特許第6024640号(P6024640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024640
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】溶融金属めっき装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/00 20060101AFI20161107BHJP
   C23C 2/16 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C23C2/00
   C23C2/16
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-215292(P2013-215292)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-78405(P2015-78405A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岩根 啓介
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−306449(JP,A)
【文献】 特開2013−091828(JP,A)
【文献】 特開昭62−193671(JP,A)
【文献】 特開平04−231448(JP,A)
【文献】 特開昭53−052549(JP,A)
【文献】 特開昭58−055069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴と、該めっき浴内から連続的に引き出される鋼帯の表面に向けてガスを噴射することにより前記鋼帯表面に付着した余剰のめっき金属を絞り落としてめっき金属付着量を調整するワイピングノズルと、該ワイピングノズルの上方に配設され前記めっき浴内から連続的に引き出される鋼帯を垂直に支持する浴上サポートロールとを有する溶融金属めっき装置であって、
前記ワイピングノズルの下方かつ前記めっき浴の上方に配設される整流板と、
前記ワイピングノズルの配設位置の上方から前記整流板の配設位置まで前記鋼帯面に沿って垂下して配設され、前記ワイピングノズルと当接しない遮蔽ネットとを具え、
めっき金属飛沫が前記鋼帯表面に付着することを防止し、
前記整流板と前記ワイピングノズルとは、
当接しない、もしくは、当接する場合は前記整流板と前記ワイピングノズルの当接部の一
部に開口部を有することを特徴とする溶融金属めっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスワイピング法を用いた溶融金属めっき装置に係り、ガスワイピングに起因しためっき金属飛沫が被めっき材である鋼帯に付着するのを防止する溶融金属めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属めっきラインでは、被めっき材へのめっき金属付着量を調整する手段として、ガスワイピング法が広く適用されている。ガスワイピング法を用いた溶融金属めっきラインでは通常、図2に示すように、めっき浴1に浸漬した鋼帯S(被めっき材)を浴上サポートロール7で支持してめっき浴1から垂直に連続的に引き上げながら、ワイピングノズル2から噴射するガス3を鋼帯Sの表面に吹き付けることにより、鋼帯Sに付着した余剰のめっき金属を絞り落とす。その際、ワイピングノズル2から噴射するガス3の圧力と噴射角度、鋼帯Sとワイピングノズル2の距離を調整して、絞り落とすめっき金属量を調整することにより、鋼帯Sの表面に所望のめっき付着量の金属めっきを形成する。
【0003】
以上のように、ガスワイピング法では、比較的簡便な設備により、被めっき材のめっき金属付着量を調整することができる。しかしながら、ガスワイピング法を用いた溶融金属めっきラインでは、ワイピングノズルから噴射するガスに起因しためっき金属飛沫が鋼帯の表面に付着することが問題視されている。
【0004】
図2に示すように、ワイピングノズル2から噴射したガス3は、鋼帯Sの表面に衝突した後、一部は鋼帯Sに沿って下方に向かう気流3aとなってめっき浴1の浴面に衝突する。ここで、例えばめっき付着量が少ない場合、ワイピングノズル2から噴射したガス3の圧力は比較的高圧に設定されるため、めっき浴1の浴面に衝突する気流3aも高圧となる。このような場合、絞り取られた余剰のめっき金属が飛散しめっき金属飛沫4(4a、4b)が発生する。めっき浴1の浴面に衝突した気流3aは、ワイピングノズル2の両側に設けられた空間のうち鋼帯Sとは反対側の空間を上昇する気流3bとなり、めっき金属飛沫4bはこの気流3bに沿って上昇し飛散する。このようにして上昇しためっき金属飛沫4bの一部は、ワイピングノズル2の上部の空間を通じ、めっき金属付着量が調整された後の鋼帯Sの表面に付着する。めっき金属付着量が調整された後の鋼帯Sの表面にめっき金属飛沫が付着すると、鋼帯の表面外観不良やめっき層厚さの不均一を生じ、製品の品質を損なってしまう。よって、上記問題を解決するための対策が必要となる。
【0005】
ここで、ワイピングノズルから噴射するガスの圧力を十分に低くすれば、めっき浴の浴面に衝突する気流の圧力も低くなり、めっき浴の浴面の乱れが抑制されるため、上記問題を解決することが可能となる。しかし、噴射するガスの圧力を低くすると、鋼帯表面から絞り落とすことができるめっき金属量が少なくなり、すなわちワイピング効果が不十分となり、所望のめっき付着量を達成することが難しくなる。このような状況においてめっき付着量を確保するためには、鋼帯搬送速度を十分に低くする必要があるが、鋼帯搬送速度の低化は生産性を低下させてしまう。昨今、生産性の観点から、鋼帯搬送速度のより一層の高速化が求められている中、ワイピングノズルから噴射するガスの圧力を低減することは好ましくない。
【0006】
これらの問題に鑑み、特許文献1には、ワイピングノズルの上方に鋼帯面に沿って浴上のサポートロールまで遮蔽ネットを設け、ワイピングノズルとめっき浴との間に整流板を設けたことを特徴とする、溶融金属めっき装置が提案されている。
【0007】
ここで、特許文献1で提案された装置の実施形態を図3に示す。図3において、1はめっき浴、Sはめっき浴1から連続的に引き上げられる鋼帯、2は鋼帯Sを挟んで対向に設置されたワイピングノズル、5は遮蔽ネットであり、5a、5bはそれぞれ遮蔽ネットの上方端と下方端で、5aはワイピングノズルの上方に配設された浴上サポートロール7の支持具7aと、5bはワイピングノズル2の上方で且つワイピングノズル2の外方(鋼帯Sと対向している方向とは反対側の方向)と当接する。6は整流板でありワイピングノズル2の外方に配設される。
【0008】
特許文献1で提案された装置では、ワイピングノズル2の両側に設けられた空間のうち鋼帯Sとは反対側の空間を上昇する気流3bとともに上昇し、ワイピングノズル2の上部の空間より鋼帯Sに付着しようとするめっき金属飛沫4bを、遮蔽ネット5で捕捉している。また、ワイピングノズル2の上方に合金化炉を設ける場合、気流3bとともに上昇するめっき金属飛沫4bが炉内に侵入することを遮蔽する効果が不足するため、整流板6を具えている。整流板6を、ワイピングノズル2の下方かつめっき浴1の上方に配設することにより、上昇する気流3bは鋼帯Sや合金化炉とは反対側の方向に誘導される。その結果、気流3bとともに上昇するめっき金属飛沫4bも鋼帯Sとは反対側の方向に誘導されるため、めっき金属飛沫4bがワイピングノズル2の上方の空間を通過して炉内に侵入し、鋼帯Sの表面に付着することを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-91828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、特許文献1で提案された装置によると、ワイピングノズルから噴射するガス圧力が高圧化し、めっき浴からめっき金属飛沫が発生した場合であっても、遮蔽ネットの存在により、めっき金属飛沫の鋼帯への付着を防止することができる。そのため、鋼帯搬送速度を極端に低減することなくめっき金属飛沫の鋼帯への付着を抑制することが可能となり、生産性の低下を招くことなく製品の品質向上効果が期待できる。しかしながら、特許文献1で提案された装置では、各部の隙間から溶融金属飛沫が浸入、飛散し、鋼帯へ付着することを抑制する観点から、ワイピングノズルと遮蔽ネット、ワイピングノズルと整流板の間にそれぞれ当接部を有する構造とした場合、溶融金属飛沫がこれらの当接部に堆積するという問題がある。
【0011】
図3に示す例のように、ワイピングノズル2から噴射したガス3が鋼帯Sに衝突すると、絞り取られた余剰のめっき金属が、溶融金属飛沫4a、4bとなって気流の流れに沿って運ばれる。このうち、上方に飛散した溶融金属飛沫4aは一部が遮蔽ネット5に付着し、一部はワイピングノズル2と遮蔽ネット5の当接部5bに堆積する。このとき、操業条件変化によりワイピングノズル2の配置を変更すると、当接部5bがワイピングノズル2に追従するため遮蔽ネット5がたわみ、遮蔽ネット5と当接部5bに付着・堆積した溶融金属飛沫4aが再び飛散して鋼帯Sに付着してしまう。
また溶融金属飛沫4bは、鋼帯Sに沿って下方に進み、再度上昇する気流3bによって飛散する。その際、気流3bは整流板6で鋼帯Sとは反対側の方向に誘導されるが、一部は整流板上部に回り込む流れとなり、使用に伴って整流板6とワイピングノズル2の当接部6aに溶融金属飛沫4bが堆積する。このとき、操業条件変化によりワイピングノズル2の配置を変更して気流が変化すると溶融金属飛沫4bが再び飛散して鋼帯Sに付着してしまう問題がある。
そのため、特許文献1で提案された方法では、堆積した溶融金属飛沫を頻繁に除去することが必要とされる場合があり、メンテナンス作業が煩雑となっていた。
【0012】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、ガスワイピング法を用いた溶融金属めっきラインにおいて、ワイピング後の鋼帯にめっき金属飛沫が付着するのを抑制するとともに、生産設備に関する煩雑なメンテナンス作業を解消する溶融金属めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0014】
図1に示すように、ワイピングノズル2の配設位置の上方から整流板6の配設位置まで鋼帯S面に沿って遮蔽ネット5を設けて、前記遮蔽ネットの下方端を前記整流板6まで垂下して前記ワイピングノズル2と遮蔽ネット5が当接しない構造とすることで溶融金属めっき時にめっき金属飛沫が前記鋼帯Sに付着することを防止できる。
【0015】
ワイピングノズル2と遮蔽ネット5が当接しないため、ワイピングノズル2と遮蔽ネット5の間に金属飛沫4aが堆積することがない。その結果、操業条件変化によりワイピングノズル2の位置を変更した場合、ワイピングノズル2に追従することにより遮蔽ネット5がたわみ、遮蔽ネット5とワイピングノズル2の間に付着・堆積しためっき金属飛沫4aが再び飛散して鋼帯Sに付着してしまうという問題が起きない。
【0016】
整流板6とワイピングノズル2とを当接しない、もしくは、当接する場合は整流板6とワイピングノズル2の当接部6aの一部に開口部を有する構造とすることで、整流板6とワイピングノズル2の当接部6aにめっき金属飛沫4bが堆積することを防止し、めっき金属飛沫の浴面への落下を促進する。
【0017】
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]めっき浴と、該めっき浴内から連続的に引き出される鋼帯の表面に向けてガスを噴射することにより前記鋼帯表面に付着した余剰のめっき金属を絞り落としてめっき金属付着量を調整するワイピングノズルと、該ワイピングノズルの上方に配設され前記めっき浴内から連続的に引き出される鋼帯を垂直に支持する浴上サポートロールとを有する溶融金属めっき装置であって、前記ワイピングノズルの下方かつ前記めっき浴の上方に配設される整流板と、前記ワイピングノズルの配設位置の上方から前記整流板の配設位置まで前記鋼帯面に沿って垂下して配設され、前記ワイピングノズルと当接しない遮蔽ネットとを具え、めっき金属飛沫が前記鋼帯表面に付着することを防止することを特徴とする溶融金属めっき装置。
[2]前記[1]において、前記整流板と前記ワイピングノズルとは、当接しない、もしくは、当接する場合は前記整流板と前記ワイピングノズルの当接部の一部に開口部を有することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガスワイピング法を用いた溶融金属めっきラインにおいて、ワイピング後の鋼帯にめっき金属飛沫が付着するのを抑制するとともに、生産設備に関する煩雑なメンテナンス作業を大幅に削減することができる。よって、高品質な鋼帯を、生産性を低下させることなく工業的に安定して生産することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ガスワイピング法を適用した本発明の溶融金属めっき装置を模式的に示す断面図である。
図2】ガスワイピング法を適用した通常の溶融金属めっき装置を模式的に示す断面図である。
図3】ガスワイピング法を適用した従来の溶融金属めっき装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の溶融金属めっき装置の一例を図1に示す。図1に示すように、本発明の溶融金属めっき装置は、めっき浴1と、めっき浴1内から連続的に引き出される鋼帯Sの表面に向けてガス3を噴射することにより前記鋼帯S表面に付着した余剰のめっき金属を絞り落としてめっき金属付着量を調整するワイピングノズル2と、前記ワイピングノズル2の上方に配設され前記めっき浴内から連続的に引き出される前記鋼帯Sを垂直に支持する浴上サポートロール7を有する。そして、ワイピングノズル2から噴射するガス3の圧力と噴射角度、鋼帯Sとワイピングノズル2の距離を調整して、絞り落とすめっき金属量を調整することにより、鋼帯Sの表面に所望のめっき金属付着量の金属めっきを行う。また、ワイピングノズル用ガス供給本管8およびガス供給配管9を有する。位置は特に限定するものではない。また、ワイピングノズル2の上方に合金化炉(図省略)を設けてもよい。
【0021】
さらに、本発明では、上記に加えて、前記ワイピングノズル2の下方かつ前記めっき浴1の上方に配設される整流板6と、前記ワイピングノズル2の配設位置の上方から前記整流板6の配設位置まで前記鋼帯S面に沿って垂下して配設され、前記ワイピングノズル2と当接しない遮蔽ネット5とを具える。
【0022】
また、整流板6とワイピングノズル2とは、当接しない、もしくは、当接する場合は整流板6とワイピングノズル2の当接部6aの一部に開口部を有することが好ましい。
【0023】
先述のとおり、ワイピングノズル2から噴射したガス3を鋼帯Sの表面に衝突させると、絞り取られた余剰のめっき金属が、めっき金属飛沫4a、4bとなって気流の流れに沿って運ばれる。このうちめっき金属飛沫4bは、鋼帯Sに沿って鋼帯Sの進行方向と逆方向の下方に進み、再度上昇する気流3bによって飛散する。
そこで、本発明では、気流3bとともに上昇するめっき金属飛沫4bが、ワイピングノズル2の上部の空間より、ワイピングによりめっき金属付着量が調整された後の鋼帯Sの表面に付着するのを防止するため、ワイピングノズル2の配設位置の上方から整流板6の配設位置まで鋼帯S面に沿って垂下して遮蔽ネット5を配設する。
【0024】
上記の如く遮蔽ネット5を設けると、気流3bとともに上昇しためっき金属飛沫4bは、ワイピングノズル2の上部に設けられた空間を通過しようとする際、遮蔽ネット5に捕捉(捕集)される。めっき金属飛沫4bが、ワイピングノズル2の上部に設けられた空間を通過するのを効果的に抑制するうえでは、ワイピングノズル2の上部に設けられた空間の全域に亘り遮蔽ネット5を設置することが好ましい。また、遮蔽ネット5の幅方向(鋼帯Sの幅方向と同一方向)の長さは、鋼帯S幅と同等以上とすることが好ましい。遮蔽ネット5は、例えば、遮蔽ネット取付フレーム10を用いて設置することができる。
【0025】
このとき遮蔽ネット5の下方端がワイピングノズル2と当接すると、上記めっき金属飛沫4aの一部は遮蔽ネット5に付着するが、また一部は遮蔽ネット5とワイピングノズル2との当接部に堆積する。このような状態で操業条件変化によりワイピングノズル2の位置を変更すると、遮蔽ネット5がたわみ、係る部位に付着・堆積しためっき金属飛沫4aが再び飛散して鋼帯Sに付着してしまう。
【0026】
そこで本発明では遮蔽ネット5の下方端をワイピングノズル2に配設した整流板6まで垂下してワイピングノズル2の位置変更動作とは独立させ、遮蔽ネット5の下方端と整流板6が隙間を持った状態でワイピングノズル2が位置変更できる構造とする。これにより遮蔽ネット5は、ワイピングノズル2と当接しないため、ワイピングノズル2と遮蔽ネット5の間に金属飛沫4aが堆積することがない。その結果、操業条件変化によりワイピングノズル2の位置を変更した場合、従来であればワイピングノズルと遮蔽ネットの当接部がワイピングノズルに追従することにより遮蔽ネットがたわみ、遮蔽ネットと当接部に付着・堆積しためっき金属飛沫が再び飛散して鋼帯Sに付着するのを本発明では防止することができる。
【0027】
遮蔽ネット5の網目の大きさは、0.5〜3.0mm程度とすることが好ましい。遮蔽ネット5の網目の大きさが0.5mm未満であると、めっき金属飛沫が遮蔽ネット5の網目に詰まってしまうおそれがある。遮蔽ネット5は、定期的に洗浄して捕捉(捕集)しためっき金属飛沫を除去するか、遮蔽ネット5を交換することを要するが、めっき金属飛沫が遮蔽ネット5の網目に詰まってしまうと、遮蔽ネット5を頻繁に洗浄または交換することが必要となり、メンテナンス作業が煩雑になり、コストも嵩む。一方、遮蔽ネット5の網目の大きさが3.0mmを超えると、めっき金属飛沫4bを補足(捕集)する機能が低下し、めっき金属飛沫4bがワイピングノズル2の上方を通過して鋼帯Sの表面に付着する現象を抑制することが困難となる。
【0028】
遮蔽ネット5の素材は特に問わず、金属、樹脂等、従前公知のネットが何れも適用可能であるが、強度・耐熱性の観点からは、ステンレス等の金属製が好ましい。
【0029】
また、ワイピングノズル2の下方かつ前記めっき浴1の上方には整流板が配設される。気流3bの上昇方向の流れを緩和させ鋼帯Sとは反対側に誘導させるためにワイピングノズル2の鋼帯Sとは反対側に整流板を配設するのが好ましい。
【0030】
整流板6とワイピングノズル2とは、当接しない、もしくは、当接する場合は整流板6とワイピングノズル2の当接部6aの一部に開口部を有することが好ましい。
【0031】
整流板6がワイピングノズル2と当接すると、上昇する気流3bに沿うめっき金属飛沫4bは整流板6で鋼帯Sとは反対側の方向に誘導されるが、一部は整流板6の上部に回り込む流れにより、整流板6上に落下して最終的に整流板6とワイピングノズル2の当接部6aに堆積する。このとき、操業条件変化で気流が変化するとめっき金属飛沫4bは再び飛散し鋼帯Sに付着してしまう。そこで本発明では、整流板6とワイピングノズル2とは、当接しない、もしくは、当接する場合は整流板6とワイピングノズル2の当接部6aの一部を開口することで上述しためっき金属飛沫4aおよび4bのめっき浴1への落下を促進して堆積を防止し、操業変化によってめっき金属飛沫が飛散し鋼帯Sへの付着することを防止する。なお、開口部を有するとは、めっき金属飛沫4bが当接部6aに堆積することを防止し、めっき浴面1aへめっき金属飛沫4bが落下できる程度に開口部分を有することであり、開口部の形状は特に限定しない。例えば、最大直径もしくは長径で0.5〜3.0mm程度の複数の穴を設ける、網目状とすることができる。
【0032】
整流板6とワイピングノズル2とが当接する場合は、その水平方向の端部のうち鋼帯S側の端部が、ワイピングノズル2のうちガス噴射孔が形成されていない側の端部と当接するように設置することが好ましい。なお、スナウト(図省略)が設けられている場合には、整流板6の端部がスナウトの位置に達するように設置することが好ましい。更に、整流板6の寸法は、鋼帯Sの幅方向と平行な方向の長さが鋼帯Sの幅と同等以上の長さとなるように設定することが好ましい。
【0033】
以上のように、本発明によると、ワイピングノズル2の下方かつめっき浴1の上方に整流板6を具えることにより、気流3bとともに上昇するめっき金属飛沫4bがワイピングノズル2の上方を通じで鋼帯S表面に付着する現象を効果的に抑制することができる。そして、この整流板6とともに前記遮蔽ネット5を用いることにより従来技術が抱える諸問題を、簡便な手段によって解消することが可能となる。
【0034】
また、本発明においては、被めっき材である鋼帯の種類は特に限定されず、溶融金属めっきの種類も特に限定されない。更に、本発明では、溶融金属めっき装置の下流側に合金化炉を設け、溶融金属めっき処理後の鋼帯に合金化処理を施してもよい。
【0035】
なお、整流板6を具える本発明においては、ワイピング時に上方に発散するめっき金属飛沫4aが、遮蔽ネット5の下部に達したのち、遮蔽ネット5の下部の網目を通過して整流板6上に落下し、堆積する場合がある。そして、整流板6に堆積しためっき金属飛沫が、金属めっきラインの操業条件等により変化する気流で再び飛来し、ワイピング後の鋼帯Sの表面に付着する問題がある。これに対しては、本発明においては、図1に示すように整流板6上に堆積しためっき金属飛沫4aと鋼帯Sの表面との間にワイピングノズル2および遮蔽ネット5が配置されており、これらの存在が再び飛来しためっき金属飛沫4aがワイピング後の鋼帯Sの表面に付着するのを妨げるため、ワイピング後の鋼帯S表面に付着することを防止する。
【実施例】
【0036】
(発明例)
図1に示す本発明の溶融金属めっき装置を用いて、鋼帯(鋼種:SPCC、厚さ:0.7mm、幅:1600mmの冷延鋼帯)にめっき処理を施した。図1において、遮蔽ネット5、整流板6の詳細は以下のとおりである。
遮蔽ネット5の材質:ステンレス
遮蔽ネット5の網目の大きさ:1.0mm
遮蔽ネット5の幅方向寸法:鋼帯の幅+700mm
遮蔽ネット5の上端はガス供給本管上に配設した取付フレーム10に取付け、整流板の配設位置まで鋼帯面に沿って垂下させた。また、遮蔽ネット5の下端部と整流板の間の隙間は10mmとなるように配接した。
めっき条件は以下のとおりである。
めっき浴組成 :溶融亜鉛(0.14%Al)
めっき浴温度 :460〜470℃
鋼帯の搬送速度 :150mpm
ワイピング条件 :ノズルギャップ0.7mm、ヘッダー圧力0.8kg/cm2G、ノズル−鋼板間距離4mm
(比較例)
図3に示す従来の溶融金属めっき装置にて、その他の条件は実施例と同様にして評価を行った。
【0037】
本発明例および比較例の各々によって得られた溶融金属めっき鋼帯について、格落率(不良品の割合)を求め比較を行った。溶融金属めっき鋼帯の表面にめっき金属飛沫が付着した場合、その付着量が増加するにつれて色ムラが発生する。そこで、得られた溶融金属めっき鋼帯の表面を観察し、色ムラの発生状態を確認することにより格落率を求めた。
図2に示す従来の溶融金属めっき装置を用いた比較例に対し、図1に示す溶融金属めっき装置を用いた本発明例では格落率が47%低減していることが確認された。
【符号の説明】
【0038】
1 ・・・ めっき浴
1a ・・・ 浴面
2 ・・・ ワイピングノズル
3 ・・・ ガス
3a、3b ・・・ ガスの気流
4a、4b ・・・ めっき金属飛沫
5 ・・・ 遮蔽ネット
5a ・・・ 遮蔽ネット上方端
5b ・・・ 遮蔽ネット下方端
6・・・ 整流板
6a・・・ 整流板当接部
7 ・・・ 浴上サポートロール
7a ・・・ 浴上サポートロール支持具
8 ・・・ガス供給本管
9 ・・・ガス供給配管
10 ・・・遮蔽ネット取付フレーム
S ・・・鋼帯
図1
図2
図3