(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
[実施の形態1にかかる装置の構成]
本発明の実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30は、波長980nmのブロードエリア型半導体レーザ装置である。一般に、ブロードエリア型半導体レーザ装置は、水平横方向に複数のモードが許容されうる程度の幅のストライプ領域を備えている。これと対比されるものとして、基本モードのみを許容する半導体レーザ装置(シングルモード半導体レーザ装置)があり、これは前述の特許文献1乃至4にも記載されているとおり狭い幅のストライプ領域を有するものである。ブロードエリア型半導体レーザ装置によれば、シングルモード半導体レーザ装置と比べて大きな出力を得ることができるといった利点がある。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30の構成を模式的に示す斜視図である。
【0016】
半導体レーザ装置30は、n型基板5と、半導体積層部32と、リッジ部20と、一対のテラス部22a、22bとを備えている。半導体積層部32は、n型基板5上に順次積層された第1導電型クラッド層(n型AlGaAsクラッド層6)、活性層(アンドープInGaAsウエル層8a、アンドープAlGaAsバリア層9、アンドープInGaAsウエル層8b)、および第2導電型クラッド層(p型AlGaAsクラッド層11)を有している。半導体積層部32は、共振器長方向を向く前端面24aおよび後端面24bを有している。前端面24aからレーザ光が射出される。
【0017】
半導体積層部32の上部には、リッジ部20が形成されている。リッジ部20は、ストライプ状の隆起部であり、電流および光の狭窄構造として設けられている。半導体積層部32の上部には、一対のテラス部22a、22bが設けられている。一対のテラス部22a、22bは、リッジ部20を挟むように(実施の形態1では、リッジ部20の中央部位を部分的に挟むように)、リッジ部20から離間して設けられた隆起部である。半導体レーザ装置30では、
図4から分かるように、リッジ部20とテラス部22a、22bの高さは同じである。これは、リッジ部20の積層構造とテラス部22a、22bの積層構造とにおいて、各層の厚さが同じだからである。
【0018】
半導体レーザ装置30の層構造についてより詳細に説明すると、半導体レーザ装置30は、n型基板5上に、半導体積層部32が積層されたものである。この半導体積層部32は、n型AlGaAsクラッド層6、アンドープAlGaAsガイド層7、アンドープInGaAsウエル層8a、アンドープAlGaAsバリア層9、アンドープInGaAsウエル層8b、アンドープAlGaAsガイド層10、p型AlGaAsクラッド層11、p型GaAsコンタクト層12、SiN膜13を含んでいる。半導体積層部32は、これら複数の層がn型基板5上に順次積層(成長)されたものである。
【0019】
n型AlGaAsクラッド層6は、Al組成比が0.25で、層厚1.5μmである。アンドープAlGaAsガイド層7は、Al組成比が0.15で、層厚700nmである。アンドープInGaAsウエル層8a、8bは、In組成比が0.14で、層厚8nmである。アンドープAlGaAsバリア層9は、Al組成比が0.15で、層厚8nmである。アンドープAlGaAsガイド層10は、Al組成比が0.15で、層厚700nmである。p型AlGaAsクラッド層11は、Al組成比が0.25で、層厚1.5μmである。p型GaAsコンタクト層12は、層厚200nmである。SiN膜13は、膜厚200nmである。
【0020】
SiN膜13上には、p電極14が設けられている。また、n型基板5の裏面には、n電極4が設けられている。
【0021】
リッジ部20の詳細について説明する。本実施の形態にかかる半導体レーザ装置30では、リッジ部20の幅は100μmとしている。そのうえで、半導体レーザ装置30は下記(1)式の関係を満たすものである。
(2π/λ)×(n
a2−n
c2)
1/2×(W/2) > π/2 ・・・(1)
レーザ発振波長をλとし、活性領域1の実効屈折率をn
aとし、クラッド領域の実効屈折率をn
cとし、活性領域1の幅をWとする。ここで、活性領域1の実効屈折率とは、全領域が活性領域1であった場合に、z方向に伝播する光が平均的に感じる屈折率のことである。実効屈折率を用いることにより、y方向の各層の屈折率と厚みが変わっても一つのパラメータn
aを用いて表すことができる。
【0022】
一対のテラス部22a、22bは、共振器長方向におけるリッジ部20の中央位置を挟むように設けられている。半導体積層部32の上部は、このテラス部22a、22b以外の部位として、第1部位34a、34bと第2部位34c、34dとを備えている。第1部位34a、34bは、リッジ部20の前端面24a側の端部を挟むように位置する部位である。第2部位34c、34dは、リッジ部20の後端面24b側の端部を挟むように位置し、かつ平面視で第1部位とともにテラス部22a、22bを挟むように位置する部位である。
