(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明フィルム材による基材に透明電極、配向層が作製された第1及び第2の積層体により液晶層を挟持して液晶セルが形成され、前記液晶セルを第1及び第2の直線偏光板により挟持して形成され、
前記透明電極の駆動により、少なくとも第1及び第2のドメインによるMVA方式により透過光を制御し、
前記第1及び第2の直線偏光板の透過軸方向が直交するように設定され、
前記第1の直線偏光板の透過軸方向で、前記第1のドメイン及び第2のドメインの面積の割合が変化するように作製され、
前記第1の直線偏光板の透過軸方向における中央領域では、前記第1及び第2のドメインの面積の割合が等しく、
前記第1の直線偏光板の透過軸方向における一方の端部から他方の端部に向かうに従って、前記第2のドメインの面積に対する前記第1のドメインの面積の割合が増大する
調光フィルム。
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5の何れかに記載の調光フィルムを透明板材に積層して、前記第1の直線偏光板の透過軸方向が車幅方向となるように配置して天窓が形成された
車両。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば窓に貼り付けて外来光の透過を制御する調光フィルムに関する工夫が種々に提案されている(特許文献1、2)。このような調光フィルムの1つに、液晶を利用したものがある。この液晶を利用した調光フィルムは、透明電極、配向層を作製した透明フィルム材により液晶材料を挟持して液晶セルが作製され、この液晶セルを直線偏光板により挟持して作成される。これによりこの調光フィルムでは、液晶に印加する電界の可変により液晶の配向を可変して外来光を遮光したり透過したりし、さらには透過光量を可変したりし、これらにより外来光の透過を制御する。
【0003】
また画像表示パネルの1つのである液晶表示パネルは、透明電極、配向膜を作製してなる1対のガラス板材により液晶を挟持して液晶セルが構成され、この液晶セルを直線偏光板により挟持して構成される。液晶表示パネルは、この透明電極のパターンニングにより、画素単位で、液晶に印加する電界を可変して所望の画像を表示する。
【0004】
このような液晶表示パネルは、マルチドメイン化により視野角特性を向上する工夫が種々に提案されており、特許文献3には、線状突起、点状突起等によるリブを設けて配向層を作製することによるVA(Virtical Alignment)方式のマルチドメイン化方式(MVA:Multi-domain vertical alignment)が提案されている。より具体的に、マルチドメイン化は、電界を可変して変化する液晶分子の向きが異なる領域(ドメイン)を近接して配置することにより、隣接するドメイン間で光学特性を補い合うようにし、これにより方位角の変化による透過率の変化を低減して視野角特性を向上する。なおここでVA方式は、液晶の配向を垂直配向と水平配向とで繰り替えて透過光を制御する方式であり、一般的に、無電界時、液晶を垂直配向させることにより、液晶層を垂直配向層により挟持して液晶セルが構成され、電界の印加により液晶材料を水平配向させるように構成される。
【0005】
ところで調光フィルムは、液晶表示パネルと同様に偏光面の制御により透過光量を制御することにより、液晶表示パネルで利用されている種々の液晶駆動方式を適用できると考えられる。具体的に、MVA方式を適用して調光フィルムを作製すれば、マルチドメイン化により視野角特性を向上して調光フィルムを作製することができ、方位角の変化による透過光量の変化を低減できると考えられる。
【0006】
しかしながらマルチドメイン化においては、1つのドメインの幅が大きいと各ドメインが視認され、視野角特性を向上することが困難になるばかりか、ドイメインが明暗により知覚されることになる。これにより視野角特性を向上する観点から、1つのドメインの幅は200μm以下に設定することが望ましいことが判った。
【0007】
しかしながら調光フィルムにおけるマルチドメイン化においては、屈折率の異なる領域(ドメイン)が繰り返し密接して多数配置されることにより、回折現象が顕著になる。また調光フィルムでは、液晶表示パネルとは異なり、例えば窓に配置する場合等があり、この場合、調光フィルム越しに屋外の風景等を視認することになる。これにより調光フィルムにおいて、マルチドメイン化により視野角特性を向上する場合において、1つのドメインの幅を200μm以下に設定して視野角特性を充分に向上する場合にあっては、風景等が二重写しの像により見て取られることになり、著しく使い勝手が劣化する問題がある。より具体的に、マルチドイメインは、位相型回折格子と同様の、光学異方性の異なるドメインの繰り返しによる周期構造であることにより、1つのドメインの幅を狭くして視野角特性の向上を図ろうとすると、二重写しに係る像間の距離が広がることになり、二重写しが激しくなる。またこれにより1つのドメインの幅を大きくすれば二重写しに係る像間の距離を小さくして二重写しを低減できるものの、このようにすると、視野角特性が劣化し、さらにはドメインが視認されてしまうことになる。
