特許第6024502号(P6024502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6024502LaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024502
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】LaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20161107BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20161107BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20161107BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20161107BHJP
   H01G 4/008 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 21/8246 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 41/39 20130101ALI20161107BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01L41/187
   H01L21/316 G
   H01G4/06 102
   H01G4/12 427
   H01G1/01
   H01L27/10 444C
   H01L41/39
   H01L41/43
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-25671(P2013-25671)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-154825(P2014-154825A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】藤井 順
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−134245(JP,A)
【文献】 特開2009−010367(JP,A)
【文献】 特開2012−089600(JP,A)
【文献】 特開2012−018944(JP,A)
【文献】 特開2010−162685(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0101828(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/029605(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−41/47
H01G 4/008
H01G 4/12
H01G 4/33
H01L 21/316
H01L 21/8246
H01L 27/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaNiO3薄膜を形成するための組成物において、
前記組成物がLaNiO3前駆体と、カルボン酸、アルコール、エステル、ケトン類、エーテル類、シクロアルカン類、芳香族系及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれた1種又は2種以上の第一の有機溶媒と、β−ジケトン、β−ケトン類、β−ケトエステル類、オキシ酸類、ジオール、トリオール、カルボン酸、アルカノールアミン及び多価アミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の安定化剤と、沸点が150〜300℃であり、かつ表面張力が20〜50dyn/cmを有する第二の有機溶媒とを含み、
前記組成物100質量%中の前記LaNiO3前駆体の割合が酸化物換算で1〜20質量%であり、
前記安定化剤の割合が前記組成物中のLaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0を超え10モル以下であり、
前記組成物100質量%中の前記第二の有機溶媒の割合が5〜20質量%である
ことを特徴とするLaNiO3薄膜形成用組成物。
【請求項2】
前記LaNiO3前駆体が金属カルボン酸塩、金属硝酸塩、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体又は金属アミノ錯体である請求項1記載のLaNiO3薄膜形成用組成物。
【請求項3】
前記LaNiO3前駆体のうち、La源となるLaNiO3前駆体又はNi源となるLaNiO3前駆体の少なくとも一方が酢酸塩、硝酸塩又はオクチル酸塩である請求項2記載のLaNiO3薄膜形成用組成物。
【請求項4】
