(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024192
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】脱硫処理後の溶銑の復硫防止方法
(51)【国際特許分類】
C21C 1/02 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
C21C1/02 103
C21C1/02 108
C21C1/02 109
C21C1/02 107
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-111081(P2012-111081)
(22)【出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2013-237892(P2013-237892A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年2月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 由枝
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐司
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−008110(JP,A)
【文献】
特開2000−319716(JP,A)
【文献】
特開2002−327208(JP,A)
【文献】
特開平04−235210(JP,A)
【文献】
特開2002−105519(JP,A)
【文献】
特開平05−140626(JP,A)
【文献】
特開平01−309913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO系脱硫剤と処理容器内の溶銑とを攪拌し、CaO系脱硫剤と溶銑中の硫黄とを反応させ、溶銑中の硫黄をCaO系脱硫剤からなる脱硫スラグに取り込んで溶銑中の硫黄含有量を低減させる脱硫処理を溶銑に施し、その後、当該溶銑に0.010Nm3/(min・溶銑−ton)以上0.050Nm3/(min・溶銑−ton)以下の不活性ガスを吹き込んで溶銑を攪拌し、溶銑中に懸濁する脱硫スラグ或いは処理容器内壁に付着する脱硫スラグを溶銑浴面に浮上させ、浮上させた脱硫スラグを処理容器から排出し、その後、処理容器内の溶銑を次工程に搬送することを特徴とする、脱硫処理後の溶銑の復硫防止方法。
【請求項2】
CaO系脱硫剤と処理容器内の溶銑とを攪拌し、CaO系脱硫剤と溶銑中の硫黄とを反応させ、溶銑中の硫黄をCaO系脱硫剤からなる脱硫スラグに取り込んで溶銑中の硫黄含有量を低減させる脱硫処理を溶銑に施した後、CaO系脱硫剤と溶銑中の硫黄とが反応して生成した脱硫スラグを前記処理容器から排出し、その後、当該溶銑に0.010Nm3/(min・溶銑−ton)以上の不活性ガスを吹き込んで溶銑を攪拌し、溶銑中に懸濁する脱硫スラグ或いは処理容器内壁に付着する脱硫スラグを溶銑浴面に浮上させ、浮上させた脱硫スラグを処理容器から排出し、その後、処理容器内の溶銑を次工程に搬送することを特徴とする、脱硫処理後の溶銑の復硫防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫処理を施した溶銑に対して次工程の脱炭精錬などを行って溶銑から溶鋼を溶製する工程において、溶銑の脱硫処理時に生成し、脱硫処理後に溶銑中に懸濁するなどして処理容器内に残留する脱硫スラグに起因する復硫を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材の高純度化や高機能化のニーズ増大により、極低硫及び/または極低燐の鋼種の比率が高まっている。このような環境下、製鋼工程では、コスト上昇やスラグ発生量の増加を招くことなく、極低硫及び/または極低燐の鋼種を溶製する技術が必要となっている。
【0003】
