(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リード導体の表面の少なくとも一部に化成処理、ベーマイト処理、アルマイト処理、及びエッチングから選択される1種が施された表面処理部を備える請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のリード導体。
前記アルミニウム合金は、Cu,Fe,Cr,Mn,Zn,Ni,Ag,及びZrから選択される1種以上の元素を合計で0.005質量%以上1質量%以下含有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のリード導体。
前記アルミニウム合金は、Tiを0.01質量%以上0.05質量%以下及びBを0.001質量%以上0.008質量%以下の少なくとも一方を含有する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のリード導体。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、特定の組成の金属で構成されて、引張強さ及び導電率が特定の範囲を満たせば、薄く細幅なリード導体であっても屈曲や衝撃などによって破断し難いとの知見を得た。本発明は、上記知見に基づくものである。
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0018】
(1)本発明の一態様に係るリード導体は、正極と、負極と、電解液と、これらを収納する容器とを備える電力貯蔵デバイスに用いられるものである。
このリード導体は、Siを0.1質量%以上1.2質量%以下含有すると共に、Mgを、質量比でMg/Siが0.8以上2.7以下、かつ1.5質量%未満を満たす範囲で含有するアルミニウム合金から構成される。
このリード導体の引張強さが100MPa以上220MPa以下である。
このリード導体の導電率が50%IACS以上である。
【0019】
上記のリード導体は、引張強さが特定の範囲を満たしており、強度が高いものの高過ぎず(硬過ぎず)、靭性(例えば破断伸び)にも優れる。このような高強度で高靭性な上記のリード導体は、薄く細幅であっても、例えば厚さが0.1mm以下、幅が10mm以下であっても、屈曲や衝撃に対する耐性(例えば0.2%耐力)に優れ、所定の屈曲を行ったり、衝撃が加えられたりするなどしても破断し難い。好ましくは、上記のリード導体は、所定の形状に屈曲された状態で衝撃を受けた場合でも破断し難い。
【0020】
かつ、上記のリード導体は、導電率が特定の範囲を満たしており、導電性にも優れる。ここで、リード導体の構成金属における添加元素の含有量を多くしたり、高い加工度で塑性加工を行って十分に加工硬化させたりするなどすれば強度を高められる。しかし、添加元素の過剰添加や、加工硬化による過度の歪導入などは、導電率の低下を招く。上記のリード導体は、導電率が上述の特定の範囲を満たす範囲で添加元素の含有量が調整されたり、塑性加工や熱処理などの製造条件が調整されたりすることで導電性に優れる。
【0021】
上記のリード導体は、薄く細幅であっても破断し難い上に、導電性に優れるため、携帯機器類の電源に用いられるリチウムイオン二次電池などの非水電解質電池やその他の電力貯蔵デバイスの構成部材として好適に利用できる。
【0022】
更に、上記のリード導体は、Alよりも電解液に溶出し易いと考えられるMgを含むものの、Siと共に特定の範囲で含有することでSiとの化合物(Mg
2Si)として存在し、電力貯蔵デバイスに組み付けられた場合に電解液に対する耐性にも優れるとの知見を得た。上記のリード導体と電力貯蔵デバイスの容器との間に樹脂層が介在することも、リード導体の構成成分を溶出し難くして、電解液に対する耐性の向上に寄与すると期待される。これらの点からも上記のリード導体は、非水電解質電池などの電力貯蔵デバイスの構成部材として好適に利用できる。
【0023】
(2)上記のリード導体の一例として、0.2%耐力が40MPa以上である形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、0.2%耐力が特定の範囲を満たしており、耐力が十分に高く、薄く細幅であっても破断し難い。
【0025】
(3)上記のリード導体の一例として、厚さが0.03mm以上0.1mm以下、幅が1mm以上10mm以下である形態が挙げられる。
【0026】
上記形態は、薄く細幅であるものの薄過ぎたり幅が狭過ぎたりせず、破断し難い。また、上記形態は、薄く細幅であるため、電力貯蔵デバイスの薄型化、小型化の要求に対応できる。
【0027】
(4)上記のリード導体の一例として、拡散抵抗値が5×10
5Ω・cm
−2以上である形態が挙げられる。上記拡散抵抗値は、以下のように測定する。
リード導体の一部を所定の樹脂で覆ったものを試料とし、上記電力貯蔵デバイスに用いられる電解液に上記試料における上記樹脂の形成箇所と対極とを接触させ、この電解液を60℃に保持した状態を1週間維持する。1週間経過後、上記試料の交流インピーダンススペクトルを測定し、測定した交流インピーダンススペクトルに基づいて上記試料の抵抗値を求める。求めた抵抗値を拡散抵抗値とする。後述する被覆樹脂層を備える樹脂付きリード導体では、被覆樹脂層を上記所定の樹脂とみなして、拡散抵抗値を測定するとよい。
【0028】
上記形態は、上記所定の樹脂を介して高温の電解液に長時間接触しても拡散抵抗値が高いため、リード導体の構成成分が経時的に電解液に溶出し難いといえる。従って、上記形態は、薄く細幅であっても破断し難い上に、電解液に対する耐性に優れる。
【0029】
(5)上記のリード導体の一例として、上記リード導体の表面の少なくとも一部に化成処理、ベーマイト処理、アルマイト処理、及びエッチングから選択される1種が施された表面処理部を備える形態が挙げられる。
【0030】
表面処理部は微細な凹凸を有して樹脂層との密着性に優れ、リード導体における樹脂層の形成領域が曲げられたり、衝撃を受けたりしてもリード導体と樹脂層とが剥離し難い。上記形態は、薄く細幅であっても破断し難い上に、樹脂層が密着する点で上述の拡散抵抗値をより高められて電解液に対する耐性により優れる。
【0031】
(6)上記のリード導体の一例として、上記アルミニウム合金がCu,Fe,Cr,Mn,Zn,Ni,Ag,及びZrから選択される1種以上の元素を合計で0.005質量%以上1質量%以下含有する形態が挙げられる。
【0032】
上記形態は、Si及びMgに加えて、上述の列挙した元素を特定の範囲で含有することで、高い導電率を有しつつ強度がより高くなり易く破断し難い。
