(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、メジアン粒径が0.1〜2mmのビーズを撹拌媒体として機械撹拌し、スラリー中の酸化物の凝集粒子を解砕した後に、前記焼成耐火物に含浸させることを特徴とする、請求項4記載の定形耐火物の製造方法。
減圧下で焼成耐火物を前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーに浸漬した後、該スラリーを加圧して該焼成耐火物に含浸させることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の定形耐火物の製造方法。
前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、機械撹拌してスラリー中の酸化物の凝集粒子を解砕した後に、前記焼成耐火物に含浸させる際に、該スラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径が、レーザー回折・散乱法による測定値で1μm未満であることを特徴とする請求項4ないし6のうち1に記載の定形耐火物の製造方法。
前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、機械撹拌してスラリー中の酸化物の凝集粒子を解砕した後に前記焼成耐火物に含浸させる際の、前記スラリーが、該スラリーをさらにpHが8〜9の範囲に調節した後の該スラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径がレーザー回折・散乱法による測定値で1μm未満となるものであることを特徴とする請求項4ないし9のうち1に記載の定形耐火物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1記載の耐火物は、スラグ浸透性を重視し、開気孔を微細化することに主眼が置かれているため、スラグ耐食性については考慮されていず、データも開示されていない。耐食性の観点からは、クロミアの充填量を増やすため、むしろ焼成段階の開気孔径は大きい方が良い。言い換えると特許文献1記載の耐火物は、クロミアの活用が非効率で、スラグ耐食性も不十分なものと判断される。また、クロミア粉末を分散した液媒を利用するには、廃液や洗浄液を排出する際に環境基準を満たすために対策を行うことが必要となって敬遠される場合があった。
【0007】
以上のように、耐食性、経済性、および、環境対策上の観点から十分に満足のいく耐火物がないのが実情であった。かかる実情に鑑み本発明は、耐食性および経済性に優れる定形耐火物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の定形耐火物は、
定型の焼成耐火物の細孔内に、ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末が存在する定形耐火物であって、前記定形耐火物の表面から法線方向に5mm以上内側の中心部において、該定形耐火物中の細孔容積の細孔径分布曲線が5μm以上の細孔径において最大ピークを持つとともに、前記焼成耐火物の細孔中に前記酸化物粉末の集合体が形成されていることで、0.01〜1.0μmの細孔径範囲にも細孔容積のピークを持つことを特徴としている。前記酸化物粉末が前記焼成耐火物と焼結していないことが好ましく、前記焼成耐火物がマグネシア−クロミア系焼成耐火物またはアルミナ−クロミア系焼成耐火物であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の定形耐火物の製造方法は、
耐火物中細孔容積の細孔径分布曲線が10μm以上の細孔径において最大ピークを持つ
定型の焼成耐火物に、ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、
ビーズを撹拌媒体として機械撹拌してスラリー中の酸化物の凝集粒子を解砕した後に含浸させ、さらに乾燥することで、定形耐火物の表面から法線方向に5mm以上内側の中心部において、該定形耐火物中の細孔容積の細孔径分布曲線が
、5μm以上の細孔径において最大ピークを持つとともに、0.01〜1.0μmの細孔径範囲にもピークを持つようにすることを特徴としている。