低硫鋼や極低硫鋼を溶製する場合、溶銑段階で脱硫処理が行われ、この脱硫処理後には脱硫処理によって生成した、硫黄含有量の高い脱硫スラグが処理容器から排出され、その後、処理容器内の溶銑は、次工程の脱燐処理や脱炭精錬に供される。この場合、脱硫スラグは処理容器から排出されるが、溶銑中に懸濁している微細な脱硫スラグは次工程に持ち越され、また、処理容器の側壁に付着した脱硫スラグも次工程に持ち越される場合がある。次工程に持ち越された脱硫スラグに含有される硫黄は、脱硫処理が還元精錬であるのに対して次工程の脱燐処理及び脱炭精錬は酸化精錬であることから、酸化されて溶銑或いは溶鋼に戻り、溶銑或いは溶鋼の硫黄濃度が上昇する、所謂「復硫」が発生する。
【0004】
復硫によって溶銑或いは溶鋼の硫黄濃度が高くなり、硫黄の成分規格を満足できない場合には、転炉での脱炭精錬後の二次精錬で溶鋼中の硫黄を除去することが必要となる。二次精錬として行う溶鋼脱硫精錬は溶銑の脱硫処理に比較して高価であるのみならず、予定していなかった溶鋼脱硫精錬を行う必要が生じた場合は当然のこととして、本来、溶鋼脱硫精錬を行う前提の場合にも、溶鋼中硫黄濃度が高くなると、増加した分の硫黄を除去するために相当する分の精錬時間を延長する必要が生じ、生産性が低下する。
【0005】
即ち、低硫鋼や極低硫鋼を安定して溶製しようとする場合には、脱硫処理後の溶銑の復硫を防止し、溶銑の硫黄濃度を溶銑脱硫処理終了時の値に維持することが極めて重要となる。
【0006】
従来、溶銑の脱硫処理は、CaO系脱硫剤を溶銑中にインジェクションする方法や、機械攪拌式脱硫装置を用いてCaO系脱硫剤と溶銑とを攪拌・混合する方法、或いは、金属Mg系脱硫剤を溶銑中にインジェクションする方法などが一般的である。
【0007】
これらの脱硫処理においては、脱硫剤の反応効率を向上させるために、インジェクション或いは機械攪拌によって脱硫剤を溶銑中に分散させている。分散状態が良好な場合には、脱硫反応は効率的に行われるが、分散状態が良好な場合ほど、微細な脱硫剤が溶銑中に懸濁することになり、分散した脱硫剤の粒径が小さい場合には溶銑から浮上し難い状態になる。脱硫処理後に溶銑を長時間に亘って静置すれば、溶銑中に懸濁した微細な脱硫剤を溶銑浴面に浮上させて処理容器から除去することができるが、長時間の静置は生産性の低下及び溶銑温度の低下を招くことから、このような処置は工程的には行われない。
【0008】
溶鋼中に懸濁する非金属介在物の浮上を促進するために溶鋼に攪拌用ガスを吹き込む手法は広く行われている。溶銑の脱硫処理において攪拌用ガスを利用する方法も提案されており、例えば特許文献1には、Mg−CaO−CaF
2混合物80〜90質量%にAl
2O
3を10〜20質量%添加した脱硫剤を用い、該脱硫剤を搬送用ガスとともに溶銑中にインジェクションするか、若しくは上置き添加後或いは上置き添加するとともに、溶銑中への気体吹き込みによるバブリング撹拌を行って溶銑を脱硫処理することが提案されている。また、特許文献2には、溶銑中にインジェクションランスを介して脱硫剤を吹き込むとともに、溶銑浴面から1m以内の深さに浸漬したランスから攪拌用ガスを吹き込んでスラグと溶銑との界面近傍を強攪拌して溶銑を脱硫することが提案されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1における攪拌用ガスの吹き込みは、溶銑中に吹き込まれた脱硫剤の浮上過程における反応界面積を増加させること目的としており、また、特許文献2における攪拌用ガスの吹き込みは、溶銑上に浮上した脱硫剤と溶銑とを攪拌することを目的としている。
【0010】
即ち、従来、脱硫処理後に溶銑中に懸濁している微細な脱硫剤の浮上分離を促進させ、脱硫処理後の溶銑の復硫を防止するという技術は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−269519号公報