【0033】
(7)上記のリード導体の一例として、上記アルミニウム合金がTiを0.01質量%以上0.05質量%以下及びBを0.001質量%以上0.008質量%以下の少なくとも一方を含有する形態が挙げられる。
【0034】
Ti及びBはいずれも、鋳造時にアルミニウム合金の結晶を微細にする効果がある。上記形態は、Si及びMgに加えて、TiやBを特定の範囲で含有することで、リード導体の構成金属を、微細な結晶組織を有するアルミニウム合金とすることができ、強度がより高くなり易く破断し難い。
【0035】
(8)上記のリード導体の一例として、上記リード導体における上記容器との固定領域に接合される被覆樹脂層を備え、上記被覆樹脂層が異なる樹脂からなる多層構造であり、上記被覆樹脂層の合計厚さが20μm以上300μm以下である形態が挙げられる。
【0036】
被覆樹脂層は、リード導体と電力貯蔵デバイスの容器との間に介在されて絶縁体として機能する。被覆樹脂層が多層構造であれば、種々の材質の樹脂、特に密着性に優れる樹脂を含むことができる。多層構造であっても、その厚さが上述の特定の範囲であれば、薄い樹脂付きリード導体とすることができる。従って、上記形態は、容器との絶縁を確保できる上に電力貯蔵デバイスの薄型化に寄与する。この被覆樹脂層は、上記(5)の表面処理部に備えると、上述のようにリード導体との密着性に優れて好ましい。
【0037】
(9)本発明の一態様に係る電力貯蔵デバイスは、上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載のリード導体を備える。
【0038】
上記の電力貯蔵デバイスに備えるリード導体が薄く細幅であっても、製造過程で曲げられたり、任意のときに落下などして衝撃を受けたりするなどした際にリード導体が破断し難い。従って、上記の電力貯蔵デバイスは、携帯機器類の電源に利用される際に、リード導体の破断に起因する歩留りの低下を低減したり、導電性に優れる上記のリード導体を長期に亘り維持でき、外部との電力の授受を良好に行えたりできる。
【0039】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態に係るリード導体、本発明の実施形態に係る電力貯蔵デバイスを説明する。図中、同一符号は同一名称物を示す。
【0040】
(リード導体)
実施形態のリード導体1(
図1,
図2)は、電力貯蔵デバイス(
図1では非水電解質電池10)に用いられる導電部材であり、容器11内に収納された正極14,負極15(
図2)と、外部の部材(図示せず)とを電気的に接続して電力の授受に利用される。リード導体1は、代表的には、長方形状の金属の帯材であり、その表面のうち少なくとも容器11との固定領域に樹脂層が接触した状態、好ましくは密着した状態で利用される。樹脂層は、後述の被覆樹脂層22、容器11自体に備える内側樹脂層112(
図2)、リード導体1と容器11との間に別途接合された接合樹脂層(図示せず)の少なくとも一つが挙げられる(以下、単に樹脂層と呼ぶことがある)。
【0041】
実施形態のリード導体1は、Mg,Siを特定の範囲で含む特定の組成のアルミニウム合金で構成されていることを特徴の一つとする。以下、このアルミニウム合金の組成をまず説明し、次に、リード導体1の特性や構造などについて説明する。
【0042】
・組成
実施形態のリード導体1を構成するアルミニウム合金は、Siを0.1質量%以上1.2質量%以下含有すると共に、Mgを、質量比でMg/Siが0.8以上2.7以下、かつ1.5質量%未満を満たす範囲で含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避不純物であるAl−Mg−Si系合金である。Mg/Siから換算して、Mgの含有量の下限は0.08質量%以上である。
又は、実施形態のリード導体1を構成するアルミニウム合金は、Si及びMgを上述の特定の範囲で含有すると共に、Cu,Fe,Cr,Mn,Zn,Ni,Ag,及びZrから選択される1種以上の元素(以下、特定の元素と呼ぶことがある)を合計で0.005質量%以上1質量%以下含有し、残部がAl及び不可避不純物であるAl−Mg−Si系合金である。
以下、元素の含有量は、質量%を示す。
【0043】
・・Si(珪素)及びMg(マグネシウム)
Siを0.1%以上とMgを0.08%以上含有するAl−Mg−Si系合金は、引張強さや0.2%耐力が高く、強度や耐力に優れる。製造過程で時効処理を行った場合には時効硬化による強度や耐力の更なる向上を望める。自然時効によって経時的に強度が向上する場合がある。このように高強度なAl−Mg−Si系合金は、例えば、塑性加工後に軟化処理を行って靭性や導電率を高めた場合でも高い強度を維持できる。この場合、高強度、高靭性、高導電性を有することができる。このようなAl−Mg−Si系合金で構成されるリード導体1は、薄く細幅であっても、所定の曲げを行ったり、衝撃を受けたりした際に破断し難い。
【0044】
Mg,Siの含有量が高いほど、高強度になり易い。例えば、Siの含有量を0.2%以上、更に0.3%以上、0.35%以上、Mgの含有量を0.1%以上、0.2%以上、更に0.3%以上とすることができる。
【0045】
Mg,Siの含有量が多過ぎると、導電率が低下したり(特にMg過剰の場合)、MgとSiとを含む析出物が多過ぎたり粗大になったりして、析出物を起点とする破断が生じ易くなったりする。そのため、Siの含有量を0.9%以下、更に0.8%以下、0.7%以下、Mgの含有量を1.4%以下、1.2%以下、更に1.0%以下とすることができる。
【0046】
Siに対するMgの質量比をMg/Siとし、このMg/Siが0.8以上であるため、金属成分が多く導電率が高くなり易い。Mg/Siの下限を0.9以上、更に0.95以上、1以上とすることができる。Mg/Siが2.7以下であるため、MgとSiとを含む析出物などが適切に存在できて強度が高くなり易い。Mg/Siの上限を2.6以下、更に2.5以下、2.0以下とすることができる。
【0047】
Mg単体では、Alよりも電解液に溶出し易いと考えられる。Al−Mg−Si系合金は、Mgを含むものの、MgをSiに対して特定の範囲で含有すると共に1.5%未満の範囲で含有することで、MgはSiとの化合物(Mg
2Si)を形成して存在できる。Mg
