特許第6024858号(P6024858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6024858合糸糸条束の製造方法および得られた合糸糸条束を用いる炭素繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6024858
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】合糸糸条束の製造方法および得られた合糸糸条束を用いる炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/32 20060101AFI20161107BHJP
   B65H 51/015 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   D01F9/32
   B65H51/015
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-528921(P2016-528921)
(86)(22)【出願日】2016年4月27日
(86)【国際出願番号】JP2016063240
【審査請求日】2016年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-95356(P2015-95356)
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石尾 桂一
(72)【発明者】
【氏名】合津 宏一
(72)【発明者】
【氏名】中野 真輝
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−216680(JP,A)
【文献】 特開平02−026950(JP,A)
【文献】 特開2012−154000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/08 − 9/32
B65H 51/015
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(4)のローラーを用いて、2本以上の炭素繊維前駆体糸条を合糸して合糸糸条束を製造する方法であって、互いに略平行に走行する前記2本以上の炭素繊維前駆体糸条を抱き角20°以上で第1ローラーに接触させた後、前記2本以上の炭素繊維前駆体糸条を2分割して一対の第2ローラーにそれぞれ接触させることで、第1ローラーと一対の第2ローラーの間で炭素繊維前駆体糸条を略90°回転させ、次いで、一方の第2ローラーから出た炭素繊維前駆体糸条を第3前ローラーおよび第3後ローラーに順次接触させるとともに、もう一方の第2ローラーから出た炭素繊維前駆体糸条を第3前ローラーに接触させることなく第3後ローラーに接触させ、第3後ローラー上でこれらの炭素繊維前駆体糸条を合糸し、その後、第3後ローラーから出た炭素繊維前駆体糸条を第4ローラーに抱き角5°以上で接触させて、合糸糸条束を得るに際し、第1ローラーと一対の第2ローラーとの軸心間の距離Lと第1ローラー上の炭素繊維前駆体糸条の糸幅Wの平均値との比、L/Wを18以上とし、第4ローラーから出た後の合糸糸条束の張力を0.11cN/dtex以上とする合糸糸条束の製造方法;
(1)第1ローラー;
(2)第1ローラーの軸心、および、第1ローラーを出た直後の炭素繊維前駆体糸条の走行方向のいずれとも略直交する軸心を有し、第1ローラーからの軸心間の距離Lが略同等である一対の第2ローラー;
(3)一対の第2のローラーの軸心と平行な軸心を有し、一対の第2ローラーを出た直後の炭素繊維前駆体糸条の走行方向に沿って順に配置される第3前ローラーおよび第3後ローラー;
(4)第3前ローラーおよび第3後ローラーと略直交する軸心を有する第4ローラー。
【請求項2】
得られた合糸糸条束の糸割れ率が10%以下である請求項1に記載の合糸糸条束の製造方法。
【請求項3】
第1ローラーと接触する前の炭素繊維前駆体糸条の交絡値が20以下である請求項1または2に記載の合糸糸条束の製造方法。
【請求項4】
