(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025105
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】ループスアンチコアグラント検出用血液凝固時間の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/86 20060101AFI20161107BHJP
【FI】
G01N33/86
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-163615(P2014-163615)
(22)【出願日】2014年8月11日
(62)【分割の表示】特願2013-520613(P2013-520613)の分割
【原出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-209134(P2014-209134A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2015年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-135174(P2011-135174)
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505116781
【氏名又は名称】学校法人東日本学園
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】家子 正裕
(72)【発明者】
【氏名】森川 千鶴
(72)【発明者】
【氏名】服部 恵子
【審査官】
海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2001/048486(WO,A1)
【文献】
特開平06−324048(JP,A)
【文献】
香川和彦,血液凝固補正試験,検査と技術,2006年 8月 1日,Vol.34,No.8,P.735-742
【文献】
家子正裕ほか,抗リン脂質抗体症候群における診断的臨床検査であるループスアンチコアグラントの検出方法としてのクロスミ,臨床病理,2009年10月25日,Vol.57,No.10,P.990-998
【文献】
菅野信子ほか,ループスアンチコアグラント測定のための血漿検体作製と検査の現状,検査と技術,2009年12月 1日,Vol.37,No.13,P.1484-1490
【文献】
朝倉永策、林朋恵,凝固・検査〜苦手克服のコツ〜,日本検査血液学会雑誌,2009年 7月31日,Vol.10,No.2,P.284-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固時間の測定前又は測定時に、ループスアンチコアグラントの有無が疑われる血液試料に、FII、FVII、FVIII、FIX、FX、FXI及びFXIIから選ばれる1種又は2種以上の血液凝固因子を含む緩衝液組成物を添加して血液凝固時間を測定することを特徴とする、被検血液に含まれるループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【請求項2】
ループスアンチコアグラントの有無が疑われる血液試料が、ワルファリン服用者、ビタミンK欠乏者および肝不全患者から選ばれる患者由来の血液試料である請求項1記載のループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【請求項3】
血液試料が、全血又は血漿である請求項1又は2記載のループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【請求項4】
血液凝固時間の測定前に、血液試料に、FII、FVII、FVIII、FIX、FX、FXI及びFXIIから選ばれる1種又は2種以上の血液凝固因子を含む緩衝液組成物を添加する請求項1〜3のいずれか1項記載のループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【請求項5】
血液凝固時間の測定手段が、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間又は希釈ラッセル蛇毒時間である請求項1〜4のいずれか1項記載のループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【請求項6】
希釈ラッセル蛇毒時間の測定に用いる試薬が、
