特許第6025049号(P6025049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6025049構造物欠陥の映像化方法、構造物欠陥の映像化装置および気泡や病変部の映像化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025049
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】構造物欠陥の映像化方法、構造物欠陥の映像化装置および気泡や病変部の映像化装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/06 20060101AFI20161107BHJP
【FI】
   G01N29/06
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-2823(P2013-2823)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-134462(P2014-134462A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 :一般社団法人日本非破壊検査協会 刊行物名 :平成24年度秋季講演大会講演概要集 発行年月日:平成24(2012)年10月22日 〔刊行物等〕 集 会 名:日本非破壊検査協会 平成24年度秋季講演大会 開 催 日:平成24(2012)年10月22日〜24日 〔刊行物等〕 発行者名 :超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム論文委員会 刊行物名 :第33回 超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム講演論文集 発行年月日:平成24(2012)年11月13日 〔刊行物等〕 集 会 名:第33回 超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム 開 催 日:平成24(2012)年11月13日〜15日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】小原 良和
(72)【発明者】
【氏名】山中 一司
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4538629(JP,B2)
【文献】 特開2004−180784(JP,A)
【文献】 特開平09−224939(JP,A)
【文献】 特開2002−301072(JP,A)
【文献】 米国特許第06099472(US,A)
【文献】 特開2002−301070(JP,A)
【文献】 特表2003−500150(JP,A)
【文献】 特許第5344492(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に含まれる閉じたき裂のような欠陥を検出するための構造物欠陥の映像化方法であって、
所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波をそれぞれ送信信号として前記構造物に送信し、前記構造物から反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得る送受信工程と、
前記送受信工程で得られた各受信信号に対して、前記基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるフィルタ工程と、
前記フィルタ工程後の各受信信号に基づいて、各受信信号に対応する複数種類の映像データを得る映像化工程と、
前記映像化工程で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、前記欠陥の映像を得る演算工程とを、
有することを特徴とする構造物欠陥の映像化方法。
【請求項2】
前記送受信工程は、各送信信号として、それぞれ振幅uおよび振幅u(u>u)を有する2種類の超音波を送信し、
前記映像化工程は、振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データと振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データとを得、
前記演算工程は、ΔF=F−(u/u)×Fにより各映像データの差分応答強度ΔFを算出し、その差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより前記欠陥の映像を得ることを
特徴とする請求項1記載の構造物欠陥の映像化方法。
【請求項3】
前記欠陥は、送信される送信信号の振幅の大きさに対して、受信信号の反射強度が非線形の応答を示すものから成ることを特徴とする請求項1または2記載の構造物欠陥の映像化方法。
【請求項4】
構造物に含まれる閉じたき裂のような欠陥を検出するための構造物欠陥の映像化装置であって、
所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波をそれぞれ送信信号として前記構造物に送信し、前記構造物から反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得るよう構成された送受信手段と、
