(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パンチと、ブランクホルダと、前記ブランクホルダに対向して配置されたダイと、を備え、ブランク材の外周端部を前記ブランクホルダのブランクホルダ側挟持面及び前記ダイのダイ側挟持面で挟持し、前記ブランクホルダ及び前記ダイの各中央部側に形成されたプレス成形領域を前記パンチが移動することで前記ブランク材をプレス成形するプレス成形金型であって、
前記ブランクホルダ側挟持面及び前記ダイ側挟持面にはそれぞれ、前記プレス成形領域から遠ざかる方向に凹凸を繰り返す波型形状部が互いに噛み合い可能に形成され、前記各波型形状部の輪郭形状は、半波長以上の長さを有する波形状となっているとともに、
前記各波型形状部の波長を前記各波型形状部の振幅で割った値は、それぞれ2以上6以下の範囲内であることを特徴とするプレス成形金型。
前記各波型形状部は、少なくとも、前記プレス成形領域の角部から遠ざかる方向に凹凸を繰り返すように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形金型。
【背景技術】
【0002】
めっき加工が施された鋼板であるめっき鋼板をブランク材とし、そのブランク材をプレス成形してプレス成形品を製造することがある。その際、プレス成形品に割れが発生するのを防止するために、プレス成形する際に用いられるプレス成形金型(以下、単に「金型」ともいう。)内にブランク材の一部を意図的に流入させる場合がある。この場合、プレス成形品のフランジ部にしわ(以下、「フランジしわ」ともいう。)が発生することがある。特に、プレス成形品の形状が複雑である場合には、部位によって金型内へのブランク材の流入量が不均一となるため、フランジ部の部材が部分的に余ってフランジしわが発生しやすくなる。
【0003】
フランジしわが発生すると、例えば、製品外観を損ねる、金型が損傷する、パウダリングが発生しやすくなるといった不都合が生じることがある。ここで、「パウダリング」とは、プレス成形時にブランク材のめっきが粉状に剥離する現象をいう。
パウダリングの原因としては、例えば、プレス成形時に金型に設けられた絞りビードをブランク材が通過することで生ずるブランク材の曲げ曲げ戻しによるめっきの損傷が挙げられる。より詳しくは、プレス成形時にフランジしわが発生すると、まず、フランジしわの表裏面でブランク材の曲げ曲げ戻しによってパウダリングが発生する。そして、このフランジしわが絞りビードを通過すると、フランジしわは絞りビードによる曲げ曲げ戻しを受けるため、さらにパウダリングが発生する。特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板をブランク材とした場合には、他のめっき鋼板と比較してめっきの変形能が一般に低いため、プレス成形時にパウダリングが発生しやすい。
【0004】
プレス成形時にパウダリングが発生すると、剥離しためっき粉が金型内に堆積する場合がある。この場合には、例えば、剥離しためっき粉がプレスブツ等を発生させる原因となるため、堆積しためっき粉を金型内から除去する工程が別途必要となるといった不都合が生ずることがある。
パウダリングの発生を抑制するためには、プレス成形時におけるフランジしわの発生を抑制することが効果的である。フランジしわの発生を抑制するための技術としては、金型内へのブランク材の流入を抑制する技術が一般的である。例えば、しわ押さえ力を上げる、絞りビードの高さを高くするといった手段を用いることで、金型内へのブランク材の流入を抑制する。
【0005】
しかし、金型内へのブランク材の流入を単に抑制した場合には、フランジしわは発生しにくくなるが、プレス成形品に割れが生じる恐れがある。
フランジしわの発生を抑制しつつ金型内へのブランク材の流入量を調整する技術として、例えば特許文献1〜3に記載の技術がある。特許文献1、2には、ブランク材に折り曲げ部を設けることで金型内へのブランク材の流入量を減少させて、フランジしわの発生を抑制する技術が記載されている。また、特許文献3には、絞りビードの形状を平面視で波型形状とし絞りビード部のクリアランスを広くすることで、フランジしわの発生を抑制する技術が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本実施形態に係る金型の構造について、
図1と
図2を参照しつつ説明する。次に、本実施形態に係る金型の波型形状部の変形例について、