【0010】
なお、前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、メジアン粒径が0.1〜2mmのビーズを撹拌媒体として機械撹拌し、スラリー中の酸化物の凝集粒子を解砕した後に、前記焼成耐火物に含浸させることが好ましく、減圧下で焼成耐火物を前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーに浸漬した後、該スラリーを加圧して該焼成耐火物に含浸させることが好ましい。
また、前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、機械撹拌してスラリー中の酸化物の凝集粒子を解砕した後に、前記焼成耐火物に含浸させる際に、該スラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径が、レーザー回折・散乱法による測定値で1μm未満であることが好ましい。
【0011】
前記焼成耐火物がアルミナ−クロミア系焼成耐火物であることが好ましい。また、前記焼成耐火物がマグネシア−クロミア系焼成耐火物であることが好ましく、前記酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、機械撹拌してスラリー中の酸化物の凝集粒子を解砕した後に前記焼成耐火物に含浸させる際の前記スラリーが、該スラリーをさらにpHが8〜9の範囲に調節した後の該スラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径がレーザー回折・散乱法による測定値で1μm未満となるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、定形耐火物としては、定形耐火物の表面から法線方向に5mm以上内側の中心部において、耐火物中細孔容積の細孔径分布曲線が5μm以上の細孔径において最大ピークを持つ定形耐火物であって、
定型の焼成耐火物の細孔中にジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末の集合体が形成されていることで、0.01〜1.0μmに第2の細孔径ピークを持つものとなっているので、安価に定形耐火物の中心部まで高スラグ耐食性が得られる。
【0013】
また定形耐火物の製造方法としては、耐火物中細孔容積の細孔径分布曲線が10μm以上の細孔径において最大ピークを持つ
定型の焼成耐火物に、ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、
ビーズを撹拌媒体として機械撹拌してスラリー中の凝集粒子を解砕した後に含浸させるものであるため、安価に定形耐火物の中心部まで高スラグ耐食性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態では、定形耐火物の製造方法としては、耐火物中細孔容積の細孔径分布曲線が10μm以上の細孔径において最大ピークを持つ焼成耐火物にジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、機械撹拌してスラリー中の凝集粒子を解砕した後に含浸させる。定形耐火物としては、耐火物中細孔容積の細孔径分布曲線が5μm以上の細孔径の最大ピークを持つ定形耐火物であって、ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、機械撹拌してスラリー中の凝集粒子を解砕した後に含浸することで、定形耐火物の表面から法線方向に10mm以上内側の中心部において、該定形耐火物中の細孔容積の細孔径分布曲線が0.01〜1.0μmの細孔径範囲に第2のピークを持つものとする。これにより、効率的に酸化物粉末の集合体を耐火物の細孔中に形成させることができる。
ここで、細孔容積の細孔径分布曲線とは、水銀ポロシメータ等で測定した細孔径と細孔容積との関係から得られる、細孔径の常用対数で等間隔(例えば0.1間隔)となるように区分された細孔径の区間に対応する差分細孔容積(縦軸)と、その細孔径の区間の代表径(横軸)との関係線図である。(以下、同様)
【0016】