2Siは電気を流し難いため、Mgの溶出に起因する短絡などを防止できると考えられる。なお、本発明者らは、種々の組成のアルミニウム合金や純アルミニウムからなる作用電極と、プラチナからなる対極との2極の電気化学セルを構成し、両極を電解液に浸漬して所定の電圧を印加した際に流れる電流量を測定した。その結果、Siを上述の特定の範囲で含有すると共にMg/Siが2.7を超え、かつMgが1.5質量%以上であるMgが過剰な場合には電流量が非常に大きく、Mg/Siが2.7以下であり、かつMgが1.5質量%未満の場合(例えば、Al−0.65%Si−0.9%Mg、Mg/Si≒1.4)には、上記のMgが過剰な場合の1/10以下程度と電流量が非常に少なく、純アルミニウムと同程度であることを確認している。電解液に対する耐性をも考慮して、実施形態のリード導体1では、Siの含有量,Mgの含有量及びMg/Siを規定する。
【0048】
・・その他の添加元素
Mg及びSiに加えて、上述の特定の元素を特定の範囲で含有すると強度が高くなり易い。上述の特定の元素のうち、Cuは導電率の低下が少なく、強度を向上できる。Fe,Cr,Mn,Ni,Zrは導電率の低下がある程度大きいものの、強度の向上効果が高い。Zn,Agは、導電率の低下が少なく、強度の向上効果をある程度有する。これらの元素を1種のみ含有する形態、2種以上含有する形態のいずれも利用できる。
【0049】
上記特定の元素の合計含有量が0.005%以上であれば、強度が高められて破断し難い。上記合計含有量が多いほど強度を高められ、下限を0.01%以上、更に0.05%以上、0.1%以上とすることができる。
【0050】
上記合計含有量が1%以下であれば、導電率の低下を低減して導電性に優れる。ここで、リード導体1の構成成分が電解液に溶出すると、溶出した成分によって正極14と負極15とが短絡したり、電力貯蔵デバイスの特性が低下したりする可能性がある。上記合計含有量が1%以下であれば、上記構成成分の溶出を十分に低減できる。上述のように樹脂層が密着した状態であれば、上記構成成分の溶出をより効果的に低減できる。上記合計含有量の上限を0.9%以下、更に0.8%以下、0.7%以下とすることができる。
各元素の含有量は、例えば以下が挙げられる。
Cu 0.01%以上0.9%以下、更に0.03%以上0.8%以下
Fe 0.005%以上0.9%以下、更に0.01%以上0.5%以下
Cr 0.005%以上0.8%以下、更に0.01%以上0.7%以下
Mn 0.005%以上0.8%以下、更に0.01%以上0.7%以下
Zn,Ni,Ag,Zr 合計で0.005%以上0.2%以下、更に合計で0.005%以上0.15%以下
【0051】
・・Ti(チタン)、B(ホウ素)
Mg及びSiに加えて、又はMg及びSiと上記特定の元素とに加えて、Ti及びBの少なくとも一方を特定の範囲で含有すると強度を高め易い。TiやBは、鋳造時のアルミニウム合金の結晶を微細にする効果があり、微細な結晶組織を有すると強度が高められるからである。Bを含有する形態でもよいが、Tiを含有する形態、更にTi及びBの双方を含有する形態であると、結晶の微細化効果をより得易い。
【0052】
TiやBの含有量が多いほど、結晶の微細化効果を得易いものの、多過ぎると導電率の低下を招く。また、結晶の微細化効果は、TiやBの含有量が以下の上限値程度で飽和すると考えられる。このことから、Tiの含有量は0.01%以上0.05%以下が挙げられ、0.015%以上0.045%以下、更に0.02%以上0.04%以下とすることができる。Bの含有量は0.001%以上0.008%以下が挙げられ、0.003%以上0.007%以下、更に0.004%以上0.006%以下とすることができる。
【0053】
・組織
リード導体1を構成するアルミニウム合金の組織として、上述の微細な結晶組織が挙げられる。例えば、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下、更に2μm以上40μm以下更には30μm以下を満たすことが挙げられる。リード導体1がこのような微細な結晶組織を有すると、強度に優れて、薄く細幅であっても破断し難い上に、リード導体1の内部に電解液が浸透し難く、リード導体1の構成成分が電解液に溶出する量を低減して、電解液に対する耐性を高め易いと期待される。結晶粒径は、上述の添加元素の含有量、製造過程での塑性加工の条件や熱処理条件などを調整して、所定の大きさに制御するとよい。
【0054】
・機械的特性
・・引張強さ
実施形態のリード導体1は、引張強さが100MPa以上220MPa以下であることを特徴の一つとする。リード導体1は、引張強さが十分に高いことで薄く細幅であっても破断し難い。引張強さが高いほど強度に優れて破断し難くなることから、下限を110MPa以上、更に120MPa以上、125MPa以上とすることができる。引張強さが高過ぎないことで、塑性加工時に導入された歪に起因する導電率の低下が少なく導電性に優れたり、伸びなどの靭性にも優れたりする。そのため、引張強さは210MPa以下、更に200MPa以下、190MPa以下とすることができる。
【0055】
・・耐力
実施形態のリード導体1は引張強さが高い上に、代表的には耐力にも優れており、薄く細幅であっても破断し難い。具体的には0.2%耐力が40MPa以上を満たすリード導体1が挙げられる。耐力が高いほど破断し難い傾向にあり、0.2%耐力を45MPa以上、更に50MPa以上、55MPa以上とすることができる。0.2%耐力が高過ぎる場合、引張強さも高過ぎる傾向にあり、上述の導電率の低下や靭性の低下が懸念される。0.2%耐力の上限は100MPa程度以下が挙げられる。
【0056】
・・伸び
実施形態のリード導体1は引張強さや耐力といった強度に優れる上に、代表的には伸びといった靭性にも優れており、薄く細幅であっても破断し難い。具体的には破断伸びが5%以上を満たすリード導体1が挙げられる。伸びが高いほど破断し難い傾向にあり、破断伸びを6%以上、更に7%以上、8%以上とすることができる。破断伸びが高過ぎる場合、引張強さや0.2%耐力が低くなり過ぎる傾向にあり、強度の低下が懸念される。破断伸びの上限は40%程度以下が挙げられる。
【0057】
・導電率
実施形態のリード導体1は、強度や靭性に優れる上に、導電性にも優れており、導電率が50%IACS以上を満たすことを特徴の一つとする。導電率が高いほど好ましく、導電率を51%IACS以上、更に52%IACS以上、53%IACS以上とすることができる。
【0058】
・大きさ
実施形態のリード導体1の大きさ(厚さ、幅、長さ)は適宜選択できる。厚さが薄く、幅が細いリード導体1であれば、薄型化、小型化が望まれている電力貯蔵デバイスの構成部材に好適に利用できる。薄肉で細幅のリード導体1として、厚さが0.03mm以上0.1mm以下、幅が1mm以上10mm以下を満たすものが挙げられる。リード導体1の長さは、電力貯蔵デバイスに組み付け前に、適宜切断して調整するとよい。
【0059】
