【実施例】
【0014】
〔実施例1〕
〔実施例1の構成〕
実施例1の構成を
図1〜5を用いて説明する。
この実施例1に示すエンジン始動装置は、エンジンの停止および再始動を自動制御するアイドルストップ装置に適用され、エンジンの始動を行うスタータ1と、エンジンの再始動時にスタータ1の作動を制御する電子制御装置であるECU2(制御手段)とを備えている。
【0015】
スタータ1は、
図1に示す様に、回転力を発生するモータ3と、このモータ3に駆動されて回転する出力軸4と、モータ3の回転力をエンジンのリングギヤ5に伝達するためのピニオン6と一体に構成されて出力軸4の外周上に配置されるピニオン移動体(後述する)と、シフトレバー7を介してピニオン移動体を反モータ方向(
図1の左方向)へ押し出す働きを担う第1のソレノイド8と、モータ3への通電電流を断続するためのメイン接点(後述する)を開閉する第2のソレノイド9等より構成される。
【0016】
モータ3は、
図2に示す様に、例えば、複数の永久磁石によって構成される界磁10と、電機子軸の一方の端部に整流子を設けた電機子11と、整流子の外周面(整流子面と呼ぶ)に当接して配置されるブラシ12等を備える整流子電動機である。なお、モータ3の界磁10は、永久磁石の代わりに、界磁コイルによる電磁石界磁を用いても良い。
出力軸4は、減速装置(図示せず)を介して電機子軸と同一軸線上に配置され、電機子11の回転が減速装置で減速されて伝達される。
減速装置は、例えば、周知の遊星歯車減速機であり、遊星歯車の公転運動を拾う遊星キャリアが出力軸4と一体に設けられている。
【0017】
ピニオン移動体は、クラッチ13とピニオン6とで構成される。
クラッチ13は、
図1に示す様に、出力軸4の外周にヘリカルスプライン嵌合するアウタ13aと、このアウタ13aの内周に相対回転自在に配置されるインナ13bと、アウタ13aとインナ13bとの間で回転力の伝達を断続するローラ13cと、このローラ13cを付勢するスプリング(図示せず)等を有し、ローラ13cを介してアウタ13aからインナ13bへ一方向のみ回転力を伝達する一方向クラッチとして構成されている。
ピニオン6は、クラッチ13のインナ13bと一体に構成され、出力軸4の外周に軸受14を介して相対回転自在に支持されている。
【0018】
第1のソレノイド8と第2のソレノイド9は、それぞれ通電によって電磁石を形成するソレノイドコイル15(第1のコイル)とスイッチコイル16(第2のコイル)を有し、このソレノイドコイル15とスイッチコイル16との間に、両者に共通して用いられる固定鉄心17を配置すると共に、第1のソレノイド8の外周を覆うソレノイドヨーク18と、第2のソレノイド9の外周を覆うスイッチヨーク19とが軸方向に連続して形成され、一つの全体ヨークとして一体に設けられている。すなわち、第1のソレノイド8と第2のソレノイド9は、
図1に示す様に、両者が軸方向に直列に配設されて一体に構成され、モータ3と並列に配置されてスタータハウジング20に固定されている。
【0019】
第1のソレノイド8は、固定鉄心17の内径側に設けられる一方の吸着面に対向してソレノイドコイル15の内周を軸心方向に可動するプランジャ21を備えている。ソレノイドコイル15は、
図2に示す様に、一方の端部が第1のスイッチ端子22に接続され、他方の端部が、例えば、固定鉄心17の表面に溶接等により固定されてアースされている。第1のスイッチ端子22には、第1の駆動リレー23に繋がる電気配線が接続される。
第1の駆動リレー23は、ECU2より出力されるオン信号によって励磁されるリレーコイル23aを有し、このリレーコイル23aに通電されてリレー接点23bが閉じることにより、バッテリ25から第1の駆動リレー23を通じてソレノイドコイル15に通電される。
【0020】
プランジャ21は、ソレノイドコイル15への通電により固定鉄心17が磁化されると、その固定鉄心17との間に配設されるリターンスプリング26(
