特許第6025043号(P6025043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6025043半導体封止用エポキシ樹脂組成物および半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025043
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】半導体封止用エポキシ樹脂組成物および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20161107BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20161107BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20161107BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20161107BHJP
【FI】
   C08G59/40
   C08L63/00 Z
   C08K3/00
   H01L23/30 R
   H01L33/56
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-245419(P2012-245419)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-94979(P2014-94979A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 和人
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 絵美
(72)【発明者】
【氏名】堀井 照詞
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−311158(JP,A)
【文献】 特開平08−239376(JP,A)
【文献】 特開2011−231153(JP,A)
【文献】 特開2003−160642(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052161(WO,A1)
【文献】 特開2012−041422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
H01L 23/29
H01L 23/31
H01L 33/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填剤を必須成分として含有しニッケルメッキまたは銀メッキリードフレームに搭載された半導体素子を封止するための成形材料として用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記硬化剤として、トリメリット酸無水物エステル混合物およびフェノール樹脂を含有し、
前記トリメリット酸無水物エステル混合物は、以下の(a)〜(e)を満足することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
(a)トリメリット酸無水物と多価アルコールとのエステルである。
(b)前記(a)のエステル化に際して多価アルコール1分子に対して平均1.5分子以上のトリメリット酸無水物がエステル化している。
(c)トリメリット酸無水物そのものを1〜25質量%含有する。
(d)(a)および(b)の条件を満足する混合物の軟化点が60〜100℃の範囲内である。
(e)トリメリット酸無水物エステルの含有量が50〜90質量%の範囲内である。
【請求項2】
常温で固体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記多価アルコールがエチレングリコールまたはグリセリンであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記トリメリット酸無水物エステル混合物の含有量は、前記硬化剤全量に対して1〜50質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記フェノール樹脂は、軟化点50〜120℃でかつ水酸基当量が90〜220g/eqの範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物によりニッケルメッキまたは銀メッキリードフレームに搭載された半導体素子が封止されていることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止のための成形材料として用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、ニッケルメッキまたは銀メッキリードフレームを用いた半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集積回路等の半導体素子の封止材料としてセラミックや熱硬化性樹脂が一般に用いられている。トランジスタ、IC等の半導体素子の封止の分野では生産性、コスト等の面から樹脂封止が主流となり、エポキシ樹脂組成物が成形材料として広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂組成物は電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との密着性等の諸特性のバランスが良く、経済性と性能とのバランスにも優れている点等が挙げられる。
【0003】
特に集積回路では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂系硬化剤、および溶融シリカや結晶シリカ等の無機充填剤を配合した耐熱性、耐湿性に優れたエポキシ樹脂組成物が用いられている(特許文献1、2参照)。
【0004】
半導体素子は、これを外部環境から保護して各種信頼性を確保するとともに基板への実装を容易にするためパッケージが必要である。パッケージには種々の形態があるが、一般には低圧トランスファ成形法で封止したパッケージが広く用いられている。このパッケージは、金属製リードフレームに半導体素子が固着され、半導体素子表面の電極とインナーリードとが金ワイヤで電気的に接続される。そして半導体素子、金ワイヤ、およびリードフレームの一部が封止樹脂を用いて低圧トランスファ成形法で封止される。
【0005】