前記送受信手段で得られた各受信信号に対して、前記基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるよう構成されたフィルタ手段と、
前記フィルタ手段で処理後の各受信信号に基づいて、各受信信号に対応する複数種類の映像データを得るよう構成された映像化手段と、
前記映像化手段で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、前記欠陥の映像を得るよう構成された演算手段とを、
有することを特徴とする構造物欠陥の映像化装置。
【請求項5】
前記送受信手段は、各送信信号として、それぞれ振幅uおよび振幅u(u>u)を有する2種類の超音波を送信するよう構成され、
前記映像化手段は、振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データと振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データとを得るよう構成され、
前記演算手段は、ΔF=F−(u/u)×Fにより各映像データの差分応答強度ΔFを算出し、その差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより前記欠陥の映像を得るよう構成されていることを
特徴とする請求項4記載の構造物欠陥の映像化装置。
【請求項6】
前記欠陥は、送信される送信信号の振幅の大きさに対して、受信信号の反射強度が非線形の応答を示すものから成ることを特徴とする請求項4または5記載の構造物欠陥の映像化装置。
【請求項7】
組織に含まれる気泡や病変部を検出するための気泡や病変部の映像化装置であって、
所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波をそれぞれ送信信号として前記組織に送信し、前記組織から反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得るよう構成された送受信手段と、
前記送受信手段で得られた各受信信号に対して、前記基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるよう構成されたフィルタ手段と、
前記フィルタ手段で処理後の各受信信号に基づいて、各受信信号に対応する複数種類の映像データを得るよう構成された映像化手段と、
前記映像化手段で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、前記気泡や病変部の映像を得るよう構成された演算手段とを、
有することを特徴とする気泡や病変部の映像化装置。
【請求項8】
前記送受信手段は、各送信信号として、それぞれ振幅uおよび振幅u(u>u)を有する2種類の超音波を送信するよう構成され、
前記映像化手段は、振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データと振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データとを得るよう構成され、
前記演算手段は、ΔF=F−(u/u)×Fにより各映像データの差分応答強度ΔFを算出し、その差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより前記気泡や病変部の映像を得るよう構成されていることを
特徴とする請求項7記載の気泡や病変部の映像化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物欠陥の映像化方法、構造物欠陥の映像化装置および気泡や病変部の映像化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉、航空機、鉄道などの重要機器の安全性確保、及び製造された材料、接合された材料の健全性確保には、破壊の原因となるき裂や不完全な接合面を超音波の反射や散乱によって検出し、その大きさを正確に評価しつつ危険性があれば交換するという安全管理が行われている。しかし、き裂閉口応力が大きい閉じたき裂やき裂面に酸化膜が形成された閉じたき裂などにおいては、超音波の反射・散乱が小さく、き裂の長さや深さの計測誤差が大きいことが問題となっている。なお、このような「閉じたき裂」には、開口幅がナノメートルオーダー以下のき裂も含まれる。
【0003】
受信アレイ素子で得た散乱波に、素子の位置に応じて異なる遅延を与えた信号を加算することによりき裂の映像を得る工程は、フェーズドアレイ法と呼ばれ、非破壊検査の分野では公知である(例えば、非特許文献1参照)。しかし、フェーズドアレイ法による映像によっても、閉じたき裂の正確な計測は困難であるという問題があった。
【0004】
このような背景のもとで、振幅の大きい超音波を照射し、閉じたき裂で発生する高調波や分調波を利用する、閉じたき裂の定量評価法および閉じたき裂の定量評価装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この評価法および装置では、分調波に対しフェーズドアレイ法を適用することで、閉じたき裂を映像化することができる。この方法は、SPACE(subharmonic phased array for crack evaluation)と命名されている(例えば、非特許文献2参照)。ここで、「subharmonic」は分調波を意味する。