【特許文献2】特開平4−235210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、脱硫処理を施した溶銑に対して次工程の脱炭精錬などを行って溶銑から溶鋼を溶製する工程において、溶銑の脱硫処理時に生成し、溶銑中に懸濁している微細な脱硫スラグ或いは処理容器の側壁に付着した脱硫スラグに起因する復硫を防止する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]CaO系脱硫剤と処理容器内の溶銑とを攪拌し、CaO系脱硫剤と溶銑中の硫黄とを反応させ、溶銑中の硫黄をCaO系脱硫剤からなる脱硫スラグに取り込んで溶銑中の硫黄含有量を低減させる脱硫処理を溶銑に施し、その後、当該溶銑に0.010Nm
3/(min・溶銑-ton)以上の不活性ガスを吹き込んで溶銑を攪拌し、溶銑中に懸濁する脱硫スラグ或いは処理容器内壁に付着する脱硫スラグを溶銑浴面に浮上させ、浮上させた脱硫スラグを処理容器から排出し、その後、処理容器内の溶銑を次工程に搬送することを特徴とする、脱硫処理後の溶銑の復硫防止方法。
[2]溶銑に脱硫処理を施した後、CaO系脱硫剤と溶銑中の硫黄とが反応して生成した脱硫スラグを前記処理容器から排出し、その後、溶銑に前記不活性ガスを吹き込むことを特徴とする、上記[1]に記載の脱硫処理後の溶銑の復硫防止方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱硫処理を施した溶銑に対して次工程の脱燐処理や脱炭精錬を行って溶銑から溶鋼を溶製する工程において、溶銑の脱硫処理時に生成し、脱硫処理後に溶銑中に懸濁するなどして処理容器内に残留する脱硫スラグを不活性ガス攪拌によって強制的に浮上させ、浮上させた脱硫スラグを処理容器から排出し、その後、溶銑を次工程の脱燐処理や脱炭精錬に供するので、脱燐処理や脱炭精錬を実施する際には復硫の原因となる脱硫スラグの大半が除去されており、脱燐処理や脱炭精錬における復硫を低減することが実現される。これによって、溶鋼段階で二次精錬としての脱硫精錬を施さなくても極低硫鋼の溶製が可能となり、従来に比較して大幅に製造コストの削減並びに生産性の向上が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】不活性ガス吹き込み流量と復硫量との関係の調査結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
CaO系脱硫剤を用いた溶銑の脱硫処理では、反応界面積を高めるために、処理容器内でCaO系脱硫剤と溶銑とを攪拌し、CaO系脱硫剤を溶銑中に分散させる。溶銑中の硫黄は、溶銑中に分散したCaO系脱硫剤と、「CaO+S→CaS+O」の反応式にそって反応し、CaSを含有する、硫黄濃度の高い脱硫スラグが生成する。この脱硫スラグは、脱硫処理終了時には溶銑浴面上に浮上し、溶銑浴面は脱硫スラグで覆われる。この脱硫スラグは、脱硫処理後にスラグ掻き出し機などによって処理容器から排出され(「脱硫スラグ排滓工程」と呼ぶ)、この脱硫スラグ排滓工程後に、処理容器内の溶銑は次工程の脱燐処理工程や脱炭精錬工程に搬送される。
【0018】
但し、脱硫スラグの溶銑中における浮上速度は、ストークスの法則に則って脱硫スラグの粒径に比例することから、溶銑中に懸濁する微細な脱硫スラグの浮上速度は遅く、微細な脱硫スラグは溶銑中に懸濁した状態のまま脱硫処理が終了する。また、処理容器内壁に付着した脱硫スラグも浮上しにくく、処理容器内壁に付着した脱硫スラグも脱硫処理終了時にはそのまま残留する。溶銑中に懸濁した微細な脱硫スラグ及び処理容器内壁に付着した脱硫スラグの大半は、上記の脱硫スラグ排滓工程には、処理容器から排出されず処理容器内に残留する。
【0019】
次工程の脱燐工程や脱炭精錬は酸化精錬であるので、脱硫スラグ排滓工程には処理容器から排出されず処理容器内に残留した脱硫スラグが、脱燐処理工程や脱炭精錬工程に持ち越されると、脱硫スラグ中のCaSが酸化されてCaOが生成し、CaSから解離した硫黄(S)が溶銑或いは溶鋼に移行し、溶銑或いは溶鋼の硫黄濃度が上昇する復硫が発生する。
【0020】
