(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位相差設定部が、前記少なくとも2つの式に基づいて算出された前記位相差Δt_shift(n,n+1)を前記複数のPWM信号に対してそれぞれ設定した場合における前記各負荷に流れる実効電流Ia(n)の合計値に基づいて、少なくとも2つの前記位相差Δt_shift(n,n+1)のうちのいずれか1つを選択して設定するものであることを特徴とする請求項4記載の駆動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の駆動制御装置の第1の実施形態を用いたモータ駆動制御装置について詳細に説明する。
図1は、本実施形態のモータ駆動制御装置の概略構成を示す図である。
【0021】
本実施形態の駆動制御装置は、
図1に示すように、N個(Nは2以上の整数)のモータM1_1〜M_Nと、N個のPWM駆動部10_1〜10_Nと、N個のキャリア信号発生部14_1〜14_Nと、位相差設定部20と、駆動電源部30とを備えている。
【0022】
なお、上述したようにN個のモータに対して、N個のPWM駆動部10_1〜10_Nとキャリア信号発生部14_1〜14_Nとが設けられるが、N個のPWM駆動部10_1〜10_Nは全て同じ構成であり、また、N個のキャリア信号発生部もそれぞれ同様に設けられるので、
図1においては一部を省略して示してある。
【0023】
モータM1_1〜M_Nは、PWM駆動部10_1〜10_Nにそれぞれ接続され、各PWM駆動部10_1〜10_Nからそれぞれ出力された駆動電流によって駆動されるDCモータから構成されるものである。
【0024】
PWM駆動部10_1〜10_Nは、それぞれPWM信号発生部11とスイッチ回路部12とを備えている。PWM信号発生部11は、キャリア信号発生部14_1〜14_Nから出力された三角波形または鋸歯状波形のキャリア信号が入力される比較器13を備えている。比較器13は、入力されたキャリア信号に基づいて矩形波からなるPWM信号を発生するものである。
【0025】
スイッチ回路部12は、2つのスイッチ素子12a,12bを備えている。そして、PWM信号発生部11から出力されたPWM信号がスイッチ回路12に入力され、PWM信号がON期間である場合には、スイッチ素子12aがオン状態になるとともに、スイッチ12bがオフ状態となる。これによりモータM1_1〜M_Nにおいて駆動電源部30から駆動電流Ia_ONが流れる。また、スイッチ回路12に入力されたPWM信号がOFF期間である場合には、スイッチ素子12aがオフ状態になるとともに、スイッチ12bがオン状態となる。これによりモータM1_1〜M_Nにおいて、モータM1_1〜M_Nの誘導作用によって駆動電流Ia_OFFが流れる。ここでは、上述した駆動電流Ia_ONと駆動電流Ia_OFFとを合わせた電流のことをモータM1_1〜M_Nの実効電流Ia(1)〜Ia(N)とする。
【0026】
キャリア信号発生部14_1〜14_Nは、上述したようにPWM駆動部10_1〜10_Nに対して三角波形状または鋸歯状波形のキャリア信号を出力するものである。そして、本実施形態のN個のキャリア信号発生部14_1〜14_Nは、それぞれ互いに異なる位相のキャリア信号を出力するものである。各キャリア信号発生部14_1〜14_Nから出力されるキャリア信号の位相差は位相差設定部20に設定され、各キャリア信号発生部14_1〜14_Nは、位相差設定部20から出力された位相差の情報に基づいて、キャリア信号を発生するものである。
【0027】
位相差設定部20は、上述したように各キャリア信号発生部14_1〜14_Nから出力される各キャリア信号の位相差が設定されており、その位相差の情報を各キャリア信号発生部14_1〜14_Nに出力するものである。
【0028】
具体的には、本実施形態における位相差設定部20は、各モータM_1〜M_Nにそれぞれ流れる実効電流Ia(n)に基づいて、下式によって算出された位相差Δt_shift(n,n+1)が設定されたものである。この位相差Δt_shift(n,n+1)は、予め算出されて位相差設定部20に設定されるものであるが、その算出方法については、後で詳述する。
【数8】
ただし、n=1〜N(Nは2以上の整数であって、n+1>Nの場合、n+1=1とする)、t_pwmはPWM信号の周期
【0029】
駆動電源部30は、
図1に示すように、各PWM駆動部10_1〜10_Nのスイッチ回路部12のスイッチ素子に接続されるものであり、各スイッチ回路部12のスイッチ素子12aに所定の直流電圧をそれぞれ供給するものである。そして、上述したように、スイッチ回路12に入力されたPWM信号がON期間である場合にスイッチ素子12aがオン状態となり、駆動電源部30からモータM1_1〜M_Nに対して駆動電流Ia_ONが流れるが、このとき駆動電源部30側には電源系実効電流Ips(1)〜Ips(N)が流れることになる。すなわちIa_ON=Ipsである。
【0030】
なお、
