(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
図1および
図2は本発明の実施例1として車両の油圧パワーステアリング装置に適用される可変容量形ベーンポンプを示す図であって、
図1はその軸方向断面図、
図2は
図1のA−A断面図である。
図1,2に示すように、可変容量形ベーンポンプ1は、フロントボディ2とリアボディ3を突き合わせてなるポンプボディ4内の収容空間4aにポンプ要素5を収容し、収容空間4aを挿通する駆動軸6によってポンプ要素5を回転駆動することでポンプ作用を行う。
【0009】
ポンプ要素5は、駆動軸6に連結され、その駆動軸6によって回転駆動されるロータ7と、そのロータ7の外周側に、当該ロータ7に対する偏心量が変化する方向で揺動自在に設けられた略円環状のカムリング8と、そのカムリング8を内周側に収容し、収容空間4aの外周円筒面に嵌着された略円環状のアダプタリング9と、収容空間4aのうちフロントボディ2の内底面2aに配置された略円盤状のプレッシャプレート10と、から主として構成されている。
【0010】
アダプタリング9およびプレッシャプレート10は、位置決めピン11によってポンプボディ4に対して回転方向でそれぞれ位置決められている。また、位置決めピン11の
図2中時計回り方向側、すなわち後述する第1流体圧室14a側には、カムリング8の揺動支点として機能するとともに、カムリング8とアダプタリング9との間をシールするシール部材としても機能する板部材12が設けられている。
【0011】
さらに、アダプタリング9の内周面のうち径方向で板部材12と対向する位置に当該アダプタリング9とカムリング8との間をシールするシール部材13が設けられている。このシール部材13と板部材12とをもってカムリング8とアダプタリング9との間に一対の流体圧室14a,14bが隔成されている。つまり、カムリング8の径方向両側に第1流体圧室14aおよび第2流体圧室14bがそれぞれ形成され、それら両流体圧室14a,14b間の圧力差によってカムリング8が揺動することで、カムリング8のロータ7に対する偏心量が増減するようになっている。なお、カムリング8は、リターンスプリング15によってロータ7との偏心量が最大となる方向に常時付勢されている。
【0012】
ロータ7の外周部には、径方向に沿って切欠形成されたスロット7aが周方向で等ピッチに複数設けられている。各スロット7aには、略平板状のベーン16がロータ7の径方向で出没自在にそれぞれ収容され、これら各ベーン16をもってカムリング8とロータ7との間の環状の空間を周方向で仕切ることにより、複数のポンプ室17が形成されている。そして、ロータ7を駆動軸6によって
図2中反時計回り方向に回転駆動することにより、各ポンプ室17がその容積を増減させながらそれぞれ周回移動してポンプ作動が行われることとなる。なお、各ベーン16は、各スロット7aの内周側に形成された背圧室7bに導入される作動油の圧力により、カムリング8の内周面に押し付けられるようになっている。
【0013】
リアボディ3のうち収容空間4aに臨む内側面3aには、ロータ7の回転に伴い各ポンプ室17の容積が漸次拡大する吸入領域に該当する部分に、周方向に沿う正面視略三日月状の第1吸入ポート18が切欠形成されている。そして、この第1吸入ポート18は、リアボディ3に穿設された吸入通路19aに連通している。これにより、図示外のリザーバタンクに接続される吸入パイプ20を介して吸入通路19a内に導入された作動油が、上記吸入領域におけるポンプ吸入作用によって各ポンプ室17に吸入される。
【0014】
また、プレッシャプレート10のうちロータ7と対向する面には、第1吸入ポート18と対向する位置に、その第1吸入ポート18と略同形状の第2吸入ポート21が切欠形成されている。そして、この第2吸入ポート21は、フロントボディ2に形成された還流通路22に連通している。この還流通路22は、フロントボディ2のうち駆動軸6との間をシールするシール部材が収容された凹部に連通していて、上記シール部材の余剰油が、上記吸入領域におけるポンプ吸入作用によって各ポンプ室17へ供給されることにより、上記余剰油の外部への漏出が防止される。
【0015】