第1ローラーと接触する前の炭素繊維前駆体糸条の単糸の真円度が0.9以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の合糸糸条束の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の合糸糸条束の製造方法によって製造された合糸糸条束に耐炎化処理および炭化処理を行って炭素繊維を得る工程を含む炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する複数の炭素繊維前駆体糸条を、ローラーガイド群により合糸することで、合糸糸条束を得る方法、およびその合糸糸条束を用いて炭素繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の前駆体として、ポリアクリロニトリル系繊維の糸条が広く知られている。炭素繊維は、例えばその前駆体であるポリアクリロニトリル系繊維糸条を製糸工程で一旦巻き取ってパッケージとし、その後かかるパッケージから糸条を解舒し、200〜400℃の空気雰囲気中で該前駆体糸条を加熱焼成して酸化繊維糸条に転換する耐炎化工程、および、窒素・アルゴン・ヘリウム等の不活性雰囲気中で酸化繊維糸条を300〜3000℃に加熱して炭化する炭化工程を経ることで得られる。また、別の方法としては、製糸工程で得た糸条を、巻き取らず、ケンスなどに収納し、それらを引き出してから同様のプロセスで炭素繊維を製造することも行われている。炭素繊維は、通常、単糸数が1000以上のフィラメントで構成されたマルチフィラメントからなっている。
【0003】
炭素繊維は、複合材料の強化繊維として航空宇宙用途を中心に、スポーツ用途や一般産業用途へ用途が拡大している。更なる用途拡大のためには、安価で品位の良い炭素繊維の提供が重要な課題であり、炭素繊維前駆体の製造工程においてもこれまで多くの生産効率化によるコスト低減に関する改善技術が開示されている。例えば、処理する糸条を太く(太糸条化)する、あるいは糸条の幅を狭くしたり、糸条間の間隔を小さくしたりする(高密度化)するといった技術は、限られた設備での生産量増大に寄与するための有効な手段といえる。
【0004】
しかしながら、これら糸条単位の太糸条化や高密度化を安易に進めた場合、特に延伸工程、水洗工程、工程油剤の付与工程などで単糸間接着の発生や、延伸における毛羽の発生や断糸、水洗不足、油剤の付着斑などが惹起され、次の焼成工程においても毛羽や断糸が発生して工程通過性を阻害すると共に、得られる炭素繊維の物性低下に繋がる問題が起こる可能性があった。そのため太糸条化および高密度化糸条には、交絡付与等の単糸間の集束性向上処理を施すことが多い。しかし、太糸条化における交絡付与は糸条が炭素繊維前駆体アクリル糸条の場合、糸条の拡がり性を阻害し、焼成後の炭素繊維を、例えばプリプレグシートに加工する際に均一にシートとならず品位欠陥をきたす等の問題があった。
【0005】
そのため、糸の拡がり性を阻害せず炭素繊維前駆体アクリル糸条を合糸する方法として、例えば、特許文献1には糸条を一度に2本のローラー間でしごき、別に設けたローラーによりひねりを加えて合糸する方法について示されている。また、特許文献2には3本以上の糸条を第1段階としてガイドを走行糸条に対して略直角方向に接触させ、第2段階として、第1段階を経た走行糸条同士を、並置させた別の2本のガイドに接触させながら重ね合わせた後、該合糸糸条束に対してさらに別に設けたガイドにより、45°〜90°のひねりを加える糸条束の合糸方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−26950号公報
【特許文献2】特開平7−216680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法は、2000以下のフィラメントからなる糸条を合糸する時には有効であるが、2000を超えるフィラメントからなる糸条を合糸する時には、2本の糸条の1本目のローラーまでの距離がそれぞれ異なることから、合糸部の糸幅が不安定となって、その結果合糸後に糸割れを起こしやすく、連続的に安定した合糸糸条束を得ることができない欠点があった。糸割れの多い合糸糸条束は、次工程で操業性を著しく阻害させ、例えば焼成後の炭素繊維をプリプレグシートに加工する際に均一なシートとならず品位欠陥をきたす等の問題があった。
【0008】
また、特許文献2の方法は、2000以下のフィラメントからなる糸条を合糸する時には有効であるが、2000を超えるフィラメントからなる糸条を3本以上合糸する時には、同様に連続的に安定した合糸状態の糸条束を得ることができない欠点があった。
【0009】