【0023】
第1部位34a、34bおよび第2部位34c、34dの高さは、リッジ部20およびテラス部22a、22bよりも低くなっている。これは、第1部位34a、34bおよび第2部位34c、34dには、p型AlGaAsクラッド層11が設けられていないからである。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30の構成において、活性領域、クラッド領域、および高屈折率領域の区分を模式的に示す平面図である。すなわち、
図2は、半導体レーザ装置30の活性層(アンドープInGaAsウエル層8a、アンドープAlGaAsバリア層9、アンドープInGaAsウエル層8b)を、活性領域1、クラッド領域2a、2b、および高屈折率領域3a、3bに区分する様子を説明するための図である。
図2には、便宜的に、アンドープInGaAsウエル層8aの平面図が図示されている。
【0025】
活性領域1は、平面視でリッジ部20の下方に位置する領域である。高屈折率領域3a、3bは、活性領域1の両脇に位置し平面視でテラス部22a、22bの下方に位置する領域である。便宜上、高屈折率領域3a、3bを「テラス部下領域」とも称す。クラッド領域2a、2bは、活性領域1と高屈折率領域3a、3bとの間に位置する領域である。高屈折率領域3a、3bは、クラッド領域2a、2bよりも屈折率が高い領域である。
図2の平面図における各領域の区分は、そのまま、半導体レーザ装置30をリッジ部20上方位置から見下ろした場合における、リッジ部20、テラス部22a、22bの形成領域と対応している。
【0026】
図2に示すように、実施の形態1では、活性領域1の幅すなわちリッジストライプ幅は100μmであり、共振器長は4mmである。また、実施の形態1では、クラッド領域2a、2bの外側の一部に、クラッド領域2a、2bよりも屈折率が高い高屈折率領域3a、3bが、長さ0.5mmに亘って設けられている。
【0027】
図3は、
図2におけるX−X’に沿う半導体レーザ装置30の断面構造を模式的に示す図である。半導体レーザ装置30は、n型GaAsからなるn型基板5上に、n型AlGaAsクラッド層6、アンドープAlGaAsガイド層7、アンドープInGaAsウエル層8a、アンドープAlGaAsバリア層9、アンドープInGaAsウエル層8b、アンドープAlGaAsガイド層10、p型AlGaAsクラッド層11、p型GaAsコンタクト層12を、気相成長有機金属(MOCVD)法で順次結晶成長させたものである。
【0028】
本実施の形態においては、その後、リッジ部20を除き、エッチングによりp型GaAsコンタクト層12及びp型AlGaAsクラッド層11を選択的に除去する。更にリッジ部20の上面以外をSiN膜13で覆い、その上にp電極14を形成し、n型GaAs基板5の下にn電極4を形成する。
【0029】
図4は、
図2におけるY−Y’線に沿う半導体レーザ装置30の断面構造を模式的に示す図である。各層の構成および結晶成長方法については
図3で述べたのと基本的に同じであるが、テラス部22a、22bを形成するためにp型AlGaAsクラッド層11の隆起部を設ける点が異なっている。
つまり、
図2に示すように、平面視で、リッジ部20を形成するとともに、さらにリッジ部20中央位置を挟むように共振器長方向に0.5mmだけp型AlGaAsクラッド層11の隆起部を残し(
図2の高屈折率領域3a、3b位置)て、それ以外の部位についてはp型AlGaAsクラッド層11をエッチングで除去する。ここで、エッチングにより、リッジ部20(
図2では活性領域1の位置)と、テラス部22a、22b(
図2では高屈折率領域3a、3b)との間に、幅6μmで長さ0.5mmだけの隙間ができるように、エッチングでp型GaAsコンタクト層12及びp型AlGaAsクラッド層11を部分的に除去する。この隙間が、クラッド領域2a、2bを画定する。さらにSiN膜13の形成及びp電極14の形成を行うが、これは
図1、
図3および
図4からわかるとおり、半導体レーザ装置30上面の全領域に施す。
【0030】
[実施の形態1にかかる装置の動作]
半導体レーザ装置30では、n電極4およびp電極14に対する電圧印加により、n電極側からは電子が、p電極側からはホールが、それぞれアンドープInGaAsウエル層8a、8bに注入され、再結合し、レーザ光が生ずる。InGaAsウエル8a、8bからは、波長0.98μmのレーザ光が得られる。活性領域1はストレートなストライプ形状であり、周囲のクラッド領域2a、2bよりも屈折率が高い。このため、レーザ光は、主に、活性領域1に閉じこもることになる。
【0031】