エポキシ樹脂組成物を用いる封止法においては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を樹脂成分とし、かつフェノールノボラック樹脂を硬化剤成分とする成形材料が最も一般的に用いられている。
【0006】
この封止樹脂は、リードフレームに用いられる金属との密着性が求められる。リードフレームの材質は、電気特性、放熱特性に優れた銅が主流であるが、銅は酸化されやすく、それにより生じる様々な問題を避けるため、リードフレームにニッケルや銀等のメッキで処理することが多くなってきている。
【0007】
ところが、リードフレームをメッキ処理すると、封止樹脂とリードフレームとの密着性が低下するという問題が生じる。
【0008】
そこで、ニッケルメッキのリードフレームと封止樹脂との密着力を向上させる手段として、芳香族系酸無水物を樹脂組成物に配合することが知られている。
【0009】
しかしながら、単に芳香族系酸無水物を樹脂組成物に配合しただけでは、トランスファ成形等の封止成形での金型からの離型性や保存安定性の面から不適当であった。
【0010】
また、多官能酸無水物化合物を用いると、金属密着性の高い樹脂組成物が期待できるが、融点が高いため、樹脂組成物に均一に溶融分散することが困難である。
【0011】
特許文献3には、トリメリット酸エステル化合物を使用したエポキシ樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−143950号公報
【特許文献2】特開2010−031126号公報
【特許文献3】特許第3094829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、トリメリット酸エステル化合物のみをエポキシ樹脂の硬化剤として用いた場合、耐湿信頼性、連続成形性、保存安定性の面で半導体封止材料の硬化剤としては不適当である。
【0014】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、封止樹脂と金型との離型性を維持しつつ、保存安定性も良好で、表面がニッケルメッキまたは銀メッキで形成されたリードフレームと封止樹脂との密着性が高く、吸湿半田特性を向上させることができる半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填剤を必須成分として含有しニッケルメッキまたは銀メッキリードフレームに搭載された半導体を封止するための成形材料として用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、前記硬化剤として、トリメリット酸無水物エステル混合物およびフェノール樹脂を含有することを特徴とする。
【0016】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、常温で固体であることが好ましい。
【0017】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、トリメリット酸無水物エステル混合物は、以下の(a)〜(e)を満足することが好ましい。
(a)トリメリット酸無水物と多価アルコールとのエステルである。
(b)前記(a)のエステル化に際して多価アルコール1分子に対して平均1.5分子以上のトリメリット酸無水物がエステル化している。
(c)トリメリット酸無水物そのものを1〜25質量%含有する。
(d)(a)および(b)の条件を満足する混合物の軟化点が60〜175℃の範囲内である。
(e)トリメリット酸無水物エステルの含有量が50〜90質量%の範囲内である。
【0018】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、多価アルコールがエチレングリコールまたはグリセリンであることが好ましい。
【0019】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、トリメリット酸無水物エステル混合物の含有量は、硬化剤全量に対して1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0020】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、フェノール樹脂は、軟化点50〜120℃でかつ水酸基当量が90〜220g/eqの範囲内であることが好ましい。
【0021】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、トリメリット酸無水物エステル混合物の軟化点は、60〜100℃の範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明の半導体装置は、前記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物および半導体装置によれば、封止樹脂と金型との離型性を維持しつつ、保存安定性も良好で、表面がニッケルメッキまたは銀メッキで形成されたリードフレームと封止樹脂との密着性が高く、吸湿半田特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造は特に限定されず各種のものを用いることができる。
【0026】
具体的には、例えば、グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型、オレフィン酸化型(脂環式)等の各種のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0027】
さらに具体的には、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂等のブロム含有エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
半導体封止用エポキシ樹脂組成物としての耐湿信頼性を考慮すると、エポキシ樹脂中に含まれるイオン性不純物であるNaイオンやClイオンが極力少ない方が好ましい。
【0029】
中でも、次のトリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂を好適に用いることができる。
【0030】
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(I)で表わされるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