ラッセル蛇毒、リン脂質及びカルシウムを含有する第一試薬と、
ラッセル蛇毒、過剰量のリン脂質及びカルシウムを含有する第二試薬とから構成されている、請求項5に記載のループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【請求項7】
血液試料とラッセル蛇毒、リン脂質及びカルシウムを含有する第一試薬とを混合して、第一凝固時間を測定する工程と、
前記血液試料とラッセル蛇毒、前記第一試薬よりも過剰量のリン脂質及びカルシウムを含む第二試薬とを混合して、第二凝固時間を測定する工程と、
測定された第一凝固時間及び第二凝固時間の比を算出し、前記血液試料中にループスアンチコアグラントが含まれているか否かを判定する工程と
を含む、請求項6に記載のループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【請求項8】
ワルファリン投与中のループスアンチコアグラント治療効果をモニターする目的でループスアンチコアグラントの有無を判定するものである請求項1〜7のいずれか1項記載のループスアンチコアグラントの有無の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループスアンチコアグラントを検出する目的で、被検血液試料の血液凝固時間を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固時間測定は、血液凝固因子の活性化剤(以下、単に活性化剤と言う場合もある。)及び/又はCa
2+などから成る血液凝固時間測定用試薬を、検体血液又は検体血液混合物に添加した時点から、検出可能なフィブリン塊が形成されるまでの時間(血液凝固時間:以下、単に凝固時間と言う場合もある。また、フィブリン塊の形成を、単に凝固と言う場合もある。)を測定するもので、血液凝固系の異常の有無のスクリーニング、又は個々の血液凝固因子の活性測定のために実施されている。典型的な例としては、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、トロンビン時間などの血液凝固試験がある。以下、本明細書において血液凝固因子を、単に凝固因子と言う場合もある。
PTとは、被検血漿に組織トロンボプラスチン及びCa
2+の混合液を添加してから凝固するまでの時間であり、外因系凝固機序に関係する第VII因子、第X因子、第V因子、プロトロンビン、フィブリノゲン等の凝固活性を総合的に検査するものである。また、APTTとは、被検血漿に十分量のリン脂質及び活性化剤(カオリン、無水ケイ酸、エラグ酸など)と適量のCa
2+を添加してから凝固するまでの時間であり、内因系凝固機序に関係する第XII因子、第XI因子、プレカリクレイン、高分子キニノゲン、第IX因子、第VIII因子、第X因子、第V因子、プロトロンビン、フィブリノゲン等の凝固活性を総合的に検査するものである。一般的に、これら血液凝固試験における異常とは、凝固時間が延長することを指す。血液凝固系の異常は、生体内での出血傾向又は血栓傾向(血液凝固傾向)の兆候あるいは結果を反映している。
当該凝固時間の延長原因としては、1)血液凝固因子の欠乏又は低下、2)血液凝固系を構成する血液成分に対する抗体の存在、3)血液凝固時間測定用試薬中の成分に対する抗体の存在、4)血液凝固系を構成する血液成分と血液凝固時間測定用試薬中の成分との複合体に対する抗体の存在、5)血液凝固反応を阻害する薬剤の投与などが考えられる。
【0003】
しかし、血液凝固時間の測定を行うだけでは、凝固時間の延長原因が、例えば、単に凝固因子欠乏による血液凝固活性の低下なのか、血液凝固系を構成する成分又は血液凝固時間測定用試薬中の成分等に対する抗体(インヒビター)が凝固反応を阻害することによる血液凝固活性の低下なのか等を鑑別することはできない。その一方で、当該延長原因の違いにより治療方針が異なるため、当該延長原因の鑑別は重要である。そこで、当該延長原因の鑑別のために、被検血漿に正常血漿を添加し、その血液凝固時間が補正される(正常化する)程度をグラフ化して判定する血液凝固補正試験(以下、「混合試験」あるいは「ミキシングテスト」ということもある)が行われている(非特許文献1)。
【0004】
従来、ミキシングテストは、例えば、次のようにして実施されている。
被検血漿に対して、正常血漿の混合割合が0%、20%、50%、80%、100%となるように正常血漿を添加、混合して調製した試料を準備し、APTTの測定を行う。その結果をグラフ(横軸:混合した正常血漿の割合又は被検血漿の割合(%)、縦軸:凝固時間(秒))にプロットし、当該グラフの形状から視覚的に凝固時間の延長原因を鑑別、判定する。例えば、被検血漿が凝固因子欠乏の場合、少量の正常血漿の添加(