前記第二の有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、4−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネートの少なくとも1種である請求項1ないし3いずれか1項に記載のLaNiO3薄膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載のLaNiO3薄膜形成用組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1ないし4いずれか1項に記載のLaNiO3薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を有する基板を大気圧の酸化雰囲気又は含水蒸気雰囲気中で仮焼した後、或いは所望の厚さになるまで前記塗膜の形成から仮焼までを2回以上繰り返した後、結晶化温度以上の温度で焼成するLaNiO3薄膜の形成方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の方法により形成されたLaNiO3薄膜を有する薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、強誘電体メモリ用コンデンサ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、電気スイッチ、光学スイッチ又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品の各電極、並びに前記複合電子部品に用いられる誘電体層の結晶配向性制御層を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜キャパシタ、強誘電体メモリ(Ferroelectric Random Access Memory、FeRAM)用コンデンサ、圧電素子又は焦電型赤外線検出素子等の電極に用いられるLaNiO3薄膜を化学溶液法(Chemical Solution Deposition、CSD法)により形成するための組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法に関する。更に詳しくは、ボイドの発生が極めて少なく、均一な成膜が可能なLaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LaNiO3(LNO)は、高い導電性を有する等の電気特性に優れ、また、(100)面に強い自己配向性を持つ物質として知られている。更に、LaNiO3(LNO)薄膜は、擬立方晶のペロブスカイト構造を有することから、ペロブスカイト型の強誘電体薄膜との相性も良く、格子定数のミスフィットが小さいため、薄膜キャパシタ等において(100)面に優先配向する強誘電体薄膜を形成する際の結晶配向性制御層として利用されている。また、LaNiO3(LNO)薄膜は、膜自体の電気抵抗が比較的低く、Pt等の金属を電極に用いた場合と比較して強誘電体膜の分極反転疲労特性にも優れていることから、それ自体を強誘電体メモリ用コンデンサや圧電素子等の電極膜にも利用することができる。更に、透光性を有することから焦電型赤外線検出素子の電極膜等にも利用することができる。一般に、LaNiO3薄膜は、スパッタ法等の真空蒸着法にて形成される他、LaNiO3前駆体を溶媒に溶解させたゾルゲル液(組成物)を塗布して塗膜を形成し、これを所定の温度で焼成して結晶化させるゾルゲル法等のCSD法により形成される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3079262号(請求項3、段落[0013])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ゾルゲル法等のCSD法によるLaNiO3薄膜の形成方法は、未だ十分に確立されているとは言えず、例えば組成物中に含まれる溶媒の種類や焼成温度等の成膜条件の違いにより、様々な不具合を生じさせる場合がある。上記従来の特許文献1に示された製造方法では、焼成後の薄膜にボイドが多数発生し、均一に成膜できないという不具合が生じる場合がある。これは、使用される組成物中に、表面張力が大きい水溶性成分が溶媒として含まれていることが主な原因と考えられる。ボイドの発生により、膜厚が不均一になると膜の抵抗率が増大する等の問題が発生する。このような事情に鑑み、本発明者らは、ゾルゲル法によりLaNiO3薄膜を形成するに際し、特に組成物に含まれる材料の選択等の観点から改良を試み、その結果、ボイドの発生を大幅に抑制し、均一な成膜を行うことができる本発明に至った。
【0005】