本発明は、この復硫を防止するためになされたもので、本発明では、脱硫処理後、次工程の脱燐処理及び脱炭精錬の酸化精錬工程の前までに、脱硫処理を行った処理容器に収容された溶銑に不活性ガスを吹き込んで溶銑を攪拌し、溶銑中に懸濁する脱硫スラグ或いは処理容器内壁に付着する脱硫スラグを溶銑浴面に強制的に浮上させ、浮上させた脱硫スラグを処理容器から排出し、その後、処理容器内の溶銑を次工程の脱燐処理工程及び脱炭精錬工程に搬送する。溶銑中に懸濁する脱硫スラグ或いは処理容器内壁に付着する脱硫スラグが処理容器から除去されることで、次工程の脱燐処理工程及び脱炭精錬工程に持ち越される脱硫スラグが減少し、脱燐処理工程や脱炭精錬工程における復硫が抑制される。
【0021】
溶銑の脱硫処理は、処理容器として溶銑鍋或いは装入鍋のような取鍋型の容器を用い、取鍋型の処理容器に収容された溶銑にインペラーを浸漬し、このインペラーを回転させて溶銑とCaO系脱硫剤とを攪拌する機械攪拌式脱硫装置を用いる方法や、CaO系脱硫剤を不活性ガスからなる搬送用ガスとともにインジェクションランスを介して溶銑中に吹き込むインジェクション法などを用いて実施する。使用するCaO系脱硫剤としては、生石灰(CaO)、石灰石(CaCO
3)、消石灰(Ca(OH)
2)、ドロマイト(CaO−MgO)や、これらに蛍石(CaF
2)やアルミナ(Al
2O
3)などのCaO滓化促進剤を5〜30質量%程度混合させたものなどを使用することができる。
【0022】
脱硫処理後の溶銑に不活性ガスを吹き込んで溶銑を攪拌し、この攪拌によって溶銑中に懸濁する脱硫スラグ或いは処理容器内壁に付着する脱硫スラグを溶銑浴面に強制的に浮上させる方法としては、インジェクションランスを処理容器内の溶銑に浸漬し、このインジェクションランスから不活性ガスを吹き込む方法、処理容器の底部或いは側壁部に配置したポーラスプラグから不活性ガスを吹き込む方法のうちの何れか一方または双方を用いることができる。
【0023】
使用する不活性ガスとしては、Arガスなどの希ガスや窒素ガスを用いることができる。この場合、不活性ガスの吹き込み流量は、0.010Nm
3/(min・溶銑-ton)以上とすることが必要である。不活性ガスの吹き込み流量が0.010Nm
3/(min・溶銑-ton)未満の場合は、攪拌力が弱く、溶銑中に懸濁する脱硫スラグや処理容器内壁に付着する脱硫スラグを十分に浮上させることができず、復硫を十分に抑制することができないからである。不活性ガス吹き込み流量の上限値は特に規定する必要はないが、大量に吹き込んでも復硫防止の効果は飽和してそれ以上に復硫を防止する効果はなく、逆に、過度の吹き込み流量はスプラッシュの発生や温度低下により操業を妨げることから、0.10Nm
3/(min・溶銑-ton)程度で十分である。また、吹き込み時間は、1分以上5分以下で十分である。
【0024】
脱硫処理後の溶銑の復硫を安定して抑制する観点から、溶銑の脱硫処理後、溶銑浴面を覆う、生成した脱硫スラグを処理容器から排出し、その後、この処理容器内の溶銑に不活性ガスを吹き込むことが好ましい。溶銑浴面を覆う脱硫スラグを排出しないまま不活性ガスを吹き込んでも構わないが、この場合には、溶銑浴面を覆う脱硫スラグが不活性ガスの溶銑への吹き込みにより再度溶銑中に巻き込まれ、溶銑中に懸濁する微細な脱硫スラグを却って増加させる虞があるからである。
【0025】
不活性ガスによる攪拌によって強制的に浮上させた脱硫スラグの処理容器からの除去方法としては、処理容器を溶銑が流出しない程度に傾動させ、スラグ掻き出し機などを用いて機械的に描き出す方法、或いは、真空式スラグ除去装置を用いて吸引・除去する方法などを用いることができる。この除去処理を、不活性ガスによる攪拌と同時に行ってもよく、また、不活性ガスによる攪拌後に行ってもよい。脱硫スラグを排出した後は、溶銑温度の低下を防止するために、処理容器内に保温剤を添加することが好ましい。
【0026】
処理容器への不活性ガスの吹き込みによる溶銑の攪拌処理、及び、不活性ガスによる攪拌によって強制的に浮上させた脱硫スラグの処理容器からの除去処理は、脱硫処理設備の生産性を確保する観点から、脱硫処理設備で実施せずに、脱硫処理設備と次工程との搬送途中で実施することが好ましい。
