(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6025087
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】サファイアリボン
(51)【国際特許分類】
C30B 29/20 20060101AFI20161107BHJP
C30B 15/34 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
C30B29/20
C30B15/34
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-74930(P2016-74930)
(22)【出願日】2016年4月4日
【審査請求日】2016年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-169054(P2015-169054)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古滝 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 次男
(72)【発明者】
【氏名】関井 崇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 訓彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 一彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 忠
(72)【発明者】
【氏名】樋口 数人
【審査官】
宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−124096(JP,A)
【文献】
特開2015−120612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/20
C30B 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーディング部側面が、自形面の集まりで形成された領域により、厚さ方向で分割されており、
当該分割された領域間の境界と自形面自身とが成す角度のうち、一方が41°±5°、他方が51.5°±5°の範囲内で、それぞれの自形面を形成しているサファイアリボン。
【請求項2】
各サファイアリボンのスプレーディング部側面が、自形面の集まりで形成された領域により、厚さ方向で分割されており、
当該分割された領域間の境界と自形面自身とが成す角度のうち、一方が41°±5°、他方が51.5°±5°の範囲内で、それぞれの自形面を形成しているマルチサファイアリボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EFG法によって育成される単結晶サファイアリボンに関する。
【0002】
現在、LED等の発光素子に用いられているサファイアウェハ用単結晶の育成方法には、結晶方位面を指定してサファイアリボンを育成するEFG法と、円筒形のインゴットを育成するCz法と、の2種類に大別される。これらのうち、EFG法を用いた育成方法では、シード基板の結晶方位によって結晶方位を指定された複数の板状結晶を一括して引き上げることを特徴としており、関連技術としては、特開2003−327495(以下特許文献1として記載)が出願後、公開されている。また、Cz法を用いた育成方法では、シード基板の結晶方位によって結晶方位を指定された円筒形のインゴットを容易に大径化して引き上げることを特徴としており、関連技術として、特開2010−189242(以下特許文献2として記載)が出願後、公開されている。
【0003】
これら2件のうち、特許文献1記載の発明は、シード基板の結晶方位と引き上げ軸とのズレ角を一定の範囲内に収め、安定した結晶育成を可能としたことをその技術的特徴としている。また、特許文献2記載の発明では、育成用坩堝の底面を凹ませることでインゴットの有効長を増加し、当該インゴットから得られるウェハの収率を向上させたことをその技術的特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−327495
【特許文献2】特開2010−189242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した効果を有している一方で近年、一部のサファイアc面ウェハに於いて、r軸方向を指定したウェハが要求されている。当該ウェハの母材は上記育成方法によって得られる単結晶からの切り出しによって製造される。この為、当該要求に対して特許文献2記載のCz法では切り出し後に、特許文献1記載のEFG法では育成後に、それぞれX線回折装置を用いてr軸方向の判定を行う必要があるという課題を有していた。
【0006】
尚、当該装置の設置には放射線管理が必要となる為、設置する場所が限定されてしまい、通常の部屋とは分離された環境での運用が前提となる。また、育成及び切り出した結晶毎にX線測定を行う必要があり、量産性が低下してしまうという課題をも生じている。
【0007】
上記課題に対して本願記載の発明では、X線回折を用いることなくr軸方向の判定が可能なサファイアリボンの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的のために本発明に於ける第1の態様記載の発明は、EFG法で育成されたサファイアリボンのスプレーディング部側面に、厚さ方向で分割される自形面を形成させたことを特徴としている。より具体的には、シード基板からc面を主面とした幅広のサファイアリボンを成長させていく際に形成されるシード基板−幅広部間のスプレーディング部側面について、厚さ方向で分割され、相互に境界を構成している2種類の自形面を設けたことをその技術的特徴としている。
【0009】
