(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光ファイバ用線引炉の上端開口部と該上端開口部から挿入される光ファイバ用ガラス母材との間の隙間を塞ぐための光ファイバ用線引炉のシール構造を用いて光ファイバを線引する光ファイバの線引方法であって、
上下2段で互い違いに配され、前記光ファイバ用ガラス母材の側面に当接する先端部を有した複数のブレード部材を備え、前記先端部は、上下の前記ブレード部材が重なり合う位置にて、上下の前記ブレード部材が前記光ファイバ用ガラス母材の側面に線接触させて光ファイバを線引することを特徴とする光ファイバの線引方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1により、本発明が適用される線引炉の概略を説明する。なお、以下ではヒータにより炉心管を加熱する抵抗炉を例に説明するが、コイルに高周波電源を印加し、炉心管を誘導加熱する誘導炉にも、本発明は適用可能である。線引炉1は、炉筐体2と、炉心管3と、加熱源(ヒータ)4と、シール機構8とを備えている。炉筐体2は、上端開口部2aと下端開口部2bを有し、例えば、ステンレス鋼製で形成されている。炉心管3は、炉筐体2の中央部に円筒状で形成され、上端開口部2aと連通している。炉心管3はカーボン製で、この炉心管3内には、ガラス母材5が上端開口部2aからシール機構8でシールされて挿入されるようになっている。
【0018】
炉筐体2内には、ヒータ4が炉心管3を囲むように配置され、断熱材7がヒータ4の外側を覆うように収納される。ヒータ4は、炉心管3の内部に挿入されたガラス母材5を加熱溶融し、その下端部5aから溶融縮径された光ファイバ5bを溶融垂下させる。ガラス母材5は、別途設けた移動機構により線引方向(下側方向)に移動させることが可能となっており、ガラス母材5の上側には、ガラス母材5を吊り下げて支持するための支持棒6が連結されている。また、線引炉1には図示しない不活性ガス等の供給機構が設けられており、炉心管3内やヒータ4の周りに酸化や劣化防止のために不活性ガス等を供給するようになっている。
【0019】
なお、
図1では、炉心管3の内壁の上端部がそのまま上端開口部2aを形成している例を挙げているが、これに限ったものではない。例えば、炉心管3の内径dよりさらに狭い上端開口部となる上蓋を炉心管3の上側に設けてもよく、この場合にシール対象となる隙間は、この狭い上端開口部とガラス母材5との間に生じる隙間となる。また、ガラス母材5の断面形状は、基本的に真円を目指して生成されたものとするが、その精度を問わず一部で非円が存在してもよく、また楕円形などであってもよい。また、上端開口部2aの断面は円形としておけばよいが、この精度は問わない。
【0020】
本発明は、線引炉1の上端開口部2aと上端開口部2aから挿入されたガラス母材5の外周との間の隙間Sを塞ぐためのシール機構8を対象とするもので、特に、上端開口部2aに設けたシール機構8によって炉外の外気を巻き込まないようにしながら、炉内のガラス母材5をヒータ4により加熱することを特徴とする。なお、ガラス母材5の上部に配した蓋体9は、線引工程の終了近くのシールに対応させるもので、これについては後述する。
【0021】
[第1の実施形態]
以下、
図2を参照して、シール機構の第1の実施形態に係るシール構造を説明する。
図2はシール構造10の概略を示す斜視図である。
シール構造10は、耐熱性を持った複数のブレード部材14,15と、ブレード部材14,15を支持する支持機構の一部となる円筒11と、ブレード部材14,15を内方に押圧する作用を備えた機構(以下、押圧作用機構という)とを備える。以下、後述する外側円筒12と区別するために、円筒11を内側円筒と称する。なお、外側円筒12も、ブレード部材14,15を支持する支持機構の一部をなしている。
【0022】
内側円筒11は、複数のブレード部材14,15をスライド移動させるための複数のガイド孔13a,13bを、その内側円筒11の円周上に、例えば、互い違いに2段備えている。ガイド孔13a,13bは、内側円筒11の中心軸に対して放射状に設けられていて、ブレード部材14,15も放射状に直線的に移動可能に設置される。ガイド孔13a,13bは、例えば、内側円筒11に直接設けるのではなく、
図3にも示すように、内側円筒にブレード部材14,15を収納するための円盤状の収納部13を設け、その収納部13に各ガイド孔13a,13bを設けることができる。
【0023】
ブレード部材14,15は、例えば、移動方向に垂直な面での断面形状が略長方形となる略直方体形状とする。なお、ブレード部材14,15の厚みは薄くてよく、例えば、厚さ1mm程度であってもよい。なお、上述のガイド孔13a,13bはブレード部材14,15の断面形状に合った形状の孔となっている。
【0024】
ブレード部材14,15の先端は、後述のように、押圧作用機構によって押圧された時にガラス母材の側面に当接される。従って、ブレード部材14,15の先端は、当接時にガラス母材との隙間を可能な限り小さくするために、ガラス母材の半径として想定される最大値(使用されるガラス母材の最大径)に合うような曲率を持つ円弧形状にしておくことが好ましい。
図2等は、このような円弧を採用した例で示してある。
【0025】
また、ブレード部材14,15の材料はカーボンであることが好ましい。カーボンは、耐熱性に優れるだけでなく、摩擦係数を小さく加工することができるやわらかい素材であるためガラス母材を傷付ける心配もない。特に、本例のブレード部材14,15には、ショア硬度100以下の軟質のカーボンを採用することが好ましい。また、カーボンは、プレス成型や削り出しなどにより容易に成型することができる点でも好ましい。
【0026】
ブレード部材14,15の材料としては、カーボンの他に、例えば、ガラス(石英)、SiCコートカーボンなどを採用することもできる。また、他の硬質の材料を用いた場合でも、例えば、先端部分のみだけでも軟質のカーボンを使用することでガラス母材を傷付けることはない。
ブレード部材14,15は、線引炉の熱では溶けない材質であることが必要であり、200℃程度以上の耐熱性を持つことが好ましい。なお、ブレード部材14,15の耐熱性が十分でない場合は、ブレード部材14,15を冷却するような機構(例えば水冷方式)を持つようにさせてもよい。
【0027】
また、ブレード部材14,15としてカーボンを使用する場合は、酸化や劣化を防止するため、不活性ガス等をブレード部材14,15に噴き付けるようにするなどして、ブレード部材14,15の周囲を不活性ガス等雰囲気としておくことが望ましい。
内側円筒11の内径やブレード部材14,15の移動方向の長さは、線引炉とガラス母材との間に生じる隙間を埋められるように決めておけばよい。
図1の例では、上端開口部2aにおける炉心管3とガラス母材5との間に生じる隙間Sの幅は、炉心管3の直径dからガラス母材5の直径φを引いて半分にした値となる。
【0028】
しかし、実際上は、ガラス母材5の外径に変動があるため、上記隙間Sとして想定される距離(好ましくは想定される最大距離)に基づき、内側円筒11の内径やブレード部材14,15の移動方向の長さを決定すればよい。例えば、ガラス母材5の直径φが90mmで±10mmの径変動で形成されている場合には、炉心管3の直径dが120mm程度あればよいので、隙間Sの幅は10〜20mm程度となる。
【0029】
また、ブレード部材14,15の幅(内側円筒11の接線方向に平行な長さ)や枚数は、使用するガラス母材の外径や外径変動量や曲がり量などに応じて、適宜選べばよい。
基本的には、ブレード部材14,15の枚数が多いほど気密がとりやすい。
そして、上記押圧作用機構は、複数のガイド孔13a、13bのそれぞれに複数のブレード部材14,15を挿入した状態で、複数のブレード部材14,15の先端をガラス母材の側面に当接させるように、複数のブレード部材14,15を個別に線引炉の径方向(より正確には内側円筒11や収納部13の径方向)に押圧する。この押圧力は、ガラス母材の下降を阻害しない程度に弱いものとする。
【0030】
上述したように、内側円筒11には、複数のガイド孔13a,13bがその円周上に互い違いに2段設けられており、これらのガイド孔にブレード部材14,15が直線的に移動可能な状態で挿入される。従って、ブレード部材14は内側円筒11の円周上に等間隔で複数設けられ、ブレード部材15も内側円筒11の円周上に等間隔で複数設けられる。そして、
図2,3で示すように、ブレード部材14とブレード部材15との間は、上下方向に間隔が生じないようにする。
【0031】
さらに、ブレード部材14,15は、隣接するブレード部材14で生じる隙間をブレード部材15で埋めて、隣接するブレード部材15で生じる隙間をブレード部材14で埋めるようにする。すなわち、隣接するブレード部材14同士間の隙間と隣接するブレード部材15同士間の隙間とが重ならないように配置されている。これにより、
図1の隙間Sを塞ぎ、不活性ガス等が漏れにくいようにシールすることができる。
【0032】
このように、本発明では、複数のブレード部材14,15を2層構造で互い違いに重ね合わせることが好ましい。このような構造により、ブレード部材14,15の先端をガラス母材に接触させることで、線引炉の上端開口部に生じる隙間を塞ぐ。そして、複数のブレード部材14,15のそれぞれは、ガラス母材の中心に向かって水平方向に独立してスライド移動可能に設置されている。
【0033】
上記押圧作用機構は、例えば、
図2に示すように、複数のブレード部材14,15の後端にそれぞれ一端が固定され、且つ他端が外側円筒12にそれぞれ保持された複数の棒状部材16と、複数の棒状部材16のそれぞれに沿って設けられた複数のコイルバネ部材17とで構成することができる。なお、外側円筒12は、円筒に限らず多角形の筒状部材であっても外壁として機能できればよい。なお、コイルバネ部材17は、軸方向に伸縮する構造であれば、コイル形状でなくてもよい。
【0034】
そして、この押圧作用機構は、複数の棒状部材16を、それぞれ外側円筒12に固定された固定部材18の緩挿孔に挿入し、放射方向に移動可能としている。複数のコイルバネ部材17を棒状部材16に沿って配置し、それぞれ複数のブレード部材14,15と固定部材18とに当接させておく。これにより、この押圧作用機構は、コイルバネ部材17の付勢力によって、複数のブレード部材14,15を個別にガラス母材側に押圧することができる。
【0035】
なお、
図2で説明した押圧作用機構は、棒状部材16やコイルバネ部材17等で構成されていたが、エアシリンダで構成されていてもよい。この場合の各エアシリンダは、線引炉の径方向に対して長さが伸縮可能に構成されており、エアシリンダの付勢力により、上記の棒状部材16やコイルバネ部材17と同様に、複数のブレード部材を個別にガラス母材側に押圧することができる。
【0036】
図3は、上述したシール構造10におけるブレード部材の一例とその動作を説明するための図である。
上述したシール構造10において、例えば、想定される最小径(直径Da)のガラス母材5が使用される場合、
図3(A)のように、各ブレード部材14,15は、ブレード部材14の先端同士やブレード部材15の先端同士が接触する程度まで出てくるよう設計しておけばよい。他方、想定される最大径(直径Db)のガラス母材5が使用される場合、
図3(B)のように、各ブレード部材14,15が収納部13にほぼ収納されるように設計しておけばよい。
【0037】
そして、各ブレード部材14,15は個々に
図3(A)と
図3(B)とで例示する間の範囲を水平方向にスライド移動することで、ガラス母材5の径変動を吸収することができる。
以上説明したように、本例のシール構造10では、
図1のガラス母材5の径変動が大きくても、炉心管3とガラス母材5との隙間Sを良好に塞ぐことができる。この結果、炉内への外気の流入を抑制することができる。
【0038】
また、シール構造10では、ガラス母材が太い箇所では、ブレード部材14,15が外側円筒12の方に(外方に)向かって放射状に移動する。一方、細い箇所では、ブレード部材14,15が内側円筒11の中心に(内方に)向かって放射状に移動するといった簡易な構造で、上記の隙間Sを塞ぐことが可能で、ガラス母材の径変動も自動的に吸収できる。さらに、複数のブレード部材14,15のそれぞれが独立してスライド移動する構造を持つため、ガラス母材の径が同一断面上で一定でない場合、つまり非円形の断面を持つ場合にも対応させることができる。
【0039】
ところで、
図2,3に示したブレード部材14,15は、例えば、半ピッチ分ずれた状態で、上下に重なり合う先端部を有し、これら先端部は、その合わせ位置にて、ガラス母材の側面に線接触する形状で形成されている。
詳しくは、ブレード部材の移動方向に沿って切断した
図4に示すように、上段のブレード部材14の先端部14aは、下部ほど
図1の上端開口部2aの中心軸に向かって近づくように直線状に傾斜しており、ブレード部材14の下面端がその上面端よりもガラス母材に向けて突き出ている。一方、下段のブレード部材15の先端部15aは、上部ほど上端開口部2aの中心軸に向かって近づくように直線状に傾斜し、ブレード部材15の上面端がその下面端よりもガラス母材に向けて突き出ている。
【0040】
これにより、各先端部14a,15aは、上下のブレード部材が重なり合う位置でガラス母材の側面に線接触することができる。仮に、
図1の隙間Sが大きく変動し、周方向で隣接するブレード部材同士間に隙間が形成されても、上段の先端部14aの下端部分とガラス母材の側面との接触、及び下段の先端部15aの上端部分とガラス母材の側面との接触が維持される。
【0041】
より具体的には、上段のブレード部材14には、下面端を残して上面端側へ逃げが設けられ、下段のブレード部材15には、上面端を残して下面端側へ逃げが設けられている。このため、上段の先端部14aの上端部分とガラス母材との間、及び下段の先端部15aの下端部分とガラス母材との間には隙間が生じ得る。しかし、母材径が増加・減少した場合でも、上段の先端部14aの下端部分とガラス母材との間、及び下段の先端部15aの上端部分とガラス母材との間には隙間が生じず、また、上下のブレード部材には重なり部があるので、隙間が上下で連通することなく、上端開口部とガラス母材との隙間を塞ぐことができる。この結果、線引炉内のガス漏れを防止し、外気の巻き込みを回避できると共に、不活性ガス等の使用量を減らすことができる。
【0042】
なお、上記の
図4では、直線状に傾斜したブレード部材14,15を説明したが、湾曲していてもよい。
詳しくは、
図5に示すブレード部材14’,15’も、上下のブレード部材が重なり合う位置にて、ガラス母材の側面に線接触する形状で形成された先端部14a’,15a’を有している。上段のブレード部材14’の先端部14a’は、下部ほど
図1の上端開口部2aの中心軸に向かって近づくように湾曲して傾斜している。一方、下段のブレード部材15’の先端部15a’は、上部ほど上端開口部2aの中心軸に向かって近づくように湾曲して傾斜している。このように、先端部14a’,15a’を湾曲して傾斜させれば、直線状に傾斜させた場合に比べて、先端部への負荷が少なくて済み、長寿命のブレード部材を提供可能となる。
【0043】
[第2の実施形態]
次に、
図6〜
図9を参照し、シール機構の第2の実施形態に係るシール構造を説明する。
図6はシール構造20の概略を示す断面図、
図7は
図6のシール構造の主要部を示す上面図、
図8はシール構造20におけるブレード部材の収納部の一例を示す図で、
図9はシール構造20に用いる円筒スリットバネの一例を示す図である。
シール構造20は、耐熱性を持った複数のブレード部材24,25と、ブレード部材24,25を支持する支持機構の一部である収納部23と、円筒スリットバネ26と、を備える。
【0044】
ブレード部材24,25は、第1の実施形態等で説明したブレード部材14,15と同様な形状のものを用いることができ、移動方向に垂直な面での断面形状が略長方形となる略直方体形状とされる。そして、ブレード部材24,25の厚みは薄くてよく、例えば、厚さ1mm程度であってもよい。また、複数のブレード部材24,25を支持する収納部23のガイド孔はブレード部材24,25の断面形状に合った形状の孔となっている。
【0045】
ブレード部材24,25の先端部24a,25aは、第1の実施形態の
図2〜
図4で説明した先端部14a,15aや、
図5で説明した先端部14a’,15a’と同様な形状のものを用いることができる。また、先端部24a,25aは、後述する押圧作用機構によって押圧された時に、ガラス母材の側面にできるだけ多く当接されるようにするため、先端部24a,25aは、第1の実施形態等で説明したブレード部材と同様に、ガラス母材の半径として想定される最大値に合うような曲率を持つ円弧の形状にしておくことが好ましい。
【0046】
また、第1の実施形態等のブレード部材と同様に、ブレード部材24,25の材料はカーボンであることが好ましい。なお、ブレード部材24,25としてカーボンを使用する場合は、酸化や劣化を防止するため、不活性ガス等をブレード部材24,25に噴き付けるようにするなどして、ブレード部材24,25の周囲を不活性ガス等雰囲気としておくことが望ましい。
【0047】
収納部23は、円盤状の部材であり、筐体27に収容固定されている。そして、
図6において、収納部23をA−A断面から見た様子を
図8に図示している。
図8に示すように、収納部23には、複数のブレード部材24,25をスライド移動させるための複数のガイド孔23a,23bが、その収納部23の円周上に互い違いに2段備えている。ガイド孔23a,23bは、収納部23の中心軸に対して放射状に設けられていて、第1の実施形態等のブレード部材と同様に、ブレード部材24,25も放射状に直線的に移動可能に設置される。なお、収納部23の内径やブレード部材24,25の移動方向の長さは、線引炉とガラス母材との間に生じる隙間を埋められるように決められる。また、ブレード部材24,25の幅や枚数は、使用するガラス母材の外径などに応じて選定される。
【0048】
円筒スリットバネ26は、
図6に示すように、ブレード部材24,25の周囲に設けられ、ブレード部材24,25を収納部23の中心方向に押圧する押圧作用機構(中心方向に力を付勢する付勢機構)として機能するものである。
円筒スリットバネ26は、耐熱性の材料、例えば、カーボン、セラミックス、カーボン−セラミックス複合材、金属材のいずれかで形成されていることが望ましく、200℃以上の耐熱性を持つことが好ましい。
【0049】
本例の円筒スリットバネ26は、例えば、円筒状の上記の耐熱性素材に上下方向から互い違いにスリットを形成したものとする。
図9には、円筒スリットバネ26の一部分を図示している。円筒スリットバネ26は、上方向からのスリット26aと下方向からのスリット26bとを互い違いに形成しておく。特に、円筒スリットバネ26の材料としてカーボンを用いると、スリット26a,26bを設ける加工も比較的に容易である。
【0050】
円筒スリットバネ26は、このようなスリット26a,26bにより周方向に伸縮させることが可能となり、そのような周方向の弾性力によって、その円筒径方向に収縮しようとする力(収縮力)を生じる。円筒スリットバネ26は、この円筒径方向の収縮力により、ブレード部材24,25をガラス母材の側面に押圧するように設けられる。
円筒スリットバネ26の設置形態は、
図6の断面図及び
図7の上面図で示した通りである。
図6及び
図7の例の場合、シール構造20は、円筒スリットバネ26の円筒径方向の収縮力により、複数のブレード部材24,25を個別に線引炉の径方向(より正確には収納部23の径方向)に押圧することで、複数のブレード部材24,25の先端をガラス母材5の側面に当接させている。そして、この押圧力は、円筒スリットバネ26の厚みやスリット幅を調整することにより、ガラス母材5の下降を阻害しない程度に弱いものに調整することができる。
【0051】
これにより、
図6に示すように、線引きの進行によりガラス母材5が矢印で示すように下降し、ガラス母材5の外径が、例えば、φ
1からφ
2(>φ
1)まで増加しても、円筒スリットバネ26は、周方向に均一にブレード部材24,25を締め付けた状態で矢印に示すように外側に延び、逆にガラス母材5の外径が減少した場合は縮むことができる。よって、この円筒スリットバネ26は、ガラス母材5の径変動を自動的に吸収することができる。
【0052】
さらに、本例のシール構造20は、複数のブレード部材24,25のそれぞれが独立してスライド移動する構造を持つため、ガラス母材5の径が同一断面上で一定でない場合、つまり非円形の断面を持つ場合にも対応させることができる。
また、
図6に示すように、シール構造20の筐体27には、図示しない供給機構により不活性ガス等が供給されるガス導入口27aが設けられており、さらに収納部23にはガス通気口23cが設けられている。ブレード部材24,25や円筒スリットバネ26等の部材としてカーボンを使用する場合には、ガス導入口27a及びガス通気口23cにより不活性ガス等が筐体27の内部及びブレード部材24,25に行き渡り、部材の酸化や劣化を防止することができる。なお、ここでの不活性ガス等は、炉内へ供給するガスと同じであってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0053】
上述したように、本例のシール構造20においても、第1の実施形態等と同様に、
図1のガラス母材5の径変動が大きくても、その隙間Sを良好に塞ぐことができ、炉内ガスの漏れを防ぐと共に、外気の流入を防ぐことができる。また、本例のシール構造は、押圧作用機構に径方向に伸縮する簡易な構造の円筒スリットバネ26を用いているため、設備が簡素化でき、メンテナンスも容易となる。
【0054】
[第3の実施形態]
次に、
図10,11を参照し、シール機構の第3の実施形態に係るシール構造30を説明する。
図10はシール構造30の概略を示す断面図、
図11は
図10のシール構造におけるブレード部材が開閉状態である場合の様子を示し、
図11(A)はブレード部材が開状態の様子、
図11(B)はブレード部材が閉状態(最も閉じた状態)の様子を示す図である。
【0055】
シール構造30は、耐熱性を持った複数のブレード部材34,35と、ブレード部材34,35を支持する傾斜台31及びスライド機構を有する支持機構と、を備える。
また、複数のブレード部材34,35や上記支持機構は、
図10に示す筐体37内に載置され、格納されている。なお、
図10では、筐体37が傾斜台31の上下面及び側面を覆うように図示しているが、これに限らず、例えば、筐体37の底壁をなくし、線引炉の上端部に傾斜台31が直接載置されるようにしてもよい。また、筐体37を有しない構成であってもよい。
【0056】
複数のブレード部材34,35を支持する傾斜台31は、
図1の上端開口部2aの中心軸方向に向かって下がるように傾斜し、且つ中心にガラス母材5を挿入するための挿入口を持った台である。すなわち、傾斜台31は、
図10に示すように、底辺を線引炉の上端部に平行な辺とし、且つ高さを上端開口部の中心軸方向とした直角三角形を、上端開口部の中心軸を回転中心として上端開口部の周りに回転させたような形状を持つ円盤状の部材である。なお、上記の直角三角形は、図示するように実際には台形になっているなど、他の形状であっても、斜面の部分を有していればよい。また、傾斜台31におけるガラス母材5の挿入口の直径と、上端開口部の直径とが同じであるのが望ましいが、多少の長短があっても良い。
【0057】
上記の機構は、上述した第1,2の実施形態における押圧作用機構に相当するもので、複数のブレード部材34,35の自重により、複数のブレード部材34,35を個別に、傾斜台31の傾斜に沿って線引炉の径方向にスライド移動させる機構である。そして、このスライド機構により、複数のブレード部材34,35の先端は、その自重でガラス母材5の側面に当接させることが可能となっている。
【0058】
次に、上記のスライド機構について具体例を挙げて説明する。
図11に示すように、傾斜台31の円周上には、複数のブレード部材34を、傾斜台31の中心軸に対して径方向に直線的にスライド移動させるための複数の突起部32が設けられている。また、
図10,11に示すように、傾斜台31の円周上には、複数のブレード部材35を、傾斜台31の中心軸に対して径方向に直線的にスライド移動させるための複数の突起部33が設けられている。
【0059】
これら複数の突起部32,33の使用は、上記のスライド機構の一例であり、突起部32と突起部33とは傾斜台31の周方向に沿って交互に設けられている。なお、
図11の補助部材36は、ブレード部材34のスライド面をなすように傾斜台31上に配されており、ブレード部材34は、ブレード部材35の上面側の高さで、且つブレード部材34の下面の一部がブレード部材35の上面に接しながらスライド移動することができる。
【0060】
突起部32,33の水平方向断面は略長方形であり、その短辺に合った幅を持つガイドスリット(スライド孔)34s,35sがそれぞれブレード部材34,35に設けられている。このような形状の複数の突起部32,33が傾斜台31に放射状に設けられているため、
図11(A)の状態から
図11(B)の状態に移行する例で示すように、ブレード部材34,35も放射状にスライド移動可能となる。なお、突起部32,33をブレード部材34,35側に設けて、傾斜台31の斜面側にブレード部材34,35をガイドするためのスライド溝を設けるようにしてもよい。また、1つのブレード部材に対して1つの突起部を設けた例を挙げているが、2つのガイドピンを設けてスライド移動させるようにしてもよい。
【0061】
ブレード部材34,35は、第1,2の実施形態等で説明したのと同様な形状のものを用いることができ、移動方向に垂直な面での断面形状は、略長方形とするか、若しくは幅方向に円弧を持たせた形状とされる。なお、ブレード部材34,35の厚み(略長方形の場合には短辺の長さ、円弧形状の場合にはその幅)は薄くてもよく、例えば、厚さ1mm程度であってもよい。また、傾斜台31に対するブレード部材34,35の移動方向の長さ(スライド距離)は、上述したガイドスリット34s,35sの長さなどによって決まるが、線引炉とガラス母材との間に生じる隙間を塞ぐように決めておけばよい。
【0062】
また、ブレード部材34,35の先端部34a,35aは、第1の実施形態の
図2〜
図4で説明した先端部14a,15aや、
図5で説明した先端部14a’,15a’と同様な形状のものを用いることができる。
ブレード部材24,25の先端部34a,35aは、自重により傾斜に沿って下がった時に、ガラス母材5の側面にできるだけ多く当接されるようにするため、先端部24a,25aは、第1,2の実施形態等で説明したブレード部材と同様に、ガラス母材5の半径として想定される最大値に合うような曲率を持つ円弧の形状にしておくことが好ましい。
【0063】
図10,11の例で説明すると、ブレード部材35は、傾斜台31の斜面に接しながら、突起部33に対してスライド移動する。一方、ブレード部材34は、補助部材36の上面に接しながら、突起部32に対してスライド移動する。
ブレード部材34,35は、隣接するブレード部材34で生じる隙間をブレード部材35で埋めて、隣接するブレード部材35で生じる隙間をブレード部材34で埋めるように、すなわち隣接するブレード部材34間の隙間と隣接するブレード部材35間の隙間とが重ならないように配置されている。
【0064】
ブレード部材34,35の材料は、第1,2の実施形態のブレード部材と同様にカーボンであることが好ましい。なお、ブレード部材34,35としてカーボンを使用する場合は、酸化や劣化を防止するため、不活性ガス等をブレード部材34,35に噴き付けるようにするなどして、ブレード部材34,35の周囲を不活性ガス等雰囲気としておくことが望ましい。なお、傾斜台31や他の部品も耐熱性が高いものを採用することが好ましく、ブレード部材34,35と同様に、200℃以上の耐熱性を持つことが好ましい。
【0065】
上述したように、シール構造30は、ブレード部材34,35の自重により、ブレード部材34,35を個別に傾斜台31の傾斜に沿って線引炉の径方向にスライド移動させることで、複数のブレード部材34,35の先端をガラス母材5の側面に当接させている。そして、この自重による押圧力は、ガラス母材の下降を阻害しない程度に弱いものとするように、傾斜台31の傾斜部の角度やブレード部材34,35の重さを設計しておけばよい。傾斜部の角度としては、水平方向に対して20°〜45°程度が想定されるが、5°〜85°の範囲であれば重さを調整することで適用可能である。例えば、ガラス母材5の挿入時にブレード部材34,35を破損させることなく外周方向に退避させるためには、傾斜部の角度を小さく(例えば5°〜45°程度に)することが望ましい。
【0066】
これにより、
図10に示す例で、光ファイバ線引の進行中にガラス母材5が矢印で示すように下降して、ガラス母材5の外径が、例えば、φ
1からφ
2(>φ
1)まで増加しても、ガラス母材5の側面を一定の力で押しながら、
図11(B)で示す状態から
図11(A)で示す状態のように、ブレード部材34,35を外側且つ上方にスライド移動させることができる。また逆に、ガラス母材5の外径が減少した場合は、ガラス母材5の側面を一定の力で押しながら、ブレード部材34,35を内側且つ下方にスライド移動させることができる。
【0067】
この結果、シール構造30は、ガラス母材の径変動を自動的に吸収することができる。また、複数のブレード部材34,35のそれぞれが独立してスライド移動する構造を持つため、ガラス母材5の径が同一断面上で一定でない場合、つまり非円形の断面を持つ場合にも対応させることができる。
【0068】
図10に示すように、シール構造30には、図示しないガス供給機構により不活性ガス等が供給されるガス導入口37aが筐体37に設けられている。ブレード部材34,35や傾斜台31等の部材としてカーボンを使用する場合には、ガス導入口37aにより不活性ガス等が筐体37の内部及びブレード部材34,35、傾斜台31に行き渡り、部材の酸化や劣化を防止することができる。なお、ここでの不活性ガス等は、炉内へ供給するガスと同じであってもよいし、異なる種類であってもよい。また、傾斜台31に図示しないガス通気口を設けておき、ブレード部材34,35の裏側からも不活性ガス等を流すようにしてもよい。
【0069】
上述したように、本例のシール構造30においても、第1,2の実施形態等と同様に、ガラス母材の径変動が大きくても、上記の隙間Sを良好に塞ぐことができ、炉内ガスの漏れを防ぐと共に、外気の流入を防ぐことができる。
また、本例のシール構造は、傾斜に沿って配したブレード部材34,35を、自重を利用してガラス母材の側面に当接させるといった簡易な構造のシール機構であるため、設備が簡素化できて、メンテナンスも容易となる。
【0070】
次に、
図1に戻って、ガラス母材5の上端に配された蓋体9について説明する。
図1に示したように、ガラス母材5に支持棒6が設けられた構成では、線引工程の進行により、支持棒6が炉心管3の位置まで下がる状態、つまり支持棒6が線引炉1の上端部より下に位置する状態がある。そのような状態でも線引炉内をシールし続けるために、シール機構8の他に蓋体9を備えていることが好ましい。
【0071】
蓋体9は、支持棒6を貫通しガラス母材5の上側に載置される蓋であり、図示したように、支持棒6用の貫通孔9aと肩部9bとを有する。蓋体9の材料としては、例えば石英や金属などが挙げられる。
蓋体9を設けておくことで、光ファイバ5bの線引きが進みガラス母材5及び支持棒6が下降しても、シール機構8からガラス母材5が離脱する前に、蓋体9の下端面がシール機構8に接する状態に移行して、シール状態を維持することができる。
【0072】
なお、蓋体9が肩部9bを有することを前提として説明したが、蓋体9は単なる円盤に支持棒6の貫通孔9aを開けただけの形状であってもよい。このような形状でも、上述したような状態間の移行は同様に可能である。