特許第6024970号(P6024970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6024970回転角検出装置およびそれを備えた電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024970
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】回転角検出装置およびそれを備えた電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20161107BHJP
   G01B 7/30 20060101ALI20161107BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20161107BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20161107BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20161107BHJP
【FI】
   G01D5/244 D
   G01B7/30 H
   B62D5/04
   B62D6/00
   B62D119:00
【請求項の数】9
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2012-271638(P2012-271638)
(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公開番号】特開2014-115259(P2014-115259A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100086391
【弁理士】
【氏名又は名称】香山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】高木 剛
(72)【発明者】
【氏名】狩集 裕二
(72)【発明者】
【氏名】冷水 由信
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−322167(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/077803(WO,A1)
【文献】 特開2011−069806(JP,A)
【文献】 特開平07−260513(JP,A)
【文献】 実開平06−062322(JP,U)
【文献】 米国特許第06227328(US,B1)
【文献】 特開平11−091610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/244
B62D 5/04
B62D 6/00
G01B 7/30
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転角を検出するための複数のセンサと、
前記各センサの出力信号を所定時間毎にサンプリングするサンプリング手段と、
前記複数のセンサのうちの少なくとも2つのセンサにおける2以上の所定数の異なるタイミングでサンプリングされた複数の出力信号を用いて、前記回転体の回転角を演算するための第1演算手段と、
前記複数のセンサのうちの2つのセンサの1サンプリング分の出力信号を用いて、前記回転体の回転角を簡易的に演算するための第2演算手段と、
前記サンプリング手段によってサンプリングされる前記各センサの出力信号に基づいて、前記第1演算手段および前記第2演算手段のうちのいずれか一方を、前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択する選択手段と、を含む回転角演算装置。
【請求項2】
前記選択手段は、電源がオンされた後から、前記第1演算手段によって前記回転体の回転角を演算すると仮定した場合に、前記第1演算手段によって用いられる前記複数の出力信号のうち、同じセンサに対する出力信号どうしが全て異なるという条件を満たすまでは、前記第2演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択し、前記条件を満たしたときおよびそれ以降においては、前記第1演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択するように構成されている、請求項1に記載の回転角演算装置。
【請求項3】
前記選択手段は、前記第1演算手段によって前記回転体の回転角を演算すると仮定した場合に、前記第1演算手段によって用いられる前記複数の出力信号のうち、同じセンサに対する出力信号どうしが全て異なるという条件を満たしているときには、前記第1演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択し、前記条件を満たしていないときには、前記第2演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択するように構成されている、請求項1に記載の回転角演算装置。
【請求項4】
前記回転体の回転角の演算のために前記第1演算手段によって用いられる前記複数の出力信号の各々を数式化した場合において、得られた複数の数式の数をX、これらの数式に含まれる未知数の数をYとすると、YがXより大きいという条件を満たしており、
前記第1演算手段は、前記複数の数式に含まれる未知数のうち、所定の複数の異なる未知数が互いに等しいとみなすことによってYをX以下とした後に、前記複数の数式からなる連立方程式を解くことにより、前記回転体の回転角を演算するように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転角演算装置。
【請求項5】
前記回転体の回転に応じて回転し、複数の磁極を有する多極磁石を含み、
前記複数のセンサは、前記多極磁石の回転に応じて、互いに所定の位相差を有する正弦波信号をそれぞれ出力する複数の磁気センサであり、
前記第1演算手段は、前記複数のセンサのうちの2つのセンサにおける2つの異なるタイミングでサンプリングされた4つの出力信号を用いて、前記回転体の回転角を演算するように構成されており、
前記複数の数式は前記4つの出力信号を数式化した4つの数式からなり、各数式は振幅および前記回転体の回転角を未知数として含んでおり、
前記第1演算手段は、前記4つの数式に含まれる未知数のうち、同じセンサのサンプリングタイミングが異なる2つの出力信号の振幅が互いに等しいとみなすことによってYをX以下にしている、請求項4に記載の回転角演算装置。
【請求項6】
前記回転体の回転に応じて回転し、複数の磁極を有する多極磁石を含み、
前記複数のセンサは、前記多極磁石の回転に応じて、互いに所定の位相差を有する正弦波信号をそれぞれ出力する複数の磁気センサであり、
前記第1演算手段は、前記複数のセンサのうちの2つのセンサにおける3つの異なるタイミングでサンプリングされた6つの出力信号を用いて、前記回転体の回転角を演算するように構成されており、
前記複数の数式は前記6つの出力信号を数式化した6つの数式からなり、各数式は振幅、前記回転体の回転角および前記多極磁石の各磁極の磁極幅に関する情報を未知数として含んでおり、
前記第1演算手段は、前記6つの数式に含まれる未知数のうち、同じセンサのサンプリングタイミングが異なる3つの出力信号の振幅が互いに等しいとみなすとともに、前記6つの数式に含まれている全ての磁極幅に関する情報が互いに等しいとみなすことにより、YをX以下にしている、請求項4に記載の回転角演算装置。
【請求項7】
前記第2演算手段は、前記複数のセンサのうちの2つのセンサの1サンプリング分の出力信号と、予め設定された、これらの2つのセンサの出力信号の振幅比とを用いて、前記回転体の回転角を演算するように構成されている、請求項5または6に記載の回転角演算装置。
【請求項8】
入力軸、出力軸およびこれらの2つの軸を連結するトーションバーを含むステアリングシャフトと、
操舵補助力を発生させるための電動モータと、
前記請求項1〜7のいずれか一項に記載の回転角演算装置から構成され、前記入力軸の回転角を第1の回転角として検出するための第1の回転角演算装置と、
前記請求項1〜7のいずれか一項に記載の回転角演算装置から構成され、前記出力軸の回転角を第2の回転角として検出するための第2の回転角演算装置と、
前記第1の回転角演算装置によって検出された第1の回転角と、前記第2の回転角演算装置によって検出された第2の回転角と基づいて、前記入力軸に与えられる操舵トルクを演算する操舵トルク演算手段と、
前記操舵トルク演算手段によって演算された操舵トルクを用いて、前記電動モータに流すべき電流の目標値となる電流指令値を設定する電流指令値設定手段とを含み、
前記電流指令値設定手段は、前記操舵トルクの演算に用いられた前記第1の回転角および前記第2の回転角のうちの少なくとも一方が、前記第2演算手段によって演算されたものであるときは、前記操舵トルクの絶対値が所定値以下である場合に、電流指令値を零に設定する不感帯設定手段を含んでいる、電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記不感帯設定手段は、
前記操舵トルクの演算に用いられた前記第1の回転角および前記第2の回転角の両方が、前記第2演算手段によって演算されたものであるときは、前記操舵トルクの絶対値が第1の所定値以下である場合に、電流指令値を零に設定する手段と、
前記操舵トルクの演算に用いられた前記第1の回転角および前記第2の回転角のうちのいずれか一方のみが、前記第2演算手段によって演算されたものであるときは、前記操舵トルクの絶対値が前記第1の所定値より小さい第2の所定値以下である場合に、電流指令値を零に設定する手段と、を含んでいる請求項8に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転体の回転角を検出する回転角検出装置およびそれを備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体の回転角を検出する回転角検出装置として、ブラシレスモータの回転に応じて回転する検出用ロータを用いて、ブラシレスモータのロータの回転角を検出する回転角検出装置が知られている。具体的には、図15に示すように、検出用ロータ201(以下、「ロータ201」という)は、ブラシレスモータのロータに設けられている磁極対に相当する複数の磁極対を有する円筒状の磁石202を備えている。ロータ201の周囲には、2つの磁気センサ221,222が、ロータ201の回転中心軸を中心として所定の角度間隔をおいて配置されている。各磁気センサ221,222からは、所定の位相差を有する正弦波信号が出力される。これらの2つの正弦波信号に基づいて、ロータ201の回転角(ブラシレスモータのロータの回転角)が検出される。
【0003】
この例では、磁石202は、5組の磁極対を有している。つまり、磁石102は、等角度間隔で配置された10個の磁極を有している。各磁極は、ロータ201の回転中心軸を中心として、36°(電気角では180°)の角度間隔で配置されている。また、2つの磁気センサ221,222は、ロータ201の回転中心軸を中心として18°(電気角では90°)の角度間隔をおいて配置されている。
【0004】
図15に矢印で示す方向を検出用ロータ201の正方向の回転方向とする。そして、ロータ201が正方向に回転されるとロータ201の回転角が大きくなり、ロータ201が逆方向に回転されると、ロータ201の回転角が小さくなるものとする。各磁気センサ221,222からは、図16に示すように、ロータ201が1磁極対分に相当する角度(72°(電気角では360°))を回転する期間を一周期とする正弦波信号S,Sが出力される。
【0005】
ロータ201の1回転分の角度範囲を、5つの磁極対に対応して5つの区間に分け、各区間の開始位置を0°とし終了位置を360°として表したロータ201の回転角を、ロータ201の電気角θということにする。
ここでは、第1磁気センサ221からは、S=A・sinθの出力信号が出力され、第2磁気センサ222からは、S=A・cosθの出力信号が出力されるものとする。A,Aは、振幅である。両出力信号S,Sの振幅A,Aが互いに等しいとみなすと、ロータ201の電気角θは、両出力信号S,Sを用いて、次式に基づいて求めることができる。
【0006】
θ=tan−1(sinθ/cosθ)
=tan−1(S/S
このようにして、求められた電気角θを使って、ブラシレスモータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-26297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したような従来の回転角検出装置においては、両磁気センサ221,222の出力信号S,Sの振幅A,Aが等しいとみなして回転角θを演算しているが、両出力信号S,Sの振幅A,Aは、両磁気センサ221,222の温度特性のばらつきおよび温度変化に応じて変化する。このため、両磁気センサ221,222の温度特性のばらつきおよび温度変化によって、ロータの回転角の検出に誤差が発生する。
