特許第6024889号(P6024889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6024889-摩擦圧接装置 図000002
  • 特許6024889-摩擦圧接装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024889
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】摩擦圧接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20161107BHJP
   B23K 20/26 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   B23K20/12 A
   B23K20/26
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-232787(P2012-232787)
(22)【出願日】2012年10月22日
(65)【公開番号】特開2014-83548(P2014-83548A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】徳良 晋
(72)【発明者】
【氏名】高津 裕二
(72)【発明者】
【氏名】品川 幹
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭49−000676(JP,B1)
【文献】 特開2009−272235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00−20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部により把持された一対の接合部材の間に加熱コイルを挿入して電磁誘導作用により予備加熱し、該予備加熱後に前記加熱コイルを前記接合部材の間から離脱させて、前記把持部を駆動して前記接合部材を互いに突き合わせ摩擦圧接法により接合する摩擦圧接装置において、
前記接合部材の間に挿入されたときの前記加熱コイルと対応するように弾性部材を介して支持され、該加熱コイルが前記電磁誘導作用によって生じるローレンツ力を受けたときに該加熱コイルに当接して位置変位を規制する規制部材を具備したことを特徴とする摩擦圧接装置。
【請求項2】
前記規制部材は、減衰手段を介して支持されたことを特徴とする請求項1記載の摩擦圧接装置。
【請求項3】
前記加熱コイルは、支持アームの先端に支持されて搬送手段により前記接合部材の間に挿入及び離脱されると共に、一側に規制突部が設けられ、
前記規制部材は、前記加熱コイルが挿入される方向に向けて拡開する形状をなし、内面に前記規制突部が挿入されて当接することにより前記加熱コイルを位置規制することを特徴とする請求項1または2記載の摩擦圧接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦圧接装置に係り、詳しくは把持装置により把持された一対の接合部材の間に加熱コイルを挿入して電磁誘導作用により予備加熱し、把持装置を駆動して接合部材を互いに突き合わせて摩擦圧接法により接合する摩擦圧接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦圧接法は、接合対象物である一対の接合部材を突き合わせて押圧力(アプセット圧力,フォージ圧力)を作用させながら相対運動を起こさせ、このとき発生する摩擦熱によって接合面を昇温して固相状態のまま接合する方法である。例えば特許文献1の技術では、航空機エンジンの圧縮機又はタービンのロータとして適用される一体型翼車(ブリスク、ブリング)を修理するために摩擦圧接法を用いている。この種の一体型翼車は、ディスクの外周に多数のブレードを一体的に列設して構成されている。何れかのブレードが損傷したときには、破損したブレードを基部から切除した上で、切除後の基部に補修用のブレードを接合することで修理している。
【0003】
補修用ブレードの接合には線形摩擦圧接法(LFW:Linear Friction Welding)が用いられ、ディスクの基部に対して補修用ブレードを突き合わせて押圧力を作用させながら、直線上で往復動させて基部との間に摩擦熱を発生させて接合している。このような線形摩擦圧接法は一体型翼車の修理のみならず一体型翼車を製造するときにも利用され、素材のディスクの外周に列設された多数の基部に対して順にブレードを線形摩擦圧接法により接合している。
【0004】
以上のような摩擦圧接法は他の溶接法に比較して、接合部材の温度上昇を抑制できるため接合部材への熱影響が少なく、また接合箇所の酸化物等が摩擦により余盛として押し出されるので欠陥が発生し難いという長所を有する。その反面、摩擦熱により接合部材の接合箇所を軟化させるには強力な押圧力が必要なため、必然的に堅牢且つ機構的に大掛かりな装置を要して製造コストが嵩むという問題がある。
