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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024879
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】海藻類養殖用装置及び海藻類養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20161107BHJP
【FI】
   A01G33/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-179771(P2012-179771)
(22)【出願日】2012年8月14日
(65)【公開番号】特開2014-36596(P2014-36596A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】591124385
【氏名又は名称】理研食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390025793
【氏名又は名称】岩手県
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175606
【弁理士】
【氏名又は名称】上利 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】山口 正希
(72)【発明者】
【氏名】阿部 知子
(72)【発明者】
【氏名】平野 智也
(72)【発明者】
【氏名】福西 暢尚
【審査官】 木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−320426(JP,A)
【文献】 特開2011−130704(JP,A)
【文献】 特公昭39−013045(JP,B1)
【文献】 特開2011−188786(JP,A)
【文献】 特開昭53−044400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00−33/02
A01K 61/00−63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に開口部を有する筒形水槽、曝気機構、注水機構、排水機構、及び水槽内の水流を調整する水流調整機構を備えた海藻類養殖用装置であって、
前記水流調整機構は、頂部と底部とに開口を有する略裁頭錐形の筒状部材よりなり、前記筒状部材は、その錐形頂部開口が前記筒形水槽の底部に位置し、その錐形底部開口が前記筒形水槽の上部開口部側に位置し、その錐形中心軸が前記筒形水槽の中心軸と略一致するように配され、
前記筒状部材は、その外周面の上下方向に複数の開孔を有し、
前記注水機構は、その注水口が前記筒形水槽の内周縁近傍に、その注水方向が筒断面の略接線方向となるように配され、
前記曝気機構は、前記筒形水槽下部の、前記水流調整機構の外周近傍に配され、
前記排水機構は、その吸水口が、前記筒形水槽底部の前記水流調整機構の内側に配された、
ことを特徴とする海藻類養殖用装置。
【請求項2】
前記水流調整機構の筒状部材の錐形の頂角が2.5〜15度である、請求項1記載の海藻類養殖用装置。
【請求項3】
前記水流調整機構の筒状部材の開孔は、平均径が1.0〜10mmであり、前記筒状部材の外周面に対する開孔率が0.5〜3%である、請求項1記載の海藻類養殖用装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の海藻類養殖用装置を用いて海藻類を生育させる、ことを特徴とする海藻類養殖方法。
【請求項5】
13〜25cm/秒の水流速度の条件下で海藻類を生育させる、ことを特徴とする請求項4記載の海藻類養殖方法。
【請求項6】
前記筒形水槽内の水位が、前記水流調整機構の筒状部材の高さより低い、請求項4記載の海藻類養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類養殖用装置及び海藻類養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻類の養殖は、従来は、海洋養殖によって行われてきた。海洋養殖にあっては、気候天候の変動による海水温度や水流速度の変動の影響を受けやすく、一定の品質の海藻類を供給するのが困難となりやすい、という問題があった。また、近年の海水汚染の影響による海藻類の品質の悪化が懸念された。