そこで、本発明の課題は、かかる従来技術の問題点を解消し、特にフィラメント数が1000を超える太糸条の場合などにおいても、合糸糸条束の糸割れを防止し、かつ連続的に安定して糸条束を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明の合糸糸条束の製造方法は次の構成を有する。すなわち、以下の(1)〜(4)のローラーを用いて、2本以上の炭素繊維前駆体糸条を合糸して合糸糸条束を製造する方法であって、互いに略平行に走行する前記2本以上の炭素繊維前駆体糸条を抱き角20°以上で第1ローラーに接触させた後、前記2本以上の炭素繊維前駆体糸条を2分割して一対の第2ローラーにそれぞれ接触させることで、第1ローラーと一対の第2ローラーの間で炭素繊維前駆体糸条を略90°回転させ、次いで、一方の第2ローラーから出た炭素繊維前駆体糸条を第3前ローラーおよび第3後ローラーに順次接触させるとともに、もう一方の第2ローラーから出た炭素繊維前駆体糸条を第3前ローラーに接触させることなく第3後ローラーに接触させ、第3後ローラー上でこれらの炭素繊維前駆体糸条を合糸し、その後、第3後ローラーから出た炭素繊維前駆体糸条を第4ローラーに抱き角5°以上で接触させて、合糸糸条束を得るに際し、第1ローラーと一対の第2ローラーとの軸心間の距離Lと第1ローラー上の炭素繊維前駆体糸条の糸幅Wの平均値との比、L/Wを18以上とし、第4ローラーから出た後の合糸糸条束の張力を0.11cN/dtex以上とする合糸糸条束の製造方法である。ここで言う略平行とは、平行もしくは2本の糸条のなす角度が5°以下であることを言う。略90°とは、85〜95°の範囲を言う。
(1)第1ローラー;
(2)第1ローラーの軸心、および、第1ローラーを出た直後の炭素繊維前駆体糸条の走行方向のいずれとも略直交する軸心を有し、第1ローラーからの軸心間の距離Lが略同等である一対の第2ローラー;
(3)一対の第2のローラーの軸心と平行な軸心を有し、一対の第2ローラーを出た直後の炭素繊維前駆体糸条の走行方向に沿って順に配置される第3前ローラーおよび第3後ローラー;
(4)第3前ローラーおよび第3後ローラーと略直交する軸心を有する第4ローラー。
ここで、略直交とは、2つの軸心もしくは軸心と糸条のなす角度が85〜95°の範囲であることを言う。
【0011】
また、本発明の炭素繊維の製造方法は、上記の合糸糸条束の製造方法によって製造された合糸糸条束に耐炎化処理および炭化処理を行って炭素繊維を得る工程を含む炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、太糸条の場合などにおいても、糸割れ欠点が僅少な、高品位の炭素繊維前駆体糸条を連続的に安定して得ることができる。それにより、炭素繊維の焼成工程、および高次加工工程において、毛羽・糸割れ発生が僅少となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る合糸装置の一例を示す概略平面図である。
図2】本発明に係る合糸装置の一例を示す概略側面図である。
図3】抱き角を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、実施の態様を詳細に説明する。炭素繊維前駆体糸条の材料は、特に限定されないが、主としてアクリロニトリルからなるアクリル系重合体、具体的にはアクリロニトリル85質量%以上と他のコモノマー15質量%以下からなる共重合体であることが好ましい。コモノマーとしては、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸等、およびそれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等のアルキルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、あるいはアリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸等およびそれらのアルカリ金属塩などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。コモノマーの共重合割合が15質量%を超えると、最終的に得られる炭素繊維の物性が低下する場合がある。アクリル系重合体は、通常の乳化重合、塊状重合、溶液重合等の重合法を用いて重合できる。特に好ましいアクリロニトリルの共重合割合は、95質量%以上である。
【0015】