図1(A)では20%)で凝固時間は大きく短縮して正常血漿100%を測定した場合の値に近づくため、被検血漿100%と正常血漿100%のポイントを結んだ直線(破線)よりも下に凸のカーブを示す(
図1(A))。
被検血漿中に凝固因子インヒビターが存在する場合は、正常血漿の添加割合を高くしても添加した正常血漿中の凝固因子を当該凝固因子インヒビターが失活させるため、正常血漿の添加による凝固時間の改善度合いが小さく、上に凸のカーブを示す(
図1(B))。
【0005】
血液凝固時間測定用試薬の感受性に影響する凝固因子インヒビターとして、ループスアンチコアグラント(以下、LA)が知られている。LAは、個々の凝固因子活性を阻害することなく、in vitroにおけるリン脂質依存性の凝固反応を阻害する免疫グロブリンと定義されており、単一の抗体ではない。凝固反応にはリン脂質の存在が必須であるため、通常、多くの血液凝固時間測定用試薬にはリン脂質が豊富に含まれている。LAは、当該試薬中のリン脂質と反応して、これを消費し、結果的に凝固反応を阻害して凝固時間を延長させるため、PTやAPTTのような凝固検査の結果が異常となり発見されることが多い。しかし、LAはリン脂質の種類(由来、リン脂質の組成等)により反応強度が異なるため、使用する血液凝固時間測定用試薬によってもLA陽性・陰性の判定結果が異なることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】検査と技術,Vol.34,no.8,2006年8月,p735−742
【非特許文献2】Update of the guidelines for lupus anticoagulant detection,Journal of Thrombosis and Haemostasis,7:pp1737−1740,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗凝固療法として、緊急時には即効性があり静脈内投与が可能なヘパリン、長期投与による予防には経口抗凝固薬であるワルファリンが用いられている。このうち、ワルファリンは、生体内でのビタミンKの作用に拮抗することにより、血液凝固因子のうち第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、第X因子の肝臓での生合成を抑制することが知られている。それ故、ワルファリン服用者、ビタミンK欠乏者、あるいは肝不全患者(肝硬変、劇症肝炎、あるいは慢性肝炎患者など)の場合、従来のミキシングテストによる血液凝固時間の延長原因の確認方法では、LAなどの抗リン脂質抗体による凝固時間の延長であるのか、ワルファリンの作用、ビタミンKの欠乏、あるいは肝不全に基づく血液凝固因子の欠乏による凝固時間の延長であるのかが不明確であり、原因の鑑別が困難であった。この問題は、ワルファリン投与を受けていて、さらにLA陽性である場合に、より深刻である。何故なら、LA陽性を確認あるいは疑い、抗凝固療法を開始した場合には、LAの検出とその消長の監視、追跡が重要であるが、それが正確にできないことになるからである。
【0008】
国際血栓止血学会(ISTH)では、LA検出の際、不足した凝固因子を補うため、被検血漿に対して等量の健常者血漿を混合した後に測定することが推奨されている。ここで、使用する健常者血漿については、血小板数が10
7/mLを下回るように二重に遠心処理をし、かつ全ての血液凝固因子の活性がほぼ100%であるものを各施設で自家調製して用いることとされている(非特許文献2)。しかし、血液凝固因子の中には活性が非常に不安定で失活しやすいものもあるため、全ての血液凝固因子の活性をほぼ100%に保ったまま健常者血漿を調製するのは非常に困難であり、安定入手が容易でないという問題を有していた。また、健常者血漿の調製においては、貯留(プール)、混合する人数が多いほど、凝固因子活性の個人毎のばらつきを平均化できるが、施設によっては健常者の人数を確保できず、血漿提供者に偏りができるためバッチ間の品質の差が生じてしまう問題もある。さらに、健常者血漿を用いる方法は、被検血漿中のLAを希釈してしまうだけでなく、健常者血漿に含まれるLA測定を妨害する物質(リン脂質、血小板由来の膜破砕物等)を添加してしまう場合もあり、特にLAが弱陽性の場合は、偽陰性化してしまう可能性があるという問題もあった。