図1に示すキャリア信号発生部14_1〜14_Nや、PWM駆動部10_1〜10_Nや、駆動電源部30は、組込型DSP(Digital Signal Processor)にハードウェアとして内蔵されたものを利用することができ、また、位相差設定部20も、組込型DSPにプログラマブルに設定することができる。
【0031】
図2は、位相差設定部20において設定された位相差Δt_shift(n,n+1)に基づいて、キャリア信号発生部14_1,14_2,14_Nからそれぞれ出力されたキャリア信号の一例を示したものである。
【0032】
各キャリア信号発生部14_1〜14_Nから、
図2に示すような位相差Δt_shift(n,n+1)のキャリア信号がそれぞれ出力され、そのキャリア信号が各PWM駆動部10_1〜10_Nに入力される。
【0033】
そして、各PWM駆動部10_1〜10_NにおけるPWM信号発生部11において、それぞれ入力された位相の異なるキャリア信号に基づいてPWM信号が生成され、そのPWM信号に基づく駆動電流が各PWM駆動部10_1〜10_Nに接続された各モータM_1〜M_Nに供給され、その供給された駆動電流に基づいて各モータM_1〜M_Nが駆動される。
【0034】
ここで、上記第1の実施形態のモータ駆動制御装置においては、上述したように各モータM_1〜M_Nにそれぞれ流される実効電流Ia(n)によって各キャリア信号の位相差t_shift(n,n+1)が算出され、この位相差が位相差設定部20に設定されるが、実効電流Ia(n)は、各モータM_1〜M_Nにそれぞれ要求される回転数や負荷トルクや、巻線インダクタンスや巻線抵抗など各モータM_1〜M_Nが持つ電気的パラメータや、メカ要素のパラメータなどを考慮して算出されるものである。
【0035】
そして、各モータM_1〜M_Nの実効電流Ia(n)は、DCモータの等価回路に基づくシミュレーションによって算出することが可能であり、以下、その等価回路に基づくシミュレーションのモデルについて説明する。
【0036】
まず、DCモータは、
図3に示すような等価回路で表すことができる。また、
図4は、
図3に示される等価回路をブロック線図で表したものと、Vp(s)とIa(s)の波形の一例を示したものである。なお、各パラメータの内容は、以下のとおりである。
【0037】
端子間電圧(モータに供給されるPWM電圧):Vp[V]
逆誘起電圧(モータ自身の回転で発電する電圧):Ve[V]
誘起電定数:KE[V/(rad/s)]
巻数インダクタンス:La[H]
巻線抵抗:Ra[Ω]
巻線電流:Ia[A]
トルク定数:KT[N・m/A]
発生トルク:Ta[N・m]
回転角速度:ωa[rad/s]
そして、
図3に示す等価回路によれば、DCモータの表現式は下式のようになる。
Vp(t)=La・dIa(t)/dt+Ra・Ia(t)+Ve(t)
Ve(t)=KE・ωa(t)
Ta(t)=KT・Ia(t)
次いで、上式をラプラス変換してS関数表現にすると下式のようになる。
Vp(s)=La・S・Ia(s)+Ra・Ia(s)+Ve(s)
Ve(s)=KE・ωa(s)
したがって、実効電流に関する数式は、以下のようになり、実効電流Ia(s)を求めることができる。
Ia(s)=(Vp(s)-KE・ωa(s))/(La・S + Ra)
Ta(s)=KT・Ia(s)
【0038】
また、
図3および
図4に示したDCモータをPID制御する構成としてシミュレーションを行ってもよい。
図5は、DCモータをPID制御する場合のシステム構成図である。このシステムにおいては、DCモータの回転速度をロータリエンコーダによって検出し、その回転速度をキャプチャーユニットおよび回転速度検出部によって取得する。そして、回転速度検出部によって取得された速度と予め設定された基準速度との差分が誤差速度として取得され、この誤差速度に基づいて加速度、速度および変位の操作量(トルク)が算出され、その操作量(トルク)に基づいて電流の操作量が算出されてPWM駆動部に供給される。このときモータ電流負帰還ループによる電流も考慮される。なお、DCモータのPID制御は既に公知な技術であるので、詳細な説明はここでは省略する。また、
図5においては、
図1で示されるキャリア信号発生部は図示省略している。
【0039】
また、
図6は、
図5に示すシステム構成をブロック線図で表したものである。
図6に示すようなブロック線図に基づいてシミュレーションを行うことによって実効電流Ia(s)を求めるようにしてもよい。
【0040】
なお、上記説明では、シミュレーションによって各モータM_1〜M_Nの実効電流Ia(s)を求めるようにしたが、シミュレーションではなく、たとえば
図5に示す従たるフィードバック要素によって検出されるVi(n)に基づいて、下式により実効電流Ia(n)を実際に計測するようにしてもよい。
Vi(n)=Ri・Ia(n)・α
α:電流検出アンプのゲイン
よって、Ia(n)=Vi(n)/(Ri・α)
【0041】
上記第1の実施形態のモータ駆動制御装置によれば、上述したように各モータM_1〜M_Nにそれぞれ要求される回転数や負荷トルクに基づいて算出される各実効電流を用いて、各PWM信号の位相差を設定するようにしたので、各PWM信号の立上りや立下がりを分散させて均一化させることができ、これにより各PWM信号に起因して発生するリップル電流の合計値を小さくすることができる。