該アクリル系重合体と、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒と、硝酸、塩化亜鉛、ロダンソーダ等の無機物の水溶液等とからなる重合体溶液を紡糸原液として、通常の湿式紡糸法または乾湿式紡糸法によって紡糸し、凝固糸を得る。得られた凝固糸の浴中延伸を、好ましくは50〜98℃の延伸浴中で略2〜6倍の延伸倍率で行う。なお、紡糸により得られた糸条は、好ましくは浴中延伸後水洗するか、水洗後浴中延伸することによって、残存溶媒が除去される。浴中延伸後、糸条は、好ましくは、油剤を付与され、ホットローラーなどで乾燥緻密化され、炭素繊維前駆体糸条を得る。また、必要があれば、その後、スチーム延伸等の2次延伸を行う。このようにして得られた炭素繊維前駆体糸条は、複数本が糸条集束用フリーローラーガイド群により合糸された後、巻き取り機によりパッケージに巻き取られるか、もしくは、キャンに収納される。また別の態様として、巻き取った糸条を複数本解舒するか、キャンから引き出して、集束用フリーローラーガイド群により合糸を行うこともできる。
【0016】
合糸に供給される炭素繊維前駆体糸条は、交絡値が20以下であることが好ましい。交絡値が20を超える場合、合糸糸条束の糸割れを起こしやすくなる。また合糸に供給される炭素繊維前駆体糸条は、ある程度集束していることが好ましく、交絡値は1.5以上であることが好ましい。ここで言う交絡値とは、JIS−L1013(2010)に準拠し、フックドロップ法、すなわちフックの落下長により求められる。
【0017】
炭素繊維前駆体糸条は、その単糸の真円度が0.9以上であることが好ましい。ここで、単糸の真円度とは、第1ローラーと接触する前の炭素繊維前駆体糸条の単糸の真円度を指す。真円度が0.9未満と低いと、糸条の集束性が低下する場合がある。その結果、均一に糸条同士が絡み合わず、一対の第2ローラーから一対の第3前ローラーおよび第3後ローラーまでの予備合糸が効果を発揮せず、合糸状態にバラツキを生じることがある。所望の真円度の単糸からなる糸条を得るためには、紡糸工程における凝固・引き取り条件、特に凝固浴の溶媒濃度や温度などを調整することが好ましい。
【0018】
炭素繊維前駆体糸条を構成する単糸(フィラメント)数は、1000を超えるとき、より好ましくは2000を超えるときに、本発明の合糸糸条束の製造方法の効果を好適に得ることができる。また、フィラメント数の上限は特に制限がないが、通常70000以下である。
【0019】
本発明の合糸糸条束の製造方法に用いられる、フリーローラーガイド群による合糸装置の構成を、以下図面を参照しながら具体的に説明する。図1は本発明に係る合糸手段に用いられる装置の一例を示す概略平面図、図2図1の装置の概略側面図であり、それぞれ4本の糸条を合糸する例を示している。なお、本発明は図1、2に示す態様に限定されるものではない。
【0020】
ここで、第1ローラー1と一対の第2ローラー2、2’は、軸心間の距離がLとなるように設置され、第1ローラー1から出た糸条が、一対の第2ローラー2、2’の幅方向で略中央の位置に導入されるように設置される。一対の第2ローラー2、2’と一対の第3ローラー3、3’は略同一高さに設置され、一対の第3ローラー3、3’から出た糸条が、第4ローラー4の表面と接する位置に設置される。
【0021】
ここで、第1ローラーは自由回転ローラーおよび駆動ローラーのいずれでも良いが、好ましくは駆動ローラーである。第2〜4ローラーも自由回転ローラーおよび駆動ローラーのいずれでも良いが、好ましくは自由回転ローラーである。
【0022】
本発明の合糸糸条束の製造方法では、第1段階として、互いに略平行に走行する糸条5、5’、6、6’を第1ローラー1に抱き角20°以上で接触させることにより糸道を安定化した後、一対の第2ローラー対に導入する。ここで言う略平行とは、平行もしくは2本の糸条のなす角度が5°以下であることを言う。なお、ここで抱き角とは、図3に示すようにローラーと糸条が接触している部分の角度をいう。図3において抱き角はθで表される。図2には第1ローラーにおける抱き角が90°の例を示した。第1ローラーにおける糸条の抱き角は20°以上であり、好ましくは30〜120°である。抱き角が20°未満では、糸道が安定せず、合糸した糸条束の集束状態が不安定となる場合がある。抱き角が120°を超えても、特に糸条束の集束状態には影響しないが、糸道が複雑化してしまう。
【0023】