さらに、プレッシャプレート10のうちロータ7と対向する面には、ロータ7の回転に伴って各ポンプ室17の容積が漸次縮小する吐出領域に該当する部分に、周方向に沿う正面視略三日月状の第1吐出ポート23が切欠形成されている。そして、この第1吐出ポート23は、フロントボディ2のうちプレッシャプレート10に対向する内底面2aに凹設された圧力室24を介して吐出通路19bに連通している。これにより、上記吐出領域におけるポンプ吐出作用によって各ポンプ室17から吐出された作動油が、圧力室24および吐出通路19bを通じてポンプボディ4外へ吐出され、図示外のパワーステアリング装置の油圧パワーシリンダに送られることになる。なお、プレッシャプレート10は、圧力室24内の圧力をもってロータ7側へ押圧されている。
【0016】
また、リアボディ3の内側面3aのうち第1吐出ポート23と対向する位置に、その第1吐出ポート23と略同形状の第2吐出ポート25が切欠形成されている。このように第1,第2吸入ポート18,21および第1,第2吐出ポート23,25をそれぞれ各ポンプ室17を挟んで軸方向に対称となるように設けることで、上記各ポンプ室17の軸方向両側の圧力バランスが保たれている。
【0017】
また、フロントボディ2のうち上端側の内部には、ポンプ吐出圧を制御する圧力制御手段たるコントロールバルブ26が、駆動軸6と直交する方向(
図2の左右方向)に設けられている。このコントロールバルブ26は、フロントボディ2に
図2中左側から右側に向けて穿設され、
図2中左側の開口部をプラグ27によって閉塞した弁孔28と、その弁孔28内に軸方向で摺動自在に収容された略有底円筒状のスプール29と、そのスプール29をプラグ27側に向けて付勢するコントロールバルブスプリング30と、を備えている。
【0018】
弁孔28内には、プラグ27とスプール29との間に形成され、吐出通路19bに形成された図示外のメータリングオリフィスの上流側の油圧、つまり圧力室24の油圧が導入される高圧室28aと、コントロールバルブスプリング30を収容し、上記メータリングオリフィスの下流側の油圧が導入される中圧室28bと、スプール29の外周側に形成され、低圧通路31を介して吸入通路19aからポンプ吸入圧が導入される低圧室28cと、がそれぞれスプール29によって隔成されている。そして、中圧室28bと高圧室28aの圧力差に基づいてスプール29が軸方向に移動することになる。
【0019】
具体的には、中圧室28bと高圧室28aとの圧力差が比較的小さく、スプール29がプラグ27側に位置するときには、第1流体圧室14aと弁孔28とを連通する連通路32が低圧室28cに開口し、その低圧室28cの比較的低い油圧が第1流体圧室14aに導入される。一方で、中圧室28bと高圧室28aとの圧力差が増大し、スプール29がコントロールバルブスプリング30の付勢力に抗して軸方向に移動すると、低圧室28cと第1流体圧室14aとの連通が漸次遮断され、高圧室28aが連通路32を介して第1流体圧室14aに連通することになる。これにより、高圧室28aの比較的高い油圧が第1流体圧室14aに導入される。つまり、第1流体圧室14aには、低圧室28cまたは高圧室28aの油圧が選択的に導入される。
【0020】
そして、第2流体圧室14bにはポンプ吸入圧が常時導入されるようになっており、第1流体圧室14aに低圧室28cの油圧が導入されているときには、リターンスプリング15の付勢力をもってロータ7との偏心量が最大となる位置(
図2中左側の位置)にカムリング8が位置し、ポンプ吐出量が最大となる。一方、第1流体圧室14aに高圧室28aの油圧が導入されると、その第1流体圧室14aの圧力により、カムリング8がリターンスプリング15の付勢力に抗して第2流体圧室14bの容積を狭めるように揺動し、当該カムリング8とロータ7との偏心量が減少してポンプ吐出量が減少することとなる。
【0021】
さらに、スプール29の内部にはリリーフバルブ33が形成されている。このリリーフバルブ33は、中圧室28bの圧力が所定以上になったとき、つまりパワーステアリング装置側(負荷側)の圧力が所定以上になったときにリリーフ動作し、低圧室28cおよび低圧通路31を介して吸入通路19aに作動油を還流させるようになっている。換言すれば、吐出通路19bと吸入通路19aとの間の油通路をリリーフバルブ33によって開閉するようになっている。
【0022】
