特許第6025344号(P6025344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝燃料電池システム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000002
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000003
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000004
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000005
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000006
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000007
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000008
  • 特許6025344-燃料電池およびその製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6025344
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月16日
(54)【発明の名称】燃料電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20161107BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20161107BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20161107BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M4/88 K
   H01M8/10
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-45510(P2012-45510)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-182773(P2013-182773A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年1月21日
【審判番号】不服2015-6857(P2015-6857/J1)
【審判請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】301060299
【氏名又は名称】東芝燃料電池システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 孝一
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−204624(JP,A)
【文献】 特開2006−032249(JP,A)
【文献】 特開2010−102937(JP,A)
【文献】 特開2009−026681(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0029234(US,A1)
【文献】 特開2005−116308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/02
H01M 8/08- 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担持導電性粒子およびプロトン伝導性樹脂を含むスラリーを形成し、該スラリーを乾燥した後、粉砕することにより触媒粉末を形成する工程と、
基材の面に対して垂直な方向にガスの流れを作り、該ガスの流れに従って前記触媒粉末を前記基材上に堆積させてアノード触媒層および/またはカソード触媒層を形成する工程と
を具備し、前記触媒粉末を前記基材上に堆積させてアノード触媒層および/またはカソード触媒層を形成する工程において、前記触媒粉末が1層分堆積した状態における触媒層の圧力損失が前記基材の圧力損失よりも大きいという関係を満たすことを特徴とする燃料電池におけるアノード触媒層および/またはカソード触媒層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的に、電解質膜、電極触媒層、ガス拡散層およびセパレータからなり、これら4つの部材を組み合わせてセルと呼ばれる基本構造を構成する。電極触媒層の主成分は、触媒担持導電体およびプロトンの移動のために添加される電解質である。アノード触媒層では、水素の酸化反応により電子が取り出され、プロトンが生成する。生成したプロトンは、アノード触媒層中の電解質を通って電解質膜へ移動し、カソード触媒層に供給される。カソード触媒層では、酸素の還元反応が起こり、アノード触媒層から供給されたプロトンとの反応により水が生成する。
【0003】
電気化学反応を効率よく進行させるためには、燃料電池の触媒層を均質な層とすることが重要である。触媒層にひび割れがあると、ひび割れ箇所に水がたまりやすくなり、また、触媒層の厚みが均一でないと、触媒層中に電流密度の偏りが生じる。これらの結果として、燃料電池の特性が低下するという問題が生じる。さらに、触媒層が極端に薄い部分や触媒層が無い部分が存在することによる電解質膜へのダメージも懸念される。
【0004】
そこで、従来、触媒層のひび割れ防止および厚さの均一化の課題に対し、さまざまな発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−208903号公報
【特許文献2】特開2004−95292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ひび割れがなく、厚さが均一な触媒層を有する燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、触媒担持導電性粒子およびプロトン伝導性樹脂を含むスラリーを形成し、該スラリーを乾燥した後、粉砕することにより触媒粉末を形成する工程と、基材の面に対して垂直な方向にガスの流れを作り、該ガスの流れに従って前記触媒粉末を前記基材上に堆積させてアノード触媒層および/またはカソード触媒層を形成する工程とを具備し、前記触媒粉末を前記基材上に堆積させてアノード触媒層および/またはカソード触媒層を形成する工程において、前記触媒粉末が1層分堆積した状態における触媒層の圧力損失が前記基材の圧力損失よりも大きいという関係を満たすことを特徴とする燃料電池におけるアノード触媒層および/またはカソード触媒層の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る燃料電池セルの断面図である。
図2】実施形態に係る触媒層を示す図である。
図3】実施形態に係る触媒層の作製方法の一例を示す図である。
図4】基材上に触媒層を1層分堆積させた状態を示す図である。
図5】基材上に触媒粉末を堆積させる様子を示す概念図である。
図6】基材上に触媒粉末を堆積させる様子を示す概念図である。
図7】実施例および比較例の触媒層を示す写真図である。
図8】電流密度とセル電圧の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係る燃料電池セルの断面図である。
【0011】
燃料電池セル1は、電解質膜4の両面にアノード2およびカソード3を接合した膜電極接合体を、アノードセパレータ9およびカソードセパレータ10でそれぞれ挟持した構造を有する。
【0012】
アノード2は、電解質膜4と接する側から、アノード触媒層5、アノードガス拡散層6の順番に積層されたものからなる。一方、カソード3は、電解質膜4と接する側から、カソード触媒層7、カソードガス拡散層8の順番に積層されたものからなる。
【0013】
実際に発電を行う際には、一般的に、単電池である上記燃料電池セル1を厚み方向に複数個積層して燃料電池スタックとしたものを使用する。
【0014】
以下、図1に示した燃料電池セルの各部材について詳細に説明する。
【0015】
アノード触媒層5およびカソード触媒層7(以下、両者を合わせて触媒層5,7とも称する)は、そこで実際に反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層5では水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層7では酸素の還元反応が進行する。アノード触媒層5およびカソード触媒層7は、いずれも、触媒およびプロトン伝導性を有する電解質を含有する。
【0016】
図2は、実施形態に係る燃料電池セルの触媒層を示す断面図である。触媒層5,7は、触媒粉末15を基材16の一方の面に堆積させた構造を有している。触媒粉末15は、複数個の触媒担持導電性粒子またはその凝集体が集合し、その集合体内の空隙にプロトン伝導性樹脂が入り込んだ構造を有することが好ましい。あるいは、触媒担持導電性粒子を基材16上に堆積させた後、その上にプロトン伝導性樹脂を塗布してもよい。触媒担持導電性粒子は、導電性粒子が触媒を担持した構成を有する。