本発明の目的は、ボイドの発生が極めて少なく、均一な成膜が可能なLaNiO3薄膜形成用組成物及びこの組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、LaNiO3薄膜を形成するための組成物において、組成物がLaNiO3前駆体と、カルボン酸、アルコール、エステル、ケトン類、エーテル類、シクロアルカン類、芳香族系及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれた1種又は2種以上の第一の有機溶媒と、β−ジケトン、β−ケトン類、β−ケトエステル類、オキシ酸類、ジオール、トリオール、カルボン酸、アルカノールアミン及び多価アミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の安定化剤と、沸点が150〜300℃であり、かつ表面張力が20〜50dyn/cmを有する第二の有機溶媒とを含み、組成物100質量%中のLaNiO3前駆体の割合が酸化物換算で1〜20質量%であり、安定化剤の割合が組成物中のLaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0を超え10モル以下であり、組成物100質量%中の第二の有機溶媒の割合が5〜20質量%であることを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にLaNiO3前駆体が金属カルボン酸塩、金属硝酸塩、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体又は金属アミノ錯体であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第3の観点は、第2の観点に基づく発明であって、更にLaNiO3前駆体のうち、La源となるLaNiO3前駆体又はNi源となるLaNiO3前駆体の少なくとも一方が酢酸塩、硝酸塩又はオクチル酸塩であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更に第二の有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、4−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネートの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点のLaNiO3薄膜形成用組成物を用いたLaNiO3薄膜の形成方法である。
【0011】
本発明の第6の観点は、第1ないし第4の観点のLaNiO3薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を有する基板を大気圧の酸化雰囲気又は含水蒸気雰囲気中で仮焼した後、或いは所望の厚さになるまで前記塗膜の形成から仮焼までを2回以上繰り返した後、結晶化温度以上の温度で焼成するLaNiO3薄膜の形成方法である。
【0012】
本発明の第7の観点は、第5又は第6の観点の方法により形成されたLaNiO3薄膜を有する薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、強誘電体メモリ用コンデンサ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、電気スイッチ、光学スイッチ又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品の各電極、並びに複合電子部品に用いられる誘電体層の結晶配向性制御層を製造する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点の組成物は、LaNiO3前駆体と、カルボン酸、アルコール、エステル、ケトン類、エーテル類、シクロアルカン類、芳香族系及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれた1種又は2種以上の第一の有機溶媒と、β−ジケトン、β−ケトン類、β−ケトエステル類、オキシ酸類、ジオール、トリオール、カルボン酸、アルカノールアミン及び多価アミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の安定化剤と、沸点が150〜300℃でありかつ表面張力が20〜50dyn/cmを有する第二の有機溶媒とを含む。そして、組成物100質量%中のLaNiO3前駆体の割合が酸化物換算で1〜20質量%であり、安定化剤の割合が組成物中のLaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0を超え10モル以下であり、組成物100質量%中の第二の有機溶媒の割合が5〜20質量%である。このように、本発明の組成物では、従来のように、溶媒として水溶性成分を使用せず、特に上記第一の有機溶媒に加え、更に所定の範囲の沸点及び表面張力を有する第二の有機溶媒を所定の割合で含ませたことにより、焼成後、膜中に発生するボイドを大幅に抑制して均一に成膜することができる。また、上記安定化剤を所定の割合で含ませることにより、保存安定性を向上させることができる。
【0014】
本発明の第2の観点のLaNiO3薄膜形成用組成物では、上記LaNiO3前駆体として金属カルボン酸塩、金属硝酸塩、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体又は金属アミノ錯体が含まれる。これにより、組成物の組成均一性をより向上させることができる。
【0015】