半導体レーザ装置30は、活性領域1、クラッド領域2a、2bを備えている。本実施の形態では、幅100μmを有しかつ上記(1)式を満たす構造となっている。この条件を満たすので、活性領域1、クラッド領域2a、2bにより、基本モード(0次)を含めて2つ以上モードが許容されうるストレートな多モード導波路が構成されている。ただし、実施の形態1では、共振器内の一部のクラッド領域2a、2bの外側に、クラッド領域2a、2bの屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率領域3a、3bが設けられている。これにより、高屈折率領域3a、3bが無い場合に比べて、発振に至るモードの数を少なくできるという特徴が有り、これにより半導体レーザから出射されるレーザ光のビーム拡がり角を狭くすることができる。以下、この作用効果について、詳細に説明する。
【0032】
(モード数について)
本実施の形態にかかる半導体レーザ装置30の構造において、仮に、共振器内に高屈折率領域3a、3bが無い場合(つまりX−X’断面形状が共振器全体に亘って存在する場合)には、水平横方向(x方向)に0次から25次までのモードが許容される。これは、活性領域の実効屈折率とクラッド領域2a、2bの実効屈折率、及び活性領域1の幅により決まる。
【0033】
どれだけのモード数が許容されるかは、導波路構造に即した境界条件を当てはめて波動方程式を解くことで、算出することができる。許容されるモード数については、一般には、発振波長、活性領域1とクラッド領域2a、2bの屈折率、及び活性領域1の幅で決まる。発振波長が短いほど、活性領域1とクラッド領域2a、2bの屈折率差が大きいほど、そして活性領域1の幅が広いほど、許容されうるモード数が増す。
【0034】
本実施の形態にかかる半導体レーザ装置30において、仮に共振器内に高屈折率領域3a、3bが設けられていない場合(つまりテラス部22a、22bがない場合)には、0次から25次までの26のモードが許容されうる。これに対して、例えば上記のクラッド領域2a、2b形成のためのエッチングを、p型AlGaAsクラッド層11の途中で止めたり或いはアンドープAlGaAsガイド層10の途中で止めたりして、活性領域1とクラッド領域2a、2bの屈折率差を変えることでも、許容されるモード数は変わる。また、活性領域1の幅(リッジ部20の幅)を異なる値、例えば150μmとしただけでもモード数は変わる。このようなモード数変化の傾向を利用して、どの程度の数のモードを許容させるかを設計することができる。
【0035】
前述した(1)式の関係を満たすものであれば、本来であれば2つ以上の多モードが許容される半導体レーザ装置が構成されることになる。ここで、(1)式を参酌して説明すると、波長λが0.98μmで活性領域1の幅Wが50μmの場合は、(n
a2−n
c2)
1/2が0.0098よりも大きければ、2つ以上のモードが許容される多モード導波路となる。本実施の形態では活性領域1の実効屈折率n
aが3.41606なので、クラッド領域2a、2bの実効屈折率n
cが3.41604以下であれば、2つ以上のモードが許容されることとなる。これは、p型AlGaAsクラッド層11を、厚さ方向に0.85μm以上だけエッチングして除去すれば容易に実現可能である。そして、p型AlGaAsクラッド層11を全て除去した場合(実施の形態1の場合)には、更にクラッド領域の屈折率が低下し、結果的に26個のモードが許容されることとなる。半導体レーザを構成する組成、材料、寸法等が異なる場合も、このような傾向に従って設計すれば良い。
【0036】
(作用効果について)
図5は、本発明の実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30での作用効果をまとめた表である。説明の便宜上、(1)〜(5)に分けて作用効果をまとめている。
【0037】
(1)高屈折率領域3a、3b境界での電界については、低次モード(10次モード)では無視できるほど小さい(ピーク電界強度に対して6.4×10
−6倍)。これに対し、高次モード(25次モード)では無視できない大きさ(ピーク電界強度に対して0.059倍とピーク強度の5%以上)となる。
【0038】
(2)その結果、モード損失については、低次モード(10次モード)では無視できる程度に小さい。これに対し、高次モード(25次モード)では大きいこととなる。
【0039】
(3)各モードに損失差がある場合は、損失の小さいモードが発振することになる。従って、どのモードが発振するかについては、低次モード(10次モード)では発振するのに対し、高次モード(25次モード)では発振しない。つまり、低次モードを選択的にレーザ発振させることができる。
【0040】
(4)また、低次モード(10次モード)ではクラッド領域2a、2bへの入射角(
図7のθL)は相対的に大きい。一方、入射角θLに比べて、高次モード(25次モード)ではクラッド領域2a、2bへの入射角(
図7のθH)は小さい。これにより、前端面からの出射角については、低次モード(10次モード)では小さいのに対し、高次モード(25次モード)では大きくなる。
【0041】
