【実施例】
【0011】
(実施例1)
以下に、本発明に係るモード同期レーザ光源装置の実施例を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明に係るモード同期レーザ光源装置を備えた光干渉断層撮影装置の要部構成を示す模式図である。
【0012】
その
図1において、1は半導体光増幅器(SOA)、2は光アイソレータ、3は掃引用変調部、4はサーキュレータ、5は分散補償器である。その半導体光増幅器1とアイソレータ2と掃引用変調部3とサーキュレータ4と分散補償器5とはリング共振器6を構成している。
【0013】
半導体光増幅器1は導波路構造体1aを有する。その導波路構造体1aの一端面が入射端面1bとされ、その導波路構造体1aの他端面が射出端面1cとされている。
その導波路構造体1aに注入電流Iが注入されて、導波路構造体1aにキャリアが生成される。その導波路構造体1aの入射端面1bに入射する光パルスによる誘導放出現象により、そのキャリアが消費される。その結果、レーザ光のパルスが増幅され、そのレーザ光のパルスが射出端面1cから射出される。
ここでは、半導体光増幅器1には、利得3−dB、幅80.6nmのSOAモジュールが用いられている。
【0014】
その射出端面1cから射出されたレーザ光Pのパルスは、光を一方向だけ通過させ、戻り光を遮断する光学素子としての光アイソレータ2を経由して掃引用変調部3に導かれる。その光アイソレータ2には、例えば、偏光依存型アイソレータ、偏光無依存型アイソレータを用いる。
【0015】
掃引用変調部3は、この掃引用変調部3に入射するレーザ光Pのパルスの強度又は位相を変調する機能を有するものを用いることができ、ここでは、強度を変調する電気光学変調器(Electro-Optic Modulator;EOM)を用いる。
【0016】
サーキュレータ4には、ここでは、3ポートを有するものが用いられる。このサーキュレータ4の第1ポート4aには掃引用変調部3から出力されるレーザ光Pのパルスをサーキュレータ4に導光する射出用導光ファイバ7が接続されている。
【0017】
そのサーキュレータ4の第2ポート4bには、分散補償器5が接続されている。この分散補償器5には、
図2に概念的に示すリニアチャープファイバーブラッググレーティング(LC−FBG)が用いられる。
【0018】
このリニアチャープファイバーブラッググレーティングは、パルス中の低周波成分と高周波成分の反射位置がリニアに異なるようにグレーティングの周期が変化しているファイバーブラッググレーティングであり、ファイバー内に回折格子を形成することによって構成されている。
【0019】
ここでは、このリニアチャープファイバーブラッググレーティングのチャープレートは、10nm/cm、ピーク反射率は70%、反射率の3−dB幅は60nm(すなわち、1520nmから1580nm)のものを用いる。
【0020】
このリニアチャープファイバーブラッググレーティングは、その向きによって正常分散、異常分散の両特性を有し、リニアチャープファイバーブラッググレーティングのサーキュレータ4の第2ポート4bの接続の仕方によって正常分散領域、異常分散領域での使用が変更される。
【0021】
すなわち、このリニアチャープファイバーブラッググレーティングは、長波長のパルス成分が先に反射されかつ短波長のパルス成分が後から反射される正常分散領域での使用と、短波長のパルス成分が先に反射されかつ長波長のパルス成分が後から反射される異常分散領域での使用とを行うことができる。
【0022】
この実施例1では、短波長のパルス光成分が先に反射されかつ長波長のパルス光成分が後から反射されるという異常分散領域で使用するため、リニアチャープファイバーブラッググレーティングが第2ポート4bに接続されており、
図1、
図2において、5dは入射側端面、5eは透過側端面を示している。
【0023】
そのサーキュレータ4の第3ポート4cは、リニアチャープファイバーブラッググレーティングにより反射されたレーザパルス光を半導体光増幅器1に帰還する帰還用導光ファイバ8に接続されている。