【0017】
導電性粒子としては、主に直径10〜50nmのカーボンブラック、触媒としては直径数nmの白金が主に使用される。触媒としては、その他に、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム等の白金系元素の他、鉄、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブテン、ガリウム、アルミニウム等の金属、これらの合金、これら金属の酸化物もしくは複酸化物、またはその担持体等を使用できる。
【0018】
プロトン伝導性樹脂としては、フッ素系または炭化水素系の樹脂を使用することができる。フッ素系樹脂としては、デュポン製ナフィオン(登録商標)、旭化成製アシプレックス(登録商標)、旭硝子製フレミオン(登録商標)が挙げられる。プロトン伝導性樹脂は、発電の進行に伴って、アノード触媒層5から電解質膜4、カソード触媒層7へと移動するプロトンの移動度を向上させる役割を果たす。
【0019】
基材16は、通気性を有する部材であり、触媒層5,7の作製時に触媒粉末15が基材16を通り抜けることを防ぐため、網目の小さい部材を使用する必要がある。例えば、カーボンペーパ、カーボン層付カーボンペーパ、ブロッター紙、ステンレス金網等を使用することができる。
【0020】
以下に、触媒層の作製方法について説明する。
まず、触媒粉末を作製する。触媒担持導電性粒子およびプロトン伝導性樹脂を含有するスラリーを作製し、これを乾燥して粉末とする。得られた乾燥粉末を粉砕し、触媒粉末を得る。スラリー作製のための撹拌機としては、ホモジナイザ、超音波分散機、ビーズミル等を使用できる。スラリーの乾燥には、乾燥炉、スプレードライ等の加熱乾燥、エバポレータ、フリーズドライ等の減圧乾燥、また加熱乾燥と減圧乾燥を組みあわせた方法が使用できる。
【0021】
続いて、上記のように作製した触媒粉末を基材に堆積させる。基材への触媒粉末の堆積は、基材の上に触媒粉末を落下させる方法、通気性を有する基材の面に対して垂直な方向にガスの流れを作り、その流れに従って触媒粉末を基材上に堆積させる方法、基材および触媒粉末を型に入れて圧縮する方法、静電気を利用して基材に付着させる方法等により行うことができる。
【0022】
上記の中で、通気性を有する基材の面に対して垂直な方向にガスの流れを作り、その流れに従って触媒粉末を基材上に堆積させる方法について、図3を参照して説明する。
【0023】
図3は、実施形態に係る触媒層の作製方法の一例を示す図である。すなわち、チャンバー21内に基材16の面に対して垂直な方向にガスの流れを作り、触媒粉末15を基材16上に堆積させることにより、触媒層を形成する方法を示している。
【0024】
より具体的には、まず、基材16をテーブル24上に設置する。テーブル24の中央は、例えば金属メッシュとし、ガスが通り抜けるようにする。シール25は、基材上流側空間22から基材下流側空間23へと流れるガスが基材16の周辺に回りこまない様にするための部材である。ガスの流れを作り、触媒粉末15をその流れに乗せる。触媒粉末15を乗せたガスが基材16の表面を通過するとき、基材16がフィルタのように触媒粉末15を捕捉し、触媒粉末15が基材16上に堆積していく。ガスは、そのまま基材16内部、テーブル24の金属メッシュ部分を通過し、基材下流側空間23に出る。
【0025】
一方、一般的に使用されている触媒層の作製方法は、触媒担持導電性粒子、プロトン伝導性樹脂、水、およびアルコール等を成分とするスラリーを、ダイコータ等の塗布機により基材上に塗布し、その塗膜を乾燥する方法であり、湿式塗布という。
【0026】
本実施形態で使用する方法は、湿式塗布と異なり、乾燥した粉末を堆積させるため、触媒層を形成した後の乾燥工程が必要なく、触媒層にひび割れが生じない。そのため、触媒層のひび割れ部分に水がたまることによりフラッディングが生じるリスク、ならびにアノード触媒層のひび割れ部分に過酸化水素が生じることによる電解質膜の化学的劣化のリスクを低減できる。
【0027】
本実施形態の触媒層において、触媒層の圧力損失は、基材の圧力損失よりも大きい。圧力損失をこのような関係とすることにより、均一な厚さの触媒層を作製することができる。また、より好ましくは、触媒層における基材に接する触媒粉末からなる層の圧力損失、すなわち、基材上に触媒粉末が1層分堆積した状態における触媒層の圧力損失は、基材の圧力損失よりも大きい。基材16上に触媒粉末15が1層分堆積した状態を、図4に示す。