従って、ワルファリン服用者、ビタミンK欠乏者あるいは肝不全患者においても、血液凝固因子の欠乏の影響を受けず、前記のISTHの推奨法に比べ、容易かつ感度よくLA検出が可能な血液凝固時間の測定方法の開発が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、健常者血漿ではなく、特定の血液凝固因子を被検試料(たとえば血漿)に添加した後に血液凝固時間を測定することにより、健常者血漿を用いなくとも、簡便かつ鋭敏に検出用の血液凝固時間の測定が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、血液凝固時間の測定前又は測定時に、血液試料に、血液凝固因子を含む緩衝液組成物を添加して血液凝固時間を測定することを特徴とする、LA検出用血液凝固時間の測定方法を提供するものである。
また、本発明は、血液凝固因子を含む緩衝液組成物を主成分とする、ループスアンチコアグラント検出用血液凝固時間測定用試薬と組みあわせて使用する補助試薬を提供するものである。
さらに、本発明は、以下の(A)、(B)を含むループスアンチコアグラント検出用血液凝固時間測定用試薬キットを提供するものである。
(A)活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬又は希釈ラッセル蛇毒時間測定用試薬
(B)血液凝固因子を含む緩衝液組成物を主成分とする補助試薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、ワルファリン服用者、ビタミンK欠乏者あるいは肝不全患者(肝硬変、劇症肝炎、あるいは慢性肝炎患者など)由来の血液試料などのビタミンK依存性凝固因子(FII、FVII、FIX、及びFX)が欠乏している場合においても、LAの有無を簡便かつ鋭敏に確認することが可能である。従って、LAを有する患者の正しい治療方針を決定できる。また、健常者血漿を準備する必要がないため、従来問題となっていた健常者血漿のバッチ間差や安定入手が難しいという問題をも解消できる。さらに、本発明方法の特筆すべきところは、これまで健常者血漿の混合試験によっても見落とされる可能性のあったLAを、簡便かつ鋭敏に検出することができるようになったことである。これは、従来の健常血漿の添加を、個々の血漿成分に置き換え添加するという単純な発想からは予測できない、全く意外な効果である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来法によるミキシングテストの結果を示すモデル図である。(A)は凝固因子欠乏症、(B)は凝固因子インヒビター型、(C)は凝固時間の延長原因が不明確な場合のパターンをそれぞれ示す。
【
図2】未処理血漿A及び正常血漿添加血漿Aをそれぞれサンプルとした場合のミキシングテストの結果を示す図である。
【
図3】未処理血漿B及び正常血漿添加血漿Bをそれぞれサンプルとした場合のミキシングテストの結果を示す図である。
【
図4】補助試薬1−4を添加した血漿Aをサンプルとした場合のミキシングテストの結果を示す図である。
【
図5】補助試薬1−4を添加した血漿Bをサンプルとした場合のミキシングテストの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のLA検出用血液凝固時間の測定方法は、血液凝固時間の測定前又は測定時に、血液試料に、血液凝固因子を含む緩衝液組成物を添加することを特徴とする。
【0014】
本発明方法に用いられる血液試料は、全血又は血漿が好ましく、通常、被検者から採取した血液に、クエン酸ナトリウムなどの抗凝固剤を加えて調製される。これらの血液試料のうち、従来LA検出が困難であった被検者由来の血液試料を対象とする場合に、本発明方法は特に有用である。そのような血液試料としては、ワルファリン服用者、ビタミンK欠乏者、肝不全患者由来の血液試料が挙げられる。
【0015】
血液凝固時間の測定手段、すなわち、血液凝固時間測定用試薬としては、LAに感受性を示すリン脂質依存性の血液凝固時間測定用試薬あるいは測定手段であればいずれでもよく、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、希釈PT(dPT)、希釈APTT(dAPTT)、カオリン凝固時間(KCT)、及び希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)などを測定する公知の試薬を用いることができる。