【0024】
そのリニアチャープファイバーブラッググレーティングの透過側端面5eから出力されるレーザ光Pのパルスはアイソレータ9を介して後段の光干渉断層撮影装置の光学系10に導かれるものであるが、この実施例1では、実験結果の評価のため、図示を略すカップラを介して図示を略す干渉計とオシロスコープとに接続される。
【0025】
なお、光干渉断層撮影装置の光学系10に用いるレーザ光(パルス光)Pの波長帯域幅は1μm程度であるが、ここでは、実験のためにパルス光の波長帯域幅として異なるものが用いられている。
【0026】
ここでは、リング共振器6の共振器長Lは、高速掃引を行うため、約2.7mとされている。このリング共振器6は、分散特性を有するため、m次の共振周波数fは、以下の式を用いて表される。
f(λ)=m・c/{n・(L+2L
f(λ))}
【0027】
ここで、符号mは正の整数であり、f(λ)は波長λにおけるm次の共振周波数、符号cは真空中の光速、符号L
f(λ)はリニアチャープファイバーブラッググレーティングの長さ、符号nはこのリング共振器6を構成する射出用導光ファイバ7、帰還用導光ファイバ8、リニアチャープファイバーブラッググレーティングの等価屈折率であり、屈折率nは一定として計算した。
【0028】
ここで、波長λ
0の共振周波数をL
f(λ
0)=0として表すと、波長λ
0の共振周波数f(λ
0)は、
f(λ
0)=(m・c)/(n・L)
このとき、波長λ1における共振周波数f(λ
1)は、チャープレートをAとすると、
f(λ
1)=m・c/{n・(L+2(λ
1−λ
0)/A)}
【0029】
上記式をテーラー展開して近似すると、2つの波長間の共振周波数差Δfは、以下の式を用いて表される。
Δλ=(L・A)・Δf/2f(λ
0)
ただし、Δλ=λ
1−λ
0
【0030】
この式により、リング共振器6内の強度変調により、発振波長を変化せることが理解できる。すなわち、リング共振器6を伝播するレーザ光(パルス光)Pのピーク強度を変更することにより、発振波長が変化される。
【0031】
また、波長掃引幅であるフリースペクトルレンジ(Free Spectral Range;FSR)は、以下の式により表される。
FSR=(c・A)/(2・n・f)
【0032】
半導体光増幅器1には、注入電流制御部11から一定の電流Iが注入される。半導体光増幅器1には、電流Iが注入されるとキャリアが生成され、レーザ光Pのパルスの入射によりそのキャリアが消費されて、レーザ光Pのパルスを増幅すると共にそのキャリアの密度変化によりレーザ光のパルス強度に依存する自己位相変調と等価な位相変調が生じる。
【0033】
図3はその半導体光増幅器1の入射端面1bに入射するレーザ光Pのパルスの波形とその半導体光増幅器1の射出端面1cから射出されるレーザ光Pのパルスの波形とを示している。その
図3において、符号P1は入射端面1bに入射するレーザ光Pのパルス波形であり、符号P2はその射出端面1cから射出されるレーザ光Pのパルス波形であり、横軸は時間、縦軸は規格化されたレーザ光Pのパルスの強度を示している。
【0034】
その
図3においては、入射端面1bに入射するレーザ光(パルス光)Pの半導体光増幅器1への入射パルス幅τpを用いて時間軸を規格化している。この
図3には、半導体光増幅器1の入射端面1bに入射するレーザ光Pのパルス波形P1は時間軸に関して正規分布をしているものとして、半導体光増幅器1の射出端面1cから射出されるレーザ光Pのパルス波形P2が描画されている。
【0035】
半導体光増幅器1がレーザ光のパルス強度に依存する自己位相変調と等価な位相変調を起こすと、パルスの立ち上がりで周波数が減少し(波長が長くなり)、パルスの立ち下がりで周波数が高くなる(波長が短くなる)。なお、このようなパルスの立ち上がりから立ち下がりにかけての周波数の変化をチャープという。
【0036】
図4はその周波数のチャープを視覚的に理解しやすく描画した図であり、横軸は時間軸であり、縦軸は、周波数のチャープを示している。