【0009】
この発明の目的は、精度の高い回転角を検出できる回転角検出装置およびそれを備えた電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、回転体(8;9)の回転角を検出するための複数のセンサ(71,72;74,75)と、前記各センサの出力信号を所定時間毎にサンプリングするサンプリング手段(77A;77B)と、前記複数のセンサのうちの少なくとも2つのセンサにおける2以上の所定数の異なるタイミングでサンプリングされた複数の出力信号を用いて、前記回転体の回転角を演算するための第1演算手段(77A,S7,S7A,S16,A16A;77B)と、前記複数のセンサのうちの2つのセンサの1サンプリング分の出力信号を用いて、前記回転体の回転角を簡易的に演算するための第2演算手段(77A,S5,S14;77B)と、前記サンプリング手段によってサンプリングされる前記各センサの出力信号に基づいて、前記第1演算手段および前記第2演算手段のうちのいずれか一方を、前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択する選択手段(77A,S3,S4,S4A;S12;77B)と、を含む回転角演算装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0011】
この発明では、第1演算手段および第2演算手段のうち、選択手段によって選択された演算手段によって回転体の回転角が演算される。第1演算手段は、複数のセンサのうちの少なくとも2つのセンサにおける2以上の所定数の異なるタイミングでサンプリングされた複数の出力信号に基づいて回転体の回転角を演算しているので、第1演算手段によって回転角が演算されるときには、前述した従来技術に比べて、精度の高い回転角を演算することが可能となる。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記選択手段は、電源がオンされた後から、前記第1演算手段によって前記回転体の回転角を演算すると仮定した場合に、前記第1演算手段によって用いられる前記複数の出力信号のうち、同じセンサに対する出力信号どうしが全て異なるという条件を満たすまでは、前記第2演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択し、前記条件を満たしたときおよびそれ以降においては、前記第1演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択するように構成されている、請求項1に記載の回転角演算装置である。
【0013】
この構成では、電源がオンされた後から、回転体の回転角の前回値が存在していなくても第1演算手段によって回転体の回転角を演算することができる条件が満たされるまでは、前記第2演算手段によって回転体の回転角が演算される。そして、このような条件が満たされたときおよびそれ以降においては、前記第1演算手段によって回転体の回転角が演算される。このため、電源がオンされた直後から、回転体の回転角を演算することが可能となる。
【0014】
請求項3記載の発明は、前記選択手段は、前記第1演算手段によって前記回転体の回転角を演算すると仮定した場合に、前記第1演算手段によって用いられる前記複数の出力信号のうち、同じセンサに対する出力信号どうしが全て異なるという条件を満たしているときには、前記第1演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択し、前記条件を満たしていないときには、前記第2演算手段を前記回転体の回転角の演算に用いられる演算手段として選択するように構成されている、請求項1に記載の回転角演算装置である。
【0015】
この構成では、回転体の回転角の前回値が存在していなくても第1演算手段によって回転体の回転角を演算することができる条件が満たされているときには、第1演算手段によって回転角が演算される。一方、このような条件が満たされていないときには、第2演算手段によって回転角が演算される。
請求項4記載の発明は、前記回転体の回転角の演算のために前記第1演算手段によって用いられる前記複数の出力信号の各々を数式化した場合において、得られた複数の数式の数をX、これらの数式に含まれる未知数の数をYとすると、YがXより大きいという条件を満たしており、前記第1演算手段は、前記複数の数式に含まれる未知数のうち、所定の複数の異なる未知数が互いに等しいとみなすことによってYをX以下とした後に、前記複数の数式からなる連立方程式を解くことにより、前記回転体の回転角を演算するように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転角演算装置である。
【0016】
この構成では、第1演算手段は、回転体の回転角の演算に用いられる数式の数Xが、これらの数式に含まれている未知数の数Yより少なくても、回転体の回転角を演算することができる。これにより、第1演算手段によって回転角が演算されるときに、回転体の回転角を演算するために用いられる数式の数を少なくすることが可能となる。
請求項5記載の発明は、前記回転体の回転に応じて回転し、複数の磁極を有する多極磁石(61;62)を含み、前記複数のセンサは、前記多極磁石の回転に応じて、互いに所定の位相差を有する正弦波信号をそれぞれ出力する複数の磁気センサであり、前記第1演算手段は、前記複数のセンサのうちの2つのセンサにおける2つの異なるタイミングでサンプリングされた4つの出力信号を用いて、前記回転体の回転角を演算するように構成されており、前記複数の数式は前記4つの出力信号を数式化した4つの数式からなり、各数式は振幅および前記回転体の回転角を未知数として含んでおり、前記第1演算手段は、前記4つの数式に含まれる未知数のうち、同じセンサのサンプリングタイミングが異なる2つの出力信号の振幅が互いに等しいとみなすことによってYをX以下にしている、請求項4に記載の回転角演算装置である。
【0017】
この構成では、第1演算手段は、同じセンサのサンプリングタイミングが異なる2つの出力信号の振幅が互いに等しいとみなしている。同じセンサのサンプリングタイミングが異なる2つの出力信号の振幅は、温度変化の影響によって異なる値となる可能性がある。しかしながら、同じセンサの前記2つの出力信号のサンプリング間隔が小さいときには、その間の温度変化は非常に小さいので、前記2つの出力信号の振幅は等しいとみなすことができる。
【0018】
したがって、この構成では、第1演算手段によって回転角が演算されるときに、同じセンサの前記2つの出力信号のサンプリング間隔を小さく設定した場合には、温度変化の影響による前記2つの出力信号の振幅のばらつきを補償することができる。また、この構成では、第1演算手段によって回転角が演算されるときには、各センサ間の振幅は、別々の未知数として扱っているので、各センサ間の温度特性のばらつきの影響を補償することができる。これにより、第1演算手段によって回転角が演算されるときには、精度の高い回転角を検出することができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、前記回転体の回転に応じて回転し、複数の磁極を有する多極磁石(61;62)を含み、前記複数のセンサは、前記多極磁石の回転に応じて、互いに所定の位相差を有する正弦波信号をそれぞれ出力する複数の磁気センサであり、前記第1演算手段は、前記複数のセンサのうちの2つのセンサにおける3つの異なるタイミングでサンプリングされた6つの出力信号を用いて、前記回転体の回転角を演算するように構成されており、前記複数の数式は前記6つの出力信号を数式化した6つの数式からなり、各数式は振幅、前記回転体の回転角および前記多極磁石の各磁極の磁極幅に関する情報を未知数として含んでおり、前記第1演算手段は、前記6つの数式に含まれる未知数のうち、同じセンサのサンプリングタイミングが異なる3つの出力信号の振幅が互いに等しいとみなすとともに、前記6つの数式に含まれている全ての磁極幅に関する情報が互いに等しいとみなすことにより、YをX以下にしている、請求項4に記載の回転角演算装置である。
【0020】
この構成では、第1演算手段は、同じセンサのサンプリングタイミングが異なる3つの出力信号の振幅が互いに等しいとみなしている。同じセンサのサンプリングタイミングが異なる3つの出力信号の振幅は、温度変化の影響によって異なる値となる可能性がある。しかしながら、同じセンサの前記3つの出力信号のサンプリング間隔が小さいときには、その間の温度変化は非常に小さいので、前記3つの出力信号の振幅は等しいとみなすことができる。
【0021】
したがって、この構成では、第1演算手段によって回転角が演算されるときに、同じセンサの前記3つの出力信号のサンプリング間隔を小さく設定した場合には、温度変化の影響による前記3つの出力信号の振幅のばらつきを補償することができる。また、この構成では、第1演算手段によって回転角が演算されるときには、各センサ間の振幅は、別々の未知数として扱っているので、各センサ間の温度特性のばらつきの影響を補償することができる。これにより、第1演算手段によって回転角が演算されるときには、精度の高い回転角を検出することができる。
【0022】
また、この構成では、第1演算手段は、回転角の演算に用いられる6つの数式に含まれている全ての磁極幅に関する情報が互いに等しいとみなしている。磁極の磁極幅に関する情報は、磁極毎に異なる。このため、回転角の演算に用いられる6つの出力信号を表す数式に含まれている磁極幅に関する情報は、全て同じ値であるとは限らない。しかしながら、回転角の演算に用いられる6つの出力信号を提供するセンサが、これら6つの出力信号がサンプリングされている間において共に同じ一つの磁極を検出している場合には、これら6つの出力信号を表す数式に含まれている磁極幅に関する情報は全て同じ値となる。したがって、このような場合には、多極磁石の各磁極の磁極幅のばらつきをも補償できるので、より精度の高い回転角を検出することが可能となる。
【0023】
請求項7記載の発明は、前記第2演算手段は、前記複数のセンサのうちの2つのセンサの1サンプリング分の出力信号と、予め設定された、これらの2つのセンサの出力信号の振幅比とを用いて、前記回転体の回転角を演算するように構成されている、請求項5または6に記載の回転角演算装置である。
2つのセンサの出力信号の振幅比は、磁極の磁束密度や2つのセンサの個体のばらつきの影響をほとんど受けない。このため、この構成では、第2演算手段によって回転角を簡易的に演算する場合でも、演算誤差を小さくできる。
【0024】
請求項8記載の発明は、入力軸(8)、出力軸(9)およびこれらの2つの軸を連結するトーションバー(10)を含むステアリングシャフト(6)と、操舵補助力を発生させるための電動モータ(18)と、前記請求項1〜7のいずれか一項に記載の回転角演算装置から構成され、前記入力軸の回転角を第1の回転角として検出するための第1の回転角演算装置(61,71,72,77A)と、前記請求項1〜7のいずれか一項に記載の回転角演算装置から構成され、前記出力軸の回転角を第2の回転角として検出するための第2の回転角演算装置(62,74,75,77B)と、前記第1の回転角演算装置によって検出された第1の回転角と、前記第2の回転角演算装置によって検出された第2の回転角と基づいて、前記入力軸に与えられる操舵トルクを演算する操舵トルク演算手段(77C)と、前記操舵トルク演算手段によって演算された操舵トルクを用いて、前記電動モータに流すべき電流の目標値となる電流指令値を設定する電流指令値設定手段(41)とを含み、前記電流指令値設定手段は、前記操舵トルクの演算に用いられた前記第1の回転角および前記第2の回転角のうちの少なくとも一方が、前記第2演算手段によって演算されたものであるときは、前記操舵トルクの絶対値が所定値以下である場合に、電流指令値を零に設定する不感帯設定手段を含んでいる、電動パワーステアリング装置である。
【0025】
この発明によれば、入力軸の回転角および出力軸の回転角のうちの少なくとも一方が簡易モードによって演算されたことによって、操舵トルク演算手段によって演算される操舵トルクに誤差が発生したとしても、本来発生させるべき操舵補助トルクの方向と反対方向の操舵補助トルクが電動モータから発生されるのを防止することが可能となる。
請求項9記載の発明は、前記不感帯設定手段は、前記操舵トルクの演算に用いられた前記第1の回転角および前記第2の回転角の両方が、前記第2演算手段によって演算されたものであるときは、前記操舵トルクの絶対値が第1の所定値以下である場合に、電流指令値を零に設定する手段と、前記操舵トルクの演算に用いられた前記第1の回転角および前記第2の回転角のうちのいずれか一方のみが、前記第2演算手段によって演算されたものであるときは、前記操舵トルクの絶対値が前記第1の所定値より小さい第2の所定値以下である場合に、電流指令値を零に設定する手段と、を含んでいる請求項8に記載の電動パワーステアリング装置である。
【0026】
