特許第6025080号(P6025080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6025080
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】大型EFG法用育成炉の熱反射板構造
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20161107BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   C30B29/20
   C30B15/34
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-255504(P2015-255504)
(22)【出願日】2015年12月26日
【審査請求日】2016年1月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】樋口 数人
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 弘倫
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−121996(JP,A)
【文献】 特開昭63−144187(JP,A)
【文献】 特開昭58−049690(JP,A)
【文献】 特開昭51−132184(JP,A)
【文献】 特開2010−229030(JP,A)
【文献】 特開2001−322892(JP,A)
【文献】 特開2013−237591(JP,A)
【文献】 特開2014−070016(JP,A)
【文献】 特開2003−313092(JP,A)
【文献】 特開2003−327495(JP,A)
【文献】 特開2015−120612(JP,A)
【文献】 特許第4245856(JP,B2)
【文献】 特許第5702931(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/20
C30B 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝と、
前記坩堝の上部開口を覆い、中央に開口部を有する平面の蓋体と、
坩堝の中に位置し、前記蓋体の開口部から一部が突出したダイパックと、
前記蓋体と平行な面を有し、前記蓋体上に支持され、前記突出したダイパックの全周囲に前記蓋体平面に対し垂直方向に離間して積層配置され、中央に開口部を有する複数の熱反射板と、
ヒーターと、を備え、
前記複数の熱反射板のうち、最上部に配置された熱反射板が、
前記ダイパック中央部に於けるダイの幅方向両側に位置する部分を前記開口部から外周にわたって切り取った、当該熱反射板よりも下部に配置された熱反射板の欠損部分を覆っている
EFG育成炉。
【請求項2】
前記坩堝の側壁上端部に沿って、前記複数の熱反射板の周囲に配置され、前記欠損部分を囲む部分が切り取られているカバーを備える請求項1に記載のEFG育成炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EFG法(Edge−defined Film−fed Growth法)を用いてサファイアリボンを育成するEFG法用育成炉の熱反射板構造に関する。
【0002】
現在、LEDに代表される半導体の多くは単結晶材料からなる基板上にGaN等の結晶膜を成長させる事で構成されており、当該単結晶材料の製造には円柱状の単結晶を育成するCz法と、板状の単結晶を育成するEFG法の2種類が広く用いられている。これら2種類の育成方法のうち、予め板状に形成された単結晶を育成することができるEFG法は、その加工性に於いて前記基板用途に適しており、特許4245856(以下特許文献1として記載)及び特許5702931(以下特許文献2として記載)等に記載の技術を用いることによって育成する結晶の品質を向上し、半導体用途への利用を可能にしている。当該特許文献について、特許文献1では板状のサファイア単結晶となるサファイアリボンの引き上げ時、アルミナ融液に浸す種結晶の引き上げ角度を傾けることで、サファイアリボン表面に於けるステップ構造を同一方向に形成し、厚さ等のムラが生じた際にも結晶欠陥を減少させている。また、単体の種結晶から同時に引き上げられる複数のサファイアリボンに関し、結晶品質を一括して向上させるという効果をも付与している。
【0003】
