【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例及び比較例を記載する。なお、以下「膜厚」としたものは幾何学厚みを指すものとする。
【0053】
実施例1
ガラス基材上に、膜厚35nmのAl
2O
3含有ZnO(以下、AZOと記載することもある)膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAl含有Zn(以下、AZと記載することもある)膜、膜厚92nmのAZO膜、膜厚22nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚25nmのAZO膜、膜厚10nmのSnO
2膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。ガラス基材には厚み6mmのソーダライムガラスを用いた。
【0054】
AZO膜は、Alを2質量%含むZnターゲットを用い、O
2ガスをプロセスガスとして導入し、圧力0.3Pa、DCパルス電源の出力電力を1.0kWとして形成した。
【0055】
Ag膜は、Agターゲットを用い、Arガスをプロセスガスとして導入し、圧力0.3Pa、DC電源の投入電力0.36kWとして形成した。
【0056】
AZ膜は、Alを4質量%含むZnターゲットを用い、Arガスをプロセスガスとして導入し、圧力0.6Pa、DC電源の出力電力を0.12kWとして形成した。なお、AZ膜は上層のAZO膜が形成される際に、一部又は全てが酸化されると想定される。
【0057】
SnO
2は、Snターゲットを用い、O
2ガスをプロセスガスとして導入し、圧力0.3Pa、DCパルス電源の出力電力を1.0kWとして形成した。
【0058】
なお、各層の形成において、所望の膜厚が得られるようにターゲット前面を通過する基材の搬送速度を調整した。
【0059】
実施例2
ガラス基材上に、膜厚40nmのAZO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚96nmのAZO膜、膜厚20nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚25nmのAZO膜、膜厚10nmのSnO
2膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。Ag膜形成時のプロセスガスにO
2ガスを5体積%含有するArガスを用いた以外は、実施例1と同様の形成方法とした。
【0060】
実施例3
ガラス基材上に、膜厚40nmのAZO膜、膜厚9nmのAg膜、膜厚4nmのAZ膜、膜厚95nmのAZO膜、膜厚20nmのAg膜、膜厚4nmのAZ膜、膜厚27nmのAZO膜、膜厚10nmのSnO
2膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。ガラス基材には厚み3mmのソーダライムガラスを用いた。各膜の形成方法は実施例1を同様とした。
【0061】
実施例4
ガラス基材上に、膜厚40nmのAZO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚105nmのAZO膜、膜厚25nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚36nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。ガラス基材には厚み3mmのソーダライムガラスを用いた。AZO膜形成時の電源と出力電力を、DC電源と2.0kWとした以外は実施例1と同様の形成方法とした。
【0062】
実施例5
ガラス基材上に膜厚40nmのAZO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚104nmのAZO膜、膜厚25nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚35nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。Ag膜形成時のプロセスガスにO
2ガスを5体積%含有したArガスを用いた以外は、実施例4と同様の形成方法とした。
【0063】
比較例1
ガラス基材上に、膜厚30nmのZnO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚6nmのAZO膜、膜厚87nmのZnO膜、膜厚17nmのAg膜、膜厚6nmのAZO膜、膜厚30nmのZnO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。ガラス基材には厚み6mmのソーダライムガラスを用いた。
【0064】
ZnO膜は、Znターゲットを用い、O
2ガスをプロセスガスとして導入し、圧力0.4Pa、DC電源の出力電力を1.0kWとして形成した。
【0065】
AZO膜は、Al
2O
3を3質量%含むZnOターゲットを用い、Arガスをプロセスガスとして導入し、圧力0.7Pa、DC電源の出力電力を0.12kWとして形成した。
【0066】
Ag膜は実施例1と同様の形成方法とした。
【0067】
比較例2
ガラス基材上に、膜厚30nmのZnO膜、膜厚12nmのAg膜、膜厚6nmのAZO膜、膜厚87nmのZnO膜、膜厚17nmのAg膜、膜厚6nmのAZO膜、膜厚30nmのZnO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。各膜の形成方法は比較例1と同様にした。
【0068】
比較例3
ガラス基材上に、膜厚41nmのAZO膜、膜厚12nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚99nmのAZO膜、膜厚22nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚39nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。各膜の形成方法は実施例1と同様にした。
【0069】
比較例4
ガラス基材上に、膜厚37nmのAZO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚84nmのAZO膜、膜厚20nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚25nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。AZO膜形成時の電源と出力電力を、DC電源と1.0kWとした以外は実施例1と同様の形成方法とした。