図1参照)の反力に抗して固定鉄心17の一方の吸着面に吸着され、ソレノイドコイル15への通電が停止すると、リターンスプリング26の反力で反固定鉄心方向(
図1の左方向)へ押し戻される。また、このプランジャ21は、径方向の中央部に円筒孔を有する略円筒状に設けられ、その円筒孔には、プランジャ21の動きをシフトレバー7に伝達するジョイント27と、図示しないドライブスプリングとが挿入されている。
【0021】
第2のソレノイド9は、固定鉄心17の内径側に設けられる他方の吸着面に対向してスイッチコイル16の軸心方向に可動する可動鉄心28と、全体ヨークの他端側に開口する開口部(スイッチヨーク19の開口部)を塞いで組み付けられる樹脂製の接点カバー29と、この接点カバー29に固定される2本の端子ボルト30、31と、この2本の端子ボルト30、31にそれぞれ固定される一組の固定接点32と、この一組の固定接点32間を電気的に断続する可動接点33等を有している。
スイッチコイル16は、
図2に示す様に、一方の端部が第2のスイッチ端子34に接続され、他方の端部が、例えば、固定鉄心17の表面に溶接等により固定されてアースされている。第2のスイッチ端子34には、第2の駆動リレー35に繋がる電気配線が接続される。
【0022】
第2の駆動リレー35は、ECU2より出力されるオン信号によって励磁されるリレーコイル35aを有し、このリレーコイル35aに通電されてリレー接点35bが閉じることにより、バッテリ25から第2の駆動リレー35を通じてスイッチコイル16に通電される。
【0023】
可動鉄心28は、スイッチコイル16への通電により固定鉄心17が磁化されると、その固定鉄心17との間に配設されるリターンスプリング37(
図1参照)の反力に抗して固定鉄心17の他方の吸着面に吸着され、スイッチコイル16への通電が停止すると、リターンスプリング37の反力で反固定鉄心方向(
図1の右方向)へ押し戻される。
【0024】
接点カバー29は、円筒状の脚部を有し、この脚部がスイッチヨーク19を形成する全体ヨークの軸方向他端側の内周に挿入されて全体ヨークにかしめ固定されている。
2本の端子ボルト30、31は、モータ回路の高電位側(バッテリ側)に接続されるB端子ボルト30と、モータ回路の低電位側(モータ側)に接続されるM端子ボルト31である。一組の固定接点32は、2本の端子ボルト30、31と別体(一体でも可能)に設けられ、接点カバー29の内側で2本の端子ボルト30、31と電気的に接触して機械的に固定されている。
【0025】
可動接点33は、一組の固定接点32より反可動鉄心側(
図1の右側)に配置され、可動鉄心28に固定されたロッド38の端面に接点圧スプリング39の荷重を受けて押し付けられている。
メイン接点は、一組の固定接点32と可動接点33とで形成され、可動接点33が接点圧スプリング39に付勢されて所定の押圧力で一組の固定接点32に当接し、可動接点33を介して両固定接点32間が導通することによりメイン接点が閉成された状態となり、可動接点33が一組の固定接点32から離れて両固定接点32間の導通が遮断されることによりメイン接点が開成された状態となる。
【0026】
なお、メイン接点が閉成されて形成されるバッテリ25からモータ3への通電経路には、ICRリレー42(突入電流抑制手段)が設けられている。ICRリレー42は、バッテリ25からモータ3への通電経路を、抵抗43を介して突入電流を小さくしてモータ3へ通電する第1通電経路と、抵抗43を介さないでモータ3へ通電する第2通電経路との間で切替えるリレースイッチである。
ICRリレー42は、ECU2より出力されるオン信号によって励磁されるリレーコイル42aを有し、このリレーコイル42aに通電されていない状態ではリレー接点42bが開いており、バッテリ25から抵抗43を介した第1通電経路を通じてスイッチコイル16に通電される。そして、リレーコイル42aに通電されてリレー接点42bが閉じることにより、バッテリ25から抵抗43を介さない第2通電経路を通じてスイッチコイル16に通電される。