図3はリリーフバルブ33の詳細を示す拡大図である。リリーフバルブ33は、スプール29の内周側に形成された略円筒形状のバルブ孔34と、そのバルブ孔34と低圧室28cとを連通するようにスプール29に穿設されたリリーフ孔29aと、バルブ孔34内に配置された球状の弁体たるボール35と、バルブ孔34のうちボール35を挟んで軸方向一方側に嵌着固定されたバルブシート部材36と、バルブ孔34のうちボール35を挟んで他方側に圧縮変形した状態で設けられたコイルスプリングであるリリーフバルブスプリング37と、ボール35とリリーフバルブスプリング37との間に設けられ、リリーフバルブスプリング37の圧縮変形に基づく復元力をもってボール35をバルブシート部材36側に向けて付勢する弁体保持部材たるリテーナ38と、を備えている。
【0023】
リテーナ38は、リリーフバルブスプリング37の内周側に挿入されたスプリング係合部たる軸部39と、その軸部39のうちバルブシート部材36側の端部に拡径状に形成され、リリーフバルブスプリング37のうちバルブシート部材36側の第2座巻部37bに着座する弁体保持部たるボール保持部40と、を備えている。
【0024】
軸部39は、ボール保持部40側に向かって漸次拡径するテーパ状に形成されていて、その軸部39のうちボール保持部40に対する根元部の外周面とリリーフバルブスプリング37の第2座巻部37bとの当接により、その第2座巻部37bとリテーナ38との径方向における相対変位を規制するようになっている。
【0025】
ボール保持部40は、当該ボール保持部40のうち反軸部39側の端面に凹設された弁体保持凹部としてのボール保持凹部41にボール35を保持している一方、当該ボール保持部40と軸部39との間の段状部42がリリーフバルブスプリング37の第2座巻部37bに着座している。ボール保持凹部41は、リテーナ38の軸心A2を中心として回転対称な略偏平すり鉢状に形成され、当該ボール保持凹部41にボール35が着座することにより、そのボール35とリテーナ38との径方向における相対変位が規制され、当該ボール35の中心Cがリテーナ38の軸心A2上に位置するようになっている。
【0026】
一方、バルブ孔34の底部には円形状に凹んだスプリング着座部43が形成されている。このスプリング着座部43は、その軸心がバルブ孔34の軸心A1と一致するように形成されていて、当該スプリング着座部43にリリーフバルブスプリング37のうち反バルブシート部材36側の第1座巻部37aが着座することで、その第1座巻部37aの軸心とバルブ孔34の軸心A1とが一致するように形成されている。
【0027】
バルブシート部材36は、バルブ孔34の軸心A1に沿って形成され、中圧室28bを介して吐出通路19bに連通しバルブ孔34の略円形の断面のほぼ中心に位置するように設けられた貫通孔44と、その貫通孔44のうちボール35側であって拡径された開口部44aの端部に形成された環状のシート面45と、を備えている。そして、シート面45にボール35が着座することにより、リリーフバルブ33が閉弁するようになっている。
【0028】
また、シート面45は、リリーフバルブ33の閉弁時、すなわちシート面45にボール35が着座したときに、ボール35の中心Cが、第1座巻部37aおよび貫通孔44と共通したバルブ孔34の軸心A1に対して径方向で所定のオフセット量G3だけオフセットするように形成されている。その結果、リテーナ38のボール保持部40がバルブ孔34の軸心A1に対して径方向でオフセットし、当該リテーナ38の軸心A2がバルブ孔34の軸心A1に対して角度θ1だけ傾斜している。
【0029】
図4,5はシート面45の詳細を示す拡大図であって、そのうち
図4はバルブシート部材36を軸方向から見た拡大図、
図5はシート面45とボール35との関係を表す拡大断面図である。シート面45は、後述する第1工程により形成される第1シート面45aと、後述する第2工程により形成される第2シート面45bとから構成されている。第1工程では、先端がテーパ凸形状であって、回転中心A2がバルブ孔34の軸心A1に対してオフセット量G3だけオフセットした切削加工用のツールToolが使用され、シート面45に当接させてシート面45上にオフセットした切削面(第1シート面45aを含む)を形成する。
【0030】