また、本発明に於ける第2の態様記載の発明では、EFG法で共通のシード基板から育成された複数枚のサファイアリボンを有するマルチサファイアリボンに於いて、各サファイアリボンのシード基板−幅広部間に形成されるスプレーディング部側面上に、厚さ方向で分割され、相互に境界を構成している2種類の自形面を設けると共に、当該自形面の角度を一定の範囲内で形成した事を特徴としている。より具体的には、前記2種類の自形面と境界との成す角度について、一方が41°±5°、他方が51.5°±5°の範囲内となるように前記各傾斜側面上の自形面を形成させたことをその技術的特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上述した技術的特徴によって本発明に於ける第1の態様記載の発明は、X線回折を用いることなく、スプレーディング部から前記r軸の判定を行うことができるサファイアリボンを提供することが可能となる。これは、スプレーディング部側面に前記2種類の自形面を形成させたことによる効果となっている。
【0011】
即ち、本願記載のサファイアリボンは、EFG法によって育成された単結晶サファイアリボンであり、引き上げ速度及び育成炉内の温度条件を特定の条件に設定することでスプレーディング部に自形面が形成されている。より詳しくは、サファイア単結晶が有する結晶面のうち、(0001)面(以下c面として記載)、(1−102)面(以下r面として記載)、(−1104)面(以下R面として記載)を用い、c面を主面としたサファイアリボンのスプレーディング部側面に、前記境界を構成するr面とR面からなる自形面を形成させている。この為、本願記載のサファイアリボンでは、R面と比較して、前記境界に対し小さい角度での自形面を生じるr面の自形面の形成する側を確認することで、r面と直交するr軸の方向を判定することが可能となる。
【0012】
尚、前記自形面を形成する条件として、結晶を育成するためにはアルミナ融液等、シード基板に対する外部からの結晶材料供給、結晶構造等に起因する結晶材料−シード基板間の順応性、前記結晶材料−シード基板間の接触による結晶表面への到達自由度、の3つの条件を満たすことが必要であり、自形面は各結晶方位に於ける成長速度の違いによって形成される。より具体的には、成長速度が速い結晶方位が、隣接する成長速度の遅い結晶方位を残して成長を続ける。この為、自形面の形成に際しては最終的に成長速度の速い結晶方位が先鋭化して消滅し、隣接する成長速度の遅い結晶方位による自形面が形成されていく。当該自形面の形成について、サファイアに於ける各結晶方位の成長速度は、c面、r面、a面、他の面、の順で速くなっていき、c面の成長速度が最も遅くなっている。この為、一般的なc面ウェハ用サファイアリボン育成では、主にc面の自形面がサファイアリボン表面に形成される。
【0013】
本願記載の発明ではEFG法を用いた育成に際し、引き上げ速度及び温度条件の設定によって、スプレーディング部側面に前記自形面を形成することで前記r軸方向の判定を可能にしている。また、本願が用いるEFG法では、最終的に引き上げるサファイアリボンの幅よりも、育成開始時に前記融液と接触するシード基板端面の幅を小さくすることで当該スプレーディング部を形成している。この為、シード基板となる単結晶サファイアを小さく形成することによって結晶品質を高めることが容易になると共に、当該リボンについて複数枚の同時育成を可能とし、結晶欠陥等を生じることなく、c面でのサファイアリボン育成を安定化し、前記スプレーディング部側面を用いたr軸の判定を目視にて行うことができる。
【0014】
上記第1の態様記載の効果に加えて、本発明に於ける第2の態様記載の発明を用いることで、c面のマルチサファイアリボン育成によって育成された複数のサファイアリボン全てについて、前記第1の態様と同様の効果を付与することが可能となっている。即ち、マルチサファイアリボンの育成では、炉内の温度分布及び隣接するサファイアリボン間の放射熱によって各サファイアリボン及び前記スプレーディング部側面に於ける育成条件は各サファイアリボン毎に変動する。本発明では、前記自形面の形状を特定の範囲に収めることで、当該サファイアリボンの育成を安定化させると共に、各サファイアリボンに対して前記第1の態様にて記載した効果を付与している。より具体的には、スプレーディング部側面に形成させた2種類の自形面が構成する境界を基準として、各自形面の角度が特定の範囲に収まる様に前記引き上げ速度及び育成炉内の温度条件を調整することで、前記複数のサファイアリボン全てについてr軸の判定を目視にて行うことができると共に、各サファイアリボンについて結晶欠陥等を抑え、安定した品質の単結晶を育成することが可能となる。
【0015】
以上述べたように、本願記載の発明を用いることで、X線回折を用いることなくr軸方向の判定が可能なサファイアリボンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の最良に実施形態に於いて用いるマルチサファイアリボンの全体斜視図
【
図2】
図1に於いて示したマルチサファイアリボンの結晶面に関わる説明図
【
図3】
図1のスプレーディング部側面sに於いて、実際に形成された自形面
【
図4】
図1に於いて示したマルチサファイアリボンの育成過程を示す説明図
【
図5】
図1に於いて示したスプレーディング部の育成過程を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、
図1、
図2、
図3、
図4及び
図5を用いて、本発明に於ける最良の実施形態を示す。尚、図中の記号及び部品番号について、同じ部品として機能するものには共通の記号又は番号を付与している。
【0018】
図1に本実施形態に於いて用いるマルチサファイアリボンの全体斜視図を、
図2に当該マルチサファイアリボンの結晶面に関わる説明図を、
図3にマルチサファイアリボンのスプレーディング部側面に形成された自形面を、
図4に
図1のマルチサファイアリボン育成過程に関わる説明図を、そして