【0042】
次に、本発明の駆動制御装置の第2の実施形態を用いたモータ駆動制御装置について説明する。第2の実施形態のモータ駆動制御装置の概略構成については、
図1に示す第1の実施形態のモータ駆動制御装置と同様である。
【0043】
そして、上記第1の実施形態のモータ駆動制御装置においては、各モータM_1〜M_Nの実効電流Ia(n)に基づいて、各モータM_1〜M_Nに供給されるPWM信号の位相差Δt_shift(n,n+1)を設定するようにしたが、第2の実施形態のモータ駆動制御装置は、実効電流Ia(n)ではなく、実効電圧Va(n)に基づいて位相差Δt_shift(n,n+1)が設定される点が第1の実施形態と異なる。
【0044】
すなわち、第2の実施形態における位相差設定部20は、各モータM_1〜M_Nにそれぞれ供給される実効電圧Va(n)に基づいて、下式によって算出された位相差Δt_shift(n,n+1)が設定されたものである。なお、この実効電圧Va(n)についても、実効電流Ia(n)と同様に、上述したシミュレーションによって算出することができる。
【数9】
ただし、n=1〜N(Nは2以上の整数であって、n+1>Nの場合、n+1=1とする)、t_pwmはPWM信号の周期
【0045】
第2の実施形態のモータ駆動制御装置のその他の構成については、第1の実施形態と同様である。
【0046】
上記第2の実施形態のモータ駆動制御装置によれば、上述したように各モータM_1〜M_Nにそれぞれ要求される回転数や負荷トルクに基づいて算出される各実効電圧を用いて、各PWM信号の位相差を設定するようにしたので、第1の実施形態と同様に、各PWM信号の立上りや立下がりを分散させて均一化させることができ、これにより各PWM信号に起因して発生するリップル電流の合計値を小さくすることができる。
【0047】
次に、本発明の駆動制御装置の第3の実施形態を用いたモータ駆動制御装置について説明する。第3の実施形態のモータ駆動制御装置の概略構成については、
図1に示す第1の実施形態のモータ駆動制御装置と同様である。
【0048】
そして、第3の実施形態のモータ駆動制御装置は、実効電力Pa(n)に基づいて位相差Δt_shift(n,n+1)が設定される点が、上記第1および第2の実施形態とは異なる。
【0049】
すなわち、第3の実施形態における位相差設定部20は、各モータM_1〜M_Nにおいてそれぞれ消費される実効電力Pa(n)に基づいて、下式によって算出された位相差Δt_shift(n,n+1)が設定されたものである。なお、この実効電力Pa(n)についても、実効電流Ia(n)や実効電圧Va(n)と同様に、上述したシミュレーションによって算出することができる。
【数10】
ただし、n=1〜N(Nは2以上の整数であって、n+1>Nの場合、n+1=1とする)、t_pwmはPWM信号の周期
【0050】
第3の実施形態のモータ駆動制御装置のその他の構成については、第1の実施形態と同様である。
【0051】
上記第3の実施形態のモータ駆動制御装置によれば、上述したように各モータM_1〜M_Nにそれぞれ要求される回転数や負荷トルクに基づいて算出される各実効電力を用いて、各PWM信号の位相差を設定するようにしたので、第1および第2の実施形態と同様に、各PWM信号の立上りや立下がりを分散させて均一化させることができ、これにより各PWM信号に起因して発生するリップル電流の合計値を小さくすることができる。
【0052】
次に、本発明の駆動制御装置の第4の実施形態を用いたモータ駆動制御装置について説明する。第4の実施形態のモータ駆動制御装置の概略構成については、
図1に示す第1の実施形態のモータ駆動制御装置と同様である。
【0053】
そして、第4の実施形態のモータ駆動制御装置は、位相差設定部20の構成が、上記第1から第3の実施形態のモータ駆動制御装置とは異なる。本実施形態の位相差設定部20は、下式(1)〜(4)に基づいて算出された位相差Δt_shift(n,n+1)のうちのいずれか1つが切り替えて設定されるものである。
【0054】
なお、下式(1)〜(4)のうちの式(2)〜式(3)については、上述した第1から第3の実施形態において用いられた数式と同様である。そして、下式(1)は、モータM_1〜M_Nの数に基づいて、位相差Δt_shift(n,n+1)を算出する式である。
【数11】
ただし、n=1〜N(Nは2以上の整数であって、n+1>Nの場合、n+1=1とする)、t_pwmはPWM信号の周期
【数12】
ただし、n=1〜N(Nは2以上の整数であって、n+1>Nの場合、n+1=1とする)、t_pwmはPWM信号の周期、Ia(n)はN個の各モータM_1〜M_Nに流れる実効電流
【数13】
ただし、n=1〜N(Nは2以上の整数であって、n+1>Nの場合、n+1=1とする)、t_pwmはPWM信号の周期、Va(n)はN個のN個の各モータM_1〜M_Nに供給される実効電圧
【数14】
ただし、n=1〜N(Nは2以上の整数であって、n+1>Nの場合、n+1=1とする)、t_pwmはPWM信号の周期、Pa(n)はN個の各モータM_1〜M_Nによって消費される実効電力
【0055】