また、特許文献2ではサファイアリボンの育成方向に2つの温度勾配を設定することで結晶内の転移を抑制している。より具体的には、融液から結晶を形成した直後に当該結晶を速い冷却速度下に置き、製造プロセスが進むにつれて冷却速度を減少することで、多結晶性を示さない単結晶サファイアリボンの製造を可能にしている。尚、当該特許文献2では位置間の温度差だけでなく、当該位置間をリボンが進む速度もまた、温度勾配の構成要素に加えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4245856号公報
【特許文献2】特許5702931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術的特徴及び効果が用いられている一方で近年、LEDに用いられるサファイア単結晶基板の需要が高まっており、特許文献1及び2に記載のEFG法を用いた育成方法について、結晶品質を保ったまま育成枚数を増加することができないという課題が生じている。即ち、現在のEFG法を用いたサファイアリボン育成では、育成枚数の増加に伴いダイパックの長さを延長し、10枚以上となる多数枚同時育成に対応することが要求されている。これに対して、上記従来の方法を用いた育成方法は単体としての結晶品質を向上させた結果、各リボン間の育成条件安定という効果を付与することができず、前記同時育成した結晶のうち、半分程度の割合で幅方向端部に線状の結晶欠陥(以下サイドスリップ不良として記載)を生じてしまう。加えて、前記従来技術を用いた多数枚の同時育成では、種結晶からダイパックの両端まで結晶幅を広げるスプレッディングの長時間化や、前記各リボン間の育成条件差に伴う育成中の一部サファイアリボン幅の減少といった課題も有している。
【0006】
上記課題に対して本願記載の発明では、10枚以上となる多数枚の同時育成に際して各リボン間の育成条件を安定させると共に、サイドスリップ不良の発生を防ぎ、スプレディング時間を短縮すると共に、育成する全てのサファイアリボン幅をダイパック幅にて安定させることが可能なEFG育成炉の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的のために本発明は、EFG育成炉に於いて、ダイパック側面に積層配置した熱反射板のうち、中板の一部を取り除いて積層したことをその特徴としている。より具体的には、坩堝端面を覆う蓋体から突出したダイパック先端部の周囲に設けた複数枚の熱反射板について、前記育成した結晶の幅方向に対応したダイパック側面側に積層された熱反射板の一部を切り欠き、当該側面側から見て一部の熱反射板が切り取られた構造としたことをその技術的特徴としている。
【0008】
また、本発明に於ける第2の態様記載の発明は、前記ダイパックから引き上げられるサファイアリボンが並ぶ方向について、前記熱反射板外側を板状部材等で覆い、ヒータからダイパック付近の部品が受ける輻射熱を調整したことをその技術的特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上述した技術的特徴によって、本発明では10枚以上となる多数枚の同時育成に際して各リボン間の育成条件を安定させると共に、サイドスリップ不良の発生を防ぐことができる。これは、前記熱反射板の一部を切り欠いた事による効果となっている。即ち、サファイアリボンの材料となるアルミナの融点に起因して、EFG法を用いたサファイア単結晶育成は2000℃以上の高温条件化にて行われる。これに伴い、育成炉内の環境は坩堝内のアルミナを溶融すると共に、種結晶から引き上げ、冷却されていく当該アルミナ融液がその過程で連続して結晶成長していくという2つの条件をダイパック全体に渡って満たさなければならない。本発明では前記10枚以上の同時育成に用いる大型のダイパックに対し、従来連続した一枚板として設けられていた熱反射板を切り欠くことで、これら2つの条件を満たしている。より具体的には、ダイパック周辺に熱反射板を積層配置することで坩堝外周に環状配置されるヒーターから受ける輻射熱の範囲を限定し、ダイパック周囲の温度勾配を一定に保っていた従来の技術に対し、大型化に伴うダイパックの温度低下に対応した積層配置を、対象となるダイパック中央のみに作用させることで、前記高温条件下にも係わらず、当該大型のダイパック全体に於ける温度勾配の安定化という効果を付与している。
【0010】
上述した効果に加えて、本願で用いる育成炉では融液を熱源とする蓋体からの輻射熱を和らげ、坩堝の周囲に配置したヒータからの輻射熱を通すことで、当該育成炉の構造上、最も温度が低くなる坩堝中心部について温度勾配の高温部分を底上げし、ダイパック内のアルミナ融液を高温に保っている。この為、本発明記載の育成炉では結晶が成長するダイパック先端部の温度をヒーターからの距離に係わらず均一にすることが可能となり、ダイパックから育成する全てのサファイアリボンについてサイドスリップ不良が生じない条件での結晶育成を行うことができる。また、当該温度条件の均一化により、ダイパック上で育成される結晶の成長速度もまた、揃えることができる。この為、スプレッディング中の速度について各サファイアリボン間に於けるバラツキを抑え、スプレッディング時間を短縮することが可能となる。更に、本願記載の育成炉では熱反射板を一定の間隔を空けて積層配置することによって各サファイアリボンの育成方向に安定した温度勾配を形成している。この為、前記大型のダイパックを用いた多数枚同時育成に際しても、育成中の一部サファイアリボン幅の減少といった課題を生じることなく、安定した幅での結晶育成を行うことができる。