厚さが0.03mm以上であれば幅が1mm程度と細くても破断し難い。厚さを0.035mm以上、更に0.04mm以上とすることができる。厚さが0.1mm以下であれば、電力貯蔵デバイスの薄型化、小型化に寄与できる。厚さを0.08mm以下、更に0.07mm以下、0.05mm以下とすることができる。
【0060】
幅が1mm以上であれば、厚さが0.03mm程度と薄くても破断し難い。幅を2mm以上、更に3mm以上とすることができる。幅が10mm以下であれば、電力貯蔵デバイスの小型化に寄与できる。幅を9mm以下、更に8mm以下、7mm以下とすることができる。
【0061】
・電解液に対する耐性
実施形態のリード導体1は、電解液に対する耐性にも優れており、リード導体1の構成成分が電解液に溶出し難い。この特性を示すパラメータとして、上述の拡散抵抗値(特許文献1も参照)を用いると、実施形態のリード導体1は、拡散抵抗値が高く、5×10
5Ω・cm
−2(=5×10
5Ω/cm
2)以上を満たすものが挙げられる。拡散抵抗値が高いほど、上記構成成分の電解液への溶出量が少なく、電解液に対する耐性に優れると考えられ、拡散抵抗値は6×10
5Ω・cm
−2以上、更に7×10
5Ω・cm
−2以上、7.5×10
5Ω・cm
−2以上を満たすことが好ましい。拡散抵抗値を高めるには、樹脂層との接触領域に後述の特定の表面処理部を備えることが好ましい。
【0062】
・表面処理部
実施形態のリード導体1は、その表面の少なくとも一部、好ましくは表裏の両面における少なくとも容器11との固定領域に後述の表面処理が施された表面処理部を備えると、樹脂層との密着性を高められる。密着した樹脂層によってリード導体1における容器11内の電解液との接触面積が小さくなり、リード導体1の構成成分が電解液に溶出することを低減できる。このようなリード導体1は上述の拡散抵抗値が高い。また、リード導体1と樹脂層とが密着すると、電力貯蔵デバイスの容器11の封止状態を良好に維持でき、電解液の容器11外への漏出、容器11内への外部からの水分の浸入などを防止できる。
【0063】
リード導体1の表面における容器11との固定領域にのみ表面処理部を備える形態(固定領域にのみ表面処理が施された形態)、リード導体1の表裏面全体に表面処理部を備える形態(表裏面を繋ぐ端面・側面に表面処理が施されていない形態)、リード導体1の外面全体に表面処理部を備える形態(表裏面、及び表裏面を繋ぐ端面・側面の全てに表面処理が施された形態)のいずれも利用できる。
【0064】
表面処理は、例えば、化成処理、ベーマイト処理、アルマイト処理、エッチング、ブラスト処理、ブラシ研磨などが挙げられる。各処理の条件は、従来のリード導体に対して行われている公知条件を利用できる。
【0065】
特に、化成処理、ベーマイト処理、アルマイト処理、及びエッチングから選択される1種が施された表面処理部を備えると、処理条件にもよるが、樹脂層との密着性により優れるリード導体1になり易い。化成処理又はエッチングが施された表面処理部を備えると、樹脂層との密着性に更に優れる。リード導体1と樹脂層との密着性により優れることで、構成成分の溶出量の低減、拡散抵抗値の増大、良好な封止状態の維持などを図ることができる。この表面処理部の表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで0.1μm以上0.5μm以下が挙げられる。
【0066】
・被覆樹脂層
実施形態のリード導体1の一例として、上述の特定の組成のアルミニウム合金から構成されるリード導体本体1と、本体1における容器11との固定領域に接合される被覆樹脂層22とを備える樹脂付きリード導体20が挙げられる。被覆樹脂層22は、電力貯蔵デバイスの容器11が金属層110を備える場合に本体1と金属層110との間の絶縁体として機能する。被覆樹脂層22の形成には、公知の樹脂付きリード導体の製造条件を利用できる。
【0067】
被覆樹脂層22の構成材料は、代表的には、熱可塑性ポリオレフィンが挙げられる。具体的には、ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、酸変性ポリプロピレン(例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン)、アイオノマーなどのイオン性高分子、マレイン酸変性ポリオレフィン(例えば、マレイン酸変性低密度ポリエチレン)、又はこれらの混合物が挙げられる。
上記アイオノマーは、エチレンとメタクリル酸などの共重合体をNa,Mg,K,Ca,Zrなどの金属イオン、又は金属錯体、又はアンモニウム塩などのカチオンなどで架橋させたものが挙げられる。
【0068】
被覆樹脂層22は、単層構造、成分や架橋状態などが異なる樹脂からなる多層構造のいずれも利用できる。多層構造の被覆樹脂層22として、接着層と表面層とを備える二層構造のものが挙げられる。例えば、接着層は上述の熱可塑性ポリオレフィン、表面層は上述の熱可塑性ポリオレフィンを架橋したもの(例えば、接着層の構成樹脂と同じ樹脂であって架橋したもの)が挙げられる。
【0069】
多層構造の被覆樹脂層22では、成分や架橋状態などを選択することで、例えば、リード導体(本体)1と被覆樹脂層22との密着性、容器11と被覆樹脂層22との密着性の双方を高められる。その結果、樹脂付きリード導体20における被覆樹脂層22を有する部分が曲げられたり、衝撃を受けたりしても、本体1と被覆樹脂層22との間や容器11と被覆樹脂層22との間での被覆樹脂層22が剥離し難い。このような樹脂付きリード導体20を備える電力貯蔵デバイスは、本体1に密着する被覆樹脂層22によって、本体1の構成成分における電解液への溶出量を低減できる上に、容器11の封止状態を良好に維持できる。本体1が上述の表面処理部を備える場合、この表面処理部に被覆樹脂層22を備えると、被覆樹脂層22の密着性により優れて好ましい。
【0070】
被覆樹脂層22の厚さがある程度厚いと、樹脂付きリード導体20が曲げられたり衝撃を受けたりした場合に被覆樹脂層22が破損し難く、厚過ぎないことで樹脂付きリード導体20を薄くできる。被覆樹脂層22の厚さは、例えば20μm以上300μm以下が挙げられ、30μm以上290μm以下、更に40μm以上280μm以下、50μm以上200μm以下とすることができる。この厚さは、リード導体(本体)1の表裏面にそれぞれ被覆樹脂層22,22を備える場合には本体1の一面に設けられた被覆樹脂層22の厚さとし、一面に設けられた被覆樹脂層22が多層構造であれば合計厚さとする。
【0071】
・用途
実施形態のリード導体1や樹脂付きリード導体20は、電力貯蔵デバイスの正極、負極のいずれにも利用できるが、正極用リード導体に好適である。