海上の気候や状態に影響を受けることなく、海藻類を安定的に供給するため、例えば、特許文献1には、海藻類の陸上養殖を可能とする、海藻類養殖装置が開示されている。該海藻養類殖装置は、略垂直向きに配置される中空管と、中空間内下端部に設置された気泡ポンプを備え、該気泡ポンプから噴出された気泡により海水を上下方向に循環させ、その海水の循環に海藻類をのせて海藻類養殖水槽内に浮遊させることを特徴としている。しかしながら、非特許文献1に記載されるように、海藻類の良好な生育には速い水流を要することが知られているものの、特許文献1に記載の装置では、その水流速度を高めるのに限界がある、という問題があった。
実際に、外海での養殖においては、例えばワカメは全長2m程度まで生長させることが可能であるが、従来の陸上での養殖装置では、全長1m程度までが限界であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−320426号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N.Nanba et al., J. Appl. Phycol. 23:1023−1030(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水槽の大きさに比して速い速度の水流を生じさせ、海藻類の良好な生育を可能とする、陸上で海藻類の養殖を行うための海藻類養殖用装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、該海藻類養殖用装置を用いた海藻類養殖方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、上部に開口部を有する筒形水槽、曝気機構、注水機構、排水機構、及び水槽内の水流を調整する水流調整機構を備えた海藻類養殖用装置であって、前記水流調整機構は、頂部と底部とに開口を有する略裁頭錐形の筒状部材よりなり、前記筒状部材は、その錐形頂部開口が前記筒形水槽の底部に位置し、その錐形底部開口が前記筒形水槽の上部開口部側に位置し、その錐形中心軸が前記筒形水槽の中心軸と略一致するように配され、前記水流調整機構は、その外周面の上下方向に複数の開孔を有し、前記注水機構は、その注水口が前記筒形水槽の内周縁近傍に、その注水方向が前記筒形水槽断面の略接線方向となるように配され、前記曝気機構は、前記筒形水槽下部の、前記水流調整機構の外周近傍に配され、前記排水機構は、その吸水口が、前記筒形水槽底部の前記水流調整機構の内側に配された、ことを特徴とする海藻類養殖用装置を提供する。
上記注水機構が、筒形水槽の内周の略接線方向に注水するように配されることで、水槽内部の周方向に水流を生じさせることができる。該周方向の水流は、注水機構からの注水速度を高めることで容易に速くすることが可能であり、その調節が簡便である、という利点を有する。
さらに、筒形水槽の中心軸に略一致した中心軸を有する筒状部材の部材を設け、該筒状部材の外側下部に曝気機構を設けることで、曝気機構より生じる気泡により上下方向の旋回流を生じさせ、より複雑な水流とすることができる。ここで、筒状部材が例えば円柱状であると、または曝気機構を該筒状部材の筒内部に配置されていると、生育した海藻が該筒状部材に絡まりやすい。そこで、上記筒状部材に傾斜をつけ、さらに該筒状部材の外側周辺の下部に曝気装置を設けることで、筒状部材外周面付近に上下方向の旋回流が生じ、これにより筒状部材への海藻の絡まりを防ぐことができる。
上記筒状部材の外周面の上下方向に開孔を設け、筒状部材の内部の水槽底面に排水機構の吸水口を設けることで、水流は筒状部材を経由して排水される。そのため、上記の周方向の水流は単純な円周状ではなく、軸部への動きを有する渦巻き状となり、これにより、海藻の運動はより広範囲で複雑なものとなる。
なお、本明細書における「上下方向」とは、装置全体の正面図(または側面図)における縦方向を意味するものとする。
【0007】
前記水流調整機構の筒形部材の錐形の頂角は5〜12度とすることが好ましい。錐形の頂角を5〜12度とすると、海藻の絡まりを防ぎながらも、上下方向への水流を生じやすい、という効果がある。なお、ここでいう「頂角」とは、錐形の中心軸線と、外周面上の頂点から底面に向かう稜線との交差角(図4のθ2)を指すものとする。略裁頭錐形が円錐以外の場合は、上記頂角(θ2)は、最も大きな値を指すものとする。
【0008】
前記水流調整機構の筒形部材の開孔は、平均径を1.0〜10mmとし、かつ前記筒形部材の外周面に対する開孔率は0.5〜3%とすることが好ましい。開孔の平均径及び開孔率を上記の範囲をすることで、育成前の海藻類が筒状部材を通過しにくく、かつ、排水効率が妨げられにくい。
【0009】
本発明の海藻類養殖方法は、上記のいずれかの海藻類養殖用装置を用いて海藻類を生育させる、ことを特徴とする。上記の海藻類養殖用装置を用いることにより、質の高い海藻を効率よく育成することができる。
【0010】