【0070】
比較例5
ガラス基材上に、膜厚35nmのAZO膜、膜厚19nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚104nmのAZO膜、膜厚14nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚45nmのAZO膜をDCマグネトロン順次スパッタリング装置を用いて形成した。各膜の形成方法は比較例4と同様にした。
【0071】
比較例6
ガラス基材上に、膜厚16nmのAZO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚92nmのAZO膜、膜厚22nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚35nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。各膜の形成方法は実施例1と同様にした。
【0072】
比較例7
ガラス基材上に、膜厚43nmのAZO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚112nmのAZO膜、膜厚21nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚40nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。各膜の形成方法は実施例1と同様にした。
【0073】
比較例8
ガラス基材上に、膜厚35nmのAZO膜、膜厚10nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚96nmのAZO膜、膜厚22nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚43nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。各膜の形成方法は実施例1と同様にした。
【0074】
比較例9
ガラス基材上に、膜厚40nmのAZO膜、膜厚11nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚105nmのAZO膜、膜厚31nmのAg膜、膜厚3nmのAZ膜、膜厚36nmのAZO膜を順次DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて形成した。各膜の形成方法は実施例4と同様にした。
【0075】
得られた各実施例及び比較例の各層について、光学厚みを算出し、光学厚み及び幾何学厚みを表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
得られた実施例及び比較例の光学特性を分光光度計(U−4000、日立製作所製)で測定し、JIS R3106(1998)に準拠した方法で、日射透過率(Ts)、可視光透過率(Tv)、ガラス基材側から光を入射した場合の可視光反射率(Rv)、低放射薄膜積層体側から光を入射した場合の日射吸収率(As)、ガラス基材側の反射色の刺激純度を求めた。また、ガラス基材側の反射色調を、JIS Z8729(2004)に準拠した方法で、CIE L
*a
*b
*色度座標図におけるa
*、b
*の値を求めた。各結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
実施例1〜5は、日射透過率が最小で22%程度、最大でも30%程度となる遮熱性を有していた。また、実施例1〜3はブルー系、実施例4、5はグリーン系の反射色調であり、刺激純度がいずれも23%以下となるものであった。
【0080】
また、実施例4と実施例5は、各層の構成がほぼ同じであるが、実施例5はAg膜形成時のプロセスガスにO
2ガスを含有するArガスを用いることで、実施例4と比べて日射吸収率を増加させたものである。実施例5により、日射透過率や反射色調が同程度ながら、可視光反射率が実施例4よりも低いものとなることがわかった。
【0081】
比較例1は第2層と第4層の合計の幾何学厚みが27nmであり、日射透過率が36%程度となり、遮熱性の点で不十分であった。
【0082】
また、実施例3と比較例2とは、第2層と第4層との合計膜厚が同じだが、その比率が異なるものである。比較例2の方が実施例3よりも日射透過率が高く、刺激純度も高いものであった。
【0083】
また、実施例1と比較的近い日射透過率を示す比較例3とを比較すると、どちらも可視光透過率、可視光反射率が同程度であり、基材側の反射色調の色度座標がa
*>b
*であった。しかし、比較例3の方が日射透過率が低く遮熱性は高いが、一方で比較例3はb
*の値が−15を下回り、刺激純度が30%以上であることから、彩度が高く視認者に周辺環境との違和感を与え易いものであった。
【0084】
また、実施例2と比較例4とは、第2層及び第4層の膜厚が同じであり、比較例4の第3層の光学厚みが180nm未満となるものである。実施例2に比べて比較例4の日射透過率は低く、高い遮熱性を有するものであるが、比較例4のa
*が4.4であり、反射色調が赤味を呈するものであった。
【0085】
また、比較例5は第4層よりも第2層を厚くしたものであるが、a
*が3.6と、反射色調が赤味を呈するものであった。
【0086】
また、実施例1と比較例6は第1層の膜厚が異なるものであるが、その他の膜構造はほぼ同等のものである。実施例1は良好な反射色調を有するのに対し、比較例6では刺激純度が34%を超え、彩度が高く、周辺環境と調和し難いものであった。
【0087】
また、比較例7は第3層の膜厚が厚い以外は、実施例1及び実施例2と類似した膜構造を有したものである。比較例7の日射透過率や反射色調は実施例1及び実施例2と同程度であるが、可視光透過率が7.5〜9.0%劣るものであった。
【0088】
また、実施例1と比較例8は第2層と第4層の膜厚は同じであり、比較例8の第5層の光学厚みが80nmを超えるものである。比較例8の可視光透過率及び日射透過率は実施例1に対してやや高い程度であるが、基材側の反射色調のb
*の値が−28.0と非常に彩度の高いものであった。
【0089】
また、比較例9は実施例4と第1層、第3層、第5層の膜厚が同じであるが、第2層と第4層の膜厚の和が40nmを超えるものであり、可視光透過率が37.1%と、第2層と第4層の膜厚の和が40nm以下の場合と比べて低い値を示した。
【0090】
以上より、本発明により高い遮熱性と環境に調和した反射色調を有するLow−Eガラスが得られた。