(5)輝度については、低次モード(10次モード)では輝度が高いのに対し、高次モード(25次モード)では輝度が低い。半導体レーザ装置30では、低次モードを選択的にレーザ発振させることができるので、高輝度を得ることができる。
【0042】
以下、上記の作用効果(1)〜(5)について、それぞれ詳細に説明する。
【0043】
(モード次数と電界分布の関係)
図6は、低次モードの例として破線で10次モードの電界分布(符号15)を示し、高次モードの例として実線で24次モードの電界分布(符号16)を示した図である。多モード導波路の場合には、モードの次数によって、活性領域1内への電界分布の閉じこもり方が変化する。次数の低いモードの場合は活性領域1に多く閉じこもり、次数が高くなるにつれて活性領域1外へ拡がる。尚、電界分布を2乗したものが電力(パワー)分布であり、通常、光強度分布と言われている。
【0044】
図6によれば、10次モード電界(破線)は、比較的、活性領域1内に閉じこもることが分かる。これとは対照的に、24次モード電界(実線)は、活性領域1幅100μmよりも拡がりクラッド領域2a、2bに大きくしみ出している。
波動方程式を解くことによって得られるモードの性質上、屈折率の高い活性領域1では、電界はCOS(余弦)又はSIN(正弦)形の振動解となり、屈折率の低いクラッド領域2a、2bでは指数形(Exponential)の減衰解となる。
【0045】
(高屈折率領域と損失の関係)
共振器内でクラッド領域2a、2bの外側に高屈折率領域3a、3bを設けたことによる作用効果について述べる。
【0046】
クラッド領域2a、2bでは電界が指数関数的に減少し、無限遠ではゼロとなる。活性領域1からの距離が有限な場合は、有限な電界強度を有することになる。但し、この場合においても、電界強度のピーク値との比較においてほぼゼロとみなせる強度か否かを判断の指標とすることは可能と考える。
【0047】
高屈折率領域3a、3bでは、波動方程式を解くことによって求まる電界は、活性領域1と同様にCOS(余弦)又はSIN(正弦)形の振動解となる。活性領域1から続く電界が、クラッド領域2a、2b内で十分に減衰しクラッド領域2a、2bと高屈折率領域3a、3b境界でゼロと見なせる場合は、高屈折率領域3a、3bでの電界もゼロと見なせる。この場合、電界は、高屈折率領域3a、3bの影響を受けることなく共振器長方向(z方向)に伝搬する。
【0048】
一方、クラッド領域2a、2b内で電界が減衰しきれずクラッド領域2a、2bと高屈折率領域3a、3b境界で有限な電界強度を有する場合は、クラッド領域2a、2bに続く高屈折率領域3a、3bで電界はCOS(余弦)又はSIN(正弦)形の振動を繰り返す。この振動する電界は、x方向にエネルギーを伝えつつ共振器長方向(z方向)へ伝搬するため、共振器内を往復するモードとしては大きな損失を被ることとなる。
【0049】
10次モードについては、活性領域1の幅100μmよりも外側(100μm+6μm)位置での電界強度は、活性領域1内のピーク電界強度に対して6.4×10
−6倍となる。6.4×10
−6という値は1よりも十分に小さいので、100μm+6μmを超えた位置での電界は無視できる。このため、10次モードについては、x方向にエネルギーを伝えることがないので高屈折率領域3a、3bでの損失は無視できる。
【0050】
一方、24次モードでは、100μm+6μm位置での電界強度は、活性領域1内のピーク電界強度に対して0.059倍であり、ピーク強度の5%以上を有している。この値をもって高屈折率領域3a、3bに繋がりそこで振動するので、x方向にエネルギーを伝えることになり、損失となる。そこで、共振器内のクラッド領域2a、2bの外側に高屈折率領域3a、3bを設けることにより、高次モードの損失を増やすことができる。
なお、仮に高屈折率領域3a、3bが無い場合には、高次モードであっても活性領域1の外側で振動解となることが無いので、x方向にエネルギーを伝えることがなく、損失とはならない。
【0051】
(モード損失と発振の関係)
一般に、半導体レーザは、電流注入によって活性層で利得が生じ、注入する電流量を増すにつれて利得が大きくなる。この利得が損失と等しくなったときにレーザ発振に至る。活性領域が多モードを許容するものである場合、各モードで損失に差異が無い場合には、全てのモードが発振可能となる。この場合、半導体レーザからの出射光のビーム拡がり角は大きくなる。
【0052】
一方、各モードに損失差がある場合は、損失の小さいモードが発振することになる。本実施の形態にかかる半導体レーザ装置30は、これに当たるので、損失の小さいモードが発振する。
【0053】
この場合の損失は、各モードが共振器内を1往復する場合に各モードが受ける損失である。共振器長方向の微小区間(ΔZ)内の損失を、共振器長方向に1往復積分した値と考えることができる。
【0054】
(導波モードと輝度の関係)
図7は、活性領域を伝搬する導波モードの光跡を示す模式図であり、低次モードの光跡17(破線矢印)と、高次モードの光跡18(実線矢印)とがそれぞれ示されている。導波モードは、活性領域1とクラッド領域2a、2bで全反射しながら共振器長方向(z方向)に伝搬する。
