【実施例】
【0045】
以下、実施形態例を用いて具体的に本発明を説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に示した実施形態の一例であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態例として、車両に搭載された乗員保護システムでの衝突の検知を具体的に説明する。
【0046】
[実施形態]
本形態は、
図1にその概略が示された車両(車室)Cにもうけられた乗員保護システムである。本形態は、上記した本発明の乗員保護システムを具体的に説明する形態である。
【0047】
図1に示したように、車両Cは、前後左右にそれぞれ2席の搭乗席を備えている。すなわち、前席右SFR,前席左SFL,後席右SRR,後席左SRLの4つの搭乗席を備えている。前席右SFRが運転席に該当する。本形態において、
図1に示したように、前席左SFLは、前席右SFRの隣から後席左SRL付近まで前後方向に大きくスライド可能に構成されている。
【0048】
そして、本形態では、車両Cの右側部には、前席右ドアDFR,後席右ドアDRRの二つのドアが、車両Cの右側部には、一つの左ドアDLがもうけられている。本形態において左ドアDLは、大きくスライドする前席左SFLに対応して、大きな開口を持つことができる様に、車両の左側部で前後方向にスライドする。
【0049】
本形態の乗員保護システムは、電子制御ユニット(ECU)1と、複数のサテライトセンサ21,22と、シートスライドセンサ3と、サイドエアバッグ4と、を備えている。ECU1,複数のサテライトセンサ21,22及びシートスライドセンサ3のそれぞれ,サイドエアバッグ4は、図示されない通信線で接続されている。
【0050】
ECU1は、車両Cのほぼ中央に配設されており、車両Cに加わった衝突の判定及びサイドエアバッグ4の起動制御を行う。なお、ECU1は、センサ21からECU1までの距離が、センサ21からセンサ22までの距離よりも長い位置に配設されている。また、センサ22からECU1までの距離が、センサ22からセンサ21までの距離よりも長い位置でもある。
【0051】
ECU1は、シートスライドセンサ3からの検出信号から、前席左SFLの車両Cにおける位置を判定し、センサ21,22からの検出信号を衝突の判定に用いる場合に利用する判定しきい値を決定する。そして、各センサ21,22からの検出信号と、先に決定された判定しきい値と、を比較することで衝突の判定を行う。
【0052】
具体的には、ECU1は、シートスライドセンサ3からの検出信号から、前席左SFLの車両Cにおける位置を判定し、衝突と判定する判定しきい値を決定する。そして、各サテライトセンサ21,22からの検出信号と、シートスライドセンサ3から決定される衝突と判定する判定しきい値と、を比較することで衝突の判定を行う。衝突の判定の結果、エアバッグ4の起動を判定する。
【0053】
本形態においてECU1は、判定しきい値として二つの判定しきい値(
衝突判定しきい値,
セーフィング判定しきい値)を備えている。本形態において、
衝突判定しきい値は、そのセンサの側方に乗員がいる場合に適用される判定しきい値である。
セーフィング判定しきい値は、
衝突判定しきい値による判定結果の
セーフィングセンサ用の判定しきい値である。
【0054】
そして、シートスライドセンサ3からの検出信号から、前席左SFLがセンサ22よりもセンサ21に近接していると判定される場合には、センサ21からの検出信号は、
衝突判定しきい値を判定しきい値として判定が行われる。このとき、センサ22からの検出信号は、
セーフィング判定しきい値を判定しきい値として判定が行われる。
【0055】
逆に、前席左SFLがセンサ21よりもセンサ22に近接していると判定される場合には、センサ22からの検出信号は、
衝突判定しきい値を判定しきい値として判定が行われる。このとき、センサ21からの検出信号は、
セーフィング判定しきい値を判定しきい値として判定が行われる。
【0056】
本形態例の乗員保護システムでECU1は、具体的には、
図2に示したフローチャートに沿って動作する(衝突の判定を行う)。ECU1では、二つのセンサ21とセンサ22とが、ともに衝突と判定した場合に、エアバッグ4の起動の指示を行う。