そして、上式(1)〜(4)に基づいて算出された位相差Δt_shift(n,n+1)の切り替えについては、たとえば、ユーザが、
図7に示す入力装置40を用いていずれか1つの条件式に基づいて算出された位相差Δt_shift(n,n+1)を設定入力することによって行うようにすればよい。
【0056】
また、上述したように入力装置40から位相差Δt_shift(n,n+1)を直接入力するのではなく、たとえば上式(1)〜(4)に基づいて算出された4種類の位相差Δt_shift(n,n+1)を位相差設定部20に予め設定しておき、ユーザが、予め設定された4種類の位相差Δt_shift(n,n+1)のうちのいずれか1つを選択する信号を入力装置40を用いて入力し、その入力に応じて位相差設定部20が、選択された位相差Δt_shift(n,n+1)を設定するようにしてもよい。予め設定された4種類の位相差Δt_shift(n,n+1)のうちのいずれか1つを選択する方法としては、たとえば、入力装置40に4種類の選択スイッチを設けるようにしてもよいし、入力装置40としてタッチパネルなどを用いて選択画面を表示させるようにしてもよい。
【0057】
ここで、上記第1〜4の実施形態のモータ駆動制御装置においては、各モータの実効電流や実効電圧や実効電力に基づいて、各モータに供給されるPWM信号の位相差を設定するようにしたが、以下、各モータに要求される回転数や負荷トルクを想定して各モータの実効電流や実効電圧や実効電力を算出し、これらを用いて上式(1)〜(4)に基づいて位相差を算出し、その4種類の位相差をそれぞれ設定した場合におけるリップル電流をシミュレーションした例について説明する。
【0058】
まず、複数のモータとして、
図8に示すようなインクジェットプリンタの用紙搬送系に用いられる5個のモータM_1〜M5を想定する。
【0059】
図8に示すインクジェットプリンタについて簡単に説明する。
図8に示すインクジェットプリンタは両面印刷が可能なものである。
図8に示すインクジェットプリンタにおいては、ピックアップローラ51によって給紙台から印刷用紙が繰り出され、レジストローラ52において斜行補正された後、レジストローラ52と搬送ベルト53によってインクヘッド57の下を搬送される。そして、両面印刷を行う際には、片面印刷済みの印刷用紙が、さらに上方の搬送路に搬送され、搬送ローラ54によって反転搬送路56に向かって搬送される。そして、搬送ローラ55によって搬送された印刷用紙は、反転搬送路56において反転された後、再びインクヘッド57の下を通過し、その後、搬送ローラ54によって排紙台に向かって搬送される。
【0060】
モータM_1はピックアップローラ51を駆動する1次給紙駆動モータであり、モータM_2はレジストローラ52を駆動する2次給紙駆動モータであり、モータM_3は搬送ベルト53を搬送するプラテンローラを駆動するベルトプラテンモータであり、モータM_4は搬送ローラ54を駆動するものであり、モータM_5は搬送ローラ55を駆動するものである。
【0061】
そして、ここでは、各モータM_1〜M_5に対して要求される回転数や負荷トルクが異なる4つの場合(Case1〜Case4)についてシミュレーションした例を説明する。
図9に示す表は、その4つのCase1〜Case4のシミュレーション結果を示すものであり、各Case1〜Case4における各モータM_1〜M_5の回転数および負荷トルクの要求値と、各モータM_1〜M_5の実効電流、実効電圧および実効電力をシミュレーショした値と、実効電流、実効電圧および実効電力に基づいて、上式(2)〜上式(4)によりそれぞれ位相差を算出した場合における位相の配分とを示したものである。なお、
図9に示す表の一番下の欄に示すように、全てのCase1〜Case4に共通してモータの数によって位相を配分した場合には、各モータに対して20%が配分されることになる。
【0062】
次に、Case1〜Case4について具体的に説明する。Case1は、モータM_1〜M_5毎の回転速度に差がある場合であり、最大回転速度と最小回転速度の比が3倍の場合である。また、Case2は、モータM_1〜M_5毎の負荷トルクに差がある場合であり、最大負荷トルクと最小負荷トルクの比が3倍の場合である。Case3は、各モータM_1〜M_5の回転速度はCase2と同様であるが、Case2とは負荷トルクの増加方向を逆にしたものである。すなわち、Case2は、上流側のモータM_1から下流側のモータM_5に向かって負荷トルクが次第に小さくなるように設定したものであるのに対し、Case3は、上流側のモータM_1から下流側のモータM_5に向かって負荷トルクが次第に大きくなるように設定したものである。また、Case4は、各モータM_1〜M_5の回転速度はCase1と同様であるが、負荷トルクはCase2の増加方向と逆にしたものである。すなわち、Case4は、上流側のモータM_1から下流側のモータM_5に向かって低速高負荷から高速低負荷となるように設定したものである。
【0063】
図10(a)〜(d)は、Case1の場合におけるPWM信号とリップル電流をシミュレーションした結果である。具体的には、
