(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、成膜装置の具体的な諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
本実施形態では、成膜装置として、MBE装置を例示する。
図1は、第1の実施形態によるMBE装置の概略構成を示す模式図である。
MBE装置は、真空容器10(液体窒素シュラウドで内壁を覆い、より真空度を上げる構造もある。)内において、原料供給源であるセル11と、セル11の上方に遮蔽機構12及び被成膜対象である基板1を加熱するヒータ13とが配置される。
【0012】
真空容器10は、真空排気機構10aが接続されており、成膜時には、真空排気機構10aの駆動により真空容器10内が所期の真空度に調節される。
セル11は、原料2が充填される坩堝11aを有し、坩堝11aの周囲に坩堝11a内の原料2を加熱するヒータ11bが、坩堝11aの上面にシャッタ11cがそれぞれ設けられている。
【0013】
遮蔽機構12の構成を
図2に示す。(a)が概略平面図、(b)が一部を拡大して示す一方向(円の接線方向)からの概略側断面図、(c)が一部を拡大して示す他方向(円の直径方向)からの概略側断面図である。
遮蔽機構12は、被成膜対象である基板1の周囲への原料2の堆積を防止する遮蔽板14が複数枚積層されており、遮蔽板14の保持具15、仕切り板16、遮蔽板14の係合部材である回転用アーム17を備えている。
【0014】
遮蔽板14は、
図2(a)のように、中央にヒータ13が配置される基板設置穴14aが形成されたドーナツ状であって、内周縁14cと外周縁14dとを結ぶ切込み14bが形成されている。遮蔽機構12では、複数の遮蔽板14が基板設置穴14a及び切込み14bの位置を合わせて積層される。積層された複数の遮蔽板14は、
図2(b)のように保持具15により保持されており、位置合わせされた基板設置穴14aにヒータ13を介して基板1が設置される。複数の遮蔽板14のうち
図2(b),(c)で最下層の遮蔽板14が原料2の分子線の遮蔽に使用される。
【0015】
仕切り板16は、積層された複数の遮蔽板14において、位置合わせされた切込み14b内に設けられ、例えば保持具15の所定部位に固定設置される。仕切り板16は、遮蔽板14の切込み14bにおいて内周縁14cから外周縁14dまでの全ての範囲にある必要はなく、例えば内周縁14cの近傍部位及び外周縁14dの近傍部位のみ、或いは外周縁14dの近傍部位のみに設けるようにしても良い。ここで、仕切り板16を部分的に配置する場合には、切込み14bにおいて、仕切り板16が設けられた部分以外に、切込み14bの幅又はこれよりも若干幅広の水平の板状部材を、切込み14b下又は切込み14b上の回転を阻害しない位置に配置しても良い。この板状部材を設けることにより、遮蔽板14に付着した堆積物が切込み14bから遮蔽機構12の外部に拡散することが防止される。仕切り板16の取り付け角度は、切込み14bの幅と遮蔽板14の積層高さとによるが、回転する遮蔽板14との接触抵抗に基づいてその上限が決定される。取り付け角度は、水平に対して60°程度以上になるとスムーズな回転が困難となるので、30°程度以下とすることが望ましい。
【0016】
回転用アーム17は、その一端が複数の遮蔽板14のうち最下層の遮蔽板14の周縁に係合し、他端が回転機構3(
図2(b)のみに示す)に接続されたL字状であり、回転機構3の回転駆動により使用する遮蔽板14を変更する。回転用アーム17は、その一端が内周縁14cの近傍部位及び外周縁14dの近傍部位の2箇所に係合するように設けたり、或いは内周縁14cの近傍部位のみ又は外周縁14dの近傍部位のみの1箇所に係合するように設けても良い。回転用アーム17の最下層の遮蔽板14と係合する一端は、遮蔽板14の厚みよりも低い突起を有し、遮蔽板14を押圧する回転方向では遮蔽板14との係合は外れないが、逆の回転方向では遮蔽板14から外れる構造とされる。また、回転用アーム17の一端は、弾性変形する例えば板バネ状とすることにより、最下層の遮蔽板14と確実に密着する。回転用アーム17は、遮蔽板の外周(保持具15の外周)に沿って回転自在の構造とされる。回転用アーム17は、例えば、回転導入端子にギアを加工し、回転機構3に設けたギアに接続して回転駆動する。
【0017】
遮蔽機構12において、遮蔽板14及び仕切り板14bの材料としては、ガス放出が少なく、高温(脱ガス時300℃位)に耐え、原料ガスと反応し難いことが求められる。また、遮蔽板14は重ねた厚みの分だけ弾性変形できる必要がある。これらの条件を満たす好適な材料として、SUS、PBN(Pyrolitic Boron Nitride:熱分解窒化ホウ素)、タンタル(Ta)、及びモリブデン(Mo)から選ばれたものが用いられる。本実施形態では、廉価であり加工性等に優れたSUSを用いる。遮蔽板14及び仕切り板14bをそれぞれ異なる材料で形成しても良い。
【0018】
MBE装置では、セル11内の坩堝11aに入れた原料2をヒータ11bで所望の温度に加熱し、シャッタ11cを開閉する。これにより、ヒータ13により所望の温度に加熱された基板1上に原料2の分子線を供給し、基板1上に結晶を成長させる。基板1の周辺に照射された分子線は、遮蔽機構12の最下層の遮蔽板14の表面に付着し、基板1の周囲における真空容器11の内壁(又は液体窒素シュラウドの内壁)への分子線の照射が防止される。
【0019】
本実施形態では、基板1として例えばSi基板又はSiC基板等を用い、MBE装置を用いてAlN層、GaN層、AlGaN層、InGaN層等を基板上に形成することができる。積層形成されたこれらの化合物半導体層に所定の電極等を適宜形成することにより、所期の化合物半導体装置が得られる。
【0020】
MBE装置の使用を重ね、遮蔽機構12の最下層の遮蔽板14の表面における原料2の堆積量が所定量に達したものと判断された際には、遮蔽機構12は、以下のようにして使用する遮蔽板14を変更する。
図3は、遮蔽機構における遮蔽板の変更機能を説明する、遮蔽機構の一部を拡大して示す概略側断面図であり、(a)が変更前、(b)が変更後に対応する。
【0021】
複数の遮蔽板14のうち被変更対象の遮蔽板14は、
図3(a)のように、最下層の遮蔽板14である。
回転機構3は、回転用アーム17の他端を回転駆動する。回転方向は、例えば
図2(a)で反時計回り方向であり、
図3(a),(b)で矢印方向となる。回転用アーム17の一端は、複数の遮蔽板14のうち最下層の遮蔽板14の周縁に係合しており、回転用アーム17の回転駆動により、最下層の遮蔽板14のみが仕切り板16に当接しながら回転する。これにより、当該遮蔽板14は、弾性変形しながら仕切り板16上をスライドし、360°の回転により切込み14b位置まで到達すると、
図3(b)のように最上層に積層位置が変更される。最下層の遮蔽板14が移動する際に、2段目以降の遮蔽板14が動かないように回転速度を調整する。
【0022】
使用を重ねて最下層の遮蔽板14の表面に原料2が堆積し、堆積物がフレークとして剥落する前に、上記のように最下層の遮蔽板14を変更する。これにより、最下層の遮蔽板14が最上層に移動して、最下層から2段目に位置していた堆積物のない清浄面を有する遮蔽板14が被変更対象である最下層の遮蔽板14となる。遮蔽機構12により、使用された遮蔽板14からのフレーク発生を防止し、真空容器11内を所期の高真空度に保持して不純物の少ない高品質な連続的成膜が可能となる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、遮蔽板14の移動に要するスペースが極めて小さく、比較的簡素な構成でフレークの落下付着を容易に防止し、真空容器11内を所期の高真空度に保持して不純物の少ない高品質な連続的成膜が可能となる。これにより、所期の良質な電子デバイスの製造が実現する。
【0024】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、成膜装置として、MBE装置を例示するが、遮蔽機構に遮蔽板の固定部材が付加される点で第1の実施形態と相違する。なお、第1の実施形態のMBE装置の構成部材等と同じものについては、同符号を付して詳しい説明を省略する。
図4は、第2の実施形態によるMBE装置の遮蔽機構の一部を拡大して示す概略側断面図である。
【0025】
本実施形態によるMBE装置では、遮蔽機構2には、被変更対象以外の遮蔽板14を固定する固定部材であるストッパ21を更に備えている。
ストッパ21は、回転用アーム17で最下層の遮蔽板14を移動させる際に、当該遮蔽板14を低速で回転した場合でも最下層の遮蔽板14以外の遮蔽板14が共に動かないように、切込み14b内で最下層の遮蔽板14以外を固定するものである。ストッパ21は、最下層の遮蔽板14は通過できるが、最下層から2段目以上の遮蔽板14は通過できない穴(又は溝)と、2段目以上の遮蔽板14が回転できないようにする回転防止機構とを併せ持った構造とする。上記の穴又は溝は、遮蔽板14の1枚の厚みより深く、遮蔽板14の2枚の厚みよりも浅い。回転用アーム17による回転駆動により、最下層の遮蔽板14は、ストッパ2の穴(又は溝)を通過する。これに対して、2段目以上の遮蔽板14は、ストッパ21の回転防止機構(
図4におけるストッパ21の垂直部分)により回転ができない。最下層の遮蔽板14はその後、仕切り板16上をスライドして最上層に移動する。ストッパ21は、上記の動作を行うことができるように、最下層の遮蔽板21の高さ(厚み)に合わせて配置し、回転時の上下動に対応して上下動することのできる構造とする。
【0026】
ストッパ21は、遮蔽板14の切込み14bにおいて内周縁14cから外周縁14dまでの全ての範囲にある必要はなく、例えば内周縁14cの近傍部位及び外周縁14dの近傍部位のみ、或いは外周縁14dの近傍部位のみに設けるようにしても良い。
ストッパの他の例として、遮蔽板14の切込み14b(最初に仕切り板16に当接する側)にL字状に突起を設け、遮蔽板14ごとに半径方向に積み重ね順に突起をずらして設けることが考えられる。この場合、ストッパも常に2段目の遮蔽板14の突起を押さえるように半径方向に移動できる構造とすることで、ストッパ21と同様の回転抑止が可能となる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態によれば、遮蔽板14の移動に要するスペースが極めて小さく、比較的簡素な構成でフレークの落下付着を容易に防止し、真空容器11内を所期の高真空度に保持して不純物の少ない高品質な連続的成膜が可能となる。これにより、所期の良質な電子デバイスの製造が実現する。
【0028】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、成膜装置として、MBE装置を例示するが、遮蔽機構の仕切り板が若干異なる点で第1の実施形態と相違する。なお、第1の実施形態のMBE装置の構成部材等と同じものについては、同符号を付して詳しい説明を省略する。
図5は、第3の実施形態によるMBE装置の遮蔽機構の一部である仕切り板を示す概略側断面図である。
【0029】
本実施形態によるMBE装置では、遮蔽機構12において、仕切り板22の下端部分に屈曲部22aが形成されている。仕切り板22は、回転用アーム17で最下層の遮蔽板14を移動させる際に、仕切り板22の屈曲部22aに、当該遮蔽板14から剥脱した堆積物が貯留される。屈曲部22aを有する仕切り板22を遮蔽機構12に用いることにより、遮蔽板14の変更時に遮蔽板14から剥脱した堆積物の遮蔽機構12の外部への拡散がより確実に抑止される。
【0030】
仕切り板22は、第1の実施形態による仕切り板16と同様に、積層された複数の遮蔽板14において、位置合わせされた切込み14b内に設けられ、例えば保持具15の所定部位に固定設置される。仕切り板22は、遮蔽板14の切込み14bにおいて内周縁14cから外周縁14dまでの全ての範囲にある必要はなく、例えば内周縁14cの近傍部位及び外周縁14dの近傍部位のみ、或いは外周縁14dの近傍部位のみに設けるようにしても良い。ここで、仕切り板22を部分的に配置する場合には、切込み14bにおいて、仕切り板22が設けられた部分以外に、切込み14bの幅又はこれよりも若干幅広の水平の板状部材を、切込み14b下又は切込み14b上の回転を阻害しない位置に配置しても良い。この板状部材を設けることにより、遮蔽板14に付着した堆積物が切込み14bから遮蔽機構12の外部に拡散することが防止される。仕切り板22の取り付け角度は、切込み14bの幅と遮蔽板14の積層高さとによるが、回転する遮蔽板14との接触抵抗に基づいてその上限が決定される。取り付け角度は、水平に対して60°程度以上になるとスムーズな回転が困難となるので、30°程度以下とすることが望ましい。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、遮蔽板14の移動に要するスペースが極めて小さく、比較的簡素な構成でフレークの落下付着を容易に防止し、真空容器11内を所期の高真空度に保持して不純物の少ない高品質な連続的成膜が可能となる。これにより、所期の良質な電子デバイスの製造が実現する。
【0032】
(第4の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、成膜装置として、MBE装置を例示するが、遮蔽機構における遮蔽板の保持具に最下層の遮蔽板と当接する回転体(ボール)が付加されている点で第1の実施形態と相違する。なお、第1の実施形態のMBE装置の構成部材等と同じものについては、同符号を付して詳しい説明を省略する。
図6は、第4の実施形態によるMBE装置の遮蔽機構を示す概略側断面図である。
【0033】
本実施形態によるMBE装置では、遮蔽機構12における積層された複数の遮蔽板14の保持具23は、その下部に最下層の遮蔽板14と当接するベアリング状のボール23aが設けられている。この構成により、回転用アーム17で最下層の遮蔽板14を移動させる際に、よりスムーズに最下層の遮蔽板14のみを回転して、使用する遮蔽板14を変更することができる。更に、遮蔽板14に回転対称な突起を設け、遮蔽板14間の接触抵抗を低減するようにしても良い。
ボール23aは、遮蔽板14の全周に亘って配設しなくても良く、例えば120度間隔で3箇所に配置しても良い。遮蔽板14の回転対称な突起は、前後の段の遮蔽板14と重ならないように、異なる位置に配置する必要がある。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、遮蔽板14の移動に要するスペースが極めて小さく、比較的簡素な構成でフレークの落下付着を容易に防止し、真空容器11内を所期の高真空度に保持して不純物の少ない高品質な連続的成膜が可能となる。これにより、所期の良質な電子デバイスの製造が実現する。
【0035】
(第5の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、成膜装置として、MBE装置を例示するが、遮蔽機構の遮蔽板が若干異なる点で第1の実施形態と相違する。なお、第1の実施形態のMBE装置の構成部材等と同じものについては、同符号を付して詳しい説明を省略する。
図7は、第5の実施形態によるMBE装置の遮蔽機構を示す概略側断面図であり、(a)が一部を拡大して示す一方向(円の接線方向)からの図、(b)が一部を拡大して示す他方向(円の直径方向)からの図である。
【0036】
本実施形態によるMBE装置では、遮蔽機構12における積層された複数の遮蔽板14にそれぞれ係合溝(係合穴)14eが形成されている。回転用アーム17は、最下層の遮蔽板14の係合溝14eのみに係合し、当該遮蔽板14を回転して使用する遮蔽板14を変更する。遮蔽板14に設けた係合溝14eは、前後の段の遮蔽板14と円周方向で重ならないように、最下層の遮蔽板14から順に回転方向に対して後部に位置するように配置される。この構成により、回転用アーム17の一端が確実に最下層の遮蔽板14のみと係合溝14eで係合し、最下層の遮蔽板14のみを確実に回転して、使用する遮蔽板14を変更することができる。
【0037】
回転用アーム17の最下層の遮蔽板14と係合する一端は、遮蔽板14の厚みよりも低い突起を有し、遮蔽板14を押圧する回転方向では遮蔽板14との係合は外れないが、逆の回転方向では遮蔽板14から外れる構造とされる。また、回転用アーム17の一端は、弾性変形する(例えば板バネ状とする)ことにより、最下層の遮蔽板14と確実に密着する。回転用アーム17は、例えば、回転機構3(
図7(a)のみに示す)に接続/切断を切り替えて行うことができるクラッチを設け、必要時に接続して回転駆動する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、遮蔽板14の移動に要するスペースが極めて小さく、比較的簡素な構成でフレークの落下付着を容易に防止し、真空容器11内を所期の高真空度に保持して不純物の少ない高品質な連続的成膜が可能となる。これにより、所期の良質な電子デバイスの製造が実現する。
【0039】
第1〜第5の実施形態において、遮蔽板14が円板状のものである場合について説明したが、遮蔽板が基板の中心に対し、回転対称な形状(但し、切込みは除く)であれば、立体形状(3次元形状)の遮蔽板でも適用できる。
仕切り板16,22の配置は、MBE装置の上方から見て、セル11とセル11との中間に配置された構造とする。これにより、万一、遮蔽板14の回転時に仕切り板16,22の近辺でフレークが落下しても、下方に加熱源であるセル11がないため、真空度の悪化が防止される。
【実施例】
【0040】
以下、具体的な諸実施例について説明する。
【0041】
(実施例1)
本例では、第1の実施形態によるMBE装置の具体例を開示する。例えば、サイズが4インチの基板を成長可能なMBE装置について述べる。
遮蔽板は、外径がΦ360mm程度、内径がΦ110mm程度、厚み1mm程度とする。切込み(内周縁と外周縁を結び、円の半径方向で切断)を10mm程度幅で設ける。更に、切込みを合わせて5枚の遮蔽板を重ね、切込みに水平に対して斜め30°程度に仕切り板(固定)を差し込んだ構造とする。ここで、遮蔽板の内周縁と外周縁(又は内周縁のみ、或いは外周縁のみ)に接した遮蔽板の保持具(断面下部がL字型の円筒状)に遮蔽板を載置することにより、真空容器内に固定される。
【0042】
仕切り板は、斜面部長さ12mm程度、厚み1.5mm程度とし、仕切り板の底部端が水平面でカットし、仕切り板の上端が垂直面でカットした楔形とする。水平に対して斜め30°程度とした場合の高さが6mm程度、水平方向の長さが10.4mm程度となる。仕切り板の底部端は、遮蔽板の最下層より下方に突出する(例えば0.5mm程度)ようにして、遮蔽板の保持具に固定する。仕切り板によって、10mm程度幅の切込みが隠れる構造となる。遮蔽板の切込みの断面へのフレーク付着を懸念する場合には、仕切り板の断面を直角三角形状(または逆V字)状にして、切込み部断面に接する形状にしても良い。
【0043】
ここでは、仕切り板が遮蔽板の内周縁から外周縁まで達する場合について述べたが、例えば外周縁から20mm程度までの部分のみに仕切り板を設ける場合には、残存する部分に板状部材を設ける。板状部材は、仕切り板最下層の高さに水平として配置され、その幅は切込み部幅(10mm程度)に合わせる。
【0044】
更に、遮蔽板の外周縁と内周縁、或いは外周縁(又は内周縁)のみに遮蔽板の保持具(厚み2mm程度)を設ける。保持具の底部断面がL字状に5mm程度の突起を加工し、遮蔽板を保持する。また、遮蔽板を360°回転させるため、保持具の外周縁に回転用アームを取り付け、遮蔽板の端を引掛けて回転させる。回転用アームの遮蔽板との引掛け部分は、遮蔽板の厚みより低い突起(0.8mm程度)を有するL字状(L字長さ5mm程度)で、押圧する回転方向では遮蔽板との係合は外れないが、逆の回転方向では遮蔽板から外れる構造とされる。また、回転用アームの先端は、厚み0.7mmの板バネ状(弾性変形)とすることで、遮蔽板の最下層に密着する。回転用アームは、遮蔽板の外周(保持具の外周)に沿って回転自在の構造とされる。回転用アームは、例えば、回転導入端子にギアを加工し、回転機構に設けたギアに接続して回転駆動する。
【0045】
(実施例2)
本例では、第2の実施形態によるMBE装置の具体例を開示する。
本例においては、更に、最下層の遮蔽板以外が共に動かないように、最下層の遮蔽板以外を止めるストッパを設ける。
ストッパは、例えば最下層の遮蔽板は通過できるが、2段目以上の遮蔽板は通過できないような1.5mm程度(遮蔽板の1枚の厚みより大きく、遮蔽板の2枚の厚みより薄い)の高さとなるように保持具の側面に縦溝を加工する。ストッパは、この縦溝から20mm程度、遮蔽板側に突出した構造とする。なお、ストッパは保持具の縦溝を上下できるようにしておく。通常、ストッパは、自重で遮蔽板の最下層から1.5mm程度の位置にあるが、遮蔽板の回転時には10mm程度まで上に移動できるようにする。ストッパ自身の高さは50mm程度、厚み5mm程度の楔状とする。
ストッパも、遮蔽板の内周縁から外周縁まで全ての範囲にある必要はなく、例えば外周縁と内周縁のみ、或いは外周縁のみに設けても良い。
【0046】
(実施例3)
実施例2によるストッパの他の例として、遮蔽板の切込み(最初に仕切り板に当接する側)のL字状の上に凸状の高さ10mm程度、幅5mm程度のL字状突起を設ける。遮蔽板ごとに半径方向に積み重ね、順次に突起をずらして配置する。
ここで、最下層の遮蔽板のL字状突起は、外周から30mm程度〜35mm程度に設ける。2段目のL字状突起は、外周から37mm程度〜42mm程度に設ける。3段目のL字状突起は、外周から44mm程度〜49mm程度に設ける。4段目のL字状突起は、外周から51mm程度〜56mm程度で設ける。5段目のL字状突起は、外周から58mm程度〜63mm程度で設ける。
【0047】
遮蔽板の保持具の側面から内側に水平なレール(最下層から15mm程度以上の高さ)を設け、ストッパをこの水平なレールの上を移動できる構造とする。ここで、ストッパの最下部は遮蔽板の最下層から7mm程度上方に設置され、外周から30mm程度の位置から内側にストッパを設ける。最下層の遮蔽板のL字状突起が外周から30mm程度から始まり、5段目は外周から63mm程度まであるため、ストッパの幅を33mm程度とすれば、全ての遮蔽板の回転抑止が可能となる。7mm程度ごとの移動で格段の回転を抑止する。ストッパの幅は5mm程度でも良い。常に2段目の遮蔽板の突起を押さえるように半径方向に移動できる構造とすることで、同様の回転抑止となる。ストッパの移動方法は、例えば、回転導入端子にギアを加工し、レール上のストッパ裏面にもギア溝を加工しておけば、必要時に移動できる。
【0048】
(実施例4)
本例では、第3の実施形態によるMBE装置の具体例を開示する。
本例においては、仕切り板にフレーク落下防止の屈曲部を設ける。屈曲部は、遮蔽板の内周縁から外周縁まで、全ての範囲にある必要がある。実施例1では、仕切り板は水平に対して斜め30°程度、斜面部長さ12mm程度、厚み1.5mm程度であった。本例では、仕切り板の下面に水平に対して各々斜め45°のV字状の屈曲部を追加する。基本的に、フレークが剥落しなければ良いので、V字状の代わりにU字状の屈曲部としても良い。
【0049】
(実施例5)
本例では、第4の実施形態によるMBE装置の具体例を開示する。
本例においては、遮蔽板の内周縁と外周縁に遮蔽板の保持具(厚み2mm程度)を設ける。保持具の底部断面をL字状の5mm程度の突起を加工し、ボールを保持できるように折り返しを3mm程度だけ設け、保持具の下部にベアリング状にΦ5mm程度のボールを配置する。且つ、厚み1mm程度の遮蔽板に回転対称な突起(高さ0.5mm程度)を設け、遮蔽板間の接触抵抗を低減する。ボールは、全周にある必要はなく、例えば120°間隔で3箇所に配置しても良い。
【0050】
遮蔽板の回転対称な突起は、前後の段の遮蔽板と重ならないように、異なる位置に配置する必要がある。例えば直径がΦ300mm程度のものと直径がΦ280mm程度のものとを交互に積層する。
【0051】
(実施例6)
本例では、第5の実施形態によるMBE装置の具体例を開示する。
本例においては、厚み1mm程度の遮蔽板を360°回転させるため、外周縁に回転用アームを取り付け、遮蔽板に設けた係合溝(係合穴)に引掛けて回転させる。係合溝(係合穴)は、例えば径方向5mm程度、幅3mm程度とし、前後の段の遮蔽板と円周方向で重ならないように、遮蔽板下段から順に回転方向に対して5mm程度だけ後部(係合溝間の間隔は2mm程度)に位置するように配置される。
【0052】
以下、成膜装置の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0053】
(付記1)真空容器と、
原料が充填される坩堝と、
前記坩堝を加熱するヒータと、
被成膜対象が設置され、前記被成膜対象の周囲への前記原料の堆積を防止する遮蔽機構と
を含み、
前記遮蔽機構は、ドーナツ状の内周縁と外周縁とを結ぶ切込みが形成された遮蔽板が前記切込みの位置を合わせて複数枚積層され、前記切込み内に斜め方向に仕切り板が設置されており、使用する前記遮蔽板を変更自在とされていることを特徴とする成膜装置。
【0054】
(付記2)複数枚の前記遮蔽板のうちで被変更対象の前記遮蔽板と係合する係合部材を更に含み、
前記係合部材は、係合した前記遮蔽板を前記仕切り板に当接させて回転させ、当該遮蔽板の積層位置を変更することを特徴とする付記1に記載の成膜装置。
【0055】
(付記3)前記各遮蔽板には係合溝が形成されており、
前記係合部材は、被変更対象の前記遮蔽板の係合溝のみに係合し、当該遮蔽板を回転させることを特徴とする付記2に記載の成膜装置。
【0056】
(付記4)前記遮蔽機構は、被変更対象以外の前記遮蔽板を固定する固定部材を有することを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【0057】
(付記5)前記仕切り板は、その下端部分に前記遮蔽板から剥脱した堆積物を貯留する屈曲部が形成されていることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【0058】
(付記6)前記遮蔽機構は、被変更対象の前記遮蔽板と当接する回転体を有することを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の成膜装置。