本発明の実施形態では、焼成耐火物に含浸させるスラリー中の酸化物粉末の種類は、ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上とする。これらの酸化物粉末は、一次粒子の平均粒子径(メジアン粒径)が0.1μm以上、かつ1μm以下であることが好ましい。平均粒子径が1μmを超えると、焼成煉瓦に存在する平均径10μm以上の細孔に効率よく含浸することができない場合があるので好ましくない。一方、通常の酸化物粉末は同質の粒子を粉砕して製造されるが、平均粒子径0.1μm以下に粉砕するのは非常に高コストとなるので、本発明の趣旨に合致せず好ましくない。
【0017】
これらの酸化物粉末を所定の条件で分散させたスラリーを、焼成耐火物に含浸させた後乾燥して、該焼成耐火物の細孔内壁に、細孔容積の細孔径分布曲線が0.01〜1.0μmの細孔径範囲にピークを持つ該酸化物粉末の集合体を形成させる。この酸化物粉末の集合体は、耐火物がスラグに侵食される過程で耐火物の細孔に浸入してくる溶融スラグとの相互作用によって、溶融スラグ中の酸化物のネットワークフォーマとして、あるいは溶融スラグに分散する固体粒子として作用し、スラグ粘性を上昇させる効果があり、その結果として細孔へのスラグの侵入を抑制してスラグ侵食を低減する効果がある。前記の耐火物中に形成される酸化物粉末の集合体による細孔容積の細孔径分布のピークが1.0μmを超えると、侵入した溶融スラグの体積当りの界面積が小さくなり、溶融スラグとの相互作用が限定的なものとなるためスラグ侵食を低減する効果が十分に得られない。一方、細孔径分布のピークが0.01μm未満では、表面エネルギーが高いために、高温下で使用する間に細孔構造を安定に維持することが困難であり、使用中の焼結によってこのピークに相当する細孔容積が大幅に減少してしまう場合があるため効果的でない。
【0018】
これらの酸化物粉末は、焼成耐火物と焼結していない状態で、焼成耐火物の細孔内に存在させることが好ましい。酸化物粉末を所定の条件で分散させたスラリーを含浸し、乾燥後、さらに焼成することなく定形耐火物製品とすることで、製造プロセスを簡略化してコストを低減できるだけでなく、0.01〜1.0μmの細孔径範囲にも細孔容積のピークを持つ細孔構造が、耐火物の使用時にスラグが浸潤してくるまで維持されるので、耐火物の細孔に浸入してくる溶融スラグとの相互作用によってスラグ侵食を低減する効果を得るのに好適である。酸化物粉末含有スラリーを含浸し、乾燥後に高温で焼成を行うと、元の焼成耐火物と酸化物粉末との焼結などによって、0.01〜1.0μmの細孔径範囲の細孔容積が減少して、所望の効果が得られない場合がある。
【0019】
本発明の実施形態に使用できる焼成耐火物の種類は、特に限定するものではなく、SiO
2、A1
2O
3、MgO、CaO、ZrO
2、Cr
2O
3、TiO
2などの酸化物およびSiCなどの炭化物などの純物質、化合物またはそれらの混合物よりなる焼成耐火物が使用できるが、幅広い組成のスラグに対して耐食性が高い点で、アルミナ−クロミア系焼成耐火物及びマグネシア−クロミア系焼成耐火物のクロミア含有焼成耐火物が特に好適である。これらのクロミア含有焼成耐火物では、耐火物を構成する鉱物粒子そのもののスラグへの溶解速度は小さく、主に次の2つの機構によって耐火物の損耗が進行すると考えられる。即ち、比較的低融点の組成となっている、鉱物粒子間の焼結による結合箇所が、焼成耐火物の細孔、即ち鉱物粒子間に侵入した溶融スラグによって侵食され、鉱物粒子が溶融スラグ中に抜け落ちるようにして耐火物の損耗が進行したり、細孔を通じて焼成耐火物の内部まで溶融スラグ成分の侵入が進行して、構造スポーリングによる剥離を助長したりすることが耐火物損耗の重要な要因となっている。従って、本発明の実施形態をこれらのクロミア含有焼成耐火物に適用して、細孔へのスラグの侵入を抑制することにより、耐火物損耗を特に効果的に低減することが可能となる。
【0020】
また、本発明の実施形態の定形耐火物を適用する対象となるスラグの組成条件は、特に限定するものではなく、幅広い組成条件のスラグを取り扱う、鉄鋼、非鉄金属、セメント、及びゴミ溶融処理などの各種高温プロセスに対して適用可能である。塩基度(mass%CaO/mass%SiO
2)が1.0以下といった低塩基度スラグに対する耐食性が問題となる場合には、本発明の実施形態の定形耐火物の適用が特に有効であり、細孔中に侵入した溶融スラグの粘性を大幅に上昇させて、細孔内へのスラグの侵入あるいは侵入したスラグを介しての物質移動を大幅に抑制できることから、耐食性の向上が可能となる。