【0005】
図8に、SPACEの原理図を示す。図8に示すように、SPACEでは、要素技術として、大振幅超音波の発生が可能な、耐圧性に優れたLiNbO単結晶振動子を用いた送信器、映像化を行うためのアレイ受信器、および周波数通過フィルタ(ディジタルフィルタ)を用いる。送信器から大振幅超音波(周波数f)を入射することにより、き裂開口部での基本波(周波数f)の線形散乱に加えて、閉口部ではその閉じたき裂面が大振幅超音波の引張応力で開いて開閉振動することで分調波(周波数f/2)が発生する。これをアレイ受信器で受信し、ディジタルフィルタで各成分を分離することで、基本波像および分調波像が観察できる。図8に示すように、き裂先端が閉じている場合、基本波像では過小評価してしまうき裂深さを、分調波像により正確に計測できる。
【0006】
医療超音波の分野では、バブルなどの非線形散乱体の識別性向上のため、異なる入射波振幅の受信波形から、非線形成分をフィルタで分離して映像を得た後、大振幅の映像と小振幅の映像に振幅比をかけた映像との差分を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。固体中の欠陥検査では、フィルタを使用せずに差分演算を行う方法として、SSM(scaling subtraction method)が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。また、特許文献2と同様な方法をSPACEに導入する振幅差分(amplitude diffraction;AD)法が提案され、減衰2重節点(damped double node;DDN)シミュレーション(例えば、非特許文献4参照)と実験により、閉じたき裂の選択性向上が実証されている(例えば、非特許文献5参照)。
【0007】
一方、閉じたき裂の開閉振動では、高調波や分調波だけでなく基本波も発生し、しきい値現象を示すことが報告されている(例えば、非特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4538629号公報
【特許文献2】特開2002−301072号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T. L. Szabo, “Diagnostic Ultrasound Imaging: Inside Out”,Academic Pr., 2004年9月7日, p.171
【非特許文献2】Y. Ohara, S.Yamamoto, T. Mihara, and K. Yamanaka, “Ultrasonic Evaluation of Closed CracksUsing Subharmonic Phased Array”, Japanese Journal of Applied Physics, 2008, 47,pp.3908-3915
【非特許文献3】M.Scalerandi, A. S. Gliozzi, C. L. E. Bruno, D. Masera, and P. Bocca, “A scalingmethod to enhance detection of a nonlinear elastic response”, Applied PhysicsLetters, 2008, 92, pp.101912-1-3
【非特許文献4】K.Yamanaka, Y. Ohara, M. Oguma, Y. Shintaku, “Two-Dimensional Analyses ofSubharmonic Generation at Closed Cracks in Nonlinear Ultrasonics”, AppliedPhysics Express, 2011, 4, pp.076601-1-3
【非特許文献5】Y. Ohara,Y. Shintaku, S. Horinouchi, M. Ikeuchi, and K. Yamanaka, “Enhancement ofSelectivity in Nonlinear Ultrasonic Imaging of Closed Cracks Using AmplitudeDifference Phased Array”, Japanese Journal of Applied Physics, 2012, 51,pp.07GB18-1-6
【非特許文献6】小原良和、山本摂、三原毅、山中一司、“超音波の非線形応答による閉じたき裂画像化のための入射波振幅の最適化”、Proceedingsof Ultrasonics Electronics Symposium、2006、27、423-424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図8に示すSPACEでは、高い距離分解能が必要な場合は、サイクル数3以下のバースト波を入射波とする。このとき、周波数分解能が低くなるため、非線形散乱源(き裂閉口部)と線形散乱源(底面・き裂開口部・粗大結晶粒・溶接欠陥)とが接近し、非線形散乱源に比べて線形散乱源からの応答が強い場合、分調波像には、き裂閉口部だけではなく、フィルタで除去しきれなかった基本波成分が現れてしまう。その結果、閉じたき裂と開いたき裂との識別が困難になり、識別性が低下するという課題があった。なお、バースト波とは、複数のサイクル数の正弦波から成る波である。