本発明の第3の観点のLaNiO3薄膜形成用組成物では、上記LaNiO3前駆体のうち、La源となるLaNiO3前駆体又はNi源となるLaNiO3前駆体の少なくとも一方に、酢酸塩、硝酸塩又はオクチル酸塩が含まれる。LaNiO3前駆体として、特に酢酸塩、硝酸塩又はオクチル酸塩を使用することにより、比較的高濃度の組成物を調製した場合でも保存安定性をより向上させることができる。
【0016】
本発明の第4の観点のLaNiO3薄膜形成用組成物では、上記第二の有機溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、4−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネートの少なくとも1種が含まれる。所定の範囲の沸点及び表面張力を有する第二の有機溶媒として、これらを使用することにより、ボイドの低減効果がより高められる。また、塗膜性を向上させることができる。
【0017】
本発明の第5又は第6の観点のLaNiO3薄膜の形成方法では、上記本発明のLaNiO3薄膜形成用組成物を用いてLaNiO3薄膜を形成するため、ボイドの発生が極めて少なく、均一な膜厚のLaNiO3薄膜を形成することができる。
【0018】
本発明の第7の観点の製造方法では、例えば強誘電体メモリや圧電素子等を製造する際に、上記本発明の形成方法で得られたボイドの発生が極めて少ない、均一な薄膜を強誘電体メモリのキャパシタ電極や圧電体電極に使用することで、疲労特性に優れたデバイスが得られる。また、上記本発明の形成方法で得られる膜は透光性を有するため、焦電型赤外線検出素子の電極膜にも利用できる。また、LaNiO3薄膜は(100)面に自己配向性を有するため、特に薄膜キャパシタや圧電素子等を製造する際に、誘電体層の結晶配向性を制御するための結晶配向性制御層の製造にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1−4で得られたLaNiO3薄膜の表面をSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)で観察したときの写真図である。
図2】比較例1で得られたLaNiO3薄膜の表面をSEMで観察したときの写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0021】
本発明の組成物は、LaNiO3薄膜を形成するための組成物の改良であり、その特徴ある構成は、組成物がLaNiO3前駆体と、後述する第一の有機溶媒と安定化剤以外に、沸点が150〜300℃であり、かつ表面張力が20〜50dyn/cmを有する第二の有機溶媒とを含み、組成物100質量%中のLaNiO3前駆体の割合が酸化物換算で1〜20質量%であり、安定化剤の割合が組成物中のLaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0を超え10モル以下であり、組成物100質量%中の第二の有機溶媒の割合が5〜20質量%であることにある。
【0022】
組成物中に含まれる上記LaNiO3前駆体は、形成後のLaNiO3薄膜において複合金属酸化物(LaNiO3)を構成するための原料であり、La又はNiの各金属元素の金属カルボン酸塩、金属硝酸塩、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体又は金属アミノ錯体が挙げられる。具体的には、La源となるLaNiO3前駆体としては、酢酸ランタン、オクチル酸ランタン、2−エチルヘキサン酸ランタン等の金属カルボン酸塩、硝酸ランタン等の金属硝酸塩、ランタンイソプロポキシド等の金属アルコキシド、ランタンアセチルアセトナート等の金属β−ジケトネート錯体等が挙げられる。また、Ni源となるLaNiO3前駆体としては、酢酸ニッケル、オクチル酸ニッケル、2−エチルヘキサン酸ニッケル等の金属カルボン酸塩、硝酸ニッケル等の金属硝酸塩、ニッケルアセチルアセトネート等の金属β−ジケトネート錯体等が挙げられる。このうち、溶媒への溶解度の高さや保存安定性等の面から、LaNiO3前駆体は、La源となるLaNiO3前駆体又はNi源となるLaNiO3前駆体の少なくとも一方が酢酸塩、硝酸塩又はオクチル酸塩であることが好ましい。なお、La源、Ni源が水和物である場合には、予め加熱等の手段により脱水してから用いても良いし、前駆体の合成中に蒸留等の手段により脱水しても良い。
【0023】
組成物100質量%中に占める上記LaNiO3前駆体(La源とNi源の合計)の割合を酸化物換算で上記範囲に限定したのは、LaNiO3前駆体の割合が下限値未満では、塗布膜の膜厚が薄くなりすぎるため、膜にクラックが発生する不具合が生じ、一方、上限値を越えると沈殿を生じる等の保存安定性が悪化するからである。このうち、組成物100質量%中に含まれる上記LaNiO3前駆体の割合は、酸化物換算で3〜15質量%とするのが好ましい。なお、酸化物換算での割合とは、組成物に含まれる金属元素が全て酸化物になったと仮定した時に、組成物100質量%に占める金属酸化物の割合のことをいう。また、La源となるLaNiO3前駆体又はNi源となるLaNiO3前駆体の混合比は、La元素とNi元素の金属原子比(La/Ni)が1:1になるような割合とするのが好ましい。