【0011】
また、本発明第2の態様を用いることで、上記温度条件の均一化をより容易に行うことが可能となる。これは、大型のダイパックを用いた多数枚同時育成に際して、最も温度が高くなるサファイアリボン並び方向の両端側を板状部材等により覆ったことによる効果となっている。即ち、当該両端側を覆った構造により、本態様ではヒーターによって上下する前記ダイパック両端側の温度変化が緩やかになる。この為、前記ヒーターから離れたダイパック中央部と当該ダイパック両端部とのヒーターに対する温度変化の追従性を揃え、炉内環境に応じて育成中に変化していくヒーターの温度について、各サファイアリボン間のバラツキを抑えた状態で一括して育成条件を調整すると共に、前記多数枚同時育成に際して各サファイアリボンを同時に引き上げることができる。更に、当該多数枚の同時引き上げという効果により、育成に用いる種結晶を共通化し、種結晶の保持機構を簡略化することもまた、可能となっている。
【0012】
以上述べたように、本願記載の発明を用いることで、10枚以上となる多数枚の同時育成に際して各リボン間の育成条件を安定させると共に、サイドスリップ不良の発生を防ぎ、スプレディング時間を短縮すると共に、育成する全てのサファイアリボン幅をダイパック幅にて安定させることが可能なEFG育成炉を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の最良の実施形態に於いて用いるEFG育成炉の概略図
図2】本発明の最良の実施形態に於いて用いるダイパック周辺部品の全体斜視図
図3図2に於いて示したダイパック周辺部品の分解斜視図
図4図2に於いて示したダイパック及び熱反射板の平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図1図2図3及び図4を用いて、本発明に於ける最良の実施形態を示す。尚、図中の記号及び部品番号について、同じ部品として機能するものには共通の記号又は番号を付与している。
【0015】
図1に本発明の最良の実施形態に於いて用いるEFG育成炉の概略図を、図2に同ダイパック周辺部品の全体斜視図を、図3に同周辺部品の分解斜視図を、そして図4に当該ダイパック及び熱反射板の平面図を、それぞれ示す。尚、。図1中の熱反射板固定構造及び蓋体用支柱部材については、図中での記載を省略している。
【0016】
図1に示す様に、本実施形態記載のEFG育成炉1では坩堝7内に板状空隙を有するダイを複数束ねたダイパック5を配置すると共に、当該坩堝7内に供給されたアルミナをヒーター6によって溶融し、毛細管現象によって前記板状空隙内を満たすことで、ダイパック先端まで下降させた単一の種結晶と当該溶融されたアルミナ融液とを接触させ、種結晶2の引き上げによるサファイアリボンの育成を行う。
【0017】
この様な構造を用いたことで、本実施形態記載の育成炉1では、多数のサファイアリボンをマルチサファイアリボン3として一括して同時に引き上げることが可能となった。即ち、本実施形態では共通の種結晶2を素にした前記同時引き上げにより、サファイア単結晶からなるマルチサファイアリボン3の育成を行っている。この為、種結晶2の支持構造を簡略化すると共に、引き上げ速度を共通化することによる結晶育成時の制御簡略化という効果をも得ている。また、本実施形態では、当該引き上げにより結晶が形成されるダイパック先端付近について、蓋体10、熱反射板11及びカバー14を設けた構造を用いている。この為、複数枚のサファイアリボン育成に際して、各サファイアリボン毎の温度勾配を結晶の育成に適した状態に保つと共に、ヒーター6によるダイパック周辺の温度変化を緩やかにし、各サファイアリボン毎の結晶に於ける成長速度を安定化させることが可能となった。
【0018】