【0021】
含浸に使用できる酸化物粉末は、例えば市販されている最大粒径が0.1〜1.0μm程度、純度98%以上のものを使用する。この酸化物粉末含有スラリーを効率よく含浸させるには、最低1桁以上大きな細孔径をもつことが好ましいため、酸化物粉末含有スラリーを含浸させる焼成耐火物は、細孔容積の細孔径分布曲線が10μm以上の細孔径において最大ピークをもつものとする。酸化物粉末含有スラリーを含浸させた後、乾燥させた定形耐火物においては、細孔容積の細孔径分布曲線の最大ピークは、材料として用いた焼成耐火物のものよりも小孔径側にシフトするが、5μm以上の細孔径において最大ピークをもつものとなる。
【0022】
ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末は、水またはエタノール中に分散させて含浸に使用する。水は最も安価に入手でき、取り扱いが容易である。また、エタノールは表面張力が低く、酸化物粉末の分散性や含浸性に優れる。酸化物粉末は、3〜40体積%の割合で、水やエタノールに分散させてスラリーとする。
ここで注意すべきは、酸化物粉末をスラリー中で粉末の1次粒子まで分散させることである。酸化物粉末を液媒中に投入して、通常行われるように沈殿が生じない程度撹拌するだけでは、スラリー中の酸化物粉末粒子は凝集した状態で懸濁しており、例えば後述するように平均粒子径0.2μmの酸化物粉末を用いた場合でも、スラリー中の懸濁粒子の平均粒径をレーザー回折・散乱法により測定すると2μm以上となる。このようなスラリーを焼成耐火物中に含浸した場合には、細孔途中の狭窄部分が酸化物粉末の凝集粒子で閉塞してしまい、さらに内部まで酸化物粒子を到達させることが困難となる。このため、焼成煉瓦内へのスラリーの含浸が煉瓦表面近傍に制限され、煉瓦表面近傍には酸化物粒子が到達するものの、煉瓦内部には液体分のみが到達することになってしまう。
【0023】
従って、ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末の耐火物内部への供給を容易にするために、酸化物粉末に親和性のある基を有する分散剤を使用して、スラリー中での酸化物粉末の1次粒子の分散を促進することが必要となる。適切な分散剤の使用によって、酸化物粉末の凝集粒子を解砕し易くするとともに、一次粒子がスラリー中に分散した状態を維持することが有効であり、ポリカルボン酸型高分子系またはβ‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物系などの界面活性を有するポリマーのナトリウム塩またはアンモニウム塩である分散剤が、ジルコニア、ジルコン、シリカ、及びアルミナの酸化物粒子に吸着して凝集を抑制する効果を有するため、好適に用いられる。
【0024】
さらに、
ビーズミルを使用して機械撹拌することで、スラリー中の酸化物粉末の凝集粒子を解砕し、酸化物粉末の一次粒子が分散している状態を実現することができる。
この際、機械撹拌のエネルギー投入速度は、スラリー容積当り0.2W/L以上、より望ましくは1W/L以上とすることが好適であり、また、エネルギー投入密度を酸化物粉体質量当り2kJ/kg以上、より望ましくは10kJ/kg以上とすることにより、好適に解砕が進行する。ここでエネルギー投入速度は、解砕処理時の消費電力と、スラリーおよびビーズ等の撹拌媒体を用いない空運転時の摩擦損失に相当する消費電力との差分により求められるものである。
【0025】
ビーズミルでは、0.1〜2mm程度の平均粒子径を持つセラミック製のビーズを媒体として使用することが好適である。ビーズミルは、ビーズおよびスラリーを格納する容器、ビーズを撹拌するローターなどを持ち、容器へのスラリー導入口および排出口を設けることで連続化できる。また、ビーズおよびスラリーをポットに投入し、ポットを振動もしくは回転することでビーズおよびスラリーを撹拌するポットミルなども使用できる。
【0026】
