(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
運転者のステアリング操作によって入力軸が回転する操舵入力機構と、出力軸の回転によって車輪が転舵される転舵出力機構との間に、前記入力軸と前記出力軸とを断続可能に連結するクラッチを介装し、
前記転舵出力機構に転舵力を付与可能な第一転舵アクチュエータ及び第二転舵アクチュエータを設け、
前記第一転舵アクチュエータ及び前記第二転舵アクチュエータを駆動制御する場合、少なくとも運転者のステアリング操作方向が反転した際に、前記第一転舵アクチュエータの駆動反転タイミングと前記第二転舵アクチュエータの駆動反転タイミングとを、予め定めた微小時間だけ相違させることを特徴とするステアリング制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
《構成》
先ずステアリングバイワイヤの構造について説明する。
図1は、ステアリング装置の概略構成図である。
ステアリングホイール11は、ステアリングシャフト12に連結され、車輪(転舵輪)13L及び13Rは、ナックルアーム14、タイロッド15、ラック軸16、及びピニヨンギヤ17を順に介して第一ピニヨンシャフト18に連結される。ステアリングシャフト12及び第一ピニヨンシャフト18は、クラッチ19を介して接続又は遮断の何れかに切替え可能な状態で連結されている。
【0009】
ここで、クラッチ19の入力側に存在するステアリングホイール11、及びステアリングシャフト12は、運転者のステアリング操作によってステアリングシャフト12が回転する操舵入力機構St
INである。また、クラッチ19の出力側に存在するナックルアーム14、タイロッド15、ラック軸16、ピニヨンギヤ17、及び第一ピニヨンシャフト18は、第一ピニヨンシャフト18の回転によって車輪13L及び13Rが転舵される転舵出力機構St
OUTである。
【0010】
したがって、クラッチ19を接続(締結)した状態では、ステアリングホイール11を回転させると、ステアリングシャフト12、クラッチ19、及び第一ピニヨンシャフト18が回転する。第一ピニヨンシャフト18の回転運動は、ラック軸16及びピニヨンギヤ17によってタイロッド15の進退運動に変換され、ナックルアーム14を介して車輪13L及び13Rが転舵される。
【0011】
クラッチ19は、無励磁締結形の電磁クラッチからなる。すなわち、電磁コイルが無励磁のときに、例えばカムローラ機構により、入力軸のカム面と出力軸の外輪との間にローラが噛み合い、入力軸と出力軸とが締結される。一方、電磁コイルを励磁するときに、アーマチュアの吸引により、入力軸のカム面と出力軸の外輪との間でローラの噛み合いが解除され、入力軸と出力軸とが遮断される。
【0012】
ラック軸16は、車体左右方向(車幅方向)に延在し、その一方側(ここでは車体右側)にラックギヤ(歯)31を形成してあり、このラックギヤ31にピニヨンギヤ17を噛合させている。ラックギヤ31とピニヨンギヤ17との噛合状態はリテーナ機構によって調整される。
第一ピニヨンシャフト18は、クラッチ側の入力軸と、ピニヨンギヤ側の出力軸とからなり、その出力軸には、例えばウォームギヤ32を介して第一転舵モータM1を連結してある。第一転舵モータM1には、モータ回転角を検出するレゾルバ33を設けてある。
【0013】
ウォームギヤ32は、第一ピニヨンシャフト18に連結されたウォームホイールと、第一転舵モータM1に連結されたウォームとからなり、ウォーム軸をウォームホイール軸に対して斜交させている。これは第一ピニヨンシャフト18に対する軸直角方向のモジュールを小さくするためである。
ウォームギヤ32は、ウォームの回転によってウォームホイールが回転し、またウォームホイールの回転によってもウォームが回転するように、つまり逆駆動が可能となるように、ウォームのねじれ角を安息角(摩擦角)よりも大きくしてある。
【0014】
第一ピニヨンシャフト18における入力軸と出力軸との間には、トルクセンサ34を設けている。
上記のピニヨンギヤ17、第一ピニヨンシャフト18の出力軸、ウォームギヤ32、第一転舵モータM1、レゾルバ34、及びトルクセンサ34は、一体化した複合部品(アッセンブリ)として構成され、これを第一アクチュエータA1とする。第一アクチュエータA1は、電動パワーステアリング装置の構成部品と共通化される。
【0015】
第一アクチュエータA1によれば、クラッチ19を遮断している状態で、第一転舵モータM1を駆動すると、ウォームギヤ32を介して第一ピニヨンシャフト18が回転するので、第一転舵モータM1の回転角に応じて車輪13L及び13Rの転舵角が変化する。したがって、クラッチ19を遮断しているときに、運転者のステアリング操作に応じて第一転舵モータM1を駆動制御することにより、ステアリングバイワイヤ機能として所望のステアリングコントロール特性が実現される。
【0016】
さらに、クラッチ19を接続している状態で、第一転舵モータM1を駆動すると、ウォームギヤ32を介して第一ピニヨンシャフト18にモータトルクが伝達される。したがって、クラッチ19を接続しているときに、運転者のステアリング操作に応じて第一転舵モータM1を駆動制御することにより、運転者の操作負担を軽減する所望のアシスト特性が実現される。
【0017】
ラック軸16の他方側(ここでは車体左側)には、ピニヨンギヤ35を介して第二ピニヨンシャフト36が連結されている。すなわち、ラック軸16の他方側(ここでは車体左側)にラックギヤ(歯)37を形成してあり、このラックギヤ37にピニヨンギヤ35を噛合させている。ラックギヤ37とピニヨンギヤ35との噛合状態はリテーナ機構によって調整される。
【0018】
第二ピニヨンシャフト36には、例えばウォームギヤ38を介して第二転舵モータM2を連結してある。第二転舵モータM2は、第一転舵モータM1と同一型のモータである。第二転舵モータM2には、モータ回転角を検出するレゾルバ39を設けてある。