(式中、R1は水素原子および炭素数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、aは1〜10の整数を示す。)
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(II)で示されるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0033】
【化2】
【0034】
(式中、R11〜R18は水素原子および炭素数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。bは0〜3の整数を示す。)
ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(III)で表わされるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0035】
【化3】
【0036】
(式中、R21は水素原子および炭素数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、cは0〜10の整数を示す。)
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して好ましくは7〜35質量%である。このような範囲で用いると、封止樹脂の流動性や成形品の物性等を高めることができる。
【0037】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、硬化剤として、トリメリット酸無水物エステル混合物およびフェノール樹脂が配合される。これらを併用することで、封止樹脂と金型との離型性を維持しつつ、保存安定性も良好で、表面がニッケルメッキまたは銀メッキで形成されたリードフレームと封止樹脂との密着性が高く、吸湿半田特性を向上させることができる。これらの点から、トリメリット酸無水物エステル混合物は、以下の(a)〜(e)を満足することが好ましい。
(a)トリメリット酸無水物と多価アルコールとのエステルである。
(b)前記(a)のエステル化に際して多価アルコール1分子に対して平均1.5分子以上のトリメリット酸無水物がエステル化している。
(c)トリメリット酸無水物そのものを1〜25質量%含有する。
(d)(a)および(b)の条件を満足する混合物の軟化点が60〜175℃の範囲内である。なお、ここで軟化点は、JIS K 7231(エポキシ樹脂及び硬化剤の試験方法通則)に準拠し、軟化点測定器を用いて環球法によって測定することができる。
(e)トリメリット酸無水物エステルの含有量が50〜90質量%の範囲内である。
【0038】
なお、多価アルコールは、エチレングリコールまたはグリセリンであることが好ましい。また、トリメリット酸無水物エステル混合物の含有量は、硬化剤全量に対して1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内で用いると、封止樹脂と金型との離型性を維持しつつ、保存安定性も良好で、表面がニッケルメッキまたは銀メッキで形成されたリードフレームと封止樹脂との密着性が高く、吸湿半田特性を向上させることができる。
【0039】
トリメリット酸無水物エステル混合物の軟化点は、特に60〜100℃の範囲内であることが好ましい。この範囲内にすると、混練性を高めることができる。
【0040】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂、フェニレン骨格またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂、トリフェノールメタン型樹脂等の多官能型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂等のジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール型樹脂、ビスフェノールS等の硫黄原子含有型フェノール樹脂、トリアジン変性ノボラック樹脂等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
中でも、ノボラック型フェノール樹脂や、次のトリフェニルメタン型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂を好適に用いることができる。
【0042】
トリフェニルメタン型フェノール樹脂としては、たとえば下記式(IV)で表わされるフェノール樹脂等が挙げられる。
【0043】
【化4】
【0044】
(式中、R31は水素原子および炭素数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、dは1〜10の整数を示す。)
ビフェニルアラルキル樹脂としては、例えば、下記式(V)で表わされるフェノール樹脂等が挙げられる。
【0045】
【化5】
【0046】
(式中、R41〜R49は全てが同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜10のアリール基、および、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数6〜10のアラルキル基から選ばれ、中でも水素原子とメチル基が好ましい。eは0〜10の整数を示す。)
中でも、フェノール樹脂は、軟化点50〜120℃でかつ水酸基当量が90〜220g/eqの範囲内であることが好ましい。
なお、ここで軟化点は、JIS K7231(エポキシ樹脂及び硬化剤の試験方法通則)に準拠し、軟化点測定器を用いて環球法によって測定することができる。
【0047】
この範囲内のものを用いると、上記のトリメリット酸無水物エステル混合物と併用することで、封止樹脂と金型との離型性を維持しつつ、保存安定性も良好で、表面がニッケルメッキまたは銀メッキで形成されたリードフレームと封止樹脂との密着性が高く、吸湿半田特性を向上させることができる。
【0048】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂と硬化剤との化学量論上の当量比(硬化剤/エポキシ樹脂)は、0.5〜1.5の範囲内が好ましく、当量比が0.6〜1.4となる量がより好ましい。この当量比が1.5以下であると、硬化不足や硬化物の耐熱性や強度の低下を抑制することができ、また当量比が0.5以上であると、接着強度の低下や硬化物の耐熱性や吸湿量の増加も抑制することができる。