【0024】
上記第一の有機溶媒は、カルボン酸、アルコール(例えば、エタノールや1−ブタノール、ジオール以外の多価アルコール)、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、その他テトラヒドロフラン等、或いはこれらの2種以上の混合溶媒を用いる。第一の有機溶媒は、組成物中の他の構成成分以外の残部を占め、上記第一の有機溶媒を含ませることで、組成物中に占める他の構成成分の濃度や割合等を調整できる。
【0025】
カルボン酸としては、具体的には、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0026】
また、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルを用いるのが好ましく、アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソ−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノールを用いるのが好適である。
【0027】
上記安定化剤としては、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、β−ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、β−ケトエステル類(例えば、上記ケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類)、オキシ酸類(例えば、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、ジオール、トリオール、カルボン酸、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン)、多価アミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いる。これらの安定化剤を添加することにより、組成物の保存安定性を向上させることができる。このうち、特に保存安定性を向上させる効果が高いことから、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類が好ましい。安定化剤の割合を、組成物中の上記LaNiO3前駆体の合計量1モルに対して0を超え10モル以下に限定したのは、安定化剤の割合が上限値を越えると安定化剤の熱分解が遅くなり、膜中にボイドが残存する不具合が生じるからである。このうち、安定化剤の割合は、上記LaNiO3前駆体の合計量1モルに対して2〜8モルとするのが好ましい。安定化剤として好ましいカルボン酸には、酢酸、オクチル酸又は2−エチルヘキサン酸等が挙げられる。このうち、第一の有機溶媒と同一のカルボン酸を安定化剤として使用する場合は、上述の安定化剤の割合の上限が安定化剤としてのカルボン酸の割合を示し、それを超える組成物中の残部が第一の有機溶媒としてのカルボン酸の割合を示す。
【0028】
上記第二の有機溶媒は、上記所定の範囲の沸点及び表面張力を有する有機溶媒であり、この第二の有機溶媒の添加により、特に、焼成後、膜中に発生するボイドを大幅に抑制する効果が得られる。その技術的な理由は、焼成等の高温プロセス中に第二の有機溶媒により形成される膜中の微細な空孔を通して、組成物が分解して発生したガス成分が脱離しやすくなるためと考えられる。ここで、第二の有機溶媒を、沸点が150〜300℃の範囲にあるものに限定したのは、沸点が下限値未満の有機溶媒を第二の有機溶媒として添加しても、上記微細な空孔が生じないため、ガス成分が十分に脱離せず、これが膜中に残存してボイドを発生させる原因となるからである。一方、沸点が上限値を越える有機溶媒を第二の有機溶媒として添加すると、第二の有機溶媒自体の分解が遅くなり、これが膜中に残存してボイドを発生させる原因となるからである。また、表面張力が20〜50dyn/cmの範囲にある有機溶媒に限定したのは、表面張力が下限値未満の有機溶媒を第二の有機溶媒として添加した場合、組成物の表面張力が小さくなりすぎて、塗布膜の膜厚が薄くなりすぎるからである。一方、表面張力が上限値を越える有機溶媒を第二の有機溶媒として添加した場合、組成物の表面張力大きくなりすぎて、クラックを発生させる原因となるからである。このうち、好ましくは、沸点が150〜250℃の範囲にあり、かつ表面張力が30〜50dyn/cmの範囲にある有機溶媒を第二の有機溶媒として使用するのが好ましい。第二の有機溶媒としては、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、4−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネートの少なくとも1種が挙げられる。組成物100質量%中に占める第二の有機溶媒の割合を5〜20質量%に限定したのは、第二の有機溶媒の割合が下限値未満ではボイドを抑制する効果が十分に得られず、一方、上限値を越えると組成物の表面張力が適正な値から外れ、塗膜の均一性が低下し、ボイドを抑制する効果が十分に得られないからである。このうち、第二の有機溶媒の割合は、組成物100質量%中、5〜15質量%とするのが好ましい。
