特許第6024910号(P6024910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6024910フッ化カルシウムの回収方法とその回収設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024910
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】フッ化カルシウムの回収方法とその回収設備
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20161107BHJP
   C01F 11/22 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C02F1/58 M
   C01F11/22
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-46495(P2013-46495)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-171967(P2014-171967A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−114595(JP,A)
【文献】 特開2010−207755(JP,A)
【文献】 特開2009−196858(JP,A)
【文献】 特許第3240669(JP,B2)
【文献】 特開2005−177669(JP,A)
【文献】 特開昭50−142496(JP,A)
【文献】 特開2012−148265(JP,A)
【文献】 特開昭50−118991(JP,A)
【文献】 特開昭52−085061(JP,A)
【文献】 特公昭49−033144(JP,B1)
【文献】 米国特許第04148867(US,A)
【文献】 米国特許第04374810(US,A)
【文献】 米国特許第04171342(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58− 1/64
C01F 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイフッ酸を含む原水にカルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄し脱水してフッ化カルシウムを回収する方法において、原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和を行った後に、カルシウム化合物を添加してpH3〜4の液性下でフッ化カルシウムを生成させることによって粗粒のフッ化カルシウムにし、これに希釈水を加えて水中のSiO濃度を1300ppm以下に低減してSiOのゲル化を防止し、前記フッ化カルシウムを沈降させて固液分離したフッ化カルシウム澱物を水洗浄し、該澱物を回収することを特徴とするフッ化カルシウムの回収方法。
【請求項2】
ケイフッ酸を含むpH0.0〜2.0の原水に、水酸化ナトリウムを添加して、アルカリ添加前よりは高くpH0.2〜2.2に部分中和した後に、炭酸カルシウムを添加して粗粒のフッ化カルシウムを生成させる請求項1に記載するフッ化カルシウムの回収方法。
【請求項3】
カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に無機酸を添加して未反応のカルシウム化合物と反応させてpH4以下に調整する請求項1または請求項2に記載するフッ化カルシウムの回収方法。
【請求項4】
フッ化カルシウム澱物を水洗浄した後の洗浄水、およびフッ化カルシウム澱物から脱水した濾過水を、フッ化カルシウムの沈降工程に戻して希釈水として利用する請求項1〜請求項3の何れかに記載するフッ化カルシウムの回収方法。
【請求項5】
ケイフッ酸を含む原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和槽、部分中和した原水にカルシウム化合物を添加してpH3〜4でフッ化カルシウムを生成させるCaF生成槽、希釈水の添加により水中のSiO濃度を1300ppm以下に低減して上記フッ化カルシウムを凝集させる凝集槽、凝集したフッ化カルシウムを沈降させて固液分離する沈降槽、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄して該澱物に付着しているSiO濃度を低減する洗浄槽、洗浄したフッ化カルシウム澱物を脱水する手段を備えることを特徴とするフッ化カルシウムの回収設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイフッ化物含有水からフッ化カルシウム(CaF2)を回収する方法に関し、より詳しくは、回収したフッ化カルシウムは不純物が少なく純度が高いのでフッ酸製造原料に使用することができ、また濾過性が良い回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ酸の製造工程、あるいは半導体や太陽電池の製造工程からフッ素およびケイ素を含む排水が発生する。