は急峻に低下し、その後、緩やかに低下する放物線状に減少する。
【0031】
このとき、閾値電圧Vthは、ローレベルとなっていることにより、閾値電圧Vthも低い電圧となっている。そして、オペアンプ11の反転入力側の励磁コイル4及び抵抗12の接続点Dの電圧Vdが、励磁コイル4の励磁電流Ibの減少に応じて減少し、この電圧Vdが時点t3で非反転入力側の閾値電圧Vth、すなわち図4(b)の−Ith1を下回ると、オペアンプ11の出力電圧Aが図4(a)に示すように、時点t1と同様にハイレベルに反転し、再び励磁電流Ibが上昇し続ける。
【0032】
このため、出力電圧Aは、図4(a)に示すように、ハイレベル及びローレベルを繰り返す矩形波電圧となり、発振回路5が非安定マルチバイブレータとして動作する。そして、励磁コイル4の励磁電流Ibは、図4(b)に示すように増加及び減少を繰り返す鋸歯状波電流となる。
【0033】
ところで、磁気コア3は、図5(a)に示すように角型比の大きな磁束密度Bと磁界の強さHとの関係を表すB−H特性を有し、高透磁率材料の非線型な特性を有する。このB−H特性を有する磁気コア3のインダクタンスは、導線2a,2bの差電流が零であるときに、図5(b)に示すように飽和電流付近Gで急激に消失する。磁気コア3を貫通する導線2a,2bに任意の検出対象となる微小な差電流Cが生じると、図5(b)のインダクタンス特性は、破線図示のように差電流Cに応じてインダクタンスが消失するタイミングが変化する。
【0034】
このため、電流が零のときにインダクタンスが飽和する電流(図5(b)のG)と励磁電流Ibの極性が切り換わる電流(図4(b)のF)とを一致させる。そうすると、インダクタンスが飽和する電流(図5(b)のJ)が導線2a,2bの差電流の電流値Cに応じて変化するので、励磁電流Ibの極性が切り換わる電流(図4(b)のH)も同様に変化することになる。
【0035】
この励磁電流Ibの極性が切り換わる電流値が変化することにより、励磁コイル4と抵抗12との接続点Dの電圧Vdが閾値電圧Vthを上回るタイミングが遅れることになり、オペアンプ11から出力される出力電圧Aの立ち下がり時点が導線2a,2bの差電流の電流値Cに応じて図4(a)で破線図示のように遅れる。このため、出力電圧Aの矩形波電圧のデューティ比が導線2a,2bの差電流の電流値Cに応じて変化する。
【0036】
したがって、発振回路5の出力端子to1及びto2にデューティ比を検出する電流検知手段としての電流検出回路6を接続し、この電流検出回路6で、出力電圧Aのハイレベル状態を維持している時間とローレベル状態を維持している時間とを計測することにより、デューティ比を検出することができ、数アンペア以下の小電流を検知することができる。なお、小電流とは、図6(a)において、電流検出回路6の出力が線形に推移する電流を示す。
【0037】
本実施例では、電流検出回路6は、図2に示すように、低域通過フィルタ61と絶対値回路62から構成することができる。
次に、数アンペア以上の大電流検知について、図1図6を用いて説明する。ここで、大電流とは図6(a)において、電流検出回路6の出力が飽和し始める電流よりも大きい電流を示す。
【0038】
図1において、本実施形態では、発振回路5に周波数検知手段としての周波数検出回路7と振幅検知手段としての振幅検出回路8を接続し、図3に示す発振回路5の出力端子to1、to2から出力される出力電圧Aを、周波数検出回路7と振幅検出回路8にも供給するようにしている。
【0039】
周波数検出回路7は、図2に示すように、高域通過フィルタ71と絶対値回路72から構成することができ、発振回路5の出力パルスの周波数増加を検知するものである。
また、振幅検出回路8は、絶対値回路81を備えており、絶対値回路81の絶対値と閾値電圧を比較し、絶対値回路の出力が閾値電圧を下回ることにより、発振回路5の出力パルスの振幅低下を検知するものである。
【0040】
ここで、電流検出回路6と、周波数検出回路7と、振幅検出回路8の出力電圧を図6に基づいて説明する。図6は、本発明の各検出回路の出力電圧波形を示す模式図であり、(a)は電流検出回路の出力波形図、(b)は周波数検出回路の出力波形図、(c)は振幅検出回路の出力波形図である。
【0041】
図において、電流検出回路6の出力電圧は、図6(a)に示すように、最初線形に推移するが、電流の増加とともに一旦飽和し、その後、減少を続け、最終的にゼロとなる。これは測定電流の大きさに比例して図4(b)の励磁電流Ibも大きくなることで、コアが十分飽和する前に閾値電圧(+Ith1、−Ith1)に達してしまうためである。
【0042】
これにより、発振回路5の出力電圧Aの周波数も急激に増加し、最終的には発振は停止する。
また、周波数検出回路7の出力電圧は、図6(b)に示すように、電流検出回路6の出力が飽和し始めると同時に急激に増加し始め、ある電流でゼロ出力となる。
【0043】