【0005】
このような問題の解決策として、事前に接合部材の両方又は一方を誘導加熱により予備的に加熱し(以下、予備加熱という)、その後に摩擦圧接法を実施する手法が提案されている。例えば特許文献2には、回転摩擦圧接法を用いた技術が開示されている。当該技術では、一対の棒状をなす接合部材を突き合わせて周囲を包囲するように加熱コイルを配設し、加熱コイルの電磁誘導作用により接合部材の接合部位を予備加熱した後に、接合部材を相対回転させて接合している。この予備加熱により回転摩擦圧接法の際に要求される押圧力を軽減し、装置の規模の縮小を図っている。
【0006】
このような予備加熱は、線形摩擦圧接法を用いた接合、例えば前記ディスクに対するブレードの接合等にも応用できる。ディスクの基部にブレードを突き合わせた状態では、加熱コイルを配置するスペースの確保が困難である。そこで、まずディスクの基部に対してブレードを離間配置し、両部材の間に加熱コイルを挿入して接合面を予備加熱し、次いで間隙内から加熱コイルを離脱させた後に、ブレードをディスクの基部に突き合わせて線形摩擦圧接法を実施する手順を採ることが考えられる。
加熱コイルの挿入及び離脱操作は、例えば直動ステージにより加熱コイルを直線上で移送することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−39746号公報
【特許文献2】特開平5−131280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記のような加熱コイルによる予備加熱は、双方の接合部材の接合面を均一に目標温度まで昇温させることが重要であり、それぞれの到達温度に誤差が生じたり、接合面の温度分布が不均一になったりした場合には、その後の摩擦圧接が想定した条件の下で行われなくなって接合強度が低下する可能性が生じる。良好な接合面の昇温を実現するには、接合部材の間の正規位置に加熱コイルを挿入して、それぞれの接合面と加熱コイルとの間隔が変わらないようにする必要がある。
そこで、例えば前記のように直動ステージにより加熱コイルを移送する場合には、加熱コイルが接合部材の間の正規位置に挿入されるように、事前に入念な直動ステージの動作調整を実施している。
【0009】
しかしながら、このような事前の調整作業だけでは加熱コイルを正規の挿入位置に保持できない要因が存在する。即ち、電磁誘導作用を利用した予備加熱では、コイルに高周波電流を流すことにより接合部材との間、及び接合部材内に磁束を生起させ、接合部材内に生起された磁束を妨げる方向へ発生する渦電流により接合部材の接合面を昇温している。このため、予備加熱中の加熱コイルには電流及び磁束の向きにより定まる方向にローレンツ力が作用し、このローレンツ力を受けて接合部材に対する加熱コイルの位置が変位してしまう。
【0010】
結果として加熱コイルを正規位置に挿入したにも拘わらず予備加熱中に加熱コイルが位置変位し、この位置変位により加熱コイルが接近した側の接合面は過剰に昇温され、加熱コイルが離間した側の接合面は昇温が不足してしまう。よって、それぞれの接合面の到達温度に誤差が生じることから、その後の摩擦圧接法を理想的な条件で実施できなくなり、この点で今一つ改良の余地があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、予備加熱中にローレンツ力を受けても加熱コイルを正規位置に保持でき、もって接合部材の接合面を正確に目標温度まで予備加熱して理想的な条件で摩擦圧接法により接合することができる摩擦圧接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、把持部により把持された一対の接合部材の間に加熱コイルを挿入して電磁誘導作用により予備加熱し、予備加熱後に加熱コイルを接合部材の間から離脱させて、把持部を駆動して接合部材を互いに突き合わせ摩擦圧接法により接合する摩擦圧接装置において、接合部材の間に挿入されたときの加熱コイルと対応するように弾性部材を介して支持され、加熱コイルが電磁誘導作用によって生じるローレンツ力を受けたときに加熱コイルに当接して位置変位を規制する規制部材を具備したことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、規制部材が減衰手段を介して支持されたことを特徴とする。