この発明によれば、請求項8と同様の効果が得られる。また、この発明によれば、入力軸の回転角および出力軸の回転角のうち一方のみが簡易モードで演算されている場合には、その両方が簡易モードで演算されている場合に比べて、電流指令値が零とされる不感帯の幅を小さくすることができる。このため、操舵状況に応じた操舵補助が行われやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る回転角検出装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、トルクセンサの構成を図解的に示す模式図である。
図3図3は、第1の磁石の構成および2つの磁気センサの配置を示す模式図である。
図4図4は、第1磁気センサおよび第2磁気センサの出力波形を示す模式図である。
図5図5は、通常モードにおいて第1演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部の動作を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、通常モードにおいて第1演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部の他の例の動作を説明するためのフローチャートである。
図7図6は、通常モードにおいて第2演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部の動作を説明するためのフローチャートである。
図8図6は、通常モードにおいて第2演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部の他の例の動作を説明するためのフローチャートである。
図9図9は、振幅比演算処理の手順を示すフローチャートである。
図10図10は、相対的極番号の設定処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
図11図11は、相対的極番号の設定処理を説明するための模式図である。
図12図12は、モータ制御用ECUの電気的構成を示す概略図である。
図13図13は、電動モータの構成を図解的に示す模式図である。
図14図14A図14Bは、検出操舵トルクThに対するq軸電流指令値Iの設定例を示すグラフである。
図15図15は、従来の回転角検出装置による回転角検出方法を説明するための模式図である。
図16図16は、第1磁気センサおよび第2磁気センサの出力信号波形を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る回転角検出装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0029】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。すなわち、ステアリングホイール2が回転されると、入力軸8および出力軸9は、互いに相対回転しつつ同一方向に回転するようになっている。
【0030】
ステアリングシャフト6の周囲には、本発明の一実施形態に係る回転角検出装置が適用されたトルクセンサ(トルク検出装置)11が設けられている。トルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクを検出する。トルクセンサ11によって検出される操舵トルクは、モータ制御用ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。
【0031】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端には、ピニオン16が連結されている。
【0032】
ラック軸14は、自動車の左右方向(直進方向に直交する方向)に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0033】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助力を発生するための電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝達するための減速機構19とを含む。電動モータ18は、この実施形態では、三相ブラシレスモータからなる。減速機構19は、ウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機構19は、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22内に収容されている。
【0034】
ウォーム軸20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6とは同方向に回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォーム軸20によって回転駆動される。
電動モータ18によってウォーム軸20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム軸20を回転駆動することによって、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0035】
電動モータ18のロータの回転角(ロータ回転角)は、レゾルバ等の回転角センサ25によって検出される。回転角センサ25の出力信号は、モータ制御用ECU12に入力される。電動モータ18は、モータ制御装置としてのモータ制御用ECU12によって制御される。
図2は、トルクセンサ11の構成を図解的に示す模式図である。
【0036】
入力軸8には、環状の第1の磁石(多極磁石)61が一体回転可能に連結されている。第1の磁石61の下側には、第1の磁石61の回転に応じて互いに位相差を有する正弦波状の信号をそれぞれ出力する2つの磁気センサ71,72が配置されている。
出力軸9には、環状の第2の磁石(多極磁石)62が一体回転可能に連結されている。第2の磁石62の上側には、第2の磁石62の回転に応じて互いに位相差を有する正弦波状の信号をそれぞれ出力する2つの磁気センサ74,75が配置されている。
【0037】
各磁気センサ71,72,74,75の出力信号S,S,S,Sは、入力軸8に加えられる操舵トルクを演算するためのトルク演算用ECU77に入力されている。トルク演算用ECU77の電源は、イグニッションキーがオン操作されることによってオンとなる。イグニッションキーがオフ操作されたときには、そのことを示すイグニッションキーオフ操作信号が、トルク演算用ECU77に入力される。なお、磁気センサとしては、たとえば、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁界の作用により電気的特性が変化する特性を有する素子を備えたものを用いることができる。この実施形態では、磁気センサとしては、ホール素子が用いられている。
【0038】
前記磁石61,62、前記磁気センサ71,72,74,75およびトルク演算用ECU77によって、トルクセンサ11が構成されている。
トルク演算用ECU77は、マイクロコンピュータを含んでいる。マイクロコンピュータは、CPUおよびメモリ(ROM,RAM,不揮発性メモリ等)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能する。この複数の機能処理部には、第1の回転角演算部77Aと、第2の回転角演算部77Bと、トルク演算部77Cと、第1の振幅比演算部77Dと、第2の振幅比演算部77Eとを含んでいる。
【0039】
第1の振幅比演算部77Dは、作業者等によってトルク演算用ECU77の動作モードが振幅比演算モードに設定されたときに、2つの磁気センサ71,72の出力信号S,Sに基づいて、これらの出力信号S,Sの振幅比を検出して、不揮発性メモリに記憶する。第2の振幅比演算部77Eは、作業者等によってトルク演算用ECU77の動作モードが振幅比演算モードに設定されたときに、2つの磁気センサ74,75の出力信号S,Sに基づいて、これらの出力信号S,Sの振幅比を検出して、不揮発性メモリに記憶する。たとえば、電動パワーステアリング装置1の出荷前に、トルク演算用ECU77の動作モードが振幅比演算モードに設定される。第1の位相差演算部77Dおよび第2の位相差演算部77Eの動作の詳細については後述する。
【0040】
第1の回転角演算部77Aは、2つの磁気センサ71,72の出力信号S,Sと、不揮発性メモリに記憶されているこれらの出力信号S,Sの振幅比に基づいて入力軸8の回転角(電気角θ)を演算する。第2の回転角演算部77Bは、2つの磁気センサ74,75の出力信号S,Sと、不揮発性メモリに記憶されているこれらの出力信号S,Sの振幅比に基づいて出力軸9の回転角(電気角θ)を演算する。
【0041】
トルク演算部77Cは、第1の回転角演算部77Aによって検出された入力軸8の回転角θと第2の回転角演算部77Bによって検出された出力軸9の回転角θとに基づいて、入力軸8に加えられた操舵トルクThを演算する。具体的には、操舵トルクThは、トーションバー10のバネ定数をKとし、各磁石61,62に設けられた磁極対数をNとすると、次式(1)に基づいて演算される。
【0042】
Th={(θ−θ)/N}×K …(1)
第1の磁石61、磁気センサ71,72および第1の回転角演算部77Aによって、入力軸8の回転角θを検出するための第1の回転角検出装置が構成されている。また、第2の磁石62、磁気センサ74,75および第2の回転角演算部77Bによって、出力軸9の回転角θを検出するための第2の回転角検出装置が構成されている。第1の回転角検出装置(第1の回転角演算部77A)の動作と第2の回転角検出装置(第2の回転角演算部77B)動作は同様であるので、以下、第1の回転角検出装置(第1の回転角演算部77A)の動作についてのみ説明する。
【0043】
図3は、第1の磁石61の構成および2つの磁気センサの配置を示す模式図である。
第1の磁石61は、周方向に等角度間隔で配された4組の磁極対(M1,M2),(M3,M4),(M5,M6),(M7,M8)を有している。つまり、第1の磁石61は、等角度間隔で配置された8個の磁極M1〜M8を有している。各磁極M1〜M8は、入力軸8の中心軸を中心として、ほぼ45°(電気角ではほぼ180°)の角度間隔(角度幅)で配置されている。各磁極M1〜M8の磁力の大きさは、ほぼ一定である。
【0044】
2つの磁気センサ71,72は、第1の磁石61の下側の環状端面に対向して、配置されている。これらの磁気センサ71,72は、入力軸8の中心軸を中心として電気角で120°の角度間隔で配置されている。以下において、一方の磁気センサ71を第1磁気センサ71といい、他方の磁気センサ72を第2磁気センサ72という場合がある。
図3に矢印で示す方向を入力軸8の正方向の回転方向とする。そして、入力軸8が正方向に回転されると入力軸8の回転角が大きくなり、入力軸8が逆方向に回転されると、入力軸2の回転角が小さくなるものとする。各磁気センサ71,72からは、図4に示すように、入力軸8の回転に伴って、正弦波状の信号S,Sが出力される。なお、図4の横軸の回転角[deg]は、機械角を表している。
【0045】
以下において、第1磁気センサ71の出力信号Sを第1出力信号Sまたは第1センサ値Sといい、第2磁気センサ72の出力信号Sを第2出力信号Sまたは第2センサ値Sという場合がある。
以下においては、説明の便宜上、入力軸8の回転角をθではなく、θで表すことにする。各出力信号S,Sが正弦波信号であるとみなし、入力軸8の回転角をθ(電気角)とすると、第1磁気センサ71の出力信号Sは、S=A・sinθと表され、第2磁気センサ72の出力信号Sは、S=A・sin(θ+120)と表される。A,Aは、それぞれ振幅を表している。第1出力信号Sと第2出力信号Sとの位相差は120度である。
【0046】
第1の回転角演算部77Aによる回転角θの演算モードには、通常モードと簡易モードとがある。まず、通常モードによる回転角演算方法の基本的な考え方について説明する。通常モードによる回転角演算方法には、2通りの方法がある。一番目は、2つの磁気センサ71,72における2サンプリング分の出力信号に基づいて回転角θを演算する方法(以下、「第1演算方法」という。)である。二番目は、2つの磁気センサ71,72における3サンプリング分の出力信号に基づいて回転角θを演算する方法(以下、「第2演算方法」という)である。
【0047】
第1演算方法の基本的な考え方について説明する。第1出力信号Sと第2出力信号Sとの位相差(電気角)をCで表すことにする。また、今回のサンプリング周期の番号(今回の演算周期の番号)を[n]、前回のサンプリング周期の番号(前回の演算周期の番号)を[n-1]で表すことにする。
位相差Cおよびサンプリング周期の番号[n],[n-1]を用いると、今回サンプリングされた第1出力信号S、前回サンプリングされた第1出力信号S、今回サンプリングされた第2出力信号Sおよび前回サンプリングされた第2出力信号Sを、それぞれ次式(2a),(2b),(2c),(2d)で表すことができる。
【0048】
[n]=A[n]sinθ[n] …(2a)
[n-1]=A[n-1]sinθ[n-1] …(2b)
[n]=A[n]sin(θ[n]+C) …(2c)
[n-1]=A[n-1]sin(θ[n-1]+C) …(2d)