次に、第2工程では、ボール35と同径であって、且つその中心がバルブ孔34の軸心A1に対してオフセット量G3だけオフセットした球面を持って形成された円弧凸形状を有するポンチPonchが使用される。ポンチPonchは塑性変形専用工具であり、押圧位置及び押圧方向を任意に設定可能な工具である。そして、第1工程により形成された切削面に対し、ポンチPonchによって、軸心A1に対してG3だけオフセットした位置に、A1と略平行に押圧することで弁座部表面側である切削面を塑性変形させ、ボール35の表面と同様の曲率をもって湾曲する断面円弧状を呈した第2シート面45bを形成する。
【0031】
切削面のうち第2シート面45b以外の部分が第1シート面45aとなる。第2シート面45bは、周方向で幅寸法が漸次変化するように形成され、オフセットした方向に最も幅広の幅広第2シート面45b1が形成され、それと対向する位置に最も幅狭の幅狭第2シート面45b2が形成されている。これにより、リリーフバルブ33の閉弁時にボール34とシート面45とが液密に面接触する。尚、第2シート面45bはボール35が当接する際の円弧凹形状に形成された面であり、円弧凹形状の円弧に沿った仮想円の中心がボール35の中心Cである。
【0032】
以上のように構成した可変容量形ベーンポンプ1では、
図3に示すリリーフバルブ33の閉弁時に、ボール35の中心Cがバルブ孔34の軸心A1に対して幅広第2シート面45b1側にオフセットし、上述したようにリテーナ38の軸心A2がバルブ孔34の軸心A1に対して幅広部45b側を指向するように傾斜することになる。これにより、リリーフバルブスプリング37の付勢力Fがリテーナ38の軸心A2方向に作用し、ボール35がシート面45のうち幅広第2シート面45b1側の部分に強く押し付けられる。言い換えれば、リテーナ38は、付勢力Fの軸方向成分F1によって貫通孔44内の油圧に対抗しつつ、付勢力Fの径方向成分F2によってボール35をシート面45のうち幅広第2シート面45b1側の部分に押し付けることになる。
【0033】
そして、中圧室28bの圧力が上昇し、所定のリリーフ圧を超えると、
図6に示すように、ボール35はシート面45のうち幅広第2シート面45b1側の部分との当接を保ちつつ、シート面45のうち幅狭第2シート部45b2側の部分から離間するように移動し、
図6に矢印で示すように作動油が流れることになる。つまり、リリーフバルブ33の開弁時において、ボール35が、リテーナ38によってバックアップされつつシート面45のうち幅広第2シート面45b1側の部分に当接して安定して支持されるようになり、当該ボール35の振動が抑制される。なお、
図3に示すように、リテーナ38のうちボール保持部40の外周面とバルブ孔34の外周面との間には、リリーフバルブ33開弁時における両者の干渉を防止すべく十分なクリアランスが設けられている。したがって、リリーフバルブ33のリリーフ圧を不安定にすることなく、リリーフバルブ33開弁時におけるボール35の振動を抑制し、リリーフバルブ33開弁時における異音の発生を防止できる。
【0034】
なお、実施例1では、バルブシート部材36のシート面45を、ボール35と同径の球面の一部をもって形成しているが、シート面45を構成する球面とボールとは必ずしも同径である必要はない。また、塑性変形専用工具であるポンチPonchを使用して切削面を塑性変形させ、第2シート面45bを形成したが、例えばボール35を第1シート面45aに載置して加圧することで塑性変形せさてもよい。
【0035】
[実施例1の効果]
以下、実施例1の装置1が奏する効果を列挙する。
(1) 内側のポンプ要素収容部を有するポンプボディ4(ポンプハウジング)と、ポンプボディ4に軸支される駆動軸6と、ポンプ要素収容部内に移動可能に設けられた環状のカムリング8と、駆動軸6に設けられ、カムリング8内に配置され、略径方向に延びる複数のスリットが夫々周方向に配置して形成されたロータ7と、スロット7a(スリット)に進退自在に設けられ、カムリング8及びロータ7と共に複数のポンプ室を形成するベーン16と、ポンプボディ4に設けられ、ロータ7の回転に伴い複数のポンプ室のうち容積が増大する領域に開口する第1吸入ポート18(吸入口)と、ポンプボディ4に設けられ、ロータ7の回転に伴い複数のポンプ室のうち容積が減少する領域に開口する第1吐出ポート23(吐出口)と、ポンプボディ4に設けられ、第1吸入ポート18に連通する吸入通路19aと、ポンプボディ4に設けられ、第1吐出ポート23に連通する吐出通路19bと、ポンプ要素収容部とカムリング8との間に形成される空間であって、カムリング8の偏心量が増大する側にカムリング8が