本発明では、第1ローラーと一対の第2ローラーの距離Lと、炭素繊維前駆体糸条の糸幅Wの比L/Wが18以上である。なお、Wは合糸前の炭素繊維前駆体糸条の第1ローラー上における糸幅の平均値である。ここで言う糸幅の平均値とは、第1ローラー上の複数の炭素繊維前駆体糸条それぞれの糸幅を定規を使用して20秒間隔で3回目視でmm単位で測定して得た糸幅全ての平均値を使用する。また、Lは第1ローラーと一対の第2ローラーとの軸心間の距離を意味する。一対の第2ローラーは、第1ローラーからの軸心間の距離が略同等である。ここで、略同等であるとは、第1ローラー1と第2ローラー2との軸心間の距離と、第1ローラー1と第2ローラー2’との軸心間の距離とが同一であるか、もしくは、異なっていても、その差が5%以下であることを言う。当該軸心間の距離は、同一であることが好ましい。一対の第2ローラー間において第1ローラーとの軸心間の距離が同一でない場合は、第1ローラーとの軸心間の距離が小さい方の第2ローラーと第1ローラーとの軸心間の距離をLとする。L/Wは50以上が好ましい。また、糸道の安定性やスペースの観点から、L/Wは100以下が好ましい。L/Wが18未満である場合、第1ローラーから一対の第2ローラーの軸心方向に垂直に接する糸条は一対の第2ローラー上で糸条が集束し、ロープ状になってしまうことで、得られた合糸糸条束の糸割れ率が10%より大きくなりやすくなる。糸割れ率は10%以下が好ましい。炭素繊維前駆体糸条の合糸糸条束の糸割れ率が10%を超えると焼成工程において、毛羽や断糸が発生して安定生産を阻害すると共に、得られる炭素繊維の物性が低下する可能性がある。糸割れ率の測定方法は、後述する。
【0024】
第1ローラーから出た炭素繊維前駆体糸条を2分割して一対の第2ローラーにそれぞれ接触させる。ここで糸条を2分割するとは、図1に示す態様においては、4本の糸条を2本ずつの糸条2組に分けることを言う。
【0025】
第2ローラーは第1ローラーの軸心、および、第1ローラーを出た直後の炭素繊維前駆体糸条の走行方向のいずれとも略直交する軸心を有するので、第1ローラーと一対の第2ローラーの間で炭素繊維前駆体糸条が繊維長さ方向に対して略90°回転する。これにより、糸道が安定化し、合糸状態を定常化しやすくなり、かつ、第1ローラー上における糸幅Wを大きく変化させることなく第2ローラー上に2本の糸条が導入されるので好ましい。第2ローラーでの糸条の抱き角は2本の糸条とも10°以上が好ましく、20°〜90°がさらに好ましい。この場合、2本の糸条の抱き角は、当然ながら内側になる糸条の方が大きいが、大きい方が90°以下が好ましく、小さい方が10°以上であることが好ましい。
【0026】
第2ローラー上で2本の糸条が重ね合わされ、合糸された糸条束のうち、第2ローラー2から出た糸条は、第3前ローラー3に接触し、その後、第3後ローラー3’に接触する。第2ローラー2’から出たもう一方の糸条束は、第3前ローラー3に接触することなく直接第3後ローラー3’に接触する。第3後ローラー3’上でこれら全ての糸条が1本に合糸される。
【0027】
第3前ローラー3および第3後ローラー3’は、一対の第2のローラーの軸心と平行な軸心を有し、一対の第2ローラーを出た直後の炭素繊維前駆体糸条の走行方向に沿って順に配置される。
【0028】
第3ローラーの抱き角は第2ローラーと同様の理由で、第3前ローラー、第3後ローラー共に10°以上が好ましく、20°〜90°がさらに好ましい。
【0029】
第3後ローラー3’を出た糸条束は、第4ローラー4に接触した後、次ローラー(図示していない)へ導入される。
【0030】
第4ローラーは、第3前ローラーおよび第3後ローラーと略直交する軸心を有する。
【0031】
第4ローラーでの抱き角は5°以上であり、好ましくは10°〜90°である。抱き角を5°以上とすることによって、第4ローラーによるひねりは5°以上となり、合糸される糸条同士の単糸同士での絡み合いを発生させ、合糸の効果を発揮することができる。また抱き角を90°以下とすることによって糸の撚りが合糸糸条束を分割することなく集束性を付与することができる。
【0032】
また、糸条が第4ローラー4に導入される際、第3後ローラー3’を出た糸条の上端が、第4ローラー4の上端部より上側に存在するように、かつ、糸条の下端が第4ローラー4の上端部より下側に存在するよう糸道を調整し、糸にひねりを与えることが集束性を与えるためには好ましい。
【0033】
図1、2では、説明のために合糸される糸条は第1の糸条対が図1における上側、第2の糸条対が下側に配され、第1の糸条対が第3前ローラーに接した図を示しているが、これらの位置関係は、上記糸道を形成できる範囲で変更可能である。
【0034】
第3後ローラーと第4ローラーとの軸心間距離は100mm以下であることが好ましい。距離は、さらに好ましくは50mm以下である。距離が100mmを超えるとひねりによる単糸同士の絡み合いが効果的とならず、糸割れが生じやすくなる。
