【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度経済産業省「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
<11−20>方向の内、オフセット下流方向となす角度が最も小さい<11−20>方向への基底面転位の配向を反映するパワースペクトル中の<1−100>方向のピーク値A'ave.(θi)が最も大きい
請求項1から4までのいずれかに記載のSiC単結晶。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. SiC単結晶]
本発明に係るSiC単結晶は、以下の構成を備えている。
(1)前記SiC単結晶は、基底面転位の直線性が高く、前記基底面転位が結晶学的に等価な3つの<11−20>方向に配向している少なくとも1以上の配向領域を有する。
(2)前記「配向領域」とは、以下の手順により判定される領域をいう。
(a)前記SiC単結晶から、{0001}面に略平行なウェハを切り出す。
(b)前記ウェハに対して透過配置によるX線トポグラフ測定を行い、結晶学的に等価な3つの{1−100}面回折に対応するX線トポグラフ像を撮影する。
(c)3つの前記X線トポグラフ像を、それぞれ、画像内の各点の輝度を数値化したデジタル画像に変換し、3つの前記デジタル画像を、それぞれ、1辺の長さLが10±0.1mmである正方形の測定領域に区画する。
(d)ウェハ上の同一領域に対応する3つの前記測定領域中の前記デジタル画像に対して2次元フーリエ変換処理を行い、パワースペクトル(フーリエ係数の振幅Aのスペクトル)を得る。
(e)3つの前記パワースペクトルを、それぞれ極座標関数化し、平均振幅Aの角度(方向)依存性の関数A
ave.(θ)を求める(0°≦θ≦180°)。
(f)3つの前記A
ave.(θ)の積算値A'
ave.(θ)をグラフ化(x軸:θ、y軸:A'
ave.)し、3つの前記<1−100>方向に相当する3つのθ
i(i=1〜3)において、それぞれ、バックグラウンドB.G.(θ
i)に対するピーク値A'
ave.(θ
i)の比(=A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比)を算出する。
(g)3つの前記A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比がすべて1.1以上であるときは、3つの前記測定領域に対応する前記ウェハ上の領域を「配向領域」と判定する。
【0018】
[1.1. 配向領域]
「配向領域」とは、基底面転位の直線性が高く、基底面転位が結晶学的に等価な3つの<11−20>方向に配向している領域をいう。直線性が高く、高度に配向しているか否かは、X線トポグラフ像からA'
ave.(θ
i)/BG(θ
i)比を算出することにより判定することができる。判定方法の詳細は、後述する。SiC単結晶は、その内部にこのような配向領域を少なくとも1つ有していればよい。
【0019】
SiC単結晶をc面成長させる場合、一般に、種結晶にはオフセット基板を用いる。オフセット基板のオフセット方向上流側端部には、成長の最先端であるc面ファセットがある。異種多形の発生を抑制するためには、c面ファセット内には、種結晶の多形を成長方向に引き継ぐ働きをする螺旋転位が存在している必要がある。c面ファセット内に螺旋転位を導入する方法としては、例えば、種結晶の上流側端部に螺旋転位発生領域を導入する方法などがある。
このような種結晶を用いてc面成長させると、成長結晶のオフセット方向上流側には、窒素の取り込み量が相対的に高いことによる色の濃いc面ファセットの痕跡(ファセット痕)が残る。また、成長に伴い、種結晶中の螺旋転位発生領域に含まれる積層欠陥や基底面転位が成長結晶に引き継がれ、オフセット方向の下流側に向かって流れ出すことで、螺旋転位や基底面転位の密度が高くなる。そのため、従来のc面成長法では、ファセット痕から離れた領域においても基底面転位が湾曲しやすくなり、配向性が低下する。
【0020】
これに対し、後述する方法を用いると、配向領域の少なくとも1つが、ファセット痕を除く領域にあるSiC単結晶が得られる。ファセット痕のある領域は、螺旋転位発生領域に対応するため、デバイス作製用として元々適さない。そのため、ファセット痕のない領域に配向領域があることが望ましい。
また、後述する方法を用いてSiC単結晶を製造する場合において、c面ファセットが端部にあるオフセット基板を種結晶に用いたときには、配向領域の少なくとも1つが、SiC単結晶の略中央部に存在するSiC種結晶が得られる。ここで、「SiC単結晶の略中央部」とは、SiC単結晶から{0001}面に略平行に切り出されたウェハの表面の中心近傍をいう。通常、デバイスは、ウェハの端部を除く領域に作製されるため、単結晶の略中央部に配向領域があるのが望ましい。
【0021】
さらに、後述する方法を用いると、ファセット痕から遠ざかるほど、配向強度Bが高いSiC単結晶が得られる。
「ファセット痕から遠ざかるほど、配向強度Bが高い」とは、具体的には、
(1)SiC単結晶は、ファセット痕までの距離がL
1である第1の配向領域と、ファセット痕までの距離がL
2(>L
1)である第2の配向領域とを備えており、
(2)第2の配向領域に対応する配向強度B(=3つのA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比の平均値)が、第1の配向領域に対応する前記配向強度Bより大きい
ことをいう。
「ファセット痕と配向領域との距離(L
1、L