【0011】
また、非特許文献3〜5に記載の方法では、閉じたき裂で発生した分調波が底面で反射して探触子で受信されることにより、底面にゴーストの応答が現れてしまい、これを完全に除去することができないという課題があった。なお、特許文献2は、医療分野での技術であり、実施例として、分調波や高調波を利用して解析を行う方法のみが記載されており、基本波成分のみで解析を行う方法は記載されていない。このため、仮に閉じたき裂のような欠陥に適用した場合には、非特許文献3〜5と同様に、閉じたき裂で発生した分調波が底面で反射して探触子で受信されるため、底面にゴーストの応答が現れてしまい、これを完全に除去することができない。
【0012】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、構造物に含まれる閉じたき裂と開いたき裂との識別性を高めることができ、閉じたき裂のような欠陥を高い識別性で検出することができる構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置、ならびに、組織に含まれる気泡や病変部を高い識別性で検出することができる気泡や病変部の映像化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る構造物欠陥の映像化方法は、構造物に含まれる閉じたき裂のような欠陥を検出するための構造物欠陥の映像化方法であって、所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波をそれぞれ送信信号として前記構造物に送信し、前記構造物から反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得る送受信工程と、前記送受信工程で得られた各受信信号に対して、前記基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるフィルタ工程と、前記フィルタ工程後の各受信信号に基づいて、各受信信号に対応する複数種類の映像データを得る映像化工程と、前記映像化工程で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、前記欠陥の映像を得る演算工程とを、有することを特徴とする。
【0014】
特に、本発明に係る構造物欠陥の映像化方法で、前記送受信工程は、各送信信号として、それぞれ振幅uおよび振幅u(u>u)を有する2種類の超音波を送信し、前記映像化工程は、振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データと振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データとを得、前記演算工程は、ΔF=F−(u/u)×Fにより各映像データの差分応答強度ΔFを算出し、その差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより前記欠陥の映像を得ることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る構造物欠陥の映像化装置は、構造物に含まれる閉じたき裂のような欠陥を検出するための構造物欠陥の映像化装置であって、所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波をそれぞれ送信信号として前記構造物に送信し、前記構造物から反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得るよう構成された送受信手段と、前記送受信手段で得られた各受信信号に対して、前記基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるよう構成されたフィルタ手段と、前記フィルタ手段で処理後の各受信信号に基づいて、各受信信号に対応する複数種類の映像データを得るよう構成された映像化手段と、前記映像化手段で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、前記欠陥の映像を得るよう構成された演算手段とを、有することを特徴とする。
【0016】
特に、本発明に係る構造物欠陥の映像化装置で、前記送受信手段は、各送信信号として、それぞれ振幅uおよび振幅u(u>u)を有する2種類の超音波を送信するよう構成され、前記映像化手段は、振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データと振幅uの送信信号に対応する応答強度Fの映像データとを得るよう構成され、前記演算手段は、ΔF=F−(u/u)×Fにより各映像データの差分応答強度ΔFを算出し、その差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより前記欠陥の映像を得るよう構成されていることが好ましい。