【0055】
低次モードはクラッド領域2a、2bへの入射角(θ
L)が大きく、高次モードほど入射角(θ
H)は小さくなる。半導体レーザ装置30では、上述のように、高次モードの損失を選択的に増加させており、レーザ発振するモード数を低次モードとすることができるので、ビーム拡がり角を小さくすることが可能となる。このように、半導体レーザ装置30では、次数の低いモードを選択的に発振させて、前端面24aからの出射角を小さくし、輝度を高めることができる。
【0056】
また、テーパ上のストライプ領域を有する構造では、大出力を得ることが困難である。これに対し、本実施の形態にかかる半導体レーザ装置30によれば、リッジ部20が均一な幅を有するストレートなリッジ構造であり、ストレートなストライプ領域となっているので大出力を得ることもできる。
【0057】
図8および
図9は、本発明の実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30の実装構造を示す図である。本実施の形態では、
図8、
図9は、それぞれ、
図3、
図4の位置に対応する断面図である。
図8および
図9に示すように、半導体レーザ装置30を、ハンダ42を介して、ヒートシンク40にダイボンドすることとする。ハンダ42は、テラス部22a、22bとヒートシンク40とを電気的、機械的、および熱的に接合するとともに、第1部位34a、34bおよび第2部位34c、34dとヒートシンク40とを電気的、機械的、および熱的に接合している。
【0058】
一般に、活性領域の幅が広い、いわゆるブロードエリア半導体レーザ装置は、結晶成長側(リッジ部20側)をヒートシンクに接する形でダイボンドして、放熱を良くして大きな出力を得ようとする。この場合、ヒートシンクと半導体レーザ装置の間は、熱伝導の良いハンダを用いて接合する。半導体の熱伝導率は、ハンダに比べて1桁程度小さいので、半導体材料で構成される高屈折率領域3a、3bの面積が大きい場合は、放熱性が劣り、熱的に不利な状況となる。
【0059】
この点、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30は、高屈折率領域3a、3bをリッジ部20の中央位置のみに選択的に設けることとし、その一方で、第1部位34a、34bや第2部位34c、34dにはテラス部22a、22bを設けないこととしている。このようにテラス部22a、22bを小面積で設ける構成(テラス部22a、22bの共振器長方向の長さを相対的に短くした構成)のほうが熱的に有利である。よって、半導体レーザ装置30は、放熱性にも配慮した構成であり、大きな出力を得ることができる。
【0060】
なお、各モードの損失や放熱性は、半導体レーザ装置を構成する組成、材料、寸法等によって相違する。高屈折率領域3a、3bの共振器方向長さや面積は、制限したいモード数や必要とする光出力、放熱性を勘案して適宜設計すれば良い。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態にかかる半導体レーザ装置30は、幅が50μm以上であって、上記(1)式の条件を満たし、ストレートなストライプ構造を備えている。そして、クラッド領域2a、2bの外側にクラッド領域2a、2bの屈折率よりも屈折率が高い高屈折率領域3a、3bを設けている。これにより、高次のモードの伝搬損失を低次のモードの伝搬損失よりも大きくすることができる。その結果、大出力を得つつ高次モードの発振を抑制し、低次モードの選択的な発振が可能となる。
【0062】
また、本実施の形態では、リッジ部20が均一な幅を有するストレートなリッジ構造であり、ストレートなストライプ領域となっている。これにより、テーパ状のストライプ構造と比べて、大出力を得ることができるという利点もある。
【0063】
[実施の形態1の変形例]
本実施の形態では、活性領域1の幅を100μmとしているがこれに限るものではなく、一般的なブロードエリア半導体レーザにおける活性領域の幅として、50μm以上であればよく、前述した(1)式の関係を満たすことにより、基本モードを含めて2つ以上の横モードが許容されうる幅を備えた導波路であれば同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、共振器長を4mmとしているが、本発明はこれに限るものではない。必要とするレーザ出力によって共振器長は任意に選択し得る。
【0065】
本実施の形態では、高屈折率領域3a、3bが存在する位置でのクラッド領域2a、2b幅は6μmとしている。「高屈折率領域3a、3bが存在する位置でのクラッド領域2a、2bの幅」とは、すなわち、「リッジ部20の側面とテラス部22a、22bとの間の離間距離」である。しかしながら、本発明はこの6μmという寸法に限られるものではない。このクラッド領域2a、2bの幅を狭くすると、より低次のモードでも高屈折率領域3a、3bでx方向にエネルギーを伝達して、損失が生ずる。また、逆に、6μmよりも広くすると、より高次のモードでもx方向にエネルギーを伝達しなくなって、損失が抑制される。よって、高屈折率領域3a、3bが存在する位置でのクラッド領域2a、2bの幅は、どのモード次数以上の損失を増やすかによって任意に決めれば良い。