2)」とは、SiC単結晶から{0001}面に略平行にウェハを切り出した時に、ウェハの表面に現れたファセット痕の中心と配向領域の中心とを結ぶ距離をいう。ファセット痕のある領域は、螺旋転位発生領域に対応するため、デバイス作製用として元々適さない。そのため、ファセット痕から離れた領域に配向領域があることが望ましい。また、<11−20>方向の1つをオフセット方向に近づけることで、その<11−20>方向への基底面転位の配向性と直線性を向上させることができる。
【0022】
[1.2. 配向領域の面積率]
「配向領域の面積率(%)」とは、SiC単結晶から{0001}面に略平行に切り出されたウェハに含まれる測定領域の面積の総和(S
0)に対する配向領域の面積の総和(S)の割合(=S×100/S
o)をいう。
SiC単結晶から{0001}面に略平行にウェハを切り出し、切り出されたウェハを用いて高性能な半導体デバイスを高い歩留まりで製造するためには、配向領域の面積率は、高いほど良い。配向領域の面積率は、具体的には、50%以上が好ましい。配向領域の面積率は、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
後述する方法を用いると、相対的に多量の配向領域を含むSiC単結晶が得られる。また、製造条件を最適化すると、SiC単結晶から1又は2以上のウェハを切り出したときに、少なくとも1つのウェハの配向領域の面積率が50%以上であるSiC単結晶が得られる。
【0023】
[1.3. 配向強度B]
「配向強度B」とは、結晶学的に等価な3つの<1−100>方向に対応する3つのA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比(i=1〜3)の平均値を言う。配向強度Bが大きいほど、基底面転位の直線性が高く、<11−20>方向への配向性が高いことを示す。
後述する方法を用いた場合において、製造条件を最適化すると、配向強度Bが1.2以上である少なくとも1つの配向領域を含むSiC単結晶が得られる。
SiC単結晶から{0001}面に略平行にウェハを切り出し、切り出されたウェハを用いて高性能な半導体デバイスを高い歩留まりで製造するためには、配向領域の配向強度Bは、大きいほど良い。配向強度Bは、さらに好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上である。
同様に、このような高い配向強度Bを持つ配向領域の面積率は、大きいほど良い。
【0024】
[1.4. 積層欠陥]
「積層欠陥を含まない」とは、{1−100}面回折に対応するX線トポグラフ像において、面状に投影される面欠陥領域を含まないことをいう。
後述する方法を用いて本発明に係るSiC単結晶を製造すると、螺旋転位発生領域に含まれている積層欠陥がオフセット方向下流側に向かって流れ出しにくいため、製造直後の積層欠陥密度は低い。また、同時に基底面転位も流れ出しにくく、積層欠陥端部の螺旋転位への変換も生じないため、転位同士の相互作用が起きにくくなる。その結果、基底面転位が高度に配向化、言い換えると湾曲した基底面転位が少なくなり、湾曲している基底面転位が分解することによる積層欠陥の生成も抑制される。
【0025】
[2. 配向領域の判定方法]
「配向領域」は、以下の手順により判定される。
[2.1. 試料の加工:手順(a)]
まず、SiC単結晶から、{0001}面に略平行なウェハを切り出す。
本発明においては、X線トポグラフにより基底面転位({0001}面内転位)を撮影するための、一般的な試料加工を行うことを前提とする。詳細には、下記の条件で加工を施す。
すなわち、SiC単結晶を{0001}面に略平行にスライスし、オフセット角が10°以下のウェハを切り出す。ウェハ表面を研削、研磨により平坦化し、さらに表面のダメージ層を除去し、X線トポグラフの測定に適した厚さのウェハにする。ダメージ層の除去には、CMP処理を用いるのが好ましい。
ウェハの厚さが薄すぎると、測定される厚さ方向の領域が局所的になることで、結晶中の平均的な転位構造を評価できないほか、配向強度の測定値にバラツキが生じやすくなる。一方、ウェハの厚さが厚すぎると、X線を透過させるのが困難となる。従って、ウェハの厚さは、100〜1000μmが好ましく、さらに好ましくは、500±200μm、さらに好ましくは、500±100μmである。
【0026】
[2.2. X線トポグラフ:手順(b)]
次に、ウェハに対して透過配置によるX線トポグラフ測定を行い、結晶学的に等価な3つの{1−100}面回折に対応するX線トポグラフ像を撮影する。
本発明においては、基底面転位像を検出するための一般的なX線トポグラフ測定条件で行うことを前提とする。詳細には、下記の条件で測定する。
配置: 透過配置(Lang法、
図1参照)
回折条件と測定面: {1−100}面回折を使用する。主に、{0001}面内方向のバーガースベクトルを有する転位や欠陥の検出を目的とする回折であり、かつ{0001}面内積層欠陥の検出も可能である。結晶の同一の領域を、結晶学的に等価であるが、角度の異なる3つの面の組み合わせで測定する。3つの面とは、(1−100)面、(−1010)面、及び(01−10)面をいう。
図2(a)参照。
【0027】
Lang法(透過配置トポグラフ)は、ウェハ全体の欠陥分布を撮影でき、ウェハの品質検査に用いることができる手法である。Lang法には、大型の放射光設備を用いた方法と、実験室レベルの小型のX線発生装置を用いる方法があり、どちらを用いても本発明で述べるところの測定は可能である。ここでは、後者について一般的な手法を説明する。
図1に示すように、X線源22より放射されたX線は第1スリット24により方向付けされ、幅を制限して試料26に入射される。入射X線は、試料26の帯状の領域に照射される。結晶の格子面に対し回折条件を満足するように面内の方位と入射角が調整されると、照射全域で回折を起こす。
X線源22として、陽極がMoのX線管を使用し、特性X線のK
α線の内、K