本発明の海藻類養殖方法は、13〜25cm/秒の水流速度の条件下で海藻類を生育させることが好ましい。上記のような外海に匹敵する水流条件下で海藻類を養殖することで、より質の高い海藻を育成することができる。なお、ここでいう「水流速度」とは、水槽内の底面から高さ方向に10%、外壁から径方向に10%の位置で測定した水流速度を指すものとする。
【0011】
前記筒形水槽内の水位は、前記水流調整機構の高さより低くすることが好ましい。水位を水流調整機構より低くすることで、水の上下方向の対流の発生をより確実とすることができる。なお、本明細書において、「高さ」とは、装置の正面図(または側面図)における縦方向の長さを指すものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、水槽の大きさに比して速い速度の水流を生じさせ、海藻類の良好な生育を可能とする、陸上で海藻類の養殖を行うための海藻類養殖用装置を提供することが可能である。また、本発明によると、該海藻類養殖用装置を用いた海藻類養殖方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の海藻類養殖用装置の一実施形態の前面図である。
図2】本発明の海藻類養殖用装置の一実施形態における、注水機構の設置位置を示す前面部分図である。
図3】本発明の海藻類養殖用装置の一実施形態の上面図である。
図4】本発明の海藻類養殖用装置の一実施形態における、水流調整機構の構造を示す前面図である。
図5】実施例1のマコンブの養殖における、マコンブ総重量変化を示すグラフである。
図6】実施例2のワカメの養殖における、比較用水槽と実施例水槽でのワカメの生長速度の差異を示すグラフである。
図7】海藻類養殖用装置の比較例を示す前面図である。
図8】海藻類養殖用装置の比較例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の海藻類養殖用装置及び海藻類養殖方法について、図面に基づいて例示的に説明する。
本発明の海藻類養殖用装置は、上部に開口部を有する筒形水槽、曝気機構、注水機構、排水機構、及び水槽内の水流を調整する水流調整機構、さらに必要に応じて光照射機構を備える。
【0015】
<海藻類養殖用装置>
(筒形水槽)
図1の海藻類養殖用装置1の本体としては、上部に開口部を有する有底の筒形水槽、好適には円筒形水槽2が用いられる。円筒形水槽2の材質としては、その内部に水を保持できる部材であれば、特に制限されるものではなく、ガラス、樹脂等をいずれも使用可能であるが、衝撃等に強く、透明度が高いことから、ポリカーボネート、アクリル等を好適に使用できる。海藻類の良好な育成のためには、一定以上の光量が要求されるため、より効率よく外部光を取り入れられるよう、透明の、特に無色透明の部材を用いることが好ましい。
【0016】
筒形水槽の大きさは特に限定されるものではなく、海藻類の生育させたい大きさに合わせて決定することができるが、より大きく海藻類を生長させるためには、より大きな水槽を用いることが好ましい。特に、1000L以上、さらに1000〜3000L程度のものを好適に使用できる。具体的には径方向内寸が上下方向内寸より大きい水槽が使用でき、2000L水槽にあっては、径方向内寸が1800〜2200mm、特に1900〜2000mm、上下方向内寸が800〜1000mm、特に850〜950mmのものが好適に使用できる。
【0017】
(注水機構)
注水機構としては、例えば図1に示すような、注水管3が挙げられる。注水管3の注水口4は、円筒形水槽2の上下方向の何処に配されていてもよく、円筒形水槽2の上下方向に図1及び図2(A)においては円筒形水槽2の上部開口付近に配されているが、図2(B)のように上下方向中央部、図2(C)のように底部付近に配されていてもよい。好適には、配置が容易な円筒形水槽2の上部開口付近に配される。
【0018】
図3のように、海藻類養殖用装置を上方からみた場合、注水管3は、その注水口4が水を水槽内周の略接線方向に注水するように配される。「水槽内周の略接線方向」の注水により、少なくとも、水槽内で上方から見て略円形の水流が生じることが要求され、具体的には、図中の注水方向を示すa−b線と、径方向c−d線とのなす角θ1を、60〜120度、特に70〜110度、さらに80〜110度とするのが好ましい。最も好ましい角θ1は図3に示すように90度である。
なお、注水方向は水槽側面から見て上方または下方でなければ、斜め上方または斜め下方であってもよいが、水平方向とすることが最も好ましい。
【0019】
注水口4からの水注水量は、例えば上記の2000L水槽の場合、40〜80L/分、特に50〜80L/分、さらに60〜70L/分、即ち、水槽容量の2〜4%、特に2.5〜4%、さらに3〜3.5%とすることが好ましい。注水量が多すぎれば、水槽からのオーバーフローが生じやすくなり、また、少なすぎれば、海藻類の生育に適した所望の水流速度とするのが困難となる。