例えば、フッ酸の製造工程では、原料の蛍石にはケイ素が不純物として含まれており、これを硫酸などで処理した際にケイ素が弗化水素と反応してフッ化ケイ素(SiF4)が生成し、これが水と反応してケイフッ酸(H2SiF6)が副生する。また、半導体や太陽電池の製造工程ではフッ酸洗浄などによって、ケイフッ酸を多量に含む排水が生じる。
【0003】
フッ素およびケイ素を含む排水からフッ素を回収する方法としては、排水に大過剰の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を加え、アルカリ域でフッ化カルシウム(CaF2)とケイ酸カルシウム(CaSiO3)を含む汚泥を生成させて分離する方法が従来から知られている。この場合、フッ素をより効率的に回収するには、できるだけCaSiO3の生成を抑え、CaF2濃度を高めることが望ましいので、例えば、特許文献1に記載された方法では、フッ素およびケイ素を含む原水を希釈して排水中のSiO2濃度を500ppm以下にした後に、pH4.5〜8.5に調整し、水溶性カルシウム化合物を添加してCaF2濃度90%以上の汚泥を生成させている。しかし、この方法は原水を希釈するため処理する液量が増大するので処理設備やコストの負担が大きく、汚泥生成の反応性も低下する。
【0004】
そこで、ケイフッ酸(H2SiF6)を含む排水に、最初に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加してpH7〜10にして排水中のケイフッ酸(H2SiF6)を分解し、排水中のケイ素をケイ酸塩として析出させて固液分離した後に、水溶性カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させる方法が知られている(特許文献2)。
【0005】
また、ケイフッ酸(H2SiF6)を含む排水に、水酸化ナトリウム等を添加してケイフッ酸(H2SiF6)を分解し、不溶性シリカと弗化ナトリウム水溶液との混合物が主体のシリカスラリーを生成させ、該スラリーから不溶性シリカを分離してシリカ分離水を回収し、該シリカ分離水にカルシウム化合物を供給して弗化カルシウムを生成させる方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3240669号公報
【特許文献2】特開2010−207797号公報
【特許文献3】特開2009−196858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケイフッ酸を含む原水に炭酸カルシウム等のカルシウム化合物を加えてフッ化カルシウムを生成させるときにSiO2が副生する。この生成したSiO2がゲル化して液の流動性を失い,固液分離に致命的な悪影響を及ぼすことがある。
2SiF6+3CaCO3 → 3CaF2+SiO2+3CO2+H2
【0008】
従来の処理方法において、ケイフッ酸を含む原水に水酸化ナトリウムを添加してpHを7〜10に高めてケイフッ酸を分解し、ケイ酸ナトリウムを沈殿させて分離し、あるいは不溶性シリカにして分離し、また、アルカリを加えてSiO2を溶存ケイ酸イオンにする方法は何れも大量の水酸化ナトリウム等を使用するため薬剤コストがかかり、操作も煩雑である。
【0009】
また従来の処理方法では、生成するフッ化カルシウム(CaF2)が微細なコロイドになりやすいために固液分離し難い。さらに、従来の処理方法は生成したCaF2汚泥の水分に含まれる溶存成分(SiO2、Cl-、NO3-など)が塩となって析出するため、回収したCaF2の純度が低く、フッ酸の製造原料として再利用できない。
【0010】
本発明の方法は、従来の処理方法における上記問題を解決したものであり、回収したフッ化カルシウムは不純物が少なく純度が高いのでフッ酸製造原料に使用することができ、また濾過性が良い回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の構成を有するフッ化カルシウムの回収方法および回収設備を提供する。
〔1〕ケイフッ酸を含む原水にカルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄し脱水してフッ化カルシウムを回収する方法において、原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和を行った後に、カルシウム化合物を添加してpH3〜4の液性下でフッ化カルシウムを生成させることによって粗粒のフッ化カルシウムにし、これに希釈水を加えて水中のSiO濃度を1300ppm以下に低減してSiOのゲル化を防止し、前記フッ化カルシウムを沈降させて固液分離したフッ化カルシウム澱物を水洗浄し、該澱物を回収することを特徴とするフッ化カルシウムの回収方法。