【0028】
通気性を有する基材の面に対して垂直な方向にガスの流れを作り、その流れに従って触媒粉末を基材上に堆積させる方法を使用して触媒層を作製する場合、基材上に触媒粉末を多く堆積させるほど、触媒層の圧力損失は大きくなる傾向にある。従って、基材上に触媒粉末が1層分堆積した状態の触媒層の圧力損失が基材より大きい場合、触媒粉末を基材上に堆積させる工程の開始から終了までのいずれの時間においても、触媒層の圧力損失が基材の圧力損失よりも大きいことになる。
【0029】
このような圧力損失の関係を有することが好ましい理由を、図5および図6を参照して説明する。図5および図6は、基材上に触媒粉末を堆積させる様子を示す概念図である。
【0030】
基材16の圧力損失が触媒層5,7の圧力損失よりも大きい場合、触媒粉末を基材16上に堆積させるためのガスの流れの大きさは、基材16の各部分の相対的な圧力損失に依存し、面内でガス流量の大小が生じる。図5(a)に示すように、基材16において圧力損失が相対的に大きい部分ではガスの流れは小さくなり、そこに堆積する触媒粉末の量は少なくなる。一方、基材16において圧力損失が相対的に小さい部分ではガスの流れは大きくなり、そこに堆積する触媒粉末の量は多くなる。その結果として、図5(b)に示すように、触媒層5,7が厚い部分と薄い部分が生じてしまう。
【0031】
それに対し、触媒層5,7の圧力損失が基材16の圧力損失よりも大きい場合、ガスの流量は基材16の圧力損失の影響を受けず、既に堆積している触媒粉末の量が相対的に少ない場所にさらなる触媒粉末が堆積しやすくなる。図6(a)に示すように、触媒層5,7が薄い部分でガスの流れは大きくなり、触媒層5,7が厚い部分でガスの流れは小さくなる。その結果として、図6(b)に示すように、一定の圧さの触媒層5,7を作製することができる。
【0032】
触媒層5,7の厚さを一定にすることにより、触媒の量が極端に少ない部分や触媒が無い部分が存在することによる電解質膜へのダメージを防ぐことができる。また、触媒層5,7の面内に電流密度の偏りが生じるのを防ぐことができるため、高電流密度の場合であっても安定した特性を有する燃料電池を得ることができる。
【0033】
アノード触媒層およびカソード触媒層のいずれか一方が上記実施形態の触媒層であればよいが、アノード触媒層およびカソード触媒層の両方が上記実施形態の触媒層であることが好ましい。
【0034】
上記実施形態に係る燃料電池の触媒層によると、先行技術における以下の問題点も解決することができる。
【0035】
上記に先行技術文献として記載した特許文献1では、触媒インクの溶媒として3級アルコールを用いることにより、触媒層のひび割れを防止する方法を提案している。この方法によると、ひび割れを防止できる反面、溶媒として3級アルコールを使用しているため、触媒層の乾燥が十分にできず、電池性能の低下のリスクがある。また、たとえ電池性能が低下しなくても、乾燥を十分に行うために時間を要し、製造コストが増加する。また、触媒インクを基材の表面に塗布する湿式のため、触媒層の厚みが均一になりにくい問題がある。
【0036】
さらに、特許文献2では、触媒粉末を帯電させ、基材に塗布する方法を提案している。この方法であると、乾式の塗布方法であるため、製造方式上ひび割れは発生しにくいが、触媒層の厚さを均一にすることは技術的にかなり困難である。
【0037】
次に、触媒層以外の構成部材について、図1を参照して説明する。
【0038】
電解質膜4は、アノード触媒層5とカソード触媒層7との間に配置されるプロトン伝導性の膜である。電解質膜4は、アノード触媒層5で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層7へと選択的に透過させる機能を有する。また、電解質膜4は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとの混合を防ぐ隔壁としての機能も有する。電解質膜4に含まれる電解質としては、カソード触媒層7のプロトン伝導性樹脂と同様の材料を使用することができる。
【0039】
アノードガス拡散層6は、アノード触媒層5に燃料を均一に供給する役割を果たしていると共に、アノード触媒層5の集電体としても機能している。カソードガス拡散層8は、カソード触媒層7に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層7の集電体としても機能している。