図10(a)はモータの数に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図10(b)は各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図10(c)は各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図10(d)は各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0064】
また、
図11は、PWM信号に位相差を設定しなかった場合のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0065】
さらに、
図12は、モータの数に基づいて位相差を設定した場合(
図10(a)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合(
図10(b)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合(
図10(c)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合(
図10(d)の場合)と、位相差を設定しなかった場合(
図11の場合)とのそれぞれの場合において、全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値を算出した結果を示すものである。すなわちリップル電流の合計値を示す結果ともいえる。
図12に示す「a」は
図10(a)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図12に示す「b」は
図10(b)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図12に示す「c」は
図10(c)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図12に示す「d」は
図10(d)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図12に示す「e」は
図11の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値である。
【0066】
図12によれば、
図12に示す「b」が(
図10(b)の場合)、すなわち実効電流に基づいて位相差を設定した場合における実効電流の合計値の波形のピーク・ボトム値が最も小さいため、この位相差が最も適しているといえる。したがって、ユーザは、この位相差を選択して設定するようにすればよい。
【0067】
図13(a)〜(d)は、Case2の場合におけるPWM信号とリップル電流をシミュレーションした結果である。具体的には、
図13(a)はモータの数に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図13(b)は各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図13(c)は各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図13(d)は各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0068】
また、
図14は、PWM信号に位相差を設定しなかった場合のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0069】
さらに、
図15は、モータの数に基づいて位相差を設定した場合(
図13(a)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合(
図13(b)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合(
図13(c)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合(
図13(d)の場合)と、位相差を設定しなかった場合(
図14の場合)とのそれぞれの場合において、全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値を算出した結果を示すものである。
図15に示す「a」は
図13(a)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図15に示す「b」は
図13(b)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図15に示す「c」は
図13(c)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図15に示す「d」は
図13(d)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図13に示す「e」は
図14の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値である。