図3を参照しつつ説明する。
(金型1)
図1は、本実施形態に係る金型1の構造を模式的に示す断面斜視図である。
図1に示すように、金型1は、パンチ10と、ブランクホルダ20と、ダイ30とを備えている。なお、金型1は、
図1に示した断面に対して面対称な形状をしたものである。
図2は、本実施形態に係る金型1の挟持面の形状を模式的に示す断面図である。より詳しくは、ブランクホルダ20に備わる挟持面(ブランクホルダ側挟持面)22及びダイ30に備わる挟持面(ダイ側挟持面)32の形状を模式的に示す断面図である。
図2に示された「λ」はそれぞれ、ブランクホルダ20の波型形状部24及びダイ30の波型形状部34の各波型形状部の波長を示し、「A」は各波型形状部の振幅を示している。ここで、振幅とは、振動幅の半分の値を意味する。
【0013】
以下、金型1に備わる上記部品について順次説明する。
(パンチ10)
パンチ10は、ブランク材を絞ってプレス成形品を製造するための部品であって、例えば略直方体をした金属ブロックである。このパンチ10は、プレス成形時にブランク材と接するプレス成形面11を有している。
パンチ10の形状は、図面上下方向から見た場合に、例えば略四角形をしている。もっとも、パンチ10の形状は、製造するプレス成形品の形状によって様々な形状を取り得る。なお、パンチ10の図面左右方向の幅は、
図1において、「W1」で示されている。
【0014】
(ブランクホルダ20)
パンチ10の図面上方向には、ブランクホルダ20が配置されている。このブランクホルダ20は、ブランク材を挟持するための部品であって、例えば略直方体をした金属ブロックである。また、ブランクホルダ20は、図面上下方向に移動可能な部品である。
ブランクホルダ20の中央部分には、ブランクホルダ20を図面上下方向に貫通する貫通部(プレス成形領域)21が設けられている。ブランク材をプレス成形する際には、この貫通部21内をパンチ10が移動し、ブランク材とパンチ10とが接する構造となっている。換言すると、貫通部21は、パンチ10が通過自在な構造をしている。
この貫通部21の形状は、図面上下方向から見た場合に、例えば略四角形をしている。より詳しくは、貫通部21の図面左右方向の幅W2は、パンチ10の幅W1よりも広くなっている。これと同様に、貫通部21の図面前後方向の幅は、パンチ10の図面前後方向の幅よりも広くなっている。もっとに、パンチ10の形状と同様に、貫通部21の形状は、プレス成形品の形状によって様々な形状を取り得る。
【0015】
ブランクホルダ20は、プレス成形時にブランク材を挟持する挟持面22を備えている。この挟持面22は、図面上下方向から見て、貫通部21を取り囲むように設けられている。また、挟持面22は、絞りビード23を備えている。この絞りビード23は、プレス成形時に金型1内(具体的には、後述する貫通部31内)へブランク材が流入する量を調整するための部品である。
絞りビード23は、貫通部21の縁部21aの直線部分に沿って延びる溝であって、図面前後方向、図面左右方向の各方向における断面形状は凹状である。絞りビード23の深さ及び幅は、
図2において、それぞれ「d」及び「w1」で示されている。
【0016】
挟持面22の絞りビード23の外側には、波型形状部24が設けられている。また、挟持面22のコーナー部22aにも、波型形状部24は設けられている。換言すると、挟持面22には、貫通部21の周囲を取り囲むようにして、波型形状部24が設けられている。この波型形状部24は、挟持面22と後述するダイ30側の挟持面32とで挟持されたブランク材の外周端部(フランジ部)に波型形状を付与するための部分である。波型形状部24の形状は、貫通部21から遠ざかる方向に凹凸を繰り返す波型形状である。より詳しくは、波型形状部24の形状は、貫通部21の縁部21aから直角にブランクホルダ20の外縁部20aに向かって凹凸を繰り返す波型形状である。
なお、この波型形状部24は、少なくとも、貫通部21のコーナー部分(角部)から遠ざかる方向に凹凸を繰り返すように形成されていればよい。
【0017】
波型形状部24の波型形状は、例えば、正弦波や余弦波等の三角関数によって記述される形状、半円を組み合わせて記述される形状、その他の関数を組み合わせて記述される形状、関数では記述されない形状である。つまり、本実施形態に係る波型形状は、凹部と凸部とが連続して繰り返されている形状であればよい。例えば、上述の「半円を組み合わせて記述される形状」とは、
図3に示すような形状という。なお、