Cが既知であるとすると、これら4つの式に含まれる未知数(A[n],A[n-1],A[n],A[n-1],θ[n],θ[n-1])の数は6となる。つまり、未知数の数が方程式の数より多いため、このままでは、4つの式からなる連立方程式を解くことができない。
【0049】
そこで、サンプリング間隔(サンプリング周期)を短く設定することにより、2サンプリング間の温度変化による振幅の変化がないとみなす。つまり、2サンプリング間の第1磁気センサ71の出力信号の振幅A[n],A[n-1]が互いに等しいとみなして、これらをAで表すことにする。同様に、2サンプリング間の第2磁気センサ72の出力信号の振幅A[n],A[n-1]が互いに等しいとみなし、これらをAで表すことにする。これにより、前記式(2a),(2b),(2c)および(2d)を、それぞれ次式(3a),(3b),(3c)および(3d)で表わすことができる。
【0050】
[n]=Asinθ[n] …(3a)
[n-1]=Asinθ[n-1] …(3b)
[n]=Asin(θ[n]+C) …(3c)
[n-1]=Asin(θ[n-1]+C) …(3d)
これら4つの式に含まれる未知数(A,A,θ[n],θ[n-1])の数は4となる。つまり、未知数の数が方程式の数以下となるため、4つの式からなる連立方程式を解くことができる。したがって、前記4つの式(3a),(3b),(3c)および(3d) からなる連立方程式を解くことにより、入力軸8の回転角θ[n]を演算することができる。
【0051】
以下、両磁気センサ71,72間の位相差Cが120度である場合について、具体的に説明する。位相差Cが120度である場合には、前記4つの式(3a),(3b),(3c)および(3d)は、それぞれ次式(4a),(4b),(4c)および(4d)で表わすことができる。
[n]=Asinθ[n] …(4a)
[n-1]=Asinθ[n-1] …(4b)
[n]=Asin(θ[n]+120) …(4c)
[n-1]=Asin(θ[n-1]+120) …(4d)
前記4つの式(4a),(4b),(4c)および(4d)からなる連立方程式を解くと、入力軸8の回転角θ[n]は、次式(5)(以下、「基本演算式(5)」という。)で表わされる。
【0052】
【数1】
したがって、両磁気センサ間の位相差Cが120度である場合には、4つのセンサ値S[n],S[n-1],S[n],S[n-1]と基本演算式(5)を用いて、入力軸8の回転角θ[n]を演算することができる。
【0053】
ただし、基本演算式(5)に含まれている分数のいずれかの分母が零になる場合には、基本演算式(5)に基づいて回転角θ[n]を演算することはできない。そこで、この実施形態では、基本演算式(5) に含まれている分数のいずれかの分母が零になる場合には、基本演算式(5)とは異なる演算式によって回転角θ[n]を演算するようにしている。さらに、この実施形態では、基本演算式(5)によって回転角θ[n]を演算することができるけれども、より簡単な演算式によって回転角θ[n]を演算できる場合には、基本演算式(5)とは異なる演算式によって回転角θ[n]を演算するようにしている。この実施形態では、基本演算式(5)より簡単に回転角θ[n]を演算できる場合とは、S[n]=0の場合またはS[n]=0の場合である。
【0054】
この実施形態では、回転角θ[n]を演算するための演算式として、基本演算式(5)を含めて10種類の演算式が用意されている。表1は、10種類の演算式と、その演算式が適用される条件とを示している。なお、回転角θ[n]を演算する際には、表1の上から順番にその条件を満たしているか否かが判別され、条件を満たしたと判別されるとそれ以降の条件判別は行われず、当該条件に対応する演算式により、回転角θ[n]が演算される。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の上から1番目の演算式は、基本演算式(5)である。基本演算式(5)は、S[n]およびS[n]のいずれもが零でなく、かつ基本演算式(5) に含まれている分数のいずれの分母も零でないという条件を満たしている場合に、適用される。基本演算式(5)に含まれている分数のいずれの分母も零でないという条件は、p−p≠0でかつ、p+p+p≠0でかつ、S[n-1]≠0でかつS[n-1]≠0である場合に満たされる。なお、S[n-1]はpの分母であり、S[n-1]はpの分母である。
【0057】
ただし、p+p+p=0が成立するのは、p=p=0の場合だけであるが、第1磁気センサ71と第2磁気センサ72とは位相が120度ずれているため、両磁気センサ71,72のセンサ値S,Sが同時に零になることはない。このため、p+p+p=0が成立することはない。したがって、基本演算式(5)に含まれている分数のいずれの分母も零でないという条件は、p−p≠0でかつ、S[n-1]≠0でかつS[n-1]≠0である場合に満たされる。 表1の上から2番目の演算式は、p−p=0である場合に適用される演算式である。p−p=0が成立する場合について検討する。この場合には、p=pであるから、次式(6)が成立する。
【0058】
【数2】
これを変形すると、次式(7)が得られる。
【0059】
【数3】
前記式(7)が成立する場合とは、θ[n]とθ[n-1]とが等しい場合である。つまり、今回の回転角θ[n]が前回の回転角θ[n-1]に等しい場合である。そこで、S[n]およびS[n]のいずれもが零でなく、かつpの分母S[n-1]およびpの分母S[n-1]のいずれもが零でなく、かつp−p=0であるという条件を満たした場合には、前回に演算された回転角θ[n-1]が今回の回転角θ[n]として用いられる。
【0060】
表1の上から3番目および4番目の演算式は、pの分母S[n-1]が零となる場合に適用される演算式である。S[n-1]=Asinθ[n-1]であるので、sinθ[n-1]=0のときに、S[n-1]=0となる。つまり、θ[n-1]が0度または180度のときに、S[n-1]が零となる。S[n-1]=Asin(θ[n-1]+120)であるので、θ[n-1]が0度のときにはS[n-1]>0となり、θ[n-1]が180度のときにはS[n-1]<0となる。したがって、S[n-1]=0でかつS[n-1]>0のときにはθ[n-1]=0となり、S[n-1]=0でかつS[n-1]<0のときにはθ[n-1]=180となる。
【0061】
θ[n-1]=0である場合には、前記式 (4c),(4d)は、それぞれ次式 (8c),(8d)で表される。
[n]=Asin(θ[n]+120) …(8c)
[n-1]=Asin120=√3/2・ A…(8d)
前記式(8d)から、次式(9)が得られる。
【0062】
=(2/√3)・S[n-1] …(9)
前記式(9)を前記式(8c)に代入すると、次式(10)が得られる。
sin(θ[n]+120)=(√3/2)・(S[n]/S[n-1]) …(10)
したがって、回転角θ[n]は、次式(11)により演算することができる。
【0063】
【数4】
つまり、表1の上から3番目に示すように、S[n]およびS[n]のいずれもが零でなく、かつpの分母S[n-1]が零でなく、かつpの分母S[n-1]が零であり、かつS[n-1]>0であるという条件を満たした場合には、前記式(11)で表される演算式に基づいて回転角θ[n]が演算される。
【0064】
一方、θ[n-1]=180である場合には、前記式 (4c),(4d)は、それぞれ次式 (12c),(12d)で表される。
[n]=Asin(θ[n]+120) …(12c)
[n-1]=Asin300=−√3/2・ A…(12d)
前記式(12d)から、次式(13)が得られる。
【0065】
=(−2/√3)・S[n-1] …(13)
前記式(13)を前記式(12c)に代入すると、次式(14)が得られる。
sin(θ[n]+120)=(−√3/2)・(S[n]/S[n-1]) …(14)
したがって、回転角θ[n]は、次式(15)により演算することができる。
【0066】
【数5】
つまり、表1の上から4番目に示すように、S[n]およびS[n]のいずれもが零でなく、かつpの分母S[n-1]が零でなく、かつpの分母S[n-1]が零であり、かつS[n-1]<0であるという条件を満たした場合には、前記式(15)で表される演算式に基づいて回転角θ[n]が演算される。
【0067】
表1の上から5番目および6番目の演算式は、S[n]=0となる場合に適用される演算式である。S[n]=Asin(θ[n]+120)であるので、sin(θ[n]+120)=0のときに、S[n]=0となる。つまり、θ[n]が−120度または60度のときに、S[n]=0となる。S[n]=Asinθ[n]であるので、θ[n]が−120度のときにはS[n]<0となり、θ[n]が60度のときにはS[n]>0となる。したがって、S[n]=0でかつS[n]>0のときにはθ[n]=60となり、S[n]=0でかつS[n]<0であればθ[n]=−120となる。
【0068】
つまり、表1の上から5番目に示すように、S[n]が零でなく、かつpの分母S[n-1]が零でなく、かつS[n]=0であり、かつS[n]>0であるという条件を満たした場合には、回転角θ[n]は60度として演算される。また、表1の上から6番目に示すように、S[n]が零でなく、かつpの分母S[n-1]が零でなく、かつS[n]=0であり、かつS[n]>0であるという条件を満たした場合には、回転角θ[n]は−120度として演算される。
【0069】
表1の上から7番目および8番目の演算式は、pの分母S[n-1]が零となる場合に適用される演算式である。S[n-1]=Asin(θ[n-1]+120)であるので、sin(θ[n-1]+120)=0のときに、S[n-1]=0となる。つまり、θ[n-1]が−120度または60度のときに、S[n-1]が零となる。S[n-1]=Asinθ[n-1]であるので、θ[n-1]が−120度のときにはS[n-1]<0となり、θ[n-1]が60度のときにはS[n-1]>0となる。したがって、S[n-1]=0でかつS[n-1]>0のときにはθ[n-1]=60となり、S[n-1]=0でかつS[n-1]<0のときにはθ[n-1]=−120となる。
【0070】
θ[n-1]=60である場合には、前記式 (4a),(4b)は、それぞれ次式 (16a),(16b)で表される。
[n]=Asinθ[n] …(16a)
[n-1]=Asin60=√3/2・ A…(16b)
前記式(16b)から、次式(17)が得られる。
【0071】
=(2/√3)・S[n-1] …(17)
前記式(17)を前記式(16a)に代入すると、次式(18)が得られる。
sinθ[n]=(√3/2)・(S[n]/S[n-1]) …(18)
したがって、回転角θ[n]は、次式(19)により演算することができる。
【0072】
【数6】
つまり、表1の上から7番目に示すように、S[n]が零でなく、かつpの分母S[n-1]が零であり、かつS[n-1]>0であるという条件を満たした場合には、前記式(19)で表される演算式に基づいて回転角θ[n]が演算される。
【0073】
一方、θ[n-1]=−120である場合には、前記式 (4a),(4b)は、それぞれ次式 (20a),(20b)で表される。
[n]=Asinθ[n] …(20a)
[n-1]=Asin(−120)=−√3/2・ A …(20b)
前記式(20b)から、次式(21)が得られる。
【0074】
=(−2/√3)・S[n-1] …(21)
前記式(21)を前記式(20a)に代入すると、次式(22)が得られる。
sinθ[n]=(−√3/2)・(S[n]/S[n-1]) …(22)
したがって、回転角θ[n]は、次式(23)により演算することができる。
【0075】
【数7】
つまり、表1の上から8番目に示すように、S[n]が零でなく、かつpの分母S[n-1]が零であり、かつS[n-1]<0であるという条件を満たした場合には、前記式(23)で表される演算式に基づいて回転角θ[n]が演算される。
【0076】
表1の上から9番目および10番目の演算式は、S[n]=0となる場合に適用される演算式である。S[n]=Asinθ[n]であるので、sinθ[n]=0のときに、S[n]=0となる。つまり、θ[n]が0度または180度のときに、S[n]=0となる。S[n]=Asin(θ[n]+120]であるので、θ[n]が0度のときにはS[n]>0となり、θ[n]が180度のときにはS[n]<0となる。したがって、S[n]=0でかつS[n]>0であればθ[n]=0となり、S[n]=0でかつS[n]<0であればθ[n]=180となる。
【0077】
つまり、表1の上から9番目に示すように、S[n]が零であり、かつS[n]>0であるという条件を満たした場合には、回転角θ[n]は0度として演算される。また、表1の上から10番目に示すように、S[n]が零であり、かつS[n]<0であるという条件を満たした場合には、回転角は180度として演算される。
第1演算方法では、2つの磁気センサ71,72における2サンプリング分の出力信号に基づいて入力軸8の回転角θ[n]を演算しているので、精度の高い回転角を演算することが可能となる。また、第1演算方法では、入力軸8の回転角θ[n]の演算に用いられる数式の数が、これらの数式に含まれている本来の未知数の数より少なくても、入力軸8の回転角θ[n]を演算することができるので、入力軸8の回転角θ[n]を演算するために必要なセンサ値の数を少なくすることが可能となる。