【0027】
尚、使用する溶銑は、高炉やシャフト炉で溶製された溶銑であり、脱硫処理を施す前に、脱珪処理や脱燐処理が施されていても構わない。脱燐処理が予め施された溶銑の場合には、次工程は転炉での脱炭精錬工程であるので、不活性ガスによる攪拌によって強制的に浮上させた脱硫スラグの処理容器からの除去処理後の溶銑を脱炭精錬を行う転炉に搬送し、脱硫処理後に予備処理として溶銑の脱燐処理を実施する場合には、次工程は脱燐処理工程であるので、不活性ガスによる攪拌によって強制的に浮上させた脱硫スラグの処理容器からの除去処理後の溶銑を脱燐処理を実施する設備に搬送する。
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、脱硫処理を施した溶銑に対して次工程の脱燐処理や脱炭精錬を行って溶銑から溶鋼を溶製する溶鋼溶製工程において、溶銑の脱硫処理時に生成し、脱硫処理後に溶銑中に懸濁するなどして処理容器内に残留する脱硫スラグを不活性ガス攪拌によって強制的に浮上させ、浮上させた脱硫スラグを処理容器から排出し、その後、溶銑を次工程の脱燐処理や脱炭精錬に供するので、脱燐処理や脱炭精錬を実施する際には復硫の原因となる脱硫スラグの大半が除去されており、脱燐処理や脱炭精錬における復硫を低減することが実現される。
【実施例1】
【0029】
鋼製品の硫黄濃度規格が0.0024質量%以下である極低硫鋼を溶製するにあたり、(1)溶銑鍋内で溶銑の脱硫処理を行い、脱硫処理後、溶銑鍋内の溶銑浴面を覆う脱硫スラグを除去し、脱硫スラグを除去した後、次工程の脱燐処理工程及び脱炭精錬工程を経て極低硫鋼を溶製する従来溶製方法と、(2)溶銑鍋内での溶銑の脱硫処理後、溶銑鍋内の溶銑浴面を覆う脱硫スラグを除去し、脱硫スラグを除去した後、溶銑を不活性ガスで攪拌し、この攪拌後に溶銑鍋内の脱硫スラグを除去し、その後、次工程の脱燐処理工程及び脱炭精錬工程を経て極低硫鋼を溶製する溶製する新溶製方法とで、脱炭精錬終了時の溶鋼中硫黄濃度の比較を行う試験を実施した。脱炭精錬終了時の溶鋼中硫黄濃度に差が生じれば、それは復硫量が異なることに基づく。新溶製方法では、脱硫処理後の溶銑の不活性ガス吹き込み攪拌において、不活性ガス吹き込み流量の復硫量に及ぼす影響を調査するために、不活性ガス吹き込み流量を0.0017〜0.05Nm
3/(min・溶銑-ton)の範囲で変化させた。
【0030】
具体的な試験方法は、CaO系脱硫剤としてCaO−CaF
2脱硫剤を使用し、機械攪拌式脱硫装置で溶銑の脱硫処理を行って溶銑の硫黄濃度を0.0010質量%まで低下させた。その後、従来溶製方法では、溶銑浴面を覆う脱硫スラグの溶銑鍋(脱硫処理容器)からの除去、溶銑鍋から装入鍋への溶銑の装入、装入鍋から転炉への溶銑の装入、転炉での溶銑の脱燐処理、脱燐処理後の装入鍋への出湯、出湯後の脱燐スラグの装入鍋からの除去、溶銑の転炉への装入、転炉での溶銑の脱炭精錬を、この順に行った。
【0031】
一方、新溶製方法では、脱硫処理後、溶銑浴面を覆う脱硫スラグの溶銑鍋からの除去、溶銑鍋内の溶銑への不活性ガス(窒素ガス)の吹き込み、浮上した脱硫スラグの溶銑鍋からの除去、溶銑鍋から装入鍋への溶銑の装入、装入鍋から転炉への溶銑の装入、転炉での溶銑の脱燐処理、脱燐処理後の装入鍋への出湯、出湯後の脱燐スラグの装入鍋からの除去、溶銑の転炉への装入、転炉での溶銑の脱炭精錬を、この順に行った。
【0032】
表1に、従来溶製方法及び新溶製方法における脱硫処理条件、並びに、新溶製方法における脱硫処理後の不活性ガス吹き込みによる攪拌条件を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
従来溶製方法では、復硫によって溶鋼中硫黄濃度は上昇し、転炉での脱炭精錬後の溶鋼中硫黄濃度は、試験した50チャージの平均値で0.0022質量%であり、規格値の0.0024質量%を上回ったチャージは26チャージであった(チャージ比率=52%)。規格値の0.0024質量%を上回ったチャージは、転炉からの出鋼後、取鍋精錬設備(LF設備)において取鍋内の溶鋼に対して脱硫精錬を行い、溶鋼中硫黄濃度を0.0024質量%以下に低下させる必要があった。