α1の波長に回折条件を合わせる。第2スリット28は、試料26を透過してきた一次X線を遮断するとともに、回折X線だけを通すように、適宜その幅を狭め、散乱X線によるバックグラウンドを低減する働きを持つ。第2スリット28の背面側には、フィルム(又は、原子核乾板)30が配置され、さらにその背面側には、X線検出器32が配置されている。
以上の配置で、試料26をフィルム30と一緒に試料面に平行に走査すると、試料26全体にわたる回折像を得ることができる。
こうして得られたトポグラフをトラバーストポグラフと呼ぶ。3次元的な欠陥像を2次元的に投影するので、プロジェクショントポグラフと呼ぶこともある。
【0028】
{0001}面内方向のバーガースベクトルを有する転位の検出方法として、一般的には、{11−20}面回折も用いられる。しかし、{11−20}面回折では、{0001}面内の積層欠陥を検出できない。
一方、{11−20}面回折では、1つの測定面でも{0001}面内の3つの主軸方向のバーガースベクトルを有する転位を検出可能であるのに対し、{1−100}面回折では、1つの測定面では、3つの主軸方向の内、2つの主軸方向のバーガースベクトルを有する転位しか検出できない。
そこで、本発明では、積層欠陥の検出も可能な{1−100}面回折を用い、これを結晶学的に等価な角度の異なる3つの結晶面に対して測定を行うこととした。
【0029】
[2.3. トポグラフ像のデジタル化と画像前処理:手順(c)]
次に、3つの前記X線トポグラフ像を、それぞれ、画像内の各点の輝度を数値化したデジタル画像に変換し、3つの前記デジタル画像を、それぞれ、大きさが10±0.1mmである測定領域に区画する。
本発明においては、画像解析を行うための一般的な処理を行うことを前提とする。詳細には、下記条件でデジタル化及び画像前処理を行う。
【0030】
(1)フィルムや原子核乾板上に得られるトポグラフ像をスキャナなどによりデジタル化する。デジタル化の際の取り込み条件を以下に示す。
解像度: フィルムの実寸法上で、512ピクセル/cm以上とする。
モード: グレースケール
(2)デジタル化したトポグラフ像(デジタル画像)を、1辺の長さLが10±0.1mmである正方形の測定領域に区画する。ウェハが相対的に大きいときには、ウェハ表面をマス目状に区画し、複数個の測定領域を取り出す。一般に、測定領域が小さすぎると、測定が局所的になり、結晶中の転位の平均的な構造に対する結果が得られない。一方、測定領域が大きすぎると、基底面転位像が細くなりすぎて不鮮明になり、配向性を調べることが困難になる。
(4)明瞭な基底面転位像が得られるように、デジタル画像の階調レベルを調整する。具体的には、基底面転位部分を最も暗く(黒)、転位のない部分を最も明るく(白)調整する。
(5)一辺のピクセル数を512ピクセルに調整する。ピクセル数が低すぎると、明確な基底面転位像が得られない。一方、ピクセル数が多すぎると、フーリエ変換処理が遅くなる。
【0031】
[2.4. 画像解析:手順(d)]
次に、ウェハ上の同一領域に対応する3つの前記測定領域中の前記デジタル画像に対して2次元フーリエ変換処理を行い、パワースペクトル(フーリエ係数の振幅Aのスペクトル)を得る。
2次元フーリエ変換による画像解析の原理については、例えば、
(1) 江前敏晴、”画像処理を用いた上の物性解析法”、紙パルプ技術タイムス、48(11)、1−5(2005)(参考文献1)、
(2) Enomae, T., Han, Y.-H. and Isogai, A., "Fiber orientation distribution of paper surface calculated by image analysis," Proceedings of International Papermaking and Environment Conference, Tianjin, P.R.China(May 12-14), Book2, 355-368(2004)(参考文献2)、
(3) Enomae, T., Han, Y.-H. and Isogai, A., "Nondestructive determination of fiber orientation distribution of fiber surface by image analysis," Nordic Pulp Research Journal 21(2): 253-259(2006)(参考文献3)、
(4)http://psl.fp.a.u-tokyo.ac.jp/hp/enomae/FiberOri/(2011年4月現在)(参考URL1)、
などに詳細に記載されている。
【0032】
[2.5. A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比の算出:手順(e)〜(g)]
次に、3つの前記パワースペクトルを、それぞれ極座標関数化し、平均振幅Aの角度(方向)依存性の関数A
ave.(θ)を求める(0°≦θ≦180°)(手順(e))。極座標関数化では、以下の処理を行う。パワースペクトルにおいて、X軸方向を0°として、反時計回りの角度θに対する平均振幅Aを計算する。つまり、θを0〜180°の範囲で等分割し、各角度についてパワースペクトルの中心から端部までのフーリエ係数の振幅の平均を求める。
次いで、3つの前記A
ave.(θ)の積算値A'
ave.(θ)をグラフ化(x軸:θ、y軸:A'
ave.)し、3つの前記<1−100>方向に相当する3つのθ
i(i=1〜3)において、それぞれ、バックグラウンドB.G.(θ
i)に対するピーク値A'
ave.(θ
