【0007】
以下で本発明について具体的に説明をする。
1.組換え偏性嫌気性グラム陽性菌
1−1.概要及び定義
本発明の第1の態様は、組換え偏性嫌気性グラム陽性菌(以下、しばしば「組換え細菌」と略称する)である。本発明の組換え細菌は、融合タンパク質をコードする核酸を発現可能な状態で含む薬剤送達用担体である。
「偏性嫌気性グラム陽性菌」とは、グラム陽性菌に分類される偏性嫌気性菌をいう。ここで、「偏性嫌気性菌」とは、絶対嫌気性菌とも呼ばれ、高酸素存在下では増殖できず、死滅する性質を有する細菌をいう。したがって、哺乳動物の体内においては、低酸素で嫌気状態の消化器官内、主として腸内では増殖可能であるが、溶存酸素の存在する血液等の体液中や通常の組織内では増殖することができない。「グラム陽性菌」とは、グラム染色により紫色又は紺色に染色される細菌の総称である。グラム陽性菌には、桿菌、球菌、らせん菌が知られるが、本明細書では特に限定はしない。グラム陽性菌は、内毒素(エンドトキシン)を含まないことから、死後も内毒素を放出しない。それ故、安全性の面で本発明の薬剤送達用担体として好ましい。本発明の組換え細菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)(本明細書では、以下ビフィドバクテリウム属を総称して「ビフィズス菌」と呼ぶ)、クロストリジウム属(Clostridium)が該当し得る。好ましくはビフィズス菌である。これは、ビフィズス菌が外毒素(エキソトキシン)を分泌せず、また乳酸菌として日常的に利用されており、人体等に対する安全性が確認されているからである。ビフィズス菌は、いずれの種であってもよいが、好ましくは人間の腸管内に生息する種類、具体的には、B.ビフィドゥム(B.bifidum)、B.ロンガム(B.longum)、B.ブレイブ(B.brave)、B.インファンティス(B.infantis)及びB.アドレセンティス(B.adolescentis)である。
1−2.構成
本発明の偏性嫌気性グラム陽性菌は、融合タンパク質をコードする核酸(以下、しばしば「融合遺伝子」とする)を発現可能な状態で含む。以下、本発明の組換え細菌を特徴付ける融合遺伝子及びそれを発現可能な状態にする発現カセットの構成について具体的に説明をする。
1−2−1.融合遺伝子の構成
本明細書において「融合タンパク質をコードする核酸(融合遺伝子)」とは、遺伝子組み換え技術によって複数の遺伝子等を融合して構築された、融合タンパク質をコードする外来性核酸をいう。融合遺伝子は、後述する発現カセット内に挿入された状態で本発明の組換え細菌内に導入されている。
本明細書において「融合タンパク質」とは、シグナルペプチド、単鎖抗体及び機能性ペプチドを含み、それらを連結した細胞外分泌性タンパク質である。シグナルペプチド、単鎖抗体及び機能性ペプチドは、直接連結されていてもよいし、リンカーペプチドを介して間接的に連結されていてもよい。リンカーペプチドの長さやアミノ酸配列は、単鎖抗体及び機能性ペプチドのそれぞれの機能を阻害しなければ、特に限定はしない。例えば、20アミノ酸以下、又は15アミノ酸以下で自己フォールディングしないアミノ酸配列等が好適である。以下、融合タンパク質を構成するシグナルペプチド、単鎖抗体及び機能性ペプチドについて、具体的に説明をする。
(1)シグナルペプチド
シグナルペプチドは、細胞内で生合成されたタンパク質の細胞外移行に必要なペプチドである。通常、N末端側にLysやArgのような正電荷を有するアミノ酸を配し、それに続いてAla、Leu、Val、Ile、Val、及びPheのような疎水性の高いアミノ酸配列を配する。また、シグナルペプチドのC末端側には、シグナルペプチドの切断と分泌を促進するシグナル配列後挿入配列及び/又は融合タンパク質からシグナルペプチドを切断するシグナルペプチダーゼ認識部位を含むアミノ酸配列を有していてもよい。シグナルペプチドは、本発明の細菌内で発現された前記融合タンパク質を、膜に存在するトランスロケーター等を介して細胞外に分泌する機能を担う。シグナルペプチドのアミノ酸配列は、特に限定はしない。偏性嫌気性グラム陽性菌内で機能し得る公知のあらゆるシグナル配列のアミノ酸配列を利用することができる。また、シグナルペプチドのアミノ酸長も、特に限定はしない。通常は、3アミノ酸〜60アミノ酸の範囲内にあればよい。ただし、融合タンパク質の分子量が大きくなりすぎないようにするためアミノ酸長の短いシグナルペプチドが好ましい。
シグナルペプチドは、融合タンパク質のN末端側に配置する。
(2)単鎖抗体
前記融合タンパク質には、単鎖抗体が含まれる。本明細書において「単鎖抗体」とは、一本鎖ポリペプチドで構成され、かつ単体で標的物質を認識し、結合することのできる抗体をいう。二本鎖以上で構成される抗体は、分子量的に大き過ぎるため偏性嫌気性グラム陽性菌内では発現しない可能性や、抗体機能を有する適切な立体構造が構築されないが高いためである。したがって、本発明の単鎖抗体は、1つあたりの分子量が35kDa以下の低分子抗体であることが好ましい。天然抗体及び人工抗体は、問わない。
本明細書で「天然抗体」とは、いずれかの脊椎動物が産生する抗体と同一のアミノ酸配列を有する抗体をいう。天然抗体の単鎖抗体の具体例としては、例えば、ラクダ科の動物が産生する一本鎖抗体が挙げられる(Zhang L.,et al.,1993,Nature,362:446−448)(以下、本明細書では「ラクダ科一本鎖抗体」とする)。ラクダ科一本鎖抗体は、L鎖がなくH鎖のみで構成される抗体であり、H鎖のV
H領域のみで抗原と結合できるため、分子量は、約14kDaと、通常の抗体の10分の1程度しかない。また、一般に抗原親和性が高く、熱、酸及び塩基に対する耐性が高いという性質がある(Deffar,K.,et al.,2009,African Journal of Biotechnology 8(12):2645−2652)。それ故、本発明における単鎖抗体として非常に好適である。ラクダ科の動物種は、ラクダ科一本鎖抗体を産生できれば、その種類は問わない。例えば、ラマ、アルパカ、ラクダ等のいずれの動物種由来の抗体も利用することができる。
本明細書で「人工抗体」とは、人工的に構築された抗体である。例えば、前記天然抗体のアミノ酸配列に適当な変異を導入した単鎖抗体の他、天然界には原則存在しない構造上の改変を行った単鎖抗体が挙げられる。後者の人工抗体の単鎖抗体の具体例としては、一本鎖Fv(scFv:single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook,1994−1995,Pierce Chemical Co.,Rockford,IL)が挙げられる。一本鎖Fvは、免疫グロブリン分子において、L鎖とH鎖に位置する可変領域(すなわち、それぞれV
L及びV
H)を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する、分子量約35kDa以下の合成抗体である。一本鎖Fv内において両可変領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。
前記融合タンパク質において、単鎖抗体は二以上含まれていてもよい。ただし、抗体数が多くなると融合タンパク質の分子量が大きくなるため、単鎖抗体は、数個、例えば2〜4個、2〜3個又は2個が好ましい。個々の単鎖抗体は、適当なリンカーペプチドで連結されていることが望ましい。リンカーペプチドの長さやアミノ酸配列は、それぞれの単鎖抗体の抗原結合活性を阻害しなければ、特に限定はしない。例えば、前述した単鎖抗体と外毒素を連結するリンカーペプチドと同一であってもよい。単鎖抗体を二以上含む場合、個々の単鎖抗体は、異なる抗原エピトープを認識してもよい。抗原である同一標的物質の異なるエピトープを認識する二以上単鎖抗体を含む融合タンパク質は、抗原親和性をより高めることができる。
単鎖抗体の標的物質は、特に限定しないが、好ましくは細胞である。したがって、単鎖抗体は、標的細胞の表面抗原を認識し、結合するものが好ましい。前述のように本発明の組換え細菌は、嫌気性環境下でのみ増殖可能であることから、生体内において嫌気的環境下となる細胞が標的細胞として好適である。具体的には、腫瘍細胞又は腸管上皮細胞が挙げられる。
単鎖抗体は、融合タンパク質において、シグナルペプチドのC末端側であれば、後述する機能性ペプチドとの順序は特に制限はしないが、機能性ペプチドのN末端側に配置することが好ましい。
(3)機能性ペプチド
前記融合タンパク質には、機能性ペプチドが含まれる。本明細書において「機能性ペプチド」とは、生体内又は細胞内において、特定の生物活性、例えば、酵素活性、触媒活性、基質としての機能、又は生物学的阻害若しくは亢進機能(例えば、細胞傷害活性、)を有するペプチドをいう。具体的には、例えば、外毒素、蛍光タンパク質、又は発光タンパク質、酵素、抗原ペプチド、が挙げられる。
機能性ペプチドの由来する生物種は問わない。また、機能性ペプチドは、天然型又は非天然型のいずれであってもよい。天然型の機能性ポリペプチドとは、天然界に存在するペプチドをいう。一方、非天然型の機能性ポリペプチドとは、天然型の機能性ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて、その機能性ペプチドが有する特有の機能を失わない範囲においてアミノ酸配列に適当な変異(アミノ酸の付加、欠失、置換を行ったもの)を導入した改変ペプチドをいう。
前記融合タンパク質において、機能性ペプチドは二以上含まれていてもよい。ただし、複数の機能性ペプチドを含む場合、融合タンパク質全体の分子量が大きくなり過ぎることから、機能性ペプチドの総分子量は、80kDa以下、好ましくは40kDa以下とするのがよい。二以上の機能性ペプチドを包含する場合、それぞれの機能性ペプチドは、同一の又は異なる種類とすることができる。例えば、外毒素と酵素、又は外毒素と蛍光タンパク質又は発光タンパク質を組み合わせた機能性ペプチドが挙げられる。二以上の機能性ペプチドを包含する場合、個々の機能性ペプチドは、直接連結されていてもよいが、それぞれの機能性ペプチドが独自の機能を効率的に発揮し得るように適当なリンカーペプチドで連結されていることが好ましい。リンカーペプチドの長さやアミノ酸配列は、機能性ペプチドの機能を阻害しなければ、特に限定はしない。二以上の異なる機能性ペプチドを1つの融合タンパク質に包含させることによって、単鎖抗体が認識する標的物質に対して異なる機能を付与することが可能となる。
