特許第6024918号(P6024918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6024918-焼き嵌めによる鉄損劣化の小さいモータ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024918
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】焼き嵌めによる鉄損劣化の小さいモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20161107BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   H02K1/18 B
   H02K15/02 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-170164(P2013-170164)
(22)【出願日】2013年8月20日
(65)【公開番号】特開2015-42014(P2015-42014A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2015年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾田 善彦
(72)【発明者】
【氏名】財前 善彰
(72)【発明者】
【氏名】千田 邦浩
(72)【発明者】
【氏名】戸田 広朗
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−065486(JP,A)
【文献】 特開2008−193778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板を積層し、かしめにより締結されたステータをハウジングに焼き嵌めで固定してなるモータであって、
上記ハウジングの内周面に絶縁被膜層が形成されてなることを特徴とするモータ。
【請求項2】
上記ハウジングの内周面に加えて、ステータの外周面に絶縁被膜層が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
上記絶縁被膜は、絶縁塗料被膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータを焼き嵌めによりハウジングに固定することによる鉄損劣化の小さいモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等のモータでは、ステータ(固定子)をハウジングに固定するため、焼き嵌めが行われることがある。焼き嵌めを行うと、ステータには50〜100MPa程度の圧縮応力が付与されるため、モータ効率は著しく低下することが知られている。
【0003】
このような焼き嵌めによるモータ効率の低下を防止する技術として、例えば、特許文献1には、分割コアにおいて、ティースとヨークの嵌合部にヤング率が1MPa以上20GPa以下の弾性体を挿入することによって、圧縮応力を低減する技術が開示されている。また、特許文献2には、ステータ外周部に空隙部を設けることによって、ステータに加わる圧縮応力を低減し、モータ効率を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−296075号公報
【特許文献2】特開2005−354870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、いずれも、焼き嵌めに起因した圧縮応力を低減することによって、ステータの鉄損劣化を低減しようとする技術であり、焼き嵌めによる鉄損劣化をある程度までは低減できるものの、その改善効果は十分に満足できるほどのものではないのが実状である。
【0006】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼き嵌めによるモータ特性の劣化を、圧縮応力を低減するという従来技術とは異なる観点から、焼き嵌めによる鉄損劣化の小さいモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題の解決に向け、焼き嵌めによる圧縮応力を低減するという観点ではなく、鉄損特性の劣化原因を解明し、その原因を除去することが重要であるとの技術思想の下、鋭意検討を重ねた。
その結果、焼き嵌めによる鉄損劣化は、圧縮残留応力によるものよりも、積層した電磁鋼板を締結しステータコアを組立てるために設けられたかしめ部と、ステータコアをモータのハウジングに固定する際に形成される焼き嵌め部を介して短絡回路が形成され、これにより渦電流が増大し、モータ効率の低下が引き起こされていること、したがって、上記短絡回路を遮断するためには、ステータコアとハウジングとの間(焼き嵌め部)に何らかの絶縁層を形成してやることが有効であることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、電磁鋼板を積層し、かしめにより締結されたステータをハウジングに焼き嵌めで固定してなるモータであって、上記ハウジングの内周面に絶縁被膜層が形成されてなることを特徴とするモータである。
本発明の上記モータは、上記ハウジングの内周面に加えて、ステータの外周面に絶縁被膜層が形成されてなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のモータにおける上記絶縁被膜は、絶縁塗料被膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ステータを焼き嵌めによりハウジングに固定するモータの効率を向上することができるので、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池電気自動車等の駆動モータ、エアコン用コンプレッサーモータ、高速発電機等の効率向上に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ステータコアをハウジングに焼き嵌めで固定する形式のモータ断面図である。
図2】ハウジングとステータコア間に形成される短絡回路を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を開発するに至った実験について説明する。