移動するほど容積が減少する側に設けられた第1流体圧室14a及びカムリング8の偏心量が増大する側にカムリング8が移動するほど容積が増大する側に設けられた第2流体圧室14bと、第1流体圧室14aまたは第2流体圧室14bの圧力を制御することにより、カムリング8の偏心量を制御するコントロールバルブ26(制御手段)と、ポンプボディ4に設けられ、断面略円形に形成されたバルブ孔34(リリーフバルブ収容孔)と、バルブ孔34内の長手方向を軸方向としたとき、バルブ孔34の軸方向の一端側に設けられ、外周面がバルブ孔34の内周面形状に沿った円筒形状に形成されたバルブシート部材36(シートバルブ)と、軸方向に貫通するようにバルブシート部材36に設けられた軸方向孔であって、軸方向孔の両端部のうち一端側において吐出通路19bと連通するように形成され、バルブシート部材36の軸方向と直角方向の断面における形成位置が、バルブ孔34の略円形の断面のほぼ中心に位置するように設けられた貫通孔44と、バルブ孔34に設けられ、バルブシート部材36よりも軸方向他端側に配置され、吸入通路19a側へ作動液を排出するリリーフ孔29aと、バルブ孔34内の軸方向他端側に設けられたリリーフバルブスプリング37(コイルスプリング)と、リリーフバルブスプリング37とバルブシート部材36の間に設けられた球状のボール35(弁体)と、ボール35とリリーフバルブスプリング37の間に設けられ、リリーフバルブスプリング37の付勢力をボール35に伝達するリテーナ38と、リテーナ38のボール35側端部に設けられ、ボール35が当接し、ボール35とリテーナ38との径方向相対位置変位を規制するボール保持凹部41(凹部)と、リテーナ38のリリーフバルブスプリング37側端部に設けられ、リリーフバルブスプリング37と係合し、リテーナ38とリリーフバルブスプリング37との径方向相対位置変位を規制する第2座巻部37b(スプリング係合部)と、バルブシート部材36のボール35側端部に形成され、ボール35が当接/離間することにより貫通孔44の連通/遮断を切り替えると共に、ボール35の当接状態においてボール35の位置が安定するようにボール35との当接面が円弧凹形状に形成され、当接面を形成する円弧凹形状の円弧に沿った仮想円の中心Cが貫通孔44に対し径方向一方側に所定量G3オフセットするように配置されたシート面45(弁座部)と、を有する可変容量形ベーンポンプにおいて、シート面45は、仮想円の中心Cが径方向一方側にオフセットするように機械加工のツールを径方向一方側にオフセットさせた状態でバルブシート部材36に当接させバルブシート部材36の他端側を切削する第1工程と、第1工程の後、仮想円に沿った円弧凸形状を有するPonch(ポンチ)によって仮想円の中心Cが径方向一方側にオフセットするようにシート面45表面側を塑性変形させる第2工程と、によって形成される。
【0036】
すなわち、ボール35が径方向にオフセット配置されることにより、開弁時、ボール35は径方向一方側に向かって開きやすくなり、その結果、ボール35がリテーナ38とバルブシート部材36とで挟まれ安定した状態で開弁状態を維持することができるようになる。このように弁座の中心を径方向に所定量オフセットさせるとき、Ponchの塑性変形だけでは所望の形状を得ることができない。一方、機械加工だけでは、弁座が貫通孔44と径方向にオフセットしているため、弁座の形状が楕円形状となり、弁体の当接時において漏れ量が大きくなってしまう。そこで、機械加工によって所望のオフセット量を有する弁座の基本形状である第1シート面45aを形成した後、ポンチPonchによって弁座の表面がボール35の表面に沿った形状となるように塑性変形させることにより、十分オフセットし、かつ、ボール35の表面に沿うことで閉弁時に漏れ量の少ない弁座形状を得ることができる。
【0037】
(2)第2工程では、ボール35を第1シート面45aに載置して加圧することで塑性変形せさてもよい。この場合、ボール35が実際にシート面上で安定したところで塑性変形させることができ、ボール35の安定性が向上する。
(3)第2工程の塑性変形を行う際、ボール35と同径であって、且つその中心がバルブ孔34の軸心A1に対してオフセット量G3だけオフセットした球面を持って形成された円弧凸形状により、第1工程により形成された切削面に対し、シート面表面側である切削面を塑性変形させ、ボール35の表面と同様の曲率をもって湾曲する断面円弧状を呈した第2シート面45bを形成する。