機能性ペプチドは、融合タンパク質において、シグナルペプチドのC末端側であれば、特に制限はしないが、前記単鎖抗体のC末端側に配置することが好ましい。
以下、本発明の組換え細菌において、機能性ペプチドとして働き得る、上述の外毒素、酵素、蛍光タンパク質又は発光タンパク質、抗原ペプチドについて具体的に説明をする。
(i)外毒素
「外毒素」(エキソトキシン)とは、細菌が菌体外に分泌する毒性タンパク質である。外毒素は、細胞傷害活性を有し、かつその塩基配列が既知であれば種類は問わない。例えば、緑膿菌毒素(Pseudomonas toxin;PT)及びその派生物、例えば、PTから細胞接着ドメインを除去した外毒素A(配列番号9)、ジフテリア毒素(Diphtheria toxin:DT)及びその派生物、並びにリシン(Ricin)及びその派生物が挙げられる(Brinkmann U.& Pastan I.,1994,Biochimica et Biophysica Acta,1198(1):27−45)。緑膿菌外毒素Aは、癌細胞内へ取り込まれた後、EF−2をADPリボシル化して不活性化することでタンパク質合成を阻害し、強い殺細胞効果を発揮することが知られている。前記単鎖抗体に外毒素が連結された融合タンパク質は、イムノトキシン(免疫毒素)として機能し得る。
(ii)酵素
機能性ペプチドとしての酵素の種類は、塩基配列が既知であれば特に問わない。標的物質に対して直接作用する酵素であってもよいし、標的物質に対して直接作用はせず、その周辺で機能する酵素であってもよい。後者の具体的な例としては、発光に寄与するルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ)等が挙げられる。前記単鎖抗体に酵素が連結された融合タンパク質は、イムノエンザイム(免疫酵素)として機能し得る。
(iii)蛍光タンパク質又は発光タンパク質(標識タンパク質)
機能性ペプチドとしての蛍光タンパク質の種類は、塩基配列が既知であれば特に問わない。上記天然型及び非天然型のいずれであってもよい。ただし、上記理由からアミノ酸長の短いものが好ましい。また、励起波長、蛍光波長も特に限定はしない。これらの波長は、状況及び必要に応じて適宜選択すればよい。具体的な蛍光タンパク質としては、例えば、CFP、RFP、DsRed、YFP、PE、PerCP、APC、GFP等が挙げられる。
また、発光タンパク質についても、塩基配列が既知であればその種類は、特に問わない。上記蛍光タンパク質と同様に、天然型及び非天然型のいずれであってもよいが、アミノ酸長の短いものが好ましい。具体的な発光タンパク質としては、例えば、イクオリン、等が挙げられる。
(iv)抗原ペプチド
本明細書において「抗原ペプチド」とは、一以上のエピトープ(抗原決定基)を包含し、当該ペプチドを投与した個体に対して、免疫応答を誘導可能なペプチドをいう。抗原ペプチドは、前記免疫応答の誘導活性を有していれば、すなわち抗原エピトープを一以上含んでいれば、その種類は問わない。例えば、ウイルス(インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス−1型、エイズウイルス、西ナイル熱ウイルス、パピローマウイルス、ロタウイルス、ノーウォークウイルス)由来のペプチド、HER2タンパク質、マラリア原虫、トリパノソーマ原虫、チフス菌由来のペプチド等が挙げられる。ただし、融合タンパク質中の単鎖抗体が認識する抗原ではないことを前提とする。また、抗原ペプチドのアミノ酸の長さも一以上のエピトープを含んでいれば、特に限定はしない。ただし、前述のように機能性ペプチドの総分子量がある程度制限されることから、上限は800アミノ酸以下、好ましくは400アミノ酸以下である。また、下限は、1エピトープを含み得る最小のアミノ酸長、例えば、7アミノ酸以上、好ましくは8アミノ酸以上、より好ましくは9アミノ酸以上である。前記単鎖抗体に抗原ペプチドが連結された融合タンパク質は、イムノアンチゲン(免疫抗原;抗体と抗原の融合ペプチド)として機能し得る。
1−2−2.発現カセットの構成
本明細書において「発現カセット」とは、前記融合遺伝子を含み、それを融合タンパク質として発現可能な状態にすることのできる発現システムをいう。本明細書において、「発現可能な状態」とは、当該発現カセットに含まれる融合遺伝子が組換え細菌内で発現可能なように、遺伝子発現に必要なエレメントの制御下に配置されている状態をいう。遺伝子発現に必要なエレメントには、プロモーター及びターミネーターが挙げられる。
プロモーターは、組換え細菌内で作動可能なプロモーターであれば、特に制限はしないが、使用する偏性嫌気性グラム陽性菌由来のプロモーターが好ましい。例えば、偏性嫌気性グラム陽性菌にビフィズス菌のB.ロンガムを使用する場合には、B.ロンガムのhup遺伝子プロモーター(配列番号4)が挙げられる。また、プロモーターには、その発現制御の性質により過剰発現型プロモーター、構成的プロモーター、部位特異的プロモーター、段階特異的プロモーター、又は誘導性プロモーター等が知られている。本発明における発現カセットに使用するプロモーターがいずれのプロモーターであるかは、特に限定はしない。必要に応じて適宜選択すればよい。好ましくは、過剰発現型プロモーター又は構成的プロモーターである。前記発現カセットにおいて、プロモーターは、前記融合遺伝子の開始コドンよりも上流の5’側に配置される。
ターミネーターは、組換え細菌内で、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であれば特に限定はしない。例えば、ヒストン様タンパク質ターミネーター(HUT)(配列番号10)が挙げられる。好ましくはプロモーターと同一生物種由来のターミネーターであり、より好ましくはプロモーターが由来する生物種のゲノム上で、そのプロモーターと組となっているターミネーターである。前記発現カセットにおいて、ターミネーターは、前記融合遺伝子の終止コドンよりも下流の3’側に配置される。
前記融合タンパク質を組換え細菌内で安定的に発現させるため、発現カセットを包含するベクターを発現ベクターとして同菌体内に導入することができる。又は、相同性組換えを介して同菌のゲノム内に挿入してもよい。発現ベクターを使用する場合、ベクターには、プラスミド等を使用することができる。ベクターは、本発明の組換え細菌内で複製可能であり、また菌体内で安定的に保持される適当な選抜マーカー遺伝子を含むものを用いる。ベクターは、大腸菌等の他の細菌内でも複製可能なシャトルベクターであってもよい。例えば、pKKT427、pBESAF2、pPSAB1等が挙げられる。組換え細菌のゲノム内に挿入する場合、融合遺伝子のみを組換え細菌のゲノム中に発現可能な状態となるように挿入してもよい。すなわち、組換え細菌の内在性のプロモーターやターミネーターの制御下に融合遺伝子を挿入してもよい。
発現カセットは、1つの発現カセット内に1つの融合遺伝子を含むモノシストロニックであってもよいし、二以上の融合遺伝子を含むポリシストロニックであってもよい。
1−3.組換え偏性嫌気性グラム陽性菌の製造方法
本発明の組換え細菌は、当該分野で公知の分子遺伝学的方法を用いて製造することができる。例えば、前記融合遺伝子であれば、シグナルペプチド、単鎖抗体及び外毒素をそれぞれコードする核酸を、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,3rd Ed.,Current Protocols in Molecular Biology(2001),Cold Spring Harbor Laboratory PressやAusubelet al.,Short Protocols in Molecular Biology,3rd Ed.,A compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology(1995),John Wiley & Sonsに記載の手法を用いて構築すればよい。
上記単鎖抗体は、任意の標的物質を抗原とすることができる。ただし、その場合、標的物質を特異的に認識し、結合する抗体をコードする遺伝子の塩基配列情報が必要となる。この抗体の塩基配列情報は、標的物質に対する抗体の塩基配列が公知であれば、その配列情報を利用することができる。
標的物質に対する抗体が未知の場合には、その標的物質に対するモノクローナル抗体の作製は、当該分野で公知の方法に従って行えばよい。以下に、その作製例を示す。
標的とする腫瘍細胞等を免疫原としてラクダ科の動物に投与して免疫する。必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントの例としては、市販の完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いることができる。免疫原溶液の1回の投与量は、前記動物1匹当たり約50〜200μgの免疫原を含んでいればよい。免疫の間隔は,特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1〜4週間間隔で、2〜10回、好ましくは5〜7回追加免疫を行う。初回免疫の後、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay)法等により繰り返し行う。続いて、免疫された動物から抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、末梢血細胞が好ましい。次に、末梢血細胞からRNAを抽出し、オリゴdTプライマー及びランダム6merプライマーを用いてcDNAを合成する。このcDNAから、ラクダ科一本鎖抗体の可変領域(V
HH領域)の遺伝子をPCRにより増幅し、pCANTAB6などのファージミドベクターに上記遺伝子を組み込み、エレクトロポレーション法で大腸菌TG1に導入する。上記の大腸菌TG1にM13K07ヘルパーファージを感染させ、ファージを回収することにより、ラクダ科一本鎖抗体可変領域(V
HH領域)発現ファージライブラリーを取得する。標準的には1×10
7pfu種以上のライブラリーとなる。