【0017】
本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、送信する超音波の基本周波数を主成分として含む基本波を用い、以下に示す原理に基づいて構造物に含まれる閉じたき裂などの欠陥を検出することができる。
【0018】
すなわち、図1に示すように、閉じたき裂の位置ベクトルをr、線形散乱源である閉じたき裂より前方(図1では左側)の底面の位置ベクトルをr、閉じたき裂より後方(図1では右側)の底面の位置ベクトルをrとする。送信する超音波の入射波振幅が小さい場合、超音波が閉じたき裂を透過してしまうため、閉じたき裂からの応答は微小である。一方、送信する超音波の入射波振幅がしきい値を超えた場合、閉じたき裂が超音波の応力により開閉振動し、分調波や高調波だけではなく基本波の応答も著しく増大する。このとき、閉じたき裂は超音波の入射波振幅に対して非線形応答を示すため、その非線形応答を、図2に示す最も単純な非線形関数である2次関数と仮定する。
【0019】
これにより、閉じたき裂における基本波像の応答強度Fは、(1)式のようになる。
【数1】
ここで、cは閉じたき裂での基本波の散乱係数、u(r)は閉じたき裂での入射波振幅である。
【0020】
次に、基本波像における底面の応答を考える。き裂の前方の底面rおよび後方の底面rにおける基本波像の応答強度FおよびFは、入射波振幅に対して線形であるため、それぞれ(2)式および(3)式となる。
【数2】
ここで、bは線形散乱源(底面)での基本波の散乱係数、Tは閉じたき裂rにおける基本波成分の往復の透過率である。ここで、小振幅の場合、基本波はほぼ全て透過するためT≒1となり、大振幅の場合、き裂の開閉振動により基本波のエネルギーが失われるためT<1となる。
【0021】
(1)〜(3)式から、図1(a)に示す入射波振幅が小さい場合、入射波振幅u=uとして、位置rにおける基本波像の応答強度Fは、(4)式となる。
【数3】
ここで、小振幅では基本波はほぼ全て透過するためT≒1であり、δ(r)はr=0付近で大きな値をもつデルタ関数である。
【0022】
また、(1)〜(3)式から、図1(b)に示す入射波振幅が大きい場合、入射波振幅u=au(a=u/u>1)として、位置rにおける基本波像の応答強度Fは、(5)式となる。
【数4】
【0023】
強度および符号の比較のため、r、r、rを1次元に投影し、各位置における応答強度をガウス関数で表した模式図を、図3に示す。(4)式で表される小振幅の場合の応答強度Fに振幅比aを乗じたものを図3(a)に、(5)式で表される大振幅の場合の応答強度F図3(b)に示す。ここで、Fから振幅比aを乗じたFの差分をとると、底面rは除去され、位置rにおけるその差分応答強度ΔFは、(6)式となる。
【数5】
【0024】
ここで、a>1よりA>0である。また、a>1、b>0、T<1よりB<0である。このため、差分応答強度ΔFは、図3(c)に示すようになる。図3(c)に示すように、AとBの符号により、閉じたき裂rでの応答強度と、底面rでの応答強度との判別は可能である。すなわち、0をしきい値として正の応答強度のみを閉じたき裂と判定することにより、図1(c)に示すように、底面の応答は全て除去され、選択的に閉じたき裂の応答のみが(9)式として得られる。
【数6】
【0025】
次に、比較のため、特許文献2および非特許文献5に記載された、分調波像の振幅差分を用いた既存技術について、同様の処理を行った。この場合、帯域通過フィルタにより基本波成分の漏れが発生し、閉じたき裂rを通過する際に分調波が発生するため、図1(d)に示す入射波振幅u=uの分調波像Sの応答強度、および、図1(e)に示す入射波振幅u=auの分調波像Sの応答強度は、それぞれ図3(d)および図3(e)のようになる。Sから振幅比aを乗じたSの差分をとると、底面rは除去され、位置rにおけるその差分応答強度ΔSは、(10)式となる。
【数7】
【0026】
ここで、cは閉じたき裂rでの分調波の散乱係数である。また、βは帯域通過フィルタの漏れの係数であり、βBは大振幅の短いバースト波を用いる場合に発生する帯域通過フィルタでの基本波成分Bの漏れである。また、cAは、閉じたき裂rを透過する際に発生した分調波である。これは、図1(e)に示すように、u(rに比例するが、ここでは簡単のため、c(rに比例すると仮定した。ここで、cは透過における分調波の発生係数である。
【0027】
閉じたき裂の応答は、(6)式の場合と同様に、cA>0となる。一方、βB<0だがcA>0のため、βB+cA>0になる場合がある。この場合、図3(f)に示すように、差分応答強度ΔSは、底面の応答が正になり、cAとβB+cAの符号による判別はできない。このため、図1(f)に示すように、閉じたき裂と底面とが正の応答として残り、閉じたき裂と底面の応答とを識別することはできない。
【0028】
次に、さらなる比較のため、非特許文献3に記載された、帯域通過フィルタを用いない既存技術について、同様の処理を行った。この場合、応答強度は、基本波像と分調波像との和として表される。このため、入射波振幅u=uの映像U=F+Sの応答強度、および、入射波振幅u=auの映像U=F+Sの応答強度は、それぞれ図3(g)および図3(h)のようになる。Uから振幅比aを乗じたUの差分をとると、底面rは除去され、位置rにおけるその差分応答強度ΔUは、(11)式となる。