【0020】
注水管3の材質は、特に制限されるものではないが、水、特に海水に接触した状態で腐食しにくいものとすることが好ましく、さらには、物理的な衝撃や変形の影響を受けにくい、適度な可撓性を有するものとすることが好ましい。具体的には、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0021】
(水流調整機構)
水流調整機構としては、略裁頭錐形、好適には略裁頭円錐形の筒状部材である筒状体5を配置する。図1において、筒状体5の外周面は、前面から見て直線状となっているが、全体として略裁頭錐形となっていれば、曲線状や波状となっていてもよい(図示せず)。筒状体5の材質としては、水、特に海水に接触した状態で腐食しにくいものとすることが好ましい。具体的には、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート等が挙げられる。また、筒状体5は、光を透過しやすくするため、透明、特に無色透明とすることが好ましい。筒状体5は、その錐形底部が水槽上部側、錐形頂部が水槽底部側となるように配する。
【0022】
図4において、筒状体5を構成する錐形の頂角θ2は、2.5〜15度、特に3〜12.5度、さらに5〜12度とすることが好ましい。頂角θ2が大きすぎれば、後述の曝気機構により生じる水流の速度が高くなりにくく、また、小さすぎれば、海藻類が筒状体5に絡まりやすくなってしまう、という問題が生じる。
【0023】
筒状体5は、その上下方向に、好適にはその上下方向の全体にわたって、複数の開孔6を有する。筒状体5に開孔6を設けることにより、水槽内部の海水は筒状体5を透過して排水される。開孔6は、各々の径が1〜10mm、特に2〜8mm、さらに3〜5mmであることが好ましい。また、筒状体5の開孔率は、0.5〜3.0%、特に0.7〜2.5%、さらに1.0〜2.0%とすることが好ましい。開孔の径を1〜10mmとすることで、後述の排水機構を介した排水効率が妨げられにくく、また、生育前の海藻類を水槽1中に浮遊させても、該海藻類が筒状体5を透過しにくい。また、開孔率を0.5〜3.0%とすることで、後述の排水機構を介した排水効率が妨げられにくく、かつ、後述の曝気機構により生じる水流が筒状体5内部に透過しにくい。
【0024】
筒状体5の高さは、円筒形水槽2の高さの70〜97%、特に85〜95%、さらには87〜92.5%とすることが好ましい。上記の高さとすることで、水流調整機構の性能を十分に発揮し、水の上下方向の対流の発生をより確実とすることができる。
【0025】
(曝気機構)
曝気機構としては、通常使用されるものをいずれも使用可能であるが、例えば、外部のエアーポンプ(図示せず)とチューブ(図示せず)で接続されたエアーストーン7が挙げられる。好ましくは、海水による腐食の生じにくいものとする。エアーストーン7は、筒状体5の外周近傍、かつ水槽2の下部に配置される。本明細書において、水槽2の「下部」とは、水槽底面から上面までの高さを1とすると、底面から上方向に0〜1/3の位置を指すものとする。ここで、エアーストーン7は、水槽下部の中でも、底面から上方向に0〜1/5、特に0〜1/10の位置に配することが好ましく、0の位置、即ち、底面に配するのが最も好ましい。また、筒状体5の「外周近傍」とは、具体的には筒状体外周面と、水槽内周面の径方向の距離を1とすると、筒状体外周面から径方向に0〜1/3の位置を指すものとする。ここで、エアーストーン7は、筒状体5の外周近傍の中でも、筒状体外周面から径方向に0〜1/5、特に0〜1/10の位置に配することが好ましく、最も好ましくは0の位置、すなわち筒状体外周面に隣接させて配することが最も好ましい。
【0026】
曝気機構の給気量は、60L/分以上、特に60〜300L/分、さらに120〜200L/分とすることが好ましい。上記の給気量とすることで、水槽内に上下方向の旋回流が生じ、上記周方向の水流と相俟って外海のような複雑な流れを生じさせることが可能となる。
【0027】
(排水機構)
排水機構は、水槽2底部の上記筒状体5内側に吸水口8を配する構造とする。筒状体5の内側に吸水口8を配することで、水は筒状体5を介して排水されることとなり、これにより、水流は、上記周方向の水流と相俟って、渦巻き状となりやすい。これにより、さらに、外海と同様の複雑な水流を生じやすくなる。
【0028】
排水機構は、上記の吸水口8に、好適には、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、アクリル等の海水による腐食が起きにくく、適度な可撓性を有する材質よりなる配管9を接続し、例えば該配管9を水槽外部にサイフォン型に配置することにより、水槽内の水位を一定に保つことが可能である。即ち、配管の最高位を所望の水槽水位と同じ高さにすることによる。
【0029】