【0008】
これらにより従来の調光フィルムにおいては、例えば車両のサンルーフに適用して外来光の透過を制御する場合に、実用上未だ不充分な問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、例えば車両のサンルーフに適用して外来光の透過を制御する場合等において、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、ドメインの面積の比率を調整する、との着想に至り、本発明を完成するに至った。
【0012】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0013】
(1) 透明フィルム材による基材に透明電極、配向層が作製された第1及び第2の積層体により液晶層を挟持して液晶セルが形成され、前記液晶セルを第1及び第2の直線偏光板により挟持して形成され、
前記透明電極の駆動により、少なくとも第1及び第2のドメインによるMVA方式により透過光を制御し、
前記第1及び第2の直線偏光板の透過軸方向が直交するように設定され、
前記第1の直線偏光板の透過軸方向で、前記第1のドメイン及び第2のドメインの面積の割合が変化するように作製され、
前記第1の直線偏光板の透過軸方向における中央領域では、前記第1及び第2のドメインの面積の割合が等しく、
前記第1の直線偏光板の透過軸方向における一方の端部から他方の端部に向かうに従って、前記第2のドメインの面積に対する前記第1のドメインの面積の割合が増大する
調光フィルム。
【0014】
(1)によれば、像の2重写しが余り気にならない例えば真上方向では、第1及び第2のドメインの面積の比率を等しくて視野角特性を向上し、像の二重写しが気になる真上から遠ざかった部位では、シングルドメインに特性を近づけて二重写しを低減し、これらにより視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【0015】
(2) (1)において、
前記第1及び第2のドメインは、
前記透明電極による電界の印加によって、前記液晶層に係る液晶分子の倒れ込む方向が、前記第2の直線偏光板の透過軸方向に対して45度及び135度の角度を成す領域である調光フィルム。
【0016】
(2)によれば、充分な透過率を確保したより具体的構成により、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【0017】
(3) (1)、又は(2)において、
前記第1及び第2のドメインは、
前記透明電極の駆動により前記液晶層の液晶材料の倒れ込む方向が、第1の直線偏光板の透過軸方向に対して、時計方向及び反時計方向に45度の方向である調光フィルム。
【0018】
(3)によれば、シングルドメインの特性に近づけて、像が二重写しにより見て取られないようにした部位でも、充分な透過率を確保することができる。
【0019】
(4) (1)、(2)、(3)、(4)の何れかにおいて、
前記第1のドメインの面積の割合の変化が、前記第1及び又は第2のドメインの幅の変化により形成された調光フィルム。
【0020】
(4)によれば、より具体的構成により、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【0021】
(5) (1)、(2)、(3)、(4)の何れかにおいて、
前記第1及び又は第2の積層体の前記配向層のパターンニングにより前記第1及び第2のドメインが形成された調光フィルム。
【0022】
(5)によれば、より具体的構成により、例えば車両の天窓に適用する場合に、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【0023】
(6) (1)、(2)、(3)、(4)、(5)の何れかに記載の調光フィルムを透明板材に積層して形成された調光フィルムの積層体。
【0024】
(6)によれば、例えば車両の天窓に適用する場合に、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【0025】
(7) (1)、(2)、(3)、(4)、(5)の何れかに記載の調光フィルムを透明板材に積層して、前記第1の直線偏光板の透過軸方向が車幅方向となるように配置して天窓が形成された車両。
【0026】