上記のように酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを機械撹拌してスラリー中の凝集粒子を解砕することにより、焼成耐火物に含浸させる際のスラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径を、レーザー回折・散乱法による測定値で1μm未満とすることが好ましい。このような酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、細孔容積の細孔径分布曲線が10μm以上の細孔径において最大ピークをもつ焼成耐火物に含浸することにより、定形耐火物の表面から法線方向に5mm以上内側の中心部まで、スラリーを含浸して、焼成耐火物の細孔内部に酸化物粒子の集合体を形成し、耐食性を向上することができる。
【0027】
スラリーは、真空中もしくは加圧中で、焼成耐火物内に含浸させることができる。
すなわち例えば、気密チャンバー内の容器に焼成耐火物を入れた後、気密チャンバー内の空気を真空ポンプで脱気して容器内の焼成耐火物の細孔内を実質上真空としてから、気密状態でその容器内にスラリーを流し込んで、容器内の焼成耐火物の細孔内に空気に邪魔されずにスラリーをスラリー自身の静圧により加圧して含浸させ、その後、気密チャンバー内に空気を戻すことによりスラリーをさらに大気圧で加圧して含浸させる。なお、この気密チャンバー内の空気をさらに加圧してもよく、このようにすればスラリーがさらに加圧されるので、スラリーの含浸を促進させることができる。
スラリーを含浸させた焼成耐火物は、スラリー中から取り出して液媒を蒸発させて乾燥し、焼成耐火物の細孔中にジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粒子の集合体が形成された定形耐火物が得られる。
【0028】
使用後のスラリーは、通常焼成耐火物に含浸した分を補充する程度で繰り返し使用できるが、長期間にわたって使用すると次第に酸化物粒子が凝集して含浸し難くなる場合があるので、随時スラリー中の懸濁粒子の粒径分布を確認して、粒径2μm以上の凝集粒子の割合が増してきたら、新規に調整したスラリーに交換することが望ましい。この際、新規に調整したスラリーには、劣化したスラリーを再利用して、pH等の成分および分散剤の濃度を調整したうえ、再度解砕処理を行ったものを用いても良い。
【0029】
耐火物表面のみ耐食性が要求される場合は、表面部のみにスラリーを含浸させるのが経済的であるが、一般的には定形耐火物の中心部まで耐食性を向上することが要求されるため、スラリーを定形耐火物の中心部まで含浸させる必要がある。上記のような機械撹拌による解砕処理を行わない場合には、1次粒子径が1μm未満の酸化物粒子を用いても、スラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径は、レーザー回折・散乱法による測定値で2μm以上といった大きさとなり、細孔容積の細孔径分布曲線が10μm以上の細孔径において最大ピークをもつ焼成耐火物にスラリーを含浸させても、表面から5mm未満の表層部にしかスラリー中の酸化物粒子は到達せず、さらに内部まで耐食性を向上することは困難であった。
【0030】
焼成耐火物に、酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを含浸する場合には、分散剤、酸化物粉末及び焼成耐火物の種類等の条件によって、耐火物表面から酸化物粒子が浸入する距離にばらつきが見られる場合があるので注意を要する。これは、焼成耐火物からスラリー中に溶出する成分の影響や、スラリーの溶液中の成分が焼成耐火物に吸着して濃度が変化することなどが原因として考えられる。スラリー全体では溶液の成分に大きな変化がなくても、細孔内に浸入したスラリー中では、溶液量に対して耐火物の表面積が非常に大きなものとなるため、比較的短時間の含浸処理時間であっても細孔内の溶液の成分が大きく変化する可能性がある。このような場合でもスラリー中の酸化物粒子の分散状態を含浸に適した状態に保つためには、事前に予想される溶液条件におけるスラリー中の懸濁粒子径が適正なものとなっているか確認したうえで、分散剤を選定することが望ましい。
【0031】