i)の比(=A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比)を算出する(手順(f))。このようにして得られた3つの前記A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比がすべて1.1以上であるときは、3つの前記測定領域に対応する前記ウェハ上の領域を「配向領域」と判定する(手順(g))。
【0033】
図3(a)に、デジタル化されたX線トポグラフ画像(基底面転位像)の一例を示す。このデジタル画像を2次元フーリエ変換し、パワースペクトルを求める(
図3(b))。パワースペクトルを極座標の関数とし、ある角度(周期性の方向)に関し、振幅の平均値を求め、平均振幅の角度(方向)依存性の関数A
ave.(θ)を求める(
図3(c))。この処理を3つの回折条件で得られた基底面転位像についてそれぞれ行い、得られた3つの平均振幅の角度依存性の関数A
ave.(θ)を積算する。
【0034】
積算値A'
ave.(θ)のグラフにおいて、<1−100>方向に相当する3つのθ
i(i=1〜3)において、それぞれ、バックグラウンドB.G.(θ
i)に対するピーク値A'
ave.(θ
i)の比(=A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比)を算出する。
「バックグラウンドB.G.(θ
i)」とは、θ
iの位置におけるx軸からバックグランド線までの距離をいう。「バックグランド線」とは、θ
i近傍における積算値A'
ave.(θ)のグラフの下端に接する接線をいう(
図11参照)。
【0035】
適切な画像処理を行うことにより、<1−100>方向に相当する3つのθ
i(i=1〜3)において、それぞれ明確なピークを示すときは、その測定領域に対応するウェハ上の領域を「配向領域」と判定する。「明確なピーク」とは、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比(i=1〜3)が1.1以上であることをいう。
フーリエ変換では、現実の配向方向に対して垂直な方向にピークが現れる。SiCなどの六方晶系の結晶構造では、<11−20>方向に垂直な方向は、<1−100>方向となる(
図2(b))。すなわち、フーリエ変換により<1−100>方向にピークが現れることは、基底面転位が<11−20>方向に配向していることを表す。また、配向強度B(=3つのA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比の平均値)が大きいことは、基底面転位の<11−20>方向への配向性が高いことを表す。
【0036】
[2.6. 2次元フーリエ変換の詳細な説明]
音波、電磁波、地震波などの波は、大きさ(振幅)、周波数、及び位相が異なる三角関数波(sin、cos)の組み合わせで表すことができる。同様に、
図4に示すように、画像(
図4(a))も、種々の方向の周期性と種々の周波数を有する三角関数波(
図4(b)〜
図4(k))の重ね合わせで表現することができる。
音波などのフーリエ変換は、ある周波数の三角関数波の位相と振幅の情報を有するフーリエ係数を求めることである。同様に、画像のフーリエ変換とは、画像を輝度の二次元座標における関数とした際に、
(a)2次元座標におけるある方向の周期性、及び、
(b)ある周波数の三角関数波の、位相と振幅の情報を有するフーリエ係数、
を求めていくことである。
【0037】
N×N画素の大きさの画像f(x、y)についてのフーリエ変換F(k
x、k
y)は、次の(1)式で表される。なお、fは座標(x、y)における輝度であり、デジタル画像をビットマップ化し、画像データから各点の輝度の情報を取り出すことによって求められる。kは、周波数である。
【数1】
【0038】
(1)式で計算されるフーリエ係数F(k
x、k
y)は、一般に複素数であり、F(k
x、k
y)=a+ibの複素平面上の点として表される。複素平面上において、原点とa+ibを結ぶ線と実数軸とのなす角度は、画像の中心から座標(x、y)の方向に周期を持つ、その周波数の三角関数の位相を意味する。原点からa+ibまでの距離である√(a
2+b
2)は、その三角関数波の振幅Aを表す。
位相の情報を取り除いた振幅A=√(a
2+b
2)を、周波数の大きさと周期性の方向を意味するマップ上にプロットしたものをパワースペクトル(
図5(a))(フーリエ係数の振幅Aのスペクトル)という。パワースペクトル中において、各座標は、中心に近いほど、波長の長い粗い周期性を示す。また、辺に近い周囲部のピークは、波長の短い細かい周期性の存在を意味する。画像の一辺の長さを中心からの距離で割った商が、その周期性の波長になる。また、原点からその座標までの方向は、この周期性が繰り返される方向を意味する。各座標の輝度は、その三角関数波の振幅を表す。
【0039】
例えば、規則的に配列した粒子などの画像を二次元フーリエ変換し、パワースペクトルを求めると、明確なスポットが現れ、特定の周期性の方向の特定の周波数の寄与が顕著に検出できる。一方、二次元フーリエ変換が適用できるのは、規則性のある画像だけでなく、繊維などの配向性を調べることや、繊維だけではなく向きや流れが見えるすべての画像についてその方向や方向性の強さを調べることができる(参考文献1〜3参照)。そのようなパワースペクトルでは、中心からある距離における明確なスポットではなく、スペクトルの中心から非等方的に扁在したぼやけた強度分布が観察される。画像中の繊維の配向性が小さいと、等方的なパワースペクトルになる。一方、一軸の配向性が強いと、パワースペクトル中に配向方向と直交方向に大きく扁平した楕円やピークが現れる。
【0040】
ここで、パワースペクトルの各座標における振幅Aを、極座標の関数A(θ、r)で表す(
図3(b))。ここで、θは、スペクトルの中心とその座標とを結ぶ線と、水平方向の線とのなす角度である。また、rは、スペクトルの中心からその座標までの距離を表す。