【0066】
また、本実施の形態においては、モードに損失を生じさせる方法として、共振器内の一部で(つまり共振器長方向の全部ではなく)、クラッド領域2a、2bの外側に高屈折率領域3a、3bを設けている。高屈折率領域3a、3bにおける共振器長方向の長さは、0.5mmとしている。しかしながら、本発明はこの0.5mmという寸法に限られるものではない。
【0067】
すなわち、高屈折率領域3a、3bにおける共振器長方向の長さが相対的に長くなると、高屈折率領域3a、3bによるモードの損失は大きくなる。これに伴い、高屈折率領域3a、3bが共振器長方向に長い場合は、高屈折率領域3a、3bで損失を無視できる低次モードと損失を生ずる高次モードとの間の損失差は大きくなる。
【0068】
逆に、高屈折率領域3a、3bが共振器長方向に短くなると、高屈折率領域3a、3bによるモードの損失は小さくなる。そうすると、高屈折率領域3a、3bが共振器長方向に短い場合は、高屈折率領域3a、3bで損失を無視できる低次モードと損失を生ずる高次モードとの間の損失差は小さくなる。
【0069】
半導体レーザは損失の小さいモードが発振するので、理想的には、少しでも損失差があれば良い。しかしながら、実際は、注入されるキャリア(電流)の空間的ホールバーニング等により各モードの利得に擾乱が生じる。このため、安定に低次モードを発振させる観点からは、高屈折率領域3a、3bを共振器長方向に長くして損失差を大きくする方が好ましい。
【0070】
なお、実施の形態1では、第1部位34a、34bと第2部位34c、34dの両方の部位の高さが、リッジ部20およびテラス部22a、22bよりも低くされている。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。第1部位34a、34bと第2部位34c、34dのいずれか一方の部位のみについて、その高さをリッジ部20およびテラス部22a、22bよりも低くしてもよい。
【0071】
実施の形態2.
図10は、本発明の実施の形態2にかかる半導体レーザ装置130の構成を模式的に示す斜視図である。半導体レーザ装置130は、実施の形態1と同様にブロードエリア半導体レーザ装置であり、n型基板5と、半導体積層部32と、リッジ部20と、一対のテラス部122a、122bとを備えている。半導体レーザ装置130は、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30と同様の構成(n型基板5、半導体積層部32、リッジ部20等)を備えているが、テラス部122a、122bの平面視形状が実施の形態1のテラス部22a、22bとは異なっている。
【0072】
図11は、本発明の実施の形態2の実施の形態の半導体レーザ装置130の構成において、活性領域、クラッド領域、および高屈折率領域の区分を模式的に示す平面図である。
図11は、実施の形態1における
図2に対応する図である。
図11の平面図における各領域の区分は、そのまま、半導体レーザ装置130をリッジ部20上方位置から見下ろした場合における、リッジ部20、テラス部122a、122bの形成領域と対応している。これは、実施の形態1における
図1と
図2の関係と同様である。
【0073】
実施の形態2では、高屈折率領域3a、3bが、半導体レーザ装置130の共振器内全体に亘って存在する場合である。つまり、テラス部122a、122bが、半導体レーザ装置130の共振器長方向全体にわたって(つまり前端面24aから後端面24bまで)設けられているのである。クラッド領域(低屈折率領域)の幅が8μmと広くなっている点を除き、断面形状は
図4と同じである。
【0074】
高屈折率領域3a、3bが共振器内全体に亘って存在するため、クラッド領域(低屈折率領域)幅を拡げても低次モードの損失と高次モードの損失に十分な差を設けることが可能である。よって、実施の形態2においても、損失の小さい低次モードを選択的に発振させることができる。
なお、本実施の形態ではクラッド領域(低屈折率領域)幅を8μmとしたが、これに限るものではなく、リッジ部20に対するテラス部122a、122bの離間距離を適宜に8μmと異なる値としてもよい。高次のモードと低次のモードの間に、どの程度の損失差を設けるかによって変え得るものである。
【0075】
尚、本実施の形態では、テラス部122a、122bが半導体レーザ装置の共振器長方向(z方向)のどの場所にも存在し、しかも幅も変化しない。これは、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30との比較では、活性層で発生する熱の放熱特性が劣る。しかしながら、低次のモードを選択的に発振させることは十分可能である。
【0076】
実施の形態3.