【0049】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、硬化促進剤を配合することができる。硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のシクロアミジン類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、無機充填剤が配合される。無機充填剤を配合することで、硬化物の熱膨張係数を調整することができる。無機充填剤としては、特に制限されず、例えば公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
これらの中でも、充填性や流動性を考慮すると、溶融球状シリカが好ましく、特に真球に近いものが好ましい。熱伝導性を考慮すると、アルミナ、結晶シリカ、窒化珪素等が好ましい。
【0052】
無機充填剤の平均粒径は、特に限定されないが、例えば0.2〜70μmの範囲のものを用いることができる。中でも流動性の向上等の観点からは、平均粒径が0.5〜10μmの範囲のものが好ましい。なお、ここで平均粒径は、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径(d50、体積基準)として求めることができる。
【0053】
さらに、粘度や硬化物の物性を調整するために、粒径の異なる無機充填剤を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0054】
無機充填剤の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して60〜93質量%が好ましい。無機充填剤の含有量が少な過ぎると、線膨張が大きくなるため、リフロー時の反りの変化量が大きくなる場合がある。無機充填剤の含有量が多過ぎると、十分な流動性が確保されず、ワイヤースイープが大きくなる場合がある。
【0055】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、カップリング剤を配合することができる。カップリング剤は、無機充填剤と樹脂の濡れ、被着体との接着性を改善する。
【0056】
カップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のグリシドキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、アルミニウム/ジルコニウムカップリング剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物におけるカップリング剤の含有量は、無機充填剤とカップリング剤の合計量に対して0.1〜2.0質量%が好ましい。この範囲内にすると、硬化物の密着性を向上させることができる。
【0058】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに他の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、離型剤、カップリング剤、難燃剤、着色剤、低応力化剤、イオントラップ剤等を用いることができる。
【0059】
離型剤としては、カルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン等を用いることができる。
【0060】
難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、赤リン等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン、フタロシアニン、ペリレンブラック等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
低応力化剤としては、例えば、シリコーンエラストマー、シリコーンオイル、アクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体等のブタジエン系ゴム等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類化合物、アルミニウム、ビスマス、チタン、およびジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、次のようにして製造することができる。例えば、前記のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および必要に応じて他の添加剤を配合し、ミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一になるまで混合する。その後、熱ロールやニーダー等の混練機により加熱状態で溶融混合し、これを室温に冷却した後、公知の手段により粉砕することにより半導体封止用エポキシ樹脂組成物を製造することができる。
【0065】
なお、半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、低圧トランスファ成形法等の成形材料として適切なものである点を考慮すると、常温(5〜35℃の範囲内、特に15〜25℃の範囲内)で固体であることが好ましい。より具体的には、粉末状であってもよいが、取り扱いを容易にするために、成形条件に合うような寸法と質量に打錠したタブレットとしてもよい。
【0066】
本発明の半導体装置は、前記のようにして得られた半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止することにより製造することができる。
【0067】
半導体素子としては、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子等を用いることができる。またSiC、GaN等の新規のパワーデバイスにも用いることができる。
【0068】
本発明の半導体装置のパッケージ形態としては、例えば、Mini、Dパック、D2パック、To220、To3P、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)等の挿入型パッケージ、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)等の表面実装型のパッケージ等を挙げることができる。
【0069】
