【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る構造物欠陥の映像化方法は、構造物に含まれる閉じたき裂のような欠陥を検出するための構造物欠陥の映像化方法であって、所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波をそれぞれ送信信号として前記構造物に送信し、前記構造物から反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得る送受信工程と、前記送受信工程で得られた各受信信号に対して、前記基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるフィルタ工程と、前記フィルタ工程後の各受信信号に基づいて、各受信信号に対応する複数種類の映像データを得る映像化工程と、前記映像化工程で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、前記欠陥の映像を得る演算工程とを、有することを特徴とする。
【0014】
特に、本発明に係る構造物欠陥の映像化方法で、前記送受信工程は、各送信信号として、それぞれ振幅u
1および振幅u
2(u
2>u
1)を有する2種類の超音波を送信し、前記映像化工程は、振幅u
1の送信信号に対応する応答強度F
1の映像データと振幅u
2の送信信号に対応する応答強度F
2の映像データとを得、前記演算工程は、ΔF=F
2−(u
2/u
1)×F
1により各映像データの差分応答強度ΔFを算出し、その差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより前記欠陥の映像を得ることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る構造物欠陥の映像化装置は、構造物に含まれる閉じたき裂のような欠陥を検出するための構造物欠陥の映像化装置であって、所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波をそれぞれ送信信号として前記構造物に送信し、前記構造物から反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得るよう構成された送受信手段と、前記送受信手段で得られた各受信信号に対して、前記基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるよう構成されたフィルタ手段と、前記フィルタ手段で処理後の各受信信号に基づいて、各受信信号に対応する複数種類の映像データを得るよう構成された映像化手段と、前記映像化手段で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、前記欠陥の映像を得るよう構成された演算手段とを、有することを特徴とする。
【0016】
特に、本発明に係る構造物欠陥の映像化装置で、前記送受信手段は、各送信信号として、それぞれ振幅u
1および振幅u
2(u
2>u
1)を有する2種類の超音波を送信するよう構成され、前記映像化手段は、振幅u
1の送信信号に対応する応答強度F
1の映像データと振幅u
2の送信信号に対応する応答強度F
2の映像データとを得るよう構成され、前記演算手段は、ΔF=F
2−(u
2/u
1)×F
1により各映像データの差分応答強度ΔFを算出し、その差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより前記欠陥の映像を得るよう構成されていることが好ましい。
【0017】
本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、送信する超音波の基本周波数を主成分として含む基本波を用い、以下に示す原理に基づいて構造物に含まれる閉じたき裂などの欠陥を検出することができる。
【0018】
すなわち、
図1に示すように、閉じたき裂の位置ベクトルをr
C、線形散乱源である閉じたき裂より前方(
図1では左側)の底面の位置ベクトルをr
F、閉じたき裂より後方(
図1では右側)の底面の位置ベクトルをr
Rとする。送信する超音波の入射波振幅が小さい場合、超音波が閉じたき裂を透過してしまうため、閉じたき裂からの応答は微小である。一方、送信する超音波の入射波振幅がしきい値を超えた場合、閉じたき裂が超音波の応力により開閉振動し、分調波や高調波だけではなく基本波の応答も著しく増大する。このとき、閉じたき裂は超音波の入射波振幅に対して非線形応答を示すため、その非線形応答を、
図2に示す最も単純な非線形関数である2次関数と仮定する。
【0019】
これにより、閉じたき裂における基本波像の応答強度F
Cは、(1)式のようになる。
【数1】
ここで、c
1は閉じたき裂での基本波の散乱係数、u
0(r
C)は閉じたき裂での入射波振幅である。
【0020】
次に、基本波像における底面の応答を考える。き裂の前方の底面r
Fおよび後方の底面r
Rにおける基本波像の応答強度F
FおよびF
Rは、入射波振幅に対して線形であるため、それぞれ(2)式および(3)式となる。
【数2】
ここで、b
1は線形散乱源(底面)での基本波の散乱係数、Tは閉じたき裂r
Tにおける基本波成分の往復の透過率である。ここで、小振幅の場合、基本波はほぼ全て透過するためT≒1となり、大振幅の場合、き裂の開閉振動により基本波のエネルギーが失われるためT<1となる。
【0021】
(1)〜(3)式から、
図1(a)に示す入射波振幅が小さい場合、入射波振幅u
1=u
0として、位置rにおける基本波像の応答強度F
1は、(4)式となる。
【数3】
ここで、小振幅では基本波はほぼ全て透過するためT≒1であり、δ(r)はr=0付近で大きな値をもつデルタ関数である。
【0022】
また、(1)〜(3)式から、
図1(b)に示す入射波振幅が大きい場合、入射波振幅u
2=au
0(a=u
2/u
1>1)として、位置rにおける基本波像の応答強度F
2は、(5)式となる。