A(θ、r)を、ある一定θに関してすべてのrで平均化し、平均振幅のθ依存性A
ave.(θ)を求める。その際、θは、0°〜180°の範囲とする。これは、180°〜360°は、0°〜180°と同じになる性質があるためである。具体的には、2次元フーリエ変換後、0〜180°の角度を等分割し、各角度θについて距離rに位置するフーリエ係数の振幅A(rcosθ、rsinθ)を求め、rに関してその平均値Aave.(θ)を求める。これは、(2)式で表される。
【数2】
前述のように、パワースペクトルに大きく扁平した楕円やピークが現れると、A
ave.(θ)は、特定のθにおける値が極大となったり、急峻なピークを示す。そのような極大値や急峻なピークが現れるθは、フーリエ変換前の画像中の配向方向と直交する方向のθである。
【0041】
配向の強度を求める方法としては、A
ave.(θ)を極座標グラフとして描かせた際に曲線を楕円近似し、その長軸/短軸比とすることもある(参考文献1〜3)。しかし、本発明で得られた基底面転位像のフーリエ変換では、A
ave.(θ)は、比較的シャープな極大値を示し、また一軸配向ではないため、通常の繊維配向の場合のような楕円近似は適用できない。
【0042】
そこで、本発明においては、2次元フーリエ変換により得られたA
ave.(θ)について、以下に示すような特別の手順を踏むことにより基底面転位の配向性を評価する。
(1){0001}面内における、結晶学的に等価で角度の異なる3つの{1−100}面について、{1−100}面回折によるX線トポグラフを行い、3つの基底面転位のX線トポグラフ像を得る。X線トポグラフ像から、{1−100}面回折に対応する3つのA
ave.(θ)を求める。
(2)フーリエ変換で求めた3つのA
ave.(θ)の積算値A'
ave.(θ)を求める。
(3)積算値A'
ave.(θ)をグラフ化した際に、A'
ave.(θ)が<1−100>方向に相当する3つのθにおいて、それぞれ明確なピークを示した場合には、基底面転位が<11−20>方向に配向していると判定する。
【0043】
[2.7. 使用した2次元フーリエ変換ソフト]
本発明において、基底面転位像をフーリエ変換するために、参考文献1〜3の著者らが開発したFiber Orientation Analysis Ver.8.13を用いた。このフーリエ変換ソフトの処理内容は、画像データから各点の輝度の情報を取り出し、フーリエ変換処理を行い、パワースペクトルとA
ave.(θ)を求めるものである。詳細な手順は、参考文献1〜3及び参考URL1に記載されている。このソフトで画像をフーリエ変換処理するためには、輝度の数値情報を取り出すために画像を予めビットマップ化する。さらに高速フーリエ変換を行うために、画像の一辺のピクセル数が4の整数倍となるように予め調整する。
【0044】
フーリエ変換処理は、一義的に決まったものであるため、同様の処理を行うことができるものであれば、ソフトは何でも良い。ただし、配向性評価のために開発された本ソフトでは、A
ave.(θ)を求めることができるのが特徴である。他のソフトで、A
ave.(θ)を自動的にすることができない場合には、輝度を(x、y)座標にマッピングしたものであるパワースペクトルを用いて、(2)式に従って同様の計算をする必要がある。
【0045】
[3. SiC単結晶の製造方法]
本発明に係るSiC単結晶は、種々の方法により製造できるが、例えば、以下の条件を満たすSiC種結晶を用いて、SiC種結晶の表面に新たな結晶を成長させることにより製造することができる。
(1)SiC種結晶は、複数個の副成長面からなる主成長面を備えている。
(2)前記SiC種結晶の主成長面上にある{0001}面最上位部から前記主成長面の外周に向かう任意の方向の中に、複数個の前記副成長面を有する方向(主方向)が存在する。
(3)前記主方向に沿って、{0001}面最上位部側から外周に向かって存在する前記副成長面を、順次、第1副成長面、第2副成長面、…第n副成長面(n≧2)とする場合、第k副成長面(1≦k≦n−1)のオフセット角θ
kと第(k+1)副成長面のオフセット角θ
k+1との間に、θ
k<θ
k+1の関係が成り立つ。
【0046】
ここで、「主成長面」とは、SiC種結晶の露出面の内、その法線ベクトルaが坩堝中心軸原料方向成分を有する面をいう。昇華析出法において「坩堝中心軸原料方向」とは、SiC種結晶から原料に向かう方向であって、坩堝の中心軸に対して平行な方向をいう。換言すれば、「坩堝中心軸原料方向」とは、SiC単結晶のマクロな成長方向を表し、通常は、SiC種結晶の底面又はこれを固定する種結晶台座の底面に対して垂直な方向をいう。
「副成長面」とは、主成長面を構成する個々の面をいう。副成長面は、平面であっても良く、あるいは、曲面であっても良い。
「オフセット角θ」とは、副成長面の法線ベクトルaと、SiC種結晶の{0001}面の法線ベクトルpとのなす角をいう。
「{0001}面傾斜角β」とは、坩堝中心軸原料方向ベクトルqと、SiC種結晶の{0001}面法線ベクトルpとのなす角をいう。
「副成長面傾斜角α」とは、坩堝中心軸原料方向ベクトルqと副成長面の法線ベクトルaとのなす角をいう。
「オフセット方向下流側」とは、{0001}面の法線ベクトルpを副成長面上に投影したベクトルbの先端が向いている向きとは反対向きの側をいう。
【0047】
図6(a)に、上述した条件を満たすSiC種結晶の断面図の一例を示す。
図6(b)に、このSiC種結晶12bを用いて製造されたSiC単結晶の断面図を示す。
図6(a)において、SiC種結晶12bは、断面が矩形で、左上角に傾斜角の異なる2つの傾斜面X
2X
3、X
3X
4が設けられている。また、SiC種結晶12bは、{0001}面傾斜角β>0である、いわゆるオフセット基板である。
{0001}面最上位部は、X