標的抗原に対する抗体を発現するファージを選別するにはバイオパニングを行う。これは、固定化した標的抗原に抗体ファージライブラリーを反応させ、結合しなかったファージを洗浄により除去した後に、結合したファージを溶出し大腸菌に感染させて増殖させるという操作を3回から5回行うことで標的抗原に特異的なファージを濃縮する方法である。パニングしたファージを大腸菌TG1に再感染させた後、V
HH挿入pCANTABファージミドベクターを含むTG1クローンを単離し、個々のTG1クローンにK07ヘルパーファージを感染させて、V
HH抗体を提示したクローン化ファージを得る。これらの中から抗原に反応するクローンを選択する。取得したファージから抗体の塩基配列を得ることができる。
融合遺伝子は、発現可能なように上記発現カセット内に分子遺伝学的方法を用いて挿入される。発現カセットは、必要に応じて、例えば、プラスミド等のベクターに組み込む。ベクターに発現カセットを組み込むには、発現カセットの5’末端及び3’末端を適当な制限酵素で切断し、ベクター内のマルチクローニングサイト等の対応する制限部位に挿入する方法等を採用することができる。また、ベクターが本発明の組換え細菌内で発現可能な発現用ベクターである場合、前記融合遺伝子をその発現用ベクターの発現制御領域内(ベクター内のプロモーター及びターミネーター間のマルチクローニング部位等)に挿入することで、発現カセットを構築すると同時に目的の発現ベクターを構築することも可能である。これらの具体的な方法については、例えば、上記Sambrook et al.(2001)に記載の方法を参照すればよい。
目的の組換え細菌は、前記発現ベクター、発現カセット又は融合遺伝子を薬剤送達用担体である偏性嫌気性グラム陽性菌に導入することによって製造できる。発現ベクター等を目的の偏性嫌気性グラム陽性菌内へ導入する方法は、当該分野で公知の分子生物学的方法を用いればよい。例えば、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)やリン酸カルシウム法の公知の方法を用いることができる。これらの具体的な方法については、例えば、上記Sambrook et al.,(2001)に記載の方法を参照すればよい。
2.抗腫瘍剤
2−1.概要
本発明の第2の態様は、抗腫瘍剤である。本発明において「抗腫瘍剤」とは、腫瘍細胞に対して細胞傷害活性を有し、該細胞をアポトーシスに至らしめ、その結果、腫瘍細胞の増殖を抑制することのできる薬剤をいう。ただし、その薬効は、腫瘍細胞の増殖を抑制できればよく、腫瘍細胞を根絶させずともよい。
本発明の抗腫瘍剤は、第1態様の組換え細菌を有効成分とすることを特徴とする。本発明の抗腫瘍剤によれば、有効成分である組換え細菌が腫瘍内でのみ増殖し、腫瘍内でイムノトキシンを分泌することによって、効率的に腫瘍の増殖を抑制し、腫瘍を退縮させることができる。
2−2.構成
本発明の抗腫瘍剤は、前述のように第1態様の組換え細菌を有効成分とする。この場合の組換え細菌は、融合遺伝子が標的細胞である腫瘍細胞の表面抗原を認識して、結合する単鎖抗体をコードし、また、機能性ペプチドが外毒素をコードしている。したがって、本発明の抗腫瘍剤の有効成分である組換え細菌は、細胞外分泌性抗腫瘍細胞イムノトキシンを分泌することとなる。
一般に腫瘍細胞は、その細胞表面に癌細胞表面抗原を発現している。例えば、癌胎児性抗原、メソテリンが挙げられる。融合遺伝子にコードされる単鎖抗体は、このような表面抗原を認識し、結合するものが好ましい。あるいは、EGFR(上皮成長因子受容体)のような細胞の増殖等を制御する受容体が機能亢進によって癌化(例示したEGFRの場合であれば、非小細胞肺癌、前立腺癌等)した場合には、その癌化の原因となった受容体等(前述の例示ではEGFR)の細胞外ドメインを認識し、結合する単鎖抗体であってもよい。このように、有効成分である組換え細菌は、細胞外分泌性イムノトキシンをコードする融合遺伝子において、単鎖抗体部分の塩基配列を交換することで、あらゆる腫瘍抗原に対応することが可能となる。本発明の抗腫瘍剤の標的となる腫瘍は、腫瘍を形成するものであれば、良性、悪性を問わず、いずれの腫瘍であってもよい。例えば、脳腫瘍、甲状腺癌、口腔癌、食道癌、胃癌、大腸癌、咽頭癌、肺癌、肝臓癌、腎癌、副腎癌、膵臓癌、胆道癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、線維肉腫、肥満細胞腫又はメラノーマが標的腫瘍として挙げられる。
本発明の組換え細菌が融合遺伝子を発現した場合、その産物である細胞外分泌性抗腫瘍細胞イムノトキシンは、細胞外に分泌される。分泌されたそのイムノトキシンは、単鎖抗体部分で標的物質である腫瘍細胞に結合し、その細胞は外毒素部分の細胞傷害活性によりアポトーシスが誘導される。
本発明の有効成分である組換え細菌は、抗腫瘍剤において生菌状態で含まれる。本発明の第1態様に記載の組換え細菌は、高濃度の酸素存在下では増殖できず、やがて死滅する。したがって、生体内においては、酸素分圧の低い部位でのみ増殖、生存が可能である。そのような部位の代表的な例として、進行癌に見られる腫瘍(固形癌)の中心部位又は腸管内が挙げられる。それ故、本発明の抗腫瘍剤は、注射等により体内投与した場合、腫瘍選択的送達性の高い抗腫瘍剤となり得る。
また、本発明の抗腫瘍剤は、有効成分である組換え細菌の生存、増殖、イムノトキシンの発現及び分泌を阻害又は抑制しない範囲において、他の抗腫瘍剤と併用することができる。
本発明の抗腫瘍剤は、組換え細菌を生菌状態で維持又は保存することを前提として、原則として当該分野で公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Merck Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載の方法を用いればよい。具体的な製剤化の方法は、投与方法によって異なる。投与方法は、経口投与と非経口投与に大別されるが、本発明の抗腫瘍剤の場合、非経口投与がより好ましい。
本発明の抗腫瘍剤を非経口投与する場合、その具体例としては、注射による投与が挙げられる。本発明の抗腫瘍剤を注射で投与する場合、組換え細菌を製薬上許容可能な溶媒と混合し、必要に応じて製薬上許容可能な担体を加えた懸濁液剤として調製することができる。
「製薬上許容可能な溶媒」は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は油性液のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80(TM)、HCO−60)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。油性液としては、ゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用することもできる。また、緩衝剤、例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えば、ベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。
注射剤には、製薬上許容される賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化すればよい。
注射は、例えば、血管内注射、リンパ管内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等が挙げられるが、本発明の抗腫瘍剤の有効成分である組換え細菌が腫瘍内で増殖して、その腫瘍細胞の増殖を抑制するという機序から、腫瘍巣の位置が明確でない場合には、全身投与である血管内注射又はリンパ管内注射等の循環器内投与が好ましい。血管内注射には、静脈内注射及び動脈内注射等があるが、本発明の抗腫瘍剤を投与する場合いずれであってもよい。一方、腫瘍巣の位置が確定している場合には、前記全身投与の他、腫瘍へ直接的に投与する局所投与であってもよい。
本発明の抗腫瘍剤を経口投与する場合については、後述する経口ワクチン剤の項に記載の方法に準じればよいことから、ここではその説明を省略する。
本発明の抗腫瘍剤における組換え細菌の含有量は、原則1回の投与でその菌体が標的の腫瘍に生存かつ増殖可能な状態で達し得る量で、かつそれを適用する被検体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量であればよい。このような含有量は、抗腫瘍剤の標的細胞の種類、癌の進行度、腫瘍の大きさ、全身における腫瘍巣数、抗腫瘍剤の剤形及び投与方法によって異なるため、それぞれの条件を勘案し、適宜定められる。
本明細書の抗腫瘍剤の投与対象は、腫瘍を有する又は有する蓋然性の高い被検体である。本明細書で「被検体」とは、本発明の抗腫瘍剤を適用する動物いう。例えば、哺乳動物、好ましくはヒト、イヌ、ネコ、ウマ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、サル等、より好ましくはヒトである。
2−3.効果
本発明の抗腫瘍剤によれば、有効成分である組換え細菌が酸素分圧の低い腫瘍内でのみ生存及び増殖し、抗腫瘍細胞イムノトキシンを分泌する。それ故、該イムノトキシンを腫瘍細胞にまで効率的に伝達し、かつ継続的に作用させることができる。また、イムノトキシンの作用により腫瘍細胞の増殖が抑制され、腫瘍が退縮することによって、組織中の酸素分圧が高まると、偏性嫌気性グラム陽性菌である組換え細菌は、生存不能となることから生体内から自動的に排除することができる。これにより、従来の細菌療法と比較して、固形がんに対して非病原性の偏性嫌気性菌で他の抗腫瘍薬を投与することなく、単独の静脈内への投与により抗腫瘍効果を発揮することのできる安全でかつ簡便な治療法を提供することができる。
また、本発明の抗腫瘍剤は、静脈内注射が可能であることから、被検体に与える侵襲性も低いという利点を有する。
3.腫瘍検出用マーカー
3−1.概要
本発明の第3の態様は、腫瘍検出用マーカーである。本発明において「腫瘍検出用マーカー」とは、生体内において腫瘍を検出することができるマーカーである。
本発明の腫瘍検出用マーカーは、第1態様の組換え細菌を有効成分とすることを特徴とする。本発明の腫瘍検出用マーカーによれば、有効成分である組換え細菌が腫瘍内でのみ増殖し、腫瘍内で酵素、蛍光タンパク質又は発光タンパク質を分泌することによって、生体内における腫瘍の位置や大きさをモニタリングすることができる。
