【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケイフッ酸を含む原水に炭酸カルシウム等のカルシウム化合物を加えてフッ化カルシウムを生成させるときにSiO
2が副生する。この生成したSiO
2がゲル化して液の流動性を失い,固液分離に致命的な悪影響を及ぼすことがある。
H
2SiF
6+3CaCO
3 → 3CaF
2+SiO
2+3CO
2+H
2O
【0008】
従来の処理方法において、ケイフッ酸を含む原水に水酸化ナトリウムを添加してpHを7〜10に高めてケイフッ酸を分解し、ケイ酸ナトリウムを沈殿させて分離し、あるいは不溶性シリカにして分離し、また、アルカリを加えてSiO
2を溶存ケイ酸イオンにする方法は何れも大量の水酸化ナトリウム等を使用するため薬剤コストがかかり、操作も煩雑である。
【0009】
また従来の処理方法では、生成するフッ化カルシウム(CaF
2)が微細なコロイドになりやすいために固液分離し難い。さらに、従来の処理方法は生成したCaF
2汚泥の水分に含まれる溶存成分(SiO
2、Cl
-、NO
3-など)が塩となって析出するため、回収したCaF
2の純度が低く、フッ酸の製造原料として再利用できない。
【0010】
本発明の方法は、従来の処理方法における上記問題を解決したものであり、回収したフッ化カルシウムは不純物が少なく純度が高いのでフッ酸製造原料に使用することができ、また濾過性が良い回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の構成を有するフッ化カルシウムの回収方法および回収設備を提供する。
〔1〕ケイフッ酸を含む原水にカルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄し脱水してフッ化カルシウムを回収する方法において、原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和を行った後に、カルシウム化合物を添加してpH3〜4の液性下でフッ化カルシウムを生成させることによって粗粒のフッ化カルシウムにし、これに希釈水を加えて水中のSiO
2濃度を1300ppm以下に低減してSiO
2のゲル化を防止し、前記フッ化カルシウムを沈降させて固液分離したフッ化カルシウム澱物を水洗浄し、該澱物を回収することを特徴とするフッ化カルシウムの回収方法。
〔2〕ケイフッ酸を含むpH0.0〜2.0の原水に、水酸化ナトリウムを添加して、アルカリ添加前よりは高くpH0.2〜2.2に部分中和した後に、炭酸カルシウムを添加して粗粒のフッ化カルシウムを生成させる上記[1]に記載するフッ化カルシウムの回収方法。
〔3〕カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に無機酸を添加して未反応のカルシウム化合物と反応させてpH4以下に調整する上記[1]または上記[2]に記載するフッ化カルシウムの回収方法。
〔4〕フッ化カルシウム澱物を水洗浄した後の洗浄水、およびフッ化カルシウム澱物から脱水した濾過水を、フッ化カルシウムの沈降工程に戻して希釈水として利用する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するフッ化カルシウムの回収方法。
〔5〕ケイフッ酸を含む原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和槽、部分中和した原水にカルシウム化合物を添加しpH3〜4でフッ化カルシウムを生成させるCaF
2生成槽、
希釈水の添加により水中のSiO2濃度を1300ppm以下に低減して上記フッ化カルシウムを凝集させる凝集槽、凝集したフッ化カルシウムを沈降させて固液分離する沈降槽、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄して該澱物に付着しているSiO
2濃度を低減する洗浄槽、洗浄したフッ化カルシウム澱物を脱水する手段を備えることを特徴とするフッ化カルシウムの回収設備。
【0012】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、ケイフッ酸を含む原水にカルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄し脱水してフッ化カルシウムを回収する方法において、原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和を行った後に、カルシウム化合物を添加してpH3〜4の液性下でフッ化カルシウムを生成させることによって粗粒のフッ化カルシウムにし、これに希釈水を加えて水中のSiO
2濃度を1300ppm以下に低減してSiO
2のゲル化を防止し、前記フッ化カルシウムを沈降させて固液分離したフッ化カルシウム澱物を水洗浄し、該澱物を回収することを特徴とするフッ化カルシウムの回収方法である。
【0013】
本発明の処理方法を実施する設備の一例を
図1に示す。
図示するフッ化カルシウムの回収設備には、ケイフッ酸を含む原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和槽10、部分中和した原水にカルシウム化合物を添加しpH3〜4でフッ化カルシウムを生成させるCaF
2生成槽11、生成したフッ化カルシウムを凝集させる凝集槽12、凝集したフッ化カルシウムを沈降させて固液分離する沈降槽13、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄して該澱物に付着しているSiO
2濃度を低減する洗浄槽14、洗浄したフッ化カルシウム澱物を脱水する手段15が設けられている。さらに、好ましくは、洗浄槽14と脱水手段15の間に第二凝集槽16および第二沈降槽17が設けられている。
【0014】
本発明の処理方法は、部分中和槽10において、ケイフッ酸を含む強酸性の原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和を行う。一般に、フッ酸製造工程や半導体製造工程から排出されるケイフッ酸を含む原水は概ねpH0.0〜2.0であるので、この原水に水溶性アルカリを添加してアルカリ添加前のpHよりpHを0.2〜0.5程度高く、ただしpH2.5より低く、好ましくはpH2.2より低く、例えばpH0.2〜2.2にする部分中和を行う。この部分中和によってpH上昇分の少量のアルカリを存在させる。