これにより、ボール35が加工代が大きい側に傾いた状態で着座できるため、ボール35の傾き側と反対側から先に油をリリーフすることができ、リリーフ特性を向上できる。
(4)尚、塑性変形させる際、ボール35の直径より大きな直径を有するボールによって塑性変形してもよい。この場合、ボール35と第2シート面45bとが密着しすぎることを回避し、開弁特性の悪化を抑制できる。
【0038】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
図7,8はシート面45の詳細を示す拡大図であって、そのうち
図7はバルブシート部材36を軸方向から見た拡大図、
図8はシート面45とボール35との関係を表す拡大断面図である。シート面45は、後述する第1工程により形成される第1シート面45aと、後述する第2工程により形成される第2シート面45b3とから構成されている。第1工程では、先端がテーパ凸形状であって、回転中心A2がバルブ孔34の軸心A1に対してオフセット量G3だけオフセットした切削加工用のツールToolが使用され、シート面45に当接させてシート面45上にオフセットした切削面(第1シート面45aを含む)を形成する。
【0039】
次に、第2工程では、ボール35と同径であって、且つその中心がバルブ孔34の軸心A1に対して所定角度θ1だけ傾斜した軸線F2上にオフセットした球面を持って形成された円弧凸形状を有するポンチPonchが使用される。ここで、第1工程終了後、かつ、第2工程施工前の開口部44aと第1シート面45aとの境界のうち、最もオフセットした側のポイントをh2とし、それとは反対側のポイントをh1と定義する。このとき、h2とh1とを結ぶ線の垂直二等分線がH2であり、この垂直二等分線H2上に仮想円の中心Cを位置させる。この垂直二等分線H2は、軸心A2に対して所定角度θ2を有する線である。
【0040】
そして、第1工程により形成された切削面に対し、垂直二等分線H2に沿ってポンチPonchを押圧し、弁座部表面側である切削面を塑性変形させ、ボール35の表面と同様の曲率をもって湾曲する断面円弧状を呈した第2シート面45b3を形成する。切削面のうち第2シート面45b3以外の部分が第1シート面45aとなる。第2シート面45b3は、開口部44aの周方向で幅寸法が略一定となるように形成されている。これにより、リリーフバルブ33の閉弁時にボール34とシート面45とが液密に面接触する。尚、第2シート面45bはボール35が当接する際の円弧凹形状に形成された面であり、円弧凹形状の円弧に沿った仮想円の中心がボール35の中心Cである。
【0041】
以上のように構成した実施例2の可変容量形ベーンポンプ1では、
図3に示すリリーフバルブ33の閉弁時に、ボール35の中心Cを通る垂直二等分線H2がバルブ孔34の軸心A1に対して所定角度θ2だけ傾斜することになり、ボール35の中心Cは軸心A2側にオフセットする。よって、実施例1と同様に、リテーナ38は、付勢力Fの軸方向成分によって貫通孔44内の油圧に対抗しつつ、付勢力Fの径方向成分によってボール35をシート面45のA2側に押し付ける。
【0042】
そして、中圧室28bの圧力が上昇し、所定のリリーフ圧を超えると、
図6に示すように、ボール35はh2側に形成された第2シート面45b3との当接を保ちつつ、それとは反対側のh1側に形成された第2シート面45b3から離間するように移動し、
図6に矢印で示すように作動油が流れることになる。つまり、リリーフバルブ33の開弁時において、ボール35が、リテーナ38によってバックアップされつつシート面45のうち第1シート面45aをオフセットした側の部分に当接して安定して支持されるようになり、当該ボール35の振動が抑制される。このように、第2工程において、塑性変形させる際、軸線A1に対して所定角度θ2だけ傾斜した角度でポンチPonchを押圧し、第2シート面45bを全周において略一定幅を持つように形成することで、ボール35と第2シート面45bとを安定して当接することができ、ボール35の表面に沿うことで閉弁時に漏れ量の少ない弁座形状を得ることができる。また、ボール35の中心が軸心A1に対してオフセットするため、開弁時にボール35が第2シート面45b3の一方側に押し付けられつつスムーズに開弁することができ、安定したリリーフ状態が達成できる。