図3において、符号「41」で示された部分は、波型形状が付与されたフランジ部である。
【0018】
波型形状部24の輪郭形状は、半波長以上の長さを有する波形状であることを必要とする。なお、波型形状部24の輪郭形状が1波長以上の長さを有する波形状であれば、フランジしわの発生をより効果的に抑制することができる。
波型形状部24の波型形状の波長λを振幅Aで割った値は、2以上であり、より好ましくは3以上である。波長λを振幅Aで割った値が2未満の場合には、波長λに対して振幅Aが大きくなりフランジしわの発生を抑制する効果は高くなるが、一方で、例えばブランク材の金型1内への流入量を過剰に抑制してしまう、曲げ曲げ戻し量が大きくなりパウダリングの発生量が多くなってしまうといった不都合が生じ得る。
【0019】
また、波長λを振幅Aで割った値は、6以下であり、より好ましくは4以下である。波長λを振幅Aで割った値が6を超える場合には、波長λに対して振幅Aが小さくなりフランジしわの発生を抑制する効果が低くなってしまうといった不都合が生じ得る。
なお、
図1、2に示された波型形状部24の波型形状は、三角関数によって記述された波型形状であり、2つの凹部と2つの凸部とを含んだ波型形状(つまり、2波長分の波形状)である。
【0020】
(ダイ30)
ブランクホルダ20の図面上方向には、ダイ30が配置されている。このダイ30は、ブランク材を挟持するための部品であって、例えば略直方体をした金属ブロックである。また、ダイ30は、図面上下方向に移動可能な部品である。
ダイ30の中央部分には、ダイ30を図面上下方向に貫通する貫通部(プレス成形領域)31が設けられている。ブランク材をプレス成形する際には、この貫通部31内をパンチ10が移動する。換言すると、貫通部31は、パンチ10が通過自在な構造をしている。
【0021】
この貫通部31の形状は、図面上下方向から見た場合に、例えば略四角形をしている。より詳しくは、貫通部31の図面左右方向の幅W3は、パンチ10の幅W1にブランク材の厚みの2倍を加えた長さよりも広くなっている。これと同様に、貫通部31の図面前後方向の幅は、パンチ10の図面前後方向の幅にブランク材の厚みの2倍を加えた長さよりも広くなっている。もっとに、パンチ10及び貫通部21の形状と同様に、この貫通部31の形状は、プレス成形品の形状によって様々な形状を取り得る。
【0022】
ダイ30は、プレス成形時にブランク材を挟持する挟持面32を備えている。この挟持面32は、図面上下方向から見て、貫通部31の周囲を取り囲むように設けられている。また、挟持面32は、絞りビード33を備えている。この絞りビード33は、プレス成形時に金型1内(具体的には、貫通部31内)へブランク材が流入する量を調節するための部品である。
【0023】
絞りビード33は、貫通部31の縁部31aの直線部分に沿って延びる突起であって、図面前後方向、図面左右方向の各方向における断面形状は矩形状である。絞りビード33の高さ及び幅は、
図2において、それぞれ「h」及び「w2」で示されている。また、この絞りビード33は、ブランクホルダ20側の絞りビード23と噛み合い可能に形成されている。より詳しくは、絞りビード33の高さhにブランク材の厚みを加えた長さが、絞りビード23の深さdとなっている。また、絞りビード33の幅w2にブランク材の厚みの2倍を加えた長さが、絞りビード23の幅w1となっている。
【0024】
挟持面32の絞りビード33の外側には、波型形状部34が設けられている。また、図示しない挟持面32のコーナー部(挟持面22のコーナー部22aに対向する部分)にも、波型形状部34は設けられている。換言すると、挟持面32には、貫通部31を取り囲むようにして、波型形状部34が設けられている。この波型形状部34は、挟持面32と挟持面22とで挟持されたフランジ部に波型形状を付与するための部分である。波型形状部34の形状は、貫通部31から遠ざかる方向に凹凸を繰り返す波型形状である。より詳しくは、波型形状部34の形状は、貫通部31の縁部31aから直角にダイ30の外縁部30aに向かって凹凸を繰り返す波型形状である。
図1では、波型形状部34の凹部に対向して波型形状部24の凸部が配置されており、波型形状部34の凸部に対向して波型形状部24の凹部が配置されている。このように、波型形状部34は、波型形状部24と噛み合い可能に形成されている。
なお、この波型形状部34は、少なくとも、図示しない貫通部31のコーナー部分(角部)から遠ざかる方向に凹凸を繰り返すように形成されていればよい。
【0025】
波型形状部34の波型形状は、上述の波型形状部24の波型形状と同様に、例えば、正弦波や余弦波等の三角関数によって記述される形状、半円を組み合わせて記述される形状、その他の関数を組み合わせて記述される形状、関数では記述されない形状である。つまり、本実施形態に係る波型形状は、凹部と凸部とが連続して繰り返されている形状であればよい。例えば、上述の「半円を組み合わせて記述される形状」とは、
図3に示すような形状という。
図3に示すような波型形状であっても、フランジ部41に波型形状を付与することができる。
波型形状部34の輪郭形状は、半波長以上の長さを有する波形状であることを必要とする。なお、波型形状部34の輪郭形状が1波長以上の長さを有する波形状であれば、フランジしわの発生をより効果的に抑制することができる。
【0026】
また、上述の波型形状部24の波型形状と同様に、波型形状部34の波型形状の波長λを振幅Aで割った値は、2以上であり、より好ましくは3以上である。波長λを振幅Aで割った値が2未満の場合には、波長λに対して振幅Aが大きくなりフランジしわの発生を抑制する効果は高くなるが、例えばブランク材の金型1内への流入量を過剰に抑制してしまう、曲げ曲げ戻し量が大きくなりパウダリングの発生量が多くなってしまうといった不都合が生じ得る。
【0027】
また、波長λを振幅Aで割った値は、6以下であり、より好ましくは4以下である。波長λを振幅Aで割った値が6を超える場合には、波長λに対して振幅Aが小さくなりフランジしわの発生を抑制する効果が低くなってしまうといった不都合が生じ得る。
なお、
図1、2に示された波型形状部34の波型形状は、三角関数によって記述された波型形状であり、2つの凹部と2つの凸部とを含んだ波型形状(つまり、2波長分の波形状)である。
【0028】
(金型1の変形例)
上述の実施形態では、貫通部21、31の周囲を取り囲むようにして設けられた波型形状部24、34について説明したが、これに限定されるものではない。波型形状部24、34はそれぞれ、少なくとも、貫通部21、31のコーナー部から遠ざかる方向に凹凸を繰り返すように形成されていればよい。
【0029】
また、上述の実施形態では、断面形状が凹状をした絞りビード23及び凸状をした絞りビード33について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ブランクホルダ20側の絞りビードの断面形状を凸状とし、ダイ30側の絞りビードの断面形状を凹状としてもよい。もっとも、この場合であっても、絞りビードは、互いに噛み合い可能となっていることを要する。
【0030】
また、上述の実施形態では、図面上下方向から見て、直線形状をした絞りビード23、33についてそれぞれ説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図面上下方向から見て、互いに波型形状をした絞りビードであってもよい。
また、上述の実施形態では、絞りビード23、33を備えた金型1について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、金型に絞りビード23、33を設けなくてもよい。より詳しくは、挟持面22には波型形状部24のみを設け、挟持面32には波型形状部34のみを設けてもよい。
【0031】
(金型1を用いたプレス成形方法)
以下、上述の金型1を用いてブランク材40をプレス成形する方法について、
図4〜8を参照しつつ説明する。
図4〜7は、金型1を用いてブランク材40をプレス成形する際の各工程を模式的に示す断面斜視図である。また、
図8は、フランジ部41に波型形状が付与されたブランク材40の形状を模式的に示す平面図である。なお、
図8では、ブランクホルダ20とダイ30の記載を省略している。
【0032】
本実施形態に係るプレス成形方法は、金型1にブランク材40をセットする工程と、セットされたブランク材40の外周端部をブランクホルダ20とダイ30とで挟持する工程する工程と、外周端部が挟持されたブランク材40にパンチ10のプレス成形面11を押し付けてブランク材40をプレス成形する工程とを有している。以下、各工程について説明する。
本実施形態に係る成形方法では、まず、
図4に示すように、金型1にブランク材40をセットする。より詳しくは、ブランクホルダ20とダイ30との間にブランク材40を配置する。金型1にセットするブランク材40は、例えば、一枚の平板状金属素材を打ち抜いた四角形状の部材であって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板である。
【0033】
次に、
図5に示すように、ブランク材40の外周端部(フランジ部)41をブランクホルダ20の挟持面24とダイ30の挟持面34とで挟持する。この際、所定の圧力でフランジ部41をプレスする。こうして、絞りビード23と絞りビード33とで挟持されたフランジ部41に、図面下方向に突起した凸形状43を付与する。また、波型形状部24と波型形状部34とで挟持されたフランジ部41に、図面上下方向に凹凸を繰り返す波型形状44を付与する。
【0034】
次に、
図6に示すように、挟持面22と挟持面32とでフランジ部41が挟持された状態にあるブランク材40を、その状態を維持しつつ図面下方向に向かって徐々に移動させ所定の圧力でパンチ10のプレス成形面11に押し付ける。ブランクホルダ20とダイ30が図面下方向に移動するにしたがい、ブランク材40は、波型形状部24、34及び絞りビード23、33を通過して金型1内へ流入する。
【0035】
ここで、フランジ部41に波型形状44が付与されたブランク材40に着目する。
図8は、フランジ部41に波型形状44が付与されたブランク材40を模式的に示す平面図である。
図8に示すように、プレス成形時におけるブランク材40のフランジ部41には、波型形状44が折り曲げ部45に対して直角方向に付与されている。これにより、フランジ部41の面内方向における変形に対する剛性は高められている。よって、プレス成形時にブランク材40が金型1内へ流入しても(
図6を参照)、フランジ部41の面内方向における変形は軽微なものとなる。ゆえに、プレス成形時におけるフランジしわの発生を抑制することができる。なお、
図8に示された各矢印は、ブランク材40の流入方向またはフランジ部41の変形方向を示している。また、パンチ10によってプレス成形されたプレス成形部分には、符号「46」が付されている。
【0036】
以上のようにして、ブランク材40をプレス成形する。その後、成形パネル42(つまり、プレス成形されたブランク材40)をブランクホルダ20とダイ30とともに図面上方向に移動させる。
最後に、
図7に示すように、金型1から成形パネル42を取り出す。こうして、本実施形態に係るプレス成形方法は終了する。
【0037】
(金型1を用いたプレス成形方法の変形例)
本実施形態では、挟持面22と挟持面32とで挟持されたブランク材40をパンチ10に向けて移動させて、ブランク材10をプレス成形する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、挟持面22と挟持面32とで挟持されたブランク材40に向けてパンチ10を移動させて、ブランク材10をプレス成形してもよい。
【0038】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、貫通部31を有するダイ30を備えた金型1を用いてブランク材40をプレス成形した場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図9に示すように、ダイ50に凹部51を設け、その凹部51に突起部55を設けてもよい。ただし、この場合には、突起部55に対応する溝部62を備えたパンチ60を用いてブランク材40をプレス成形する必要がある。これにより、突起部55の形状が付与されたプレス成形品(成形パネル47)を製造することができる。なお、
図9に示された「50a」、「52」、「53」、「54」、「61」は、それぞれダイ30の外縁部30a、挟持面32、絞りビード33、波型形状部34、パンチ10に備わるプレス成形面11に対応するものである。
【0039】
[実施例]
金型1を用いて、絞りビードの高さ、波型形状及びプレス成形時のクッション圧を独立に変化させることで、絞りビードの高さ等がフランジしわの発生や成形性にどのように影響を及ぼすかを検証した。以下、その検証結果について説明する。
本検証では、絞りビードの高さは1mm、3mm、5mmの3水準で変化させ、波型形状は波長λを40mmとして振幅Aを0mm、10mm、20mm、30mmの4水準で変化させた。また、試験ブランク材には270D材を用い、各金型条件でクッション圧を変化させて30mmの成形高さまで試験ブランク材を成形した。その後、プレス成形品に割れやフランジしわが発生していないか検査を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
表1に示した結果から、金型に波型形状を付与することにより(つまり、プレス成形時にフランジ部に波型形状を付与することにより)、プレス成形品に割れやフランジしわが発生しない成形可能なクッション圧の範囲が広くなることがわかる。
表2は、クッション圧を12tとした場合の各金型条件における成形高さと、板厚減少率とを比較した結果である。
【0043】
表中のハッチングした部分は、フランジしわが発生した条件である。絞りビードの高さが高いほど、ブランク材は金型内に流入しにくくなる。このため、歩留まりは向上するが板厚減少率が高くなり(つまり、ブランク材の厚みは薄くなり)、割れの危険性が高まる。
表2に示した結果から、金型に波型形状を付与することにより、絞りビードの高さを高くすることなく歩留まりを向上させることができ、且つフランジしわの発生を抑制することができることがわかる。
【0044】
(効果)
(1)本実施形態に係る金型1は、パンチ10と、ブランクホルダ20と、ブランクホルダ20に対向して配置されたダイ30と、を備えている。また、金型1は、ブランク材40のフランジ部41をブランクホルダ20の挟持面22及びダイ30の挟持面32で挟持し、ブランクホルダ20及びダイ30の各中央部に形成された貫通部21、31をパンチ10が移動することでブランク材40をプレス成形する金型である。また、挟持面22及び挟持面32にはそれぞれ、貫通部21、31から遠ざかる方向に凹凸を繰り返す波型形状部24、34が互いに噛み合い可能に形成されている。また、波型形状部24、34の輪郭形状はそれぞれ、半波長以上の長さを有する波形状となっている。
【0045】
この構成であれば、貫通部21、31から遠ざかる方向に凹凸を繰り返す波型形状44をフランジ部41に付与することができる。このため、フランジ部41の面内方向の変形に対する剛性を高めることができる。したがって、プレス成形時にブランク材40が金型1内へ流入しても、フランジ部41の面内方向の変形は軽微なものとなり、プレス成形時におけるフランジしわの発生を抑制することができる。ゆえに、フランジしわの発生に起因するパウダリングの発生も抑制することができる。
【0046】
(2)また、本実施形態に係るプレス成形金型1の波型形状部24、34は、少なくとも、貫通部21、31のコーナー部分から遠ざかる方向に凹凸を繰り返すように形成されている。
この構成であれば、少なくとも、プレス成形時における、プレス成形品のコーナー部分におけるフランジしわの発生を抑制することができる。ゆえに、プレス成形品のコーナー部分におけるフランジしわの発生に起因するパウダリングの発生も抑制することができる。
【0047】
(3)また、本実施形態に係るプレス成形金型1の挟持面22及び挟持面32にはそれぞれ、貫通部21、31の縁部21a、31aに沿って、絞りビード23、33が互いに噛み合い可能に形成されている。また、絞りビード23、24の外側にはそれぞれ、波型形状部24、34が形成されている。
この構成であれば、挟持面22と挟持面32とでブランク材40のフランジ部41を挟持した際に、そのフランジ部41に上述の波型形状44を付与することができる。このため、プレス成形時にブランク材40が金型1内に流入する際の抵抗力を大きくすることができ、絞りビード23、33の高さを低くすることが可能となる。よって、従来技術に係るフランジしわの発生を抑制する手段(例えば、絞りビードの高さを高くする、しわ押さえ力を上げるといった手段)と比較して、ブランク材40が金型1内に流入する際の抵抗力を小さくすることができる。ゆえに、金型1内にブランク材40を適度に流入させることが可能となるため、プレス成形時における割れの発生を抑制することができる。
また、絞りビード23、33の高さを低くすることが可能となると、絞りビード通過時のブランク材40の曲げ曲げ戻し量を小さくすることができる。このため、パウダリングの発生をさらに抑制することができる。
【0048】
(4)また、本実施形態に係るプレス成形金型1の波型形状部24、34の波長λを波型形状部24、34の振幅Aで割った値は、それぞれ2以上6以下の範囲内である。
この構成であれば、ブランク材40の金型1内への流入を過剰に抑制することもなく、曲げ曲げ戻し量が多くなることもない。このため、パウダリングの発生をさらに抑制するとともに、割れの発生をさらに抑制することができる。