【0015】
部分的な中和を行うことで,フッ化カルシウムを生成する反応速度が緩慢になり,粒子の核生成を少なくできるため,超微粒子のフッ化カルシウムが発生しにくくなる。水溶性アルカリとしては、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)水溶液、炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液、アンモニア水などを使用することができ、特に水酸化ナトリウムの使用が望ましい。
【0016】
原水を部分中和して酸性度を和らげた後に炭酸カルシウムなどのカルシウム化合物を添加することによって、フッ化カルシウムの生成反応が穏やかに進行し、粗粒のフッ化カルシウムが生成し、このフッ化カルシウムは速やかに沈降し濾過性が良い。具体的には、例えば、pH0.6の原水に水酸化ナトリウムを添加してpH0.8に部分中和した後に炭酸カルシウムを添加してフッ化カルシウムを生成させると、粒子径200〜300nmのフッ化カルシウムが生成し、凝集剤を添加して5分後にはフッ化カルシウム澱物が液面高さの半分以下に沈降する。
【0017】
部分中和をせずに、例えばpH0.6の原水に炭酸カルシウムを添加してフッ化カルシウムを生成させると、フッ化カルシウムの粒子径は数十nmオーダの超微粒子になり、凝集剤を添加しても澱物が全く沈降せず、固液分離が難しい。
また、従来の処理方法のように、原水のpHが7以上になるまで水酸化ナトリウムを添加して液中のケイフッ酸を分解し、ケイフッ化ナトリウム(Na
2SiF
6)などを生成させると、水酸化ナトリウムを多量に必要とするのでコスト高になると共に排液処理の負担が増す。またCaF
2としてフッ素を回収するためにはNa
2SiF
6を分解する手間がかかる。
【0018】
一方、本発明の処理方法において、原水に水酸化ナトリウムなどを添加する目的は酸性を緩和してフッ化カルシウムの生成反応を穏やかに進行させ、比較的粗粒で沈降性の優れたフッ化カルシウムにするためであり、ケイフッ酸を分解してNa
2SiF
6を生成させるためではない。従って、本発明の処理方法では、水酸化ナトリウムなどによる原水の中和はpH2.5以下、好ましくはpH2.2以下の部分的な中和を行う。
【0019】
原水を部分中和した後に、CaF
2生成槽11において、カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させる。カルシウム化合物としては水酸化カルシウム(消石灰)、酸化カルシウム(生石灰)、硫酸カルシウム(石膏)、塩化カルシウムなどを用いることができ、より好ましくは炭酸カルシウムを用いるとよい。例えば、部分中和してpH0.2〜2.2にした原水に炭酸カルシウムを添加するとpHが多少高くなるので、pH3〜4の液性下でフッ化カルシウムを生成させる。
【0020】
カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後、カルシウム化合物の添加量が過剰であるときには、無機酸を添加して未反応のカルシウム化合物と反応させてpH4以下に調整する。液性をpH4以下に維持することによって、フッ化カルシウムの生成と共に副生したSiO
2のゲル化を抑制することができる。無機酸としては硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸を使用することができ、特に硫酸の使用が望ましい。
【0021】
フッ化カルシウムの生成後、凝集槽12において、希釈水を添加し、高分子凝集剤を添加してフッ化カルシウムのフロックを形成させ、これを沈降槽13に導入し、フッ化カルシウムを沈降させて固液分離する。pH4以下において、SiO
2濃度が1300ppm以下であればSiO
2によるゲル化を防止することができる。希釈によりSiO
2濃度を低減してゲル化を防止することによって、フッ化カルシウム澱物の沈降性ないし分離性が向上し、フッ化カルシウム澱物を効率よく固液分離して回収することができる。高分子凝集剤にはノニオン系高分子、アニオン系高分子が使用でき、特にノニオン系高分子の使用が望ましい。原水を部分中和して生成させたフッ化カルシウムは粗粒であるので沈降速度が早い。具体的には、例えば、粒子径200〜300nmのフッ化カルシウムが生成し、凝集剤を添加すると迅速にフロックが形成され、凝集剤添加5分後にはフッ化カルシウム澱物を液面高さの半分以下に沈降し、沈降速度は概ね20m/時前後である。
【0022】
沈降槽13において上澄液を分離してフッ化カルシウム澱物を回収する。回収したフッ化カルシウム澱物を洗浄槽14に導き、洗浄して該澱物に付着しているSiO
2濃度を低減する。
【0023】
なお、フッ化カルシウムの生成によって、SiO
2が副生してSiOs濃度が8000ppm程度になった場合、液中のSiO
2濃度を400ppm〜1300ppm程度に低減するには約6倍〜約20倍に希釈すればよいが、従来の処理方法のように、最初に原水を希釈してSiO
2濃度を1300ppm以下に低減しようとすると、原水の6倍以上の希釈水量が必要になり、処理設備も大型化する。
一方、本発明の処理方法では、固液分離する前に希釈水を加えるため,部分中和、CaF
2生成槽の容量を小型化することができ、フッ化カルシウムの転換効率も良い。
【0024】
洗浄したフッ化カルシウム澱物を脱水して回収する。好ましくは、洗浄したフッ化カルシウム澱物を第二凝集槽16に導入し、凝集剤を添加して第二沈降槽17に導き、第二沈降槽17においてフッ化カルシウム澱物を沈降させ、固液分離して液量を少なくして脱水手段15に導いて脱水し回収する。
【0025】
フッ化カルシウム澱物を水洗浄した後の洗浄水、およびフッ化カルシウム澱物から脱水した濾過水を、フッ化カルシウム沈降工程に戻して希釈水として利用するとよい。
図1に示すように、洗浄槽14に第二凝集槽16および第二沈降槽17が設けられている場合には、第二沈降槽17から排出される上澄液を沈降槽12に戻して再利用するとよい。