特許第6024873号(P6024873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6024873トラックパッド用カバーガラス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024873
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】トラックパッド用カバーガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20161107BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20161107BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   G06F3/041 460
   G06F3/041 660
   C03C17/32 Z
   G09F9/00 302
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-115870(P2012-115870)
(22)【出願日】2012年5月21日
(65)【公開番号】特開2013-242725(P2013-242725A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正文
(72)【発明者】
【氏名】下川 貢一
(72)【発明者】
【氏名】桜井 正
(72)【発明者】
【氏名】中澤 真一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
【審査官】 萩島 豪
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−034027(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123616(WO,A1)
【文献】 特開2011−028594(JP,A)
【文献】 特開2012−069048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/32
G06F 3/03−3/047
G09F 9/00
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主表面と、該一対の主表面と隣り合う端面とを有するガラス基板を備えるトラックパッド用カバーガラスの製造方法であって、
前記ガラス基板における一対の主表面のうちの少なくとも一方の主表面にテクスチャを形成する工程と、
前記テクスチャを形成する工程の後に行われ、前記ガラス基板に化学強化処理を施す工程と、
前記化学強化処理を施す工程の後に行われ、前記ガラス基板全体を防汚コート材に浸漬することにより、前記ガラス基板の外面全体に防汚コート層を形成する工程と、
前記一対の主表面のうちの他方の主表面に形成された前記防汚コート層に防汚コート面改質処理を施し、水の接触角が20度以下又はヘキサデカンの接触角が10度〜20度の範囲内である防汚コート改質層を形成する工程と、
を含むことを特徴とするトラックパッド用カバーガラスの製造方法。
【請求項2】
前記テクスチャを形成する工程では、前記ガラス基板の少なくとも一方の主表面に表面研削を施し、次いで表面エッチング処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法。
【請求項3】
前記防汚コート層を形成する工程に先立って、前記ガラス基板における一対の主表面のうちの一方の主表面に、プラナー方式プラズマ処理及びダウンストリーム方式プラズマ処理の両処理からなるガラス表面改質処理を施し、ガラス被処理面を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法。
【請求項4】
前記防汚コート改質層を形成する工程の後に行われ、前記ガラス基板に印刷を施す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板に印刷を施す工程の後に行われ、印刷面に対して、導電層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法。
【請求項6】
一対の主表面と、該一対の主表面と隣り合う端面とを有するガラス基板を備えるトラックパッド用カバーガラスであって、
前記一対の主表面の少なくとも一方の主表面には、テクスチャが形成されており、
前記一方の主表面と前記端面とには、防汚コート層が形成されており、
前記ガラス基板における他方の主表面には、前記防汚コート層に防汚コート面改質処理を施してなる水の接触角が20度以下又はヘキサデカンの接触角が10度〜20度の範囲内である防汚コート改質層が形成されていることを特徴とするトラックパッド用カバーガラス。
【請求項7】
前記テクスチャが形成されたカバーガラス主表面は、Raが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mm、且つRskが−1.2〜−0.5であることを特徴とする請求項に記載のトラックパッド用カバーガラス。
【請求項8】
前記カバーガラスの4点曲げ試験における強度が300MPa以上であることを特徴とする請求項又はに記載のトラックパッド用カバーガラス。
【請求項9】