図2には、センサ21での衝突の判定と、センサ22での衝突の判定が、ほぼ同時に進行する形態を示したが、
衝突判定しきい値を用いる判定が完了した後に、
セーフィング判定しきい値を用いる判定が開始する態様であってもよい。
【0057】
本形態の乗員保護システムは、左ドアDLに二つのサテライトセンサ21,22が配設されている。
図1に示したように、左ドアDLの前方側にサテライトセンサ21が、後方側にサテライトセンサ22が、それぞれ配設されている。
【0058】
サテライトセンサ21は、大きくスライド可能な前席左SFLを最前方にスライドさせた状態でほぼ側方となる位置に配設されている。サテライトセンサ22は、前席左SFLを最後方にスライドさせた状態でほぼ側方となる位置に配設されている。すなわち、本形態の乗員保護システムでは、前席左SFLを前方の端部にスライドさせたときに、その側方にセンサ21が、後方の端部にスライドさせたときにその側方にセンサ22が、それぞれ位置するように配設されている。
【0059】
シートスライドセンサ3は、前後方向にスライド可能な前席左SFLに配設されている。本形態では、シートスライドセンサ3は、前席左SFLの車両Cにおける位置(前後方向での位置)を検知する。
【0060】
なお、本形態では、シートスライドセンサ3は、前席左SFLの車両Cにおける位置を検知するセンサを用いたが、シートスライドレールの前方端又は後方端からの距離を測定して前席左SFLの位置を求めるセンサであってもよい。
【0061】
サイドエアバッグ4は、車両の側部にもうけられ、搭乗席Sに搭乗した乗員を保護する。サイドエアバッグ4は、ECU1からの起動信号により作動(起動)する。サイドエアバッグ4は、4つの搭乗席のそれぞれに配設されており、
図1では前席左SFLのみ図示した(他は図略)。
【0062】
[乗員保護システムの動作]
本形態例において車両Cの側方からの衝突が発生したときの動作について具体的に説明する。
【0063】
[搭乗席SFLが最前方に位置している場合]
本衝突形態は、搭乗席SFLが最前方に位置している場合(フロントモースト)で、側方からの衝突が生じた場合である。本衝突形態における衝突位置及び搭乗席SFLの位置を
図3に示した。
まず、ECU1は、予め決定されている所定の周期(たとえば0.5ms周期)で各センサ21,22,3の検出信号を取り込んでいる。
【0064】
ECU1は、シートスライドセンサ3からの検出信号を参照し、前席左SFLが最前方に位置していると判定し、センサ21の検出信号の判定に用いられる判定しきい値を
衝突判定しきい値に設定する。合わせて、センサ22の検出信号の判定に用いられる判定しきい値を
セーフィング判定しきい値に設定する。(
図2中の”シートスライドセンサ3”〜”センサ22判定しきい値設定”の各ステップにそれぞれ相当。)
そして、車両Cに衝突が発生し、衝突の衝撃が車両Cを伝達する。
【0065】
車両Cに衝突が発生すると、その衝撃は、まず、車両Cを介してセンサ21に、その後、センサ22に伝達する。この衝撃の伝達時間は、衝突部位からの距離に比例するものであり、センサ21にはただちに、センサ22にはわずかにおくれて、それぞれ伝達される。(
図2中の”センサ21検出信号入力”〜”センサ22処理済み信号出力”の各ステップに相当。)
【0066】
最初に衝突が検知されるまでの間は、衝突を検知していない状態である。各センサ21,22が衝突を検知していないため、各センサ21,22からの検出信号に基づいた衝突の判定が行われない。すなわち、サイドエアバッグ4が起動されない。(
図2中の”センサ21演算値≧判定しきい値”で”No”の判定に相当。)
衝突の衝撃が伝達すると、二つのセンサ21,22のそれぞれは、衝撃に起因する検出信号をECU1に向けて発する。
【0067】
ECU1では、入力された二つのセンサ21,22の検出信号を判定しきい値との比較に利用できるように処理(本形態では積分値を求める)し、処理された検出信号を出力する。出力された検出信号は、判定しきい値(
衝突判定しきい値)と比較される。(
図2中の”センサ21演算値≧判定しきい値”のステップに相当。)
【0068】
センサ21の検出信号が判定しきい値(
衝突判定しきい値)を超えていると判定できたとき(