【0035】
また、第4ローラーに接触した後の合糸糸条束の張力を0.11cN/dtex以上とすることによって糸条位置が安定し、糸条間の合糸時に単糸同士が均一に入り込むことにより、合糸糸条束の糸割れを生じにくくする。張力が0.11cN/dtex未満であると、糸条束位置が不安定になりやすく、糸束間の押圧力が不足しやすくなるため、糸割れを生じやすくなる。また張力が高過ぎた場合、糸条間の合糸時に単糸同士が単糸間に入り込まず合糸糸条束の糸割れを起こしやすくなることから0.80cN/dtex以下の張力が好ましい。そのため張力が0.11〜0.80cN/dtexの範囲にあることが、糸割れを減少させ、糸品位の良好な炭素繊維前駆体糸条束を得ることができる観点から好ましい。張力の測定には、例えばテンションメーターHS−3000型(エイコー測器株式会社製)および定格5kgfおよび10kgfのテンションピックアップBTB−I(エイコー測器株式会社製)を使用することができる。
【0036】
合糸する糸条が2本であった場合、まず1本を第2ローラー2へ、残りの1本をもう一方の第2ローラー2’に接触させることにより糸道を安定化させる。第2ローラーに導入された糸条は、次に第2ローラーと平行に設置された一対の第3ローラーに導入され、方向を合わせて重ね合わされ、糸条束を第3ローラーと軸心が略直交する第4ローラーに導入されて合糸される。
【0037】
また、合糸する糸条が3本の場合、糸条3本の内、1本もしくは2本を第2ローラー2へ、残りの1本もしくは2本をもう一方の第2ローラー2’に接触させることにより、各糸条の糸道を安定化させる。第2ローラーに導入された糸条は、次に第2ローラーと平行に設置された一対の第3ローラーに導入され、方向を合わせて重ね合わされ、糸条束を第3ローラーと軸心が略直交する第4ローラーに導入され合糸される。
【0038】
同様に合糸する糸条が4本の場合は、糸条を3本と1本に、5本の場合は、糸条を4本と1本に分けて同様に処置しても良いが、好ましくは4本の場合は2本ずつに、5本の場合は3本と2本に(本数が略同等となるように)分けて同様の処置をすることが好ましい。ここで、本数が略同等とは、分けた糸条の本数が同一であるか、もしくは、本数が1本しか異ならないことを言う。それ以上の本数の場合も同様である。
【0039】
上記の装置に用いるローラーの例としては公知のガイドまたはガイドローラーでよいが、特に固定の円柱ガイド、ベアリング内蔵のシェル回転ガイドローラー等が好ましい。また表面形態は梨地が好ましい。またローラー径は10〜30mmの範囲が好ましい。なお、上記の一対の第2ローラー、一対の第3ローラー以外にも糸道を安定化させるためのガイドを用いても差し支えない。
【0040】
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
【0041】
前記した合糸糸条束の製造方法により製造された炭素繊維前駆体糸条からなる合糸糸条束を、200〜300℃の空気中において耐炎化処理する。耐炎化処理により得られた耐炎化糸を、300〜900℃の不活性雰囲気中において予備炭化処理した後、1000〜3000℃の不活性雰囲気中において炭化処理を行い炭素繊維を製造する。不活性雰囲気に用いられるガスとしては、窒素、アルゴンおよびキセノンなどを例示することができる。経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。
【0042】
本発明において、真円度、交絡値および糸割れ率は以下の方法で測定する。
【0043】
<真円度>
合糸前の炭素繊維前駆体糸条をサンプリングし、カミソリで繊維軸に垂直に切断し、光学顕微鏡を用いて単繊維の断面形状を観察する。測定倍率は、最も細い単繊維が1mm程度に観察されるよう倍率200〜400倍とする。使用する機器の画素数は200万画素とする。得られた画像を画像解析することにより炭素繊維前駆体糸条を構成する単糸の断面積と周長を求め、その断面積から真円と仮定した時の単糸の断面の直径(繊維径)を0.1μm単位で計算して求め、下記式を用いて炭素繊維前駆体糸条を構成する単糸の真円度を求める。真円度は無作為に選んだ10本の単糸の平均値を用いる。
真円度=4πS/L
式中、Sは炭素繊維前駆体糸条を構成する単糸の断面積を表し、Lは単糸の周長を表す。
【0044】
<フックドロップ法による交絡値>