前記他方の主表面の前記防汚コート改質層の外面には、印刷層が形成されていることを特徴とする請求項乃至のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラス。
【請求項10】
前記防汚コート層は、フッ素系樹脂材料からなることを特徴とする請求項乃至のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラス。
【請求項11】
前記ガラス基板には、イオン交換による化学強化が施されていることを特徴とする請求項乃至10のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップトップPC(Personal Computer)やノートPC等のポインティングデバイスであるトラックパッドに用いられるトラックパッド用カバーガラス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、トラックパッドの表面には、質感を高めるためにガラスが用いられる。利用者がPC等に組み込まれたトラックパッドを使用する場合、その表面を指で直接触れて操作するため、操作面をなすガラスに指紋等の汚れが付着しやすい。従って、ガラスに指紋等の汚れが付着するのを防止ないしは抑制し、あるいは指紋等の汚れが付着しても容易に拭き取れるようにすることが望ましい。例えば、携帯電話機等の携帯機器においてその表示画面を保護するためのカバーガラスの表面には、通常、防汚コーティング処理が施される。このような防汚コーティグ処理に関しては、例えば特許文献1に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2011−510904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラックパッドは、利用者が常に手で触れる部分であるため、トラックパッド用のカバーガラスの表面に、携帯機器用カバーガラスと同様の防汚コートを施すことにより、指先の指紋や皮脂の付着を目立たなくすることは可能である。防汚コーティング処理は、上記特許文献1に示すように蒸着法が一般的である。しかしながら、防汚コーティング処理に蒸着法を用いる場合には、成膜チャンバ内で1枚ずつ処理する必要があるため、生産性が悪く、結果的に製造コストも増加するという問題がある。
【0005】
また、上記特許文献1には、蒸着法に比べて生産性が良好なディップ法(浸漬法)による防汚コーティング処理も開示されている。このような、ディップ法(浸漬法)による防汚コーティング処理を施すと、ガラス基板の表面の全面に防汚コート層が形成されるため、ガラス基板に対して印刷を施すことが困難になるという問題がある。
【0006】
また、ガラス基板は、その強度を向上させるため化学強化処理を行う必要がある。ところで、ガラスの強度を阻害する要因の一つはマイクロクラックである。ガラスの表面や端面にマイクロクラックがあるとそれが成長し、比較的弱い衝撃でもガラスが破損する要因となる。ここで、ガラス基板に対する印刷方式は一般的にはスクリーン印刷であるが、その印刷工程において、ガラス基板の位置合わせ治具への装填、治具からの取り外しの作業を繰り返すことに伴って、ガラス基板の表面や端面が上記治具と接触することによるマイクロクラックが発生する恐れがある。この結果、化学強化後のガラス基板であっても、印刷工程で生じたマイクロクラックの影響によって、機械的強度が低下する場合があった。
【0007】
本発明はこのような従来の問題を解決すべくなされたものであって、その目的は、利用者が操作面をなすガラスの表面を指先で接触したときの良好な操作感が得られ、ガラス基板に安価に防汚性を付与しつつ、さらにはガラス基板の表面に印刷を施すことが可能で、かつ印刷時のガラス基板のマイクロクラックの発生を防止することが可能なトラックパッド用カバーガラス及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ディップ法によって塗布された防汚コート層の表面に直接印刷を施すことは困難であるが、防汚コート層の表面に所定の改質処理を施すことにより、防汚コート面に対する印刷層の付着性が向上し、防汚コート層の表面に直接印刷を行うことが可能になることを見出した。しかも、ガラス基板の端面に防汚コート層を形成することで、印刷時のマイクロクラックの発生を防止することもできる。
【0009】
また、本発明者の検討によれば、良好な操作感を確保するためには、ガラス基板表面を適度に粗面化させることが有効であることが判明した。そして、その粗面化させたガラス基板表面に防汚コートを施すことにより、ガラス基板に防汚性を付与しつつ、防汚コート層表面を指先で接触したときの良好な操作感が得られることを見出した。
そして、本発明者が見出した上記知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
一対の主表面と、該一対の主表面と隣り合う端面とを有するガラス基板を備えるトラックパッド用カバーガラスの製造方法であって、前記ガラス基板における一対の主表面のうちの少なくとも一方の主表面にテクスチャを形成する工程と、前記テクスチャを形成する工程の後に行われ、前記ガラス基板に化学強化処理を施す工程と、前記化学強化処理を施す工程の後に行われ、前記ガラス基板全体を防汚コート材に浸漬することにより、前記ガラス基板の外面全体に防汚コート層を形成する工程と、前記一対の主表面のうちの他方の主表面に形成された前記防汚コート層に防汚コート面改質処理を施し、防汚コート改質層を形成する工程と、を含むことを特徴とするトラックパッド用カバーガラスの製造方法である。