図2中の”センサ21演算値≧判定しきい値”で”Yes”の判定に相当。)、センサ22の判定結果が参照される。センサ21の検出信号が判定しきい値(
衝突判定しきい値)未満である場合(
図2中の”センサ21演算値≧判定しきい値”で”No”の判定に相当。)には、乗員を保護すべき衝突ではない(エアバッグ4を起動すべき衝突でない)と判定し、当該判定を終了する(衝突の検知前の状態に戻る)。
【0069】
そして、参照されたセンサ22の検出信号が判定しきい値(
セーフィング判定しきい値)を超えていると判定できたとき(
図2中の”センサ22演算値≧判定しきい値”で”Yes”の判定に相当。)、すなわち、二つのセンサ21,22の検出信号がいずれも判定しきい値を超えたとき、検出された衝突が乗員を保護すべき衝突である(エアバッグ4を起動すべき衝突である)と判定する。
【0070】
そして、ECU1は、エアバッグ4を起動する(
図2中の”エアバッグ4起動信号”のステップに相当)。具体的には、エアバッグ4を展開するためのインフレータに対して、起動信号を送信する。エアバッグ4は、起動信号を受信したら、インフレータを起動してエアバッグ4を展開して乗員を保護する(
図2中の”END(エアバッグ4起動)”のステップに相当)。
【0071】
[搭乗席SFLが最後方に位置している場合]
本衝突形態は、搭乗席SFLが最後方に位置している場合(リアモースト)で、側方からの衝突が生じた場合である。本衝突形態における衝突位置及び搭乗席SFLの位置を
図4に示した。
まず、ECU1は、予め決定されている所定の周期(たとえば0.5ms周期)で各センサ21,22,3の検出信号を取り込んでいる。
【0072】
ECU1は、シートスライドセンサ3からの検出信号を参照し、前席左SFLが最後方に位置していると判定し、センサ21の検出信号の判定に用いられる判定しきい値を
セーフィング判定しきい値に設定する。合わせて、センサ22の検出信号の判定に用いられる判定しきい値を
衝突判定しきい値に設定する。
そして、車両Cに衝突が発生し、衝突の衝撃が車両Cを伝達する。衝突の衝撃は、上記したように、まず、センサ22に、その後、センサ21に伝達する。
【0073】
最初に衝突が検知されるまでの間は、衝突を検知していない状態である。各センサ21,22が衝突を検知していないため、各センサ21,22からの検出信号に基づいた衝突の判定が行われない。すなわち、サイドエアバッグ4が起動されない。
衝突の衝撃が伝達すると、二つのセンサ21,22のそれぞれは、衝撃に起因する検出信号をECU1に向けて発する。
【0074】
ECU1では、入力された二つのセンサ21,22の検出信号を判定しきい値との比較に利用できるように処理(本形態では積分値を求める)し、処理された検出信号を出力する。出力された検出信号は、判定しきい値(
衝突判定しきい値)と比較される。
【0075】
センサ22の検出信号が判定しきい値(
衝突判定しきい値)を超えていると判定できたとき、センサ21の判定結果が参照される。センサ22の検出信号が判定しきい値(
衝突判定しきい値)を未満である場合には、上記の衝突形態と同様に、乗員を保護すべき衝突ではない(エアバッグ4を起動すべき衝突でない)と判定する。
【0076】
そして、参照されたセンサ21の検出信号が判定しきい値(
セーフィング判定しきい値)を超えていると判定できたとき(二つのセンサ21,22の検出信号がいずれも判定しきい値を超えたとき)、検出された衝突が乗員を保護すべき衝突である(エアバッグ4を起動すべき衝突である)と判定する。
【0077】
[比較形態]
本形態は、
図5にその概略が示された車両(車室)Cにもうけられた乗員保護システムである。
本形態は、特に言及しない構成は、上記した実施形態の乗員保護システムと同様の構成である。
【0078】
本形態の乗員保護システムは、
図5に示したように、左ドアDLに一つのサテライトセンサ21が配設され、ECU1がセーフィングセンサ(図示せず)を備え、シートスライドセンサを備えていない構成となっていること以外は、上記した実施形態の乗員保護システムと同様の構成である。
【0079】
ECU1は、車両Cのほぼ中央に配設されており、車両Cに加わった衝突の判定及びサイドエアバッグ4の起動制御を行う。また、ECU1は、セーフィングセンサ(図示せず)を備えており、セーフィングセンサの検出結果は、車両Cに加わった衝突の判定に利用される。