【0040】
アノードガス拡散層6およびカソードガス拡散層8は、一般的に多孔性の材料からなり、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロス、不織布、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルトなどからなるシート状材料等で構成される。
【0041】
ガス拡散層は、電子伝導性、撥水性等の機能を示すことが好ましい。ガス拡散層が優れた電子伝導性を有していると、発電反応により生じた電子が効果的に運搬され、燃料電池の発電性能が向上する。また、ガス拡散層が優れた撥水性を有していると、生成した水が効率的に排出される。高い撥水性を確保するために、ガス拡散層を構成する材料を撥水化処理することができる。そのための方法として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を含む溶液をカーボンペーパなどのガス拡散層を構成する材料に塗布し、大気中または窒素等の不活性ガス中で乾燥させる手法がある。この際、撥水性をより向上させるために、溶液中にカーボン粉末を混合してもよい。
【0042】
セパレータは、カーボンまたは金属を構成材料とする多孔性を有する部材であり、アノード2、カソード3および電解質膜4からなる膜電極接合体の外側に配置される。アノード側にはアノードセパレータ9が配置され、カソード側にはカソードセパレータ10が配置される。
【0043】
燃料電池は一般的に、図1に示すような構造を備えた燃料電池セルを複数積層してなるスタックから構成される。セパレータは、各単電池を直列に電気的に接続する機能に加え、燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷媒といった流体を流す機能、さらにはスタックの機械的強度を維持する機能も有する。また、セパレータを通って流通する燃料ガス(または酸化剤ガス)と、そのセパレータを介して隣接して配置された他のセルのセパレータを通って流通する酸化剤ガス(または燃料ガス)とが、セパレータを貫通して混合することを防止する反応ガス遮断機能も有している。さらに、セパレータに冷媒体流路を設けて冷媒体を流すことにより、セル発電に伴う発熱を除去することもできる。
【0044】
アノードセパレータ9およびカソードセパレータ10の材料は、導電性を有していれば特に限定されないが、例えば、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン材料およびステンレス等の金属材料等を使用することができる。より好ましくは、多孔性材料で構成される。
【0045】
本実施形態の燃料電池の燃料としては、例えば、都市ガス、LPGガスを改質したHを使用する。燃料ガスは、アノードセパレータ9に設けられた燃料ガス流路を通過し、アノードガス拡散層6内を拡散し、アノード触媒層5に到達する。燃料ガス中の水素は、アノード触媒層5の金属粒子上で水素酸化反応によってプロトンと電子を生成する。プロトンは、電解質膜4を経由してカソード触媒層7に到達し、電子は、いわゆる電気として外部装置に流れる。空気中の酸素と、電解質膜4を経由してアノード触媒層5から供給されるプロトンと、外部装置を経由してカソードに到達した電子とで、カソード触媒層7の触媒金属粒子上で酸素還元反応が生じることにより、水を生成する。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
(触媒粉末の作製)
水中に白金担持カーボンを加え、続いて、2−プロパノール、プロトン伝導性樹脂(例えば、デュポン社製ナフィオン)を加えた。ここで、固形分を5〜10%とし、プロトン交換樹脂は全固形分に対して25〜35%となるように加えた。次に撹拌機(例えばホモジナイザ)で30分間撹拌した。その際、スラリーの温度が上昇しないよう、水を入れた容器で冷却しながら撹拌した。作製したスラリーを容器に入れ、薄くのばして乾燥炉に入れた。乾燥温度はプロトン伝導性樹脂中に含まれるエタノールの沸点以下である70℃とし、約3時間かけて乾燥した。最後に、スラリーの乾燥体を刃が回転するタイプの粉砕機に入れ、3分間粉砕して触媒粉末を得た。
【0047】
(触媒層の作製)
上記で作製した触媒粉末を用いて、図3を参照して上記で説明した方法により触媒層を作製した。