次に、図2図3を用いて本実施形態に於けるダイパック周辺の全体斜視図及び分解斜視図を示す。図2から解るように、本実施形態では蓋体上に支持することで積層配置した3段の熱反射板11、12、13について、中板となる下から2段目の反射板12の中央を切り欠いた構造を用いている。この為、ダイパック中央に対してはヒーター6から直接輻射熱を照射すると共に、ダイパック両端部に対しては照射する輻射熱を限定し、大型のダイパック全体に於ける温度勾配の安定化という効果を付与することができた。また、当該効果によって、本実施形態では2000℃以上の高温条件下となる育成炉内にて、坩堝内でのアルミナ溶融及び毛細管現象によるダイパック先端へのアルミナ融液移動と、種結晶を用いた引き上げによる冷却及びその過程での結晶成長と、の2つの条件を満たすことが可能となった。更に、本実施形態では1段目の熱反射板11をダイパック外側の全周に亘って配置している。これにより、融液を熱源とする蓋体からの輻射熱を和らげ、坩堝内の融液量増減に伴うダイパックへの熱的な影響を低減すると共に、ヒーター6によるダイパック周辺の温度制御安定化という効果をも得ることができた。
【0019】
即ち、本実施形態ではダイパック中央に対応した3段目の反射板13のみをダイパック5よりも上に配置している。この為、10枚以上となるサファイアリボンの多数枚同時育成に際し、前記ヒーター5から距離が離れたダイパック中央の先端部分に照射されるヒーターの輻射熱を調整し、当該先端部分に於ける温度勾配を他の先端部分と同様に、サファイアリボンの育成に適した状態で維持することが可能となった。より詳しくは、前述の2段目反射板中央を切り欠いた構造により、本実施形態に於けるダイパック中央部内の融液は前記ヒーターの輻射熱により直接加熱され続けた状態でダイパック先端へと運ばれる。一方、サファイアリボンの育成には種結晶の引き上げに伴いアルミナ融液内の分子を整列、冷却して固定し、単結晶を形成していくための温度勾配が必要となる。本実施形態では3段目の反射板13をダイパック5よりも上に設けたことで前記ダイパック中央の先端部分へと運ばれた融液に当該温度勾配を形成し、前記多数枚同時育成にて用いるダイパック先端部分に於ける各リボン間の育成条件安定化という効果を付与している。これらの効果によって本実施形態記載のEFG育成炉ではサイドスリップ不良の発生を防ぎ、育成する全てのサファイアリボン幅をダイパック幅にて安定させると共に、スプレッディング中の速度について各サファイアリボン間に於けるバラツキを抑え、スプレッディング時間を短縮する事が可能となった。尚、同じ技術的見地から、3段目の反射板を外し、各ダイの高さを個別に調整することによっても同様の効果を得ることができる。
【0020】
上記効果に加えて、図4の平面図から解るように、本実施形態では前記3段目の反射板13について、内側に切り欠きを設けた形状を用いている。これにより、前記ダイパック中央の先端部に形成する温度勾配をより細かく設定すると共に、各リボン間のバラツキを最小限に抑え、前記多数枚同時育成に於ける結晶品質の向上という効果を得ることができた。また、当該図中に於いて、育成したサファイアリボンが並ぶ上下方向を覆うように前記2段目となる熱反射板12の側面にカバー14を設け、ヒーター−ダイパック中央間の空間を開放したことで、ヒーターから離れたダイパック中央部とヒーターに近接したダイパック両端部とのヒーターに対する温度変化の追従性を揃え、炉内環境及び育成状態に応じて変化させるヒーターの温度について、ヒーター温度による育成条件の調整を一括して行うと共に、各サファイアリボンの同時引き上げを行うことが可能となった。更に、当該多数枚の同時引き上げに際して育成に用いる種結晶を共通化することで、種結晶の保持機構簡略化という効果をも得ることができた。
【0021】
以上述べたように、本願記載の発明を用いることで、10枚以上となる多数枚の同時育成に際して各リボン間の育成条件を安定させると共に、サイドスリップ不良の発生を防ぎ、スプレディング時間を短縮すると共に、育成する全てのサファイアリボン幅をダイパック幅にて安定させることが可能なEFG育成炉を提供することが可能となった。

【符号の説明】
【0022】
1 EFG育成炉
2 種結晶
3 マルチサファイアリボン
4 上部断熱材
5 ダイパック
6 ヒーター
7 坩堝
8 側面部断熱材
9 底面部断熱材
10 蓋体
11 1段目熱反射板
12 2段目熱反射板
13 3段目熱反射板
14 カバー
15 支柱部材
【要約】
【課題】
10枚以上となる多数枚の同時育成に際して各リボン間の育成条件を安定させると共に、サイドスリップ不良の発生を防ぎ、スプレディング時間を短縮すると共に、育成する全てのサファイアリボン幅をダイパック幅にて安定させることが可能なEFG育成炉を提供する。
【解決手段】
ダイパック側面に積層配置した熱反射板のうち、中板の一部を取り除いて積層することで、ダイパック中央と両端に対してヒーターから照射される輻射熱の量を変化させ、ダイパック先端部に於ける温度勾配を揃え、育成する全てのサファイアリボン幅をダイパック幅にて安定させることが可能なEFG育成炉を提供することができる。

【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4