【0072】
・製造方法
上述の特定の組成を有し、かつ高強度で導電性にも優れるリード導体1、更には伸びにも優れるリード導体1は、特定の組成のアルミニウム合金を用意し、圧延などの塑性加工と熱処理とを施すことで製造できる。
塑性加工に供する素材は、連続鋳造材やビレット鋳造材、その他連続鋳造圧延材を押し出した押出材などが挙げられる。
熱処理は、軟化処理を含み、軟化処理の前後に塑性加工を行うことができる。このようなリード導体1は、軟材、1/2硬材などが挙げられる。1/2硬材は、軟化処理後にある程度塑性加工を行ったり、塑性加工後に強度が低下し過ぎない程度に軟化処理を施したりすることで製造できる。少なくとも、引張強さ及び導電率が上述の特定の範囲を満たすように、熱処理条件や塑性加工の加工度などを調整する。
【0073】
被覆樹脂層22を備える樹脂付きのリード導体20は、例えば、以下の製造方法(A)又は(B)などによって製造すると、被覆樹脂層22の密着性に優れて好ましい。
(A)鋳造板を作製する⇒鋳造板に圧延を施す⇒圧延板に熱処理(軟化処理)を施す⇒
表面処理を行う⇒処理板を帯状に切り離す⇒被覆樹脂層を形成する
(B)連続鋳造圧延材(ワイヤロッド)を作製する⇒
ワイヤロッドをコンフォーム押出によって板状に押し出す⇒押出板に圧延を施す⇒
圧延板に熱処理(軟化処理)を施す⇒表面処理を行う⇒処理板を帯状に切り離す⇒
被覆樹脂層を形成する
【0074】
表面処理の詳細は、上述の表面処理部の項を参照するとよい。被覆樹脂層22の詳細は、上述の被覆樹脂層22の項を参照するとよい。
【0075】
軟化処理前の任意の時期に時効処理を行うことができる。時効処理を行う場合、時効処理前の任意の時期に溶体化処理を行うことができる。連続鋳造を行う場合には溶体化処理を省略することができる。時効処理によって、MgとSiとを含む化合物を析出させて、この析出物などによる分散強化による強度の向上と、AlへのMg及びSiの固溶量の低減による導電率の向上とを図ることができる。
【0076】
・・圧延以前の工程
(A)の鋳造板は、連続鋳造材とすると、急冷によって結晶を微細化し易い、長尺材が得られる、急冷によって過飽和固溶体を得易い、といった利点を有する。
(B)の連続鋳造圧延材にコンフォーム押出を施すことで所望の形状、大きさの押出板を容易に形成できる上に、微細な結晶組織を有する押出板が得られる。
圧延に供する素材が微細組織を有することで塑性加工性に優れ、圧延を良好に行える。
【0077】
・・圧延工程
所望の厚さの圧延板(リード導体1の厚さである場合がある)が得られるように圧下率を調整して、熱間圧延や冷間圧延を行う。冷間圧延を施すことで、結晶をより一層微細にでき、適宜な時期に熱処理を行った場合でも微細な結晶組織を有するリード導体1を得易い。圧延途中で中間熱処理を行うことができる。中間熱処理を行うと、塑性加工性を高められる。
【0078】
・・熱処理工程
軟化処理や時効処理、溶体化処理といった熱処理は、長尺な素材に対して連続して行う連続処理、素材を雰囲気炉などの加熱用容器に封入した状態で行うバッチ処理のいずれも利用できる。連続処理は、直接通電方式、間接通電方式、炉式などが挙げられる。引張強さ及び導電率が所望の値となるように、連続処理方法に応じた制御パラメータ、例えば保持温度、保持時間、素材の供給速度、電流値、炉内温度などを調整する。
【0079】
バッチ処理による溶体化処理、時効処理、軟化処理の条件の一例を以下に示す。
溶体化処理 保持温度:500℃以上580℃以下、保持時間:0.01時間以上10時間以下
時効処理 保持温度:100℃以上250℃以下、保持時間:2時間以上20時間以下
軟化処理 保持温度:250℃以上500℃以下、保持時間:0.5時間以上6時間以下
【0080】
熱処理の雰囲気は、酸素含有量が少ない雰囲気とすると、酸化膜の生成を抑制できる。具体的な雰囲気は、大気雰囲気、非酸化性雰囲気が挙げられる。非酸化性雰囲気は、減圧雰囲気(真空雰囲気)、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気、水素や炭酸ガスなどを含む還元ガス雰囲気などが挙げられる。
【0081】
・・切り離し工程
作製した所定の厚さのアルミニウム合金板をリード導体1の所定の幅に応じて切断して帯材とする。ここで、作製したアルミニウム合金板が例えば0.1mm以下といった薄板であっても、幅広の薄板の断面積はある程度大きいため、破断などし難く取り扱い易い。この幅広の薄板を例えば幅10mm以下に切断して細幅の帯材にすると断面積が小さくなる。しかし、この薄く細幅の帯材は、上述の特定の組成のアルミニウム合金で構成されて、引張強さ及び導電率が特定の範囲を満たすため、破断荷重が大きく破断し難い。従って、この薄く細幅の帯材(実施形態のリード導体1の一例)は、リード導体1自体の製造過程において破断し難く取り扱い易い上に、電力貯蔵デバイスの製造過程において屈曲されたり、衝撃を受けたりした場合にも破断し難い。帯材が長尺であれば、所定の長さに適宜切断するとよい。
【0082】
(電力貯蔵デバイス)
実施形態の電力貯蔵デバイスは、正極と、負極と、電解液と、これらを収納する容器と、正極と外部の部材との間、負極と外部の部材との間をそれぞれ電気的に接続する2つのリード導体とを備える。実施形態の電力貯蔵デバイスは、2つのリード導体のうち、1つ又は2つが上述の実施形態のリード導体1(樹脂付きリード部材20の場合もある)である。
【0083】
各リード導体は、上記容器の内部から外部に亘って配置されて、一端側に正極又は負極が接続され、他端側に回路基板などの外部の部材が半田付けなどによって接続され、中間部に容器との固定領域を備える。リード導体の固定領域と容器との間には、樹脂層(上述の被覆樹脂層22、内側樹脂層112、及び接合樹脂層の少なくとも一つ)が介在する。
【0084】
実施形態の電力貯蔵デバイスのより具体的な形態は、非水電解液を用いる非水電解質電池や電気二重層キャパシタ、電解液の主溶媒を水とする水系電解質電池が挙げられる。非水電解質電池や電気二重層キャパシタ、水系電解質電池の基本的な構成、各構成要素の材質などは、公知技術を適用できる。
【0085】
図1,
図2は非水電解質電池10の一例を示す。
この非水電解質電池10は、正極14と、負極15と、電解液(ここでは非水電解液)が含浸されたセパレータ13と、これらの電池要素を収納する袋状の容器11と、容器11に固定された二つの樹脂付きリード導体20とを備える。少なくとも一方の樹脂付きリード導体20(例えば、正極)は、上述の特定の組成のアルミニウム合金からなるリード導体本体1と、本体1の表裏面に接合された被覆樹脂層22とを備える。負極用リード導体(本体)として、例えば純ニッケルや純銅、純ニッケルめっき純銅などから構成されるものを利用できる。