(7)によれば、車両の天窓に適用して、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、例えば車両の天窓に適用する場合に、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1実施形態〕
〔車両〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両の説明に供する図である。なおこの
図1においては、矢印Aにより車両1の前方方向(X方向)を示す。この車両1は、運転手2及び助手席搭乗者3の2名が前席に乗車可能に構成され、後席に3名の搭乗者4、5、6が搭乗できるように構成される。この車両1は、これら前席及び後席の搭乗者2〜6の頭上を覆うようにサンルーフに係る開口7が設けられ、この開口7に調光フィルムの積層体8が配置されて天窓(サンルーフ)が形成される。なおここでサンルーフは、車両のルーフに設けられる外光入射用の透光部である。
【0030】
ここでこの天窓に係る調光フィルムの積層体8は、板ガラス等による透明板材9に、粘着剤、接着剤等により調光フィルム10を貼り付けて形成され、これにより天窓は、この調光フィルム10における透過光量の制御により、透過光量を種々に制御できるように構成される。
【0031】
〔調光フィルム〕
図2は、調光フィルム10を示す断面図である。この調光フィルム10は、印加電圧の可変により透過光の光量を制御する。
【0032】
この調光フィルム10は、液晶を利用して透過光を制御するフィルム材あり、直線偏光板12、13により調光フィルム用の液晶セル14を挟持して構成される。ここで直線偏光板12、13は、ポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素等を含浸させた後、延伸して直線偏光板としての光学的機能を果たす光学機能層が形成され、TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルム材による基材により光学機能層を挟持して作製される。直線偏光板12、13は、クロスニコル配置により、紫外線硬化性樹脂等による接着剤層により液晶セル14に配置される。なお直線偏光板12、13には、それぞれ液晶セル14側に光学補償に供する位相差フィルム12A、13Aが設けられるものの、位相差フィルム12A、13Aは、必要に応じて省略してもよい。
【0033】
液晶セル14は、後述する透明電極への印加電圧により透過光の偏光面を制御する。これにより調光フィルム10は、透過光を制御して種々に調光を図ることができるように構成される。
【0034】
〔液晶セル〕
液晶セル14は、フィルム形状による第1及び第2の積層体である下側積層体15D及び上側積層体15Uにより液晶層18を挟持して構成される。下側積層体15Dは、透明フィルム材による基材16に、透明電極21、スペーサ22、配向層23を作製して形成される。上側積層体15Uは、透明フィルム材による基材25に、透明電極26、配向層27を積層して形成される。液晶セル14は、この下側積層体15D及び上側積層体15Uに設けられた透明電極21、26の駆動により、VA(Virtical Alignment)方式におけるマルチドメイン化方式であるMVA方式により液晶層18に設けられた液晶材料の配向を制御し、これにより透過光の偏光面を制御する。ここでVA方式は、液晶の配向を垂直配向と水平配向とで変化させて透過光を制御する方式であり、一般的に、無電界時、液晶を垂直配向させることにより、液晶層を垂直配向層により挟持して液晶セルが構成され、電界の印加により液晶材料を水平配向させるように構成される。ここでマルチドメイン化とは、電界の可変に対して液晶分子の挙動が異なる領域を複数設けることであり、一般的に、複数領域における光学特性の平均値化(積分化)により視野角特性を向上するために適用される。
【0035】
基材16、25は、この種のフィルム材に適用可能な種々の透明フィルム材を適用することができるものの、光学異方性の小さなフィルム材を適用することが望ましい。この実施形態において、基材16、25は、ポリカーボネートフィルムが適用されるものの、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム等を適用してもよい。
【0036】
透明電極21、26は、この種のフィルム材に適用される各種の電極材料を適用することができ、この実施形態ではITO(Indium Tin Oxide)による透明電極材により形成される。スペーサ22は、液晶層18の厚みを規定するために設けられ、各種の樹脂材料を広く適用することができるものの、この実施形態ではフォトレジストにより作製され、透明電極21を作製してなる基材16の上に、フォトレジストを塗工して露光、現像することにより作製される。なおスペーサ22は、上側積層体15Uに設けるようにしてもよく、上側積層体15U及び下側積層体15Dの双方に設けるようにしてもよい。またスペーサ22は、配向層23の上に設けるようにしてもよい。またスペーサは、いわゆるビーズスペーサを適用してもよい。