【0078】
第1演算方法では、サンプリング周期を短く設定することによって、2サンプリング間での同じ磁気センサの出力信号の振幅(A[n]とA[n-1],A[n]とA[n-1])が互いに等しいとみなしている。2サンプリング間での同じ磁気センサの出力信号の振幅は、温度変化の影響によって異なる値となる可能性がある。しかしながら、サンプリング間隔が小さい場合には、2サンプリング間の温度変化は非常に小さいので、2サンプリング間での同じ磁気センサの出力信号の振幅は等しいとみなすことができる。したがって、第1演算方法では、2サンプリング間での温度変化の影響による振幅のばらつきを補償することができる。また、第1演算方法では、磁気センサ71,72間の振幅A,Aは、別々の未知数として扱っているので、各磁気センサ71,72間の温度特性のばらつきの影響を補償することができる。これにより、精度の高い回転角を検出することができる。
【0079】
次に、第2演算方法の基本的な考え方について説明する。第1出力信号Sと第2出力信号Sとの位相差(電気角)をCで表すことにする。また、今回のサンプリング周期の番号(今回の演算周期の番号)を[n]、前回のサンプリング周期の番号を[n-1]、前々回のサンプリング周期の番号を[n-2]で表すことにする。また、各磁極M1〜M8の角度幅(磁極幅)のばらつきに基づく回転角演算誤差を補正するための補正値を、角度幅誤差補正値といい、Eで表すことにする。
【0080】
位相差C、サンプリング周期の番号[n],[n-1],[n-2]および角度幅誤差補正値Eを用いると、今回、前回および前々回にサンプリングされた第1出力信号Sならびに今回、前回および前々回にサンプリングされた第2出力信号Sを、それぞれ次式(24a),(24b),(24c),(24d),(24e),(24f)で表すことができる。
[n]=A[n]sin(E[n]θ[n]) …(24a)
[n-1]=A[n-1]sin(E[n-1]θ[n-1]) …(24b)
[n-2]=A[n-2]sin(E[n-2]θ[n-2]) …(24c)
[n]=A[n]sin(E[n]θ[n]+C) …(24d)
[n-1]=A[n-1]sin(E[n-1]θ[n-1]+C) …(24e)
[n-2]=A[n-2]sin(E[n-2]θ[n-2]+C) …(24f)
前記式(24a)〜(24f)において、E[x]は、x番目の演算周期において第1磁気センサ71が検出している磁極に対応する角度幅誤差補正値である。E[x]は、x番目の演算周期において第2磁気センサ72が検出している磁極に対応する角度幅誤差補正値である。
【0081】
ある磁極の角度幅をw(電気角)とすると、その磁極の角度幅誤差θerr(電気角)は、次式(25)で定義される。
θerr=w−180 …(25)
その磁極に対する角度幅誤差補正値Eは、次式(26)で定義される。
E=180/w
=180/(θerr+180) …(26)
各磁極の角度幅誤差補正値Eは、各磁極の磁極幅に関する情報である。なお、各磁極の磁極幅に関する情報は、各磁極の角度幅wであってもよいし、各磁極の角度幅誤差θerrであってもよい。
【0082】
Cが既知であるとすると、前記式(24a)〜(24f)で表される6つの式に含まれる未知数の数は16となる。つまり、未知数の数が方程式の数より多いため、このままでは、6つの式からなる連立方程式を解くことができない。
そこで、サンプリング間隔(サンプリング周期)を短く設定することにより、3サンプリング間の温度変化による振幅の変化がないとみなす。つまり、3サンプリング間の第1磁気センサ71の出力信号の振幅A[n],A[n-1],A[n-2]が互いに等しいとみなして、これらをAとする。同様に、3サンプリング間の第2磁気センサ72の出力信号の振幅A[n],A[n-1],A[n-2]が互いに等しいとみなし、これらをAとする。
【0083】
さらに、3サンプリング間において、両磁気センサ71,72が共に同じ1つの磁極を検出しているとみなす。つまり、3サンプリング分の両磁気センサ71,72の出力信号に含まれている角度幅誤差補正値E[n],E[n-1],E[n-2],E[n],E[n-1],E[n-2]の全てが同じ磁極に対応する角度幅誤差補正値であるとみなし、Eで表すことにする。これにより、前記式(24a)〜(24f)を、それぞれ次式(27a)〜(27f)で表わすことができる。
【0084】
[n]=Asin(Eθ[n]) …(27a)
[n-1]=Asin(Eθ[n-1]) …(27b)
[n-2]=Asin(Eθ[n-2]) …(27c)
[n]=Asin(Eθ[n]+C) …(27d)
[n-1]=Asin(Eθ[n-1]+C) …(27e)
[n-2]=Asin(Eθ[n-2]+C) …(27f)
これら6つの式に含まれる未知数(A,A,E,θ[n],θ[n-1],θ[n-2])の数は6となる。つまり、未知数の数が方程式の数以下となるため、6つの式からなる連立方程式を解くことができる。したがって、前記6つの式(27a)〜(27f) からなる連立方程式を解くことにより、入力軸8の回転角θ[n]を演算することができる。
【0085】
以下、両磁気センサ間の位相差Cが120度である場合について、具体的に説明する。位相差Cが120度である場合には、前記6つの式(27a)〜(27f) は、それぞれ次式(28a)〜(28f)で表わすことができる。
[n]=Asin(Eθ[n]) …(28a)
[n-1]=Asin(Eθ[n-1]) …(28b)
[n-2]=Asin(Eθ[n-2]) …(28c)
[n]=Asin(Eθ[n]+120) …(28d)
[n-1]=Asin(Eθ[n-1]+120) …(28e)
[n-2]=Asin(Eθ[n-2]+120) …(28f)
前記基本演算式(5)より、Eθ[n]は次式(29)で表される。
【0086】
【数8】
また、前記6つの式(28a)〜(28f)からなる連立方程式を解くことにより、角度幅誤差補正値Eは、次式(30)で表わされる。
【0087】
【数9】
したがって、前記式(29)により演算されたEθ[n]を、前記式(30)により演算された角度幅誤差補正値Eで除することにより、θ[n]を求めることができる。つまり、次式(31)により、θ[n]を求めることができる。
【0088】
θ[n]=Eθ[n]/E …(31)
ただし、Eθ[n]については、前記表1にしたがって、条件に応じた演算式に基づいて演算を行う。また、角度幅誤差補正値Eについては、前記式(30) に含まれている分数のいずれかの分母が零になる場合には、前記式(30)に基づいて角度幅誤差補正値Eを演算することができない。そこで、この実施形態では、前記式(30) に含まれている分数のいずれかの分母が零になる場合には、前回に演算された角度幅誤差補正値Eを今回の角度幅誤差補正値Eとして用いるようにしている。
【0089】
なお、前記式(30) に含まれている分数のいずれかの分母が零になる場合とは、次式(32),(33),(34)でそれぞれ表される3つの条件のうちの少なくとも1つの条件を満たす場合である。
【0090】
【数10】
第2演算方法では、2つの磁気センサ71,72における3サンプリング分の出力信号に基づいて入力軸8の回転角θ[n]を演算しているので、精度の高い回転角を演算することが可能となる。また、第2演算方法では、入力軸8の回転角θ[n]の演算に用いられる数式の数が、これらの数式に含まれている本来の未知数の数より少なくても、入力軸8の回転角θ[n]を演算することができるので、入力軸8の回転角θ[n]を演算するために必要なセンサ値の数を少なくすることが可能となる。
【0091】
第2演算方法では、3サンプリング間での同じ磁気センサの出力信号の振幅(A[n]とA[n-1] とA[n-2],A[n]とA[n-1] とA[n-2])が互いに等しいとみなしている。3サンプリング間での同じ磁気センサの出力信号の振幅は、温度変化の影響によって異なる値となる可能性がある。しかしながら、サンプリング間隔が小さい場合には、3サンプリング間の温度変化は非常に小さいので、3サンプリング間での同じ磁気センサの出力信号の振幅は等しいとみなすことができる。したがって、第2演算方法では、3サンプリング間での温度変化の影響による振幅のばらつきを補償することができる。また、第2演算方法では、磁気センサ71,72間の振幅A,Aは、別々の未知数として扱っているので、各磁気センサ71,72間の温度特性のばらつきの影響を補償することができる。これにより、精度の高い回転角を検出することができる。
【0092】
また、第2演算方法では、回転角θ[n]の演算に用いられる6つの数式に含まれている全ての角度幅誤差補正値Eが互いに等しいとみなしている。各磁極の角度幅誤差補正値Eは、磁極毎に異なる。このため、回転角θ[n]の演算に用いられる6つの出力信号S[n],S[n-1],S[n-2],S[n],S[n-1] ,S[n-2]を表す数式に含まれている角度幅誤差補正値Eは、全て同じ値になるとは限らない。しかしながら、2つの磁気センサ71,72が、3サンプリング間において共に同じ1つの磁極を検出している場合には、これらの複数の出力信号を表す数式に含まれている角度幅誤差補正値Eは全て同じ値となる。したがって、第2演算方法では、2つの磁気センサ71,72が、3サンプリング間において共に同じ1つの磁極を検出している場合には、磁石61の各磁極M1〜M8の角度幅(磁極幅)のばらつきをも補償できるので、より精度の高い回転角を検出することが可能となる。
【0093】
次に、簡易モードによる回転角演算方法について説明する。簡易モードは、第1磁気センサ71および第2磁気センサ72における1サンプリング分の出力信号と、不揮発性メモリに記憶されている、これら2つの磁気センサ71,72の出力信号の振幅比とに基づいて、入力軸8の回転角θを演算するモードである。
前記第2演算方法において説明したように、今回サンプリングされた第1出力信号Sおよび第2出力信号Sは、それぞれ次式(35),(36)で表される。
【0094】
[n]=A[n]sin(E[n]θ[n]) …(35)
[n]=A[n]sin(E[n]θ[n]+C) …(36)
[n]をAで表し、A[n]をAで表すことにする。また、両磁気センサ71,72がともに同じ磁極を検出しているとみなす。つまり、E[n]およびE[n]が同じ磁極に対応する角度幅誤差補正値とみなし、Eで表すことにする。これにより、前記式(35),(36)を、それぞれ次式(37),(38) で表わすことができる。
【0095】
[n]=Asin(Eθ[n]) …(37)
[n]=Asin(Eθ[n]+C) …(38)
第1出力信号S[n]に対する第2出力信号S[n]の比S[n]/S[n]を演算すると、次式(39)のようになる。
【0096】
【数11】
前記式(39)からtanEθ[n]を求めると、次式(40)となる。
【0097】
【数12】
また、前記式(40)からθ[n]を求めると、次式(41)となる。
【0098】
【数13】
式(41)において角度幅補正値Eの値を1とする。2つの磁気センサ71,72の出力信号の振幅比A/Aは、予め求められて設定されている。簡易モードでは、今回サンプリングされた第1および第2センサ値S[n], S[n]と、予め設定されている振幅比A/Aと、前記式(41)とを用いて、入力軸8の回転角θ[n]が演算される。
【0099】
振幅比A/Aは、パワーステアリング装置の出荷前に演算されて、トルク演算用ECU77内の不揮発性メモリに格納される。
振幅比A/Aの演算方法について説明する。振幅比A/Aは、ステアリングホイール2を回転させながら、2つの磁気センサ71,72が同じ磁極を検出し続けているときに得られた、3サンプリング分のセンサ値に基づいて、予め演算することができる。これらの3サンプリング分のセンサ値から、前記6つの式(28a)〜(28f)式を得ることができる。
【0100】
[n]=Asin(Eθ[n]) …(28a)
[n-1]=Asin(Eθ[n-1]) …(28b)
[n-2]=Asin(Eθ[n-2]) …(28c)
[n]=Asin(Eθ[n]+120) …(28d)
[n-1]=Asin(Eθ[n-1]+120) …(28e)
[n-2]=Asin(Eθ[n-2]+120) …(28f)
これらの6つの式からなる連立方程式を解くことによって、振幅比A/Aを演算することができる。具体的には、この6つの式に基づいて(A/Aを演算すると、Eを演算するための前記式(30)内のtとなる。したがって、A/Aは、次式(42)に基づいて求めることができる。
【0101】
【数14】
このような簡易モードでは、各磁気センサ71,72の温度による出力信号のばらつきを補償できないが、磁石61の各磁極間の磁束密度のばらつき、各磁気センサ71,72間のホール係数およびホール素子の厚さのばらつきを補償できる。このため、通常モードほどではないが、精度の高い回転角θ[n]を演算することができる。この理由について説明する。
【0102】
振幅A,Aは、次式(43),(44)で表すことができる。
【0103】
【数15】