具体的には、マグネシア−クロミア系焼成耐火物の場合には、酸化物粉末と分散剤を含むスラリーを、機械撹拌してスラリー中の凝集粒子を解砕した後に、該スラリーに水酸化ナトリウム水溶液等を添加してpHが8〜9の範囲に調節した後、該スラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径がレーザー回折・散乱法による測定値で1μm未満となるような分散剤を選定することが好ましい。このような分散剤の例として、ポリカルボン酸型高分子系またはβ‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物系などの界面活性を有するポリマーのナトリウム塩が挙げられるが、これには限定されず、上記の条件を満たす分散剤であれば好適に使用できる。
【0032】
例えば、後述する酸性ポリマー系の分散剤を用いる場合、初期のスラリーのpHは5〜6の範囲であり、マグネシア−クロミア系焼成耐火物に繰り返し含浸を行うと、次第にpHが上昇して7〜8の範囲となる。さらに、マグネシア−クロミア系焼成耐火物の細孔中では、この耐火物の粉砕物を用いた振とう試験による平衡溶出値であるpH9〜10の範囲になると考えられる。
【0033】
この分散剤を用いた、公称平均粒径0.2μmの耐火物用ジルコニアの30質量%水溶液スラリーを解砕処理したスラリーの例では、初期の懸濁粒子のメジアン粒径は0.21μmであり、このスラリーに水酸化ナトリウム水溶液を添加、混合してpHを8〜9に調整したスラリーでは、懸濁粒子のメジアン粒径が0.5μm程度まで増大した。
【0034】
この分散剤を用いた場合には、pH5〜6の初期のスラリーを含浸させて作製した本実施形態の定形耐火物およびpH7〜8の繰り返し使用したスラリーを含浸させて作製した本実施形態の定形耐火物とも、中心部まで良好な耐食性を得ることができたが、pHの上昇により懸濁粒子のメジアン粒径が2μm以上まで凝集が進む分散剤では、定形耐火物の中心部まで酸化物粒子を到達させることが困難な場合があり、安定して高い耐食性を得ることは困難であった。
【0035】
酸化物粉末含有スラリーを含浸させた後乾燥すると、材料に使用した焼成耐火物から、耐火物の気孔率は1〜10%程度減少し、耐火物中の当該酸化物濃度は、元の焼成耐火物の値から1〜15質量%程度増加する。また、酸化物粉末含有スラリーを含浸することで0.01〜1.0μmに第2の細孔径ピークを持つようになる。このピークは、
図2に示すように、含浸した酸化物粉末が焼成耐火物の細孔の内壁に充填層(含浸材層)を形成していて、この充填層(含浸材層)の酸化物粉末同士の隙間に相当する微細孔が検出されたものであると推定される。
【0036】
この焼成耐火物の細孔内壁に形成された酸化物充填層が、スラグ侵食を効率的に抑制する効果があるものと推定される。この細孔径0.01〜1.0μm間の細孔容積(水銀ポロシメータで測定できる)を1ml/kg以上、より望ましくは3ml/kg以上とすることが好適であり、これにより効果的に耐食性を向上することができる。この細孔径0.01〜1.0μm間の細孔容積の上限は特に定める必要はなく、通常の焼成耐火物を用いた場合で10ml/kg以上となる場合もある。ジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粉末を含有するスラリーを含浸させる方法は、単純に焼成耐火物の原料にクロミアなどの耐食性を向上する酸化物の配合量を増して焼成するのに比べ、耐食性向上効果が大きく、コストパフォーマンスに優れる。
【0037】
焼成耐火物中の細孔は高融点の鉱物粒子間の間隙に相当し、焼成耐火物の溶融スラグによる浸食は、この間隙部分に溶融スラグが浸入することにより鉱物粒子間の結合箇所が低融点化して、鉱物粒子が溶融スラグ中に抜け落ちるようにして溶損が進行する。これに対して、本発明の実施形態の定形耐火物では、この焼成耐火物の細孔部分すなわち鉱物粒子間の間隙部分にジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粒子の集合体が0.01〜1.0μmの細孔を有するように形成されているため、細孔中に浸入した溶融スラグは早期に酸化物粒子と高粘度の化合物融体を形成するようになり、焼成耐火物の鉱物粒子間の結合箇所が効果的に保護されることから、鉱物粒子が抜け落ちるようにして溶損が進行する割合が小さく、溶損速度を大幅に低減することができる。
【0038】