これらの試薬のうち、例えば、プロトロンビン時間(PT)を測定する試薬の主成分は、カルシウム及び組織トロンボプラスチンであり、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定する試薬の主成分は、リン脂質、接触因子活性化剤(カオリン、無水ケイ酸、エラグ酸等の陰性荷電体)及びカルシウムであり、カオリン凝固時間(KCT)を測定する試薬の主成分は、カオリン及びカルシウムであり、希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)を測定する試薬の主成分は、ラッセル蛇毒、リン脂質である。これらの成分は、適宜に独立した試薬として、あるいは混合された試薬として使用することができる。また、前記試薬としてはいずれも市販品を使用できる。PT測定用試薬としては、例えばコアグピア(登録商標)PT−S(積水メディカル社製)、トロンボチェックPTプラス(シスメックス社製)、及びSTA試薬シリーズPT(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)などが市販されている。APTT測定用試薬としては、例えばコアグピア(登録商標)APTT−N(積水メディカル社製)、トロンボチェックAPTT−SLA(シスメックス社製)、APTTリキッドRDおよびPTT LA試薬「RD」(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)などが市販されている。試薬の形態としては、使用時に溶解される乾燥形態、あるいは溶液形態を挙げることができる。
これらの試薬の1以上と本発明の血液凝固因子を含有する緩衝液組成物(補助試薬)を組み合わせてキットとすることもできる。
【0016】
これらの血液凝固時間測定用試薬のうち、PT、APTT又はdRVVTがLA検出感度の点で好ましい。また、PT又はAPTTを測定する場合には、正常血漿と被検血漿のミキシングテストを採用するのが好ましい。dRVVTを測定する場合には、特にミキシングテストを行わなくてもよい。
【0017】
本発明に用いられる血液凝固因子を含む緩衝液組成物としては、被検血液試料が欠乏していると考えられる血液凝固因子の少なくとも1種を含む緩衝液組成物が挙げられ、FII、FVII、FVIII、FIX、FX、FXI及びFXIIから選ばれる1種又は2種以上を含む緩衝液組成物が好ましく、さらに少なくともFII、FVII、FIX及びFXから選ばれる1種又は2種以上を含む緩衝液組成物が好ましい。さらにPTを測定する場合には、FII、FVII及びFXから選ばれる1種又は2種以上を含有する緩衝液が好ましい。APTTを測定する場合には、FII、FVIII、FIX、FX、FXI及びFXIIから選ばれる1種又は2種以上を含有する緩衝液組成物が好ましく、特にFIX及びFXから選ばれる1種又は2種以上を含有する緩衝液組成物が好ましい。またdRVVTを測定する場合には、FII及びFXから選ばれる1種又は2種以上を含有する緩衝液組成物が好ましい。尚、被検試料に本発明の緩衝液組成物を添加した際に、当該緩衝液組成物により試料が希釈され、試料中の血液凝固因子濃度が薄まることにより凝固時間に影響するような場合には、前記の緩衝液組成物に、用いる試薬に応じて補填が必要な血液凝固因子を含ませておくことができる。例えば、APTT、dAPTT及びKCTにおいてはFVIII、FXI及びFXIIを、PTにおいてはFVIIを、dRVVTにおいてはFXを含ませておくことができる。
【0018】
ここで緩衝液としては、HEPES等のGood緩衝液など、公知の緩衝液を適宜用いることができる。緩衝液のpHは、緩衝液組成物に含まれる血液凝固因子を失活させないpHであればよく、pH6〜9が好ましく、pH6.5〜8.0がより好ましい。また緩衝液の濃度は、保存中の緩衝能が保たれていればよく、5mM〜100mMが好ましく、5mM〜50mMがより好ましい。
当該緩衝液組成物中の血液凝固因子の濃度は、血液試料に当該緩衝液組成物を添加した後の血液凝固因子の濃度として、0.01U/mL〜10U/mLの範囲が好ましく、さらに0.1U/mL〜5U/mLの範囲が好ましい。血液試料と緩衝液組成物の混合割合は、緩衝液組成物中の血液凝固因子の濃度を考慮して適宜設定すればよい。緩衝液組成物による血液試料の希釈倍率としては3倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましい。
【0019】
尚、当該緩衝液組成物には、血液凝固因子の安定化剤として公知のものを、適宜添加してもよい。例えば、特公平06−050999号公報で開示されているグリシルグリシンやグリシルグリシルグリシンなどを添加してもよい。また、本発明の効果を損ねないことを限度として保存剤やイオン強度調整剤などを適宜添加してもよい。