【0035】
脱硫処理後、溶銑に不活性ガスを吹き込んで攪拌し、その後、脱硫スラグを除去した新溶製方法においては、脱硫処理後に溶銑に吹き込む不活性ガス流量によって、復硫量が異なることがわかった。尚、復硫量は、脱炭精錬後の溶鋼中硫黄濃度と脱硫処理後の溶銑中硫黄濃度との差(質量%)で表される。
【0036】
攪拌処理における不活性ガス吹き込み流量と復硫量との関係の調査結果を
図1に示す。
図1に示すように、不活性ガスの吹き込み流量が0.010Nm
3/(min・溶銑-ton)以上では、復硫量が最大でも0.0009質量%以下であり、復硫量を考慮しても、脱炭精錬終了後の溶鋼中硫黄濃度を0.0019質量%以下に制御できることがわかった。つまり、脱炭精錬後の溶鋼中硫黄濃度を、規格値の0.0024質量%以下に制御できることがわかった。従って、出鋼後の取鍋精錬設備(LF設備)における脱硫精錬は不要であった。
【0037】
しかしながら、不活性ガスの吹き込み流量が0.010Nm
3/(min・溶銑-ton)未満では、復硫量が0.0015質量%を超え、脱炭精錬後の溶鋼中硫黄濃度を規格値の0.0024質量%以下に安定して維持することは不可能であることがわかった。脱炭精錬後の溶鋼中硫黄濃度が規格値の0.0024質量%を上回ったチャージは、転炉からの出鋼後、取鍋精錬設備(LF設備)において取鍋内の溶鋼に対して脱硫精錬を行い、溶鋼中硫黄濃度を0.0024質量%以下に低下させる必要があった。
【実施例2】
【0038】
鋼製品の硫黄濃度規格が0.0024質量%以下である極低硫鋼を、溶銑鍋内での溶銑の脱硫処理、脱硫処理後の溶銑浴面を覆う脱硫スラグの溶銑鍋からの除去、溶銑鍋から装入鍋への溶銑の装入、装入鍋から転炉への溶銑の装入、転炉での溶銑の脱燐処理、脱燐処理後の装入鍋への出湯、出湯後の脱燐スラグの装入鍋からの除去、溶銑の転炉への装入、転炉での溶銑の脱炭精錬の順で溶製する場合に、(1)溶銑浴面を覆う脱硫スラグの溶銑鍋からの除去後、窒素ガスを0.020Nm
3/(min・溶銑-ton)で2.5分間に亘って溶銑に吹き込んで溶銑を攪拌し、その後、溶銑浴面に存在する脱硫スラグを溶銑鍋から除去し、その後は上記工程に沿って溶製する方法(本発明例)と、(2)溶銑浴面を覆う脱硫スラグの溶銑鍋からの除去後、窒素ガスを0.005Nm
3/(min・溶銑-ton)で2.5分間に亘って溶銑に吹き込んで溶銑を攪拌し、その後、溶銑浴面に存在する脱硫スラグを溶銑鍋から除去し、その後は上記工程に沿って溶製する方法(比較例)と、(3)上記工程に沿って溶製する方法(従来例)の3種理の方法で溶製する試験を行い、転炉脱炭精錬終点における溶鋼中硫黄濃度を比較した。
【0039】
溶銑の脱硫処理は、各試験ともに、CaO系脱硫剤としてCaO−CaF
2脱硫剤を使用し、機械攪拌式脱硫装置で溶銑鍋内の溶銑の脱硫処理を行って溶銑の硫黄濃度を0.0010〜0.0011質量%まで低下させた。表2に、本発明例、比較例及び従来例における試験結果を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、本発明例では、復硫量は平均値で0.0006質量%、最大でも0.0009質量%であり、転炉脱炭精錬後の溶鋼中硫黄濃度は、平均値で0.0017質量%であり、規格値の0.0024質量%以下を満足した。
【0042】
これに対して比較例では、復硫量の平均値が0.0017質量%であり、半分以上のチャージで規格値の0.0024質量%以下を満足することができなかった。従来例では、復硫量が更に高くなり、平均値で0.0019質量%の復硫があり、大半のチャージは規格値の0.0024質量%以下を満足することができなかった。規格値の0.0024質量%以下を満足することができなかったチャージは、転炉からの出鋼後、取鍋精錬設備(LF設備)において取鍋内の溶鋼に対して脱硫精錬を行い、溶鋼中硫黄濃度を0.0024質量%以下に低下させた。