さらに定形耐火物の表面から法線方向に5mm以上内側の中心部においても、0.01〜1.0μmの細孔を有するようにジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸化物粒子の集合体が形成されているため、定形耐火物の中心部まで溶損が進行した段階においても、上記の溶損速度の低減効果を維持することができる。
【実施例】
【0039】
ダイレクトボンドマグクロ煉瓦(10質量%CrO
3−MgO;気孔率21.0%)を用いて、各種酸化物粉末含有スラリーを含浸した本発明の実施形態の実施例の定形耐火物を作製し、含浸を行わなかった比較用のダイレクトボンドマグクロ煉瓦と性能比較を行った。用いたダイレクトボンドマグクロ煉瓦は通常の製法によるものであり、後述する
図1に示すように、細孔径12.6μmにおいて細孔容積の細孔径分布曲線が最大ピークを持つものである。
【0040】
酸化物粉末としては、公称平均粒子径(メジアン粒径、D
50、以下同様)0.2μmの耐火物用ジルコニア(実施例1)、公称平均粒子径0.55μmの耐火物用ジルコン(実施例2)、平均粒子径0.15μmの耐火物用シリカ(実施例3)および、平均粒子径0.5μmの耐火物用アルミナ(実施例4)を用意し、それぞれ酸化物粉末に対して7.5質量%の酸性ポリマー系の分散剤とともに純水(イオン交換水)に添加して、スラリー質量に対する酸化物粉末の質量比率が30質量%の水溶液スラリーとし、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルで、10Lのスラリーをエネルギー投入速度1.5W/Lで2時間解砕処理してから、耐火物への含浸に用いた。
【0041】
分散剤は、酸化物粒子に親和性のある官能基を持つ高分子共重合物を使用した。厚み80mmの直方体のダイレクトボンドマグクロ煉瓦を使用し、厚み方向以外の側面はシール処理をして、側面からはスラリーが浸入しないようにした上で、真空容器中で含浸処理を行った。煉瓦試料を収容した真空容器内を1kPa以下まで減圧した後、煉瓦試料がスラリー中に浸漬されるように、上記の解砕処理後のスラリーを減圧容器内に注入した。その後、減圧容器内に大気を導入して大気圧でスラリーを加圧し、1時間保持して含浸した後、スラリーを含浸させた煉瓦を取り出し、110℃で乾燥して試験用の定形耐火物試料とした。
【0042】
得られた試験用の定形耐火物試料および含浸を行なっていない比較用のダイレクトボンドマグクロ煉瓦(比較例1)について、下記の要領で耐食性と細孔容積の細孔径分布を調べた。試験用の定形耐火物試料を、各例とも2本ずつ台形柱に切断して、その台形断面の短い方の底辺を含む面(上底面)が、含浸時にシール処理を行っていない定形耐火物試料表面に平行な厚み中心面となるようにし、その上底面を内向きにして、比較用の試料とともに組み合わせて、軸心が水平な10角柱の試験容器を作製した。10角柱の試験容器の端壁に設けた開口部からその試験容器内部にスラグを入れて、試験容器をその軸心周りに回転させ、バーナ加熱により試験温度を制御してスラグ侵食試験を行った(ロータリースラグ法)。スラグ塩基度は0.7とし、1時間ごとにスラグを入れ替え、1750℃で4時間侵食させ、冷却後、試験耐火物を切断し、平均侵食深さを測定して、含浸を行なっていない比較例1の侵食深さを100とする侵食指数で比較した。
【0043】
細孔容積の細孔径分布は、作製した試験用の定形耐火物試料および比較用の煉瓦試料の表面から約40mmの中心部から水銀ポロシメータ用の測定試料を切り出して、水銀ポロシメータで測定した。
各例について、耐食性と細孔容積の細孔径分布の評価結果(最大ピークを示す細孔径、第2のピークを示す細孔径、0.01〜1μm細孔径範囲の細孔容積)及び含浸質量増加率(含浸前の焼成煉瓦質量当りの含浸、乾燥後の質量増加率(質量%))を表1に示す。
【0044】
表1より明らかなように、実施例1〜4の耐火物は何れの酸化物粉末を使用した場合においても優れたスラグ耐食性を示す。細孔容積の細孔径分布の例(実施例1および比較例1)を
図1(a),(b)に示す。ここに、
図1(a)は、本実施形態に基づくジルコニア粉末含有スラリーの含浸有り(実施例1)および無し(比較例1)による定形耐火物の中心部における細孔容積の細孔径分布への影響を、累積細孔容積(最大径の細孔から所定の細孔径までの累積)の細孔径分布で示し、