【0020】
本発明方法においては、血液凝固時間の測定前又は測定時に、血液試料に、上記血液凝固因子を含む緩衝液組成物を添加する。ここで、血液凝固時間の測定前に緩衝液組成物を添加するのは、血液試料の前処理に相当する。すなわち、血液試料に前記緩衝液組成物を添加して血液試料を前処理し、次いで血液凝固測定用試薬を用いて血液凝固時間を測定する。一方、血液凝固時間の測定時に添加するのは、血液凝固測定用試薬の一部に前記緩衝液組成物を添加して、血液凝固時間を測定することに相当する。これらの添加時期のうち、血液凝固時間の測定前に、血液試料に前記緩衝液組成物を添加する方が、緩衝液組成物に含有させる凝固因子の保存安定性を確保しやすい点で好ましい。
【0021】
血液凝固時間の測定方法としては、例えば、血液試料にカルシウム及びリン脂質を含む試薬(血液凝固時間測定用試薬)を添加して生じる血液凝固反応に伴い変化する透過光変化、あるいは散乱光変化などの光学的変化や測定試料の粘度を物理的に測定することにより、凝固を検出する方法を好適に用いることができる。
【0022】
カルシウムとしては、無機酸とカルシウムとの塩を用いるのが好ましい。このようなカルシウム塩としては、塩化カルシウムなどが挙げられる。また、無機酸とカルシウムとの塩以外のカルシウム塩としては、乳酸カルシウムが挙げられる。血液凝固時間測定用試薬中のカルシウムの濃度は、血液凝固時間測定法の種類に応じて適宜設定することができる。例えばAPTT測定法の場合、20mM〜25mM程度であり、PT測定法の場合、10mM〜12.5mMであるのが好ましい。
【0023】
リン脂質としては、従来から血液凝固時間測定用試薬に用いられるものを好適に用いることができる。リン脂質の脂肪酸側鎖は、特に限定されないが、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸が好ましい。当該リン脂質としては、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンなどが挙げられる。また、リン脂質は、ウシ脳由来、ウサギ脳由来、ヒト胎盤由来、大豆由来などの天然のもの、あるいは遺伝子組み換えにより作製されたものであってもよい。測定試料中のリン脂質の濃度は、例えばAPTT試薬中で1μg/mL〜200μg/mL、PT試薬で10μg/mL〜300μg/mLであり、dRVVT測定試薬で1μg/mL〜300μg/mLであるのが好ましい。
血液凝固時間測定用試薬のpHは、本発明の緩衝液組成物と混合された際のpHを考慮して適宜設定することができるが、当該測定用試薬自体のpHとしてはpH6.0〜8.0が好ましく、より好ましくはpH7.0〜7.6であり、従来の血液凝固時間測定用試薬に用いられる緩衝剤を用いて適宜調整できる。当該緩衝剤としては、例えばHEPES、あるいはTRISなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
上記の血液凝固時間測定用試薬には、上記の成分以外に、従来公知の血液凝固時間測定用試薬に含まれる成分を含むことができる。このような成分としては、例えば活性化剤、蛇毒、組織因子などが挙げられる。活性化剤としては、エラグ酸、カオリン、セライト、コロイドシリカ、無水ケイ酸、アルミナ、マグネシウムなどが挙げられる。蛇毒としては、ラッセル蛇毒、テキスタリン蛇毒、エカリン蛇毒などが挙げられる。組織因子としては、ウサギ脳由来、ヒト胎盤由来、ウシ脳由来などの天然及び遺伝子組換えの組織トロンボプラスチンが挙げられる。
【0025】
本発明方法は、非特許文献1記載の血液凝固補正試験(ミキシングテスト)にも適用することができる。すなわち、被検血液試料に正常血液試料を添加し、その血液凝固時間が補正される程度をグラフ化して判定する方法に適用できる。
より詳細には、例えば被検血漿に、正常血漿としてPooled Normal Plasma(Precision Biologic Inc製;以下、PNPと略す)あるいは本発明の緩衝液組成物を1:1で加え希釈したものを被検試料とする。この被検試料に正常血漿を添加し、正常血漿の割合が0%、20%、50%、80%、100%となるように混合して調製した試料を準備し、APTTの測定を行う。その結果をグラフ(横軸:混合した正常血漿の割合又は被検血漿の割合(%)、縦軸:凝固時間(秒))にプロットし、当該グラフの形状から視覚的に判定することができる。
【0026】