図2に示す被覆樹脂層22は、本体1に接する接着層220と、容器11の内面に接する表面層222とを備える二重構造である。
【0086】
非水電解質電池10の正極14及び負極15は、代表的には、活物質を含む粉末成形体などから構成される活物質層であり、金属箔から構成される集電体16,17上にそれぞれ形成される。集電体16(又は17)とリード導体本体1とは、例えばリード線19によって接続される(
図2)。
電気二重層キャパシタの正極及び負極はそれぞれ、固体活性炭が挙げられる。
【0087】
容器11は、金属層と樹脂層とを備えるものが代表的である。
図2の容器11は、内側から順に内側樹脂層112、金属層110、外側樹脂層114を備える両面多層フィルムから構成された例を示す。容器11は、両面多層フィルムの周縁部分を熱融着することで密閉されて、
図1に示すような袋状に形成される。容器11におけるリード導体1の固定領域では、容器11の内側樹脂層112と、樹脂付きリード導体20の被覆樹脂層22(ここでは表面層222)とを熱融着することで、樹脂付きリード導体20を容器11に固定すると共に容器11を密閉する。
【0088】
[試験例1]
種々の組成のアルミニウム合金板から細幅の帯材を作製して、機械的特性、導電率を調べた。
【0089】
各試料の帯材は、以下のように製造した。
表1に示す組成(残部Al及び不可避不純物)の原料を用意して、以下の工程(I)又は(II)によって、厚さ0.05mmのアルミニウム合金板を作製する。得られた各アルミニウム合金板を幅5mm又は幅4mmに切断して、細幅の帯材とする。
(I)連続鋳造⇒コンフォーム押出⇒冷間圧延⇒軟化処理
(II)ビレット鋳造⇒溶体化処理⇒冷間圧延⇒軟化処理
【0090】
一部の試料には、冷間圧延の途中の適宜な時期に時効処理を行う。時効処理の条件は、保持温度が180℃、保持時間が16時間、表1では「180℃×16H」と示す。
圧延後に軟化処理(この試験では最終熱処理)を施す。軟化処理の条件(軟化温度、雰囲気)を表1に示す。この試験では軟化処理をバッチ処理で行い、軟化温度の保持時間は、主として引張強さを指標として調整した。
試料No.1−103には軟化処理を行っていない。
【0091】
作製した各試料の帯材のうち、幅5mmの帯材を用いて引張試験(室温)を行い、引張強さ(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)を調べた。その結果を表2に示す。引張試験は、JIS Z 2241(2011年)に基づいて行う。
【0092】
作製した各試料の帯材のうち、幅5mmの帯材を用いて四端子法で導電率(IACS%)を調べた。その結果を表2に示す。
【0093】
作製した各試料の帯材のうち、幅4mmの帯材を用いて、折り曲げ試験、衝撃試験を行い、破断するまでの折り曲げ回数(回)、衝撃によって破断する際のエネルギー(J/m)を調べた。その結果を表2に示す。
【0094】
折り曲げ試験は、以下のように行う。
図3に示すように、評点間距離Lが30mmの試料S(帯材)を二つ折れにする(黒塗り矢印参照)。二つ折れによって近接した試料Sの端部間の間隔Cが試料Sの厚さ0.05mmの2倍(ここでは0.1mm)と等しくなるように折り曲げる。二つ折れにした試料Sを開いて元に戻す(白抜き矢印参照)。この二つ折れと戻しとの一連の操作を1回とし、破断するまでの回数を調べる。回数が多いほど破断し難いといえる。
【0095】
衝撃試験は、以下のように行う。
図4に示すように、評点間距離Lが1mの試料Sの先端に錘wを取り付け(
図4の左図)、錘wを1m上方に持ち上げた後(
図4の中図)、自由落下させる(
図4の右図)。この操作で試料Sが断線しない最大の錘wの重量(kg)を測定し、この重量に重力加速度(9.8m/s
2)と落下距離1mとをかけた積値を落下距離で割った値(J/m又は(N・m)/m)の大小で耐衝撃性を評価する。衝撃値が大きいほど、耐衝撃性に優れて破断し難いといえる。
【0098】
表2に示すようにMg及びSiを特定の範囲で含有する特定の組成のAl−Mg−Si系合金で構成された試料No.1−1〜No.1−11はいずれも、引張強さが100MPa以上220MPa以下を満たし、かつ導電率が50%IACS以上であり、高強度で導電性にも優れることが分かる。試料No.1−1〜No.1−11はいずれも引張強さが120MPa以上であり、多くの試料が130MPa以上である。また、試料No.1−1〜No.1−11のうち多くの試料は、導電率が55%IACS以上、更に56%IACS以上である。そして、これらの試料No.1−1〜No.1−11はいずれも、薄く細幅な帯材であるものの、屈曲したり衝撃を受けたりした場合に破断し難いことが分かる。Mgが多過ぎる試料No.1−101は、導電率が非常に低い上に(45%IACS未満)、破断し易いことが分かる。Siが少な過ぎる試料No.1−102は、引張強さが低過ぎ(ここでは100MPa未満、更に90MPa以下)、破断し易いことが分かる。軟化処理を行っていない試料No.1−103は引張強さが高過ぎ(ここでは220MPa超、更には300MPa以上)、破断し易いことが分かる。添加元素が少な過ぎる試料No.1−104は引張強さが低過ぎ(ここでは100MPa未満、更に90MPa以下)、破断し易いことが分かる。
【0099】
この試験では、厚さ0.1mm以下、幅10mm以下の薄く細幅な帯材に対して、曲げ半径が試料の厚さ以下である曲げを行っているものの、更には繰り返し曲げを行っているものの、試料No.1−1〜No.1−11はいずれも折り曲げ回数が5回以上であり、破断し難いことが分かる。ここで、例えば、リチウムイオン二次電池などの電力貯蔵デバイスに備えるリード導体を所定の形状に折り曲げて外部の部材に固定した場合、その後の製造過程で、この折り曲げ部分を開くような操作を行うことは通常無い。しかし、上記電力貯蔵デバイスを備える携帯機器類を落下するなどして、リード導体が衝撃を受けた場合に上記折り曲げ部分を開くような力が加わる可能性がある。試料No.1−1〜No.1−11の薄く細幅の帯材はいずれも、繰り返しの曲げによっても破断し難いため、リチウムイオン二次電池などの電力貯蔵デバイスのリード導体に利用されて落下などの衝撃を受けた場合でも、破断せず、所定の折り曲げ形状を良好に維持できると期待される。
【0100】