その
図4から、パルス波形P2の立ち上がり部分P2’(
図3参照)では、
図4に示す基準値を「0」として周波数がマイナス「−」側に変化しているので、赤方にシフトし、パルス波形P2の立ち下がり部分P2"では基準値を「0」としてプラス側「+」に変化しているので、青方にシフトしていることが見てとれる。
【0037】
このような自己位相変調(Self Phase Modulation;SPM)と等価な位相変調が生じると、正常分散領域では、波長の長い立ち上がり部分P2’の周波数成分の伝播速度は速く、波長の短い立ち下がり部分P2”の成分の伝播速度は遅いため、パルスの時間軸幅が広がる。
また、SPMと等価な位相変調は、正常分散により発生する時間軸上での位相変調と同符号であるため、パルスの波長幅はSPMと等価な位相変調の影響により広がる。
【0038】
これに対して、異常分散領域では、パルス波形P2の立ち上がり部分P2’の伝播速度が遅く、パルス波形P2の立ち下がり部分P2”の伝播速度が速く伝播する。
すなわち、長波長側であるパルス波形P2の立ち上がり部分P2’が周回する時間は長くかかる。これに対して、短波長側であるパルス波形P2の立ち下がり部分P2”が周回する時間は短い。
【0039】
異常分散領域でも、波長分散によりパルス幅が広がるが、このとき、自己位相変調(SPM)と等価な半導体光増幅器1の位相変調は、レーザ光のパルスを圧縮する方向に機能する。
【0040】
また、SPMと等価な位相変調は、異常分散により発生する時間軸上での位相変調と符号が異なるため、SPMと等価な位相変調による波長広がりを抑制できる。そのため、異常分散とSPMと等価な位相変調の量を調整することによりスペクトル分布を任意に変えることができる。
【0041】
すなわち、異常分散領域における波長分散によるレーザ光のパルスの広がりと半導体光増幅器1の非線形効果によるレーザ光のパルス圧縮の効果が釣り合うような状態になると、レーザ光Pのパルスが波形を保持したまま伝播するという光ソリトンの発生と同様な効果が生じる。
【0042】
図5は、正常分散領域におけるレーザ光のパルス波形と異常分散領域におけるパルス波形とを描画した図であって、この
図5において、横軸は時間軸であり、縦軸は、規格化したレーザ光の強度であり、符号Q1は正常分散領域における射出パルス波形を示し、符号Q2は異常分散領域における射出パルス波形を示している。
【0043】
図6は、
図5に示す両射出パルス波形の波長特性を示し、符号Q1’は分散補償器5を正常分散領域で用いた場合の波長特性(スペクトル分布)を示し、符号Q2’は分散補償器5を異常分散領域で用いた場合の波長特性(スペクトル分布)を示している。
【0044】
この
図6から明らかなように、分散補償器5を異常分散領域で用いた場合の波長特性Q2’は、分散補償器5を正常分散領域で用いた場合の波長特性Q1’に対してスペクトル分布の狭窄化(狭線幅化)が実現されている。
【0045】
すなわち、このモード同期レーザ光源装置では、所定の電流Iが注入されると、半導体光増幅器1の射出端面1cからレーザ光Pのパルスが射出される。そして、掃引用変調部3を操作してレーザ光Pのパルス強度を変更すると、この変調されたレーザ光Pのパルス強度の光が射出用導光ファイバ7、サーキュレータ4を経由して分散補償器5に導かれる。
【0046】
そのレーザ光Pは、この分散補償器5において短波長成分が先に反射されかつ長波長成分が後から反射されて、帰還用導光ファイバ8を経由して半導体光増幅器1に戻る。このレーザ光Pがリング共振器6を周回する。その結果、この分散補償器5の異常分散領域での使用による波長分散と半導体光増幅器1によるパルス圧縮効果とにより光ソリトンと同様の効果が生じ、スペクトル分布の狭線幅化が実現される。
【0047】
この狭線幅化されたレーザ光のパルスは、その分散補償器5の透過側端面5eから取り出され、アイソレータ9を介して後段の光干渉断層撮影光学系10に導かれる。