ウォームギヤ38は、第二ピニヨンシャフト36に連結されたウォームホイールと、第二転舵モータM2に連結されたウォームとからなり、ウォーム軸をウォームホイール軸に対して斜交させている。これは第二ピニヨンシャフト36に対する軸直角方向のモジュールを小さくするためである。
【0019】
ウォームギヤ38は、ウォームの回転によってウォームホイールが回転し、またウォームホイールの回転によってもウォームが回転するように、つまり逆駆動が可能となるように、ウォームのねじれ角を安息角(摩擦角)よりも大きくしてある。
上記のピニヨンギヤ35、第二ピニヨンシャフト36の出力軸、ウォームギヤ38、第二転舵モータM2、及びレゾルバ39は、一体化された複合部品(アッセンブリ)として構成され、これを第二アクチュエータA2とする。
【0020】
第二アクチュエータA2によれば、クラッチ19を遮断している状態で、第二転舵モータM2を駆動すると、ウォームギヤ32を介して第二ピニヨンシャフト36が回転するので、第二転舵モータM2の回転角に応じて車輪13L及び13Rの転舵角が変化する。したがって、クラッチ19を遮断しているときに、運転者のステアリング操作に応じて第二転舵モータM2を駆動制御することにより、ステアリングバイワイヤ機能として所望のステアリングコントロール特性が実現される。
【0021】
ステアリングシャフト12には、反力モータ51を連結してある。反力モータ51は、ステアリングシャフト12と共に回転するロータと、このロータに対向してハウジングに固定されるステータと、を備える。ロータは、周方向に等間隔に並べたマグネットを、例えばインサートモールドによってロータコアに固定して形成してある。ステータは、コイルを巻装した鉄心を周方向に等間隔に並べ、ハウジングに対して例えば焼き嵌めによって固定して形成してある。反力モータ51には、モータ回転角を検出するレゾルバ52を設けてある。
【0022】
ステアリングシャフト12には、操舵角センサ53を設けてある。
反力モータ51によれば、クラッチ19を遮断している状態で、反力モータ51を駆動すると、ステアリングシャフト12にモータトルクが伝達される。したがって、クラッチ19を遮断してステアリングバイワイヤを実行しているときに、路面から受ける反力に応じて反力モータ51を駆動制御することにより、運転者のステアリング操作に対して操作反力を付与する所望の反力特性が実現される。
上記がステアリング装置の構造である。
【0023】
次に、制御系統の構成について説明する。
本実施形態では、第一転舵コントローラ(転舵ECU1)71と、第二転舵コントローラ(転舵ECU2)72と、反力コントローラ(反力ECU)73と、を備える。各コントローラは、例えばマイクロコンピュータからなる。
第一転舵コントローラ71は、レゾルバ33、トルクセンサ34、及び操舵角センサ53からの信号を入力し、駆動回路を介して第一転舵モータM1を駆動制御する。第二転舵コントローラ72は、レゾルバ39、及び操舵角センサ53からの信号を入力し、駆動回路を介して第二転舵モータM2を駆動制御する。反力コントローラ73は、レゾルバ52、及び操舵角センサ53からの信号を入力し、駆動回路を介して反力モータ52を駆動制御する。
【0024】
レゾルバ33は、第一転舵モータM1のモータ回転角θm1を検出する。このレゾルバ33は、ステータコイルに励磁信号が入力されるときに、ロータの回転角に応じた検出信号をロータコイルから出力する。第一転舵コントローラ71は、信号処理回路により、励磁信号をステータコイルに出力すると共に、ロータコイルから入力される検出信号の振幅変調に基づいて第一転舵モータM1のモータ回転角θm1を判断する。なお、第一転舵コントローラ71は、右旋回を正の値として処理し、左旋回を負の値として処理する。
【0025】
同様に、第二転舵モータM2のモータ回転角θm2については、レゾルバ39を介して第二転舵コントローラ72で検出し、反力モータ51のモータ回転角θrについては、レゾルバ52を介して反力コントローラ73で検出する。
トルクセンサ34は、第一ピニヨンシャフト18に入力されるトルクTsを検出する。このトルクセンサ34は、第一ピニヨンシャフト18の入力側と出力側との間に介在させたトーションバーの捩れ角を、例えばホール素子で検出し、多極磁石とヨークとの相対角度変位によって生じる磁束密度の変化を電気信号に変換して第一転舵コントローラ71に出力する。第一転舵コントローラ71は、入力された電気信号からトルクTsを判断する。なお、第一転舵コントローラ71は、運転者の右操舵を正の値として処理し、左操舵を負の値として処理する。
【0026】
操舵角センサ53は、例えばロータリエンコーダからなり、ステアリングシャフト12の操舵角θsを検出する。この操舵角センサ53は、ステアリングシャフト12と共に円板状のスケールが回転するときに、スケールのスリットを透過する光を二つのフォトトランジスタで検出し、ステアリングシャフト12の回転に伴うパルス信号を各コントローラに出力する。各コントローラは、入力されたパルス信号からステアリングシャフト12の操舵角θsを判断する。なお、各コントローラは、右旋回を正の値として処理し、左旋回を負の値として処理する。
【0027】
なお、各コントローラ同士は、通信線74によって相互通信可能に接続されている。すなわち、例えばCSMA/CA方式の多重通信(CAN:Controller Area Network)やフレックスレイ(Flex Ray)等の車載通信ネットワーク(車載LAN)規格を用いた通信路を構築してある。
各コントローラは、通信線75によってクラッチ19に接続されている。この通信線75は、クラッチ19を接続又は遮断の何れかに切替え可能なクラッチ制御信号を出力する通信路である。クラッチ制御信号は、クラッチ19を遮断するための信号であり、各コントローラがクラッチ制御信号を出力しているときに、クラッチ19が遮断され、何れかのコントローラがクラッチ制御信号の出力を停止すると、クラッチ19が接続される。
上記が制御系統の構成である。
【0028】
次に、制御モードについて説明する。
本実施形態では、2モータSBWモード(2M‐SBW)と、2モータEPSモード(2M‐EPS)と、1モータSBWモード(1M‐SBW)と、1モータEPSモード(1M‐EPS)と、マニュアルステアリングモード(MS)と、がある。