〔2〕ケイフッ酸を含むpH0.0〜2.0の原水に、水酸化ナトリウムを添加して、アルカリ添加前よりは高くpH0.2〜2.2に部分中和した後に、炭酸カルシウムを添加して粗粒のフッ化カルシウムを生成させる上記[1]に記載するフッ化カルシウムの回収方法。
〔3〕カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に無機酸を添加して未反応のカルシウム化合物と反応させてpH4以下に調整する上記[1]または上記[2]に記載するフッ化カルシウムの回収方法。
〔4〕フッ化カルシウム澱物を水洗浄した後の洗浄水、およびフッ化カルシウム澱物から脱水した濾過水を、フッ化カルシウムの沈降工程に戻して希釈水として利用する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するフッ化カルシウムの回収方法。
〔5〕ケイフッ酸を含む原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和槽、部分中和した原水にカルシウム化合物を添加しpH3〜4でフッ化カルシウムを生成させるCaF生成槽、希釈水の添加により水中のSiO2濃度を1300ppm以下に低減して上記フッ化カルシウムを凝集させる凝集槽、凝集したフッ化カルシウムを沈降させて固液分離する沈降槽、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄して該澱物に付着しているSiO濃度を低減する洗浄槽、洗浄したフッ化カルシウム澱物を脱水する手段を備えることを特徴とするフッ化カルシウムの回収設備。

【0012】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、ケイフッ酸を含む原水にカルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後に、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄し脱水してフッ化カルシウムを回収する方法において、原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和を行った後に、カルシウム化合物を添加してpH3〜4の液性下でフッ化カルシウムを生成させることによって粗粒のフッ化カルシウムにし、これに希釈水を加えて水中のSiO2濃度を1300ppm以下に低減してSiO2のゲル化を防止し、前記フッ化カルシウムを沈降させて固液分離したフッ化カルシウム澱物を水洗浄し、該澱物を回収することを特徴とするフッ化カルシウムの回収方法である。
【0013】
本発明の処理方法を実施する設備の一例を図1に示す。
図示するフッ化カルシウムの回収設備には、ケイフッ酸を含む原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和槽10、部分中和した原水にカルシウム化合物を添加しpH3〜4でフッ化カルシウムを生成させるCaF2生成槽11、生成したフッ化カルシウムを凝集させる凝集槽12、凝集したフッ化カルシウムを沈降させて固液分離する沈降槽13、固液分離したフッ化カルシウム澱物を洗浄して該澱物に付着しているSiO2濃度を低減する洗浄槽14、洗浄したフッ化カルシウム澱物を脱水する手段15が設けられている。さらに、好ましくは、洗浄槽14と脱水手段15の間に第二凝集槽16および第二沈降槽17が設けられている。
【0014】
本発明の処理方法は、部分中和槽10において、ケイフッ酸を含む強酸性の原水に水溶性アルカリを添加してpHをアルカリ添加前よりは高いがpH2.5よりは低く調整する部分中和を行う。一般に、フッ酸製造工程や半導体製造工程から排出されるケイフッ酸を含む原水は概ねpH0.0〜2.0であるので、この原水に水溶性アルカリを添加してアルカリ添加前のpHよりpHを0.2〜0.5程度高く、ただしpH2.5より低く、好ましくはpH2.2より低く、例えばpH0.2〜2.2にする部分中和を行う。この部分中和によってpH上昇分の少量のアルカリを存在させる。
【0015】
部分的な中和を行うことで,フッ化カルシウムを生成する反応速度が緩慢になり,粒子の核生成を少なくできるため,超微粒子のフッ化カルシウムが発生しにくくなる。水溶性アルカリとしては、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)水溶液、炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液、アンモニア水などを使用することができ、特に水酸化ナトリウムの使用が望ましい。