更に、振幅検出回路7の出力電圧は、測定電流の増加に伴い発振回路5の出力周波数が増加すると、オペアンプ11のスルーレートの制約により出力振幅が低下するため、図6(c)に示すような出力波形となる。
【0044】
そこで、この3つの検出回路6〜8の出力をもとに、表1に示すように検知を行うことで、微小電流から大電流までの電流検知が可能になる。表1は測定電流と3つの検出回路との関係を表したものである。
【0045】
【表1】

表1において、測定電流が図6(a)に示すように、ある電流値I1、−I1を超えないXの領域にあるときは、電流検出回路6で出力電圧の大きさを検知する。
【0046】
また、測定電流が図6(b)に示すように、ある電流値I1、−I1より大きい領域Yでは、周波数検出回路7で出力電圧がある値、すなわちある電流値I1、−I1に対応した電圧V1よりも大きいことを検知することで、I1、−I1より大きい電流値を検知できる。さらに、測定電流が図6(c)に示すように、電流値I1、−I1よりもさらに大きいある電流値I2、−I2より大きい領域Zでは、振幅検出回路8で出力電圧がある値、すなわち電流値I2、−I2に対応した電圧V2よりも小さいことを検知することで、I2、−I2より大きい電流値を検知できる。
【0047】
このように、図6のX、Y、Zの領域に応じて、電流検出回路6、周波数検出回路7、振幅検出回路8の出力電圧を検知することで、小電流から大電流まで電流検知を行うことができる。
【0048】
すなわち、測定電流がXの領域であるときは、電流検出回路6で発振回路5の出力パルスのデューティ変化を検出することで、微小電流を検出する。また、測定電流がYの領域であるときは、周波数検出回路7で発振周波数を検出し、発振回路5の出力パルスの周波数増加を検知することで、I1、−I1より大きい電流値を検出する。さらに、測定電流がZの領域であるときは、振幅検出回路8で発振回路5の出力パルスの振幅低下を検知することで、I2より大きい電流値を検知する。
【0049】
また、表1に示す電流検知を行うには、図2に示す簡単な回路で構成することができる。
図2において、電流検出回路6は、発振回路5の出力パルスのデューティ変化を検出する必要があるが、本実施形態では、低域通過フィルタ61と絶対値回路62から構成することができる。また、周波数検出回路7は、発振回路5の出力パルスの周波数増加を検知する必要があるが、高域通過フィルタ71と絶対値回路72とから構成することができる。更に、振幅検出回路8は、発振回路5の出力パルスの振幅低下を検知する必要があるが、絶対値回路81を備え、絶対値回路81の絶対値と閾値電圧を比較し、絶対値回路の出力が閾値電圧を下回ることにより、発振回路5の出力パルスの振幅低下を検知することができる。
【0050】
この3つの検出回路6、7、8の出力をもとにA/Dコンバータやマイコン等を用いて電流検知を行うことができるが、図2に示す出力判別回路9を用いることで、より簡単な構成で出力判定を行うことができる。
【0051】
また、出力判別回路9は、3つの検出回路6、7、8の出力にそれぞれ接続された比較回路91、92、93と、この3つの比較回路91、92、93の出力が入力される論理和回路94から構成することができる。
【0052】
図において、発振回路5の出力電圧Aは、電流検出回路6の低域通過フィルタ61を介して絶対値回路62に入力されており、低域通過フィルタ61の出力の絶対値を比較回路91の基準電圧と比較する。そして、絶対値回路91の出力が基準電圧を超えたときに比較回路91の出力がハイレベルとなる。
【0053】
また、発振回路5の出力電圧Aは、周波数検出回路7の高域通過フィルタ71を介して絶対値回路72に入力されており、高域通過フィルタ71の出力の絶対値を比較回路92のI1に対応する電圧V1と比較する。発振回路5の出力パルスの周波数が高くなると、高域通過フィルタ71の出力が増大し、絶対値回路92の出力がV1を超えたときに比較回路92の出力がハイレベルとなる。
【0054】
更に、発振回路5の出力電圧Aは、振幅検出回路8の絶対値回路81に入力されており、この絶対値回路81の絶対値を比較回路93のI2に対応する電圧V2と比較する。そして、絶対値回路81の出力がV2を下回ったとき、比較回路93の出力がハイレベルとなる。
【0055】
そして、3つの比較回路91〜93からの出力を論理和回路94の論理和出力としている。
このように本実施形態によれば、3つの検出回路6〜8の出力電圧が測定電流に応じて図6に示すように変化した場合、測定電流に応じて、比較回路91〜93は、上記したように、各検出回路毎に設定した閾値電圧と比較して出力電圧を発生するので、論理和回路94で出力和をとることで、微小電流から大電流までの広い電流範囲の検知を行うことができる。
【0056】
なお、上記実施形態においては、2本の導線2a及び2bの差電流を検知する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、1本の導線に流れる電流を検出することもできる。