【0029】
本発明のLaNiO3薄膜形成用組成物を得るには、先ず、上述のLa源となるLaNiO3前駆体とNi源となるLaNiO3前駆体をそれぞれ用意し、これらを上記所望の金属原子比を与える割合になるように秤量する。また、上記安定化剤を用意し、上記LaNiO3前駆体(La源となるLaNiO3前駆体とNi源となるLaNiO3前駆体の合計量)1モルに対して上述の所定の割合となるように秤量する。次に、反応容器内に、Ni源となるLaNiO3前駆体と、上述の第一の有機溶媒と、上記安定化剤とを投入して混合する。なお、Ni源が水和物の場合、脱水のための蒸留を行っても良い。ここに、La源となるLaNiO3前駆体を添加して、好ましくは不活性ガス雰囲気中、80〜200℃の温度で30分〜2時間加熱し反応させることで合成液を調製する。なお、La源が水和物の場合、脱水のための蒸留を行っても良い。その後、上述の第一の有機溶媒を更に添加して、上記前駆体濃度を上述の所望の範囲になるまで希釈する。そして、上述の第二の有機溶媒を、上述の所定の割合になるように反応容器内に投入して、攪拌することで組成物が得られる。なお、調製後は、組成物の経時変化を抑制するため、好ましくは不活性ガス雰囲気中、80〜200℃の温度で30分〜2時間加熱しておくのが望ましい。
【0030】
本発明では、上記調製された組成物を濾過処理等によって、パーティクルを除去して、粒径0.5μm以上(特に0.3μm以上とりわけ0.2μm以上)のパーティクルの個数が溶液1ミリリットル当たり50個/ミリリットル以下とするのが好ましい。なお、組成物中のパーティクルの個数の測定には、光散乱式パーティクルカウンターを用いる。
【0031】
組成物中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数が50個/ミリリットルを越えると、長期保存安定性が劣るものとなる。この組成物の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数は少ない程好ましく、特に30個/ミリリットル以下であることが好ましい。
【0032】
上記パーティクル個数となるように、調製後の組成物を処理する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような方法が挙げられる。第1の方法としては、市販の0.2μm孔径のメンブランフィルタを使用し、シリンジで圧送する濾過法である。第2の方法としては、市販の0.05μm孔径のメンブランフィルタと加圧タンクを組み合せた加圧濾過法である。第3の方法としては、上記第2の方法で使用したフィルタと溶液循環槽を組み合せた循環濾過法である。
【0033】
いずれの方法においても、溶液圧送圧力によって、フィルタによるパーティクル捕捉率が異なる。圧力が低いほど捕捉率が高くなることは一般的に知られており、特に、第1の方法、第2の方法について、粒径0.5μm以上のパーティクルの個数を50個以下とする条件を実現するためには、溶液を低圧で非常にゆっくりとフィルタに通すのが好ましい。
【0034】
続いて、本発明のLaNiO3薄膜の形成方法について説明する。先ず、上記LaNiO3薄膜形成用組成物を基板上に塗布し、所望の厚さを有する塗膜を形成する。塗布法については、特に限定されないが、スピンコート、ディップコート、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法又は静電スプレー法等が挙げられる。LaNiO3薄膜を形成する基板はその用途等によっても異なるが、例えば、薄膜キャパシタ等の結晶配向性制御層として利用する場合には、下部電極が形成されたシリコン基板やサファイア基板等の耐熱性基板が用いられる。基板上に形成する下部電極としては、PtやIr、Ru等の導電性を有し、LaNiO3薄膜と反応しない材料が用いられる。また、基板上に密着層や絶縁体膜等を介して下部電極を形成した基板等を使用することができる。具体的には、Pt/Ti/SiO2/Si、Pt/TiO2/SiO2/Si、Pt/IrO/Ir/SiO2/Si、Pt/TiN/SiO2/Si、Pt/Ta/SiO2/Si、Pt/Ir/SiO2/Siの積層構造(下部電極/密着層/絶縁体膜/基板)を有する基板等が挙げられる。一方、強誘電体メモリ用コンデンサや圧電素子、焦電型赤外線検出素子等の電極に利用する場合には、シリコン基板、SiO2/Si基板、サファイア基板等の耐熱性基板を使用することができる。
【0035】