【0016】
原水を部分中和して酸性度を和らげた後に炭酸カルシウムなどのカルシウム化合物を添加することによって、フッ化カルシウムの生成反応が穏やかに進行し、粗粒のフッ化カルシウムが生成し、このフッ化カルシウムは速やかに沈降し濾過性が良い。具体的には、例えば、pH0.6の原水に水酸化ナトリウムを添加してpH0.8に部分中和した後に炭酸カルシウムを添加してフッ化カルシウムを生成させると、粒子径200〜300nmのフッ化カルシウムが生成し、凝集剤を添加して5分後にはフッ化カルシウム澱物が液面高さの半分以下に沈降する。
【0017】
部分中和をせずに、例えばpH0.6の原水に炭酸カルシウムを添加してフッ化カルシウムを生成させると、フッ化カルシウムの粒子径は数十nmオーダの超微粒子になり、凝集剤を添加しても澱物が全く沈降せず、固液分離が難しい。
また、従来の処理方法のように、原水のpHが7以上になるまで水酸化ナトリウムを添加して液中のケイフッ酸を分解し、ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6)などを生成させると、水酸化ナトリウムを多量に必要とするのでコスト高になると共に排液処理の負担が増す。またCaF2としてフッ素を回収するためにはNa2SiF6を分解する手間がかかる。
【0018】
一方、本発明の処理方法において、原水に水酸化ナトリウムなどを添加する目的は酸性を緩和してフッ化カルシウムの生成反応を穏やかに進行させ、比較的粗粒で沈降性の優れたフッ化カルシウムにするためであり、ケイフッ酸を分解してNa2SiF6を生成させるためではない。従って、本発明の処理方法では、水酸化ナトリウムなどによる原水の中和はpH2.5以下、好ましくはpH2.2以下の部分的な中和を行う。
【0019】
原水を部分中和した後に、CaF2生成槽11において、カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させる。カルシウム化合物としては水酸化カルシウム(消石灰)、酸化カルシウム(生石灰)、硫酸カルシウム(石膏)、塩化カルシウムなどを用いることができ、より好ましくは炭酸カルシウムを用いるとよい。例えば、部分中和してpH0.2〜2.2にした原水に炭酸カルシウムを添加するとpHが多少高くなるので、pH3〜4の液性下でフッ化カルシウムを生成させる。
【0020】
カルシウム化合物を添加してフッ化カルシウムを生成させた後、カルシウム化合物の添加量が過剰であるときには、無機酸を添加して未反応のカルシウム化合物と反応させてpH4以下に調整する。液性をpH4以下に維持することによって、フッ化カルシウムの生成と共に副生したSiO2のゲル化を抑制することができる。無機酸としては硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸を使用することができ、特に硫酸の使用が望ましい。
【0021】
フッ化カルシウムの生成後、凝集槽12において、希釈水を添加し、高分子凝集剤を添加してフッ化カルシウムのフロックを形成させ、これを沈降槽13に導入し、フッ化カルシウムを沈降させて固液分離する。pH4以下において、SiO2濃度が1300ppm以下であればSiO2によるゲル化を防止することができる。希釈によりSiO2濃度を低減してゲル化を防止することによって、フッ化カルシウム澱物の沈降性ないし分離性が向上し、フッ化カルシウム澱物を効率よく固液分離して回収することができる。高分子凝集剤にはノニオン系高分子、アニオン系高分子が使用でき、特にノニオン系高分子の使用が望ましい。原水を部分中和して生成させたフッ化カルシウムは粗粒であるので沈降速度が早い。具体的には、例えば、粒子径200〜300nmのフッ化カルシウムが生成し、凝集剤を添加すると迅速にフロックが形成され、凝集剤添加5分後にはフッ化カルシウム澱物を液面高さの半分以下に沈降し、沈降速度は概ね20m/時前後である。
【0022】
沈降槽13において上澄液を分離してフッ化カルシウム澱物を回収する。回収したフッ化カルシウム澱物を洗浄槽14に導き、洗浄して該澱物に付着しているSiO2濃度を低減する。
【0023】
なお、フッ化カルシウムの生成によって、SiO2が副生してSiOs濃度が8000ppm程度になった場合、液中のSiO2濃度を400ppm〜1300ppm程度に低減するには約6倍〜約20倍に希釈すればよいが、従来の処理方法のように、最初に原水を希釈してSiO2濃度を1300ppm以下に低減しようとすると、原水の6倍以上の希釈水量が必要になり、処理設備も大型化する。