(光照射機構)
海藻類の育成には、一定以上の光の照射が必須となる。本発明の海藻類養殖用装置は、外部光を取り入れやすい環境に設置することが好ましいが、天候等によって生じる照度不足に備えるため、光照射機構をさらに備えることが好ましい(図示せず)。光照射機構としては、一般に入手可能な蛍光灯、白熱灯、LED等を好適に利用でき、装置上部から光を照射する構造とすることが好ましい。光は、自然光、人工光の区別なく、1日のうち少なくとも12時間照射されるように設定することが好ましい。
好適には、装置近傍に照度計を設置し、照度が一定以下となったら自動的に光照射機構を作動させる構造とする。具体的には、装置1の水面に照射される光の照度下限を5000〜10000ルクスに設定することが好ましい。
【0030】
<海藻類養殖方法>
本発明の海藻類養殖方法は、上記の海藻類養殖装置1を使用することを特徴とする。海藻類養殖用装置1は、天候や外気温の影響を受けにくいよう、屋内に設置することが好ましい。ただし、後述のように、できるだけ多くの光を照射することが望まれるため、自然光を取り入れられる環境下に設置することが好ましい。
【0031】
海藻類養殖装置1の円筒形水槽2に、注水管3を通じて海水を注水する。海水は、メンブレンフィルター、紫外線照射等で予め滅菌することが好ましい。ここで使用するメンブレンフィルターは、親水性素材のものとし、セルロースアセテート、親水性PTFE、セルロースアセテートをコーティングしたポリエステル不織布等とすることが好ましく、また、メンブレンフィルターの孔径は、0.4〜1.2μm、特に0.5〜1μmのものが好適に使用できる。メンブレンフィルターは、注水管3の注水経路の中途に設置してもよい。
【0032】
円筒形水槽2中の海水の水位が所望の水位に達すると、配管9を通じた排水が行われ、水槽中の水位が一定に保たれる。ここで、円筒形水槽2中の水位は、前記筒状体5の上端を超えない範囲でより高くすることが好ましい。注水管3の注水口4からの注水量は、上述のように、60〜70L/分とすることが好ましい。注水口4からの水は、円筒状水槽2の径方向に対して図3の角度θ1(上述のように80〜110度が好ましい)をなす方向に注水し、これにより、円周方向に沿った水流を生じさせる。これに加えて、筒状体5の開孔6を経て吸水口8から海水が排出されることにより、径方向への水流も生じるため、円周方向の水流と径方向の水流が相俟って、図3中に破線矢印で示されるような渦巻き状の水流が生じる。
【0033】
さらに、エアーポンプにチューブを介して接続されたエアーストーン7から、上述のように3〜5L/分の給気量で、水槽内の海水に対して、上方に向かって空気を注入する。エアーストーン7からの空気は、裁頭錐形の筒状体5の外壁に沿って水槽上方に上がり、その際、図1中に破線矢印で示したような水の対流が生じる。
【0034】
上記の注水管3、筒状体5及びエアーストーン7により生じた水流の速度は、10cm/秒以上、特に12〜30cm/秒、さらに13〜25cm/秒とすることが好ましい。この水流速度は、水槽2中の水槽内の底面から約20cm、外壁から約20cmの位置の水流速度を指すものとする。この水流速度は、特に水槽を2000L程度の大きなものとすることで、達成可能である。上記の水流とすることで、陸上の水槽内であっても、外海の環境に近い水流状態とすることができる。また、水流速度が低すぎると、水槽内壁に微細藻類が付着しやすい状態となり、これを放置すると水槽内に入る光の量が制限され、海藻類の生育速度を遅くする要因となり得た。そのため、水槽内の頻回の清掃が必要であった。しかし、上記の水流とすることで、その高い水流速度のため微細藻類の内壁への付着が生じにくく、清掃の回数を大幅に減じることが可能となる。
【0035】
水槽2内の水流速度が、所望の水流速度に達した後に、養殖する海藻類の種苗を水槽2内に投入する。養殖する海藻類としては、浮遊性条件下で生育可能なものであれば特に限定されるものではないが、特にマコンブ、ワカメ、ヒジキ、ツノマタ等を好適に使用できる。種苗の準備については、当業者に既知のいずれの方法を用いてもよい。投入する種苗の密度は、水槽2内において、250株/L以下、特に60〜200株/L、さらに80〜150株/Lとすることが好ましい。種苗の密度が高すぎれば、生育した後の海藻類が互いに絡まったり、外部光を遮ったりし、各個体の生育速度が遅くなる要因となり得るため、上記密度に抑えることが好ましい。
【0036】
種苗を投入した後においても、上記の水流速度を維持し、浮遊条件下で種苗を育成する。その際、できるだけ多くの光を種苗に照射することが好ましい。そのため、海藻類養殖用装置1は、自然光を取り入れられる条件下にて運転することが好ましい。また、天候によって、装置1に照射される光が少ない場合においては、光照射機構(図示せず)によって光を照射することが好ましい。