本発明方法を用いれば、単に前記の緩衝液組成物の添加を行う以外は、従来の血液凝固時間の測定を行うのみで、ワルファリン服用者、ビタンミンK欠乏者あるいは肝不全患者由来の血液試料であっても、正確にLAの有無を検出、判定することができる。
【0027】
前記血液凝固因子を含む緩衝液組成物は、ループスアンチコアグラント検出用血液凝固時間測定用試薬と組みあわせて使用する補助試薬として用いることができる。
また、(A)活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬又は希釈ラッセル蛇毒時間測定用試薬と、(B)血液凝固因子を含む緩衝液組成物を主成分とする補助試薬との組みあわせは、ループスアンチコアグラント検出用血液凝固時間測定用試薬キットとして有用である。
【実施例】
【0028】
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
被検血漿を表1記載の補助試薬にて1:1に希釈したものをサンプルとし、通常の混合試験を実施して、グラフにおけるカーブの形状を比較した。
【0030】
<測定項目>
(1)APTTスクリーニング試験
PTT LA試薬「RD」(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を使用し、血液凝固自動分析装置STA−R(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)にて測定を実施した。判定には試薬の添付文書に記載されているカットオフ値を使用した。当該試薬は、リン脂質であるセファリン、接触因子活性化剤(陰性荷電体)であるシリカを含有するPTT LA試薬と、別途、自製する塩化カルシウム溶液を使用して測定を行うものであり、本発明の血液凝固因子含有緩衝液組成物(補助試薬)と組み合わせて本発明の方法に使用することが可能なものである。
(2)dRVVT試験
LAテスト「グラディポア」(医学生物学研究所社製)試薬を使用し、血液凝固自動分析装置STA−Rにて測定を実施した。判定には試薬の添付文書に記載されているカットオフ値を使用した。当該試薬は、ラッセル蛇毒とリン脂質を含有する試薬1、ラッセル蛇毒と過剰量のリン脂質を含有する試薬2、から構成されており、本発明の血液凝固因子含有緩衝液組成物(補助試薬)と組み合わせて本発明の方法に使用することが可能なものである。
(3)リン脂質中和法試験
スタクロットLA(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)試薬を使用し、血液凝固分析装置ST4(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)にて測定を実施した。判定には試薬の添付文書に記載されているカットオフ値を使用した。
(4)混合試験
PTT LA試薬「RD」(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を使用し、血液凝固自動分析装置CP2000(積水メディカル社製)にて測定を実施した。正常血漿としてPooled Normal Plasma(以下PNP、Precision Biologic Inc.)を使用した。サンプル混合割合は0%、10%、20%、50%、100%に設定し、CP2000のミキシングテスト機能を使用して自動希釈にて測定を行った。判定はグラフを描画し上に凸であれば陽性とした。判定が困難なものは判定保留とした。
(5)混合試験変法
被検血漿をPNPあるいは後述の補助試薬1−4にて1:1希釈したものをサンプルカップにとり、CP2000にセットして(4)と同様に測定を実施した。判定はグラフを描画し、上に凸であれば陽性とした。判定が困難なものは判定保留とした。
【0031】
<本発明の緩衝液組成物:補助試薬>
HBS(50mM HEPES pH7.5、150mM塩化ナトリウム)をベースに、表1に示した血液凝固因子を添加して各補助試薬を調製した。血液凝固因子は全てHaematologic Technologies Inc.の物を使用した。
【0032】
【表1】
【0033】
<被検血漿>
被検血漿は、A、Bともにワルファリンの投与を受けている患者より採取した血漿である。
【0034】
<結果>
表2に示すとおり、血漿Aは、APTTスクリーニング試験、dRVVT試験、およびリン脂質中和法の全てのLA検査で陽性となった。血漿BはAPTTスクリーニング試験、dRVVT試験にて陽性となった。
【0035】
【表2】
【0036】
表3中未処理の欄、
図2左図、