3−2.構成
基本的な構成は、第2態様の抗腫瘍剤に準じる。そこで、ここでは主に前記抗腫瘍剤と異なる点について説明をし、重複する構成については原則省略する。
本発明の腫瘍検出用マーカーは、前述のように第1態様の組換え細菌を有効成分とする。この場合の組換え細菌は、融合遺伝子が標的細胞である腫瘍細胞の表面抗原を認識して、結合する単鎖抗体をコードし、機能性ペプチドが標識タンパク質又は標識化を誘導するタンパク質をコードしている。標識タンパク質としては、例えば、前述の蛍光タンパク質又は発光タンパク質が挙げられる。また、標識化を誘導するタンパク質としては、ルシフェリンやルミノールのような発光素又は蛍光素を基質とする酵素(ルシフェラーゼやペルオキシダーゼ)が挙げられる。したがって、本発明の腫瘍検出用マーカーの有効成分である組換え細菌は、細胞外分泌性抗腫瘍細胞イムノマーカー(免疫標識子)を分泌することとなる。
本発明の組換え細菌が融合遺伝子を発現した場合、その産物である細胞外分泌性抗腫瘍細胞イムノマーカーは、細胞外に分泌される。分泌されたイムノマーカーは、単鎖抗体部分で標的物質である腫瘍細胞に結合し、その細胞は標識化される。具体的には、機能性ペプチドが発光タンパク質又は蛍光タンパク質のような標識タンパク質であった場合、単鎖抗体部分と連結されたそれらの標識タンパク質によって腫瘍細胞が直接標識化されることとなる。一方、機能性ペプチドが酵素であった場合、鎖抗体部分と連結された酵素によって腫瘍細胞が酵素標識されることとなる。
本発明の腫瘍検出用マーカーは、第2態様の抗腫瘍剤と併用することができる。この場合、有効成分である組換え細菌が、腫瘍検出用マーカーと抗腫瘍剤をそれぞれ独立した分子として分泌する、すなわち同一標的物質を認識する単鎖抗体を含む異なる融合タンパク質を分泌する、同一の又は異なる組換え細菌であってもよいし、機能性タンパク質部分に外毒素と標識タンパク質又は酵素を含む1つの融合タンパク質を分泌する組換え細菌であってもよい。これらの場合、同一の腫瘍細胞を標識化すると同時に、外毒素の作用によって腫瘍細胞に細胞傷害を付与することが可能となる。
また、有効成分である組換え細菌の生存、増殖、イムノマーカーの発現、及び分泌を阻害又は抑制しない範囲において、他の抗腫瘍剤と併用することもできる。
3−3.検出
本発明の腫瘍検出用マーカーを被検体に投与した場合、その個体が腫瘍を有していれば、有効成分である組換え細菌がその腫瘍内で増殖し、抗腫瘍細胞イムノマーカーが分泌される。分泌されたイムノマーカーは、腫瘍細胞を標識化する。標識化された腫瘍細胞の検出は、イムノマーカーが発光タンパク質又は蛍光タンパク質のような標識タンパク質の場合には、その標識タンパク質自身の発する発光又は蛍光を、また酵素標識の場合には、生体内に投与されたルシフェリン等の基質の酵素反応による発光又は蛍光を、検出すればよい。イムノマーカーの検出方法は、特に限定はしない。腫瘍の多くは、生体内部に存在するため、開腹等の手術によって腫瘍を露出させた上でイムノマーカーを検出してもよいし、生体内の発光又は蛍光を体外から非侵襲的に検出してもよい。好ましくは体外から検出する方法である。イムノマーカー由来の発光又は蛍光を体外から検出する方法としては、限定はしないが、例えば、in vivoバイオイメージング法を用いることができる。例えば、Katz,M.H.et al.,2003,Cancer Res.63:5521−5525、Schmitt,C.A.et al.,2002,Cancer Cell,1:289−298,Katz,M.H.et al.,2003,J.Surg.Res.,113:151−160等に記載の方法を用いて検出することができる。市販のIVISImaging System(Caliper)やそれに類似する装置により検出してもよい。
3−4.効果
本発明の腫瘍検出用マーカーによれば、生体内の腫瘍の位置及び大きさをイムノマーカーに基づいて生体外部からモニタリングすることができる。また、本発明の腫瘍検出用マーカーと第2態様の抗腫瘍剤とを併用することで、イムノトキシンにより腫瘍細胞の増殖を抑制させると共に、イムノマーカーにより生体内の腫瘍を生体外部から検出することによって、腫瘍の縮退や治癒効果を経時的にモニタリングすることが可能となる。
4.経口ワクチン剤
4−1.概要
本発明の第4の態様は、経口ワクチン剤である。本発明において「経口ワクチン剤」とは、経口投与することによって、その投与個体の腸管免疫応答を誘導することのできるワクチン剤をいう。
本発明の経口ワクチン剤は、第1態様の組換え細菌を有効成分とすることを特徴とする。本発明の経口ワクチン剤によれば、有効成分である組換え細菌が消化器官内、特に腸内で増殖し、細胞外分泌性抗原ペプチド(イムノアンチゲン)を分泌することによって、腸管粘膜を介して投与個体に抗原ペプチドに対する免疫応答を誘導させることができる。
4−2.構成
基本的な構成は、第2態様の抗腫瘍剤に準じる。そこで、ここでは主に前記抗腫瘍剤と異なる点について説明をし、重複する構成については原則省略する。
本発明の経口ワクチン剤は、第2態様の抗腫瘍剤と同様に第1態様の組換え細菌を有効成分とする。ただし、第2態様の抗腫瘍剤と異なり、この場合の組換え細菌は、融合遺伝子がコードする単鎖抗体が腸管上皮細胞等の表面抗原、又は杯細胞から分泌されるムチン等を認識して結合する点、及び機能性ペプチドが抗原ペプチドをコードしている点において異なる。前記腸管上皮細胞は、M細胞、Paneth細胞、杯細胞、吸収上皮細胞、腸管内分泌細胞のいずれであってもよい。好ましくは、濾胞被覆上皮(FAE;follicle−associated epithelium)に存在するM細胞である。抗原ペプチドは、第1態様に記載のように1つ以上のエピトープを有し、かつ投与する個体に免疫応答誘導すべき種々のペプチドである。
本発明の組換え細菌が消化器官内で融合遺伝子を発現した場合、その産物であるイムノアンチゲンが、腸管上皮細胞又は腸粘膜に結合し、腸管免疫応答を誘導することができる。
本発明の経口ワクチン剤は、経口投与によって投与個体に対して免疫応答を誘導することを特徴とする。したがって、本発明の経口ワクチン剤は、経口投与剤である。
本発明の経口ワクチン剤は、有効成分である組換え細菌に加えて、製薬上許容可能な担体を添加してもよい。
「製薬上許容可能な担体」とは、薬剤の製剤化や生体への適用を容易にし、また有効成分である組換え細菌の生存を維持するために、その菌体の作用を阻害又は抑制しない範囲で添加される物質をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤又は潤滑沢剤が挙げられる。
「賦形剤」としては、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
「結合剤」としては、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。
「崩壊剤」としては、例えば、前記デンプンや、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム又はそれらの塩が挙げられる。
「充填剤」としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
「乳化剤」としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
「流動添加調節剤」及び「滑沢剤」としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
その他、必要に応じて、矯味矯臭剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、増量剤、付湿剤、保湿剤(例えば、グリセリン、澱粉等)、吸着剤(例えば、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等)、崩壊抑制剤(例えば、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等)、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。上記のような担体を、一又は二以上、必要に応じて適宜使用すればよい。
経口ワクチン剤の剤形としては、例えば、固形剤(錠剤、丸剤、舌下剤、カプセル剤、ドロップ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤等を挙げることができる。さらに固形剤は、必要に応じ、当該分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠とすることができる。剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。
4−3.効果
本発明の経口ワクチン剤によれば、従来注射等により生体に投与していたワクチン剤を非侵襲的に経口で投与することができる。
本発明の経口ワクチン剤によれば、有効成分である組換え細菌が腸管内で持続的に生存及び増殖可能なことから、ワクチンとしてのイムノアンチゲンを継続的に投与個体に付与することが可能となる。
【実施例】
【0008】
<実施例1:発現カセットの構築>
以下で偏性嫌気性グラム陽性菌として本実施例において使用するビフィズス菌導入用発現カセットの構造及びその構築方法について説明する。
(1)抗EGFR抗体/緑膿菌外毒素A融合タンパク質発現カセット(以下、「8C7 toxin」とする)(
図1a;配列番号1/アミノ酸配列:配列番号16)
本発明の第1態様に記載の構造を有する融合遺伝子を包含する融合タンパク質発現カセットである。当該発現カセットは、HindIII切断部位、B.ロンガムhup遺伝子由来のプロモーター領域(配列番号4)、B.ロンガム由来のusp分泌シグナル配列(配列番号5)、DTY(シグナル配列後挿入配列)、リンカーペプチド(GGSGG)