図12は、本発明の実施の形態3にかかる半導体レーザ装置230の構成を模式的に示す斜視図である。半導体レーザ装置230は、実施の形態1と同様にブロードエリア半導体レーザ装置であり、n型基板5と、半導体積層部32と、リッジ部20と、一対のテラス部222a、222bとを備えている。半導体レーザ装置230は、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30と同様の構成(n型基板5、半導体積層部32、リッジ部20等)を備えているが、テラス部222a、222bの平面視形状が実施の形態1のテラス部22a、22bとは異なっている。
【0077】
図13は、本発明の実施の形態3における半導体レーザ装置230の構成において、活性領域、クラッド領域、および高屈折率領域の区分を模式的に示す平面図である。
図13は、実施の形態1における
図2に対応する図である。
図13の平面図における各領域の区分は、そのまま、半導体レーザ装置230をリッジ部20上方位置から見下ろした場合における、リッジ部20、テラス部222a、222bの形成領域と対応している。これは、実施の形態1における
図1と
図2の関係と同様である。
【0078】
半導体レーザ装置230では、テラス部222a、222bの側面は、共振器長方向におけるリッジ部20の中央位置から、リッジ部20の前端面24a側の端部と後端面24b側の端部の両方にかけて、リッジ部20に対する距離が大きくなっている。このようなテラス部222a、222bの構成により、共振器内の中央部付近(リッジ部20の共振器方向中央部)においては、クラッド領域2a、2b(低屈折率領域)は幅が6μmでかつ長さが100μmとなっている。その他の部分は、半導体レーザ端面(前端面24a、後端面24b)に向うにつれて幅が拡がっている。
【0079】
実施の形態1では、高屈折率領域3a、3bをいわば島状に配置している。この場合、共振器内を伝搬する光は、高屈折率領域3a、3bがある部分と無い部分の境界で大きな屈折率変化を感じることになる。このため、活性領域1を伝搬する導波モードは、この境界で擾乱されて一部は放射モードと結合し、導波モード自体が不安定になる。
【0080】
そこで、実施の形態3では、境界でのモードの不安定化を防ぐため、
図13にも示すようにクラッド領域(低屈折率領域)の幅を拡がり角6度でテーパ状に拡げている。このため、活性領域1を伝搬する光は、緩やかな屈折率変化を感じ、クラッド領域幅6μm部分に近づくにつれて高次のモードは損失を増すようになる。一方、低次のモードはクラッド領域幅6μmに近づいても影響を受けにくいので損失は一定となり発振に到るようになる。
【0081】
また、前端面24aおよび後端面24b付近はクラッド領域2a、2b(低屈折率領域)が広いので、活性層で発生する熱を効率よくシートシンクへ伝えることができ、温度上昇による端面劣化を防ぐことができる。
【0082】
本実施の形態では、テーパの拡がり角を6度としているがこれに限るものではなく、導波モードの擾乱をより抑制したい場合は拡がり角を狭くすれば良い。また、クラッド領域2a、2b(低屈折率領域)を直線のテーパで拡大しているが、曲線のテーパで拡げても良い。実施の形態3では、活性領域1に近い高屈折率領域3a、3bの長さは100μmであるが、本発明はこれに限るものでない。
【0083】
なお、テラス部222a、222bの側面は、リッジ部20の前端面24a側の端部と後端面24b側の端部のうち少なくとも一方の端部にかけてのみ、リッジ部20に対する距離を大きくしてもよい。
【0084】
実施の形態4.