【0037】
配向層23、27は、光配向層により形成される。ここでこの光配向層に適用可能な光配向材料は、光配向の手法を適用可能な各種の材料を広く適用することができるものの、この実施形態では、例えば光2量化型の材料を使用する。この光2量化型の材料については、「M.Schadt, K.Schmitt, V. Kozinkov and V. Chigrinov : Jpn. J. Appl.Phys., 31, 2155 (1992)」、「M. Schadt, H. Seiberle and A. Schuster : Nature, 381, 212(1996)」等に開示されている。
【0038】
液晶層18は、この種の調光フィルムに適用可能な各種の液晶材料を広く適用することができる。具体的に、液晶層18には、例えばメルク社製MLC2166等の液晶材料を適用することができる。なお液晶セル14は、液晶層18を囲むように、シール材29が配置され、このシール材29により上側積層体15U、下側積層体15Dが一体に保持され、液晶材料の漏出が防止される。
【0039】
〔マルチドメイン化〕
図3は、配向層23、27の説明に供する図である。この実施形態において、天窓は、上方より見て、進行方向が長辺の側である角が丸みを帯びた長方形形状による矩形形状により形成される(
図1)。これにより天窓に係る調光フィルムの積層体8も、進行方向が長辺の側である角が丸みを帯びた長方形形状による矩形形状により形成される。調光フィルム1は、直線偏光板2の側より平面視して、この矩形形状に係る長辺の延長方向(車両1の前後方向(X方向)である)に沿って延長する第1及び第2の帯状の領域A、Bが、この延長方向と直交する方向である車両1の幅方向(Y方向)に密接して繰り返し形成される。
【0040】
ここでこの第1及び第2の領域A、Bは、MVA方式の各ドメインであり、液晶層18の液晶材料に対してプレチルト角に係る配向規制力が異なる領域である。より具体的に、この実施形態では、このプレチルト角に係る配向規制力の方向が、第1の領域Aでは、車両1の前方方向Xに対して反時計方向に斜め45の角度を成す方向に設定され、これにより当該領域Aでは電界の印加によりこの反時計方向の斜め45度の角度を成す方向に液晶分子が倒れるように設定される。なおこの
図3ではこのプレチルトに係る配向規制力の方向を矢印により示す。
【0041】
これに対して第2の領域Bでは、プレチルト角に係る配向規制力の方向が、車両1の前方方向Xに対して時計方向に斜め45(反時計方向では135度)の角度を成す方向に設定され、これにより当該部位Bでは電界の印加によりこの時計方向の斜め45度の角度を成す方向に液晶分子が倒れるように設定される。なおこのプレチルト角に係る配向規制力の方向設定は、光配向層の材料層に対して、各領域A、Bにおいて矢印により示す配向規制力の方向が偏光面の方向である直線偏光の紫外線を、正面方向から矢印により示す方向に傾いた方向よりそれぞれ斜め照射して設定することができる。また光配向層の材料層は、光配向層27に係る塗工液を塗工した後、乾燥させて形成される。
【0042】
これに対して配向層23は、垂直方向に配向規制力を発現する垂直配向層であり、領域A及びBで共通に基材6の全面に形成される。なお配向層23は、配向層27と同一の光配向層に係る塗工液を塗工した後、乾燥させて、作製することができる。なお乾燥させた後に、無偏光の紫外線を正面より照射して露光してもよい。このようにして、露光処理されることなく作製される配向層23、又は無偏光の紫外線を正面より照射して作製される配向層23は、水平方向に配向規制力を発現することなく、厚み方向に配向規制力を発現し、垂直配向層として機能する。なおこれにより配向層23は、他の垂直配向層として機能する各種構成を適用してもよい。
【0043】
このような第1及び第2の領域A及びBによるドメインの設定に対して、直線偏光板12及び13は、透過軸方向が直交するように配置されて、領域A及びBの延長方向及び繰り返し方向がそれぞれ透過軸方向となるように設定される。これらによりこの実施形態では、第1及び第2の領域A及びBによる2つのドメインによるマルチドイメインにより透過光を制御する。
【0044】
〔ドメインの面積の設定〕
ここで調光フィルム10は、第1及び第2のドメイン幅である領域A及びBの幅WA及びWBの比率が、車両1の幅方向である直線偏光板12の透過軸方向で変化するように設定される。これによりこの幅方向である直線偏光板12の透過軸方向で、第1又は第2のドメインA又はBにおいては、全体に対する面積の割合が変化するように設定される。より具体的には、
図4において符号Lにより示すように、座席より正面方向Xを見て左手側端(