また、この試験では、厚さ0.1mm以下、幅10mm以下の薄く細幅な帯材に対して、2.0J/m以上といった大きな衝撃荷重を受けた場合でも破断し難いことが分かる。このような耐衝撃性に優れる試料No.1−1〜No.1−11の薄く細幅の帯材はいずれも、リチウムイオン二次電池などの電力貯蔵デバイスのリード導体に利用されて落下などの衝撃を受けた場合でも、破断し難いと期待される。更には上述のような所定の形状に折り曲げられた状態で衝撃を受けた場合にも破断し難いと期待される。
【0101】
このような結果が得られた理由の一つとして、試料No.1−1〜No.1−11はいずれも、引張強さが特定の範囲を満たすことに加えて、耐力が高く、更には伸びにも優れることが考えられる。具体的には、試料No.1−1〜No.1−11はいずれも、0.2%耐力が40MPa以上、更には50MPa以上であり、多くの試料は60MPa以上であり、破断伸びが5%以上、更には6%以上である。別の理由の一つとして、試料No.1−1〜No.1−11はいずれも、微細な結晶組織を有していること、特にTi及びBの少なくとも一方を特定の範囲で含有する試料は、より微細な結晶組織を有していることが考えられる。試料No.1−1〜No.1−11の断面を光学顕微鏡で観察して結晶粒径を調べたところ、いずれの試料も平均結晶粒径が50μm以下であり、TiやBを含有する試料では更に微細な結晶であった。平均結晶粒径は、JIS G 0551(鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法、2005年)に準拠して切断法によって求める。
【0102】
その他、この試験から以下のことが分かる。
・MgやSiの含有量を特定の範囲内で多くしたり、又はCuなどの特定の添加元素を特定の範囲で含有したりすることで、引張強さや耐力をより高め易い。
・薄く細幅であっても、高強度で破断し難く、導電性にも優れる帯材は、特定の成分とすると共に塑性加工と熱処理との条件を制御することで製造できる。
例えば、同じ組成である試料No.1−4と試料No.1−103とを比較すれば、塑性加工材に軟化処理を行うことで、高強度で伸びにも優れるものが得られることが分かる。同じ組成である試料No.1−4と試料No.1−5とを比較すれば、適宜な時期に時効処理を行うことで強度により優れるものが得られることが分かる。
【0103】
[試験例2]
試験例1で作製した試料No.1−11の組成のアルミニウム合金からなる帯材を用いて樹脂付きリード導体の模擬試料を作製し、拡散抵抗値と樹脂の接合強度とを調べた。
【0104】
樹脂付きリード導体の模擬試料は、以下のように作製した。
表1に示す試料No.1−11の組成のアルミニウム合金板(Mg:0.48質量%、Si:0.19質量%、Ti:0.02質量%、B:0.005質量%、厚さ0.05mm)を幅10mm、長さ45mmに切断して薄く細幅の帯材を作製し、表3に示す表面処理を施してから又は表面処理を行わず、樹脂を接合する。
【0105】
表面処理を施す試料は、帯材の表裏面の全面に表面処理を施し(表裏面全面が表面処理部である)、帯材の端面及び側面には表面処理を施していない。なお、切断前のアルミニウム合金板の表裏面に表面処理を施した後、帯材に切断してもよい。
【0106】
表3に示す表面処理の詳細は以下の通りである。
・化成処理I,III,IVは、アイオノマーを形成可能な市販の化成処理液を用いた化成処理とし、化成膜の平均厚さが表3に示す値(10nm,30nm,300nm)となるように化成処理液の浸漬時間を調整する。
・化成処理IIは、市販の処理液を用いたクロメート処理である。
・粗面化I,IIは、市販のアルカリ系エッチング液を用いたエッチング処理とし、平均ピット深さが表3に示す値(1μm,0.5μm)となるようにエッチング時間を調整する。
・ベーマイトI,IIは、95℃の純水を用いたベーマイト処理とし、表3に示すように処理時間が異なる(15分間、20秒間)。
・アルマイトI,IIは、硫酸水溶液を用いた陽極酸化処理とし、アルマイト層の平均厚さが0.5μmとなるように処理時間を調整する。アルマイトIでは、陽極酸化後に封孔処理を行わず、アルマイトIIでは、陽極酸化後に封孔処理を行う。
・ブラストは、市販の空気式ブラスト装置を用いて、表3に示す条件(ショット材:#120のアルミナ粒子、圧力:0.3MPa)で行うブラスト処理である。
【0107】
上述の表面処理を施した各試料No.2−11〜No.2−18,No.2−112〜No.2−114の帯材、及び表面処理を施していない試料No.2−111の帯材の表裏面に樹脂を接合する。
各試料における接合する樹脂は、酸変性ポリプロピレンからなる接着層(厚さ25μm)と、酸変性ポリプロピレンを架橋した表面層とを備える二重構造の樹脂フィルムを用いる。各試料の帯材の表裏面を挟むように、試料ごとに2枚の樹脂フィルムを用いる。
各試料に用いる樹脂フィルムごとの表面層の厚さは、接着層と表面層との合計厚さが表3の「樹脂厚さ」となるように調整する。
【0108】
各試料の帯材の表裏面における所定の領域を除いて、2枚の樹脂フィルムで帯材を挟み、熱プレスによって樹脂フィルムを帯材の表裏面に接合する。接合条件は、加熱温度:260℃、圧力:0.2MPa、加熱時間:10秒である。この工程によって、帯材の一部が樹脂から露出した樹脂付きリード導体の模擬試料が得られる。
拡散抵抗値の測定に用いる模擬試料では、帯材においてリード線を接続する一縁側の領域(
図5では上端縁側の領域で10mm×長さ10mm)を樹脂フィルムから露出させる。各樹脂フィルムは、25mm×長さ45mmである。
樹脂の接合強度の測定に用いる模擬試料では、帯材において、両縁側の領域を樹脂フィルムから露出させる(
図7では左右縁側の領域)。各樹脂フィルムは、5mm×長さ60mmである。
【0109】
(拡散抵抗値)
図5に示すように、リード導体本体を模擬した帯材S1と樹脂層S22とを備える模擬試料SS1と、対極302と、電解液304とを用いて電気化学測定セル300を構築し、電解液304に模擬試料SS1を所定時間浸漬した後に交流インピーダンススペクトルを用いて、拡散抵抗値を算出する(特許文献1も参照)。その結果を表3に示す。
【0110】
いずれの試料についても、対極302は、Alを99.999質量%含む純アルミニウムからなる線材(直径0.5mm×長さ50mm)とする。対極302には、電解液に対する耐性を十分に有し、かつ電位安定性に優れる種々のものを適宜利用できる。
いずれの試料についても、電解液304は、リチウムイオン二次電池の電解液に利用されているものとする。ここでは、電解質がLiPF
6(電解質のモル濃度:1mol/L)、溶媒がEC:DMC:DEC=1:1:1(V/V%)の混合有機溶媒であるもの(キシダ化学株式会社製電解液)とする。ECはエチレンカーボネート、DMCはジメチルカーボネート、DECはジエチルカーボネート、V/V%は、体積比を意味する。