図5に
図1のスプレーディング部育成過程に関わる説明図を、それぞれ示す。尚、育成炉内部構造及び引き上げ用のクランプ等については、図中での記載を省略している。
【0019】
図1、
図2、及び
図3に示す様に、本実施形態ではマルチサファイアリボン1の各サファイアリボン3について、それぞれのスプレーディング部側面sにr面とR面とからなる2つの自形面を形成させている。尚、本実施形態で用いるマルチサファイアリボンの育成では、
図2に示す結晶方位(a1、a2、a3、c)によって結晶方位が特定される。これらのうち、本実施形態では(0001)面(以下c面として記載)、(1−102)面(以下r面として記載)、(−1104)面(以下R面として記載)を用い、スプレーディング部側面sに、前記境界を構成するr面とR面からなる自形面を形成させている。従って、
図3に示したr面側の自形面を確認することで、r面と直交するr軸の方向を判定することができると共に、シード基板2から各サファイアリボン3を分離させた後も、スプレーディング部側面sによってr軸方向の判定を拡大鏡を用いた目視にて行うことが可能となっている。これは、
図4に示すように、アルミナ融液5からシード基板2を引き上げてスプレーディング部を形成する際、引き上げ速度及び炉内温度を調整し、
図2、
図3に示すr面とR面との各自形面が構成する境界と各自形面との成す角度を、r面が51.5°±5°、R面が41°±5°の範囲内となるように育成したことによる。即ち、
図1から解るように、本実施形態記載のEFG法では、各サファイアリボン3の厚みを一定の値に揃え、等間隔に整列された状態で育成している。この為、各サファイアリボン間に於ける育成条件の違いを最小限に抑えると共に、スプレーディング部側面sに形成される前記自形面の角度について、一定の範囲内に収めることができた。ここで、本実施形態では引き上げ速度を25mm/時±25%一定とし、炉内温度についてはダイパック4の温度が固化寸前の融点となる2050℃から徐々に上がり、2055℃で全幅に渡るスプレーディング面を形成するように設定している。また、
図3に示す様に、当該形成された境界に対する自形面の幅について、本実施形態ではR面側よりもr面側の幅が大きく形成されている(1:2〜2:3)。この為、本実施形態に於ける各サファイアリボン3では、前記角度だけではなく、自形面の幅によっても前記結晶方位の判定を行うことが可能となっている。
【0020】
図4及び
図5に本実施形態に於いて用いるスプレーディング部の育成過程を示す。前述した結晶の育成条件に関し、本実施形態ではc面サファイアリボン育成用に端部をc軸とした単結晶サファイアからなるシード基板2に対し、同じ原料からなるアルミナ融液5を用いることで前記結晶材料供給及び順応性を満たしている。また、結晶表面への到達自由度は、シード基板2が前記融液5に接触することによって満たされる。即ち、本実施形態では、ギャップgを介して板状の空隙を設けたダイパック4を坩堝内に設けることで、坩堝内で溶融されたアルミナ融液5の液面を毛細管現象によりダイパック先端まで到達させている。この為、マルチサファイアリボン1の育成時に於いて各サファイアリボン間に生じる温度差を低減し、シード基板2の引き上げ時に於ける育成条件を安定させることができた。また、
図4及び
図5の各(a)、(b)から解るように、ダイパック端部に到達した融液へのシード基板接触時、本願記載のダイパック4ではシード基板2の幅方向へとスプレーディング部の結晶成長が進んでいき、ダイパック4の幅寸法に到達する
図5(c)の時点で同図(d)に示すような平板形状のサファイアリボン育成へと移行する。これは、融液5の表面張力によってダイパックの幅方向からシード基板底部の側面へと融液の供給が行われていく事に加え、当該結晶成長時、予め厚み方向の結晶寸法がダイパックによって制限されていることによる。
【0021】
即ち、当該幅方向に広がっていくスプレーディング部の成長について、EFG法を用いた結晶育成では、ダイによって幅方向から新しい溶融液の供給がなくなった場合、その方向に対して結晶は成長ができず、厚みはダイによって一定にされたまま、幅寸法もまた、一定の値に収まっていく。一方、溶融液の供給があれば、その方向に対して結晶の寸法が大きくなり、形状としてのバランスが崩れていく。これに伴い、本実施形態で用いるEFG法では幅方向に拡大しているスプレーディング部分引き上げ時に於いて、自由に液面から融液が供給されることで、スプレーディング部に自形面を形成することが可能となっている。ここで、
図5中、サファイアリボンの幅が広がっている(a)から(c)を参照すると、当該幅方向に於いて融液が自由に供給されていることが解る。尚、本実施形態で用いるEFG法はそのダイ形状から、ダイの表面と裏面から結晶成長が始まる構成となっている。この為、本実施形態では引き上げ速度及び温度条件をスプレーディング部側面の自形面形成に最適化させることで、表面と裏面とで結晶の構造が異なる、前記r面とR面との2層に分かれた自形面を当該側面に形成することができた。
【0022】
以上述べたように、本願実施形態記載の構造を用いることによって、X線回折を用いることなく、目視でのr軸方向の判定が可能なサファイアリボンを提供することができた。
【符号の説明】
【0023】
1 マルチサファイアリボン
2 シード基板
3 サファイアリボン
4 ダイパック
5 アルミナ融液
c c面結晶方位
g ギャップ
r r面結晶方位
R R面結晶方位
s スプレーディング部側面
【要約】
【課題】
EFG法によって育成されたサファイアリボンについて、引き上げが完了した時点で、X線回折を用いることなく、目視でのr軸方向の判定が可能なサファイアリボンを提供する。
【解決手段】
c面を主面とするマルチサファイアリボン及びサファイアリボンのスプレーディング部側面にr面とR面からなる2層の自形面を形成させることで、r軸方向の判定を拡大鏡を用いた目視により行うことが可能なサファイアリボンを得ることができる。
【選択図】
図2