このICRリレー42を用いて、モータ始動直後第1通電経路を介して通電し、突入電流のピーク値を低減する。
【0027】
ECU2は、第1の駆動リレー23、第2の駆動リレー35、及びICRリレー42に対する通電を制御する制御手段として機能する。
制御手段は、リレー制御部49、遅れ時間設定部50、累積回数算出部51、及び始動モード判別部52を有する。
【0028】
リレー制御部49は、第1の駆動リレー23、第2の駆動リレー35、及びICRリレー42を制御するための駆動信号を生成して送信する。
なお、以下では、第1の駆動リレー23の駆動信号をSL1信号、第2の駆動リレー35の駆動信号をSL2信号と呼ぶ。
【0029】
遅れ時間設定部50は、ピニオン6を押し出す押出タイミングに対して、モータ3の回転を開始するモータ始動タイミングを
所定の時間遅らせる遅れ時間Δtを設定する。
本実施例では、例えば、第1の駆動リレー23の通電タイミングに対して、第2の駆動リレー35の通電タイミングを遅らせることにより、ピニオン6を押し出す押出タイミングに対して、モータ3の回転を開始するモータ始動タイミングを遅らせる。
そのため、第1の駆動リレー23の通電タイミングと第2の駆動リレー35の通電タイミングとの差を遅れ時間Δtとして設定する。
具体的には、スタータ1によるエンジンの始動の回数の累積である累積始動回数N(すなわち、スタータ1の使用回数の累積)と遅れ時間Δtとの相関をMAPを用いて累積始動回数Nに応じた遅れ時間Δtを設定する。
【0030】
累積回数算出部51は、累積始動回数Nを算出する。本実施例では、スタータ1の始動モードが、リングギヤ5の磨耗への影響度が高いモードであるほど重み係数が大きくなるように重み付けをして累積始動回数Nを算出する。
スタータ1の始動モードとは、エンジンの運転状況に応じて複数の種類に区別されており、例えば、本実施例では、エンジン回転数降下中からの始動(以下、降下中始動モードと呼ぶ)、エンジン逆回転中からの始動(以下、逆回転中始動モードと呼ぶ)、エンジン完全停止からの始動(以下、停止中始動モードと呼ぶ)の3種類を区別している。
重み付けについては後に詳述する。
【0031】
始動モード判別部52は、スタータ1への駆動開始指令があった場合に、エンジン回転数検出手段(図示せず)等からの検出信号に基づいて始動モードを判別する。例えば、上記の3種類のいずれの始動モードかを判別する。
【0032】
〔実施例1の遅れ時間設定フロー〕
実施例1の遅れ時間設定の流れを
図4及び
図5を用いて説明する。
まず、スタータ1を駆動する駆動指令があったか否かを判定する(ステップS1)。すなわち、スタータ1の始動信号がONされたか否かを判断する(
図5参照)。この判定結果がNOの場合には、
図4の制御ルーチンを終了する。
【0033】
ステップS1の判定結果がYESの場合には、始動モード判別部52により始動モードを判別する(ステップS2〜S4)。
まず、ステップS2で、降下中始動モードか否かを判定し、判定結果がNOの場合は、ステップS3で、逆回転中始動モードか否かを判定する。そして、ステップS3での判定結果がNOの場合は、ステップS4で、停止中始動モードか否かを判定する。この判定結果がNOの場合には、
図4の制御ルーチンを終了する。
【0034】
ステップS2での判定結果がYESであり、始動モードが降下中始動モードであると判定された場合は、ステップS5へ進む。
ステップS5では、降下中始動モードでの始動回数N
Dをカウントし、カウント数を1つ増やす。このカウントされた始動回数N
Dは累積回数算出部51の算出に利用するため記憶される。
【0035】
ステップS3での判定結果がYESであり、始動モードが逆回転中始動モードであると判定された場合は、ステップS6へ進む。
ステップS6では、逆回転中始動モードでの始動回数N