3点である。X
3X
4面の副成長面傾斜角α
1は、α
1≦βになっている。また、X
4X
5面の副成長面傾斜角α
2は、ゼロである。X
5点は、主成長面外周の内、X
3点からの距離が最も長い点であると同時に、{0001}面最下位部でもある。
【0048】
X
1X
2面及びX
5X
6面は、その法線ベクトルが、それぞれベクトルqと垂直である。また、X
1X
6面は、坩堝又は種結晶台座(図示せず)に接する面である。従って、主成長面は、X
2X
3面+X
3X
4+X
4X
5面である。また、{0001}面最上位部X
3点から主成長面外周のX
5点に向かう方向は、複数個の副成長面を有する方向(主方向)となる。主方向に沿って存在する副成長面の内、{0001}面最上位部を含む副成長面は、X
3X
4面であり、これが第1副成長面となる。第2副成長面は、X
4X
5面であり、θ
1<θ
2になっている。
SiC種結晶12bは、螺旋転位をほとんど含まない。螺旋転位を含まないSiC単結晶は、例えば特許文献1に記載のように、{0001}面に略垂直な成長面を有する種結晶を用いて、成長させることにより得られる。そのため、X
2X
3面及びX
3X
4面の表面には、螺旋転位発生領域(
図6(a)中、太線で表示)が形成されている。
螺旋転位発生領域は、
(1)螺旋転位を含むSiC種結晶を用いて、1回以上のa面成長を行った後、螺旋転位を含む領域が成長面上に残るように、c軸とほぼ垂直な面を成長面として露出させる方法(螺旋転位残存法)、
(2)c面から8°傾く面を成長面として露出させたSiC種結晶を切り出し、成長面のオフセット方向の端部に、成長面から10〜20°傾く研削面を形成する方法(研削法)、
(3)相対的に高い螺旋転位密度を持つSiC種結晶(高転位密度種結晶)と、相対的に螺旋転位密度が低いSiC種結晶(低転位密度種結晶)とを、成長面が同一面内配置されるように並べる方法(貼り合わせ法)、
(4)種結晶の成長面の一部に、螺旋転位を形成するための後退部(傾斜面、段差、曲面、錐形状のへこみ、くさび形の切り欠きなど)を形成し、後退部上にSiC単結晶を予備成長させる方法(予備成長法)、
などがある(特許第3764462号公報、特開2010−235390号公報参照)。
【0049】
図6(a)に示すように、SiC種結晶12bの主成長面のオフセット角を部分的に変化させ、これを用いてSiC単結晶を成長させると、成長結晶内において、螺旋転位や基底面内刃状転位の漏れ出しを抑制したり、螺旋転位密度分布を制御することができる。
すなわち、第1副成長面(X
3X
4面)のオフセット角θ
1を相対的に小さくすると、第1副成長面上又はその近傍に露出している種結晶中の螺旋転位は、ほぼ成長結晶に引き継がれる。その結果、第1副成長上又はその近傍にあるc面ファセット内に螺旋転位を確実に供給することができ、これによって、成長結晶中での異種多形や異方位結晶の発生が抑制される。また、オフセット角θ
1をより小さくすることで、螺旋転位や基底面内刃状転位の成長結晶におけるオフセット方向下流側への漏れ出しをほぼ完全に抑制できる。
一方、第2副成長面(X
4X
5面)のオフセット角θ
2を相対的に大きくすると、第2副成長面上に露出している種結晶中の螺旋転位は、成長結晶にそのまま引き継がれる確率が小さくなり、基底面刃状転位に変換されやすくなる。基底面刃状転位は、そのままオフセット方向の下流側(X
5点側)に流れやすい性質を持つ。その結果、第2副成長面上の成長結晶中の螺旋転位密度を低減することができる。また、新たな螺旋転位の発生を抑制しやすくなる。
【0050】
また、SiC種結晶12bは、{0001}面最上位部X
3が主成長面の内側になるように、傾斜面X
2X
3、X
3X
4が設けられている。そのため、これを用いて成長させると、
図6(b)に示すように、成長結晶が径方向に拡大しても、c面ファセットが高密度の螺旋転位領域から外れるおそれが少ない。その結果、一時的な螺旋転位密度の低下に起因する異種多形の発生を抑制することができる。
【0051】
さらに、c面に略垂直な面を成長面として成長させた単結晶からこのような形状のSiC種結晶12bを切り出し、これを用いてSiC単結晶を成長させると、成長結晶中に残った基底面転位が<11−20>方向に配向しやすくなる。また、実質的に積層欠陥を含まない領域を含むSiC単結晶が得られる。これは、種結晶自体に基底面転位の発生源となる転位や、積層欠陥に変換する螺旋転位が少ない上に、種結晶端部に形成した螺旋転位発生領域からの螺旋転位の漏れ出しもほとんどなく、基底面転位と螺旋転位の絡み合いもほとんど生じないためと考えられる。
【0052】
[4. SiCウェハ]
本発明に係るSiCウェハは、本発明に係るSiC単結晶から、{0001}面に略平行に切り出されたものからなる。
ウェハの表面は、{0001}面に対して完全に平行である必要はなく、{0001}面から若干傾いていても良い。許容される傾きの程度(オフセット角)は、ウェハの用途により異なるが、通常、0〜10°程度である。
【0053】
得られたウェハは、そのままの状態で、又は、表面に薄膜を形成した状態で、各種の用途に用いられる。例えば、ウェハを用いて半導体デバイスを製造する場合、ウェハ表面には、エピタキシャル膜が成膜される。エピタキシャル膜としては、具体的には、SiC、GaNなどの窒化物、などがある。
【0054】
[5. 半導体デバイス]
本発明に係る半導体デバイスは、本発明に係るSiCウェハを用いて製造されるものからなる。半導体デバイスとしては、具体的には、
(a)LED、
(b)パワーデバイス用のダイオードやトランジスタ、
などがある。
【0055】
[6. SiC単結晶、SiCウェハ及び半導体デバイスの作用]