ここで、装置1の水面に照射される光の照度は、5000ルクス以上、特に5000〜40000ルクス、さらに10000〜40000ルクスとすることが好ましい。
【0037】
水槽内の水温は、生育させる海藻類にとっての生育至適温度に設定することが好ましい。例えば、マコンブの場合は5〜12度とすることが好ましく、ワカメの場合は6〜15度とすることが好ましい。なお、上記の至適温度を維持するために、水槽内に加温装置及び/または冷却装置を設置してもよい。
【0038】
上記の養殖条件で種苗を生育させ、海藻類が所望の大きさ(重量)以上となったところで、注水管3からの注水と、エアーストーン7からの給気を停止させ、生育した海藻類を回収する。
外海に匹敵する水流と、十分な光照射量により、従来の養殖装置と比して、海藻類の生育速度は非常に速いものとなる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(装置の準備)
中心部に排水口がある、2000Lポリカーボネート製透明円筒形水槽(SPS−2000、アース株式会社)の排水口周縁に曝気のためのエアーストーン(品番:丸シリーズ50φ丸#100、キング砥石株式会社製)を図3に示すように8つ設置した。水槽の中央底部にプラスチック製の裁頭円錐形の筒状体を錐形の底部が上部に配されるよう取り付けた。筒状体の高さは、水槽の高さの90%とし、また、筒状体の錐形の頂角は10度とした。筒状体の外周面には、直径3mmの開孔を3cm間隔であけた(開孔率0.8%)。
【0041】
海水をメンブレンフィルター(素材:ポリエステル不織布、孔径:0.3〜0.65μm、ADVANTEC社製)で濾過し、紫外線殺菌装置(品番:FDL−2−SP、千代田工販(株)社製)を用いて滅菌した。滅菌した海水を、60±5L/分の速度で注水管の吐水口より水槽内に注入した。吐水口からの注水方向は、円筒形水槽の径方向に対して90±2度とした。
【0042】
排水用の塩化ビニル製の配管を、水槽内の水位が水槽の高さの90〜92%となるように水槽外部においてサイフォン状に配置した。
【0043】
水槽は、晴天時には平均30000ルクスの照度となるように、室内の太陽光が直接当たりやすい場所に設置した。天候悪化時には、蛍光灯の光を照射し、水槽の水面にあたる光の照度が、少なくとも10000ルクスとなるように設定した。なお、光照射時間は1日あたり12時間以上とし、夜間は消灯した。
【0044】
(実施例1:マコンブの養殖)
定法によって作成したマコンブ種苗を、藻体長が2cm以上となった後に採苗基質から外して、30個体を水槽に投入した。藻体長が10cm以上となった後に、定法によって藻体にパンチング標識を施した。養殖開始後、7、16、24日目に30個体を採取して、それぞれ藻体長、生長速度(パンチング標識の移動距離より算出)ならびに重量を測定した。24日間養殖した結果、藻体重量は395gから4339gと約11倍に増大し、日間生長量は約89g/日、生長速度は約2.9cm/日となった。25日間までの総重量の変化を図5に示す。養殖時の水温は、3.9〜10.6℃であった。本発明の水槽において、マコンブが水槽内で絡まることもなく良好に生育することが確認された。
【0045】
(実施例2:ワカメの養殖)
定法によって作成したワカメ種苗を、藻体長が10cm以上となった後に採苗基質から外して、定法によって藻体にパンチング標識を施した後に、本発明の水槽(実施例水槽)に投入した。5〜6日に1回の割合で全長、生長速度を測定した。養殖時の水温は3.9〜10.6℃であった。1日あたりの生長速度を、図6に示す。
【0046】
比較例として、上記と同様の試験を、下記の比較用水槽を用いて行った。比較用水槽の構造を図7、8に示す。比較用水槽においては、筒状体5は裁頭錐形ではなく、円筒状であり、外周面はメッシュ状であった(図7)。また、注水は、水槽2の上から上下方向に行った。比較用水槽の水流速度は、9.1〜11.3cm/秒であった。養殖時の水温は3.9〜10.6℃であった。比較用水槽で養殖したワカメの1日あたりの生長速度についても図6に示す。
【0047】
図6に示すように、ワカメの養殖において、比較用水槽よりも実施例水槽においてその生長速度が速くなることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の海藻類養殖用装置及び海藻類養殖方法は、食品等に使用される海藻類の養殖に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…海藻類養殖用装置、2…円筒形水槽(筒形水槽)、3…注水管(注水機構)、4…注水口、5…筒状体(筒状部材)、6…開孔、7…エアーストーン(曝気機構)、8…吸水口、9…配管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8