請求項の発明は、加熱コイルが、支持アームの先端に支持されて搬送手段により接合部材の間に挿入及び離脱されると共に、一側に規制突部が設けられ、規制部材が、加熱コイルが挿入される方向に向けて拡開する形状をなし、内面に規制突部が挿入されて当接することにより加熱コイルを位置規制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明の摩擦圧接装置によれば、予備加熱中の加熱コイルに規制部材を当接させてローレンツ力に起因する加熱コイルの位置変位を規制するようにした。従って、予備加熱中の加熱コイルと接合部材の接合面との間隔の変動を抑制でき、それぞれの接合面を正確に目標温度まで予備加熱して理想的な条件で摩擦圧接法により接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の線形摩擦圧接装置を示す全体構成図である。
図2】接合部材と加熱コイルとの位置関係を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を線形摩擦圧接装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の線形摩擦圧接装置を示す全体構成図、図2は接合部材と加熱コイルとの位置関係を示す部分平面図である。以下、説明の便宜上、図1の上下方向を上下、図1の左右方向を前後、図1の紙面と直交する方向(図2の上下方向)を左右として規定する。
全体として線形摩擦圧接装置は、接合対象物である一対の接合部材Wを把持して線形摩擦圧接法により接合する摩擦圧接部1、接合部材Wの接合に先立って加熱コイル5により予備加熱する予備加熱部2、及び予備加熱中の加熱コイル5の位置変位を規制するコイル位置規制部3から構成されており、装置のベース4上にそれぞれ配置されている。
【0016】
摩擦圧接部1の一対の把持部6aは左右方向に相対向して配置され、それぞれ接合部材Wが脱着可能に把持されている。把持部6aはそれぞれ駆動装置6に支持されており、駆動装置6は線形摩擦圧接法による接合部材Wの接合のために把持部6aを左右方向及び上下方向にそれぞれ駆動するようになっている。具体的には、左右方向への駆動は、把持部6aを互いに接近或いは離間させるように行われ、これにより把持部6aは図2に示す離間状態から互いに接近し、接合部材Wの接合面を突き合わせて押圧力を作用させ得るようになっている。
【0017】
また、把持部6aの前後方向への駆動は、接合部材Wを直線上で互いに逆方向に往復動させるように行われ、前記接合面を突き合わせた状態で押圧力を作用させながら接合部材Wを往復動させることにより、互いの接合面に摩擦熱を発生させて接合させ得るようになっている。
なお、本実施形態では左右の把持部6aを共に接離及び往復動させているが、これに限ることはない。例えば何れか一方の把持部6aを固定し、この把持部6aに対して他方の把持部6aを相対的に接離及び往復動させるように構成してもよい。
【0018】
前記予備加熱部2は摩擦圧接部1の後方位置に配置されている。ベース4上には予備加熱部2の直動ステージ7(搬送手段)が設置され、この直動ステージ7上に配設された制御ボックス8が直動ステージ7に沿って前後方向に移送されるようになっている。制御ボックス8からは前方に向けて水平に支持アーム9が延設され、図2に示すように支持アーム9の先端は二股状に分岐して加熱コイル5の両端が接続されている。加熱コイル5は左右方向に延びる螺旋状をなし、外周が円筒状の絶縁材10により覆われている。絶縁材10の外周一側には規制ロッド11(規制突部)が一体的に突設され、この規制ロッド11は前方に指向している。
【0019】
結果として、加熱コイル5は支持アーム9の先端に支持されている。制御ボックス8と共に加熱コイル5は直動ステージ7に沿って移送され、前側のストローク端では、図1に仮想線で示すように把持部6aに把持されている左右の接合部材Wの間に挿入され(以下、挿入位置という)、後側のストローク端では、実線で示すように左右の接合部材Wの間から後方に離脱するようになっている(以下、退避位置という)。
制御ボックス8内には高周波誘導加熱回路が収容され、この高周波誘導加熱回路は電力線12を介して高周波電源13に接続されると共に、ブスバー14を介して前記加熱コイル5と電気的に接続されている。高周波誘導加熱回路は高周波電源13からの電力供給によりブスバー14を通じて加熱コイル5に高周波電流を流す。その結果、加熱コイル5と接合部材Wとの間、及び接合部材W内に磁束が生起され、接合部材W内に生起された磁束を妨げる方向へ発生する渦電流により接合部材Wの接合面が加熱されるようになっている。
【0020】
加熱コイル5は銅製の中空パイプを巻回して製作されており、加熱コイル5の内部は支持アーム9内に形成された水路を介して制御ボックス8内に収容された図示しない冷却水タンクと接続されている。冷却水タンクの冷却水はポンプにより汲み出され、加熱コイル5の溶損防止のために支持アーム9の水路を経て加熱コイル5内を循環するようになっている。但し、加熱コイル5の構成はこれに限ることはなく、形状や材質を変更したり、冷却水による冷却構造を省略したりしてもよい。
【0021】