2モータSBWモードは、二つのモータでステアリングバイワイヤ制御を実行するモードであり、2モータEPSモードは、二つのモータで電動パワーステアリング制御を実行するモードである。また、1モータSBWモードは、一つのモータだけでステアリングバイワイヤ制御を実行するモードであり、1モータEPSモードは、一つのモータだけで電動パワーステアリング制御を実行するモードである。そして、マニュアルステアリングモードは、何れのステアリング制御も中止するモードである。
【0029】
[2モータSBWモード]
2モータSBWモードでは、クラッチ制御信号を出力してクラッチ19を遮断した状態で、第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1を駆動制御すると共に、第二転舵コントローラ72で第二転舵モータM2を駆動制御し、転舵角制御を実行する。すなわち、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2が協働し、必要とされる転舵力を分担して出力する。一方、反力コントローラ73で反力モータ52を駆動制御し、反力制御を実行する。これにより、ステアリングバイワイヤ機能として、所望のステアリング特性を実現し、且つ良好な操作フィーリングを実現する。
【0030】
第一転舵コントローラ71及び第二転舵コントローラ72は、操舵角θsに対する目標転舵角θw
*を設定すると共に、実際の転舵角θwを推定する。そして、モータ回転角θm1及びθm2を入力し、目標転舵角θw
*に実際の転舵角θwが一致するように、例えばロバストモデルマッチング手法などを用いて第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2を駆動制御する。
【0031】
目標転舵角θw
*の設定は、例えば車速Vに応じて行う。すなわち、据え切り時や低速走行時には、運転者の操作負担を軽減するために、小さな操舵角θsで大きな転舵角θwが得られるように目標転舵角θw
*を設定する。また、高速走行時には、過敏な車両挙動を抑制し、走行安定性を確保するために、操舵角θsの変化に対する転舵角θwの変化が抑制されるように目標転舵角θw
*を設定する。
【0032】
実転舵角θwの推定は、操舵角θs、モータ回転角θm1、モータ回転角θm2等に基づいて行う。
反力コントローラ73は、ステアリング操作時に路面から受ける反力に相当する目標反力トルクTr
*を設定し、この目標反力トルクTr
*に反力モータ52のトルクが一致するように、反力モータ52を駆動制御する。
目標反力トルクTr
*の設定は、例えば操舵角θs、第一転舵モータM1に流れる電流Im1、第二転舵モータM2に流れる電流Im2等に基づいて行う。
【0033】
[2モータEPSモード]
2モータEPSモードでは、クラッチ制御信号の出力を停止してクラッチ19を接続した状態で、第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1を駆動制御すると共に、第二転舵コントローラ72で第二転舵モータM2を駆動制御し、アシスト制御を実行する。これにより、ステアリング系統を機械的に連結し、直接的なステアリング操作性を確保すると共に、さらに電動パワーステアリング機能として、運転者の操作負担を軽減する。
【0034】
第一転舵コントローラ71及び第二転舵コントローラ72は、目標アシストトルクTa
*を設定し、この目標アシストトルクTa
*に第一転舵モータM1のトルクが一致するように、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2を駆動制御する。
目標アシストトルクTa
*の設定は、例えば車速Vに応じて行う。すなわち、据え切り時や低速走行時には、運転者の操作負担を軽減するために、大きな目標アシストトルクTa
*を設定する。また、高速走行時には、過敏な車両挙動を抑制し、走行安定性を確保するために、小さな目標アシストトルクTa
*を設定する。
【0035】
一方、2モータEPSモードでは、反力モータ52のリレー回路が切断される。すなわち、運転者がステアリング操作を行い、且つ第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1を駆動制御すると共に、第二転舵コントローラ72で第二転舵モータM2を駆動制御するときに、ステアリングシャフト12の回転によって反力モータ52が駆動されることで、反力モータ52自体が負荷とならないようにするためである。
【0036】
[1モータSBWモード]
1モータSBWモードでは、クラッチ制御信号を出力してクラッチ19を遮断し、且つ第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1の駆動制御をしない(非駆動)状態で、第二転舵コントローラ72で第二転舵モータM2を駆動制御し、転舵角制御を実行する。すなわち、第二転舵モータM2が、必要とされる転舵力を単独で出力する。一方、反力コントローラ73で反力モータ52を駆動制御し、反力制御を実行する。これにより、ステアリングバイワイヤ機能として、所望のステアリング特性を実現し、且つ良好な操作フィーリングを実現する。
【0037】
目標転舵角θw
*の設定や第二転舵モータM2の制御手法、及び目標反力トルクTr
*の設定や反力モータ52の制御手法については、2モータSBWモードと同様である。
一方、1モータSBWモードでは、第一転舵モータM1のリレー回路が切断され、第一転舵モータM1が電路から遮断される。すなわち、第二転舵コントローラ72で第二転舵モータM2を駆動制御するときに、ラック軸16の進退によって第一転舵モータM1が駆動されることで、第一転舵モータM1自体が負荷とならないようにするためである。
【0038】
[1モータEPSモード]