【数4】
【0023】
強度および符号の比較のため、r
F、r
C、r
Rを1次元に投影し、各位置における応答強度をガウス関数で表した模式図を、
図3に示す。(4)式で表される小振幅の場合の応答強度F
1に振幅比aを乗じたものを
図3(a)に、(5)式で表される大振幅の場合の応答強度F
2を
図3(b)に示す。ここで、F
2から振幅比aを乗じたF
1の差分をとると、底面r
Fは除去され、位置rにおけるその差分応答強度ΔFは、(6)式となる。
【数5】
【0024】
ここで、a>1よりA>0である。また、a>1、b
1>0、T<1よりB<0である。このため、差分応答強度ΔFは、
図3(c)に示すようになる。
図3(c)に示すように、AとBの符号により、閉じたき裂r
Cでの応答強度と、底面r
Rでの応答強度との判別は可能である。すなわち、0をしきい値として正の応答強度のみを閉じたき裂と判定することにより、
図1(c)に示すように、底面の応答は全て除去され、選択的に閉じたき裂の応答のみが(9)式として得られる。
【数6】
【0025】
次に、比較のため、特許文献2および非特許文献5に記載された、分調波像の振幅差分を用いた既存技術について、同様の処理を行った。この場合、帯域通過フィルタにより基本波成分の漏れが発生し、閉じたき裂r
Tを通過する際に分調波が発生するため、
図1(d)に示す入射波振幅u
1=u
0の分調波像S
1の応答強度、および、
図1(e)に示す入射波振幅u
2=au
0の分調波像S
2の応答強度は、それぞれ
図3(d)および
図3(e)のようになる。S
2から振幅比aを乗じたS
1の差分をとると、底面r
Fは除去され、位置rにおけるその差分応答強度ΔSは、(10)式となる。
【数7】
【0026】
ここで、c
2は閉じたき裂r
Cでの分調波の散乱係数である。また、βは帯域通過フィルタの漏れの係数であり、βBは大振幅の短いバースト波を用いる場合に発生する帯域通過フィルタでの基本波成分Bの漏れである。また、c
3Aは、閉じたき裂r
Tを透過する際に発生した分調波である。これは、
図1(e)に示すように、u
0(r
T)
2に比例するが、ここでは簡単のため、c
3u
0(r
C)
2に比例すると仮定した。ここで、c
3は透過における分調波の発生係数である。
【0027】
閉じたき裂の応答は、(6)式の場合と同様に、c
2A>0となる。一方、βB<0だがc
3A>0のため、βB+c
3A>0になる場合がある。この場合、
図3(f)に示すように、差分応答強度ΔSは、底面の応答が正になり、c
2AとβB+c
3Aの符号による判別はできない。このため、
図1(f)に示すように、閉じたき裂と底面とが正の応答として残り、閉じたき裂と底面の応答とを識別することはできない。
【0028】
次に、さらなる比較のため、非特許文献3に記載された、帯域通過フィルタを用いない既存技術について、同様の処理を行った。この場合、応答強度は、基本波像と分調波像との和として表される。このため、入射波振幅u
1=u
0の映像U
1=F
1+S
1の応答強度、および、入射波振幅u
2=au
0の映像U
2=F
2+S
2の応答強度は、それぞれ
図3(g)および
図3(h)のようになる。U
2から振幅比aを乗じたU
1の差分をとると、底面r
Fは除去され、位置rにおけるその差分応答強度ΔUは、(11)式となる。
【数8】
【0029】
(11)式では、(6)式および(10)式と同様に、(c
1+c
2)A>0となることは自明である。また、帯域通過フィルタでの基本成分の漏れは(β+1)B<0だが、き裂を透過した際に発生した分調波はc
3A>0であるため、(β+1)B+c
3A>0になる場合がある。この場合、
図3(i)に示すように、差分応答強度ΔUは、底面の応答が正になり、(c
1+c
2)Aと(β+1)B+c
3Aの符号による判別はできない。このため、閉じたき裂と底面とが正の応答として残り、閉じたき裂と底面の応答とを識別することはできない。
【0030】
このように、本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、基本波だけを用いることにより、特許文献2や非特許文献3、非特許文献5のような既存技術よりも、閉じたき裂の識別性に優れているといえる。本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、構造物に含まれる閉じたき裂と開いたき裂との識別性を高めることができ、閉じたき裂のような欠陥を高い識別性で検出することができる。
【0031】
本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、送信信号として所定の振幅を有する超音波を走査することにより受信信号を得る工程を、送信信号の振幅を変化させながら複数回繰り返すことにより、複数種類の受信信号を得るよう構成されていてもよい。また、送信信号の振幅を所定の周期で変更させながら、複数種類の受信信号を得るよう構成されていてもよい。送信する超音波が、複数のサイクル数の正弦波から成るバースト波、もしくはパルス波から成っていてもよい。また、送信する超音波が、周波数が連続的に変化するチャープ波から成り、受信した信号に対してパルス圧縮処理を施して受信信号を構成してもよい。
【0032】
本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置で、前記欠陥は、送信される送信信号の振幅の大きさに対して、受信信号の反射強度が非線形の応答を示すものから成っていてもよい。非線形の応答を示すものとして、例えば、構造物中の閉じたき裂や、組織中の気泡や病変部がある。欠陥が組織中の気泡や病変部から成る場合には、「構造物」を「組織」、「欠陥」を「気泡や病変部」と読み替えることにより、気泡や病変部の映像化方法および気泡や病変部の映像化装置を構成することができる。この場合、生体組織の造影剤気泡や病変部の識別性を向上することができ、気泡や病変部と他の組織とを識別して、組織に含まれる気泡や病変部を検出することができる。