前記コイル位置規制部3はベース4上に立設された壁面15に設置されており、摩擦圧接部1の前側に位置している。壁面15にはコイル位置規制部3の固定板16が取り付けられ、固定板16上にはバネ17(弾性部材)及びダンパ18(減衰手段)を介して浮動板19が支持されている。浮動板19には規制部材20が固定され、規制部材20は後方、即ち加熱コイル5が挿入される方向に向けて円錐状に拡開する形状をなしている。規制部材20の上下位置は、前記加熱コイル5の規制ロッド11の高さと一致し、規制部材20の前後位置は、加熱コイル5が挿入位置に移送されたときに規制ロッド11が内部に挿入されるように設定されている。
【0022】
また、規制部材20の左右位置は以下の要件に基づき設定されている。
[発明が解決しようとする課題]で述べたように、予備加熱中の加熱コイル5には電流及び磁束の向きにより定まる方向にローレンツ力が作用し、加熱コイル5を位置変位させる要因になっている。本実施形態では図2に示すように、電流が矢印Iに示す後方に向けて流れ、磁束が矢印Bに示す上方に向けて形成された結果、加熱コイル5には矢印Fで示す左方、即ち左側の係合部材Wに向かう方向にローレンツ力が作用する。
【0023】
長い支持アーム9の先端に固定された加熱コイル5はローレンツ力を受けたときに位置変位し易く、また、銅パイプ製の加熱コイル5自体の剛性が低いことも位置変位の要因になっている。左右の接合部材W間の正規位置に加熱コイル5を挿入すべく直動ステージ7は事前に動作調整されているが、このようなローレンツ力を受けて予備加熱中に加熱コイル5が左方に変位してしまう。このため加熱コイル5と接合部材Wの接合面との間隔が変動し、接合面の到達温度の誤差要因になる。
【0024】
このような不具合の対策として本実施形態では、左右の接合部材Wの間の正規位置に加熱コイル5が挿入される直前(挿入位置に到達する直前)に、規制部材20の内周面の左側に規制ロッド11の先端が当接するように、規制部材20の左右位置が設定されている。バネ17の付勢力は、ローレンツ力に抗して加熱コイル5を確実に位置保持できる程度に高く設定されている。
一方で、後述するように挿入位置に到達した直後の加熱コイル5は揺れを生じており、この揺れはローレンツ力よりも大きな力をバネ17に作用させるが、このような加熱コイル5の揺れを撓みによって許容する程度にバネ17の付勢力は低く設定されている。そして、このときに入力される加熱コイル5の揺れを効果的に抑制可能なように、ダンパ18の減衰力が設定されている。
【0025】
次に、以上のように構成された線形摩擦圧接装置による接合部材Wの接合作業を説明する。
まず、直動ステージ7上で制御ボックス8を後方に移送して加熱コイル5を退避位置に切り換える。次いで、摩擦圧接部1の把持部6aを互いに離間させて接合部材Wをそれぞれ把持させた上で、左右の接合部材Wの接合面が予め設定した間隔となるように把持部6aを互いに接近させる。この状態で直動ステージ7に沿って制御ボックス8を前方に移送して加熱コイル5を挿入位置に切り換える。加熱コイル5は左右の接合部材Wの間の正規位置に挿入され、その直前に規制ロッド11の先端が規制部材20内に挿入されて内周面の左側に当接する。
【0026】
図1から判るように加熱コイル5は支持アーム9の先端に支持されているため、直動ステージ7による移送中には支持アーム9の撓みによって揺れを生じている。従って、規制ロッド11の先端も揺れて位置が定まり難いが、規制部材20が加熱コイル5の挿入方向に拡開しているため、規制ロッド11は規制部材20内に確実に挿入される。
そして、挿入された規制ロッド11の揺れは規制部材20にも伝達されることから、加熱コイル5と共に規制部材20も暫くは揺れ続けることになるが、このときの揺れはバネ17及びダンパ18により抑制される。即ち、規制部材20の揺れはバネ17及びダンパ18に入力され、バネ17が撓みながら揺れを妨げる方向に付勢力を作用させる共に、ダンパ18が減衰作用を奏する。よって、規制部材20の揺れ、ひいては加熱コイル5の揺れが速やかに抑制される。
【0027】
次いで、高周波誘導加熱回路により加熱コイル5に高周波電流を流し、接合部材Wの接合面を予備加熱する。予備加熱時の電流値及び予備加熱の継続時間は、予め試験により求められた値に基づき制御される。通電中の加熱コイル5と規制部材20との間の絶縁は、絶縁材料からなる規制ロッド11によって保たれる。なお、規制ロッド11を絶縁材料とする代わりに、規制部材20を絶縁材料で製作してもよい。
【0028】
そして、予備加熱中の加熱コイル5には左方へのローレンツ力が作用し、このローレンツ力は規制ロッド11及び規制部材20を介してバネ17に伝達される。上記のようにバネ17の付勢力はローレンツ力に対抗可能なように設定されているため、バネ17はほとんど撓むことなく規制部材20を介して加熱コイル5の左方への位置変位を規制する。