2コード配列(配列番号6)で連結した2つの抗EGFRラマ一本鎖抗体コード配列(PMP8C7;配列番号7及び8;特開2008−534933,特表2009−511032)、外毒素としての細胞接着に関与するドメインを除去した緑膿菌外毒素Aコード配列(配列番号9;Brinkmann U.,et al.,1994,Biochimica et Biophysica Acta,1198:27−45)、終止コドン、SpeI部位、ヒストン様タンパク質由来のターミネーター(HUT)(配列番号10)、そしてNotI切断部位の順に連結された融合遺伝子をデザインし、DNA合成を行って作製した。その後、pBluescriptプラスミド(lifetechnologies)中にクローニングし、DNA配列を確認した。
(2)抗EGFR抗体/EGFP融合タンパク質発現カセット(以下、「8C7 EGFP」とする)(
図1b;配列番号2)
本発現カセットは、外毒素に代えて蛍光タンパク質EGFPを連結した対照及び局在性検出用発現カセットである。当該発現カセットは、HindIII切断部位から2つの抗EGFRアルパカ一本鎖抗体までは前記8C7 toxinと同じ構造を有し、それに続いて再びリンカーペプチド(GGSGG)
2コード配列、EGFP(Zhang G.,et al.,1996,Biochem Biophys Res Commun,227(3):707−11)、終止コドン、SpeI切断部位、HUT、His−Tag配列、そしてNotI切断部位の順に連結された遺伝子をデザインし、DNA合成を行って作製した。その後、pBluescriptプラスミドにクローニングし、DNA配列を確認した。
(3)緑膿菌外毒素Aタンパク質発現カセット(以下、「Toxin control」とする)(
図1c;配列番号3)
本発現カセットは、単鎖抗体部分を含まない外毒素のみからなる対照用発現カセットである。当該発現カセットは、8C7 toxinからリンカーペプチドを含む2つの抗EGFRラマ一本鎖抗体コード配列を除去し、細胞接着ドメインを除いた緑膿菌外毒素Aコード配列(配列番号9)のC末にHis−Tag配列を付加した構造を有しており、DNA合成を行って作製した。その後、pBluescriptプラスミドにクローニングし、DNA配列を確認した。
<実施例2:融合タンパク質8C7 toxinの細胞増殖阻害活性>
本実施例では、実施例1に記載の8C7 toxin等の融合タンパク質を発現する組換えE.coli BL21(DE3)の調製とその融合タンパク質の細胞増殖阻害活性について検証した。
(1)大腸菌発現用Ec−8C7 toxin、Ec−Toxin control、及びEc−8C7 EGFPの発現ベクターの構築
大腸菌発現用Ec−8C7 toxin発現カセットは、pBluescriptプラスミドに挿入された8C7 toxinを鋳型として、配列番号11及び12のprimerセットを用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件はDNAポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ、大津市、日本)を用いて95℃1分を1サイクル、98℃10秒、60℃15秒、68℃2分を25サイクルで実施した。増幅産物は、MinEluteカラム(Qiagen社)を用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、ゲルから目的のバンド切り出してDNAゲル抽出キット(Qiagen社)を用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET−22b(+)(Novagen社)のマルチクローニングサイト(MCS)の対応する制限部位に挿入し、Strep Tag(Schmidt T.G.,Skerra A.,2007,Nat Protoc.2(6):1528−35)、(GGSGG)
2リンカーペプチドで連結した2つのPMP8C7、細胞接着に関与するドメインを除去した緑膿菌外毒素Aの配列、His Tagを持つEc−8C7 toxinを構築した(
図1d)。
大腸菌発現用Ec−8C7 EGFP発現カセットは、pBluescriptプラスミドに挿入された抗EGFR抗体/EGFP融合タンパク質発現カセットを鋳型として、配列番号13及び14のprimerセットを用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件は上記と同一とした。増幅産物は、MinEluteカラムを用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、目的のバンドをゲルから切り出してDNAゲル抽出キットを用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET−22b(+)のMCSの対応する制限部位に挿入し、Strep Tag、(GGSGG)
2リンカーペプチドで連結した2つのPMP8C7、(GGSGG)
2リンカーペプチド、緑色蛍光タンパク質(EGFP)、His Tagを持つEc−8C7 EGFPを構築した(
図1e)。
大腸菌発現用Ec−Toxin Control発現カセットは、pBluescriptプラスミドに挿入されたToxin contorol発現カセットを鋳型として、配列番号15及び12のprimerセットを用いて、PCRによる増幅を行った。PCRの条件は上記と同一とした。増幅産物は、MinEluteカラムを用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.5%アガロースで電気泳動を行い、目的のバンドをゲルから切り出してDNAゲル抽出キットを用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET−22b(+)のMCSの対応する制限部位に挿入し、Strep Tag、細胞接着に関与するドメインを除去した緑膿菌外毒素Aの配列、His Tagを持つEc−Toxin Controlを構築した(
図1f)。
(2)Ec−8C7 toxin、Ec−Toxin control、及びEc−8C7 EGFPの発現及び精製
上記(1)で構築した各発現カセットを含むpET−22b(+)プラスミドDNAを、E.coli BL21(DE3)コンピテントセル(Novage社)又はBL21Star
TM(DE3)One Shotコンピテントセル(Invitrogen社)に添付のプロトコルに従って導入した。各形質転換体からの組換えタンパク質の発現は、以下の条件で行った。E.coli BL21(DE3)形質転換体クローンを2YTA培地(100μg/mLのampicillinを含む2YT培地)で37℃培養し、OD600=0.5〜0.6に達した時点でIPTG(Isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside、タカラバイオ社)を終濃度1mM(BL21(DE3)StarTM株では0.5mM)となるように培地に加えて、30℃で3時間培養した。集菌後、100mL培養液当たり10mLの抽出バッファ(50mM NaPhosphate pH7.8,300mM NaCl,EDTA−Free protease inhibitor cockatail(Roche社))に再縣濁して、氷中でSonifier 250(Branson社)を用いて、Output Control 2、Duty cycle 50%の条件で超音波処理を行い、菌体を破砕した。処理後の縣濁液を15000rpmで4℃にて15分遠心して、上清を回収した。融合タンパク質の精製は、HisTrapカラム(GEHealthcare UK、Buckinghamshire、England)を用いた。超音波処理縣濁液の遠心上清をそのままHisTrapカラムにかけ、結合バッファ(20mM NaPhosphate,0.5M NaCl,20mM Imidazole pH7.4)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液で融合タンパク質を溶出させた。
精製の結果を全ての融合タンパク質のC末端に位置するHisタグに対する抗HisTag抗体を用いたウエスタンブロットで検出し確認した。その結果、それぞれ予想される位置にバンドが検出された(データ示さず)。また、融合タンパク質が完全長であることを組換えタンパク質のN末端のStrep Tagに結合するストレプタクチンHRP(Bio−rad社)を用いて、膜を洗浄後化学発光試薬LuminataTM Forteを加えてImageQuantLAS4000(富士フィルム/GE)を使って検出した。結果を
図2に示す。これらの結果から完全長のEc−8C7 toxin、Ec−8C7 EGFP、Ec−Toxin controlを精製できたことが確認された。得られた融合タンパク質は、10%グリセリンを添加して、4℃で保存した。
(3)Ec−8C7 toxinの細胞増殖阻害活性
EGFRを過剰発現するA431細胞(ヒト皮膚癌由来細胞、理化学研究所バイオリソースセンター、つくば市、日本より入手)、EGFRの発現量が少ないBxPC−3細胞(ヒト膵臓癌由来細胞、ATCC、Manassas、USより入手)(Folia Pharmacol.Jpn.2011,137;31−41)、及びHT−29細胞(ヒト結腸癌由来細胞、ATCC、Manassas、USAより入手)に対する各融合タンパク質の増殖抑制作用を検討した。Falcon 96ウエル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン社)に2.5×10
4cells/50μL培地(0.2%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals、Tulare、USA)を含むDMEM培地)/wellで細胞を加え、3時間培養後、上記(2)で精製したEc−8C7toxin、Ec−8C7EGFP、Ec−Toxin controlを400、200、100、50及び25ng/mLで含む培地を50μLずつ添加した。上記3種の細胞株は、0.2%ウシ胎児血清を含むDMEM培地で3日間培養する条件では、細胞は死なないものの、ほとんど増殖しない。Ec−8C7toxin、Ec−8C7EGFP、Ec−Toxin controlはHisTrapカラム(GE Healthcare NJ,USA)で精製したサンプルを使用したため、培地に添加時に混入するバッファ成分を考慮して、バッファコントロールを置いた。培養3日目に10μLのMTT試薬(ナカライテスク社)を加えた。さらに2時間培養後に100μL/wellで可溶化液を加え、ピペッティングで細胞を溶解してOD
570nmの吸光度を測定した。細胞無添加培地のウエルの測定値をバックグランド値として全測定値から減じた。各希釈のバッファコントロールのウエルを100%として、その相対値で示した。アッセイはデュブリケートで行い、2ウエルの平均値を取った。
結果を
図3に示す。
図3aはA431細胞の、
図3bはBxPC−3細胞の、
図3cはHT−29細胞の結果である。
図3aで示すように、Ec−8C7 toxinは、A431細胞について濃度依存の増殖阻害活性が検出され、IC
50は0.68nmol/L(47.5ng/mL)であった。一方、陰性対照であるEc−Toxin controlでは増殖阻害活性が検出されなかった。したがって、Ec−8C7 toxinの標的細胞特異的な細胞増殖阻害活性が立証された。この結果は、Ec−8C7 toxinが抗EGFR抗体部分でEGFRに結合し、EGFRインターナリゼーション(McClintock J.L.& Ceresa B.P.,2010,Invest Ophthalmol Vis Sci.51(7)3455−3461)が生じて細胞内に取り込まれ、その後、外毒素部分が細胞質内にトランスロケーションし、EF−2をADPリボシル化して不活性化することによって、A431細胞のタンパク質合成が阻害されたことを示唆している。また、陰性対照であるEc−8C7 EGFPで細胞増殖阻害活性が検出されなかったことは、Ec−8C7 EGFPが抗EGFR抗体部分でEGFRに結合しても外毒素部分がないことでEGFRのシグナル伝達を阻害できず、細胞増殖に影響及ぼさないことが示唆された。一方、
図3bに示すように、EGFRの発現量が少ないBxPC−3細胞に対してEc−8C7 toxinは、弱い増殖阻害活性(200ng/mLの8C7 toxinで約40%阻害活性)しか検出されず、また、
図3cに示すように、HT−29細胞に対するEc−8C7 toxinの増殖阻害活性は検出されなかった。
<実施例3:8C7 EGFPの腫瘍細胞との結合及びEGFR ECDとの解離定数の測定>
本実施例では、実施例2に記載のEc−8C7 EGFPとEGFRを発現する生細胞との結合を検討した。
(1)Ec−8C7 EGFPの腫瘍細胞との結合
ファルコン24ウエルプレート(ベクトン・ディッキンソン社)に2.5×10
5cells/0.5mL培地(0.2%ウシ胎児血清を含むDMEM培地)/wellでEGFRの過剰発現株A431細胞及び低発現株HT−29細胞をそれぞれ播き、翌日、実施例2で精製したEc−8C7 EGFPを10μg/mL含有する0.2%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に交換した。2時間培養後、前記培地を除去し、PBS(Mg
2+、Ca
2+フリー・リン酸緩衝生理食塩水)で2回洗浄して、0.5mL/wellでPBSを加え、蛍光顕微鏡(ECLIPS Ti、Nikon)で観察した。HisTrapカラムで精製したEc−8C7EGFPを使用したため、培地に添加時に混入するバッファ成分を考慮して、バッファコントロールを置いた。
結果を
図4a、及び4bに示す。
図4aでは、A431細胞の表面にEc−8C7EGFPの蛍光が検出され、Ec−8C7 EGFPとA431細胞との結合が検出できた。また、一部の細胞ではEGFRのインターナリゼーションが確認された。一方、
図4bのHT−29細胞では、Ec−8C7EGFPの蛍光は検出されず、Ec−8C7 EGFPがHT−29細胞と結合しないことが明らかとなった。
(2)Ec−8C7 EGFPのEGFRインターナリゼーションの検出
A431細胞を用いてEGFRインターナリゼーションを経時的に観察した。A431細胞を1×10
6 cells/2mL培地(10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地)/35mmφdishで3枚のdishに播き、1日培養後、10μg/mLのEc−8C7 EGFPを含む培地(10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地)に交換して、1枚は4℃で1時間、1枚は37℃で2時間、もう1枚は37℃で4時間インキュベートした。それぞれ、2mLのPBS/dishで2回洗浄して、蛍光顕微鏡で観察した。
結果を
図4Cに示す。37℃の条件下では、大半の細胞でEGFRインターナリゼーションを観察することができた。
(3)Ec−8C7 EGFPとEGFR細胞外ドメイン(ECD;extracellular domain)との解離定数(K
D)の測定
Ec−8C7 EGFPと組換えヒトEGFR ECD(Sino Biological、Beijing、China)との結合親和性を、Biacore 3000(GE Healthcare,NJ,USA)を用いた表面プラズモン共鳴法にて解析した。測定手法はシングルサイクルカイネティクス法(Analytical Biochemistry Volume 349,Issue 1,1 February 2006,Pages 136−147)で行い、Ec−8C7 EGFPを1.56nM(1回目)、3.13nM(2回目)、6.25nM(3回目)、12.5nM(4回目)、25nM(5回目)の順で連続添加して測定した。
結果を
図5に示す。Ec−8C7 EGFPと組換えヒトEGFR ECDのK
D値は11nmであった。
<実施例4:組換えビフィズス菌の腫瘍蓄積性とマウスへの影響>
ヌードマウス背部にA431細胞を移植して固形がんを形成させたXenograftmodelにおいて、8C7 toxinを発現し、分泌する組換えビフィズス菌を静脈内に投与したときの、その組換えビフィズス菌の腫瘍蓄積性とマウスへの影響を検証した。
(1)8C7 toxinの発現用ベクター及び8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌の構築
ベクターは、pTB6(Tanaka K,et al.,2005,Biosci Biotechnol Biochem.69(2):422−425)のレプリコンを含むビフィズス菌と大腸菌とのシャトルベクターpKKT427(
図6;Yasui K,et al.,2009,Nucleic Acids Res.,37(1):e3)を使用した。pKKT427のMCS(マルチクローニングサイト)におけるHindIIIとNotIの間に、ビフィズス菌用発現カセット(
図1a)を挿入した。構築した発現ベクターをビフィズス菌B.ロンガム105−A(元京都薬科大学・加納康正教授より供与)にエレクトロポレーション法を用いて導入した。エレクトロポレーションの条件は、2.4kV/cm、25μF、200Ωの条件で行った。得られた組換えビフィズス菌を生理食塩水に再懸濁してヌードマウス投与液を調製した。
(2)組換えビフィズス菌の腫瘍蓄積性
6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウス(日本エスエルシー、浜松、日本)に、2×10
6のA431細胞を皮下移植し、固形がんが形成された2週後に前記(1)で調製した組換えビフィズス菌を1.5×10
9個、静脈内に投与した。陰性対照には、組換えビフィズス菌を静脈内に投与していないヌードマウスを使用した。体内の組換えビフィズス菌の栄養補助のために、全マウスに毎日1mLの20%ラクツロース(和光純薬、大阪、日本)を腹腔内に投与した。投与後、1週後にマウスから腫瘍(n=5、平均値277.2mm
3)、及び対照として血液及び脾臓を回収し、血液は直接、腫瘍と脾臓はMRS培地(Lactobacilli MRS Broth(Difco Laboratories,Detroit,MI)、50mMショ糖、3.4mg/mL L−アスコルビン酸ナトリウム塩、及び0.2mg/mL L−システイン塩酸塩)中でホモジナイズ後、100μg/mLスペクチノマイシンを含むMRS寒天培地(前記MRS液体培地に1.5%のBacto Agar(Difco Laboratories)を添加して調製)に塗布し、容器又は袋内に脱酸素剤であるアネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、東京、日本)を入れてビフィズス菌が増殖可能な程度の低酸素状態にした嫌気環境下で37℃にて2日間培養し、MRS選択寒天培地上に出現したコロニーを計測した。
結果を
図7に示す。この図が示すように、組換えビフィズス菌は、血液や脾臓と比較して腫瘍に100倍から1,000倍の選択性で蓄積することが明らかとなった。
(3)組換えビフィズス菌の静脈内投与による体重及びGPT値の変化
(2)の組換えビフィズス菌を投与したヌードマウスにおいて、組換えビフィズス菌の静脈内投与日(Day0)と腫瘍回収時の投与後1週(Day7)に体重を計測した。陰性対照としては組換えビフィズス菌を静脈内に投与していないA431細胞移植マウスを用いた。各群はn=5で実施した。
結果を表1に示す。
【表1】
表1に示すように組換えビフィズス菌の静脈内投与によるマウスの体重減少は検出されなかった。
また、(2)の組換えビフィズス菌を投与したヌードマウスと陰性対照のマウスのそれぞれから採取した血液から血清を調製し、トランスアミラーゼCII・テストワコー(和光純薬)を用いて、肝機能障害の有無を調べるために、GPT(ALT)値を測定した。血清は採取した血液を室温で30分、4℃で一晩インキュベートし、1,000×gで遠心分離した後、上清を採取することによって得た。
結果を
図8に示す。組換えビフィズス菌の静脈内投与群(8C7 toxin)では、陰性対照(Vehicle)と比較してGPT値に大きな変化が見られなかった。
以上の結果は、殺細胞活性を有する外毒素を含む融合タンパク質8C7 toxinを分泌する組換えビフィズス菌をマウスに静脈内に投与したとしても、生体に対して副作用をほとんど及ぼさないことを示唆している。
<実施例5:8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を用いたin vivoでのEGFRインターナリゼーションの検出>
(1)8C7 EGFPの発現ベクターの構築と組換えビフィズス菌の調製
8C7 EGFP発現ベクターは、実施例4に記載のシャトルベクターpKKT427のMCSにおけるHindIIIとNotIの間に、ビフィズス菌用発現カセット8C7 EGFP(
図1b)を挿入した。構築した8C7 EGFP発現ベクターをB.ロンガム105−Aにエレクトロポレーション法を用いて導入した。エレクトロポレーションの条件は、2.4kV/cm、25μF、200Ωの条件で行った。得られた組換えビフィズス菌を生理食塩水に再懸濁してヌードマウス投与液を調製した。
(2)組換えビフィズス菌のA431細胞坦癌マウスへの投与及びEGFRインターナリゼーションの検出
6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、2×10
6のA431細胞を皮下移植し、固形がんが形成された2週後に前記(1)で調製した組換えビフィズス菌を1.5×10
9個、静脈内に投与した。陰性対照には、組換えビフィズス菌を静脈内に投与していないヌードマウスを使用した。体内の組換えビフィズス菌の栄養補助のために、全マウスに毎日1mLの20%ラクツロース(和光純薬、大阪、日本)を腹腔内に投与した。投与後、1週後にマウスから腫瘍(n=10、平均値450mm
3)を回収し、凍結組織切片作製用包埋剤ティシュー・テックO.C.T.コンパウンド(サクラファインテックジャパン、東京、日本)中で凍結保存した。凍結切片は、凍結ミクロトームLeica CM3050 S(Leica、Wetzlar、Germany)を用いて、10μmの厚さで作製した。封入剤は、Prolong Antifade Reagent with DAPI(Life Technologies、Carlsbad、CA)を用いて、封入時にDAPI(4’,6−Diamidino−2−phenylindole)で核染色を行った。スライドガラスは、Micro Slide Glass(松波硝子、大阪、日本)を用い、カバーガラスは、Neo Micro Cover Glass(松波硝子)を用いた。蛍光顕微鏡は、Eclipse80i(ニコン、東京、日本)を使用した。DAPI染色した細胞核を波長340〜380nmの励起光により400nm付近の蛍光として検出し、8C7 EGFPは波長465〜495nmの励起光により505nm付近の蛍光として検出した。
結果を
図9に示す。
図9a及び
図9bは8C7 EGFPを、
図9cは陰性対照を示す。これらの図では、8C7 EGFPの蛍光を矢印で、DAPIの蛍光は矢頭で示している。A431細胞の核周辺に点状にEGFPの緑色の蛍光が認められることから、in vivoでも8C7 EGFPのEGFRインターナリゼーションが生じていることが明らかとなった。これは、8C7 toxinを発現し、分泌する組換えビフィズス菌を静脈内に投与した場合、in vivoであっても緑膿菌外毒素Aが、癌細胞内へ取り込まれ、癌細胞に対して強い殺細胞効果を発揮することを示唆している。また、
図9bでは直線状の蛍光像(矢印)が見られたが、これは組換えビフィズス菌が直線状に並んで生息している(Yazawa K,et al.,2000,Cancer Gene Therapy 7:269−274)ことを示唆している。同様の結果は、ヒト膵臓癌由来細胞BxPC−3細胞でも得られた(図示せず)。
<実施例6:8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与した場合の抗腫瘍効果(1)>
A431細胞のXenograft modelに、8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与した場合の抗腫瘍効果について検証した。
(1)陰性対照Toxin controlの発現用ベクターの構築と組換えビフィズス菌の調製
抗体依存性の抗腫瘍効果を検討するため陰性対照として、
図1cに記載のToxin controlを用いた。実施例4に記載のシャトルベクターpKKT427のMCSにおけるHindIIIとNotIの間に、ビフィズス菌用発現カセットToxin control(
図1c)を挿入した。構築したToxin control発現ベクターをB.ロンガム105−Aにエレクトロポレーション法を用いて導入した。エレクトロポレーションの条件は、2.4kV/cm、25μF、200Ωの条件で行った。得られた組換えビフィズス菌を生理食塩水に再懸濁してヌードマウス投与液を調製した。
(2)A431細胞のXenograft modelにおける組換えビフィズス菌の抗腫瘍効果の測定
6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、2×10
6のA431細胞を皮下移植し、8日後に各群(Vehicle、8C7 toxin、Toxin control;各n=5)を約130mm
3になるように群分けした後、実施例4(1)で調製した8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌及び本実施例(1)で調製したToxin controlを発現する組換えビフィズス菌を1.5×10
9個で静脈内に投与した。陰性対照(Vehicle)には、組換えビフィズス菌を静脈内に投与していないヌードマウスを使用した。体内の組換えビフィズス菌の栄養補助のために、全マウスに毎日1mLの20%ラクツロース(和光純薬、大阪、日本)を腹腔内に投与した。腫瘍径は、A431細胞を皮下移植した日の8日、10日、15日、18日、20日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は、「(短径)
2×(長径)/2」の計算式で算出した。
結果を
図10に示した。8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌では、陰性対照のVehicleと比較して、93%の腫瘍増殖抑制効果がみられた。一方、抗EGFR一本鎖抗体PMP8C7を含まない陰性対照Toxin controlを発現する組換えビフィズス菌では、ほとんど腫瘍増殖抑制効果がみられなかった。これらの結果は、in vivoにおいて、組換えビフィズス菌から分泌された8C7 toxinが抗EGFR一本鎖抗体部分を介してA431細胞表面のEGFR受容体と結合し、緑膿菌外毒素A部分によって殺細胞効果を発揮したことを示唆している。今回得られた抗腫瘍効果はEGFRのチロシンキナーゼを選択的に阻害する低分子の分子標的薬であるゲフィニチブと同等の腫瘍殖抑制効果(James G.,et al.,2001,Clin Cancer Res,7:4230−4238)を有しており、腫瘍増殖抑制効果としては十分であることが明らかとなった。
<実施例7:8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与した場合の抗腫瘍効果(2)>
BxPC−3細胞のXenograft modelに、8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与した場合の抗腫瘍効果について検証した。
(1)BxPC−3細胞のXenograft modelにおける組換えビフィズス菌の抗腫瘍効果の測定
6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、2×10
6のBxPC−3細胞を皮下移植し、12日後に各群(Vehicle、8C7 toxin、Toxin control;n=5)を約95mm
3になるように群分けした後、実施例4(1)で調製した8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌及び本実施例(1)で調製したToxin controlを発現する組換えビフィズス菌を1.5×10
9個で静脈内に投与した。さらに、27日後に1.5×10
9個の組換えビフィズス菌を静脈内に再投与した。陰性対照(Vehicle)には、組換えビフィズス菌を静脈内に投与していないヌードマウスを使用した。体内の組換えビフィズス菌の栄養補助のために、全マウスに毎日1mLの20%ラクツロース(和光純薬、大阪、日本)を腹腔内に投与した。腫瘍径は、BxPC−3細胞を皮下移植した日の12日、15日、22日、27日、32日、37日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は、「(短径)
2×(長径)/2」の計算式で算出した。
結果を
図11に示す。8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌では、陰性対照のVehicleと比較して、90%の腫瘍増殖抑制効果がみられた。一方、抗EGFR一本鎖抗体PMP8C7を含まない陰性対照Toxin controlを発現する組換えビフィズス菌では、ほとんど腫瘍増殖抑制効果がみられなかった。これらの結果は、実施例6と同様に、in vivoにおいて、組換えビフィズス菌から分泌された8C7 toxinが抗EGFR一本鎖抗体部分を介してA431細胞表面のEGFR受容体と結合し、緑膿菌外毒素A部分によって殺細胞効果を発揮したことを示唆している。今回得られた抗腫瘍効果は、膵臓癌の治療で使用される代謝拮抗薬ゲムシタビン、及びEGFRを標的とするモノクローナル抗体セツキシマブの併用効果(Clin Cancer Res.2008;14:5142−5149)よりも腫瘍増殖抑制効果が強く、腫瘍増殖抑制効果としては十分であることが明らかとなった。
(2)BxPC−3細胞のXenograft modelにおける組換えビフィズス菌投与時の体重変化
(1)の組換えビフィズス菌を投与したヌードマウスにおいて、組換えビフィズス菌の静脈内投与日(Day 0)基準値として投与後15日目(Day 15)、22日目(Day 22)、27日目(Day 27)、32日目(Day 32)及び37日目(Day 37)に体重を計測した。各群はn=5で実施した。
結果を表2に示す。
【表2】
BxPC−3細胞においても、Vehicle、Toxin control群と比較して8C7 Toxinを発現する組換えビフィズス菌の静脈内投与による大きな体重減少は検出されなかった。
<実施例8:8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与した場合の抗腫瘍効果(3)>
PC−9細胞(ヒト非小細胞肺がん由来細胞、免疫生物研究所、藤岡市、日本より入手)のXenograft modelに、8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与した場合の抗腫瘍効果について検証した。
(1)PC−9細胞のXenograft modelにおける組換えビフィズス菌の抗腫瘍効果の測定
6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、1.7×10
6のPC−9細胞を皮下移植し、8日後に各群(Vehicle、8C7 toxin、Toxin control;n=5)を約95mm
3になるように群分けした後、実施例4(1)で調製した8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌及び実施例6(1)で調製したToxin controlを発現する組換えビフィズス菌を1.5×10
9個で静脈内に投与した。陰性対照(Vehicle)には、組換えビフィズス菌を静脈内に投与していないヌードマウスを使用した。体内の組換えビフィズス菌の栄養補助のために、全マウスに毎日1mLの20%ラクツロース(和光純薬、大阪、日本)を腹腔内に投与した。腫瘍径は、PC−9細胞を皮下移植した日の9日、10日、11日、14日、17日、21日、24日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は、「(短径)
2×(長径)/2」の計算式で算出した。
結果を
図12に示す。8C7 toxinを発現する組換えビフィズス菌では、陰性対照のVehicleと比較して、77%の腫瘍増殖抑制効果がみられた。一方、抗EGFR一本鎖抗体PMP8C7を含まない陰性対照Toxin controlを発現する組換えビフィズス菌では、ほとんど腫瘍増殖抑制効果がみられなかった。これらの結果は、実施例6、7と同様に、in vivoにおいて、組換えビフィズス菌から分泌された8C7 toxinが抗EGFR一本鎖抗体部分を介してA431細胞表面のEGFR受容体と結合し、緑膿菌外毒素A部分によって殺細胞効果を発揮したことを示唆している。
<実施例9:8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を経口投与した場合の腸管免疫応答の誘導>
8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を経口投与した場合の腸管免疫応答の誘導について検証した
(1)陰性対照となるpKKT427含有組換えビフィズス菌の構築と8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌の経口投与
陰性対照となるpKKT427含有組換えビフィズス菌は、pKKT427をそのままB.ロンガム105−Aにエレクトロポレーション法を用いて導入して調製した。エレクトロポレーションの条件は、2.4kV/cm、25μF、200Ωの条件で行った。得られた組換えビフィズス菌と実施例5(1)で調製した8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を生理食塩水に再懸濁してマウス投与液を調製し、6週齢の雌のBALB/cCrSlcマウス(日本エスエルシー、浜松、日本)の各群(pKKT427、8C7 toxin;n=4)に6.0×10
9個の組換えビフィズス菌を経口投与した。腸管内の組換えビフィズス菌の栄養補助のために、全マウスに毎日0.2mLの20%ラクツロースを2週間経口投与した。組換えビフィズス菌を経口投与した日の31日後に糞を回収して、20%(w/v)になるように氷冷したcomplete mini(ロシュ・ダイアグノスティックス、バーゼル、スイス)入りPBSで懸濁し、遠心分離後、上清を0.22μmfilterでろ過したものを試料とした。腸管免疫応答の誘導は、試料中のEGFPに対する糞中の抗体価をELISA法により測定した。ELISA法は96穴プレート上で行い、抗原は実施例2(2)で調製したリコンビナント8C7 EGFP(16μg)を用いて、室温で1時間以上Superblock blocking TBS(Thermo Fisher Scientific、Waltham、USA)でブロッキング後、3回TBS−Tで洗浄後、Superblock blocking TBSで2倍希釈した試料を50μL添加した。室温で2時間インキュベートした後、3回TBS−Tで洗浄した。10000倍希釈したGoat polyclonal secondary antibody to mouse IgG+IgM+IgA−H&L HRP(abcam、Cambridge、UK)50μLを加えて、37℃にて1時間インキュベートした後、TBS−Tで3回洗浄した。TMB溶液(和光純薬、大阪、日本)を50μL添加して、室温で2時間インキュベート後、発色停止液である硫酸を50μL添加し、吸光光度計でOD
450の値を測定した。
結果を
図13に示す。8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌群で糞中の抗EGFP抗体産生量が有意(t検定、p=0.0047)に増加していた。これは8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を経口投与することで腸管免疫応答が誘導されたことを示唆している。
<実施例10:8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与したときの血中における自己抗体の非産生の確認>
8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与した場合に血中に抗8C7 EGFP抗体が誘導されないことを確認した。
(1)colon26細胞のXenograft modelの構築と組換えビフィズス菌の静脈内投与
6週齢の雌のBALB/cCrSlcマウス(日本エスエルシー、浜松、日本)15匹にcolon26細胞(マウス直腸癌由来細胞、理化学研究所バイオリソースセンター、つくば市、日本より入手)を1.0×10
6個で皮下移植し、7日後に平均133mm
3になるように3群(8C7 EGFP;n=8、8C7 EGFP(ビフィズス菌回収用);n=3、無処置群用;n=4)に群分けした後、8C7 EGFP群及び8C7 EGFP(ビフィズス菌回収)群のそれぞれに8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を1.0×10
8個で静脈内に投与した。8C7 EGFP(ビフィズス菌回収)群は、colon26細胞を皮下移植したマウスに8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を投与した後、その組換えビフィズス菌の腫瘍蓄積性を確認するために次の(2)で使用するマウス群であって、実質的には8C7 EGFP群と同じ処理を行っている。
(2)colon26細胞での組換えビフィズス菌の腫瘍蓄積性
8C7 EGFP(ビフィズス菌回収)群では、皮下移植の18日後に腫瘍を摘出して、1mLのMRS培地中でホモジナイズした後、100μg/mLのスペクチノマイシンを含むMRS寒天培地に塗布した。続いて、容器又は袋内に脱酸素剤であるアネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、東京、日本)を入れてビフィズス菌が増殖可能な程度の低酸素状態にした嫌気環境下で37℃にて2日間培養した。MRS選択寒天培地上に出現したコロニーを計測したところ、平均4.3×10
6個/匹のビフィズス菌を得た。この結果からマウス静脈内に投与された8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌が、腫瘍に生存状態で蓄積することが確認された。
(3)血清中の抗8C7 EGFP抗体の非誘導性の確認
皮下移植の28日、35日後に8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌群と無処置群のそれぞれから採取した血液より血清を調製した。免疫応答の誘導の有無を調べるために、EGFPに対する血清中の抗体価をELISA法により測定した。ELISA法は96穴プレート上で行い、抗原は実施例2(2)で調製したリコンビナント8C7 EGFP(16μg)を用いた。室温で1時間以上Superblock blocking TBSでブロッキング後、TBS−Tで3回洗浄し、Superblock blocking TBSで2000倍希釈した血清を50μL添加した。陰性対照として3mg/mLのNormal Mouse IgG(Invitrogen、Carlsbad、USA)をSuperblock blocking TBSで15000倍希釈して使用した。陽性対照として1mg/mLの抗EGFP抗体(Clontech、Mountain View、USA)をSuperblock blocking TBSで5000倍希釈して使用した。室温で2時間インキュベートし、TBS−Tで3回洗浄後、10000倍希釈したGoat polyclonal secondary antibody to mouse IgG+IgM+IgA−H&L HRPの50μLを加えて、37℃で1時間インキュベートした。TBS−Tで3回洗浄後、TMB溶液を50μL添加した。室温で2時間インキュベート後、発色停止液である硫酸を50μL添加し、吸光光度計でOD
450の値を測定した。
結果を
図14に示す。8C7 EGFP投与群は、無処置群、及び陰性対照のnIgGと比較して血清中の抗EGFP抗体量が優位に増加しなかった。これはcolon26細胞のXenograft modelにおいて8C7 EGFPを発現する組換えビフィズス菌を静脈内投与しても血中に抗8C7EGFP抗体が誘導されないことを示している。臨床試験においてイムノトキシンを静脈内に投与した場合、自己抗体の産生が治療上の問題となる(James A.Posey,Mohammad B.Khazaeli,Michael A.Bookman,et al、2002、Clin Cancer Res,8:3092−3099)が、この結果から本治療法では自己抗体の産生が問題とならないことが立証された。