【数8】
【0029】
(11)式では、(6)式および(10)式と同様に、(c+c)A>0となることは自明である。また、帯域通過フィルタでの基本成分の漏れは(β+1)B<0だが、き裂を透過した際に発生した分調波はcA>0であるため、(β+1)B+cA>0になる場合がある。この場合、図3(i)に示すように、差分応答強度ΔUは、底面の応答が正になり、(c+c)Aと(β+1)B+cAの符号による判別はできない。このため、閉じたき裂と底面とが正の応答として残り、閉じたき裂と底面の応答とを識別することはできない。
【0030】
このように、本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、基本波だけを用いることにより、特許文献2や非特許文献3、非特許文献5のような既存技術よりも、閉じたき裂の識別性に優れているといえる。本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、構造物に含まれる閉じたき裂と開いたき裂との識別性を高めることができ、閉じたき裂のような欠陥を高い識別性で検出することができる。
【0031】
本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、送信信号として所定の振幅を有する超音波を走査することにより受信信号を得る工程を、送信信号の振幅を変化させながら複数回繰り返すことにより、複数種類の受信信号を得るよう構成されていてもよい。また、送信信号の振幅を所定の周期で変更させながら、複数種類の受信信号を得るよう構成されていてもよい。送信する超音波が、複数のサイクル数の正弦波から成るバースト波、もしくはパルス波から成っていてもよい。また、送信する超音波が、周波数が連続的に変化するチャープ波から成り、受信した信号に対してパルス圧縮処理を施して受信信号を構成してもよい。
【0032】
本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置で、前記欠陥は、送信される送信信号の振幅の大きさに対して、受信信号の反射強度が非線形の応答を示すものから成っていてもよい。非線形の応答を示すものとして、例えば、構造物中の閉じたき裂や、組織中の気泡や病変部がある。欠陥が組織中の気泡や病変部から成る場合には、「構造物」を「組織」、「欠陥」を「気泡や病変部」と読み替えることにより、気泡や病変部の映像化方法および気泡や病変部の映像化装置を構成することができる。この場合、生体組織の造影剤気泡や病変部の識別性を向上することができ、気泡や病変部と他の組織とを識別して、組織に含まれる気泡や病変部を検出することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、構造物に含まれる閉じたき裂と開いたき裂との識別性を高めることができ、閉じたき裂のような欠陥を高い識別性で検出することができる構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置、ならびに、組織に含まれる気泡や病変部を高い識別性で検出することができる気泡や病変部の映像化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置を示す原理図である。
図2】本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置の、閉じたき裂の基本波像強度(I)および線形散乱源の基本波像強度(I)の入射波振幅依存性を表すグラフである。
図3】(a)本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置の、小振幅入射における基本波像の応答Fに振幅比aを乗じたもの、(b)大振幅入射における基本波像の応答F、(c)基本波の差分像の応答ΔF、(d)分調波像の振幅差分を用いた既存技術の、小振幅入射における分調波像の応答Sに振幅比aを乗じたもの、(e)大振幅入射における分調波像の応答S、(f)分調波の差分像の応答ΔS、(g)帯域通過フィルタを用いない既存技術の、小振幅入射における映像の応答Uに振幅比aを乗じたもの、(e)大振幅入射における映像の応答U、(f)これらの差分像の応答ΔUを示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置を示す縦断面図および得られた映像である。
図5】分調波像の振幅差分を用いた比較実験の、構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置の実験配置を示す縦断面図および得られた映像である。
図6図5に示す比較実験で得られた映像の、閉じたき裂におけるシフト加算波形およびそのウェーブレット変換結果を示すグラフである。
図7】本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置の、実験配置を示す縦断面図および得られた映像である。