【0070】
図15によれば、
図15に示す「c」(
図13(c)の場合)が、すなわち実効電圧に基づいて位相差を設定した場合における実効電流の合計値の波形のピーク・ボトム値が最も小さいため、この位相差が最も適しているといえる。したがって、ユーザは、この位相差を選択して設定するようにすればよい。
【0071】
図16(a)〜(d)は、Case3の場合におけるPWM信号とリップル電流をシミュレーションした結果である。具体的には、
図16(a)はモータの数に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図16(b)は各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図16(c)は各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図16(d)は各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0072】
また、
図17は、PWM信号に位相差を設定しなかった場合のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0073】
さらに、
図18は、モータの数に基づいて位相差を設定した場合(
図16(a)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合(
図16(b)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合(
図16(c)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合(
図16(d)の場合)と、位相差を設定しなかった場合(
図17の場合)とのそれぞれの場合において、全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値を算出した結果を示すものである。
図18に示す「a」は
図16(a)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図18に示す「b」は
図16(b)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図18に示す「c」は
図16(c)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図18に示す「d」は
図16(d)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図18に示す「e」は
図17の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値である。
【0074】
図18によれば、
図18に示す「c」(
図16(c)の場合)が、すなわち実効電圧に基づいて位相差を設定した場合における実効電流の合計値の波形のピーク・ボトム値が最も小さいため、この位相差が最も適しているといえる。したがって、ユーザは、この位相差を選択して設定するようにすればよい。
【0075】
図19(a)〜(d)は、Case4の場合におけるPWM信号とリップル電流をシミュレーションした結果である。具体的には、
図19(a)はモータの数に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図19(b)は各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図19(c)は各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形であり、
図19(d)は各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合における各モータM_1〜M_5のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0076】
また、
図20は、PWM信号に位相差を設定しなかった場合のPWM信号の電圧波形およびリップル電流波形である。
【0077】
さらに、
図21は、モータの数に基づいて位相差を設定した場合(
図19(a)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電流に基づいて位相差を設定した場合(
図19(b)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電圧に基づいて位相差を設定した場合(
図19(c)の場合)と、各モータM_1〜M_5の実効電力に基づいて位相差を設定した場合(
図19(d)の場合)と、位相差を設定しなかった場合(
図20の場合)とのそれぞれの場合において、全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値を算出した結果を示すものである。
図21に示す「a」は
図19(a)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図21に示す「b」は