SiC単結晶をc面成長させる場合において、表面のオフセット角が特定の条件を満たす種結晶を用いると、基底面転位の直線性が高く、基底面転位が安定な<11−20>方向に高度に配向したSiC単結晶が得られる。
このようなSiC単結晶から{0001}面に略平行にウェハを切り出すと、ウェハ表面に露出する基底面転位の数が相対的に少なくなる。そのため、このようなウェハを種結晶に用いてSiC単結晶を成長させ、あるいは、ウェハ表面にエピタキシャル膜を成膜しても、成長結晶又はエピタキシャル膜に承継される転位の数も少なくなる。
また、このようなSiC単結晶を用いて半導体デバイスを作製すると、湾曲した基底面転位が使用中に分解することによる積層欠陥の形成、及び、これに起因するデバイス特性の劣化を抑制することができる。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
c面に略垂直な面を成長面として成長させたSiC単結晶から、直前の成長面及びc面の両方に略垂直な面を成長面とする種結晶を取り出し、これを用いて再び成長することを繰り返した。得られたSiC単結晶からc面オフセット基板を取り出し、
図6(a)に示す形状に加工した。成長面上のX
2X
3面及びX
3X
4面には、螺旋転位発生領域が形成されている。これを用いて、昇華再析出法によりSiC単結晶を作製した。得られた単結晶を{0001}面に略平行(オフセット角:8°)に切断し、表面の平坦化処理及びダメージ層除去処理を行うことで、厚さ500μmのウェハを得た。ダメージ層は、CMP処理により除去した。
【0057】
[2. 試験方法]
[2.1. X線トポグラフ測定]
結晶学的に等価であり、60°づつ面方位の異なる(−1010)面、(1−100)面、及び(01−10)面の3つの面について、{1−100}面回折像を測定し、感光フィルムにX線トポグラフ像を得た。得られた3つのX線トポグラフ像には、{0001}面内に直線的に伸びる基底面転位像が観察された。
X線トポグラフの測定条件は、以下の通りである。
X線管: Moターゲット
電圧電流: 60kV
電圧電流: 300mA
{1−100}面回折(2θ:15.318°)
第2スリットの幅: 2mm
走査速度: 2mm/sec
走査回数: 300回
【0058】
[2.2. 画像の前処理]
これらのX線トポグラフ像をスキャナで取り込むことで、デジタル化した。取り込み条件はグレースケール、解像度は約1000ピクセル/cmとした。デジタル化したX線トポグラフ像の中央部付近から、1辺の長さLが10〜20mmである正方形の測定領域を抜き出し、基底面転位部分が最も暗く、無転位部分が最も明るくなるように、階調のレベル補正を行った。画像の一辺のピクセル数が512ピクセルになるように画像の解像度を落とし、ビットマップ形式の画像ファイルに変換した。
【0059】
[2.3. フーリエ変換による配向性測定]
前処理を行った3つのデジタル画像を、フーリエ変換ソフトであるFiber Orientation Analysis Ver.8.13を用いて処理し、それぞれパワースペクトルと、A
ave.(θ)を求めた。さらに、3つの画像に対して得られたA
ave.(θ)を積算した。さらに、積算値A'
ave.(θ)を用いて、<1−100>方向に相当する3つのθ
i(i=1〜3)におけるA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比、及び、配向強度Bを求めた。
【0060】
[3. 結果]
図7〜
図9に、それぞれ、実施例1で得られた単結晶について測定されたX線トポグラフ像の中央部から抜き出した10mm角の測定領域の画像、並びに、そのパワースペクトル及びA
ave.(θ)を示す。なお、
図7は(−1010)面回折に、
図8は(1−100)面回折に、
図9は(01−10)面回折に、それぞれ対応する。図の上方向がオフセット下流方向であり、[−1010]方向から、[−1−120]方向に数度傾いた方向である。
図7〜
図9より、パワースペクトルには、<1−100>方向に相当する方向に明確な筋が認められることがわかる。
【0061】
図10(d)に、
図7〜
図9で得られた3つのA
ave.(θ)(
図10(a)〜
図10(c))の積算値A'
ave.(θ)を示す。また、
図11に、積算値A'
ave.(θ)からA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比を算出する方法の一例を示す。
図10(d)より、実施例1で得られた単結晶は、<1−100>方向に相当する3つのθにおいて、明確なピークを示すことがわかる。
図11に示すように、[−1100]方向に相当するθ
iでは、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比は、1.82であった。[−1010]方向に相当するθ
iでは、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比は、1.54であった。さらに、[0−110]方向に相当するθ
iでは、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比は、1.43であった。これらの結果から、基底面転位は、3つの<11−20>方向に配向していることがわかった。さらに、これらの平均である配向強度Bは、1.60であった。また、オフセット下流方向となす角度が最も小さい<11−20>方向である[−1−120]方向の基底面転位に起因するピークが最大であった。
【0062】
同様の処理を、12mm角領域、14mm角領域、16mm角領域、18mm角領域、及び、20mm角領域について行い、それぞれ、積算値A'
ave.(θ)を求めた。得られた積算値A'
ave.(θ)から、<1−100>方向に相当する3つのθ