【0011】
(構成2)
前記テクスチャを形成する工程では、前記ガラス基板の少なくとも一方の主表面に表面研削を施し、次いで表面エッチング処理を施すことを特徴とする構成1に記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法である。
(構成3)
前記防汚コート層を形成する工程に先立って、前記ガラス基板における一対の主表面のうちの一方の主表面に、プラナー方式プラズマ処理及びダウンストリーム方式プラズマ処理の両処理からなるガラス表面改質処理を施し、ガラス被処理面を形成する工程を含むことを特徴とする構成1又は2に記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法である。
【0012】
(構成4)
前記防汚コート改質層を形成する工程の後に行われ、前記ガラス基板に印刷を施す工程をさらに含むことを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法である。
(構成5)
前記ガラス基板に印刷を施す工程の後に行われ、印刷面に対して、導電層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする構成4に記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法である。
【0013】
(構成6)
構成1乃至5のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラスの製造方法により得られるトラックパッド用カバーガラスであって、該カバーガラスの少なくとも一方の主表面に、Raが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mm、且つRskが−1.2〜−0.5のテクスチャが形成されていることを特徴とするトラックパッド用カバーガラスである。
【0014】
(構成7)
一対の主表面と、該一対の主表面と隣り合う端面とを有するガラス基板を備えるトラックパッド用カバーガラスであって、前記一対の主表面の少なくとも一方の主表面には、テクスチャが形成されており、前記一方の主表面と前記端面とには、防汚コート層が形成されており、前記ガラス基板における他方の主表面には、前記防汚コート層に防汚コート面改質処理を施してなる防汚コート改質層が形成されていることを特徴とするトラックパッド用カバーガラスである。
【0015】
(構成8)
前記テクスチャが形成されたカバーガラス主表面は、Raが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mm、且つRskが−1.2〜−0.5であることを特徴とする構成7に記載のトラックパッド用カバーガラスである。
(構成9)
前記カバーガラスの4点曲げ試験における強度が300MPa以上であることを特徴とする構成7又は8に記載のトラックパッド用カバーガラスである。
【0016】
(構成10)
前記他方の主表面の前記防汚コート改質層の外面には、印刷層が形成されていることを特徴とする構成7乃至9のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラスである。
(構成11)
前記防汚コート層は、フッ素系樹脂材料からなることを特徴とする構成7乃至10のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラスである。
【0017】
(構成12)
前記ガラス基板には、イオン交換による化学強化が施されていることを特徴とする構成7乃至11のいずれかに記載のトラックパッド用カバーガラスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、利用者がガラスの表面を指先で接触したときの良好な操作感が得られ、ガラス基板に安価に防汚性を付与しつつ、さらにはガラス基板の表面に印刷を施すことが可能で、かつ印刷時のガラス基板のマイクロクラックの発生を防止することが可能なトラックパッド用カバーガラス及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るトラックパッド用カバーガラスの一実施の形態を示す概略断面図である。
図2】本発明に係るトラックパッド用カバーガラスの製造方法のフローチャートである。
図3】ガラス基板の作製方法のフローチャートである。
図4】本発明に係るトラックパッド用カバーガラスの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
図1は、本発明に係るトラックパッド用カバーガラスの一実施の形態を示す概略断面図である。
図1に示す本発明の一実施の形態によると、本発明に係るトラックパッド用カバーガラス10は、平板状のガラス基板1を備えている。ガラス基板1は、表裏一対の主表面1A,1Bと、該一対の主表面と隣り合う端面1Cとを有している。前記一対の主表面のうちの一方の主表面1Aには、ガラス表面改質処理が施されたことによるガラス被処理面が形成されている。そして、前記ガラス被処理面及び前記端面1Cには、防汚コート層3が形成されている。また、前記ガラス基板1の一方の主表面1Aにはテクスチャ(凹凸形状)が形成されており、該主表面1A表面に塗布された上記防汚コート層3の表面にもテクスチャが形成されている。
【0021】