図1においてY方向である)では、幅WA及びWBの比率が1:0となるように、また幅方向の中央領域では幅WA及びWBの比率が1:1となるように、さらに幅方向の右手側端では幅WA及びWBの比率が0:1となるように、さらにこのような比率が幅方向において直線的に変化するように、設定される。これらにより幅WA、WBの比率の設定に対応するように、ドメインA又はBの面積の割合が変化するように設定される。
【0045】
なおこれにより
図1においては、対応するドメインによる液晶分子の配向方向を矢印により示すようにして、この幅WA、WBの設定に対応して、矢印の太さを可変して領域A、Bの面積の比率を示す。これによりこの
図1における左端及び右端に沿った領域では、それぞれ領域A、領域Bのみが設けられ、また中央領域では領域A及びBが1:1の比率により設けられ、これら左端領域、中央領域、右端領域間で、領域A及びBの割合が相補的に徐々に変化するように設定される。
【0046】
またこのように比率を変化させるようにして、領域A及びBの幅WA、WBの加算値である、ドメインの繰り返しピッチが、300μm以下50μm以上に設定され、好ましくは250μm以下100μm以上に設定され、より好ましくは200μm以下150μm以上に設定される。これらによりこの実施形態では、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制する。
【0047】
すなわちドメインの幅(WA及びWB)の比率を1:1に設定した状態で、ドメインの繰り返しピッチを可変して調査した結果、ドメインの繰り返しピッチを300μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下に設定することにより、各方向から見て隣接する2つのドメインにおける透過光量の差異を視認できないようにすることができ、これによりマルチドイメイン化により視野角特性を向上することができる。
【0048】
しかしながら単純にドメインの繰り返しピッチを小さくしたのでは、ドメインの周期構造による回折により、調光フィルム越しに見る風景が2重写しにより見て取られる。ここでこの2重写しにあっては、ドメインの周期構造による回折光により発生するものであり、ドメインの繰り返しピッチが小さくなればなる程、2重写しに係る像間の距離が大きくなり、2重写しが激しくなって目立つようになる。ドメインの繰り返しピッチを種々に設定してこの2重写しの程度を検討したところ、ドメインの繰り返しピッチを50μm以上に設定して、好ましくは100μm以上に設定して、より好ましくは150μm以上に設定して、2重写しを低減することができる。
【0049】
しかしながらこのようにドメインの繰り返しピッチを設定した場合にあって、像の2重写しを実用上充分に低減できるのは、天窓の幅方向の中央部分(中央領域)についてであり、車幅方向の両側面部については、実用上未だ不充分なことが判った。すなわちこのような天窓においては、前席の搭乗者は前方を向いて着席していることにより、殆んどの場合、天窓からは前方方向を見ることになる。またこれにより前席の搭乗者は、殆んど、天窓からは後方を見ることは無いと言える。また後席の搭乗者にあっても、その多くが天窓より前方方向を見ることになる。
【0050】
このようにして前方方向を主に見る場合にあって、幅方向に係る中央部分で前方方向を見て取られる風景は、多くが空であり、この場合、2重写しにより雲等が見て取られても、多くは何ら気にならないと言える。またこの場合、雲等が見て取られることにより、この幅方向の中央部分にあっては、2重写しを改善するよりも視野角特性の向上を図る方が望ましいと言える。これにより幅方向の中央部分にあっては、上述の繰り返しピッチの設定を前提に、ドメインの幅(WA及びWB)の比率が1:1に設定される。
【0051】
これに対して幅方向の両端部では、道路の両側に設けられた各種の構造物、信号、標識等が見て取られることになり、中央部分に比して像の2重写しが格段に目立つようになる。ここでマルチドメインに代えてシングルドメインの構造を採用すると、このようなドメインの周期構造による回折現象が発生しないことにより、像の2重写しを防止することができる。またこの場合に、幅方向の左端側及び右端側が、前方方向から時計方向及び反時計方向に45度の方向に液晶分子が配向する方向であることにより、透過光量を充分に確保して像の2重写しを防止することができる。
【0052】
またこのように幅方向の左端側及び右端側に向かって、中央部分から徐々に2つのドメインの面積の比率(割合)が変化するように設定すれば、このように中央部分と左端側及び右端側とで比率を設定するようにして、この比率(割合)の設定による光学特性の幅方向における変化を知覚できないようにすることができ、これによりユーザーに違和感を感じさせないようにすることができる。
【0053】