基板上に塗膜を形成した後は、この塗膜を仮焼し、更に焼成して結晶化させる。仮焼は、ホットプレート又はRTA等を用いて、所定の条件で行う。仮焼は、溶媒を除去するとともに金属化合物を熱分解又は加水分解して複合酸化物に転化させるために行うことから、空気中、酸化雰囲気中、又は含水蒸気雰囲気中で行うのが望ましい。空気中での加熱でも、加水分解に必要な水分は空気中の湿気により十分に確保される。なお、仮焼前に、特に低沸点成分や吸着した水分子を除去するため、ホットプレート等を用いて60〜120℃の温度で、1〜5分間低温加熱を行っても良い。仮焼は、150〜550℃の温度で1〜10分間することにより行うのが好ましい。組成物の塗布から仮焼までの工程は、一回の塗布で所望の膜厚が得られる場合には、塗布から仮焼までの工程を一回行った後、焼成を行う。或いは、所望の膜厚になるように、塗布から仮焼までの工程を複数回繰り返して、最後に一括で焼成を行うこともできる。
焼成は、仮焼後の塗膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための工程であり、これによりLaNiO3薄膜が得られる。この結晶化工程の焼成雰囲気はO2、N2、Ar、N2O又はH2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。焼成は、好ましくは450〜900℃で1〜60分間保持することにより行われる。焼成は、急速加熱処理(RTA処理)で行っても良い。室温から上記焼成温度までの昇温速度は10〜100℃/秒とすることが好ましい。
以上の工程により、LaNiO3薄膜が得られる。このように形成されたLaNiO3薄膜は、表面抵抗率が低く、導電性等に優れ、また透光性を有するため、強誘電体メモリ用コンデンサの電極膜や圧電素子等の電極膜、更には焦電型赤外線検出素子の電極膜等に用いることができる。更に、LaNiO3薄膜は(100)面に自己配向性を有するため、薄膜キャパシタ等において誘電体層の結晶配向性を(100)面に優先配向させるための結晶配向性制御層として好適に用いることができる。また、特に圧電素子の場合、圧電特性を向上させることができる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0037】
<実施例1−1>
先ず、LaNiO3前駆体として酢酸ニッケル四水和物(Ni源)とオクチル酸ランタン(La源)を用意し、これらをLaとNiの金属原子比が1:1となるように秤量した。また、安定化剤として、上記前駆体の合計量1モルに対して5モルとなる量のジエタノールアミンを用意した。
【0038】
上記酢酸ニッケル四水和物と、第一の有機溶媒として1−ブタノールと、安定化剤としてジエタノールアミンとを反応容器内に投入して混合した後、蒸留を行った。更に、上記オクチル酸ランタンと、第一の有機溶媒として酢酸イソアミルを添加して、不活性ガス雰囲気中140℃の温度で1時間加熱することにより合成液(エステル混合溶液)を調製した。その後、更に、1−ブタノールを添加して、所定の濃度になるように希釈した。そして、第二の有機溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを、調製後の組成物100質量%に占める割合が10質量%になるように反応容器内に投入して攪拌することにより、上記前駆体の濃度が酸化物換算で5質量%の組成物を調製した。調製後、メンブランフィルタと加圧タンクを組み合せた加圧濾過法にて濾過を行った。
【0039】
次いで、上記得られた組成物を、スピンコーター上にセットした、結晶面が(100)軸方向に配向するSiO2/Si基板の上に滴下して、2000rpmの回転速度で20秒間スピンコートを行うことにより、上記基板上に塗膜を形成した。次に、仮焼及び焼成を行う前に、塗膜が形成された上記基板を、ホットプレートを用いて、大気雰囲気中、75℃の温度で1分間保持することにより、低沸点成分や吸着した水分子を除去した。次に、上記基板上に形成した塗膜を、ホットプレートを用いて400℃の温度で5分間保持することにより仮焼を行った。その後、RTAを用いて、酸素雰囲気中、昇温速度10℃/秒にて800℃まで昇温し、この温度で5分間保持することにより焼成を行った。これにより、上記基板上にLaNiO3薄膜を形成した。なお、上記塗膜の形成から仮焼までの工程は繰り返すことなく1回で行い、その後、焼成を1回行うことで所望の総厚に形成した。
【0040】
<実施例1−2〜1−6、比較例1>
第二の有機溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドの代わりに、沸点及び表面張力が異なる以下の表1に示す溶媒を使用したこと以外は、実施例1−1と同様にして組成物を調製し、LaNiO3薄膜を形成した。
【0041】
<実施例1−7>
塗膜の形成から仮焼までの工程を5回繰り返し行った後、焼成を1回行うことにより所望の総厚に形成したこと以外は、実施例1−4と同様にして組成物を調製し、LaNiO3薄膜を形成した。
【0042】
<実施例2−1〜2−3、比較例2−1,2−2>
以下の表1に示すように、各成分の割合を調整して組成物中の酸化物換算での前駆体濃度を変更したこと以外は、実施例1−4と同様にして組成物を調製し、LaNiO3薄膜を形成した。
【0043】
<実施例3−1,3−2、比較例3−1,3−2>