Rをカウントし、カウント数を1つ増やす。このカウントされた始動回数N
Rは累積回数算出部51の算出に利用するため記憶される。
【0036】
ステップS4での判定結果がYESであり、始動モードが停止中始動モードであると判定された場合は、ステップS7へ進む。
ステップS7では、停止中始動モードでの始動回数N
Sをカウントし、カウント数を1つ増やす。このカウントされた始動回数N
Sは累積回数算出部51の算出に利用するため記憶される。
【0037】
ステップS5、S6、S7のいずれかを経た後、累積回数算出部51によって累積始動回数Nを算出する(ステップS8)。
このとき、スタータ1の始動モードが、リングギヤ5の磨耗への影響度が高いモードであるほど重み係数が大きくなるように重み付けをして累積始動回数Nを算出する。
すなわち、以下の式(1)に示すように、始動回数N
D、始動回数N
R、始動回数N
Sにそれぞれ異なる係数を重み係数として乗じた上で、合計する。
N=aN
S+bN
R+cN
D・・・式(1)
【0038】
aは停止中始動モードの重み係数、bは逆回転中始動モードの重み係数、cは降下中始動モードの重み係数である。
停止中始動モードでは、リングギヤ5が停止しているため、ピニオン6と噛み合いにくく、噛み合い時に衝突した場合にはモータトルクがかかるため磨耗しやすい。また、逆回転中始動モードでは、クラッチ13が働かない方向であるため、噛み合い時にピニオン6とリングギヤ5が衝突した場合の衝突力が大きく、リングギヤが磨耗しやすい。一方、降下中始動モードでは、リングギヤが正回転しているためピニオン6と噛み合いやすいため、逆回転中始動モード及び停止中始動モードと比較するとギヤ磨耗への影響は少ない。
このため、a及びbをcよりも大きくし、重み付けをする。
【0039】
累積始動回数Nを算出したら、ステップS9において、遅れ時間Δtを算出する。
すなわち、遅れ時間設定部50で、累積回数算出部51から出力される累積始動回数NとMAPとを用いて遅れ時間Δtを設定する。
【0040】
そして、
図5に示すように、SL1信号をONにしてからΔt遅れてSL2信号をONにすることで、ピニオン6を押し出す押出タイミングに対して、モータ3の回転を開始するモータ始動タイミングを遅らせる。なお、
図5において、スタータ1の始動信号がONになってからエンジン回転数が所定値に達するまでを始動応答時間と呼ぶ。エンジン回転数が所定値に達すると始動信号をOFFにする。
【0041】
〔実施例1の作用効果〕
本実施例の始動装置では、遅れ時間Δtを累積始動回数Nに基づいて設定している。累積始動回数Nは大きいほど、ギヤ磨耗量が大きいと推定できるパラメータであるため、累積始動回数Nに基づいて遅れ時間Δtを設定することにより、ギヤ磨耗の度合いに応じて最適な遅れ時間を設定することができる。これにより、ギヤ磨耗が生じても、噛み合い不良を回避することができる。
【0042】
また、本実施例では、リングギヤ5の磨耗への影響度が高い始動モードであるほど重み係数が大きくなるように重み付けをして累積始動回数Nを算出する。
これによれば、累積始動回数Nによるギヤ磨耗量の推定がより正確になるため、ギヤ磨耗の度合いに応じたより最適な遅れ時間Δtを設定することができる。
【0043】
〔実施例2〕
実施例2を、実施例1とは異なる点を中心に、
図6〜7を用いて説明する。
なお、実施例1と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
本実施例では、スタータ1への駆動開始指令があった場合に、始動モードを判別して、始動モード毎に異なる遅れ時間を設定する。
そのため、スタータ1への駆動開始指令があったら、始動モードの判別結果を遅れ時間設定部50における遅れ時間Δtの算出にも使用できるようにする。
そして、遅れ時間設定部50は、累積始動回数Nと遅れ時間Δtとの相関を始動モード毎に異なるMAPを用いて累積始動回数Nに応じた遅れ時間Δtを設定する。すなわち、降下中始動モードの場合にはMAP