1モータEPSモードでは、クラッチ制御信号の出力を停止してクラッチ19を接続し、且つ第二転舵コントローラ72で第二転舵モータM2の駆動制御をしない(非駆動)状態で、第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1を駆動制御し、アシスト制御を実行する。これにより、ステアリング系統を機械的に連結し、直接的なステアリング操作性を確保すると共に、さらに電動パワーステアリング機能として、運転者の操作負担を軽減する。
【0039】
目標アシストトルクTa
*の設定や第一転舵モータM1の制御手法については、2モータEPSモードと同様である。
一方、1モータEPSモードでは、第二転舵モータM2のリレー回路が切断され、第二転舵モータM2が電路から遮断される。すなわち、運転者がステアリング操作を行い、且つ第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1を駆動制御するときに、ラック軸16の進退によって第二転舵モータM2が駆動されることで、第二転舵モータM2自体が負荷とならないようにするためである。同様の趣旨で、反力モータ52のリレー回路も切断され、反力モータ52が電路から遮断される。すなわち、運転者がステアリング操作を行い、且つ第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1を駆動制御するときに、ステアリングシャフト12の回転によって反力モータ52が駆動されることで、反力モータ52自体が負荷とならないようにするためである。
【0040】
[マニュアルステアリングモード]
マニュアルステアリングモードでは、クラッチ制御信号の出力を停止してクラッチ19を接続した状態で、第一転舵コントローラ71で第一転舵モータM1の駆動制御をせず(非駆動)、且つ第二転舵コントローラ72で第二転舵モータM2の駆動制御をしない(非駆動)。つまり、各コントローラによる何れのステアリング制御も中止する。これにより、ステアリング系統を機械的に連結し、直接的なステアリング操作性を確保する。
【0041】
マニュアルステアリングモードでは、第一転舵モータM1のリレー及び第二転舵モータM2のリレー回路が切断され、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2が電路から遮断される。すなわち、運転者がステアリング操作を行うときに、ラック軸16の進退によって第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2が駆動されることで、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2自体が負荷とならないようにするためである。同様の趣旨で、反力モータ52のリレー回路も切断され、反力モータ52が電路から遮断される。すなわち、運転者がステアリング操作を行うときに、ステアリングシャフト12の回転によって反力モータ52が駆動されることで、反力モータ52自体が負荷とならないようにするためである。
上記が制御モードの概要である。
【0042】
次に、フェイルセーフについて説明する。
各コントローラは、夫々、自らの制御系統に異常があるか否かの自己診断を行い、その診断結果に応じて制御モードを切替える。すなわち、第一転舵コントローラ71は、第一転舵コントローラ71自身や、トルクセンサ34を有する第一アクチュエータA1、また配線系統に異常があるか否かの診断を行う。また、第二転舵コントローラ72は、第二転舵コントローラ72自身や、トルクセンサのない第二アクチュエータA2、また配線系統に異常があるか否かの診断を行う。また、反力コントローラ73は、反力コントローラ73自身や、反力モータ52、また配線系統に異常があるか否かの診断を行う。
【0043】
先ず、第一転舵コントローラ71の制御系統、第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統の全てが正常である場合には、2モータSBWモードとなる。但し、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の低電圧時や過熱時、イグニッションをONにした起動時(クラッチ19が遮断されるまで)、転舵角θwが最大転舵角に達している端当て時等には、一時的な措置として2モータEPSモードとなる。
【0044】
一方、第一転舵コントローラ71の制御系統、第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統のうち、少なくとも一つで異常が発生した場合に、1モータSBWモード、1モータEPSモード、及びマニュアルステアリング(MS)モードの何れかへと切り替わる。
先ず、第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統が正常であり、第一転舵コントローラ71の制御系統に異常が発生した場合である。この場合には、第一アクチュエータA1によるステアリングバイワイヤ機能や電動パワーステアリング機能に異常が生じているだけであり、第二アクチュエータA2によるステアリングバイワイヤ機能や反力モータ52による反力生成機能は維持されているため、1モータSBWモードにする。
【0045】
また、第一転舵コントローラ71の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統が正常であり、第二転舵コントローラ72の制御系統に異常が発生した場合である。この場合には、第二アクチュエータA2によるステアリングバイワイヤ機能に異常が生じているだけであり、第一アクチュエータA1による電動パワーステアリング機能は維持されているため、1モータEPSモードにする。
【0046】
また、第一転舵コントローラ71の制御系統、及び第二転舵コントローラ72の制御系統が正常であり、反力コントローラ73の制御系統に異常が発生した場合である。この場合には、反力モータ52による反力生成機能に異常が生じているだけであり、第一アクチュエータA1による電動パワーステアリング機能は維持されているため、1モータEPSモードにする。
【0047】