本発明においては、上記ガラス基板主表面1A上の防汚コート層3の表面に、Raが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mm、且つRskが−1.2〜−0.5のテクスチャが形成されていることが好ましい。このように防汚コート層3の表面、つまりガラス10の表面に、Raが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mm、且つRskが−1.2〜−0.5であるような表面形状が形成されていることによって、利用者がガラスの表面を指先で接触したときの良好な操作感(例えば滑り感のような感触)が得られ、トラックパッドの操作性を著しく向上させることができる。本発明においては、特にRaが1.2μm、Rsmが0.15mm、且つRskが−0.8であることが好適である。
なお、上記Ra、Rsm及びRskはいずれも、JIS B 0601において定義されている表面粗さを示すパラメータである。
【0022】
また、本発明における特徴的な構成の一つは、上記一方の主表面1Aにはガラス被処理面が形成されており、このガラス被処理面は、プラナー方式プラズマ処理及びダウンストリーム方式プラズマ処理の両処理からなるガラス表面改質処理が施されることにより形成されていることである。
【0023】
ここで、上記防汚コート層3の材料について説明する。利用者がPC等に組み込まれたトラックパッドを使用する場合、その表面を指で直接触れて操作をするため、トラックパッド表面に指紋等の汚れが付着しやすい。従って、指紋等の汚れが付着するのを防止ないしは抑制し、あるいは指紋等の汚れが付着しても容易に拭き取れるようにすることが望ましい。そのためには、上記防汚コート層3の材料として、指で直接触れても(押しても)指紋等の汚れが付着するのを防止ないしは抑制し、あるいは指紋等の汚れが付着しても拭き取り易くする防汚性を有する材料を選択することが好適である。本発明においては、良好な防汚性を有する材料として、たとえばフッ素系樹脂材料(例えばパーフルオロポリエーテル化合物など)などの表面エネルギーを低下させる材料が好ましく挙げられる。
【0024】
また、ガラス基板1における前記一対の主表面のうちの他方の主表面1Bには、前記防汚コート層3に防汚コート面改質処理を施したことによる防汚コート改質層3aが形成されている。
上記ガラス被処理面が形成された一方の主表面1A及び前記端面1Cには、防汚コート層3が形成されるが、例えばディップ法によりガラス基板全体を防汚コート材に浸漬させることにより防汚コート層3を形成する場合、上記他方の主表面1Bにも防汚コート層が形成されることになる。図1のトラックパッド用カバーガラス10の場合、通常、防汚コート面の耐久性を向上させたガラス基板1の上記主表面1A側をPC等の機器の外側に、ガラス基板1の他方の主表面1B側を上記機器の内側にそれぞれ向けて組み込まれる。
【0025】
ここで、ガラス基板1の主表面1B側に、印刷層を形成し、さらには(必要に応じて絶縁層を介して)導電層を形成して、ガラス基板1と導電層とによって、利用者の操作に応じた信号を生成可能な構成とすることもできる。この場合、ガラス基板1の上記主表面1B側に例えばフッ素系樹脂材料からなる防汚コート層3が形成されていると、その防汚コート層3の外面においては、上記印刷層、絶縁層や導電層の付着安定性が悪い。このため、防汚コート層3の外面に上記印刷層、絶縁層や導電層を形成することが困難となる。
【0026】
本発明においては、ガラス基板1における上記他方の主表面1Bには、前記防汚コート層3に防汚コート面改質処理を施したことによる防汚コート改質層3aを形成することで、その外面に印刷層を形成することや、絶縁層、導電層の付着安定性を向上させることができる。このような防汚コート面改質処理としては、例えばプラナー方式によるヘリウム(He)プラズマ曝露処理または紫外線照射処理などの方法が挙げられる。
【0027】
本発明に係るトラックパッド用カバーガラス10においては、上記ガラス基板1の一方の主表面1Aに形成された前記防汚コート層3の表面(ガラス基板1とは反対側の表面)における水の接触角は、110度〜120度の範囲内であり、油、例えばヘキサデカンの接触角は、60度〜70度の範囲内であることが好ましい。水または油に対する接触角が上記の範囲内であることにより、指で直接触れても(押しても)指紋等の汚れが付着するのを防止ないしは抑制し、あるいは指紋等の汚れが付着しても拭き取り易くする良好な防汚性を発揮する。なお、上記の接触角は、防汚コート層形成後の初期接触角であるが、本発明では、上記のとおり、ガラス基板1の主表面1Aに形成された防汚コート層3の耐久性を向上できるため、たとえばスチールウールの摺動による耐久性試験を行っても、接触角の低下は少なく、良好な防汚性を維持することができる。
【0028】
また、本発明におけるトラックパッド用カバーガラス10においては、上記ガラス基板1の他方の主表面1Bに形成された前記防汚コート改質層3aの表面(ガラス基板1とは反対側の表面)における水の接触角は、20度以下であり、油、例えばヘキサデカンの接触角は、10度〜20度の範囲内であることが好ましい。水または油に対する接触角が上記の範囲内であることにより、防汚コート改質層3aの外面に前述の絶縁層や導電層を形成した場合の付着安定性を向上できる。
なお、本発明において、上記接触角は、22±2℃の雰囲気下で測定した値である。
【0029】