i(i=1〜3)におけるA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比、及び、配向強度Bを求めた。表1に、その結果を示す。
実施例1の場合、測定領域の大きさによらず、<1−100>方向に相当する3つのθ
iにおいて、明確なピークを示した。また、測定領域が大きくなるに従い、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比が小さくなった。これは、測定領域が大きくなると、相対的に基底面転位が不鮮明になるためである。
【0063】
【表1】
【0064】
X線トポグラフ像を複数の10mm角領域に区分し、同様に配向強度を求めた。その結果、中央領域を含む90%以上の面積率において、1.5以上の高い配向強度を示した。一方、螺旋転位発生領域における配向強度は、低い値を示した。
図12(a)に、ファセットから離れた領域でのX線トポグラフ像及び配向強度を示す。また、
図12(b)に、ファセット近傍の領域でのX線トポグラフ像及び配向強度を示す。
図12より、ファセット近傍においては、基底面転位の直線性及び配向性が低下していることがわかる。
【0065】
(比較例1)
[1. 試料の作製]
c面に略垂直な面を成長面として成長させたSiC単結晶から、直前の成長面及びc面の両方に略垂直な面を成長面とする種結晶を取り出し、これを用いて再び成長することを繰り返した。得られたSiC単結晶からc面オフセット基板を取り出した。なお、
図6(a)に示すような加工(X
3X
4面がX
4X
5面よりオフセット角が小さくなるような加工)は施さなかった。また、X
2X
3面及びX
3からオフセット下流側への一定部分(
図6(a)におけるX
4までに相当する部分)まで、螺旋転位発生領域が形成されている。このc面オフセット基板を用いて、SiC単結晶を製造した。なお、非特許文献5に記載された結晶のX線トポグラフは、本願発明者が入手することができたX線トポグラフ像であって、基底面転位像の配向性と直線性が最も高く、結晶が高品質であると考えられるものである。得られた単結晶から、実施例1と同様の手順に従い、ウェハを作製した。
[2. 試験方法]
実施例1と同様の手順に従い、<1−100>方向に相当する3つのθ
iにおけるA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比、及び、配向強度Bを求めた。
【0066】
[3. 結果]
図13に、比較例1で得られた単結晶について測定されたX線トポグラフ像の中で、結果的に基底面転位の配向強度が最も高い値となった部分における10mm角の測定領域の画像、並びに、そのパワースペクトル及びA
ave.(θ)を示す。なお、
図13は、(−1010)面回折に対応する。
図13(b)に示すように、パワースペクトルでは、<1−100>方向に相当する方向には、明確な筋が認められなかった。
【0067】
積算値A'
ave.(θ)は、<1−100>方向に相当する3つのθ
i(i=1〜3)の内、[−1100]方向と[0−110]方向の2つのθ
iにおいてピークを示した。しかしながら、そのA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比は、相対的に小さかった。また、[−1010]方向に相当するθ
iでは、明確なピークを示さなかった。[−1100]方向に相当するθ
iでは、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比は、1.18であった。[−1010]方向に相当するθ
iでは、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比は、1.03であった。さらに、[0−110]方向に相当するθ
iでは、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比は、1.27であった。これらの結果から、基底面転位の<11−20>方向への配向性が低いことがわかった。さらに、これらの平均である配向強度Bは、1.16であった。
【0068】
同様の処理を、12mm角領域、14mm角領域、16mm角領域、18mm角領域、及び、20mm角領域について行い、それぞれ、積算値A'
ave.(θ)を求めた。得られた積算値A'
ave.(θ)から、<1−100>方向に相当する3つのθ
iにおけるA'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比、及び、配向強度Bを求めた。表2に、その結果を示す。
比較例1の場合、測定領域の大きさによらず、<1−100>方向に相当する3つθ
iの内、いずれか1以上のθ
iにおいて、明確なピークを示さなかった。また、測定領域が大きくなるに従い、A'
ave.(θ
i)/B.G.(θ
i)比が小さくなった。もちろん、他の区分領域における配向強度は、測定領域の大きさを統一して比較した場合に、いずれもこれらより小さな値となった。
【0069】
【表2】
【0070】
図14に、実施例1及び比較例1で得られた単結晶の配向強度Bの測定領域サイズ依存性を示す。測定領域の1辺の長さL(mm)をx軸とし、配向強度Bをy軸として、各測定領域の大きさにおける配向強度Bをプロットすると、実施例1及び比較例1のいずれも、LとBの関係を直線で近似できることが分かった。実施例1の場合、y=−0.041x+2.01の直線近似式が得られた。また、比較例1の場合、y=−0.011x+1.27の直線近似式が得られた。測定領域が大きくなるほど配向強度Bが低下するのは、測定領域が大きくなるほど、X線トポグラフ像中の基底面転位が不鮮明になるためと考えられる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。