一方、本発明の処理方法では、固液分離する前に希釈水を加えるため,部分中和、CaF2生成槽の容量を小型化することができ、フッ化カルシウムの転換効率も良い。
【0024】
洗浄したフッ化カルシウム澱物を脱水して回収する。好ましくは、洗浄したフッ化カルシウム澱物を第二凝集槽16に導入し、凝集剤を添加して第二沈降槽17に導き、第二沈降槽17においてフッ化カルシウム澱物を沈降させ、固液分離して液量を少なくして脱水手段15に導いて脱水し回収する。
【0025】
フッ化カルシウム澱物を水洗浄した後の洗浄水、およびフッ化カルシウム澱物から脱水した濾過水を、フッ化カルシウム沈降工程に戻して希釈水として利用するとよい。図1に示すように、洗浄槽14に第二凝集槽16および第二沈降槽17が設けられている場合には、第二沈降槽17から排出される上澄液を沈降槽12に戻して再利用するとよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の方法は、ケイフッ酸を含む原水を部分中和した後に炭酸カルシウムなどを添加してフッ化カルシウムを生成させるので、フッ化カルシウムが粗粒になり、フッ化カルシウムの沈降性がよく、澱物を迅速に固液分離することができる。
また、原水を希釈して炭酸カルシウムなどを添加する従来の処理方法では、フッ化カルシウムの生成効率が低いが、本発明の方法は、原水を希釈せずにフッ化カルシウムを生成させるので、フッ化カルシウムの生成効率がよい。
【0027】
また、フッ化カルシウム澱物を固液分離した後に洗浄するので、洗浄水量が少なくてよい。さらに、スラリーに希釈水を加えてSiO2濃度を一定濃度以下に低減してゲル化を防止するので澱物の沈降性ないし分離性がよく、フッ化カルシウム澱物を迅速に効率よく固液分離することができる。また、澱物の洗浄時に澱物に付着している微量成分(Cl-、NO3-など)も除去されるので、不純物の少ないフッ化カルシウムを回収することができる。具体的には、例えば、純度80wt%以上のフッ化カルシウムを回収することができる。このフッ化カルシウムはフッ酸の製造原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の処理方法の一例を示す工程図。
図2】実施例1において回収したフッ化カルシウムのSEM写真
図3】比較例1において回収したフッ化カルシウムのSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔実施例1〕
フッ酸製造工程から排出したケイフッ酸含有原水(F濃度17g/L、Si濃度4.5g/L、pH0.3)200mLに、24%濃度の水酸化ナトリウム溶液3.0mLを添加してpH0.6に調整した後に、炭酸カルシウム8.0gを添加して60分撹拌した。この間、pH3〜4に調整するため、2MH2SO4溶液を3mL添加した。これに原水の9倍量の希釈水を加えて、ノニオン系高分子凝集剤を5ppm添加して1分撹拌した後に静置した。沈降界面の低下する速度(沈降速度)は22m/hであった。この液は24時間経過してもしてゲル化しなかった。
この上澄液を取り除いて澱物スラリー200mLを回収し、洗浄液1800mLを加えて30分撹拌して洗浄した。これを脱水してフッ化カルシウムを回収した。このフッ化カルシウムのSEM写真を図2に示す。図示するように、フッ化カルシウムの粒子径は訳200nm〜300nmであった。また、フッ化カルシウムに含まれる残留SiO2濃度を測定したところ0.7%でありフッ化カルシウム純度81%であった。
【0030】
〔実施例2〕
部分中和のpH、炭酸カルシウム添加のpH、洗浄水量を表1に示すように調整した以外は実施例1と同様にしてフッ化カルシウムを回収した。この結果を表1に示した。
【0031】
〔比較例1〕
実施例1と同じ原水について、部分中和を行わずに炭酸カルシウムを添加してフッ化カルシウムを生成させたところ、静置してから5分経過しても上澄液は透明にならず、白濁したままであった。これを乾燥してフッ化カルシウムの粒子径を測定したところ、10〜30nmであった。
【0032】
〔比較例2〕
部分中和および炭酸カルシウムの添加、澱物の凝集沈殿までは実施例1と同様にしてフッ化カルシウム澱物を回収した。このスラリーを希釈せずに放置したところ8時間経過後には全体がゲル化して流動性を失った。
【0033】
〔比較例3〕
実施例1と同じ原水について、水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後に炭酸カルシウムを添加してフッ化カルシウムを生成させた。反応途中でゲル化が進行して、液全体が流動性を失った。
【0034】
【表1】
【符号の説明】
【0035】
10−部分中和槽、11−CaF2生成槽、12−凝集槽、13−沈降槽、14−洗浄槽、15−脱水手段、16−第二凝集槽、17−第二沈降槽。
図1
図2
図3