図1(b)は、本実施形態に基づくジルコニア粉末含有スラリーの含浸有り(実施例1)および無し(比較例1)による定形耐火物の中心部における細孔容積の細孔径分布への影響を、対数微分細孔容積(細孔径区間d〜d+Δdの範囲の細孔容積(mL/kg)をLog
10((d+Δd)/d)で除した値)の細孔径分布で示す。
【0045】
ジルコニア粉末含有スラリーの含浸有り(実施例1)では、0.01〜1.0μmに第2の細孔径ピークが存在する。また、ジルコニア粉末含有スラリーの含浸によって、10μm以上の焼成耐火物の細孔容積が減少して最大ピークを示す細孔径が小孔径側にシフトするが、5μm以上の細孔径において最大ピークを有すると共に、含浸したスラリー中のジルコニア粒子の集合体に相当する0.01〜1.0μmの細孔容積が増加したことが確認できる。細孔部のミクロ観察から認識された本発明の実施形態の定形耐火物の細孔構造をモデル化して
図2に示す。他の酸化物種の粉末を用いた実施例2〜4においても、細孔容積の細孔径分布は同様の傾向であった。
【0046】
本発明の実施形態の定形耐火物では、焼成耐火物中の平均径10〜20μm程度の細孔にジルコニア、ジルコン、シリカ、アルミナからなる群より選ばれる1種以上の酸化物粉末を含有するスラリーを含浸させた後、乾燥したことによって、前記酸化物粉末粒子の集合体が焼成耐火物中の細孔の内壁を被覆するように充填層として形成されていたため、焼成耐火物の鉱物粒子間の結合箇所が効果的に保護されて、スラグ侵食を効率的に抑制する効果があったものと推定される。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1と同様に、公称平均粒子径0.2μmの耐火物用ジルコニアの30質量%水溶液スラリーを、分散剤を添加しないで、撹拌器具によって沈殿が生じない程度に撹拌して調整した例(比較例2)について、スラリー中の懸濁粒子のレーザー回折・散乱法による粒度分布を測定して、実施例1で用いたスラリーと比較した。
【0049】
解砕処理を行っていない比較例2では、公称平均粒子径0.2μmの粉末を使用したにも関わらず、スラリー中の懸濁粒子のメジアン粒径は2.2μmとなり、ジルコニア粉末が凝集していることが分かる。
一方、ジルコニア粉末に対し7.5質量%の前記の酸性ポリマー系の分散剤を添加し、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルで2時間解砕処理したスラリーのメジアン粒径は0.21μmと粉末が1次粒子レベルまで解砕されたことが分かる。この酸性ポリマー系の分散剤を用いた場合には、初期のスラリーのpHは5〜6程度であったが、このスラリーに0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を添加、混合してpHを8〜9に調整したスラリーでは、懸濁粒子のレーザー回折・散乱法によるメジアン粒径が0.5μm程度となった。
【0050】
上記の懸濁粒子の粒度分布を評価した2種のスラリーを、前述と同様にして、ダイレクトボンドマグクロ煉瓦に含浸させて作製した定形耐火物試料(比較例2(解砕なし)と実施例1(解砕あり))について、含浸時にシール処理を行っていない面に垂直な厚み方向の中心部の耐食性を評価した。台形柱試料の上底面を、定形耐火物試料の厚み中心面又は含浸時にシール処理を行っていない表面に一致させるように切断して、その上底面を内向きにして10角柱の試験容器に組み、前述と同じロータリースラグ法により侵食試験を行った。
【0051】
含浸を行なっていない比較例1の煉瓦試料の厚み中心面を侵食面とした場合の侵食深さを100とする侵食指数で
図3に比較した。解砕処理を行っていないスラリーを使用した比較例2では、ジルコニア粉末含有スラリーが煉瓦の中心部まで侵入できないため、煉瓦内部の耐食性は向上できない(侵食量はスラリー含浸がない場合と同程度)。
一方、解砕処理を行ったスラリーを使用した実施例1の場合は、含浸時煉瓦表面の耐食性よりは若干劣るものの、含浸時煉瓦中心部の侵食量はスラリー含浸がない場合より4割程度低減し、煉瓦中心部の耐食性も向上できることが確認できた。
【0052】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づき説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものである。