特許第6025172号(P6025172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025172
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】スプライン伸縮軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/06 20060101AFI20161107BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20161107BHJP
【FI】
   F16D3/06 E
   F16D3/06 Z
   F16D1/02 210
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-11851(P2013-11851)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-142035(P2014-142035A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】光洋機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 尚人
(72)【発明者】
【氏名】東 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 昌二
(72)【発明者】
【氏名】井上 聖準
(72)【発明者】
【氏名】小倉 良延
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−197838(JP,A)
【文献】 特開2003−278738(JP,A)
【文献】 特開2011−252581(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0130306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/06
F16D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
何れか一方のスプラインに樹脂被膜が設けられた内軸製造用中間体および外軸製造用中間体を軸方向に摺動させる摺動工程を含む、スプライン伸縮軸の製造方法であって、
前記摺動工程では、両製造用中間体の摺動荷重が検出され、検出された摺動荷重が摺動開始時に検出された初期摺動荷重に基づいて決定される閾値荷重に達した時点で摺動を終了するスプライン伸縮軸の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記閾値荷重をW1とし、前記初期摺動荷重をW0としたときに、閾値荷重W1が初期摺動荷重W0をパラメータとする単調増加関数を用いて求められるスプライン伸縮軸の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記閾値荷重W1が、A,Bを定数とし、初期摺動荷重W0をパラメータとする下記の一次関数式を用いて求められるスプライン伸縮軸の製造方法。
W1=A・W0+B
【請求項4】
請求項3において、前記定数Bが、前記摺動工程での両製造用中間体の摺動ストロークLの大小に応じて増減されるスプライン伸縮軸の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記定数Bが摺動ストロークLに比例するスプライン伸縮軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスプライン伸縮軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、第1樹脂被膜が形成された雄スプラインを有する内軸製造用中間体と、雌スプラインが形成された外軸製造用中間体とを一定の条件で軸方向に強制的に往復摺動させて、第1樹脂被膜の樹脂材料の一部を外軸製造用中間体の雌スプラインに転写して第2樹脂被膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−38561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば車両の操舵軸や中間軸に用いられるスプライン伸縮軸に要求される性能として、軸方向の摺動荷重が所定値以下であること、および回転方向の遊び(ガタ)が所定量以下であることがある。
通例、摺動荷重を小さくし過ぎると、回転方向のガタが大きくなり、逆に、回転方向のガタを小さくし過ぎると、摺動荷重が大きくなる傾向にある。すなわち、両性能を両立することが困難である。
【0005】
特許文献1の摺動工程を、一定の条件(例えば摺動工程において、摺動荷重が一定の荷重に達した時点で摺動工程を終了するという条件)で行うとすると、スプライン伸縮軸を大量生産した場合に、スプラインの歯形の不良に起因して、両性能(摺動荷重およびガタ)の何れかが不良になって不良率が高くなるおそれがある。
そこで、本発明の目的は、不良率の低いスプライン伸縮軸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、何れか一方のスプライン(4または5)に樹脂被膜が設けられた内軸製造用中間体(20)および外軸製造用中間体(30)を軸方向(X1)に摺動させる摺動工程を含む、スプライン伸縮軸(1)の製造方法であって、前記摺動工程では、両製造用中間体の摺動荷重(W)が検出され、検出された摺動荷重が摺動開始時に検出された初期摺動荷重(W0)に基づいて決定される閾値荷重(W1)に達した時点で摺動を終了するスプライン伸縮軸の製造方法を提供する。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記閾値荷重をW1とし、前記初期摺動荷重をW0としたときに、閾値荷重W1が初期摺動荷重W0をパラメータとする単調増加関数を用いて求められてもよい。
【0008】
また、請求項3のように、前記閾値荷重W1が、A,Bを定数とし、初期摺動荷重W0をパラメータとする下記の一次関数式を用いて求められてもよい。
W1=A・W0+B
また、請求項4のように、前記定数Bが、前記摺動工程での両製造用中間体の摺動ストロークLの大小に応じて増減されてもよい。
【0009】
また、請求項5のように、前記定数Bが摺動ストロークLに比例してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本願発明者は、鋭意研究の結果、下記の知見を得た。すなわち、摺動工程において摺動開始時の初期摺動荷重が大きい場合と小さい場合とを比較すると、初期摺動荷重が大きい前者の場合、摺動により発生する摩擦熱が大きいので、検出された摺動荷重が相対的に高い閾値荷重まで低下した時点で摺動を終了しても、両スプラインの歯形を良好に形成するために必要な熱量(エネルギ量)を得ることができる。逆に、初期摺動荷重が小さい後者の場合には、摺動により発生する摩擦熱が小さいので、検出された摺動荷重が相対的に低い閾値荷重まで低下する時点まで、摺動工程を相対的に長く継続して初めて、両スプラインの歯形を良好に形成するために必要な熱量(エネルギ量)を得ることができる。
【0011】
かかる知見に鑑み、請求項1の発明によれば、両製造用中間体の摺動荷重を検出し、検出された摺動荷重が摺動開始時に検出された初期摺動荷重に基づいて決定される閾値荷重に達した時点で摺動を終了する。したがって、両製造用中間体の個体のばらつきに拘らず、両スプラインの歯形を現品合わせで良好になじませることができ、その結果、摺動荷重が低く且つガタの少ないスプライン伸縮軸を実現することができる。
【0012】
具体的には、請求項2の発明のように、閾値荷重W1を初期摺動荷重W0とする単調増加関数とすることで、初期摺動荷重W0が相対的に大きいときには、閾値荷重W1を相対的に大きくし、初期摺動荷重W0が相対的に小さいときには、閾値荷重W1を相対的に小さくすることができる。
また、請求項3の発明のように、A,Bを定数として、一次関数式W1=A・W0+Bを用いることで、閾値荷重W1と初期摺動荷重W0とに線形性を持たせることができるので、個体毎に適した摺動工程を実現することができる。
【0013】
また、請求項4の発明によれば、定数Bを両製造用中間体の摺動ストロークLの大小に応じて増減するので、個体毎に適した摺動工程を実現することができる。すなわち、摺動ストロークが相対的に長い個体では、発生する摩擦熱が相対的に大きくなるので、検出された摺動荷重が相対的に高い閾値荷重に達した時点で摺動を終了しても、両スプラインの歯形を良好に形成するために必要な熱量(エネルギ量)を得ることができる。逆に、摺動ストロークが相対的に短い個体では、発生する摩擦熱が相対的に小さいので、検出された摺動荷重が相対的に低い閾値荷重になるまで、摺動工程を相対的に長く継続して初めて、両スプラインの歯形を良好に形成するために必要な熱量(エネルギ量)を得ることができる。
【0014】
請求項5の発明によれば、摺動ストロークLの個体において定数Bが既知である場合に、摺動ストロークL1の個体における定数B1は、比例式B1=(L1/L)・Bを用いた演算により求めることができる。未だ実験的に求められていない未知の定数B1を予測することができるので、個体毎に適した摺動工程を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の製造方法により製造されたスプライン伸縮軸の部分断面側面図である。
図2】スプライン伸縮軸の要部の断面図である。
図3A】樹脂被膜で被覆された内軸製造用中間体の概略断面図である。
図3B】外軸製造用中間体の概略断面図である。
図4】摺動工程で用いる加振装置の概略図である。
図5】加振装置の動作を制御する制御フローである。
図6】初期摺動荷重W0と摺動工程を終了する閾値荷重W1との関係を示すグラフ図である。
図7】摺動工程における摺動荷重の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態に製造方法により製造されたスプライン伸縮軸1の部分断面側面図である。スプライン伸縮軸1は、例えば、ステアリングシャフト(図示せず)とラックアンドピニオン機構のピニオン軸(図示せず)との間に介在するインターミディエイトシャフト(中間軸)として用いられる場合がある。また、スプライン伸縮軸1は、衝撃吸収時に収縮するステアリングシャフトとして用いてもよい。
【0017】
スプライン伸縮軸1は、互いに嵌合した内軸2と筒状の外軸3とを備えている。内軸2と外軸3とは、軸方向X1に沿って摺動可能に且つトルク伝達可能にスプライン嵌合している。
内軸2の外周2aには、複数の雄スプライン4が設けられ、外軸3の内周3aには、雄スプライン4に交互に噛み合う複数の雌スプライン5が設けられている。図1において、両スプライン4,5は模式的に示されている。
【0018】
スプライン伸縮軸1がインターミディエイトシャフトを構成する場合、図1に示すように、内軸2の一端には、自在継手6の一方のヨーク6aが一体に取り付けられている。また、外軸3の一端には、自在継手7の一方のヨーク7aが一体に取り付けられている。
図2に示すように、雄スプライン4の表面には、樹脂被膜40が形成されている。樹脂被膜40は、合成樹脂を用いて形成されている。この合成樹脂として、ポリアミド、ポリアセタールなどの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を例示できる。
【0019】
図3Aに示すように雄スプライン4の表面に樹脂被膜41が形成された内軸製造用中間体20と、図3Bに示すように雌スプライン5を有する、金属のみで構成された外軸製造用中間体30とを、負の嵌合隙間で嵌合する。すなわち、内軸製造用中間体20を外軸製造用中間体30に圧入する。
その後、両製造用中間体20,30を図4に示す加振装置70に取り付けて、内軸製造用中間体20と外軸製造用中間体30とを、軸方向X1に強制的に摺動させる摺動工程を経て、成形された樹脂被膜40を得る。両製造用中間体20,30を強制的に摺動させるときに、両製造用中間体20,30の間に、ねじりトルクを負荷してもよいし負荷しなくてもよい。
【0020】
摺動工程に用いる加振装置70は、固定フレーム71と、固定フレーム71の一端に固定された加振アクチュエータ72(例えば油圧シンリダ)と、加振アクチュエータ72から伸縮する伸縮ロッド73と、伸縮ロッド73の先端に取り付けられた第1取付ブラケット74と、固定フレーム71の他端に荷重センサ75を介して固定された第2取付ブラケット76とを備えている。
【0021】
加振アクチュエータ72には、油圧ポンプ77および油圧タンク78に接続された油圧機構79を介して作動油が供給され、これにより、伸縮ロッド73が伸縮される。
例えば外軸製造用中間体30の一端を、加振アクチュエータ72の伸縮ロッド73の一端の第1取付ブラケット74に取り付け、内軸製造用中間体20の一端を荷重センサ75に固定された第2取付ブラケット76に固定する。
【0022】
加振アクチュエータ72には、伸縮ロッド73のストローク位置を検出する位置センサ80が設けられている。荷重センサ75および位置センサ80の検出信号は、制御装置81に与えられる。制御装置81は、位置センサ80による位置情報並びにこれを微分して得られた速度情報に基づいて、油圧機構79に制御信号を出力し、伸縮ロッド73を所定のストロークと所定の速度で伸縮運動させる。
【0023】
また、制御装置81は、荷重センサ75の検出信号を入力し、加振サイクル毎のピーク値に基づいて摺動荷重Wを検出し、その摺動荷重Wが所定の条件を満たした時点で、加振アクチュエータ72による摺動工程を終了する。
具体的には、図5のフローチャートに示すように、システムの起動とともに、ステップS1において、各パラメータをイニシャライズした後、ステップS2において、加振アクチュエータ72を駆動して摺動を開始する。
【0024】
ステップS3において、摺動の開始直後に荷重センサ75によって検出された摺動荷重Wを読み込み、ステップS4において、読み込んだ摺動荷重Wを初期摺動荷重W0として記憶する。
次いで、ステップS5において、初期摺動荷重W0に基づいて、下記の一次関数式(1)を用いて、閾値荷重W1(KN)を演算する。
【0025】
W1=A・W0+B …(1)
次いで、ステップS6において、摺動荷重Wが閾値荷重W1より大きいか否かを判定する。摺動荷重Wが閾値荷重W1より大きい場合(ステップS6においてYESの場合)には、ステップS7に進んで摺動荷重Wを読み込む。
ステップS7において検出された摺動荷重Wが閾値荷重W1以下(W≦W1)になるまで、ステップS6,S7の処理を繰り返し、検出された摺動荷重Wが閾値荷重W1以下になった場合(ステップS6においてNOの場合)に、ステップS8に進んで摺動を停止し、処理を終了する。
【0026】
摺動工程では、外部からの加熱を用いることなく、内軸製造用中間体20と外軸製造用中間体30との摺動による摩擦熱のみによって、両軸2,3の歯形が成形される。すなわち、内軸製造用中間体20の樹脂被膜41の樹脂材料の一部が、外軸製造用中間体30の雌スプライン5の摺動領域と共ずりされる。これにより、樹脂被覆41が樹脂被膜40となり、内軸2が完成する。また、外軸製造用中間体30の雌スプラインの歯形が、前記共ずりにより成形されて外軸3が完成する。