Dを、逆回転中始動モードの場合にはMAP
R、停止中モードの場合にはMAP
Sを用いて、遅れ時間Δtを設定する。
【0044】
上述のように、始動モードによってリングギヤ5とピニオン6との噛み合いやすさは異なっており、ギヤ磨耗量も異なる。そのため、一律に同じ遅れ時間Δtを適用すると、例えば、噛み合いやすい降下中始動モードの場合に、不必要に始動応答時間が長くなってしまう虞がある。
【0045】
以下、実施例2の遅れ時間設定の流れを
図7を用いて説明する。
まず、ステップ1と同様に、スタータ1を駆動する駆動指令があったか否かを判定する(ステップS101)。
【0046】
ステップS101の判定結果がYESの場合には、実施例1におけるステップS8と同様に記憶されている始動回数N
D、始動回数N
R、始動回数N
Sを用いて始動モードに基づく重み付けをされた累積始動回数Nを算出する(ステップS102)。
【0047】
その後、実施例1のステップS2〜S4と同じ要領で始動モード判別部52により始動モードを判別する(S103〜S105)。
【0048】
ステップS103での判定結果がYESであり、始動モードが降下中始動モードであると判定された場合は、ステップS106へ進む。
ステップS106では、累積始動回数NとMAP
Dとを用いて遅れ時間Δtを設定する。
その後、ステップS107で、降下中始動モードでの始動回数N
Dのカウント数を1つ増やす。このカウントされた始動回数N
Dは累積回数算出部51の算出に利用するため記憶される。
【0049】
ステップS104での判定結果がYESであり、始動モードが逆回転中始動モードであると判定された場合は、ステップS108へ進む。
ステップS108では、累積始動回数NとMAP
Rとを用いて遅れ時間Δtを設定する。
その後ステップS109で、降下中始動モードでの始動回数N
Rのカウント数を1つ増やす。このカウントされた始動回数N
Rは累積回数算出部51の算出に利用するため記憶される。
【0050】
ステップS105での判定結果がYESであり、始動モードが停止中始動モードであると判定された場合は、ステップS110へ進む。
ステップS110では、累積始動回数NとMAP
Sとを用いて遅れ時間Δtを設定する。
その後ステップS111で、降下中始動モードでの始動回数N
Sのカウント数を1つ増やす。このカウントされた始動回数N
Sは累積回数算出部51の算出に利用するため記憶される。
【0051】
〔実施例2の作用効果〕
本実施例によれば、スタータ1への駆動開始指令があった場合に、始動モードを判別して、始動モード毎に異なる遅れ時間を設定する。これによれば、始動モードに応じて最適な遅れ時間Δtを設定することができる。
例えば、遅れ時間Δtを長くする必要のない始動モード(降下中始動)の場合には、遅れ時間Δtを短く設定することができ、始動応答時間を短縮することができる。
【0052】
〔実施例3〕
実施例3を、実施例1とは異なる点を中心に、
図8、9を用いて説明する。
なお、実施例1と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
本実施例では、制御手段が、累積回数算出部51に替わって、始動応答時間記憶部53を有する。
始動応答時間記憶部53は、スタータ1の使用毎に始動応答時間を記憶する。
そして、遅れ時間設定部50は、始動応答時間記憶部53に記憶された前回の始動時における始動応答時間(以下、前回始動応答時間と呼ぶ)に基づいて、遅れ時間Δtを設定する。
【0053】
具体的には、本実施例の遅れ時間設定部50は、始動モード毎に記憶された始動応答時間T
D、T
R、T
Sと、始動モード毎に記憶されたMAP
TD、MAP
TR、MAP
TSとを用いて、各始動モード毎に遅れ時間を設定する。
なお、始動応答時間T
Dは降下中始動モードにおける前回始動応答時間であり、始動応答時間T