前記式(43)の右辺の第1項は、第1磁気センサ71の温度が25℃のときの第1磁気センサ71の振幅を表している。前記式(43)の右辺の第2項は、第1磁気センサ71の温度がtのときの第1磁気センサ71の振幅と第1磁気センサ71の温度が25℃のときの第1磁気センサ71の振幅との差を表している。
【0104】
同様に、前記式(44)の右辺の第1項は、第2磁気センサ72の温度が25℃のときの第2磁気センサ72の振幅を表している。前記式(44)の右辺の第2項は、第2磁気センサ72の温度がtのときの第2磁気センサ72の振幅と第2磁気センサ72の温度が25℃のときの第2磁気センサ72の振幅との差を表している
前記式(43),(44)から振幅比A/Aを演算すると、次式(45)となる。
【0105】
【数16】
前記式(45)から分かるように、振幅比A/Aの演算式には、磁束密度Bが存在しなくなるので、磁石61の各磁極間の磁束密度のばらつきを補償することができる。また、各磁気センサ71,72間のホール係数の比RH2/RH1およびホール素子の厚さの比d/dが、振幅比A/Aに反映されるため、各磁気センサ71,72間のホール係数およびホール素子の厚さのばらつきを補償できる。
【0106】
一方、前記式(45)から分かるように、振幅比A/Aを演算したときの各磁気センサ71,72の温度t,tと、簡易モードで回転角θ[n]を演算するときの各磁気センサ71,72の温度t’,t’とが異なる場合には、予め設定された振幅比A/Aと回転角演算時における実際の振幅比A/Aとが一致しないため、演算された回転角θ[n]に誤差が発生する。この誤差は、振幅比A/Aを演算したときの温度t,tと、回転角を演算するときの温度t’,t’との差が大きくなるほど大きくなる。そこで、常温時の温度、予め設定された所定時間走行することにより暖機された状態での温度など、出現頻度の高いと考えられる温度において、振幅比A/Aを演算しておくことが好ましい。
【0107】
簡易モードが設けられている理由について説明する。前述した第1演算方法および第2演算方法では、前回のサンプリング時点と今回のサンプリング時点とにおいて、各磁気センサ71,72の出力信号S,Sが変化していない場合には、p=pとなるため、前回演算された回転角θ[n]が回転角θ[n]として用いられる(表1の上から2番目の演算式を参照)。しかしながら、イグニッションキーがオン操作されることによって、トルク演算用ECU77の電源がオンされた時点では、前回演算された回転角θ[n]は存在しない。このため、トルク演算用ECU77の電源がオンされた後に、各磁気センサ71,72の出力信号S,Sが変化していない場合には、第1演算方法および第2演算方法によって回転角θ[n]を演算できなくなる。このような場合等に、入力軸8の回転角θ[n]を演算するために簡易モードが設けられている。
【0108】
図5は、通常モードにおいて第1演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部77Aの動作を示すフローチャートである。
トルク演算用ECU77の電源がオンすると、第1の回転角演算部77Aは、演算モードを記憶するためのモードフラグFをリセット(F=0)する(ステップS1)。次に、第1の回転角演算部77Aは、第1センサ値S[n]および第2センサ値S[n]を取得する(ステップS2)。このステップS2の処理は、イグニッションキーのオフ操作が行われるまでは、所定の演算周期毎に繰り返し行われる。トルク演算用ECU77内のメモリには、所定回数前に取得されたセンサ値から最新に取得されたセンサ値までの複数回分のセンサ値が記憶されるようになっている。そして、第1の回転角演算部77Aは、モードフラグFがセットされているか否かを判別する(ステップS3)。
【0109】
モードフラグFがセットされていない場合(F=0)には(ステップS3:NO)、第1の回転角演算部77Aは、入力軸8の回転角の前回値が存在していなくても通常モード(第1演算方法)によって入力軸8の回転角θ[n]を演算できる条件が満たされているか否かを判別する(ステップS4)。
入力軸8の回転角の前回値が存在していなくても第1演算方法によって入力軸8の回転角θ[n]を演算するためには、同じ磁気センサ71,72の2サンプリング分のセンサ値が異なっているという条件を満たすことが必要となる。そこで、第1の回転角演算部77Aは、pとp(前記式(5)参照)とが等しくない(p≠p)か否かを判別する。
【0110】
とpとが等しい場合(p=p)には(ステップS4:NO)、第1の回転角演算部77Aは、前記条件が満たされていないと判断し、簡易モードで入力軸8の回転角θ[n] (=θ)を演算する(ステップS5)。また、第1の回転角演算部77Aは、演算された入力軸8の回転角θとモードフラグF(F=0)とをトルク演算部77Cに与える(図2参照)。そして、第1の回転角演算部77Aは、ステップS8に移行する。
【0111】
前記ステップS4において、pとpとが等しくない(p≠p)と判別された場合(p≠p)には(ステップS4:YES)、第1の回転角演算部77Aは、前記条件が満たされていると判断し、モードフラグFをセット(F=1)する(ステップS6)。そして、通常モードで入力軸8の回転角θ[n]を演算する(ステップS7)。つまり、第1の回転角演算部77Aは、前述した第1演算方法によって入力軸8の回転角θ[n](=θ)を演算する。また、第1の回転角演算部77Aは、演算された入力軸8の回転角θとモードフラグF(F=1)とをトルク演算部77Cに与える。この後、第1の回転角演算部77Aは、ステップS8に移行する。
【0112】
ステップS8では、第1の回転角演算部77Aは、イグニッションキーのオフ操作が行われたか否かを判別する。イグニッションキーのオフ操作が行われていなければ(ステップS8:NO)、第1の回転角演算部77Aは、ステップS2に戻って、第1センサ値S[n]および第2センサ値S[n]を再度取得する。
前記ステップS3において、モードフラグFがセットされていると判別された場合(F=1)には(ステップS3:YES)、第1の回転角演算部77Aは、ステップS7に移行し、通常モードで入力軸8の回転角θ[n]を演算する。
【0113】
ステップS8において、イグニッションキーのオフ操作が行われていると判別された場合には(ステップS8:YES)、第1の回転角演算部77Aは、処理を終了する。
第2の回転角演算部77B(図2参照)は、2つの磁気センサ74,75の出力信号S,Sと演算モードを記憶するためのモードフラグFを用いて、第1の回転角演算部77Aと同様な処理を行う。これにより、第2の回転角演算部77B(図2参照)は、出力軸9の回転角θ[n](=θ)を演算し、演算された回転角θをモードフラグFとともに、トルク演算部77Cに与える。トルク演算部77Cは、前記式(1)に基づいて操舵トルクThを演算する。そして、トルク演算部77Cは、演算された操舵トルクThを、モードフラグF,Fとともに、モータ制御用ECU12に与える。
【0114】
図5の処理では、トルク演算用ECU77の電源がオンされた後、ステップS4でp≠pの条件を満たしたと判別されるまでは、簡易モードによって入力軸8の回転角θ[n]が演算される(ステップS1〜S5参照)。トルク演算用ECU77の電源がオンされた後において、ステップS4でp≠pの条件を満たしたと判別されたときおよびそれ以降においては、通常モード(第1演算方法)によって入力軸8の回転角θ[n]が演算される(ステップS2,S3,S4,S6,S7参照)。したがって、トルク演算用ECU77の電源がオンされた直後から入力軸8の回転角θ[n]を演算することができる。また、ステップS4でp≠pの条件を満たしたと判別された後においては、通常モードによって入力軸8の回転角θ[n]が演算されるので、精度の高い回転角を演算することができる。
【0115】
図6は、通常モードにおいて第1演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部77Aの動作の他の例を示すフローチャートである。
トルク演算用ECU77の電源がオンすると、第1の回転角演算部77Aは、第1センサ値S[n]および第2センサ値S[n]を取得する(ステップS11)。このステップS11の処理は、イグニッションキーのオフ操作が行われるまでは、所定の演算周期毎に繰り返し行われる。トルク演算用ECU77内のメモリには、所定回数前に取得されたセンサ値から最新に取得されたセンサ値までの複数回分のセンサ値が記憶されるようになっている。
【0116】
次に、第1の回転角演算部77Aは、入力軸8の回転角の前回値が存在していなくても通常モード(第1演算方法)によって入力軸8の回転角θ[n]を演算できる条件が満たされているか否かを判別する(ステップS12)。具体的には、pとp(前記式(5)参照)とが等しくない(p≠p)か否かを判別する。pとpとが等しい場合(p=p)には(ステップS12:NO)、第1の回転角演算部77Aは、演算モードを記憶するためのモードフラグFをリセット(F=0)した後(ステップS13)、簡易モードで入力軸8の回転角θ[n] (=θ)を演算する(ステップS14)。また、第1の回転角演算部77Aは、演算された入力軸8の回転角θとモードフラグF(F=0)とをトルク演算部77Cに与える。そして、第1の回転角演算部77Aは、ステップS17に移行する。
【0117】
前記ステップS12において、pとpとが等しくないと判別された場合(p≠p)には(ステップS12:YES)、第1の回転角演算部77Aは、モードフラグFをセット(F=1)した後(ステップS15)、通常モードで入力軸8の回転角θ[n]を演算する(ステップS16)。つまり、第1の回転角演算部77Aは、前述した第1演算方法によって入力軸8の回転角θ[n](=θ)を演算する。また、第1の回転角演算部77Aは、演算された入力軸8の回転角θとモードフラグF(F=1)とをトルク演算部77Cに与える。そして、ステップS17に移行する。
【0118】
ステップS17では、第1の回転角演算部77Aは、イグニッションキーのオフ操作が行われたか否かを判別する。イグニッションキーのオフ操作が行われていなければ(ステップS17:NO)、第1の回転角演算部77Aは、ステップS11に戻って、第1センサ値S[n]および第2センサ値S[n]を再度取得する。
ステップS17において、イグニッションキーのオフ操作が行われていると判別された場合には(ステップS17:YES)、第1の回転角演算部77Aは、処理を終了する。
【0119】
図6の処理では、ステップS12でp≠pの条件を満たしていないと判別されたときには、簡易モードによって入力軸8の回転角θ[n]が演算される(ステップS11〜S14参照)。一方、ステップS12でp≠pの条件を満たしていると判別されたときには、通常モード(第1演算方法)によって入力軸8の回転角θ[n]が演算される(ステップS11,S12,S15,S16参照)。したがって、トルク演算用ECU77の電源がオンされた直後から入力軸8の回転角θ[n]を演算することができる。また、ステップS12でp≠pの条件を満たしていると判別されたときおいては、通常モードによって入力軸8の回転角θ[n]が演算されるので、精度の高い回転角を演算することができる。
【0120】
図7は、通常モードにおいて第2演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部77Aの動作を示すフローチャートである。図7の処理は、図5の処理と類似している。図7において、図5に示された各ステップと同様の処理が行われるステップには、図5中と同一参照符号を付して示す。
図7の処理と図5の処理とを比較すると、図7のステップS4AおよびS7Aの内容が、それぞれ図5のステップS4およびS6の内容と異なっているだけであるので、ステップS4AおよびS7Aの処理についてのみ説明する。
【0121】
通常モードにおいて第2演算方法が採用されているので、ステップS7Aでは、第1の回転角演算部77Aは、第2演算方法によって入力軸8の回転角θ[n]を演算する。また、回転角の前回値が存在していない場合において、第2演算方法によって入力軸8の回転角θ[n]を演算するためには、同じ磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値が全て異なっているという条件を満たすことが必要となる。そこで、ステップS4Aでは、第1の回転角演算部77Aは、pとpとが等しくない(p≠p)状態が2回連続しているか否かを判別する。つまり、前演算周期においてpとpとが等しくなくかつ今演算周期においてもpとpとが等しくないという条件を満たしているか否かが判別される。
【0122】
≠p状態が2回連続していないときには(ステップS4A:NO)、同じ磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値が全て異なっているという条件を満たさないので、第1の回転角演算部77Aは、ステップS5に進んで、簡易モードによって入力軸8の回転角θ[n]を演算する。一方、ステップS4Aにおいて、p≠p状態が2回連続していると判別された場合には(ステップS4A:YES)、同じ磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値が全て異なっているという条件を満たすので、第1の回転角演算部77Aは、ステップS6からステップS7Aに進んで、通常モード(第2演算方法)によって入力軸8の回転角θ[n]を演算する。