また、第一転舵コントローラ71の制御系統が正常であり、第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統に異常が発生した場合である。この場合には、第二アクチュエータA2によるステアリングバイワイヤ機能、及び反力モータ52による反力生成機能に異常が生じているだけであり、第一アクチュエータA1による電動パワーステアリング機能は維持されているため、1モータEPSモードにする。
【0048】
また、反力コントローラ73の制御系統が正常であり、第一転舵コントローラ71の制御系統、及び第二転舵コントローラ72の制御系統に異常が発生した場合である。この場合には、反力モータ52による反力生成機能は維持されているものの、第一アクチュエータA1によるステアリングバイワイヤ機能や電動パワーステアリング機能、及び第二アクチュエータA2によるステアリングバイワイヤ機能に異常が生じているため、マニュアルステアリングモードにする。
【0049】
また、第二転舵コントローラ72の制御系統が正常であり、第一転舵コントローラ71の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統に異常が発生した場合である。この場合には、第二アクチュエータA2によるステアリングバイワイヤ機能は維持されているものの、第一アクチュエータA1によるステアリングバイワイヤ機能や電動パワーステアリング機能、及び反力モータ52による反力生成機能に異常が生じているため、マニュアルステアリングモードにする。
【0050】
そして、第一転舵コントローラ71の制御系統、第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統の全てに異常が発生した場合である。この場合には、第一アクチュエータA1によるステアリングバイワイヤ機能や電動パワーステアリング機能、第二アクチュエータA2によるステアリングバイワイヤ機能、及び反力モータ52による反力生成機能の全てに異常が生じているため、マニュアルステアリングモードにする。
上記がフェイルセーフの概要である。
【0051】
次に、制御モードの遷移について説明する。
先ず、第一転舵コントローラ71の制御系統、第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統の全てが正常である場合には、基本的には2モータSBWモードとなる。また、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の低電圧時や過熱時、イグニッションをONにした起動時(クラッチ19が遮断されるまで)、転舵角θwが最大転舵角に達している端当て時等には、一時的な措置として2モータEPSモードとなる。そして、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の低電圧や過熱が解消されたり、クラッチ19が遮断されたり、転舵角θが小さくなったりしたときには、2モータSBWモードとなる。このように、第一転舵コントローラ71の制御系統、第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統の全てが正常に作動している限り、2モータSBWモードと2モータEPSモードとの間で遷移する。
【0052】
また、2モータSBWモードの状態から、一次失陥として第一転舵コントローラ71の制御系統に異常が発生した場合には、1モータSBWモードへと遷移する。そして、1モータSBWモードの状態から、二次失陥として第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統の少なくとも一方に異常が発生した場合には、マニュアルステアリングモードへと遷移する。このように、2モータSBWモードから1モータSBWモードを経由せず直にマニュアルステアリングモードへと遷移することはなく、失陥レベルに応じて段階的に制御モードを遷移させて冗長化させている。
【0053】
また、2モータSBWモードの状態から、一次失陥として第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統の少なくとも一方に異常が発生した場合には、1モータEPSモードへと遷移する。そして、1モータEPSモードの状態から、二次失陥として第一転舵コントローラ71の制御系統に異常が発生した場合には、マニュアルステアリングモードへと遷移する。このように、2モータSBWモードから1モータEPSモードを経由せず直にマニュアルステアリングモードへと遷移することはなく、失陥レベルに応じて段階的に制御モードを遷移させて冗長化させている。
【0054】
また、一時的な措置として2モータEPSモードにある状態から、一次失陥として第二転舵コントローラ72の制御系統、及び反力コントローラ73の制御系統の少なくとも一方に異常が発生した場合には、1モータEPSモードへと遷移する。そして、1モータEPSモードの状態から、二次失陥として第一転舵コントローラ71の制御系統に異常が発生した場合には、マニュアルステアリングモードへと遷移する。このように、2モータSBWモードから1モータEPSモードを経由せず直にマニュアルステアリングモードへと遷移することはなく、失陥レベルに応じて段階的に制御モードを遷移させて冗長化させている。
なお、一時的な措置として2モータEPSモードにある状態から、第一転舵コントローラ71の制御系統に異常が発生した場合には、1モータEPSモードへの遷移が不可能となるため直にマニュアルステアリングモードへと遷移する。
上記が、制御モードの遷移である。
【0055】
次に、ステアリングバイワイヤの基本的な制御処理について説明する。
ステアリングバイワイヤ制御処理は、第一転舵コントローラ71、第二転舵コントローラ72、及び反力コントローラ73の夫々で個別に演算され、各コントローラの演算結果が一致するときに駆動制御の実行が許可される。なお、前述したように、第一転舵モータM1の駆動制御を司るのは第一転舵コントローラ71であり、第二転舵モータM2の駆動制御を司るのは第二転舵コントローラ72であり、反力モータ51の駆動制御を司るのは反力コントローラ73である。
【0056】
先ず、イグニッションスイッチがOFFのときには、クラッチ19を締結しておく。そして、イグニッションスイッチがONのときには、クラッチ19を遮断し、2モータSBWモードを実行する。
ステアリングバイワイヤでは、ステアリング操作に対して路面から受ける反力に相当する目標反力トルクを設定し、この目標反力トルクを実現するための電流指令値に基づいて反力モータ51を駆動制御する。ここで、路面から受ける反力とは、例えば操舵角θs、車速V、転舵角θw、第一転舵モータM1に流れる電流Im1、第二転舵モータM2に流れる電流Im2等に基づいて判断する。また、操舵角θsに対する目標転舵角を設定し、この目標転舵角を実現するための電流指令値に基づいて第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2を駆動制御する。ここで、目標転舵角とは、例えば操舵角θsと、車速Vに応じた舵角比とに基づいて設定する。
上記がステアリングバイワイヤの基本的な制御処理である。
【0057】
次に、2モータSBWモードにおけるステアリング操作の切り返し時の制御について説明する。
ここで、ステアリング操作の切り返しとは、左右の何れか一方に向けてステアリング操作している状態から、他方に向けてステアリング操作を行うことである。厳密には、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の夫々からラック軸16に至るまでの動力伝達経路上のバックラッシュ(ガタ)が、左右の何れか一方に向けて詰まっている状態から、他方に向けてガタを詰めて転舵力を発生させることである。
【0058】
ステアリング操作の切り返し時には、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとの間には、予め定めた微小時間TLの位相差(応答差)を設ける。この微小時間TLは、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の夫々からラック軸16に至るまでの動力伝達経路上に存在するバックラッシュに応じて設定され、例えば2[msec]程度である。すなわち、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを同時にしようとしても、不可避的に生じる位相差とは異なる。
【0059】
なお、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングの間に微小時間TLの位相差があればよいので、何れか一方の駆動反転タイミングだけを遅らせたり早めたりしてもよいし、何れか一方の駆動反転タイミングを遅らせて且つ他方の駆動反転タイミングを早める等してもよい。本実施形態では、例えば第二転舵モータM2の駆動反転タイミングよりも、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングを遅らせる。
【0060】
具体的には、何れか一方の駆動反転タイミングを遅らせる場合には、モータ電流がゼロを通過する前後(付近)で、一方のモータ電流を遅らせたり、遅れ方向にオフセットしたりする。また、モータ電流がゼロとなったときに、その時点のモータ電流を予め定めた一定時間だけ保持するようにしてもよい。一方、何れか一方の駆動反転タイミングを早める場合には、モータ電流がゼロを通過前後(付近)で、一方のモータ電流を早めたり、進み方向にオフセットしたりする。
【0061】
また、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングの間に微小時間TLの位相差を設けるのは、少なくともステアリング操作の切り返し時に実施すればよいが、常に実施してもよい。ステアリング操作の切り返し時に実施する場合には、操舵角の絶対値|θs|の増減方向(変化方向)が反転した時点から実施し、予め定めた実施時間TEが経過するまで実施する。この実施時間TEは、操舵角の絶対値|θs|の変化方向が反転してから、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2に流れるモータ電流平均値の符号が反転するまでの時間の約2倍程度である。この実施時間TEが経過した時点で、位相差をなくし、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを一致させる通常の制御に復帰すればよい。
上記が切り返し時の制御である。
【0062】
《作用》
次に、第1実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、転舵出力機構St
OUTに駆動力を付与可能な第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2を設け、これら二つのモータによって車輪13L及び13Rを転舵する2モータSBWモードを実行する。これにより、ステアリングバイワイヤ機能として、所望のステアリング特性を実現することができる。また、二つのモータによって車輪13L及び13Rを転舵する構成とするとすることで、転舵出力機構St
OUTに必要とされる駆動力を分担することができる。したがって、一つのモータによって車輪13L及び13Rを転舵する構成と比べて、モータの大型化を抑制でき、レイアウト性にも優れる。
【0063】
また、二つのモータによって車輪13L及び13Rを転舵する構成では、仮に何れか一方の制御系統に異常が発生したとしても、異常が発生していない他方の制御系統を活用することができる。すなわち、何れか一方の制御系統のみに異常が発生した一次失陥に対するフェイルセーフとして、1モータSBWモードや1モータEPSモードを実行することができる。こうして、何れか一方の制御系統に異常が発生したとしても、異常が発生していない他方の制御系統を活用することで、二つのモータを設けることのメリットを十分に活かしたフェイルセーフを実現することができる。また、一次失陥に対するフェイルセーフから、さらに残りの制御系統にも異常が発生した二次失陥に対するフェイルセーフとして、マニュアルステアリングモードを実行することができる。これにより、ステアリング系統を機械的に連結し、直接的なステアリング操作性を確保することができる。
【0064】
ところで、ウォームギヤ32(38)におけるウォームホイールとウォームとの間や、ラックギヤ31(37)とピニヨンギヤ17(35)との間やピニヨンギヤとラックギヤとの間等、第一転舵モータM1や第二転舵モータM2からラック16に至るまでの動力伝達機構には、運動方向にバックラッシュ(隙間)を意図的に設けている。そのため、ステアリング操作を左右の一方から他方へと切替える切り返しを行うと、動力伝達機構でバックラッシュ分のガタが詰まるときに、『ゴト』という当接音(打音)が発生してしまう。本実施形態のように、二つの転舵モータによって車輪を転舵する構成とすると、こうした動力伝達機構の当接音が目立ってしまう可能性がある。
【0065】
上記のタイムチャートを、本実施形態に対する比較例として説明する。
図2は、比較例を示すタイムチャートである。
ここでは、先ず例えば右方向に向けてステアリング操作してから、次いで左方向に向けてステアリング操作をした場合を例に説明する。第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングを同時にすると、夫々に流れるモータ電流は、時点t1で略同時に符号が反転する。このとき、夫々の動力伝達機構で生じる当接音は、音圧ピークの位相が略一致するため、結果として大きな当接音が発生してしまう。
【0066】
そこで、本実施形態では、ステアリング操作の切り返し時には、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとの間には、予め定めた微小時間TLの位相差(応答差)を設ける。第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを、微小時間TLだけ相違させることで、夫々の動力伝達機構で生じる当接音は、音圧ピークの位相がずれる(分離される)。したがって、夫々を同時に駆動するよりも、ステアリング操作の切り返し時に発生する動力伝達機構の当接音を抑制することができる。
【0067】
上記のタイムチャートを、本実施形態の動作例として説明する。
図3は、動作例を示すタイムチャートである。
ここでは、第二転舵モータM2の駆動反転タイミングを通常よりも早め、且つ第一転舵モータM1の駆動反転タイミングよりも通常よりも遅らせた場合を例に説明する。先ず第二転舵モータM2の駆動反転タイミングを早めたことで、第二転舵モータM2に流れるモータ電流は、第一転舵モータM1に流れるモータ電流よりも早く符号が反転する。一方、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングを遅らせたことで、第一転舵モータM1に流れるモータ電流は、第二転舵モータM2に流れるモータ電流よりも遅れて符号が反転する。なお、夫々に流れるモータ電流の平均値AVEは、時点t1で符号が反転する。この時点t1が、通常の駆動反転タイミングでモータ電流の符号が反転する時点である。こうして、夫々の動力伝達機構で生じる当接音は、音圧ピークの位相がずれるため、結果として当接音の増大を抑制することができる。
【0068】
このときの位相差は、例えば2[msec]程度であるため、発明者らによる実験では、当接音が二つに聴こえることはなかった。第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを同時にすると、『ゴト』というような当接音が聴こえたが、本実施形態のように夫々の駆動反転タイミングを相違させると、『コト』というような当接音となり、マイルドな音となることが明らかになった。
【0069】
また、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングを通常よりも遅らせてはいるが、第二転舵モータM2の駆動反転タイミングは通常よりも早めており、平均値AVEは通常の駆動反転タイミングと同じであるため、応答性に影響を与えることはなかった。
微小時間TLは、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の夫々からラック軸16に至るまでの動力伝達機構に存在するバックラッシュに応じて設定される。したがって、過不足のない微小時間TLを設定することができ、夫々の動力伝達機構で生じる当接音を効果的に抑制することができる。
【0070】
なお、電動パワーステアリング装置において、ステアリング系統に対して二つのモータによってアシストトルクを付与するものもある。しかしながら、電動パワーステアリング装置は、あくまでも運転者が主体となってステアリング操作を行うものであり、先ずトルクセンサでトーションバーの捩れがあって、その捩れに応じてモータが駆動されることになる。すなわち、運転者のステアリング操作によってステアリング機構が動かされ、それを後押しするようにモータが駆動されるので、各モータからラック軸までの動力伝達機構で生じる当接音は、元々、マイルドになる。
【0071】
一方、ステアリングバイワイヤでは、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2が主体となって車輪の転舵を行うものであり、夫々の転舵モータが直接的に動力伝達機構のバックラッシュを詰めることになる。したがって、動力伝達機構で生じる当接音は、電動パワーステアリング装置よりも、目立ちやすいと考えられる。
したがって、クラッチ19を締結している状態、つまり電動パワーステアリング制御を実行するような状態では、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを相違させる必要はない。すなわち、クラッチ19を遮断しているときだけ、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを相違させる。