焼き嵌めに起因したモータの効率低下、即ち、鉄損特性の劣化原因を調査するため、Siを3mass%含有する板厚0.35mmの無方向性電磁鋼板を積層して、ステータ外径120mm、ステータ内径(ティース先端の内径)60mmの12スロットのステータコアを作製した。なお、上記ステータコアの締結は、図1に示すように、ステータコアの外周から7mmの位置の12箇所に、台形かしめを施すことにより行った。
【0013】
次いで、上記ステータコアをモータハウジングに、焼き嵌めで、焼き嵌め代を30μmとして固定し、IPMモデルモータを製造した。なお、上記モータのハウジングには、Si:0.1mass%を含有する板厚2.6mmの熱延鋼板を、深絞り成形で円筒状にしたものを用いた。
【0014】
上記ステータコアについて、焼き嵌め前後における磁束密度1.0T、周波数50Hzでの鉄損W10/50を測定し、焼き嵌めによる鉄損の変化を調査した。なお、上記鉄損の測定は、ステータコアのバックヨークに1次100ターン、二次36ターンの巻き線を施して測定した。この際、バックヨークの外周部に溝を設け、この部分に巻き線を通すことによって、ハウジングの磁束を検出しないように配慮した。
【0015】
表1に、焼き嵌め前後におけるステータコアの鉄損値を示した。この表から、焼き嵌めによって、ステータコアの鉄損W10/50が1.5倍程度に増加していることがわかった。そこで、発明者らは、さらに上記測定した鉄損値について、鉄損分離を行い、その結果を表1に併記して示した。この結果から、焼き嵌めによって、ヒステリシス損は25%、渦電流損は300%増加していることがわかった。
【0016】
【表1】
【0017】
従来、電磁鋼板のヒステリシス損および渦電流損は、圧縮応力により増加することは知られているが、その増加率は同程度であると考えられていた。しかし、上記のように、ステータコアを焼き嵌めで固定したモータでは、渦電流損が著しく増加している。
【0018】
発明者らは、上記のように渦電流損が異常に増加する原因について、何らかの短絡現象が生じているものと考え、さらに検討を重ねた。その結果、ステータコアの外周面(打抜加工時の剪断面)およびステータコアのかしめ部には絶縁被膜が欠落していることから、図2に示したように、「鋼板−かしめ部−鋼板−焼き嵌め部−ハウジング−焼き嵌め部−鋼板」という短絡回路が形成され、これにより渦電流損の異常な増加が引き起こされている可能性が最も高いと考えた。
【0019】
そこで、上述したIPMモータにおいて、ステータコアをハウジングに焼き嵌めする際、ハウジングの内周面にシリコンポリマー系の絶縁塗料(パイロコート(登録商標))を10μmの厚さで塗布した後、ステータコアを焼き嵌めし、バックヨーク部の鉄損を、前述した実験と同様にして測定した。その結果、表2に示したように、絶縁塗料を塗布する前と比較し、焼き嵌め後の鉄損を大幅に改善することができることがわかった。
【0020】
【表2】
【0021】
そこで、本発明は、上記実験結果を基に、ステータコアをモータハウジングに焼き嵌めする際、ステータコアの外周面および/またはモータハウジングの内周面に絶縁被膜層を形成することで、焼き嵌め部における短絡を防止し、渦電流損の増加を抑制することとした。
【0022】
ここで、上記絶縁被膜層としては、絶縁性の塗料を用いることが好ましい。絶縁性塗料は、特に規定するものではないが、シリコン変成エポキシ樹脂、シリコン変成ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂であれば好適に用いることができる。
【0023】
また、上記絶縁塗料の膜厚は、0.5〜30μmの範囲とするのが好ましい。0.5μm未満では、安定して絶縁性を確保することが困難であり、焼き嵌め後の鉄損が増加するおそれがある。一方、30μmを超えると、塗料の硬化時間が長くなり、生産性を阻害するようになる。絶縁性および作業性を確保する観点からは、より好ましくは1〜10μmの範囲である。
【0024】
なお、上記絶縁塗料を塗布する面は、モータハウジングの内周面、ステータコアの外周面のいずれでもよく、また、上記の両面に塗布してもよい。ただし、モータハウジングの内周面に塗布する場合には、焼き嵌め時の加熱(300〜500℃)を考慮し、例えば、前述したパイロコートのように耐熱性のある塗料を用いることが好ましい。一方、ステータコアの外周面の形成する場合には、塗膜が受ける加熱は一時的であるため、上記ほどの耐熱性は要求されない。
【実施例】
【0025】
板厚0.35mmの無方向性電磁鋼板を、外形が120mm、ロータ外形が60mmのステータ形状に打抜加工し、積み厚50mmに積層して、8極、12スロットのステータコアを組み立てた。積層した鋼板の締結は、図1に示すように、ステータの外周に12箇所の台形かしめを施すことで行った。
次いで、上記ステータコアを、モータハウジングに焼き嵌め代を30μmとした焼き嵌めにより固定し、IPMモータを作製した。なお、上記モータハウジングには、Siが0.1mass%で、板厚が2.6mmの熱延鋼板を深絞り成形して円筒状としたものを用いた。
また、上記焼き嵌めは、上記ハウジングの内面および/またはステータコアの外周面に、シリコン変性エポキシ樹脂、シリコン変性ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂およびシリコンポリマー樹脂のうちのいずれかを絶縁塗料として表3に示した膜厚で塗布した後、行った。
【0026】
上記ステータコアについて、焼き嵌め前後における磁束密度1.0T、周波数50Hzでの鉄損W10/50を測定し、焼き嵌めによる鉄損の変化を調査した。なお、上記鉄損の測定は、ステータコアのバックヨークに1次100ターン、二次36ターンの巻き線を施して測定した。この際、バックヨークの外周部に溝を設け、この部分に巻き線を通すことによって、ハウジングの磁束を検出しないように配慮した。
【0027】
表3に、焼き嵌め前後におけるステータコアの鉄損W10/50の測定結果を示した。この表から、ハウジングの内面および/またはステータコアの外周面に絶縁塗料を塗布することで、焼き嵌めに伴うモータ鉄損特性の劣化を大幅に低減できることがわかる。
【0028】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の技術は、誘導モータ、エアコンコンプレッサーモーター、HEVモータ等にも(の分野にも)適用(利用)することができる。
図1
図2