ところで、スペクトル分布は、上記したように異常分散とSPMと等価な位相変調の量とを調整することにより変更が可能である。
【0048】
SPMと等価な位相変調の大きさを、異常分散により発生する位相変調の大きさに等しくなるように近づけると、スペクトル分布が狭まり、SPMと等価な位相変調の大きさと異常分散により発生する位相変調の大きさとの差が大きくなるように、SPMと等価な位相変調の大きさを、異常分散により発生する位相変調の大きさから遠ざけると、スペクトル幅が広がる。
【0049】
SPMと等価な位相変調は、3つの要素によって大きさを変化させることができる。その第1の要素は、半導体光増幅器1に入射するレーザ光Pのパルス強度である。レーザ光Pのパルス強度を大きくすると、SPMと等価な位相変調が大きくなる。このパルス強度は、掃引用変調部3の変調波形や分散補償器5の反射率等によって変化させることが可能である。
【0050】
第2の要素は、半導体光増幅器1への注入電流Iである。注入電流Iを大きくすると、SPMと等価な位相変調が生じやすくなる。
その第3の要素は、半導体光増幅器1の種類である。量子ドットの半導体光増幅器と量子井戸の半導体光増幅器とでは後者の方がSPMと等価な位相変調を生じやすくなる。
一方、異常分散により発生する位相変調は、分散補償器5を変更することにより、その位相変調の大きさを変更できる。
【0051】
なお、この実施例1では、掃引用変調部3に強度変調器を用いたが位相変調器を用いても良い。また、掃引用変調部3を、半導体光増幅器1の射出端面1cとサーキュレータ4の第3ポート4cとの間に配置し、光アイソレータ2を省略する構成としても良い。
【0052】
(実施例2)
図7はモード同期レーザ光源装置の実施例2を示し、この実施例2では、掃引用変調部3を半導体光増幅器1への注入電流Iをパルス制御する注入電流制御部11により構成したものであり、残余の構成要素は実施例1と同様であるので、同一構成要素に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0053】
この実施例2では、半導体光増幅器1には、パルス電流が注入電流Iとして注入され、この注入電流Iのパルス波形、周期、パルス幅、パルス電流の大きさを変更することにより、変調を発生させるものである。
【0054】
(実施例3)
図8は、モード同期レーザ光源装置の実施例3を示し、この実施例3では、リング共振器6が半導体光増幅器1の反射端面1dに対向する入・出射端面1eから射出されたレーザ光のパルスを導光・帰還する導光ファイバ12から構成されている。
【0055】
この導光ファイバ12に分散補償器5が接続されている。この分散補償器5も異常分散領域で用いられ、レーザ光Pのパルスは透過側端面5eから出力される。その分散補償器5には、リニアチャープファイバーブラッググレーティングが用いられている。
【0056】
(実施例4)
図9は、モード同期レーザ光源装置の実施例4を示し、この実施例4では、実施例3の分散補償器5としてリニアチャープファイバーブラッググレーティングを用いる代わりにボリュームホログラムを用いることにしたものである。
【0057】
この実施例4では、半導体光増幅器(SOA)として、導波路構造体1aの導光路に対して入・出射端面1eが斜めになることによりその反射を0.001%以下に抑制したものが用いられている。
【0058】
入・出射端面1eから射出されるレーザ光Pのパルスは、コリメートレンズ13により平行光束とされて、ポラライザー(偏光子)14に導かれ、ボリュームホログラムを通して異常分散領域による分散を受けた後、集束レンズ15に導かれる。その後、そのレーザ光のパルスは、導光ファイバ16に入射されて、後段の光干渉断層撮影装置の光学系10に導かれる。なお、ポラライザー14は省略可能である。
【0059】
以上、実施例では、分散補償器5として、リニアチャープファイバーブラッググレーティング又はボリュームホログラムを用いることにしたが、本発明は、これらに限られるものではなく、チャープミラーを用いても良い。