Rは逆回転中始動モードにおける前回始動応答時間であり、始動応答時間T
Sは停止中始動モードにおける前回始動応答時間である。
また、MAP
TDは始動応答時間T
Dと遅れ時間Δtとの相関マップであり、MAP
TRは始動応答時間T
Rと遅れ時間Δtとの相関マップであり、MAP
TSは始動応答時間T
Sと遅れ時間Δtとの相関マップである。
【0054】
以下、実施例3の遅れ時間設定の流れを
図9を用いて説明する。
まず、ステップ1と同様に、スタータ1を駆動する駆動指令があったか否かを判定する(ステップS201)。
【0055】
ステップS201の判定結果がYESの場合には、実施例1のステップS2〜S4と同じ要領で始動モード判別部52により始動モードを判別する(S202〜S204)。
【0056】
ステップS202での判定結果がYESであり、始動モードが降下中始動モードであると判定された場合は、ステップS205へ進む。
ステップS205では、始動応答時間T
DとMAP
TDとを用いて遅れ時間Δtを設定する。
その後ステップS206で、降下中始動モードでの今回の始動応答時間をカウントし、始動応答時間T
Dとして記憶される。
【0057】
ステップS203での判定結果がYESであり、始動モードが逆回転中始動モードであると判定された場合は、ステップS207へ進む。
ステップS207では、始動応答時間T
RとMAP
TRとを用いて遅れ時間Δtを設定する。
その後ステップS208で、逆回転中始動モードでの今回の始動応答時間をカウントし、始動応答時間T
Rとして記憶される。
【0058】
ステップS204での判定結果がYESであり、始動モードが停止中始動モードであると判定された場合は、ステップS209へ進む。
ステップS209では、始動応答時間T
SとMAP
TSとを用いて遅れ時間Δtを設定する。
その後ステップS210で、停止中始動モードでの今回の始動応答時間をカウントし、始動応答時間T
Sとして記憶される。
【0059】
〔実施例3の作用効果〕
本実施例によれば、各始動モード毎に、始動応答時間に基づいて遅れ時間Δtを設定している。
始動応答時間は、ピニオン6の噛み合いに時間を要する場合に長くなる。このため、始動応答時間は、噛み合い時間に影響するギヤ磨耗やバッテリ劣化等に関係するパラメータといえる。
したがって、始動応答時間に基づいて遅れ時間を設定することにより、ギヤ磨耗やバッテリ劣化の度合いに応じて最適な遅れ時間を設定することができるため、ギヤ磨耗やバッテリ劣化が生じても、噛み合い不良を回避することができる。
なお、本実施例では、前回始動応答時間を用いて遅れ時間Δtを算出したが、前回以前の数回の始動応答時間を記憶しておき、その平均値を用いて遅れ時間Δtを設定してもよい。
【0060】
〔実施例4〕
実施例4を、実施例1とは異なる点を中心に、
図10〜12を用いて説明する。
なお、実施例1と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
本実施例では、制御手段が、始動応答時間が所定時間以上の場合に、スタータ1が異常であると判断する異常判定部54を有する。
異常判定部54は始動モード判別部52からの信号を受け、始動モード毎に異常判定を行う。
【0061】
以下、異常判定の流れを
図11及び
図12を用いて説明する。この異常判定は、遅れ時間Δt設定のフローとは別の制御ルーチンで実施される。
まず、ステップ1と同様に、スタータ1を駆動する駆動指令があったか否かを判定する(ステップS301)。
【0062】
ステップS301の判定結果がYESの場合には、ステップS302で、エンジンが始動できたか否かを判定する。すなわち、エンジンの回転数が所定値に達したか否かを判定する。この判定結果がNOの場合は、スタータに異常が生じている(例えば噛み合い不良が生じている)と判断し、アイドルストップを禁止する(ステップS303)。
【0063】