【0123】
図8は、通常モードにおいて第2演算方法を採用する場合の第1の回転角演算部77Aの動作の他の例を示すフローチャートである。図8の処理は、図6の処理と類似している。図8において、図6に示された各ステップと同様の処理が行われるステップには、図6中と同一参照符号を付して示す。
図8の処理と図6の処理とを比較すると、図8のステップS12AおよびS16Aの内容が、それぞれ図6のステップS12およびS16の内容と異なっているだけであるので、ステップS12AおよびS16Aの処理についてのみ説明する。
【0124】
通常モードにおいて第2演算方法が採用されているので、ステップS16Aでは、第1の回転角演算部77Aは、第2演算方法によって入力軸8の回転角θ[n]を演算する。また、回転角の前回値が存在していない場合において、第2演算方法によって入力軸8の回転角θ[n]を演算するためには、同じ磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値が全て異なっているという条件を満たすことが必要となる。そこで、ステップS12Aでは、第1の回転角演算部77Aは、pとpとが等しくない(p≠p)状態が2回連続しているか否かを判別する。つまり、前演算周期においてpとpとが等しくなくかつ今演算周期においてもpとpとが等しくないという条件を満たしているか否かが判別される。
【0125】
≠p状態が2回連続していないときには(ステップS12A:NO)、同じ磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値が全て異なっているという条件を満たさないので、第1の回転角演算部77Aは、ステップS13からステップS14に進んで、簡易モードによって入力軸8の回転角θ[n]を演算する。一方、ステップS12Aにおいて、p≠p状態が2回連続していると判別された場合には(ステップS12A:YES)、同じ磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値が全て異なっているという条件を満たすので、第1の回転角演算部77Aは、ステップS15からステップS16Aに進んで、通常モード(第2演算方法)によって入力軸8の回転角θ[n]を演算する。
【0126】
次に、第1の振幅比回転角演算部77Dおよび第2の振幅比回転角演算部77Eの動作について説明する。第2の振幅比回転角演算部77Eの動作は、第1の振幅比回転角演算部77Dの動作と同様であるので、第1の振幅比回転角演算部77Dの動作についてのみ説明する。
図9は、第1の振幅比回転角演算部77Dによって実行される振幅比演算処理の手順を説明するためのフローチャートである。この振幅比演算処理は、トルク演算用ECU77の動作モードが、特定の作業者等によって振幅比演算モードに設定されたときに、実行される。作業者等は、トルク演算用ECU77の動作モードを振幅比演算モードに設定すると、ステアリングホイール2を、一定期間、手動で回転させる。
【0127】
振幅比演算処理開始時において第1磁気センサ71が検出している磁極を基準磁極として、各磁極に相対的な番号を割り当てた場合の各磁極の番号を相対的極番号と定義する。第1磁気センサ71が検出している磁極の相対的極番号(以下、「第1相対的極番号」という)を変数r1で表し、第2磁気センサ72が検出している磁極の相対的極番号(以下、「第2相対的極番号」という)を変数r2で表すことにする。なお、各相対的極番号r1,r2は、1〜8の整数をとり、1より1少ない相対的極番号は8となり、8より1大きい相対的極番号は1となるものとする。この実施形態では、振幅比演算処理開始時において第1磁気センサ71が検出している磁極(基準磁極)がN極の磁極である場合には、当該磁極に”1”の相対的極番号が割り当てられる。一方、通常時の回転角演算処理の開始時において第1磁気センサ71が検出している磁極(基準磁極)がS極の磁極である場合には、当該磁極に”2”の相対的極番号が割り当てられる。
【0128】
動作モードが振幅比演算モードに設定されると、第1の振幅比演算部77Dは、各磁気センサ71,72のセンサ値S[n], S[n]を取得する(ステップS21)。このステップS21の処理は、振幅比A/Aが演算されるまでは、所定の演算周期毎に繰り返し行われる。操舵トルク演算用ECU77内のメモリには、所定回数前に取得されたセンサ値から最新に取得されたセンサ値までの複数回分(3回以上)のセンサ値が記憶されるようになっている。
【0129】
第1の振幅比演算部77Dは、今回の処理が振幅比演算処理開始後の初回の処理であるか否かを判別する(ステップS22)。今回の処理が振幅比演算処理開始後の初回の処理である場合には(ステップS22:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、相対的極番号の設定処理を行う(ステップS23)。
図10は、相対的極番号の設定処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
【0130】
第1の振幅比演算部77Dは、まず、第1出力信号Sが0より大きいか否かを判別する(ステップS51)。第1出力信号Sが0より大きい場合には(ステップS51:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、第1磁気センサ71が検出している磁極がN極の磁極であると判別し、第1相対的極番号r1を1に設定する(ステップS54)。そして、ステップS56に進む。
【0131】
一方、第1出力信号Sが0以下である場合には(ステップS51:NO)、第1の振幅比演算部77Dは、第1出力信号Sが0より小さいか否かを判別する(ステップS52)。第1出力信号Sが0より小さい場合には(ステップS52:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、第1磁気センサ71が検出している磁極がS極の磁極であると判別し、第1相対的極番号r1を2に設定する(ステップS55)。そして、ステップS56に進む。
【0132】
前記ステップS52において、第1出力信号Sが0以上であると判別された場合には(ステップS52:NO)、つまり、第1出力信号Sが0である場合には、第1の振幅比演算部77Dは、入力軸8の回転角が0°であるか180°であるかを判別するために、第2出力信号Sが0より大きいか否かを判別する(ステップS53)。第2出力信号Sが0より大きい場合には(ステップS53:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、入力軸8の回転角が0°であると判別し、第1相対的極番号r1を1に設定する(ステップS54)。そして、ステップS56に進む。
【0133】
一方、第2出力信号Sが0以下である場合には(ステップS53:NO)、第1の振幅比演算部77Dは、入力軸8の回転角が180°であると判別し、第1相対的極番号r1を2に設定する(ステップS55)。そして、ステップS56に進む。
ステップS56では、第1の振幅比演算部77Dは、「S≧0かつS>0」または「S≦0かつS<0」の条件を満たしているか否かを判別する。この条件を満たしている場合には(ステップS56:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、第2磁気センサ72が検出している磁極の極番号は、第1磁気センサ71が検出している磁極の極番号と同じであると判別し、第2相対的極番号r2に第1相対的極番号r1と同じ番号(r2=r1)を設定する(ステップS57)。そして、図9のステップS26に移行する。
【0134】
一方、前記ステップS56の条件を満たしていない場合には(ステップS56:NO)、第1の振幅比演算部77Dは、第2磁気センサ72が検出している磁極の極番号は、第1磁気センサ71が検出している磁極の極番号より1だけ大きい番号であると判別し、第2相対的極番号r2に、第1相対的極番号r1より1だけ大きい番号(r2=r1+1)を設定する(ステップS58)。そして、図9のステップS26に移行する。
【0135】
前記ステップS56の条件に基づいて第2相対的極番号r2を決定している理由について説明する。たとえば、磁石61における磁極M1と磁極M2とからなる磁極対が第1磁気センサ71を通過する際の、第1および第2出力信号S,Sの信号波形を模式的に表すと、図11の(a),(b)のようになる。
図11において、Q1およびQ4で示す領域においては、第2磁気センサ72が検出している磁極の極番号は、第1磁気センサ71が検出している磁極の極番号と同じである。一方、Q2,Q3,Q5およびQ6で示す領域においては、第2磁気センサ72が検出している磁極の極番号は、第1磁気センサ71が検出している磁極の極番号より1だけ大きい。
【0136】
領域Q1においては、両センサ値S,Sは、S≧0かつS>0の第1条件を満たす。領域Q2およびQ3においては、両センサ値S,Sは、S>0かつS≦0の第2条件を満たす。領域Q4においては、両センサ値S,Sは、S≦0かつS<0の第3条件を満たす。領域Q5およびQ6においては、両センサ値S,Sは、S<0かつS≧0の第4条件を満たす。そこで、第1の振幅比演算部77Dは、第1条件および第3条件の一方を満たしているときには、第2磁気センサ72が検出している磁極の極番号が、第1磁気センサ71が検出している磁極の極番号と同じであると判別している。一方、第1条件および第3条件のいずれの条件をも満たしていないときには、第1の振幅比演算部77Dは、第2磁気センサ72が検出している磁極の極番号が、第1磁気センサ71が検出している磁極の極番号より1だけ大きいと判別している。
【0137】
図9に戻り、前記ステップS22において、今回の処理が通常時の回転角演算処理開始後の初回の処理ではないと判別された場合には(ステップS22:NO)、ステップS24に移行する。
ステップS24では、第1の振幅比演算部77Dは、メモリに記憶されているセンサ値S,Sに基づいて、センサ値S,S毎に、センサ値の符号が反転するゼロクロスを検出したか否かを判別する。ゼロクロスが検出されなかったときには(ステップS24:NO)、第1の振幅比演算部77Dは、ステップS26に移行する。
【0138】
前記ステップS24において、いずれかのセンサ値S,Sに対してゼロクロスが検出された場合には(ステップS24:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、相対的極番号の更新処理を行なう(ステップS25)。具体的には、第1の振幅比演算部77Dは、前記ステップS14でゼロクロスが検出された磁気センサに対して現在設定されている相対的極番号r1またはr2を、入力軸8(磁石61)の回転方向に応じて、1だけ大きい番号または1だけ小さい番号に変更する。
【0139】
入力軸8の回転方向が正方向(図3に矢印で示す方向)である場合には、第1の振幅比演算部77Dは、前記ステップS14でゼロクロスが検出された磁気センサに対して現在設定されている相対的極番号r1またはr2を、1だけ大きい番号に更新する。一方、入力軸8の回転方向が逆方向である場合には、第1の振幅比演算部77Dは、ゼロクロスが検出された磁気センサに対して現在設定されている相対的極番号r1またはr2を、1だけ小さい番号に更新する。ただし、前述したように、”1”の相対的極番号に対して、1だけ小さい相対的極番号は、”8”となる。また、”8”の相対的極番号に対して、1だけ大きい相対的極番号は、”1”となる。
【0140】
なお、入力軸8の回転方向は、例えば、ゼロクロスが検出された出力信号の前回値および今回値と、他方の出力信号の今回値とに基づいて判定することができる。具体的には、ゼロクロスが検出された出力信号が第1出力信号Sである場合には、「第1出力信号Sの前回値が0より大きくかつその今回値が0以下であり、第2出力信号Sが0より小さい」という条件、または「第1出力信号Sの前回値が0未満でかつその今回値が0以上であり、第2出力信号Sが0より大きい」という条件を満たしている場合には、回転方向は正方向(図3に矢印で示す方向)であると判定される。
【0141】
一方、「第1出力信号Sの前回値が0以上でかつその今回値が0未満であり、第2出力信号Sが0より大きい」という条件、または「第1出力信号Sの前回値が0以下でかつその今回値が0より大きく、第2出力信号Sが0より小さい」という条件を満たしている場合には、回転方向は逆方向であると判定される。
ゼロクロスが検出された出力信号が第2出力信号Sである場合には、「第2出力信号Sの前回値が0より大きくかつその今回値が0以下であり、第1出力信号Sが0より大きい」という条件、または「第2出力信号Sの前回値が0未満でかつその今回値が0以上であり、第1出力信号Sが0より小さい」という条件を満たしている場合には、回転方向は正方向(図3に矢印で示す方向)であると判定される。一方、「第2出力信号Sの前回値が0以上でかつその今回値が0未満であり、第1出力信号Sが0より小さい」という条件、または「第2出力信号Sの前回値が0以下でかつその今回値が0より大きく、第1出力信号Sが0より大きい」という条件を満たしている場合には、回転方向は逆方向であると判定される。