また、本発明におけるトラックパッド用カバーガラス10においては、上記ガラス基板1の一方の主表面1Aに形成された前記防汚コート層3の表面(ガラス基板1とは反対側の表面)における動摩擦係数は、0.1〜0.3の範囲内であり、または静摩擦係数は、0.2〜0.4の範囲内であることが好ましい。前記のように、防汚コート層3の表面には、好ましくはRaが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mmかつRskが−1.2〜−0.5のテクスチャが形成されており、その動摩擦係数または静摩擦係数が上記の範囲内であることにより、防汚コート面の滑りが良く、指で触れたときの操作感、手触り感が良好であるため、本発明のカバーガラスを備えたPC等の機器においては、利用者によるトラックパッドとしての操作性が良好である。
【0030】
本発明においては、上記ガラス基板1を構成するガラスは、化学強化が可能なアモルファスのアルミノシリケートガラスとすることが好ましい。このようなアルミノシリケートガラスからなるガラス基板は、化学強化後の強度が高く、トラックパッド用カバーガラスには好適である。このようなアルミノシリケートガラスとしては、例えば、SiO2が58〜75重量%、Al23が4〜20重量%、Li2Oが0〜10重量%、Na2Oが4〜20重量%を主成分として含有するアルミノシリケートガラスを用いることができる。なお、ガラス基板1を構成するガラスとしては、ソーダライムガラスやアルミノボロシリケートガラスを用いてもよい。
【0031】
上記ガラス基板1の厚さは、最近のPC等の機器の薄型化・軽量化のマーケットニーズに応える観点から例えば0.3mm〜1.5mm程度の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5mm〜0.7mm程度の範囲である。
【0032】
次に、以上説明したような本発明に係るトラックパッド用カバーガラスの製造方法について説明する。
図2は、本発明に係るトラックパッド用カバーガラスの製造方法のフローチャートであり、図3は、カバーガラス用ガラス基板の作製方法のフローチャートである。また、図4は、本発明に係るトラックパッド用カバーガラスの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
本発明に係るトラックパッド用カバーガラスは、以下に説明するようなプロセスで製造される。
【0033】
[ガラス基板作製(ステップS0)]
通常、大きなサイズの板ガラスを機械加工等により所定の大きさにカッティング(小片化)し、カバーガラス用のガラス基板1を作製する(図3のステップS01)。
例えば、ダウンドロー法やフロート法等で製造された厚さが例えば0.5mm程度の板ガラスを多数枚(例えば数十枚程度)積層(ラミネート)し、ガラス用カッターを用いて所定の大きさの小片に切断する。このように、積層状態のものを一度に切断加工すると、次の形状加工工程においても積層状態の小片を一度に形状加工できるので、生産上有利である。小片の大きさは、製品のカバーガラスの大きさに外周形状加工に必要なマージンを加えた大きさを考慮して決定する。
ここで、外形形状加工については、積層状態の切断加工に代えて、シート状ガラス素材を1枚ずつ加工してもよい。また、外形形状加工には、機械加工以外の手段として、エッチング法を適用してもよい。
【0034】
なお、上記ガラス基板1のガラス組成は前記のとおりである。また、ガラス基板1の厚さは、前記のとおり、最近のPC等の機器の薄型化・軽量化のマーケットニーズに応える観点から例えば0.3mm〜1.5mm程度の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5mm〜0.7mm程度の範囲である。
【0035】
次に、積層状態のガラス基板を1枚づつ剥離してから、その少なくとも一方の主表面に対して表面研削を行い、当該主表面にテクスチャを形成する(図3のステップS02)。表面研削の方法としては、ラッピング装置を用いるのが好適である。例えばアルミナ砥粒あるいはダイヤモンド砥粒を用い、加工面に研削液を供給しつつ、ラッピング装置のサンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の表面を研削加工する。
【0036】
本発明においては、この研削加工によってテクスチャを形成したガラス基板表面に塗布した防汚コート層の表面に、例えば前述のRaが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mm、且つRskが−1.2〜−0.5のテクスチャが形成されることが好ましい。よって、これを考慮して、上記ガラス基板表面に対する研削加工の条件を適宜設定することが望ましい。
【0037】
次いで、上記研削加工によって生じたガラス基板表面の残留クラックを取り除くことを目的に、表面エッチング処理を行う(図3のステップS03)。この表面エッチング処理としては、例えば、フッ酸と硫酸の混合液中に上記ガラス基板を浸漬させる方法が好適である。
【0038】
次に、上記表面エッチング処理を終えたガラス基板1に対して化学強化処理を行う(図3のステップS04)。
化学強化処理の方法としては、例えば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域、例えば摂氏300度以上500度以下の温度で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。化学強化処理とは、溶融させた化学強化塩とガラス基板とを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径のアルカリ金属元素と、ガラス基板中の相対的に小さな原子半径のアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラス基板の表層に該イオン半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラス基板の表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。化学強化塩としては、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属硝酸を好ましく用いることができる。化学強化処理されたガラス基板は強度が向上し耐衝撃性に優れているので、衝撃、押圧が加わり高い強度が必要なトラックパッドに用いられるカバーガラスには好適である。
【0039】
[ガラス表面改質処理(ステップS1)]
次に、上記のようにして作製したガラス基板1(図4(a)参照)に対して、ガラス表面改質処理を行う。通常、後述するガラス基板1の印刷面側はPC等の機器の内側に向けて搭載されるため、この印刷面とは反対側の、つまり上記機器の外側に向けて露出するガラス基板表面に対してガラス表面改質処理を行う。例えばガラス基板1の一方の主表面1Aにガラス被処理面2が形成される(図4(b)参照)。このガラス被処理面2は、プラナー方式プラズマ処理及びダウンストリーム方式プラズマ処理の両処理からなるガラス表面改質処理を施すことにより形成される。
【0040】
上記プラナー方式プラズマ処理とは、ある間隔で2枚の放電電極を有し、その間隔内に被処理基板を装着し、プラズマを発生させて処理を行う形態である。この場合、プラズマ発生に使用するガスとしては、例えばHe、Ar又はN等を用いる。2枚の電極間にプラズマ発生に必要な電圧を印加し、プラズマ空間で電離されたイオンがこの空間内にて加速され、被処理基板表面に衝突し、ガラス基板表面が改質される。
【0041】
また、ダウンストリーム方式プラズマ処理とは、被処理基板へのガスの供給路を挟むように対向配置された2枚の電極間にプラズマ発生に必要な電圧を印加し、プラズマ化したガスを被処理基板に照射供給して処理を行う形態である。励起ガスを被処理基板表面に照射することで、基板表面に例えば水酸基やカルボキシル基等の官能基を形成し、基板表面の改質を行う。また、基板表面の有機汚染物の除去にも使用できる。この場合に使用するガスとしては、例えばNと、O又は空気との混合ガス等を用いる。
【0042】
本発明においては、ガラス表面改質処理として、上記プラナー方式プラズマ処理及びダウンストリーム方式プラズマ処理の両処理を行うことで、上記ガラス被処理面2を形成することが好ましい。かかるガラス表面改質処理を行うことにより、たとえば従来の特に表面処理等をガラス基板に施さずにディップ法により形成した防汚コート層と比べて、防汚コート材のガラス基板に対する付着安定性が改善され、防汚コート面の耐久性を著しく向上させることができる。ガラス表面に塗布する防汚コート材としてはフッ素系樹脂材料が好ましく用いられる。しかしながら、このフッ素系樹脂材料をディップ法でガラス基板に塗布した場合、ガラス基板に対する付着安定性が特に悪い。このため、このようなフッ素系樹脂材料を防汚コート材として用いてディップ法でガラス基板に塗布する場合にも、ガラス基板に対する付着安定性を改善し、防汚コート面の耐久性を著しく向上させることができる。
【0043】
本発明においては、上記プラナー方式プラズマ処理の場合、使用する反応ガスはHe,Ar又はNが好ましく、Heがより好ましい。また、使用する反応ガスの種類によっても多少異なるが、使用電力は、200〜500Wの範囲が好ましく、300〜400Wがより好ましい。また、処理時間は、10〜250秒の範囲で処理を行うことが好ましく、30〜90秒がより好ましい。一方、上記ダウンストリーム方式プラズマ処理の場合、使用する反応ガスは、不活性ガスと空気又はOとの混合ガスが好ましく、Nと空気との混合ガスがより好ましい。また、使用する反応ガスの種類によっても多少異なるが、使用電力は、400〜1200Wの範囲が好ましく、600〜1000Wの範囲がより好ましい。また、処理時間としては、5〜60秒の範囲で処理を行うことが好適であり、10〜15秒の範囲で処理を行うことがより好適である。
【0044】
本発明においては、ガラス表面改質処理として、上記プラナー方式プラズマ処理及びダウンストリーム方式プラズマ処理の両処理を行うことが好適である。この2つの処理の順序としては、最初に上記プラナー方式プラズマ処理を行い、続いて上記ダウンストリーム方式プラズマ処理を行うことが望ましい。これによって、ガラス表面形状を変化させ、その上で、ガラス表面に官能基が生成され、本発明の作用効果が発揮されるので好ましい。
【0045】
[防汚コート層形成(ステップS2)]
次に、上記のようにして、一方の主表面1Aに対してガラス表面改質処理を行い、ガラス被処理面を形成したガラス基板1に防汚コート層3を形成する(図4(c)参照)。
本発明においては、上記防汚コート層3は例えばディップ法によって塗布形成することが好ましい。ディップ法は、適当な溶媒中に防汚コート材として例えば上記フッ素系樹脂を主成分として含有する塗布液中に上記ガラス基板1全体を浸漬させ、これを取り出して乾燥することによって行われる。このディップ法によれば、真空成膜装置を用いなくても、上記ガラス基板1の全面に均一な膜厚の防汚コート層3を形成することができる。
【0046】
上記防汚コート層3の塗布膜厚は、特に制約されないが、例えば0.3nm〜30nmの範囲であることが好ましい。膜厚が0.3nm未満であると、耐久性が不足し、防汚機能が十分に発揮されない恐れがある。一方、膜厚が30nmを超えると、最近のPC等の機器の薄型化の要請に沿わなくなる。
【0047】
上記のとおり、PC等の機器の操作パネルに組み込んだ際に、表側に露出するガラス基板1の主表面1Aには本発明のガラス表面改質処理による被処理面が形成されており、上記ディップ法によって形成された防汚コート層3の付着安定性が改善されるので、従来のディップ法による防汚コート面に比べて耐久性を著しく向上させることができる。
【0048】
これに加えて、カバーガラスに対して外力が加わった際に、防汚コート層によってガラス基板表面への衝撃が緩和され、脆性材料であるガラスの強度低下の要因となるクラックがガラス基板に生じにくくなることから、カバーガラスの機械的強度を向上させることができる。つまり、化学強化されたガラス基板に防汚コート層を形成することによって、カバーガラスとしての機械的強度をより一層向上させることができる。
本発明のトラックパッド用カバーガラスにおいては、例えば4点曲げ試験(押圧に対する)の強度が300MPa以上を得ることが可能であり、トラックパッドとして用いられるカバーガラスには十分な強度を備えている。
【0049】
[防汚コート面改質処理(ステップS3)]
次に、上記ガラス基板1における他方の主表面1Bに形成された防汚コート層3に防汚コート面改質処理を施し、防汚コート改質層3aを形成する(図4(d)参照)。
【0050】
上記ガラス被処理面が形成された一方の主表面1A及び前記端面1Cには、防汚コート層3が形成されるが、例えばディップ法によりガラス基板全体を防汚コート材に浸漬させることにより防汚コート層3を形成する場合、上記他方の主表面1Bにも防汚コート層が形成されることになる。ここで、PC等の機器の内側に向けて組み込まれるガラス基板1の主表面1B側に、印刷層を形成したり、あるいは絶縁層、導電層等を形成して、利用者の操作を検出するためのタッチセンサモジュールとすることができる。このような場合、本発明では、ガラス基板1における上記他方の主表面1Bに、前記防汚コート層3に防汚コート面改質処理を施したことによる防汚コート改質層3aを形成することで、その外面に直接所望の印刷層を形成することができ、また絶縁層、導電層の付着安定性を向上させることができる。また、上記防汚コート改質層3aが形成されることで、ガラス基板1の上記主表面1Bに印刷層や、絶縁層、導電層が直接形成される場合よりも、これらの層の付着安定性が向上するという効果も得られる。
【0051】
このような防汚コート面改質処理としては、例えばプラナー方式によるヘリウム(He)プラズマ曝露処理または紫外線照射処理などの方法が好ましく挙げられる。紫外線照射を行う場合の照射エネルギー、照射量(照射時間)などの条件、またプラズマ曝露処理する場合のプラズマエネルギー、処理時間などの条件に関しては、好ましい条件を適宜選択して実施することができる。これら紫外線照射条件またはプラズマ曝露処理条件によって、防汚コート層3に形成される防汚コート改質層3aの深さ方向における厚さを調整することは可能である。
【0052】
次に、以上の防汚コート面改質処理を施したことによる防汚コート改質層3aの外面全面に所望の印刷層を形成する(ステップS4)。カバーガラスの印刷方式の一例としては、スクリーン印刷である。
この印刷工程においては、ガラス基板の表面および端面に防汚コート層が形成されているので、この印刷工程でのガラス基板のマイクロクラックの発生を防止することができる。
【0053】
また、上記導電層は、ガラス基板1の主表面1Bに形成された印刷層の外面全面に所定の厚さをもって形成される。この導電層の「所定の厚さ」とは、スパッタリング法により成膜される場合には、例えば100nm以下であり、印刷法により成膜される場合には、バインダーとなる樹脂を含めて1000nm以下である。
【0054】
具体的には、印刷層の外面全面にスパッタリング法等を用いてアルミ箔や銅箔等からなる金属薄膜の導電層を形成し、フォトリソグラフィ技術、またはYAG(Yttrium Aluminum Garnet)の基本波やCOレーザ等によるレーザパターニング技術を用いて導電層を所望のパターン形状に加工することにより形成される。あるいは、導電ペーストのスクリーン印刷等の印刷法により印刷層の外面に導電層を形成してもよい。導電ペーストは、樹脂にカーボン粒子や金属粒子を分散させることにより作成することができる。
【0055】
また、上記防汚コート改質層3aの表面と導電層との間、上記防汚コート改質層3aの表面と接続部(金属配線)との間には、それぞれ必要に応じて絶縁層が形成される。この絶縁層は、絶縁性物質、例えば、SiO等の無機材料を用いて形成されることが好ましい。また、絶縁層は、例えばスパッタリング法等を用いて、厚さ50〜1000Å程度に形成されることが好ましい。
【0056】
以上のようにして本実施の形態のカバーガラス10は製造され、PC等の機器に組み込まれる。
以上説明したように、本発明に係るトラックパッド用カバーガラスによれば、カバーガラス10の表面、つまりガラス基板表面に形成した防汚コート層の表面に、Raが0.8〜2.0μm、Rsmが0.05〜0.25mm、且つRskが−1.2〜−0.5であるような表面形状が形成されることによって、利用者がカバーガラスの表面を指先で接触したときの良好な操作感が得られ、トラックパッドとしての操作性を著しく向上させることができる。しかも利用者の指が常に接触する防汚コート面の耐久性を著しく向上させることができる。さらには化学強化されたカバーガラス用ガラス基板の表面に直接印刷を施すことが可能で、しかも印刷時のガラス基板のマイクロクラックの発生を防止することが可能である。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
以下の(1)ガラス基板作製工程、(2)ガラス表面改質処理工程、(3)防汚コート層形成工程、(4)防汚コート面改質処理工程、を経て本実施例のトラックパッド用カバーガラスを製造した。
【0058】
(1)ガラス基板作製工程
まず、ダウンドロー法やフロート法で製造されたアルミノシリゲートガラスからなる厚さ0.5mmの板ガラスから所定の大きさに切り出して(小片化)カバーガラス用のガラス基板を作製した。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:4〜20重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を含有する化学強化用ガラスを使用した。なお、ガラス基板1を構成するガラスとしては、ソーダライムガラスやアルミノボロシリケートガラスを用いてもよい。
【0059】
次に、上記ガラス基板に対して表面研削を行い、当該主表面に所定のテクスチャを形成した。表面研削の方法としては、ラッピング装置を用いた。具体的には、粒度#400〜1200のアルミナ砥粒を用い、荷重を100kg程度に設定して、加工面に研削液を供給しつつ、ラッピング装置のサンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の表面を、表面粗さ(Ra)0.8μm程度に研削加工した。
【0060】
次いで、上記研削加工を終えたガラス基板を洗浄した後、上記研削加工によって生じたガラス基板表面の残留クラックを取り除くための表面エッチング処理を行った。具体的には、フッ酸と硫酸の混合液(約25℃)中に上記ガラス基板を浸漬させた。浸漬時間は2〜3分とした。浸漬終了後、上記ガラス基板を洗浄した。ここで、表面エッチング処理後のガラス基板の表面粗さ(Ra)は、1.2μmであった。
【0061】
次に、上記表面エッチング処理を終えたガラス基板に対して化学強化処理を施した。化学強化は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した化学強化液を用意し、この化学強化溶液を380℃に加熱し、上記形状加工後の洗浄・乾燥済みのガラス基板を約4時間浸漬して化学強化処理を行なった。化学強化を終えたガラス基板を硫酸、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
こうして、ガラス基板を作製した。
【0062】
(2)ガラス表面改質処理工程
上記で作製したガラス基板の研削加工を行った主表面に対して、ガラス表面改質処理を行った。
具体的には、まず最初に、以下の条件でプラナー方式によるプラズマ処理を行った。
・反応ガス:He
・使用電力:300W
・処理時間:180秒
続いて、以下の条件でダウンストリーム方式によるプラズマ処理を行った。
・反応ガス:N(流量80リットル/分)+空気(流量80リットル/分)
・使用電力:800W
・処理時間:13秒
【0063】
(3)防汚コート層形成工程
フッ素系樹脂(信越化学工業社製(商品名)KY100シリーズ)を溶剤で適当な濃度に調整した塗布液(液温25℃)を用いてディップ法により、上記ガラス表面改質処理を終えたガラス基板の全面に上記フッ素系樹脂からなる防汚コート層を塗布し、100℃で熱風乾燥した。防汚コート層の塗布膜厚は10nmとした。この防汚コート層の膜厚は、FiveLab社製エリプソメトリMARY−102による測定値である。
上記ガラス表面改質処理を行ったガラス基板主表面に形成された防汚コート層表面における水に対する接触角(初期接触角)は115度であった。なお、接触角はJIS R3257に従って、協和界面科学社製の接触角計DM−501を使用して測定した。
【0064】
(4)防汚コート面改質処理工程
上記ガラス基板の表面改質処理面とは反対面側に形成された防汚コート層に対して、以下の条件でプラナー方式によるプラズマ処理を行った。
・反応ガス:He
・印加電圧:300W
・処理時間:5秒
上記プラズマ処理前の防汚コート層表面における水に対する接触角は115度であったが、上記プラズマ処理直後の接触角は20度以下に下がった。
【0065】
次に、上記ガラス基板における防汚コート改質面に、スクリーン印刷によって所定の印刷層を形成した。印刷層のカバーガラスに対する付着性は良好であり、高品質の印刷層を形成することができた。
こうして本実施例のカバーガラスを完成した。
【0066】
さらに、得られたカバーガラスについて、主表面の表面粗さRa,Rsm,Rskをそれぞれ測定した。なお、これらのパラメータは、JIS B0601:2001により規定されるパラメータである。例えば、これらのパラメータは、(株)ミツトヨ製接触式粗さ測定機「SV−600」を用いて測定することができる。この測定の結果(走査距離40mm)、Raは1.2μm、Rsmは0.15mm、Rskは−0.8であった。得られたガラスの表面を実際に指先で接触したときに良好な操作感が得られ、トラックパッドとしての操作性を著しく向上できることが確認できた。
【符号の説明】
【0067】
1 カバーガラス用ガラス基板
1A,1B ガラス基板の主表面
1C ガラス基板の端面
2 ガラス被処理面
3 防汚コート層
3a 防汚コート改質層
10 トラックパッド用カバーガラス
図1
図2
図3
図4