JIS−L1013(2010)「化学繊維フィラメント糸試験方法」の交絡値測定方法に準じて測定する。合糸前の炭素繊維前駆体糸条試料の下方の位置に荷重100gを吊り下げ、試料を垂直にたらす。試料の上部に荷重10gのフックを挿入し、フックが糸の交絡によって停止するまでの降下距離(mm)から下記式によって交絡値を求める。n=50で測定を行い、その平均値を交絡値とする。
交絡値=1000/フック降下距離。
【0045】
<糸割れ率>
炭素繊維前駆体合糸糸条束を張力0.04cN/dtex、5m/minの条件にて1000m解舒した際に3m以上の糸割れの発生を確認する。100回測定を行い、全測定回数に対しての3m以上の糸割れの発生した回数の割合(%)を糸割れ率とする。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
図1の装置において一対の第2ローラー2、2’と第1ローラー1の軸間距離Lを200mmに設定し、一対の第3ローラー3、3’は第4ローラーの幅方向の中央と糸道が重なる位置に配置した。第4ローラーと第3後ローラー3’との間隔を40mmとした。上記の合糸装置を用いて、総繊度3300dtexのマルチフィラメント糸条(単糸繊度:1.1dtex、単糸数:3000本)を表1の条件で4本合糸し、糸割れの確認を行ったところ糸割れ率は3%であった。
【0047】
またローラーの抱き角は、第1ローラー1を60°、第2ローラー2、2’を45°、第3前ローラーを50°、第3後ローラーを45°、第4ローラーを60°となるようにローラーを配置した。
【0048】
(実施例2)
実施例1において合糸前の糸条の交絡値が21.2のものを用いたところ糸割れ率は9%であった。
【0049】
(実施例3)
実施例1において0.11texのマルチフィラメント糸条13200dtexを2本合糸し同様に糸割れの確認を行ったところ糸割れ率は4%であった。
【0050】
(実施例4)
実施例1において真円度が0.78である1.1dtexのマルチフィラメント糸条3000本を2合糸し糸割れの確認を行ったところ糸割れ率は8%であった。
【0051】
(比較例1)
実施例1において一対の第2ローラー2、2’と第1ローラー1の距離を30mmとしたところ糸割れ率は23%であった。
【0052】
(比較例2)
実施例1において一対の第2ローラー2、2’と第1ローラー1の距離を50mmとしたところ糸割れ率は21%であった。
【0053】
(比較例3)
実施例2において一対の第2ローラー2、2’と第1ローラー1の距離を30mmとしたところ糸割れ率は25%であった。
【0054】
(比較例4)
実施例2において一対の第2ローラー2、2’と第1ローラー1の距離を150mmとしたところ糸割れ率は14%であった。
【0055】
(比較例5)
実施例2において合糸後の糸条束の張力を0.08cN/dtexに調整したところ糸割れ率は49%であった。
【0056】
(比較例6)
実施例3において合糸後の糸条束の張力を0.10cN/dtexに調整したところ糸割れ率は36%であった。
【0057】
【表1】
【符号の説明】
【0058】
1:第1ローラー
2、2’:第2ローラー
3:第3前ローラー
3’:第3後ローラー
4:第4ローラー
5、5’、6、6’:合糸前の炭素繊維前駆体糸条
7:合糸後の炭素繊維前駆体糸条束
8:第2ローラーA、B、第3前ローラー、第3後ローラーおよび第4ローラーを固定する為の共通ベース
L:第1ローラーと第2ローラーA、Bの距離
θ:抱き角
【要約】
互いに略平行に走行する2本以上の炭素繊維前駆体糸条を第1ローラー(1)に接触させた後、前記2本以上の炭素繊維前駆体糸条を2分割して一対の第2ローラー(2,2’)にそれぞれ接触させることで、第1ローラー(1)と一対の第2ローラー(2,2’)の間で炭素繊維前駆体糸条を略90°回転させ、次いで、一方の第2ローラー(2)から出た炭素繊維前駆体糸条を第3前ローラー(3)及び第3後ローラー(3’)に順次接触させるとともに、もう一方の第2ローラー(2’)から出た炭素繊維前駆体糸条を第3前ローラー(3)に接触させることなく第3後ローラー(3’)に接触させ、第3後ローラー(3’)上でこれらの炭素繊維前駆体糸条を合糸し、その後、第3後ローラー(3’)から出た炭素繊維前駆体糸条を第4ローラー(4)に接触させて、合糸糸条束を得る。第1ローラー(1)と一対の第2ローラー(2,2’)との軸心間の距離Lと第1ローラー上の炭素繊維前駆体糸条の糸幅Wの平均値との比、L/Wを18以上とし、第4ローラーから出た後の合糸糸条束の張力を0.11cN/dtex以上とする。
図1
図2
図3