図8】従来の、分調波に対してフェーズドアレイ法を使用したSPACEの原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図4乃至図7は、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置を示している。本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法は、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化装置により好適に実施される。
図4に示すように、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化装置は、送受信手段1と信号処理器2とを有している。
【0036】
送受信手段1は、任意の入射波振幅の超音波を照射可能な超音波送信器と、複数のセンサ素子から成るアレイ受信器とを一体的に有している。送受信手段1は、超音波送信器により、所定の基本周波数で互いに異なる振幅を有する複数種類の超音波を、それぞれ送信信号として構造物の試料S中の閉じたき裂Cに送信可能に構成されている。また、送受信手段1は、アレイ受信器により、超音波送信器から送信された超音波により閉じたき裂Cで生成された非線形散乱波を含む、試料Sから反射される超音波を受信して、各送信信号に対応する複数種類の受信信号を得るよう構成されている。
【0037】
信号処理器2は、送受信手段1に接続されたコンピュータから成り、フィルタ手段と映像化手段と演算手段とを有している。フィルタ手段は、送受信手段1のアレイ受信器で得られた各受信信号に対して、基本周波数を有する成分を通過させる帯域通過フィルタをかけるよう構成されている。映像化手段は、フィルタ手段で処理後の各受信信号に対して、フェーズドアレイ法を用いて各受信信号に対応する複数種類の映像データを得るよう構成されている。すなわち、映像化手段は、帯域通過フィルタを通過した各受信信号に対して、アレイ受信器の各センサ素子の位置に応じて異なる時間だけシフトさせた後、加算して処理信号を得、得られた処理信号に基づいて、各映像データを得るようになっている。
【0038】
演算手段は、映像化手段で得られた各映像データを用いて、対応する各送信信号の振幅の大きさに基づいた演算を行い、閉じたき裂Cの映像を得るよう構成されている。
【0039】
図4に示す具体的な一例では、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、(1)式〜(9)式、図1図3に示す原理に基づいて、閉じたき裂Cの映像を得るよう構成されている。すなわち、送受信手段1が、各送信信号として、それぞれ振幅u=uおよび振幅u=au(a=u/u>1)を有する2種類の超音波を試料Sに送信し、試料Sの底面Bや閉じたき裂Cなどから反射される超音波を受信する。各受信信号にフィルタ手段の帯域通過フィルタをかけた後、映像化手段が、映像化領域Dについて、小振幅u=uの送信信号に対応する応答強度Fの基本波像(映像データ)I1と、大振幅u=auの送信信号に対応する応答強度Fの基本波像(映像データ)I2とを得る。
【0040】
このとき、小振幅の基本波像I1では、超音波が閉じたき裂Cを透過するため、破線3の位置の閉じたき裂Cは映像化されず、底面4と底面5のみが現れる。しかし、大振幅の基本波像I2では、閉じたき裂Cの開閉振動により分調波や高調波だけではなく基本波も発生するため、閉じたき裂Cの応答6も現れる。一方、き裂の開閉振動により透過率が低下するため、底面8の振幅は低下する。
【0041】
次に、演算手段が、小振幅の基本波像I1に振幅比aを乗じ、大振幅の基本波像I2との差分を取る、すなわち、ΔF=F−a×Fにより各基本波像の差分応答強度ΔFを算出する。これにより、その差分像I3では、閉じたき裂Cは増分として現れ、底面10は0となり、底面11は減分として現れる。そこで、差分像I3を増分のみの表示、すなわち差分応答強度ΔFの正の部分を選択することにより、底面11が除去され、閉じたき裂Cの応答9のみを映像化することができる。
【0042】
このように、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、基本波だけを用いることにより、構造物に含まれる閉じたき裂と開いたき裂との識別性を高めることができ、閉じたき裂のような欠陥を高い識別性で検出することができる。また、基本波は分調波の2倍の周波数を持つため、従来の分調波像の振幅差分から得られるものと比べて、空間分解能も向上させることができる。
【0043】
本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置で、検出対象の欠陥は、閉じたき裂に限らず、送信される送信信号の振幅の大きさに対して、受信信号の反射強度が非線形の応答を示すものであれば、いかなるものであってもよい。この非線形の応答を示すものとして、例えば、構造物中の閉じたき裂の他に、組織中の気泡や病変部がある。欠陥が組織中の気泡や病変部から成る場合には、「構造物」を「組織」、「欠陥」を「気泡や病変部」と読み替えることにより、気泡や病変部の映像化方法および気泡や病変部の映像化装置を構成することができる。この場合、生体組織の造影剤気泡や病変部の識別性を向上することができ、気泡や病変部と他の組織とを識別して、組織に含まれる気泡や病変部を検出することができる。
【0044】