以下の表1に示すように、安定化剤の前駆体1モルに対する割合を変更したこと以外は、実施例1−4と同様にして組成物を調製し、LaNiO3薄膜を形成した。なお、比較例3−1では、安定化剤の前駆体1モルに対する割合を0モル、即ち安定化剤を添加せずに組成物を調製した。
【0044】
<実施例4−1〜4−3、比較例4−1〜4−3>
以下の表1に示すように、第二の有機溶媒である4−ブチロラクトンの組成物100質量%中に占める割合を変更したこと以外は、実施例1−4と同様にして組成物を調製し、LaNiO3薄膜を形成した。なお、比較例4−1では、第二の有機溶媒の組成物100質量%中に占める割合を0質量%、即ち第二の有機溶媒を添加せずに組成物を調製した。
【0045】
<比較試験及び評価>
実施例1−1〜実施例4−3及び比較例1−1〜比較例4−3で得られたLaNiO3薄膜の膜厚及びボイドの個数を評価した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0046】
(1) 膜厚:形成したLaNiO3薄膜の断面の厚さを、SEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡、Hitachi S−4300SE)を用いて断面像を撮影し、その膜厚を計測した。
【0047】
(2) ボイド数:上記SEMを用いて、LaNiO3薄膜の膜表面を撮影し、単位面積(25μm2)当たりに存在する、ボイド径が0.3μm以上のボイド数をカウントした。なお、ボイド径は、ボイドの形状が円状である場合はその直径とし、非円状の場合は長径と短径(上記長径に垂直な最大径)の平均値とした。このとき撮影された実施例1−4、比較例1の膜表面の写真図を代表図として図1図2にそれぞれ示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかなように、実施例1−1〜1−7と比較例1を比較すると、第二の有機溶媒として、ホルムアミドを添加した比較例1では、成膜後の膜表面に非常に多くのボイドが発生した。これは、表面張力が所定の値より大きいホルムアミドを添加することで、組成物の表面張力が大きくなりすぎ、均一に塗膜できなかったことが原因と考えられる。これに対し、N,N−ジメチルホルムアミド等の所定の沸点、及び表面張力を有する溶媒を第二の有機溶媒として添加した実施例1−1〜1−7では、ボイド発生を大幅に抑制して均一に成膜することができた。
【0050】
また、実施例2−1〜2−3と比較例2−1,2−2を比較すると、組成物100質量%中の前駆体濃度が酸化物換算で1質量%に満たない比較例2−1では、形成したLaNiO3薄膜に目視で確認できる程のクラックが発生し、均一な膜が形成できなかったことから、膜評価を行うことができなかった。また、前駆体濃度が20質量%を超える比較例2−2では、組成物中に沈殿が生じたため、LaNiO3薄膜を形成することができなかった。これに対し、前駆体濃度を1〜20質量%の範囲とした実施例2−1〜2−3では、ボイド発生を大幅に抑制して均一に成膜することができた。
【0051】
また、実施例3−1,3−2と比較例3−1,3−2を比較すると、安定化剤を添加していない比較例3−1、安定化剤の割合が組成物中のLaNiO3前駆体の合計量1モルに対して10モルを超える比較例3−2では、実施例3−1,3−2よりもボイドが多く発生した。比較例3−1では、安定化剤を添加しないことで、組成物中にパーティクルが発生したこと、比較例3−2では、安定化剤の熱分解が遅くなったことが、その原因と考えられる。これに対し、安定化剤をLaNiO3前駆体の合計量1モルに対して10モル以下で添加した実施例3−1,3−2では、ボイド発生を大幅に抑制して均一に成膜することができた。
【0052】
また、実施例4−1〜4−3と比較例4−1〜4−3を比較すると、第二の有機溶媒を添加していない比較例4−1では、該溶媒の添加による効果が得られず、成膜後の膜表面に非常に多くのボイドが発生した。また、組成物100質量%中の第二の有機溶媒の割合が5質量%に満たない比較例4−2、20質量%を超える比較例4−3では、ボイドの抑制効果は多小得られたものの、実施例4−1〜4−3程の抑制効果は得られなかった。比較例4−2では、第二の有機溶媒が不足したため、添加による十分な効果が十分に得られなかったこと、比較例4−3では、第二の有機溶媒を添加しすぎることで組成物の表面張力が適正な値から外れ、塗膜の均一性が低下したことが、その原因と考えられる。これに対し、第二の有機溶媒の割合を5〜20質量%とした実施例4−1〜4−3では、ボイド発生を大幅に抑制して均一に成膜することができた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、強誘電体メモリ用コンデンサ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、電気スイッチ、光学スイッチ又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品における電極、並びに前記複合電子部品に用いられる誘電体層の結晶配向性制御層等の製造に利用できる。
図1
図2