図3左図に示したとおり、血漿A、Bともに混合試験は下に凸の傾向となり、LA陰性であった。混合試験変法のうち、一般的に推奨されている正常血漿(PNP)を使用する方法では、血漿Aはほぼ直線に近いS字型のグラフとなり、上に凸であるか下に凸であるかの判定が困難であった(表3中正常血漿添加の欄、
図2右図)。これに対し、本発明の補助試薬1−4を使用した場合は、血漿Aは明瞭な上に凸のグラフとなり、容易に陽性と判定できた(表3中補助試薬の欄、
図4)。血漿Bについてはいずれの場合も明瞭に下に凸となり、陰性と判定できた(表3中補助試薬の欄、
図5)。
【0037】
【表3】
【0038】
本発明により、血漿Aの混合試験の陰性判定はワルファリン投与による偽陰性であり、実際にはLA陽性であることが容易に判断できた。これは、従来の混合試験あるいは混合試験変法ではなしえなかったことである。また、血漿BについてはAPTTスクリーニング試験、dRVVT試験にて陽性となったが、いずれもワルファリン投与による偽陽性であり、実際にはLA陰性であることが判断できた。
【0039】
実施例2
被検血漿9.5容量に対し、後記補助試薬0.5容量を添加、混合して測定試料を調製し、dRVVT試験を実施して凝固時間の比を求めた。
【0040】
<測定項目>
(1)dRVVT試験
血液凝固時間測定用試薬として、DVVtest(登録商標)及びDVVconfirm(ともにセキスイ・ダイアグノスティクス社製)を使用し、血液凝固自動分析装置CP2000(積水メディカル社製)にて、測定試料のインキュベーション時間216秒、APTT凝固点パラメータを使用して、dRVVT試験を行った。本実施例でのカットオフ値(t/c)は、1.3以下とし、LAの検出、判定を行った。当該試薬は、ラッセル蛇毒、リン脂質及びカルシウムを含有するDVVtest(登録商標)試薬、ラッセル蛇毒、過剰量のリン脂質及びカルシウムを含有するDVVconfirm試薬、から構成されており、本発明の血液凝固因子含有緩衝液組成物(補助試薬)と組み合わせて本発明の方法に使用することが可能なものである。
【0041】
<本発明の緩衝液組成物:補助試薬>
FXの濃度が表4の行に記載の濃度の20倍濃厚、FIIの濃度が表4の列に記載の濃度の20倍濃厚になるようFX、FIIを組み合わせて、HBSに溶解し、28通りの補助試薬を調製した。FX、FIIともHaematologic Technologies Inc.の物を使用した。
【0042】
<被検血漿>
LA陰性でワルファリンの投与がない血漿:L(−)W(−)血漿として、AKキャリブラントA(シスメックス社製)を、LA陰性でワルファリンの投与がある血漿:L(−)W(+)血漿として、AKキャリブラントD(シスメックス社製)を、LA陽性でワルファリンの投与がない血漿:L(+)W(−)血漿として、Lupus anticoagulant plasma(TRINA社製)を、LA陽性でワルファリンの投与がある血漿:L(+)W(−)血漿として、Lupus anticoagulant plasma(ビジコム社製)を使用した。
【0043】
<結果>
結果を表4に示した。
FII、FXとも添加されていない(0U/mL)場合、
L(−)W(−)の血漿は、LA陰性;
L(−)W(+)の血漿は、LA陰性;
L(+)W(−)の血漿は、LA陽性;
L(+)W(+)の血漿は、LA陰性;
と判定され、L(+)W(+)の血漿について、LA偽陰性の結果が得られた。
また、L(−)W(+)の血漿は、LA陰性ではあったものの、t/c値が0.62と異常値を示した。
これに対して、各被検血漿にFII、FXのいずれか1種以上を添加した場合、L(−)W(−)の血漿、L(−)W(+)の血漿、及びL(+)W(−)の血漿の判定結果を維持したまま、L(+)W(+)の血漿のt/c値のみをカットオフ値以上に増加させ、得られるべきLA陽性の結果が得られた。
また、L(−)W(+)の血漿にFII、FXのいずれか1種以上を添加した場合、t/c値が1付近に近づきワルファリン投与の影響を低減できることが確認された。この成績とL(+)W(+)の血漿の成績を勘案すると、本発明の方法を用いるdRVVT試験は、ワルファリン投与中であってもLAを正確に検出できることを示しており、例えば、ワルファリン投与中のLA治療効果のモニター等に極めて有用である。
【0044】
【表4】
【0045】
本発明の方法によれば、dRVVT試験でLA陰性(偽陰性)と判定されることがあるLA陽性(+)で、かつワルファリンの投与がある(+)被検者の血漿(L(+)W(+)の血漿)を測定した場合でも、ワルファリン投与の影響を受けることなく、LA陽性という本来の判定をすることが可能であった。