【0142】
相対的極番号の更新処理が終了すると、第1の振幅比演算部77Dは、ステップS26に移行する。ステップS26では、第1の振幅比演算部77Dは、pとpとが等しくない(p≠p)状態が2回連続(2演算周期連続)しているか否かを判別する。これは、振幅比A/Aを前記式(42)によって演算するためには、同じ磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値が全て異なっているという条件を満たすことが必要となるからである。
【0143】
≠pの状態が2回連続していない場合には(ステップS26:NO)、第1の振幅比演算部77Dは、ステップS21に戻る。一方、p≠pの状態が2回連続している場合には(ステップS26:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、第1および第2磁気センサ71,72が、共に同じ1つの磁極を3演算周期連続して検出しているという条件を満たしているか否かを判別する(ステップS27)。これは、振幅比A/Aを演算するために用いられる前記式(42)は、両磁気センサ71,72における3サンプリング分のセンサ値に含まれる全ての相差誤差補正値Eが等しいことを前提として導かれているからである。各演算周期において、各磁気センサ71,72が検出している磁極の相対的番号は、それぞれ第1相対的磁極番号r1および第2相対的磁極番号r2によって認識することができる。したがって、所定演算周期前から今演算周期までの複数演算周期分の各相対的磁極番号r1,r2をメモリに記憶することにより、第1の振幅比演算部77Dは、ステップS27の判別を行うことができる。
【0144】
ステップS27の条件を満たしていない場合には(ステップS27:NO)、第1の振幅比演算部77Dは、ステップS21に戻る。一方、ステップS27の条件を満たしている場合には(ステップS27:YES)、第1の振幅比演算部77Dは、両磁気センサ71,72の3サンプリング分のセンサ値と前記式(42)とを用いて、両磁気センサ71,72の出力信号の振幅比A/Aを演算して、不揮発性メモリに記憶する(ステップS28)。そして、振幅比演算処理を終了する。
【0145】
図12は、モータ制御用ECU12の電気的構成を示す概略図である。
モータ制御用ECU12(図1参照)は、トルクセンサ11から与えられる操舵トルクThおよびモードフラグF,Fに応じて電動モータ18を駆動することによって、操舵状況に応じた適切な操舵補助を実現する。モータ制御用ECU12は、マイクロコンピュータ40と、マイクロコンピュータ40によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)31と、電動モータ18に流れるモータ電流を検出する電流検出部32とを備えている。
【0146】
電動モータ18は、例えば三相ブラシレスモータであり、図13に図解的に示すように、界磁としてのロータ100と、U相、V相およびW相のステータ巻線101,102,103を含むステータ105とを備えている。電動モータ18は、ロータの外部にステータを対向配置したインナーロータ型のものであってもよいし、筒状のロータの内部にステータを対向配置したアウターロータ型のものであってもよい。
【0147】
各相のステータ巻線101,102,103の方向にU軸、V軸およびW軸をとった三相固定座標(UVW座標系)が定義される。また、ロータ100の磁極方向にd軸(磁極軸)をとり、ロータ100の回転平面内においてd軸と直角な方向にq軸(トルク軸)をとった二相回転座標系(dq座標系。実回転座標系)が定義される。dq座標系は、ロータ100とともに回転する回転座標系である。dq座標系では、q軸電流のみがロータ100のトルク発生に寄与するので、d軸電流を零とし、q軸電流を所望のトルクに応じて制御すればよい。ロータ100の回転角(電気角)θ-Sは、U軸に対するd軸の回転角である。dq座標系は、ロータ角θ-Sに従う実回転座標系である。このロータ角θ-Sを用いることによって、UVW座標系とdq座標系との間での座標変換を行うことができる。
【0148】
マイクロコンピュータ40は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、電流指令値設定部41と、電流偏差演算部42と、PI(比例積分)制御部43と、dq/UVW変換部44と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部45と、UVW/dq変換部46と、回転角演算部47とを含む。
【0149】
回転角演算部47は、回転角センサ25の出力信号に基づいて、電動モータ18のロータの回転角(電気角。以下、「ロータ角θ」という。)を演算する。
電流指令値設定部41は、dq座標系の座標軸に流すべき電流値を電流指令値として設定する。具体的には、電流指令値設定部41は、d軸電流指令値Iおよびq軸電流指令値I(以下、これらを総称するときには「二相電流指令値Idq」という。)を設定する。さらに具体的には、電流指令値設定部41は、q軸電流指令値Iを有意値とする一方で、d軸電流指令値Iを零とする。より具体的には、電流指令値設定部41は、トルクセンサ11から与えられる操舵トルク(検出操舵トルク)ThおよびモードフラグF,Fに基づいて、q軸電流指令値Iを設定する。
【0150】
モードフラグFは、操舵トルクThの演算に用いられた入力軸8の回転角θが通常モードで演算されている場合には1となり、簡易モードで演算されている場合には0となる。モードフラグFは、操舵トルクThの演算に用いられた出力軸9の回転角θが通常モードで演算されている場合には1となり、簡易モードで演算されている場合には0となる。
【0151】
モードフラグF,Fの値が共に1である場合の、q軸電流指令値Iの設定方法について説明する。この場合における、検出操舵トルクThに対するq軸電流指令値Iの設定例は、図14Aに示されている。検出操舵トルクThは、たとえば、右方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、左方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、q軸電流指令値Iは、電動モータ18から右方向操舵のための操作補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ18から左方向操舵のための操作補助力を発生させるべきときには負の値とされる。q軸電流指令値Iは、検出操舵トルクThの正の値に対しては正をとり、検出操舵トルクThの負の値に対しては負をとる。検出操舵トルクThが零のときには、q軸電流指令値Iは零とされる。そして、検出操舵トルクThの絶対値が大きくなるほど、q軸電流指令値Iの絶対値が大きくなるように、q軸電流指令値Iが設定されている。
【0152】
次に、モードフラグF,Fの値が共に0である場合の、q軸電流指令値Iの設定方法について説明する。入力軸8の回転角θが簡易モードで演算された場合の、回転角θの想定される最大誤差をεとし、出力軸9の回転角θが簡易モードで演算された場合の、回転角θの想定される最大誤差をεとする。ここでは、εとεとは等しいと仮定し、これらをεで表すことにする(ε=ε=ε)とする。操舵トルクThの演算に用いられた入力軸8および出力軸9の回転角θ,θのそれぞれに前記最大誤差εが発生していると仮定した場合に、これらの最大誤差εに起因して発生する検出操舵トルクの誤差の大きさ(想定最大トルク誤差)をTh1(>0)とする。この想定最大トルク誤差Th1の大きさは、予め演算によって求められているものとする。
【0153】
モードフラグF,Fの値が共に0である場合における、検出操舵トルクThに対するq軸電流指令値Iの設定例は、図14Bに示されている。検出操舵トルクThの絶対値が前記想定最大トルク誤差Th1以下の領域には、q軸電流指令値Iが零となる不感帯が設定されている。検出操舵トルクThがTh1より大きい領域では、q軸電流指令値Iは正の一定値となるように設定されている。検出操舵トルクThが−Th1より小さい領域では、q軸電流指令値Iは負の一定値となるように設定されている。
【0154】
これにより、入力軸8の回転角θおよび出力軸9の回転角θの両方が簡易モードによって演算されたことによって、操舵トルクThに誤差が発生したとしても、本来発生させるべき操舵補助トルクの方向と反対方向の操舵補助トルクが電動モータ18から発生されるのを防止することができる。
次に、モードフラグF,Fのうちのいずれか一方が0であり、他方が1である場合の、q軸電流指令値Iの設定方法について説明する。この場合には、入力軸8の回転角θおよび出力軸の回転角θのうちの一方のみが簡易モードで演算されているので、想定される検出操舵トルクの最大誤差は、前記想定最大トルク誤差Th1の1/2となる。したがって、この場合の検出操舵トルクThに対するq軸電流指令値Iの設定例は、図14Cに示すようになる。検出操舵トルクThの絶対値が前記想定最大トルク誤差Th1の1/2以下の領域には、q軸電流指令値Iが零となる不感帯が設定されている。検出操舵トルクThがTh1/2より大きい領域では、q軸電流指令値Iは正の一定値となるように設定されている。検出操舵トルクThが−Th1/2より小さい領域では、q軸電流指令値Iは負の一定値となるように設定されている。
【0155】
これにより、入力軸8の回転角θおよび出力軸9の回転角θのうちの一方が簡易モードによって演算されたことによって、操舵トルクThに誤差が発生したとしても、本来発生させるべき操舵補助トルクの方向と反対方向の操舵補助トルクが電動モータ18から発生されるのを防止することができる。
電流指令値設定部41によって設定された二相電流指令値Idqは、電流偏差演算部42に与えられる。
【0156】
電流検出部32は、電動モータ18のU相電流I、V相電流IおよびW相電流I(以下、これらを総称するときは、「三相検出電流IUVW」という。)を検出する。電流検出部32によって検出された三相検出電流IUVWは、UVW/dq変換部46に与えられる。
UVW/dq変換部46は、電流検出部32によって検出されるUVW座標系の三相検出電流IUVW(U相電流I、V相電流IおよびW相電流I)を、dq座標系の二相検出電流IおよびI(以下総称するときには「二相検出電流Idq」という。)に座標変換する。この座標変換には、回転角演算部47によって演算されたロータ角θが用いられる。
【0157】
電流偏差演算部42は、電流指令値設定部41によって設定される二相電流指令値Idqと、UVW/dq変換部46から与えられる二相検出電流Idqとの偏差を演算する。より具体的には、電流偏差演算部42は、d軸電流指令値Iに対するd軸検出電流Iの偏差およびq軸電流指令値Iに対するq軸検出電流Iの偏差を演算する。これらの偏差は、PI制御部43に与えられる。
【0158】
PI制御部43は、電流偏差演算部42によって演算された電流偏差に対するPI演算を行なうことにより、電動モータ18に印加すべき二相電圧指令値Vdq(d軸電圧指令値Vおよびq軸電圧指令値V)を生成する。この二相電圧指令値Vdqは、dq/UVW変換部44に与えられる。
dq/UVW変換部44は、二相電圧指令値Vdqを三相電圧指令値VUVWに座標変換する。この座標変換には、回転角演算部47によって演算されたロータ角θが用いられる。三相電圧指令値VUVWは、U相電圧指令値V、V相電圧指令値VおよびW相電圧指令値Vからなる。この三相電圧指令値VUVWは、PWM制御部45に与えられる。
【0159】
PWM制御部45は、U相電圧指令値V、V相電圧指令値VおよびW相電圧指令値Vにそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路31に供給する。
駆動回路31は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部45から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相電圧指令値VUVWに相当する電圧が電動モータ18の各相のステータ巻線101,102、103に印加されることになる。
【0160】
電流偏差演算部42およびPI制御部43は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、電動モータ18に流れるモータ電流が、電流指令値設定部41によって設定された二相電流指令値Idqに近づくように制御される。
この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0161】
1…電動パワーステアリング装置、8…入力軸、9…出力軸、12…モータ制御用ECU、18…電動モータ、61,62…磁石、71,72,74,75…磁気センサ、77…トルク演算用ECU、77A…第1の回転角演算部、77B…第2の回転角演算部、77D…第1の振幅比演算部、77E…第2の振幅比演算部
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