ステップS301の判定結果がNOの場合には、実施例1のステップS2〜S4と同じ要領で始動モード判別部52により始動モードを判別する(S304〜S306)。
【0064】
ステップS304での判定結果がYESであり、始動モードが降下中始動モードであると判定された場合は、ステップS307へ進む。
ステップS307では、今回の始動にかかった始動応答時間T
D1をカウントする。
その後ステップS308で、始動応答時間T
Dが所定値Dよりも大きいか否かを判定する。
この判定結果がYESの場合には、スタータに異常が生じていると判断し、アイドルストップを禁止する(ステップS303)。
【0065】
ステップS305での判定結果がYESであり、始動モードが逆回転中始動モードであると判定された場合は、ステップS309へ進む。
ステップS309では、今回の始動にかかった始動応答時間T
R1をカウントする。
その後ステップS310で、始動応答時間T
R1が所定値Rよりも大きいか否かを判定する。
この判定結果がYESの場合には、スタータに異常が生じていると判断し、アイドルストップを禁止する(ステップS303)。
【0066】
ステップS306での判定結果がYESであり、始動モードが停止中始動モードであると判定された場合は、ステップS311へ進む。
ステップS311では、今回の始動にかかった始動応答時間T
S1をカウントする。
その後ステップS312で、始動応答時間T
S1が所定値Dよりも大きいか否かを判定する。
この判定結果がYESの場合には、スタータに異常が生じていると判断し、アイドルストップを禁止する(ステップS303)。
【0067】
なお、この異常判定フローを、実施例3のエンジン始動装置に適用する場合には、始動応答時間T
D1、T
R1、T
S1に替えて、遅れ時間Δtの設定に用いる始動応答時間T
D、T
R、T
Sを使用してもよい。
【0068】
〔実施例4の作用効果〕
本実施例では、始動応答時間が所定値より長い場合には、スタータ1に異常が生じているとしてアイドルストップを禁止する。
ギヤ磨耗によって、噛み合いに時間が長く要するようになると、最終的には、噛み合いできず始動できないという噛み合い不良を招く。そのため、噛み合い時間が長い場合には始動応答時間も長くなるため、始動応答時間が所定値より大きくなった場合には、ギヤ磨耗の程度大きいと判断して、アイドルストップを禁止する。
これによれば、噛み合い不良を招く前に、ギヤ磨耗の度合いを判断してアイドルストップを禁止できる。
【0069】
〔実施例5〕
実施例5を、実施例1とは異なる点を中心に、
図13を用いて説明する。
なお、実施例1〜3と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
本実施例では、制御手段が、累積回数算出部51に加えて、実施例3に記載の始動応答時間記憶手段53を有する。
そして、遅れ時間設定部50は、始動応答時間T
D、T
R、T
Sに基づく第1の遅れ時間Δt1と、累積始動回数Nに基づく第2の遅れ時間Δt2とを算出し、第1の遅れ時間Δt1と第2の遅れ時間Δt2とのいずれか一方を遅れ時間Δtとして設定する。
【0070】
以下、実施例5の遅れ時間設定の流れを
図13を用いて説明する。
まず、ステップ1と同様に、スタータ1を駆動する駆動指令があったか否かを判定する(ステップS401)。
【0071】
ステップS401の判定結果がYESの場合には、実施例1におけるステップS8と同様に記憶されている始動回数N
D、始動回数N
R、始動回数N
Sを用いて始動モードに基づく重み付けをされた累積始動回数Nを算出する(ステップS402)。
【0072】
その後、実施例1のステップS2〜S4と同じ要領で始動モード判別部52により始動モードを判別する(S403〜S405)。
【0073】
ステップS403での判定結果がYESであり、始動モードが降下中始動モードであると判定された場合は、ステップS406へ進む。
ステップS406では、始動応答時間T