【0111】
図5に示すように模擬試料SS1及び対極302にそれぞれリード線を接続し、両リード線を更に交流インピーダンススペクトルの測定装置310に接続する。有底筒状の容器に電解液304を充填し、各模擬試料SS1の樹脂層S22のみが電解液304に接触し、帯材S1におけるリード線の接続箇所が電解液304に接触しないように、各模擬試料SS1を電解液304に浸漬すると共に対極302を電解液304に浸漬する。こうすることで、電気化学測定セル300を構築する。
上述の電気化学測定セル300を恒温槽(図示せず)に装入して、電解液304の温度を60℃に維持し、この浸漬状態を1週間(1W、168時間)保持する。
1週間後、各模擬試料SS1の交流インピーダンススペクトルを電解液304中で測定し、測定した交流インピーダンススペクトルから拡散抵抗値を算出する。
拡散抵抗値(ワールブルグインピーダンス)は、
図6に示す等価回路を用いたシミュレーションによる解析を利用して算出する。等価回路は、拡散抵抗値をWとするとき、拡散抵抗値Wに直列な電荷移動抵抗Rpと、拡散抵抗値Wと電荷移動抵抗Rpとに並列する静電容量Cと、この並列回路に直列する電解液抵抗Rsとによって表わされる。
【0112】
交流インピーダンススペクトルの測定条件は、振幅:25mV、測定周波数範囲:100kHz〜100mHzである。
測定周波数(=交流インピーダンススペクトルの測定点)は、周波数の変化量が10倍になるごとに10点とし、対数スケールで周波数を変えて、交流インピーダンススペクトルを測定する。この例では、交流インピーダンススペクトルの測定点数は、100kHz〜10kHzで10点、全体で60点である。各測定周波数における交流インピーダンススペクトルの各データを、上述の等価回路を用いたシミュレーションによって再現して、
図6に示す等価回路の各パラメータを見積もる。このシミュレーションの結果を利用して拡散抵抗値を算出する。
交流インピーダンススペクトルの測定装置、交流インピーダンススペクトルの測定ソフトウェア、解析ソフトウェアには、市販のものを利用して、自動的に測定、解析を行うことができる。
例えば、測定装置は、VersaSTAT4−400+VersaSTAT LC(プリンストンアプライドリサーチ社)、測定ソフトウェアはVersaStudio(プリンストンアプライドリサーチ社)、解析ソフトウェアはZview(Scribner Associates Inc.)などが利用できる。
【0113】
(樹脂の接合強度)
図7に示すリード導体本体を模擬した帯材S1と、その表裏面にそれぞれ接合された樹脂フィルムS22a,S22bとを備える模擬試料SS2の全体を電解液に所定時間浸漬した後、以下のようにしてピール強度を測定する。その結果を表3に示す。
【0114】
電解液は、拡散抵抗値の測定に用いたものと同様のもの(キシダ化学株式会社製電解液)を用いる。恒温槽を利用して、電解液の温度を80℃に維持し、この浸漬状態を1週間(1W=168時間)、4週間(4W)、8週間(8W)保持する。
所定の浸漬時間経過後(ここでは1W後又は4W後又は8W後)、電解液から模擬試料SS2を取り出し、
図8の左図に示すように一方の樹脂フィルムS22aと帯材S1とを切断して、二つに分割する(分割片S1s,S1l、フィルム片la,sa)。一方の分割片S1sの長さよりも、他方の分割片S1lの長さが十分に長くなるように分割する。
分割された両片S1l,S1sは、他方の樹脂フィルムS22bに接合されている。この他方の樹脂フィルムS22bを
図8の右図に示すように、長い分割片S1lから短い分割片S1sが離れるように折り返す。
長い分割片S1lと短い分割片S1sとを市販の引張試験装置(図示せず)に把持させて、
図8の右図の黒矢印に示すように両片S1l,S1sが離れる方向(
図8の右図では上下方向)に引っ張る。引っ張る力が大きくなるにつれて、他方の樹脂フィルムS22bは、長い分割片S1lから剥がされる。
この試験では、他方の樹脂フィルムS22bが長い分割片S1lから完全に剥がされるまでの最大の引張力をピール強度(N)とし、n=3の平均値を表3に示す。ピール強度(N)が大きいほど、帯材S1と樹脂フィルムS22bとの密着性に優れるといえる。
【0116】
表3に示すように、Mg及びSiを特定の範囲で含有する特定の組成のAl−Mg−Si系合金で構成された帯材に表面処理を行うことで、特に化成処理、ベーマイト処理、アルマイト処理、及びエッチングから選択される1種の表面処理を行ったり、その処理条件を調整したりすることで、樹脂層との密着性に優れ、拡散抵抗値が大きいことが分かる。
【0117】
この試験では、試料No.2−11〜No.2−18はいずれも、拡散抵抗値が5×10
5Ω/cm
2以上であり、多くの試料は10×10
5Ω/cm
2以上である。また、試料No.2−11〜No.2−18はいずれも、8W後のピール強度が3N以上であり、多くの試料は4N以上であり、更には5N以上の試料も多く、長期に亘り、樹脂層が剥離し難いことが分かる。このことから、拡散抵抗値が大きい理由の一つとして、樹脂層が剥離せず密着しており、各試料の帯材における電解液との接触面積を低減できたことが考えられる。
【0118】
拡散抵抗値が大きい試料No.2−11〜No.2−18の帯材を電力貯蔵デバイスのリード導体に利用した場合、帯材の構成成分が電解液に溶出することを低減でき、電解液に対する耐性にも優れると期待される。また、適切な表面処理方法や処理条件を選択することで、このような電解液に対する耐性にも優れるリード導体が得られるといえる。
【0119】
試料No.2−11〜No.2−18の帯材について表面処理部の算術平均粗さRa(JIS B 0601、2001年)を市販の粗さ測定機によって測定したところ(評価長さ3μm、n=9の平均値)、0.1μm以上0.5μm以下である。このように適切に粗面化されていることで、樹脂との密着性に優れると考えられる。
【0120】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、試験例1,2のアルミニウム合金の組成、帯材の幅及び厚さ、表面処理方法、処理条件、被覆樹脂層の材質・厚さなどを適宜変更することができる。
【解決手段】正極と、負極と、電解液と、これらを収納する容器とを備える電力貯蔵デバイスに用いられるリード導体であって、Siを0.1質量%以上1.2質量%以下含有すると共に、Mgを、質量比でMg/Siが0.8以上2.7以下、かつ1.5質量%未満を満たす範囲で含有するアルミニウム合金から構成され、引張強さが100MPa以上220MPa以下であり、導電率が50%IACS以上であるリード導体。