このようなパッケージにおいては、例えば、リードフレームのダイパッド上に、ダイボンド材硬化物を介して半導体素子が固定される。半導体素子の電極パッドとリードフレームとの間は金線等のワイヤにより電気的に接続される。そして半導体素子は、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により封止される。
【0070】
本発明の半導体装置は、例えば次のようにして製造される。例えば、半導体素子を搭載したニッケルメッキまたは銀メッキリードフレームを金型キャビティ内に設置した後、半導体封止用エポキシ樹脂組成物を低圧トランスファ成形法、コンプレッション成形法、インジェクション成形法等の方法で成形硬化することができる。
【0071】
低圧トランスファ成形法においては、半導体素子が搭載されたニッケルメッキまたは銀メッキリードフレームを金型のキャビティ内に配置した後、このキャビティ内に溶融状態の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を所定の圧力で注入し、溶融した半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、基板上の半導体素子を包み込みながらキャビティ内を流動し、キャビティ内に充満する。
【0072】
このときの注入圧力は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物や半導体装置の種類に応じて適宜に設定することができるが、例えば4〜7MPa、金型温度は、例えば160〜190℃、成形時間は、例えば30〜300秒等に設定することができる。
【0073】
次に、金型を閉じたまま後硬化(ポストキュア)を行った後、型開きして成形物すなわち半導体装置(パッケージ)を取り出す。このときの後硬化条件は、例えば160〜190℃で2〜8時間に設定することができる。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1および表2に示す配合量は質量部を表す。
【0075】
表1および表2に示す配合成分として、以下のものを用いた。
(無機充填剤)
球状溶融シリカ:電気化学工業 FB940
(シランカップリング剤)
信越シリコーン KBM403 γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(エポキシ樹脂)
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂 日本化薬 EPPN−502
ビフェニル型エポキシ樹脂 三菱化学 YX4000
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 DIC N−665
(フェノール樹脂系硬化剤)
フェノールノボラック樹脂 明和化成 H−3M
トリフェニルメタン型フェノール樹脂 明和化成 MEH−7500
ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂 明和化成 MEH−7851 SS
(顔料)
三菱化学 MA600
(離型剤)
カルナバワックス
(硬化促進剤)
北興化学工業 TPP トリフェニルホスフィン
(酸無水物系硬化剤)
酸無水物A:東京化成トリメリット酸無水物(mp168℃)
酸無水物B:東京化成ピロメリット酸無水物(mp283℃)
トリメリット酸無水物エステル混合物(A):新日本理化 TMEG−S(軟化点64〜74℃)
トリメリット酸無水物エステル混合物(B):新日本理化 TMTA−C(軟化点65〜85℃)
表1および表2に示す各配合成分を、表1および表2に示す割合で配合し、ミキサーにより均一に混合分散した後、約100℃に加熱したニーダーで混練溶融させて押し出し、冷却、粉砕後、圧縮によりタブレット化した半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0076】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて次の評価を行った。
[溶融混練後融け残り]
溶融混練後の封止樹脂の概観を目視で確認した。
[保存安定性]
混練直後のスパイラルフロー値を100として、25℃/96hr後の材料のスパイラルフロー減少率で評価した。
【0077】
スパイラルフロー値は、ASTM D3123に準拠したスパイラルフロー測定金型を用いて、金型温度170℃、注入圧力6.9MPa、成形時間120秒の条件で半導体封止用エポキシ樹脂組成物の成形を行い、流動距離(cm)を測定した。
[連続成形性の評価]
35□PBGAをマルチトランスファープレス(E−Pin無)で何Shotまで金型上部に張り付くことなく連続して成形できるかを評価した(最大50shot)。
[ニッケルメッキ密着性]
Cu板(KFC−H)にニッケルメッキを施した基材に直径2.5mmφの円柱状に半導体封止用エポキシ樹脂組成物の成形品を低圧トランスファ成形により作製した。成形後、175℃で6時間後硬化し、得られたテストピースについてボンドテスターを用いてせん断密着力(円柱状成形品と基材のシェア強度:MPa)を測定した。
[銀メッキ密着性]
Cu板(KFC−H)に銀メッキを施した基材に直径2.5mmφの円柱状に半導体封止用エポキシ樹脂組成物の成形品を低圧トランスファ成形により作製した。成形後、175℃で6時間後硬化し、得られたテストピースについてボンドテスターを用いてせん断密着力(円柱状成形品と基材のシェア強度:MPa)を測定した。
【0078】
評価結果を表1および表2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1および表2より、実施例1〜7は、硬化剤としてトリメリット酸無水物エステル混合物およびフェノール樹脂を配合した。これらの実施例では、封止樹脂と金型との離型性を維持しつつ、保存安定性も良好で、表面がニッケルメッキまたは銀メッキで形成されたリードフレームと封止樹脂との密着性を高めることができた。
【0082】
エポキシ樹脂等の配合を同一にした実施例1と比較例1との対比、実施例4、5と比較例5との対比、実施例6、7と比較例6との対比からもトリメリット酸無水物エステル混合物およびフェノール樹脂の併用による効果が明らかに表れている。
【0083】
比較例2、3は芳香族系酸無水物を配合したが、樹脂組成物に均一に溶融分散することが困難であった。
【0084】
比較例4はフェノール樹脂を配合せず硬化剤としてトリメリット酸無水物エステル混合物のみ用いたが、トランスファ成形での金型からの離型性や保存安定性が不十分であった。