またさらにこの実施形態では、中央部分の左右で、第1及び第2のドメインA及びBにおける割合の変化が対称形状の特性曲線を示すように設定され、これによってもユーザーに違和感を感じさせないようにすることができる。
【0054】
なお
図4では符号Lにより示す直線的な比率の変化に代えて、符号L1により示すように、曲線形状により比率を変化させてもよい。
【0055】
〔製造工程〕
図5は、調光フィルムの製造工程を示すフローチャートである。この製造工程は、透明電極作製工程SP2において、スパッタリング等の手法を適用して、透明基材16、25にそれぞれ透明電極21、26を作成する。さらに続いてスペーサ作製工程SP3において、透明電極21を作製した透明基材16にフォトレジスト膜を作製した後、露光、現像処理し、これによりスペーサ22を作製する。続いて製造工程は、配向層作製工程SP4において、基材16、25に配向層23、27を作製する。
【0056】
ここでこの配向層作製工程SP4においは、基材16及び25の上に、それぞれ光配向層に係る塗工液を塗工した後、この塗工液の溶剤を飛散させて塗工層を乾燥させる。これによりこの製造工程は、基材16側について、配向層23を作製する。またこの製造工程は、続いて配光層27側について、1回目露光処理により、直線偏光により紫外線を斜め照射することにより、全面に第1又は第2の領域に係る配向規制力を設定する、また続く2回目露光処理において、マスクを使用した直線偏光の紫外線の斜め照射により第2又は第1の領域について配向規制力を設定し直し、これにより配向層27を作製する。
【0057】
このようにして基材16及び25にそれぞれ配向層23及び27を作製して、下側積層体15D及び上側積層体15Uを作製すると、この製造工程は、封止工程SP5において、ディスペンサーによりシール材29を枠形状により下側積層体15Dに塗布した後、この枠形状により囲まれた所定位置に、ディスペンサーを使用して液晶層18に係る液晶材料を滴下する。なおこの液晶材料の滴下とシール材との配置の順序を入れ替えるようにしてもよい。また下側積層体15Dに代えて上側積層体15Uにシール材、液晶材料を配置してもよい。その後、この製造工程は、上側積層体15U及び下側積層体15Dを積層した後、加熱、押圧してシール材29を硬化させ、これにより液晶層18を挟持するようにして、上側積層体15U及び下側積層体15Dをシール材29により貼り合せて一体化する。その後、この製造工程は、紫外線硬化性樹脂等の接着剤層によりにより直線偏光板12、13を配置する。
【0058】
この製造工程は、続いてこのようにして作製した調光フィルムを透明板材9に貼り付けて積層し、これにより調光フィルムを配置してなる透明板材9により調光フィルムの積層体8が形成される。
【0059】
この実施形態によれば、車両の天窓に適用して、車幅方向で第1のドメインの面積の割合が変化するように設定することにより、像の2重写しが余り気にならない例えば真上方向では、第1及び第2のドメインの面積の比率を等しくて視野角特性を向上し、像の二重写しが気になる真上から遠ざかった部位では、シングルドメインに特性を近づけて二重写しを低減し、これらにより視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【0060】
また中央では、第1及び第2のドメインの割合が等しいように設定して、一方の端部から他方の端部に向かうに従って、第1のドメインの割合が増大するように設定することにより、より具体的構成により、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制することができる。
【0061】
〔第2実施形態〕
図6は、
図4との対比により、この実施形態に係るドメインの設定の説明に供する図である。この実施形態では、この
図6に示すドメインの設定が異なる点を除いて、上述の実施形態と同一に構成される。
【0062】
ここでこの実施形態では、車幅方向に、第1のドメインの移動平均値を計測すると、
図4において符号Lにより示すように、第1実施形態について上述したと同様に、一方の端部から他方の端部に向かうに従って、第1のドメインの割合が増大するように、左端及び右端では、第1又は第2のドメインのみとなり、中央では第1及び第2のドメインの面積が1:1になるように、第1及び第2のドメインの面積が設定される。なおここで移動平均に供する区間は、例えば5ドメインの区間である。
【0063】
この実施形態では、このようにして移動平均値が検出されるようにして、この移動平均値による基準値から、
図6において、符号Lにより示すように、正方向及び負方向に、ランダムに各部における面積の比率が変化するように設定される。ここでこの移動平均による特性曲線からのランダムな変化は、変化量が、第1及び第2の繰り返しピッチ(WA+WB)の10%以上50%以下、好ましくは20%以上30%以下に設定される。これによりこの実施形態では、ドメインの面積の変化に係る規則性を緩和する。