予備加熱を完了すると、制御ボックス8を直動ステージ7に沿って後方に移送する。加熱コイル5は左右の接合部材Wの間から離脱して退避位置に切り換えられる。その後に駆動装置6により把持部6aを互いに接近方向に駆動し、それぞれの接合部材Wの接合面を突き合わせた上で押圧力を作用させ、把持部6a材を直線上で互いに逆方向に往復動させる。これにより接合部材Wの接合面の間に摩擦熱が発生し、接合面が軟化して接合可能な温度に到達すると、接合部材Wを予め設定された相対位置で停止させてアプセット圧力を加えて接合する。以上で一連の圧接作業が完了する。
【0029】
このように本実施形態の線形摩擦圧接装置によれば、加熱コイル5を左右の接合部材Wの間に挿入したときに規制ロッド11を規制部材20の内周面に当接させることにより、予備加熱中のローレンツ力による加熱コイル5の左方への位置変位を規制するようにしている。従って、予備加熱中の加熱コイル5と接合部材Wの接合面との間隔の変動を抑制でき、それぞれの接合面を正確に目標温度まで予備加熱することができる。このため、その後の線形摩擦圧接法を理想的な条件で実施して接合部材Wを良好に接合することができる。
また、挿入位置に到達した直後の加熱コイル5の揺れをバネ17及びダンパ18に入力させ、バネ17を撓ませながらダンパ18の減衰作用により揺れを速やかに抑制している。上記ローレンツ力とは別に、このような加熱コイル5の揺れも接合部材Wの接合面との間隔を変動させる要因になるが、揺れを防止することにより接合面を一層正確に予備加熱することができる。
【0030】
また、加熱コイル5の揺れを積極的に抑制することは、作業時間の短縮にも貢献する。即ち、揺れが自然に収束するまで線形摩擦圧接の開始を遅延することも考えられるが、この場合には1作業当たりの所要時間が長引いてしまう。揺れを積極的に抑制することにより速やかに次の線形摩擦圧接の工程に移行できるため、結果として全体の作業時間を大幅に短縮することができる。
加えて、バネ17及びダンパ18を介して規制部材20を支持した構成による効果は、加熱コイル5の揺れの抑制にとどまらない。例えば、何らかの要因により加熱コイル5の挿入位置が大幅にずれた場合には、加熱コイル5の規制ロッド11が規制部材20に衝突する可能性もあるが、バネ17が撓むことにより双方の部材の破損を未然に防止できるという効果も得られる。
【0031】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ローレンツ力に起因する加熱コイル5の左方への位置変位を規制する場合について説明したが、例えば加熱コイル5の形状や姿勢等の諸条件に応じてローレンツ力の作用方向は変化し、それに応じて位置規制のための規制部材20の配置も相違することになる。よって、本発明は加熱コイル5の左方への位置変位を規制する構成に限定されるものではない。
また、上記実施形態では、左右の接合部材Wの間に後方から加熱コイル5を挿入し、これと対峙する前側位置に後方に向けて拡開する形状の規制部材20を配設したが、規制部材20の位置や形状はこれに限ることはない。例えば規制部材20を加熱コイル5に当接可能な平面状に形成してもよいし、或いは規制部材20を接合部材Wの下方又は上方に配設してもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、ローレンツ力に抗して加熱コイル5を位置保持できる比較的高い付勢力をバネ17に付与したが、これに限ることはない。例えば、ローレンツ力を受けてバネ17をある程度撓ませるように、より低い付勢力を設定してもよい。この場合には加熱コイル5が通電されると、ローレンツ力を受けてバネ17を撓ませながら加熱コイル5と共に規制部材20が次第に左方に位置変位し、その後にバネ17の付勢力とローレンツ力とが均衡する位置で変位が規制される。通電開始からの経過時間に応じて接合部材Wとの間隔が次第に変動するため、予備加熱が終了した時点でそれぞれの接合部材Wが共に目標温度に到達するように、通電開始当初の加熱コイル5の左右位置、バネ17の付勢力等の諸条件を設定しておけばよい。
【0033】
さらに、上記実施形態では、バネ17及びダンパ18を介して規制部材20を支持したが、これに限ることはない。例えばダンパ18を省略してもよいし、バネ17及びダンパ18を共に省略して規制部材20を壁面15に直接固定してもよい。また、規制部材20の内周面に対する規制ロッド11の当接状態を微調整できるように、規制部材20の左右位置を変更する調整機構を介して壁面15から規制部材20を支持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
5 加熱コイル
6a 把持部
7 直動ステージ(搬送手段)
9 支持アーム
11 規制ロッド(規制部材)
17 バネ(弾性部材)
18 ダンパ(減衰手段)
20 規制部材
図1
図2