DとMAP
TDとを用いて第1遅れ時間Δt1を算出する。
その後、ステップS407では、累積始動回数NとMAP
Dとを用いて第2遅れ時間Δt2を算出する。
そして、ステップS408では、第1遅れ時間Δt1と第2遅れ時間Δt2とで大きい方を遅れ時間Δtとして設定する。
【0074】
その後、その後、ステップS409で、降下中始動モードでの始動回数N
Dのカウント数を1つ増やし、ステップS410で、降下中始動モードでの今回の始動応答時間をカウントし、始動応答時間T
Dとして記憶する。
【0075】
ステップS404での判定結果がYESであり、始動モードが逆回転中始動モードであると判定された場合は、ステップS411へ進む。
ステップS411では、始動応答時間T
RとMAP
TRとを用いて第1遅れ時間Δt1を算出する。
その後、ステップS412では、累積始動回数NとMAP
Rとを用いて第2遅れ時間Δt2を算出する。
そして、ステップS413では、第1遅れ時間Δt1と第2遅れ時間Δt2とで大きい方を遅れ時間Δtとして設定する。
【0076】
その後、その後、ステップS414で、逆回転中始動モードでの始動回数N
Rのカウント数を1つ増やし、ステップS415で、逆回転中始動モードでの今回の始動応答時間をカウントし、始動応答時間T
Rとして記憶する。
【0077】
ステップS405での判定結果がYESであり、始動モードが停止中始動モードであると判定された場合は、ステップS416へ進む。
ステップS416では、始動応答時間T
SとMAP
TSとを用いて第1遅れ時間Δt1を算出する。
その後、ステップS417では、累積始動回数NとMAP
Sとを用いて第2遅れ時間Δt2を算出する。
そして、ステップS418では、第1遅れ時間Δt1と第2遅れ時間Δt2とで大きい方を遅れ時間Δtとして設定する。
【0078】
その後、その後、ステップS419で、停止中始動モードでの始動回数N
Sのカウント数を1つ増やし、ステップS420で、停止中始動モードでの今回の始動応答時間をカウントし、始動応答時間T
Sとして記憶する。
【0079】
本実施例によって、実施例1〜3と同様に、ギヤ磨耗やバッテリの経時劣化に応じて始動モード毎に最適な遅れ時間を設定し、噛み合い不良を回避することができる。
【0080】
(変形例)
実施例1では、遅れ時間Δtを累積始動回数Nに基づいて設定していたが、スタータ1の始動時間の累積を用いてもよい。
また、実施例2において、始動モードが、停止中始動モードの場合のみ、モータ始動タイミングを遅れ時間Δtの分だけ遅らせてもよい。すなわち、ギヤ磨耗による噛み合い時間の経時変化が大きい停止中始動モードの場合のみ、ギヤ磨耗を考慮した遅れ時間Δtを設定する。
【0081】
また、
実施例3において、第1のソレノイド8への電力供給をするバッテリ25の劣化度合に応じて、遅れ時間を設定してもよい
。また、スタータ1の温度に応じて、遅れ時間Δtを設定してもよい
。
これらによれば、バッテリ劣化度合いやスタータ温度に応じて最適な遅れ時間を設定することができ、噛み合い不良を回避することができる。なお、スタータ温度とは、スタータ1自体の温度もしくはスタータ1が配される周辺の雰囲気温度を指す。
【0082】
また、実施例1では、第1の駆動リレー23の通電タイミングに対して、第2の駆動リレー35の通電タイミングを遅らせることにより、ピニオン6を押し出す押出タイミングに対して、モータ3の回転を開始するモータ始動タイミングを遅らせていた。しかし、ICRリレー42の切替えタイミングを変えることで、押出タイミングに対して、モータ始動タイミングを遅らせてもよい。
ICRリレー42はモータ始動時の突入電流を抑制するものであるが、突入電流のピーク値を下げることによりモータ3の回り出しを遅らせることができる。このため、ICRリレー42の切り替えタイミングを操作することで、押出タイミングに対してモータ始動タイミングを遅らせることが可能である。