なお、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、送信信号として所定の振幅を有する超音波を走査することにより受信信号を得る工程を、送信信号の振幅を変化させながら複数回繰り返すことにより、複数種類の受信信号を得るよう構成されていてもよい。また、送信信号の振幅を所定の周期で変更させながら、複数種類の受信信号を得るよう構成されていてもよい。送信する超音波が、複数のサイクル数の正弦波から成るバースト波、もしくはパルス波から成っていてもよい。また、送信する超音波が、周波数が連続的に変化するチャープ波から成り、受信した信号に対してパルス圧縮処理を施して受信信号を構成してもよい。
【実施例1】
【0045】
本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置を使用して、閉じたき裂の検出を行った。試験片の構造物として、3点曲げ疲労試験で作製したオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを用い、その内部に導入した閉じた疲労き裂の検出を行った。なお、ここで用いた疲労条件は、最大応力拡大係数Kmax=18.6MPa・m1/2、最小応力拡大係数Kmin=0.6MPa・m1/2である。また、比較のため、非特許文献5に記載の分調波像の振幅差分を利用して、同じき裂の検出も行った。
【0046】
構造物欠陥の映像化装置は、送受信手段1としてPZTアレイ探触子(5MHz、32素子、0.5mmピッチ)を用いた。また、入射波には、周波数7MHz、3サイクルのバースト波を用いた。また、入射波には、小振幅および大振幅として、それぞれ変位8.9nm(応力2.4MPa)および変位26.7nm(応力7.3MPa)を用いた。
【0047】
比較実験の分調波像の振幅差分を利用したときの分調波像を、図5に示す。図5に示すように、小振幅の分調波像I11および大振幅の分調波像I12で、閉じたき裂Cの応答が現れた。しかし、閉じたき裂C以外の応答として、底面BやノッチNも帯域通過フィルタでの漏れによるゴーストとして現れた。そこで、信号処理器2で、入射波変位振幅の増幅率a=26.7nm/8.9nm≒3を、小振幅の分調波像I11に乗じた映像を、大振幅の分調波像I12から引いて差分像I13を得た。差分像I13では、底面BやノッチNに対する閉じたき裂Cの強度比である識別性は、大振幅の分調波像I12と比べて7.6dB向上した。しかし、底面BやノッチNを完全には除去できなかった。これは、分調波像では、閉じたき裂Cと同様に、底面Bも増分として現れたためと推定される。
【0048】
ここで、大振幅の分調波像I12の閉じたき裂Cの位置における、帯域通過フィルタをかける前のシフト加算波形W1とそのウェーブレット変換(時間周波数解析)結果W2とを、図6に示す。図6に示すように、ウェーブレット変換結果W2では、周波数3.5MHzの分調波だけではなく、周波数7MHzの基本波の散乱波も発生していることが分かる。これは、き裂の開閉振動による分調波発生に付随して発生した基本波であると考えられる。
【0049】
次に、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法により得られた基本波像の振幅差分を、図7に示す。小振幅の基本波像I14および大振幅の基本波像I15で、閉じたき裂Cの応答が現れた。しかし、閉じたき裂C以外の応答として、底面Bも現れた。そこで、信号処理器2で、入射波変位振幅の増幅率a=26.7nm/8.9nm≒3を、小振幅の基本波像I14に掛けたものを、大振幅の基本波像I15から引き、その増分のみを表示して差分像I16を得た。差分像I16では、底面BやノッチNが除去され、閉じたき裂Cのみを抽出することができた。差分像I16では、底面Bに対する閉じたき裂Cの強度比である識別性は、大振幅の基本波像I17と比べて34dB向上した。また、空間分解能もI13に比べて、約2倍向上した。これは、基本波の周波数が、分調波の周波数の2倍であるためである。
【0050】
このように、本発明の実施の形態の構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、基本波だけを用いることにより、非特許文献5等の既存技術に対して、閉じたき裂の識別性に優れているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る構造物欠陥の映像化方法および構造物欠陥の映像化装置は、原子炉、航空機、鉄道などの重要機器、及び製造された材料、接合された材料などの非破壊評価の現場において、閉じたき裂のような欠陥を高い識別性で検出するのに利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 送受信手段
2 信号処理器
3、6、9 閉じたき裂(の応答)
4、5、7、8、10、11 底面(の応答)
S 試料
B 底面
C 閉じたき裂
D 映像化領域
N ノッチ
I1、I14 小振幅(入射)の基本波像
I2、I15 大振幅(入射)の基本波像
I3、I16 差分像
I11 小振幅(入射)の分調波像
I12 大振幅(入射)の分調波像
I13 差分像
W1 シフト加算波形
W2 ウェーブレット解析結果
図2
図3
図1
図4
図5
図6
図7
図8