【0072】
《応用例》
本実施形態では、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとの間に位相差を設けているが、これを車速Vが予め定めた閾値Vsよりも低いときに限定して行ってもよい。ここで、閾値Vsは、車室空間の静粛性が比較的高いと判断できる程度の値であり、例えば25〜30km/h程度である。すなわち、車速Vが閾値Vsより高いときには、車両走行に伴うノイズ等により、車室空間の静粛性が低下しているため、動力伝達機構で生じる当接音が目立ちにくく、車速Vが閾値Vsより低いときには、車室空間の静粛性が比較的高い。したがって、車室空間の静粛性が比較的高いときに限定して、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとの間に位相差を設けることで、動力伝達機構で生じる当接音が目立たちやすいシーンで、その当接音を効果的に抑制することができる。
【0073】
《変形例》
本実施形態では、転舵出力機構St
OUTに駆動力を付与するモータとして、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の二つのモータを設けているが、これに限定されるものではなく、一つのモータだけを設けてもよい。このように、転舵出力機構St
OUTに駆動力を付与するモータの数量を減らせば、部品点数の削減を図ることができる。
本実施形態では、転舵アクチュエータや反力アクチュエータに、電動モータを用いているが、これに限定されるものではない。すなわち、転舵出力機構St
OUTへの転舵力の付与や、操舵入力機構St
INへの操舵反力の付与を行うことが可能であれば、ソレノイドや動力シリンダ等、任意の駆動要素を用いることができる。
【0074】
《対応関係》
以上、ステアリングシャフト12が「入力軸」に対応し、第一ピニヨンシャフト18が「出力軸」に対応し、第一転舵モータM1が「第一転舵アクチュエータ」に対応し、第二転舵モータM2が「第二転舵アクチュエータ」に対応する。また、第一転舵コントローラ71、第二転舵コントローラ72が「駆動制御部」に対応する。
【0075】
《効果》
次に、第1実施形態における主要部の効果を記す。
(1)本実施形態のステアリング制御装置は、運転者のステアリング操作によってステアリングシャフト12が回転する操舵入力機構St
INと、ピニヨンシャフト18の回転によって車輪が転舵される転舵出力機構St
OUTと、ステアリングシャフト12とピニヨンシャフト18とを断続可能に連結するクラッチ19と、を備える。また、転舵出力機構St
OUTに転舵力を付与可能な第一転舵モータM1と、転舵出力機構St
OUTに転舵力を付与可能な第二転舵モータM2と、を備える。そして、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2を駆動制御する場合、少なくとも運転者のステアリング操作方向が反転した際に、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを、予め定めた微小時間TLだけ相違させる。
【0076】
このように、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを、微小時間TLだけ相違させることで、夫々の動力伝達機構で生じる当接音は、音圧ピークの位相がずれる(分離される)。したがって、夫々を同時に駆動するよりも、ステアリング操作の切り返し時に発生する動力伝達機構の当接音を抑制することができる。
【0077】
(2)本実施形態のステアリング制御装置は、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の夫々から転舵出力機構St
OUTに至るまでの動力伝達経路上のバックラッシュに応じて微小時間TLを設定する。
このように、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2の夫々から転舵出力機構St
OUTに至るまでの動力伝達経路上のバックラッシュに応じて微小時間TLを設定することで、過不足のない微小時間TLを設定し、夫々の動力伝達機構で生じる当接音を効果的に抑制することができる。
【0078】
(3)本実施形態のステアリング制御装置は、クラッチ19を遮断しているときだけ、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを、予め定めた微小時間TLだけ相違させる。
このように、クラッチ19を遮断しているときだけ、微小時間TLの位相差を設けることで、夫々の動力伝達機構で生じる当接音を効果的に抑制することができる。
【0079】
(4)本実施形態のステアリング制御方法は、運転者のステアリング操作によってステアリングシャフト12が回転する操舵入力機構St
INと、ピニヨンシャフト18の回転によって車輪が転舵される転舵出力機構St
OUTとの間に、ステアリングシャフト12とピニヨンシャフト18とを断続可能に連結するクラッチ19を介装する。また、転舵出力機構St
OUTに転舵力を付与可能な第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2を設ける。そして、第一転舵モータM1及び第二転舵モータM2を駆動制御する場合、少なくとも運転者のステアリング操作方向が反転した際に、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを、予め定めた微小時間TLだけ相違させる。
【0080】
このように、第一転舵モータM1の駆動反転タイミングと第二転舵モータM2の駆動反転タイミングとを、微小時間TLだけ相違させることで、夫々の動力伝達機構で生じる当接音は、音圧ピークの位相がずれる(分離される)。したがって、夫々を同時に駆動するよりも、ステアリング操作の切り返し時に発生する動力伝達機構の当接音を抑制することができる。
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。