図19(b)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図21に示す「c」は
図19(c)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図21に示す「d」は
図19(d)の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値であり、
図21に示す「e」は
図20の場合における全てのモータM_1〜M_5の駆動による電源系実効電流値の合計値である。
【0078】
図21によれば、
図21に示す「d」(
図19(d)の場合)が、すなわち実効電力に基づいて位相差を設定した場合における実効電流の合計値の波形のピーク・ボトム値が最も小さいため、この位相差が最も適しているといえる。したがって、ユーザは、この位相差を選択して設定するようにすればよい。
【0079】
また、上記第4の実施形態のモータ駆動制御装置においては、リップル電流が最も小さくなるような位相差をユーザが選択して、位相差設定部20に設定するようにしたが、このようにユーザが位相差を選択するのではなく、位相差設定部20が、自動的に最も適した位相差を選択して設定するようにしてもよい。
【0080】
具体的には、位相差設定部20に上式(1)〜上式(4)に基づいて算出された位相差Δt_shift(n,n+1)を予め設定しておくとともに、
図22に示すように、電源系実効電流Ips(1)〜Ips(N)の合計値Ips_allを実際に計測する電流計測部40を設け、上式(1)〜上式(4)に基づいて算出された位相差をそれぞれ設定した場合における電源系実効電流の合計値Ips_allをそれぞれ計測し、その計測した合計値ΣIps(n)が最も小さい位相差を自動的に選択して設定するようにしてもよい。
【0081】
電流計測部40は、駆動電源部30の出力端子に接続された抵抗素子Rpsと、抵抗素子Rpsに接続された電流検出アンプ41とを備えている。この電流検出アンプ41から出力された計測電圧VallがADC(A/Dコンバータ)に出力され、デジタル信号に変換された後、その信号に基づいて、下式に基づいて合計値Ips_allが算出される。
Vall=Rps・Ips_all・β
β:電流検出アンプ41のゲイン
よって、Ips_all=Vall/(Rps・β)
【0082】
また、各モータM_1〜M_Nのそれぞれの運転パターンや負荷パターンなどの駆動条件が決定すれば、各モータM_1〜M_Nの実効電流Ia(1)〜Ia(n)および実効電圧Va(1)〜Va(n)や、電源系駆動電流Ips(1)〜Ips(N)(駆動電流Ia_ON)を算出することができる。そこで、たとえば各モータM_1〜M_Nの駆動条件の設定入力を受け付けるようにしてもよい。そして、その駆動条件に基づいて各モータM_1〜M_Nの実効電流Ia(1)〜Ia(n)および実効電圧Va(1)〜Va(n)を算出し、これらに基づいて上式(1)〜(4)の位相差をそれぞれ算出し、その算出した位相差をそれぞれ設定した場合における電源系実効電流の合計値Ips_allをそれぞれ算出し、その合計値Ips_allが最も小さい位相差を自動的に選択して設定するようにしてもよい。
【0083】
また、たとえば、各モータM_1〜M_Nが、
図8に示したようなインクジェットプリンタに用いられる場合、各モータM_1〜M_Nの駆動条件は、搬送される用紙サイズによって決定される。そして、上述したように各モータM_1〜M_Nの駆動条件が決定すれば合計値Ips_allが最も小さくなる位相差を求めることができる。そこで、用紙サイズと、上式(1)〜(4)の位相差のうちその用紙サイズに最も適した位相差とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、設定入力された用紙サイズに基づいてテーブルを参照することによって、その用紙サイズの印刷用紙を各モータM_1〜M_Nによって搬送する際に最も適した位相差を自動的に設定するようにしてもよい。
【0084】
また、上記説明では、電流計測部40によって電源系駆動電流の合計値Ips_allを計測し、その計測結果に基づいて最も適した位相差を自動的に設定するようにしたが、上式(1)〜(4)の位相差をそれぞれ設定した場合における電源系駆動電流の合計値Ips_allをユーザが電流プローブなどで計測し、その計測結果に基づいて、ユーザが最も適した位相差を設定するようにしてもよい。
【0085】
また、上記第4の実施形態のモータ駆動制御装置においては、上式(1)〜上(4)の4つの式に基づいて算出された位相差の中からいずれか1つを選択するようにしたが、必ずしも4種類の位相差を全て用いなくてもよく、上式(1)〜上(4)のうちの少なくとも2つの式に基づいて算出された位相差の中からいずれか1つを選択するようにしてもよい。
【0086】
また、上記実施形態の説明においては、PWM信号による駆動制御対象の負荷をモータとした場合について説明したが、駆動制御対象の負荷はモータに限らず、たとえば複数のソレノイドをPWM信号を用いて駆動制御する場合にも、本発明は適用可能である。