【0057】
次に、出力判別回路9の比較回路の構成例を図7乃至図9を用いて説明する。
図7は、図2に示す比較回路の一般的な回路構成図であり、図8図2に示す比較回路の一実施例を示す回路構成図である。なお、図7及び図8では、図2に示す比較回路91に適用した例について説明する。
【0058】
図7において、比較回路91Aは、比較器900と、電源901と、電源901に接続された可変抵抗器902とから構成されている。また、絶対値回路62の出力が比較器900の非反転入力側に接続されており、比較器900の出力が論理和回路94に入力されている。
この比較回路91Aでは、電源901と可変抵抗器902により基準電圧を設定する。そして、絶対値回路62の出力が基準電圧よりも大きい場合に、比較器900は論理和回路94にハイレベルの電圧を出力する。
【0059】
なお、図7では、図2に示す比較回路91について説明したが、比較回路92、93についても基本的な回路構成は同様である。
図7に示す比較回路91Aは、電流定格等に応じて基準電圧の調整が必要であるが、手動で可変抵抗902を調整する必要がある。特に、本実施形態では出力判別回路9に3つの比較回路を用いているために、3つの比較回路をそれぞれ設定する必要があり、調整するためのコストや人が調整することによる精度の低下が課題となっている。
【0060】
そこで、この課題を解決するために、図8に示す比較回路91Bを用いることができる。図8において、比較回路91Bは、比較器900と、DAコンバータ905に接続された抵抗906及び抵抗907と、DAコンバータ905の出力電圧を設定する記憶素子であるメモリー904およびCPU903とから構成されている。そして、比較器900の反転入力側が抵抗906と抵抗907との間に接続されている。また、絶対値回路62の出力が比較器900の非反転入力側に接続されており、比較器900の出力が論理和回路94に入力されている。
【0061】
なお、図8では、図2に示す比較回路91について説明したが、比較回路92、93についても基本的な回路構成は同様である。
図8に示す比較回路91Bでは、基板毎にメモリー904に設定された値をCPU903で読み込み、その設定に基づいてDAコンバータ905から電圧を出力し、その電圧を抵抗906と抵抗907で分圧することで基準電圧を設定する。そして、絶対値回路62の出力が基準電圧よりも大きい場合に、比較器900は論理和回路94にハイレベルの電圧を出力する。
【0062】
このように図8に示す比較回路を用いることにより、手動での調整が不要となり、自動的に比較回路の基準電圧を設定することが可能であり、低コスト化、高精度化を実現することができる。
【0063】
なお、図8に示す実施形態では、3つの比較回路それぞれにメモリー904およびCPU903、DAコンバータ905を備えるようにしたが、図9に示すように、一つのメモリー904、CPU903、DAコンバータ905で3つ比較回路の比較器の基準電圧を一度に設定するようにしてもよい。
【0064】
図9は、図2に示す比較回路の他の実施例を示す回路構成図であり、図2に示す比較回路91として比較回路91Cを用いたものである。なお、図9において、図8の実施形態と同一部品には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0065】
図9に示す比較回路91Cは、比較器900と、抵抗906及び抵抗907とから構成されており、比較器900の反転入力側が抵抗906と抵抗907との間に接続されている。なお、図2に示す比較回路92、93についても基本的な回路構成は、図9に示す比較回路91Cと同様である。
【0066】
そして、本実施形態では、共通のメモリー904、CPU903、DAコンバータ905を備えており、共通のDAコンバータ905の出力を各比較回路91Cのそれぞれの抵抗906及び抵抗907に直列に接続するように構成している。このような構成により、一つのメモリー904、CPU903、DAコンバータ905で、3つ比較回路の比較器の基準電圧を一度に設定することができる。
【0067】
なお、一つのメモリー904、CPU903と、3つの比較回路それぞれにDAコンバータを備えることで、3つ比較回路の比較器の基準電圧を一度に設定するようにしてもよく、一つのメモリー904と、3つの比較回路それぞれにCPU903、DAコンバータを備えることで、3つ比較回路の比較器の基準電圧を一度に設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 電流検知装置
2a 導線
2b 導線
3 磁気コア
4 励磁コイル
5 発振回路
6 電流検出回路
7 周波数検出回路
8 振幅検出回路
9 出力判別回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11