【0064】
この実施形態では、このようにして設定されたドメイン幅WA、WBにより各ドメインが作製される。これによりこの実施形態では、一段と像の二重写しを低減する。なおこのドメイン幅の規則性の緩和は、第1及び第2のドメイン幅WA+WBを一定値に保持するようにして、第1及び第2のドメインン幅を相補的に変化させて設定してもよく、またこれに代えて第1及び第2のドメイン幅の一方又は双方を単純に変化させて実行してもよい。
【0065】
なおこのドメイン幅WA、WBの設定にあっては、このように車幅方向に規則性の緩和に代えて、又は車幅方向における規則性の緩和に加えて、ドメインの長さ方向に規則性を緩和するようにしてもよい。なおこのドメインの長さ方向に規則性の緩和にあっては、例えばドメインの幅を車両の長さ方向で変化させるようにしてもよく、ドメイン境界を蛇行させるようにしてもよい。
【0066】
図7は、この規則性の緩和の実験に供した試料の説明に供する図表である。この実験において、試料Aの調光フィルムは、シングルドメインにより作製した。また試料Bの調光フィルムは、第1及び第2のドメイン幅WA、WBをWA=WBの条件の元、第1及び第2のドメイン幅を200μm〜300μmの範囲で徐々に可変した。試料Cの調光フィルムは、第2のドメインの幅WBを250μmに固定し、第1のドメインの幅WAを200μm〜300μmの範囲で徐々に可変した。試料Dの調光フィルムは、第1及び第2のドメイン幅WA及びWBを250μmとした。試料Eの調光フィルムは、第1及び第2のドメイン幅WA及びWBを200μm及び300μmとした。試料Fの調光フィルムは、第1及び第2のドメイン幅WA及びWBを150μm及び350μmとした。試料Gの調光フィルムは、第1及び第2のドメイン幅WA、WBを100μm、400μmに設定した。試料Hの調光フィルムは、第1及び第2のドメイン幅WA、WBを50μm、400μmに設定した。
【0067】
図8から
図15は、これら試料A〜Hによる像の二重写しの確認に供する写真である。この写真は、この写真に係る書面を調光フィルムを介して撮影した結果である。なおこの撮影では、被写体である書面から距離1500mmだけ離間して調光フィルムを配置し、この調光フィルムから距離100mmだけ離間した箇所に撮像装置を配置した。この撮像結果によれば、試料Hで充分に像の二重写しが小さくなることが確認される。また試料D〜H(
図11〜
図15)の比較により、ドメイン幅を可変して像の二重写しが小さくなることを確認することができる。
【0068】
この実施形態では、さらにドメイン幅を不規則に可変することにより、一段と像の二重写しを低減することができる。
【0069】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態を種々に組み合わせたり、変更することができる。
【0070】
すなわち上述の実施形態では、液晶材料を間に挟んで2つの積層体15D、15Uを積層一体化して液晶セルを作製する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、2つの積層体を積層一体化した後、この2つの積層体15D、15Uの間に液晶材料を配置して液晶セルを作製する場合にも広く適用することができる。
【0071】
また上述の実施形態では、調光フィルムを積層対象に貼り付けて積層する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば合わせガラスのように、積層対象により挟持して加圧一体化して調光フィルムの積層体を構成する場合等にも広く適用することができる。
【0072】
また上述の実施形態では、第1及び第2のドメインによる2つのドメインによりマルチドメイン化する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、4つのドメインによりマルチドメイン化する場合等にも広く適用することができる。
【課題】例えば車両のサンルーフに適用して外来光の透過を制御する場合等において、視野角特性を充分に向上しつつ、像が二重写しにより見て取られる現象を実用上充分に抑制する。
【解決手段】透明フィルム材による基材16、25に透明電極21、26、配向層23、27が作製された第1及び第2の積層体15D、15Uにより液晶層18を挟持して液晶セル14が形成され、前記液晶セル14を第1及び第2の直線偏光板12、13により挟持して形成される。透明電極21、26の駆動により、少なくとも第1及び第2のドメインによるMVA方式により透過光を制御する。第1及び第2の直線偏光板12、13の透過軸方向が直交するように設定され、第1の直線偏光板12の透過軸方向で、第1のドメインの面積の割合が変化するように作製された調光フィルム10である。