【0027】
本実施形態によれば、両製造用中間体20,30の摺動荷重Wを検出し、検出された摺動荷重Wが摺動開始時に検出された初期摺動荷重W0に基づいて決定される閾値荷重W1に達した時点で摺動を終了する。したがって、両製造用中間体20,30の個体のばらつきに拘らず、両スプライン4,5の歯形を現品合わせで良好になじませることができ、その結果、完成後において、摺動荷重が低く且つガタの少ないスプライン伸縮軸1を不良率の少ない状態で実現することができる。
【0028】
摺動工程を終了する閾値荷重W1を初期摺動荷重W0に基づいて決定する理由は下記である。すなわち、一般に2つの物体を接触させて摺動させたときに発生する単位面積、単位時間当たりの熱量は、2つの物体の接触面間の摩擦係数、接触面間の面圧、およびすべり速度の積に比例する。これを本実施形態に当てはめると、摺動なじみにより発生する単位面積、単位時間当たりの発熱量は、摺動荷重(前記の摩擦係数と面圧との積に相当)と摺動速度との積に比例すると考えられる。ここで、本願発明者らが得た知見によると、図7のように、摺動時間とともに摺動荷重が低下していくことが判った。例えば、初期摺動荷重WOBで摺動開始から摺動時間tが経過するまでに発生した熱量の合計は、図7の斜線の領域の面積に比例すると考えられる。
【0029】
このことにより、摺動工程において摺動開始時の初期摺動荷重W0が大きい場合と小さい場合とを比較すると、初期摺動荷重が図7に実線で示すようにW0Bと大きい前者の場合、摺動により発生する摩擦熱が大きいので、検出された摺動荷重Wが相対的に高い閾値荷重W1Bまで低下した時点で摺動を終了しても、両スプライン4,5の歯形を良好に形成するための熱量(エネルギ量)を得ることができる。
【0030】
逆に、初期摺動荷重が図7に一点鎖線で示すようにW0Sと小さい後者の場合には、摺動により発生する摩擦熱が小さいので、検出された摺動荷重Wが相対的に低い閾値荷重W1Sまで低下する時点まで、摺動工程を長く継続しなければ、両スプライン4,5の歯形を良好に形成するための熱量(エネルギ量)を得ることができない。
また、A,Bを定数として、初期摺動荷重W0から、一次関数式W1=A・W0+Bを用いて、閾値荷重W1を求めることで、閾値荷重W1と初期摺動荷重W0とに線形性を持たせることができるので、個体毎に適した摺動工程を実現することができる。
【0031】
また、一次関数式(1)において、定数Bが、摺動工程での両製造用中間体20,30の摺動ストロークLの大小に応じて増減されてもよい。すなわち、摺動ストロークLが相対的に長い個体では、発生する摩擦熱が相対的に大きくなるので、検出された摺動荷重Wが相対的に高い閾値荷重W1に達した時点で摺動を終了しても、両スプライン4,5の歯形を良好に形成するために必要な熱量(エネルギ量)を得ることができる。
【0032】
逆に、摺動ストロークLが相対的に短い個体では、発生する摩擦熱が相対的に小さいので、検出された摺動荷重Wが相対的に低い閾値荷重W1になるまで、摺動工程を相対的に長く継続して初めて、両スプライン4,5の歯形を良好に形成するために必要な熱量(エネルギ量)を得ることができる。
より具体的には、一次関数式(1)において、定数Bが摺動ストロークLに比例してもよい。すなわち、摺動ストロークLの個体において好ましい定数Bが既知である場合に、摺動ストロークL1である未知の個体において好ましい定数B1は、下記の比例式(2)を用いて演算することにより求められる。
【0033】
B1=(L1/L)・B …(2)
比例式(2)を用いることで、未だ実験的に求められていない未知の定数B1を予測することができるので、個体毎に適した摺動工程を容易に実現することができる。
本実施形態では、一次関数式(1)を用いて閾値荷重W1を求めたが、一次関数式に限らず、閾値荷重W1を初期摺動荷重W0とする単調増加関数(例えば二次関数W1=C・W02 +D・W0+E:ただし、C,D,Eは定数)を用いて求めてもよい。これにより、初期摺動荷重W0が相対的に大きいときには、閾値荷重W1を相対的に大きくし、また、初期摺動荷重W0が相対的に小さいときには、閾値荷重W1を相対的に小さくすることができる。
【0034】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば前記実施形態では、内軸製造用中間体20に樹脂被膜41を設けているが、これに代えて、外軸製造用中間体に樹脂被膜を設けておいてもよい。その他、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0035】
1…スプライン伸縮軸、2…内軸、2a…外周、3…外軸、3a…内周、4…雄スプライン、5…雌スプライン、20…内軸製造用中間体、30…外軸製造用中間体、40…樹脂被膜、41…樹脂被膜、70…加振装置、72…加振アクチュエータ、73…伸縮ロッド、75…荷重センサ、81…制御装置、A,B…定数、L,L1…摺動ストローク、W…摺動荷重、W0,W0B,W0S…初期摺動荷重、W1,W1B,W1S…閾値荷重、X1…軸方向
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7