図14は、本発明の実施の形態4にかかる半導体レーザ装置330の構成を模式的に示す斜視図である。半導体レーザ装置330は、実施の形態1と同様にブロードエリア半導体レーザ装置であり、n型基板5と、半導体積層部32と、リッジ部20と、一対のテラス部322a、322bとを備えている。半導体レーザ装置330は、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置30と同様の構成(n型基板5、半導体積層部32、リッジ部20等)を備えているが、テラス部322a、322bの平面視形状が実施の形態1のテラス部22a、22bとは異なっている。
【0085】
図15は、本発明の実施の形態4における半導体レーザ装置330の構成において、活性領域、クラッド領域、および高屈折率領域の区分を模式的に示す平面図である。
図15は、実施の形態1における
図2に対応する図である。
図11の平面図における各領域の区分は、そのまま、半導体レーザ装置230をリッジ部20上方位置から見下ろした場合における、リッジ部20、テラス部322a、322bの形成領域と対応している。これは、実施の形態1における
図1と
図2の関係と同様である。
【0086】
半導体レーザ装置330では、テラス部322a、322bの側面は、リッジ部20の前端面24aからリッジ部の後端面24b側の端部にかけて、リッジ部20に対する距離が大きくなる。
【0087】
前端面24aに接する形で、幅が6μmで長さが100μmのクラッド領域2a、2b(低屈折率領域)が存在し、後端面24bに向うにつれてクラッド領域2a、2b(低屈折率領域)幅は拡がり角3度のテーパ状に拡大している。このため、活性領域1を伝搬する光は、急激な屈折率変化を感じることがなくスムーズに高次モードの損失を増やすことができ、低次モードは損失の増加がないのでレーザ発振に到ることができる。
【0088】
本実施の形態によれば、クラッド領域2a、2b(低屈折率領域)のうち幅を狭くした部分(つまり、テラス部とリッジ部との最短距離部分)を、共振器端面に接するように端に寄せて配置している。これにより、クラッド領域2a、2b(低屈折率領域)を広げるテーパ角を小さくできるので、活性領域1を伝搬する光が感じる屈折率変化をより緩やかにすることができる。
【0089】
また、共振器端面近傍のクラッド領域2a、2b(低屈折率領域)を拡げることにより、当該活性層近傍では活性層(アンドープInGaAsウエル層8a、アンドープAlGaAsバリア層9、アンドープInGaAsウエル層8b)とp電極14の間の距離を短くすることができる。これにより放熱性を高くできるという利点がある。特に、本実施の形態のように、クラッド領域2a、2b(低屈折率領域)幅の広い端面を、レーザ光が多く出射される前端面24aとすることで、温度上昇に起因する端面劣化を抑制することが可能となる。
【0090】
本実施の形態では、クラッド領域2a、2b(低屈折率領域)幅の拡がり角を3度とし、クラッド領域2a、2b(低屈折率領域)の幅のうち最も狭い部分の幅を6μmとし、活性領域1に最も近い部分の高屈折率領域3a、3bの長さを100μmとしている。しかしながら、本発明はこれに限るものではない。実施の形態1において述べたように、これらの部位の寸法は、どのモード次数以上の損失を増やすかや生じさせたいモード損失差、放熱性等に応じて設計変更することができる。
【0091】
上記実施の形態4とは逆に、テラス部322a、322bの側面が、リッジ部20の後端面24bからリッジ部の前端面24aにかけて、リッジ部20に対する距離が大きくなるようにしてもよい。
【0092】
上述した実施の形態1乃至4では、980nmで発振するブロードエリア半導体レーザを例に説明した。しかしながら、本発明はこれに限るものではない。400nm帯の青紫色ブロードエリア半導体レーザ、500nm帯の青色ブロードエリア半導体レーザ、800nm帯の近赤外ブロードエリア半導体レーザ、1000nm以上のブロードエリア半導体レーザ等、任意の波長で発振するブロードエリア半導体レーザに本発明は適用可能である。
【0093】
本願発明の実施の形態では、活性領域1と高屈折率領域3a、3bの積層構造が同じであり、これらの領域の屈折率が同じであるが、本発明はこれに限られるものではない。活性領域1をエッチングしたりまたは追加の結晶成長を行ったりして、活性領域1を、高屈折率領域3a、3bよりも屈折率が低いものまたは高いものとしてもよい。この場合にも、低次モードの選択的発振という効果を得ることができる。また、高屈折率領域3a、3bをエッチングしたりまたは追加の結晶成長を行ったりして、高屈折率領域3a、3bの屈折率を活性領域1の屈折率よりも低くまたは高くしてもよい。