【0080】
具体的には、ECU1は、サテライトセンサ21及びセーフィングセンサからの検出信号と、シートスライドセンサ3から決定される衝突と判定する判定しきい値と、を比較することで衝突の判定を行う。衝突の判定の結果、エアバッグ4の起動を判定する。
【0081】
[乗員保護システムの動作]
本比較形態例において車両Cの側方からの衝突が発生したときの動作について具体的に説明する。
[搭乗席SFLが最前方に位置している場合]
本衝突形態は、上記の
図3に示した衝突形態と同様の衝突が生じた場合である。
まず、ECU1は、予め決定されている所定の周期(たとえば0.5ms周期)でセンサ21の検出信号を取り込んでいる。
そして、車両Cに衝突が発生し、衝突の衝撃が車両Cを伝達する。
【0082】
車両Cに衝突が発生すると、その衝撃は、まず、車両Cを介してセンサ21に、その後、セーフィングセンサに伝達する。この衝撃の伝達時間は、上記のように衝突部位からの距離に比例するものであり、センサ21に伝達した後、セーフィングセンサに、それぞれ伝達される。
【0083】
最初に衝突が検知されるまでの間は、衝突を検知していない状態である。センサ21が衝突を検知していないため、センサ21からの検出信号に基づいた衝突の判定が行われない。すなわち、サイドエアバッグ4が起動されない。
衝突の衝撃が伝達すると、センサ21は、衝撃に起因する検出信号をECU1に向けて発する。
ECU1では、上記と同様に入力されたセンサ21の検出信号を判処理し、判定しきい値(上記の
衝突判定しきい値と同様に設定されたしきい値)と比較する。
【0084】
センサ21の検出信号が判定しきい値を超えていると判定できたとき、セーフィングセンサの判定結果が参照される。センサ21の検出信号が判定しきい値未満である場合には、乗員を保護すべき衝突ではない(エアバッグ4を起動すべき衝突でない)と判定し、当該判定を終了する(衝突の検知前の状態に戻る)。
【0085】
そして、参照されたセーフィングセンサの検出信号が判定しきい値(上記の
セーフィング判定しきい値と同様な判定しきい値)を超えていると判定できたとき(センサ21及びセーフィングセンサの検出信号がいずれも判定しきい値を超えたとき)、検出された衝突が乗員を保護すべき衝突である(エアバッグ4を起動すべき衝突である)と判定する。
【0086】
そして、ECU1は、エアバッグ4を起動する。具体的には、エアバッグ4を展開するためのインフレータに対して、起動信号を送信する。エアバッグ4は、起動信号を受信したら、インフレータを起動してエアバッグ4を展開して乗員を保護する。
【0087】
実施形態の乗員保護システムでは、二つのセンサ21,22が衝突と判定したときに乗員を保護すべき衝突であると判定し、サイドエアバッグ4を起動して乗員を保護する。
【0088】
そして、実施形態の乗員保護システムでは、二つのセンサ21,22が衝突と判定するための判定しきい値を、乗員の搭乗位置(搭乗席の位置)により切り替えている。すなわち、実施形態の乗員保護システムでは、搭乗席SFLが最前方に位置している場合(フロントモースト)と、最後方に位置している場合(リアモースト)と、で、検出結果が比較される判定しきい値が異なるものとなっている。この結果、搭乗席SFLが車室内でスライドしても、搭乗席SFLに搭乗している乗員を確実に保護することができる効果を発揮する。
【0089】
さらに、実施形態の乗員保護システムでは、二つのセンサ21,22間の距離が、ECU1からセンサ21,センサ22までの距離よりも、短くなっている。これにより、同じ場所に衝突を受け手も、衝突の判定が、実施形態の方が比較形態よりも早い時間で完了する。すなわち、乗員を保護すべき衝突であるか否かの判定が、実施形態では比較形態よりも先に完了する。このことは、実施形態の乗員保護システムの方が、比較形態よりも、エアバッグ4を展開できることを示し、乗員をより保護できることを示す。
【0090】
以上に説明したように、実施形態の乗員保護システムは、判定しきい値を切り替えることで、高い精度で乗員を保護することができる効果を発揮する。さらに、二つのセンサ21,22間の距離が短いことで、より早い時間から乗員を保護できる効果を発揮する。