東レ製カーボンペーパ上にカーボン粉末とポリテトラフルオロエチレンの混合物からなるカーボン層をあらかじめ作製した基材の上に、触媒層が15〜30μmとなるように触媒粉末を堆積させた。触媒粉末を乗せるガスはNとし、流量を500L/minとした。作製後の触媒層の圧力損失は1.5kPaであり、基材の圧力損失は1.0kPaであった。また、基材に接する触媒粉末からなる層の圧力損失、すなわち、基材上に触媒粉末が1層分堆積した状態における触媒層の圧力損失は、0.23kPaであった。圧力損失は基材上流側空間、基材下流側空間にそれぞれ圧力計を設置し、基材上流側空間の圧力と基材下流側空間の圧力の差より求めた。触媒粉末が1層分堆積した状態における触媒層の圧力損失は、触媒層が触媒粉末粒子の平均径の厚さとなったときの圧力損失とし、触媒層全体の圧力損失から比例計算で求めた。
【0048】
上記において、カーボンペーパ上のカーボン層も、触媒層と同様の方法で作製した。
【0049】
上記のように作製した触媒層の写真図を図7(a)に示す。図7(a)から、実施例1の触媒層は、ひび割れがなく、厚さも均一であることが分かる。
【0050】
(燃料電池の作製)
上記方法で作製した触媒層をアノード触媒層およびカソード触媒層として用い、燃料電池単セルを作製した。
【0051】
電解質膜としては、パーフルオロカーボンスルホン酸膜(例えばデュポン製ナフィオン)を使用した。電解質膜の両側に、上記で作製したアノード触媒層およびカソード触媒層を配置し、アノード触媒層の外側にアノード拡散層、カソード触媒層の外側にカソード触媒層をそれぞれ配置して重ね合わせ、熱圧着を行うことでこれらを一体化した。アノード拡散層およびカソード拡散層は、カーボンペーパとカーボン層で構成した。プレス温度は、電解質膜のガラス転移点以上の温度である150℃以上とした。
【0052】
上記のように作製した膜電極接合体をセパレータで挟んで熱圧着し、燃料電池セルとした。プレス温度は、接着剤の融点である130℃以上とした。
【0053】
<実施例2>
触媒粉末、触媒層、燃料電池の作製は上記<実施例1>とほぼ同様の手順で行った。異なる点は、東レ製カーボンペーパ上に形成したカーボン層の厚さを<実施例1>の0.2倍にした基材を用い、触媒層を作製した点である。触媒粉末を乗せるガスはNとし、流量を500L/minとした。作製後の触媒層の圧力損失は1.5kPaであり、基材の圧力損失は<実施例1>の0.2倍の0.2kPaとなった。また、基材上に触媒粉末が1層分堆積した状態における触媒層の圧力損失は、0.23kPaであった。
【0054】
実施例2によると、上記実施例1と同様、ひび割れがなく、厚さも均一な触媒層が得られた。
【0055】
<比較例1>
実施例1で作製した触媒層との比較のために、材料を混合した溶液を塗布機により塗布し、その塗膜を乾燥する一般的な湿式塗布で触媒層を作製した。
【0056】
溶液の作製までは、上記実施例1と同様に行った。作製した溶液をバーコータを用いてカーボンペーパ上に膜状に塗布し、そのまま乾燥炉に入れて乾燥することにより触媒層を作製した。乾燥温度は、エタノールの沸点以下の70℃とした。
【0057】
上記のように作製した触媒層を用い、実施例1と同様に燃料電池を作製した。
【0058】
上記のように作製した触媒層の写真図を図7(b)に示す。図7(b)から、比較例1の触媒層はひび割れがあり、基材上に触媒が存在しない部分があることも観察できる。
【0059】
<試験例1:燃料電池のIV特性>
実施例1および比較例1において作製した燃料電池について、電流密度とセル電圧の関係を測定した。アノードに改質模擬ガス、カソードに空気を供給し、低電流密度側から高電流密度側に向かって測定を行った。測定は電子負荷装置を用い、電池より電流を取り出して行った。
【0060】
図8は、電流密度とセル電圧の関係を示す図である。実施例1の燃料電池は、比較例1の燃料電池と比較して、中〜高電流密度領域でのセル電圧の低下が小さくなることが確認できた。これにより、実施例1の燃料電池は優れた特性を有することが分かる。
【0061】
上記実施形態または実施例によれば、触媒層のひび割れを防ぎ、触媒層の厚さを均一にすることができる。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0063】
1…燃料電池セル、2…アノード、3…カソード、4…電解質膜、5…アノード触媒層、6…アノードガス拡散層、7…カソード触媒層、8…カソードガス拡散層、9…アノードセパレータ、10…カソードセパレータ、15…触媒粉末、16…基材、21…チャンバー、22…基材上流側空間、23…基材下流側空間、24…テーブル、25…シール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8